ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

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第十六話 「奇怪と戦う『奇策』」

 会場はもう騒然としてしまっていた。

 決着がついたと思われた『バトルロワイアル』。しかし、謎の青年が急に現れ、一人残ったジョレンと対峙しているのだから。それに、石畳から変身したかのように現れた。それは、開始前に既に舞台の石畳の一つとして潜んでいたということで―――

 

「お、お前……『変身』に出ると思ってたのに……」

 

 思考が混乱しているジョレンが呻くようにぽつりとこぼした言葉に、ミクリが反応して。

 

「『変身』……? あぁ、私の能力は複雑な構造を持つものだとか、自分以外の力を出すものには変身できませんからね、火薬ですとか、電気ですとかね。この星の人の顔は全部同じに見えるので、顔真似とかも出来ませんし。『変身』は見た目が大事だと思いまして、今回は辞退させていただきました」

「だ、だからってまさか『バトルロワイアル』になんて……」

「こうやって使えば、二位には絶対入れると思いまして」

「な、なんて、単純な考えを……」

 

 でも実際にその通りだった。誰も、完全に石畳に変身できるとは考えていなかったし、そもそも集まった際も影が薄すぎて、誰も気にしていなかった。それが、ミクリの作戦を可能にしていたのだ。しかし、はっきり言って愚策も愚策。もし仮に自身が変身していた石畳の上に魔術罠(マジック・トラップ)が張られたり、流れ呪文が偶然飛んでこれば、それで終わっていた。ミクリははっきり言って、偶然生き延びることができたのに過ぎない。

 だが―――

 

『えー、確認が終わりました……今、現れたのは確かに『バトルロワイアル』に参加していた五組のミクリ君です。なので、競技は続行! 二組のジョレン君対五組のミクリ君の一騎打ちとなりました!』

 

 アナウンスの宣言と共に、再び沸き立つ観客席。それが示すのは、ミクリの変身作戦が、その偶然を通り抜け、成功したという事実だ。

 どんなに失敗の可能性があろうと、ここに立っている以上は相手は上手だったということでしかない。

 こうなってしまった以上は、それがどんなに遺憾であろうとも、目の前の相手を倒すために行動しなければならない。

 

「でも、生き残ったという扱いになるなら、容赦はしないッ!」

 

 再び、回転させ目にも止まらぬ、滑らかかつ速い動きで投げ放たれる鉄球。ギャルギャルギャルギャルッという音を響かせながら、真っすぐミクリの顔面に向かって飛んでいく。

 

「えぇ、こちらも本気で迎え撃ちます」

 

 と言って。

 不意に肩からにゅーっと何かが生えて―――

 

「は!?」

 

 そのまま身体を後ろに逸らせて、肩から生えた腕を床につき、ブリッジのような体勢で身体を支えることで躱した。そして、鉄球が飛んで行ったのを見た後で、またにゅーっと腕を肩の中に戻し、棒立ちの体勢に戻っていた。

 それを見ていたジョレンも、観客も、全員が唖然としてしまっていた。

 

「《雷精の紫電よ》」

「え!? ちょ、ちょっと!?」

 

 しかし、そんなことは知ったことではない、と言わんばかりに、反撃の【ショック・ボルト】が放たれる。

 鉄球を投げてしまって、防ぐ手段がないところに、電気線が飛んでいき―――

 

「《光り輝く護りの障壁よ》!」

 

 それを咄嗟に唱えた【フォース・シールド】で防ぐ。しかし、それによって、足が止められてしまい―――

 

「《雷精の紫電よ》」

「ちょ、なんだよ、その動きは!?」

 

 それを即座に側面に移動してからの追撃【ショック・ボルト】で狙い打たれる。しかし、動きは棒立ちのままの水平移動なのが、とんでもなく集中を乱してくる。よく見れば、靴底に車輪が生成されていて、それによって移動しているのが分かるが、なんでわざわざそんな移動をしてくるのかが余計分からず、思考が混乱するのを余儀なくしてくる。

 間一髪のところで【フォース・シールド】を解除し、前に倒れ込むように躱し、転がる要領ですぐに立ち上がる。

 

「《雷精の紫電よ》《雷精の紫電よ》」

「クッ!? 普通に魔術上手いのがなんか腹立つ!」

 

 二連で放たれる電力弾が隙を晒し続けるジョレンに次々と向かって行く。ジョレンは転がった時の勢いを殺さず、そのまま横っ飛びして、丁度戻ってきた鉄球をキャッチし、二連で飛んできた電力弾を回転で弾き飛ばす。

 

「流石に身体能力が高いですね」

「はぁ……はぁ……そ、そっちも単純に強いな……動きの奇天烈さを差し引いても……」

 

 ジョレンの防御手段である鉄球が戻ってきた以上、安易に呪文で攻撃しても、突破できないと判断したのか、ピタリと呪文詠唱を止めるミクリ。そして棒立ちに戻ったミクリの周りを様子見するように、ゆっくりと周っていくジョレン。

 状況は完全に膠着状態へと移行していた。

 

***

 

 一方、二組生徒の待機用観客席では、見事に全員が困惑していた。

 事前に遭っていたジョレンとは違い、初見だったというのもあるが、ジョレンとは違い、スタンド使いだとか、魔術で説明のつかない不可思議現象に対しての耐性がないのが大きかった。

 そういう事情を知っている、ルミアやグレンも全く、目の前の状況についていけてなかったが。

 

「あんな人がいたんですね……こう、なんというか色々おかしいですけど……」

「あれがスタンド使いって奴なのか……? 絶対魔術じゃないよな、あれ、っつーか、結構ヤバいかもしれん……」

 

 相手の奇天烈さに目を奪われそうになるが、ここでの大事なところはジョレンが、ひそかに追い詰められているというところだ。

 さっきまで、合計五人もの相手を倒して来たジョレンは、体力が残り少ない。その上、相手はジョレンの鉄球の効果などを石畳に扮しながら、ずっと把握していたのだ。それだけでも、かなり不利な状況と言える。

 

「早いところ決めないと、押されるぜ……ジョレン……」

 

 若干焦燥の気が出てきたグレンと、祈るようなルミアだけが、目の前の戦いを正しく観ているのだった。

 

***

 

「《雷精の紫電よ》ッ!」

「《災禍霧散せり》」

 

 膠着状態から抜け出そうと焦って放った【ショック・ボルト】をミクリは淡々と【トライ・バニッシュ】で打ち消す。

 読み切られているというか、ミクリは必ずジョレンが行動してからそれに対して条件反射のように対応してくる。そして、それがまた全て絶妙のタイミングで行われる。

 見てから打ち返している癖に、コンマ1秒のラグもないのだ。歴戦の戦士という風格もないが、後の先を極めていると言っても過言ではない。

 そして、こっちが焦って隙が大きいような攻撃を繰り出して来た時だけ、反撃を撃ってくる。絶対に自分が危険を冒すような追い打ちはしてこない。そのため、ジョレンは鉄球を使っての攻撃を自重するしかない。もし軽率に投げ放てば、能力を使って回避され、防御手段の一つを失うことになる。その際に【フォース・シールド】で防御しようものなら、魔力を余計に消費する羽目になり、しかも車輪を使っての非常識な即時移動で動けない隙を突かれてしまう。

 しかし、もっとも厳しい状況なのは、ジョレンの魔力が既にいくらか消費されていることだった。このまま、この状況が続けば、魔力が先に枯渇するのはジョレンの方だ。

 

(どうにかして、あいつの体勢を崩さないとッ!)

 

 それが、焦ってはいけない状況でジョレンを焦らせる。とにかく、相手の対応を突破しなければいけない。

 右手の中に持った鉄球が再び加速を開始する。そのまま、正面切って突進をかける。

 

「《大いなる風よ》」

「ッチィ……!」

 

 ミクリがそれを見て、すかさず迎撃に放つ【ゲイル・ブロウ】。突風の波動が向かってくるジョレンに突っ込んでいく。

 次の瞬間、ジョレンが回転させている鉄球が更に加速する。鉄球の回転で生じる気流と【ゲイル・ブロウ】が真っ向からぶつかる。

 鉄球の回転の気流は、直線的に打ち破るような風ではないが、【ゲイル・ブロウ】の風を巻き取るような曲線的な風の膜で完全に防いでみせる。

 

「シィ―――ッ!」

 

 そして遂に一挙手一投足の間合いに入った。そして、鉄球を回転させている右手をそのまま、振り下ろす。

 

「ん」

「ッ!?」

 

 しかし、バシュッと帯状に分解され、小さなビー玉へと変身し、振り下ろされた鉄球を躱す。

 そして、続けて分解し、ジョレンの足元に入り込み―――

 

「『アース・ウインド・アンド・ファイヤー』―――」

「な、なァッ!?」

 

 一瞬で台車に変身し、ジョレンを乗せて勢いよく場外へと走り出した。

 急なことでジョレンは真っ白になりかける思考を、どうにか必死に繋ぎ止め―――

 

「《三界の(ことわり)・天秤の法則・律の皿は右舷(うげん)に傾くべし》―――ッ!」

「うげッ!?」

 

 黒魔【グラビティ・コントロール】。重力操作の魔術。咄嗟に自身にかかる重力を強め、下で自分を運ぼうとしている台車状態のミクリに超重量を課していく。

 走る速度が急激に遅くなり、遂には重量に耐えきれなくなり―――

 

「くっ―――」

「はぁ……はぁ……や、やったぞ……」

 

 再び帯状に分解し、ジョレンから離れた場所で元の人型へと戻った。

 しかし、ジョレンも自分の重力を強くしたせいで、かかった圧力で更に体力が削られていた。

 それ故に、このまま潰れてしまうのも時間の問題となってしまう。

 

「もう少しですか?」

「……どうだろうな」

 

 ミクリの探るような言葉も、脂汗を浮かべながら、曖昧にはぐらかすしかない。

 しかし、内心はとんでもなく焦りに焦っていた。とにかく八方塞がりとしか言いようが無かった。

 呪文での攻撃は完全に捌かれ、鉄球での攻撃も変身能力によって躱される。そして、そのまま変身によって反撃を喰らう。最大限、理解が追い付かなくなるような手段で。

 ジョレンは、必死に打開策を考えている中、不意に自分の指―――その先についている『爪』に目がいった。

 もし、自身のスタンド能力を使用したなら、おそらく勝てるだろう。殺傷力と射程があり、何よりも連続して射出出来る。相手の反撃を封じながら、安全に仕留めることが出来るのだろう。

 だが―――

 

(今回はそういう戦いじゃあない……俺が培った力で勝たなくちゃ意味がない……)

 

 何より危険だ―――そんなありきたりな考えによって、スタンド能力を使うなんてことは綺麗さっぱり頭から抜けていた。

 そして、一つだけ悟った。今、目の前の自称宇宙人を超えるためには―――

 

(あいつの奇怪さを超える奇策でもって、ぶつからなくっちゃあいけないッ!)

 

 そして、それを完成させるには―――

 

「《守人よ・(あまね)(さん)の災禍より・我を護り給え》」

 

 黒魔【トライ・レジスト】。炎熱、冷気、電撃の三属性からの攻撃に対しての耐性を得る魔術。

 それを使って強引に攻性呪文(アサルト・スペル)を防ごうというのか……と、ミクリが身構えた瞬間。

 

「うぉぉぉ―――ッ!」

 

 再び、先ほどと同じように鉄球を回転させながら、突っ込んでくるジョレン。

 それに対し、ミクリも全く同じ反応をして―――

 

「《大いなる風よ》」

 

 黒魔【ゲイル・ブロウ】を放つ。【トライ・レジスト】で耐性がつくのは、三属性のみ。風の攻性呪文(アサルト・スペル)を防ぐ力はない。

 しかし、ジョレンには鉄球がある。その回転の力で学生用の攻性呪文(アサルト・スペル)など、どうとでも防ぐことが可能だ。

 だが―――

 

「ッ!?―――うォォォァァァァ―――ッ!?」

「え……?」

 

 しかし、その【ゲイル・ブロウ】をジョレンは直接、身に受けて吹き飛ばされていった。ギリギリで踏みとどまって、場外負けは避けたが、全身を打ち付けられた衝撃で立ち上がることが出来ないでいた。

 

『おーっとぉ!? これはまともに入ったかァ―――ッ!? ジョレン君、立ち上がることが出来るのかァ―――ッ!』

「……」

 

 そんな実況の言葉も、吹き飛ばした張本人であるミクリには届かない。

 あの状況では、鉄球の防御は絶対に間に合ったはずだ。ジョレンはあえてしなかったのだ、防御を。だが、その真意が理解できないで、密かに困惑してしまっていた。

 

「ぐぐっ……!」

「……一体何故ですか?」

「……分からないか?」

「?」

 

 あまりに理解出来ないので、たまらずジョレンに理由を問うと、ジョレンはそのようなことを言うので、余計に混乱してくる。

 しかし、そんなミクリに構わず、ジョレンは言葉を続けた。

 

「なんで俺がこうやって倒れてるのか……『必要』だからだ。必要だから、こうやって這いつくばってるんだ」

「……!」

 

 その時、自然な体勢でジョレンが鉄球を地面に押し付けていた。ジョレンの身体で視覚的に隠されているような状態だったため、ミクリが鉄球を発見するのが遅れてしまう。そして、ジョレンが行おうとしている『何か』を防ごうと左手を構えた瞬間。

 

「『場所』を探るのに必要だから、這いつくばってたんだ……!」

 

 バッと爆ぜるようにジョレンが立ち上がり走り出した。

 その瞬間、ミクリは悟った。確かにジョレンは【ゲイル・ブロウ】を正面から受けたが、ダメージは軽減していたのだ。風の鉄槌に揉まれるように吹き飛ばされていた時、ジョレンは鉄球を回転させていた。最初は曲線的な気流の膜で完全に防いでいたが、二回目は吹き飛ばされながらも、その魔術で生み出された風を和らげるような気流を生み出していた。

 全てはミクリに【ゲイル・ブロウ】をまともに受けたと勘違いさせるために―――

 

「《残響為る咆哮よ》―――」

 

 自分からどんどんと距離を離していくジョレン。その狙いを阻止するために【スタン・ボール】を放つが―――

 

「《大気の壁よ》ッ!」

「えっ……?」

 

 一節詠唱での黒魔【エア・スクリーン】の起動。しかし全く調整も練習もしていない略式詠唱が成功するはずがない。

 

「ッ!?」

 

 爆ぜるように暴走した【エア・スクリーン】の空気圧力がジョレンの身体を締め付け、破壊してくる―――しかし、それでも空気膜だけは完成し、飛んできた【スタン・ボール】を防いでいた。

 

「【スタン・ボール】のダメージよりも【エア・スクリーン】の暴走によるダメージを選んだ……」

 

 ミクリはそんなバカげた発想に賭けるジョレンの胆力に舌を巻くしかない。

 そして、息も絶え絶えと言った様子で、ジョレンはある場所で立ち止まり、くるりと振り返って。

 

「足元見た方がいいぜ……?」

「……!?」

 

 ミクリが足元を見た時にはもう遅かった。

 鉄球だ。鉄球がシュルシュルと回転しながら、いつの間にか滑るように足元に来ていた。ジョレンを止めようと必死になっていたうえ、わざと一節詠唱で唱え暴走させた【エア・スクリーン】による防御などという暴挙に気を取られ、全く気が付けていなかった。

 そして、鉄球が足に当たり、強制的に跳躍させられる―――ジョレンがいる場所へと―――

 

「さぁ、一緒にぶっ飛ぶとしようぜ……?」

「な、何を―――」

 

 ミクリが着地してすぐに、ジョレンは胸元をグイッと引っ張り、足を一歩下げる。

 すると、起動した黒魔【スタン・フロア】。音と衝撃で相手を無力化する魔術罠(マジック・トラップ)の一種だ。

 それが、ジョレンとミクリの足元で解放され―――

 

「うおおおぉぉぁぁぁ―――ッ!?」

「グァァァァァ―――ッ!?」

 

 その衝撃で二人とも空中に巻き上げられた―――その足元は―――

 

「ま、まさか……!」

 

 場外だ。二人とも場外に叩き出される数秒前となっていた―――

 

***

 

 二組の待機用観客席では、皆が、そんな怒涛の展開に大興奮であった。

 ルミアもグレンも、ジョレンの取った行動。そしてその結果に驚愕するしかない。

 

「れ、レン君……魔術罠(マジック・トラップ)は全て誤爆させたんじゃ……?」

 

 ルミアの、独り言のような問いにグレンはハッとなり、気づく。

 

「そ、そうか……確かに『準備時間』中に張られた魔術罠《マジック・トラップ》は全て誤起動させた。でも『戦闘時間』の最初……張りなおした奴がいたんだ。混乱してたのか、戦略なのか分からねーが、魔術罠(マジック・トラップ)を張りなおした奴が……それを探り出すために、【トライ・レジスト】をかけてまで、相手の【ゲイル・ブロウ】を誘った。それを受けたように見せかけ、自然に倒れ、地面に鉄球をつけ、詳細に探るためにな……」

「で、でもこれじゃ相討ちに……」

 

 ルミアの指摘に、グレンは横に首を振る。

 

「あいつは、張りなおされた【スタン・フロア】をわざと起動する時、自身を一番中心に近く持ってきた。というか起動させたのはあいつなんだから、そうなるのが必然ではあるんだが……その分、ジョレンの方が強い衝撃を受け、高く吹き飛んだ……それがあいつの狙いだ」

「そ、それって……まさか……!?」

 

 グレンの言葉でルミアもその思考に辿り着き、吹き飛んだジョレンたちに目を向けて見たのは―――

 

***

 

「じょ、ジョレンさん……これが貴方の狙い……!?」

 

 そう、自分よりも『上』に打ち上げられたジョレンを見ながら、ミクリは言う。

 このまま普通に落ちていったなら、先に落ちるのは、低く打ち上げられた自分ということになる。

 先に場外負けの判定を喰らうのは確実にミクリの方だ。

 それを確信した時、ジョレンが疲れ切って弱々しいながらも、不敵な笑みを浮かべて―――

 

「『アース・ウインド・アンド・ファイヤー』―――!」

「ッ!?」

 

 しかし、そうはさせないとばかりに、自身の身体を帯状へと分解し、ジョレンを包み込むようにして―――『服』へと変身する。何の変哲もないローブのような服へと。

 そして、服と化したミクリは、自身の力でもって、グイッと引っ張り―――自身とジョレンを無理やり舞台上に戻す。ダメージを受け続けたジョレンは、おそらくこのまま叩きつけられれば、無事では済まない。立ち上がれずに負けの判定を喰らってしまう。場外に落とさなくては負けるのはジョレンの方だった。

 

「《駆けよ風・駆けて抜けよ・打ち据えよ》―――」

 

 ジョレンが三節詠唱で唱える黒魔【ゲイル・ブロウ】。風の波動が地面に叩きつけられ、再び変わる進行方向―――ミクリの力も(かな)わず、再び場外へ戻される両者。

 地面まで残り数メトラ。このまま落ちるのは確実だ。

 

「まだ……まだですよ……ッ!」

「ッ……!?」

 

 しかし、ミクリは咄嗟に変身を解き―――ジョレンの上で人型に戻る。

 その瞬間、ジョレンの顔が青ざめた。

 このまま、自身の身体を踏み台に跳躍されれば、先に落ちるのは当然ジョレンということになってしまう―――

 

「私の勝ちです、ジョレンさん……!」

 

 そして、ミクリが跳ぶために足に力を入れようとして―――

 

「え……」

 

 その時、ふわりと何かがミクリの方に飛んできた。

 

「俺、言ったよな……? 攻性呪文(アサルト・スペル)……普通の使い方するために練習なんかしてないって……!」

 

 鉄球だ。ミクリをジョレンの方に引き寄せるために回転を加えられていた鉄球が、今、空中に飛ばされているミクリの方に飛んできていた。

 

「ま、まさか【ゲイル・ブロウ】を放ったのは場外に戻すためじゃなくて……!?」

 

 その衝撃で未だに回転を続けていた鉄球を吹き飛ばし、回転の力とその衝撃によってこちらに飛ばすために―――そして、自分がジョレンよりも上を取ろうとしていることも読まれていたのだ。

 しかし、それに気づいても、それを避ける術はなく―――

 

「ぐ、ぐぅ……ッ!?」

 

 力を入れようとしていた足に鉄球が当たり、微弱ながら回転の力が伝わり―――ガチンッと足の筋肉が硬直して動かなくなってしまった。

 

「うォォォォォ―――ッ!」

「!?」

 

 その機を逃さず、ガシッとミクリの硬直した足を掴み、振り回すように足を自身の上から動かして―――

 その瞬間、二人とも、地面に叩きつけられた。

 舞い上がる土煙に遮られ、二人がどうなったのか、その瞬間を外部から見ることが出来なかった。

 そして、数秒して、徐々に土煙が晴れていって―――その時見たのは―――

 

「う、うげ……げほっげほっ……」

「く……うぅ……」

 

 場外で倒れ込むミクリの『上』に倒れ込んでいたジョレンだった。

 その瞬間、アナウンスが響き。

 

『合議の結果、ジョレン君より先にミクリ君の方が先に場外に落ちたと判定されました! なので、『バトルロワイアル』優勝は二組選手、ジョレン=ジョースター君です!』

 

 その言葉が認識された瞬間、全体から巻き起こる大歓声がジョレンとミクリを包み込んだ。それを受けて、どうにか起き上がろうとするが、ダメージを受けすぎて全く起き上がれず、弱々しい笑みを浮かべて、そのままぐったりしてるしかなかったが―――

 

「あ……」

 

 その視界の先に、とても嬉しそうにはにかむリリィの姿が映り―――

 弱々しいながらも、二ッと笑い、ピースサインを向けた。

 

「わたしの……負けですね……」

「はは……こんな自滅覚悟の作戦しないといけないなんて、ほぼほぼ負けてたよ……判定勝ちもギリギリだし……」

「それでも……負けって言われたので……」

 

 なんてジョレンもミクリも苦笑して言いながら。

 二人とも身体に力が入らず、助けが入るまで、数分ぐらいこのまま倒れてる羽目になっていた。

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