ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

21 / 28
第二十一話 「反逆者の『爪』は皇帝に届くか」

 フェジテ、学院傍の市街地の裏路地の比較的奥。

 両肘、両膝を撃ち抜かれ身動きの取れなくなってしまったルミアを抱えたチェックと名乗る青年が圧倒的な殺意と共に『皇帝(エンペラー)』と呼ぶ拳銃をジョレンに向けている。

 

「れ、レン、君……」

「ッ!」

 

 少し殺意に圧されていたジョレンだったが、ルミアの消え入りそうな声を聞いて、ハッと我に返り、すぐさま左手の人差し指の爪を回転させる。それを見たチェックは心底つまらなそうな顔でゆっくりと『皇帝(エンペラー)』を持つ右手を動かし―――

 

「ふん……」

「な……あ、あんた……ッ!」

 

 静かに『皇帝(エンペラー)』をルミアの額に押し付けた。それを見たジョレンは静かに回転をやめた。やめなくてはならなかった。

 完全に人質に取られてしまった。この状態では撃てない。ルミアに当たる可能性もあるが、何よりも爪弾の殺傷力で相手が引き金を引く間もなく殺すとなれば、急所を完璧に撃ち抜かなくてはいけない。そんなのを、今の警戒心全開のチェックが許すはずがない。雰囲気だけでそれを察せられる。

 どうにかしなければ……そう思ったのも束の間。

 

「何ッ!?」

 

 チェックがくるりと踵を返して、右の角へ消えていく。始末すると言っておきながら、完全に逃げの姿勢を取る相手にジョレンの思考が混乱していた。

 だが、思考とは別に反射的に追いかけようと動く身体をどうにか押し堪えて数秒考える。

 

(……罠だ、確実に)

 

 考えるまでもない。このまま何の策もなく追いかけるのは絶対危険。左右両側を建物で挟まれた、この裏路地での銃撃は回避場所も少なく一発一発が致命的だ。自分のスタンド能力も似たようなものとはいえ、追いかける側はどうしても待ち構える側よりもワンテンポ遅れる。銃撃の練度もおそらく相手の方が上。何をとっても不利な要素しかない。

 ルミアは『餌』なのだ。ジョレンをその不利なフィールド、状況に誘い込むための。

 どうしても勝つなら、ここで追うべきではない。相手に殺す動機がない以上は殺されない可能性もある。

 

(でも―――)

 

 だが、殺される可能性も当然ある。ルミアを人質に選んだのは、王室親衛隊が暴走している今なら、殺しても王室親衛隊のせいにして誤魔化せるからだろう。結界のある学院内に入ってきた時のように、何らかの人知を超えた手段で築かれた情報網でそんな現状を知っていなければ、こんな都合の良いタイミングで襲ってくるわけがない。相手のことが何も分かっていない以上、殺されない可能性と殺される可能性はほとんどハーフアンドハーフ。

 そんな状況でジョレンがとる行動など決まりきっていた。

 

(助けに行かないわけにはいかないだろッ!?)

 

 例えどれだけ不利な状況であっても、立ち止まるわけにはいかない。このまま見失うのが一番の愚策。

 

(どうにか相手の隙を突かなくっちゃあいけないッ!)

 

 右手に鉄球を、左手に爪を。それぞれ回転させながら、チェックの後を追い、すぐさま駆けだした。

 

***

 

 刺客、チェックは負傷させたルミアを抱えて、裏路地を猛然と駆ける。駆ける。その優れた体さばきは、この男が何か気の遠くなるような修練を積んで得た技術であることが素人であるルミアからでも容易に分かるほど卓越している。魔術を使っている形跡はないが、並の人間どころか、今、問題になっている王室親衛隊にも、これほどの者はそういないだろう。

 そんな彼に向かって、捕まった状態ながらルミアは言葉を発した。

 

「あ、貴方は一体……何故私を……!?」

「貴様は駒だ。俺が勝つためのな」

 

 元々人質だというのは分かり切ってはいたが、改めてそう言われて、顔を悔しさで歪めた。

 スタンド―――自分には見えなかったとはいえ、あっさりと捕まって足手まといになってしまったことに、情けなさしか感じない。

 だが、どうにか自分も何かしなくては。おそらくジョレンは追ってきている。情報を集めるでも、集中力を削ぐでもいい。とにかく何か益を得るためにルミアは問いかけを続けようとして―――

 

「俺のスタンドのことでも知りたいか?」

「ッ!?」

 

 自分の思考を完全に読まれ、ルミアは歯噛みするしかない。そんなルミアに向かって表情の変わらない顔を向ける。

 

「度胸がある女だ。だが、スタンド使いでもない貴様が聞いたところで無意味だな。それに―――」

「がッ……!?」

 

 ガツッと音がするほど強烈に『皇帝(エンペラー)』の銃身で後頭部を殴打し、ルミアを一撃で気絶させる。意識を失ったルミアの身体がチェックの左腕の中でだらんと脱力する。

 

「駒として貴様は意識がある必要はない。命は必要あるがな」

 

 それと同時にすっと今までの激流のような動きを音もなく一瞬で止め、振り返る。

 

「はぁ……はぁ……チェックとやら……追いついたぞ!」

「ふん、ジョレン=ジョースター。やはり追ってきたな」

 

 チェックの速さに追い付くために、全開で飛ばしてきたジョレンは多少息があがっているが、それでも隙なく構え、左手の人差し指の爪を回転させ、右手の鉄球はすぐに防御に使えるように胸元の近くに持ってきている。

 そんなジョレンにチェックは不意に不敵な笑みを向ける。それをジョレンが不審がる暇もなく、チェックは話し始めた。

 

「なぁ、ジョレン=ジョースター。じゃんけんってやったことあるよな?」

「は……?」

「何事にも相性っていうのがある。グーはパーに負け、パーはチョキに負けるように、剣を持った兵士はそれよりも長い槍の兵士には大体負けるし、そもそも近接武器の兵士は距離があれば弓兵にやられる。距離を詰められれば、逆もまた然り。戦いの原則というものだ」

 

 戦闘の最中だというのに、悠長に話し始めるチェックにジョレンは呆気に取られていた。だが、殺気だけは何一つ変わっていない。今、不意を突いて、爪弾を発射しても、彼には当たらない。何故かそんな確信がある。

 

「俺の『皇帝(エンペラー)』だがな。はっきり言えば強くはない。あの学院テロ事件の時に貴様を仕留められなかったこと自体が俺のミスだった」

「なんだと……?」

「スタンド使いになりたての貴様には、あまりピンとこない話かもしれないがな。スタンド使いは魔術師みたいに力を固辞したりなんかはしないんだ。スタンド使いが能力を見せるのは、殺し合いの時ぐらいだ。変に知れ渡ると、能力から弱点もバレてしまうからな。だからスタンド能力は世に知れ渡ることはないんだ」

「……」

「それがさっき、俺が貴様らの前に不意を突いて現れた時に実害となって現れたわけだ。貴様は俺の能力について粗方知っていたから、不意打ちされても咄嗟に急所は防御しただろ? だからこの女にターゲットをチェンジしたわけだ。実はあの時の間合いは俺にとって都合が悪くてな。時間をかけるのはよろしくなかった」

「あの間合いって……」

 

 よくよく考えてみれば、最初に登場した時の間合い。そこまで距離は無かった。ざっくり言えば爪弾の射程どころか、鉄球の撃墜飛投距離の約7メトラよりも近かったぐらいだ。

 だが今は―――

 

「ッ!? まさか!?」

「俺の『皇帝(エンペラー)』はな。実はそんなに射程距離は長くない。こうやって近づかなくちゃあいけないんだ。でも、お前のスタンド能力である爪弾の10メトラ程度よりはまだ長いし、当然鉄球よりも長い。そう、つまりこの間合いだ」

 

 目測で測るなら、おそらく15メトラ前後。こっちの爪弾や鉄球は余裕で届かない。射程距離外だ。魔術なら届くが、【ショック・ボルト】は抱えられているルミアまで感電してしまうし、他の呪文も軒並み広範囲へと威力が届くためにルミアに当たってしまう。そもそも、呪文詠唱などを許してくれる相手ではない。そしてここが『皇帝(エンペラー)』の射程距離内だというのなら―――

 

(しまった! してやられたッ!)

「何回も貴様は負けると思っていたが……やはり貴様の負けだ」

 

 ジョレンが更に距離を詰めようとする前に、チェックは『皇帝(エンペラー)』の引き金を引いた。スタンドの弾丸が即射出され、真っすぐにジョレンの心臓へと向かって行く。

 

「うおォォォォ――――――ッ!」

 

 それと同時に苦し紛れに放たれる回転鉄球。それが弾丸へと肉薄していく。このまま激突すれば流石に鉄球が勝つ。回転の力に守られた鉄球は確実に弾丸を弾く。

 だが、鉄球に当たる寸前に、弾丸は円を描くように軌道が曲がり、見事に鉄球を避け、ジョレンの身体へと命中し、その威力を受け、しりもちをつくように倒れ込んでしまう。

 

「グッ……!」

「む……?」

 

 だが、命中箇所は脇腹だ。狙った心臓ではない。ちゃんと心臓へ向かう軌道に戻るように操作したはずだが、外れてしまっている。

 チェックは威力が足らず、自分のすぐ目の前で失速して落ちてしまっても、なお回転し続ける鉄球に視線を移し―――

 

「なるほど、回転か」

「……」

 

 すぐにその正体を看破した。

 確かに『皇帝(エンペラー)』の弾丸は鉄球を避けたが、回転によって生じた空気の流れの影響は受けていたのだ。チェックは鉄球を避け、ジョレンの心臓を穿つルートに沿うように操作していたが、その間、風という外部的な力を受け続け、軌道がずれてしまっていたのだ。故に致命傷にはならなかった。

 

「だが、寿命が数秒縮まっただけだな」

「ッ!」

 

 すぐさま、『皇帝(エンペラー)』の撃鉄を下ろし、引き金に手をかけ、銃口をジョレンに向けるチェック。今のジョレンはしりもちをついて倒れ込んだ状態からまだ起き上がれていない。今度こそ避けられない。

 とどめとばかりにチェックは引き金を引き、再び発砲する。魔術師の眼にも、そこまで容易くは捕らえられない速度の弾丸が放たれる。

 

「クソ、『爪』を……!」

「何……ッ!?」

 

 だが、ジョレンは両手の爪をたてるように地面に突き刺し、全ての爪を一斉に回転させる。すると、その回転の力でジョレンの身体が、そのままの姿勢で後ろに動き、軌道変化が間に合わず弾丸がさっきまでジョレンのいた場所の地面に撃ち込まれた。

 

(爪を回転させて車輪のようにして、移動したのかッ!)

「このまま―――」

「だがなッ!」

 

 弾丸を一旦回避して、距離を取ったジョレンが起き上がろうとしている隙を突き、再び『皇帝(エンペラー)』を3発連射する。ルミアを抱えているというのに、その連射速度は達人と言って差し支えないものだ。ほぼ同時に向かってくる弾丸に、ジョレンは鉄球を構え―――

 

「『爪弾』ッ!」

「無駄なことを……!」

 

 フリーの左手の指から爪弾を五発発射。それらが『皇帝(エンペラー)』の弾丸と接触しそうになるが、弾丸が収束するような動きで全ての弾丸が爪弾を避けた。今度こそ三発のスタンド弾がジョレンの心臓を穿つために接近する。

 

「かかったなッ!」

「ッ!?」

 

 だが、収束した三発の弾丸は、爪弾に続いて投げ放たれていた鉄球により上へとまとめて弾かれる。爪弾を避ける弾丸の動きを完全に読まれ、利用されてしまった。

 そして、パシッと戻ってきた鉄球をキャッチし、チャンスとばかりに今度はジョレンの方から距離を詰める。その距離、目測13メトラ。あと二、三歩で爪弾の射程に入る。

 

「うぉぉらァァァァァ――――――ッ!」

「何ッ……!?」

 

 だが、その距離で鉄球を投げ放つジョレン。身構えながらも、その意図が分からず困惑するチェックを後目に、鉄球の後ろでジョレンは右手の爪を回転させており―――

 

「距離が足りないのなら……ッ!」

 

 発射された人差し指、中指、薬指の爪弾が先に投げられた鉄球の後を追い―――

 

「ま、まさかッ!?」

「回転に回転を合わせればいいッ!」

 

 三発の爪弾が鉄球を後ろから弾き、後押しした―――更に爪弾の回転が鉄球に伝わり、弱まっていた回転すらも強化され、チェックの顔面に肉薄し。

 

「がッ……!」

「や、やった!」

 

 それと同時に起こった鉄球の急激な軌道変化を読み切れず、ガードが遅れ、顔面―――顎の下に鉄球を受けてしまう。衝撃で顔が上を向き、口の中が切れたらしく口から微かに血が飛び散る。撃墜とまでいかないだろうが、確実な隙だ。7メトラまで詰め寄ることなんて造作もないほどの。

 だが―――

 

「今のには不意を突かれた……だがな」

「?」

「俺に『上』を向かせたことは貴様のミスだ……!」

「何を―――」

 

 チェックの言っている意味が分からず、ジョレンが言葉を続けようとしたその時。

 

「ッ!?」

 

 突如、降る一つの銀閃。ジョレンが見れば、自分の左腕が縦に撃ち穿たれている。遅れて飛び散る血華(けっか)を見て、視線を上の方に向ければ、自分を攻撃してきたものがそこに浮いていた。

 

「あ、あれはッ!?」

「上にはまだ……『皇帝(エンペラー)』の弾丸が残っているッ!」

 

 爪弾で軌道誘導して鉄球で弾いた『皇帝(エンペラー)』の弾丸があと二つ。上からジョレンめがけて降ってきていた。上から雨のように降る弾丸とチェックが後から放つ弾丸を二つ同時に捌くのは無理だ。そんな技能はジョレンにはない。

 

「く、クソ、しょうがない!」

 

 咄嗟に右手の爪弾を裏路地の壁を形成する建物の木の板で覆われた簡易窓に撃ち込み、瞬く間に破壊して、その中に転がるように入り込んだ。上から降り注ぐ二発の弾丸は建物の屋根に少しめり込み止まった。

 だが、ジョレンには撃たれた左腕の痛みを気にする時間もない。後ろ手に床をつき、どうにか早く起き上がろうとする。

 

(早くしないと追撃が―――)

 

 そう思った瞬間に軌道を曲げて窓から入り込んでくる二発の弾丸。左腕は負傷で腕が上がらない。動かすために筋肉が撃ち抜かれていて、動かそうとしても機能しなくなっていた。右手は起き上がるために床についていて、咄嗟に使えない。

 

(しまった、焦り過ぎた―――)

 

 右手を床につかず、防御するために構えておけばよかった―――そんな後悔をしてももう遅い。弾丸の速度は自分の感覚では実際速すぎる。ここから何かアクションを起こせるわけもなく―――そのまま、弾丸が真っすぐジョレンへと―――

 

『チュミミィ~~ン』

「!? お、お前は!?」

 

 いつの間に現れていたのだろうか。

 ピンク色をしたウーパールーパーのような謎の生物。初めてこのスタンド能力が発現した時も出現していた生物が、今、こんな時になって再び姿を現していた。そして、その生物は小さな手をジョレンの左手に当て―――

 

『チュミミィ~~ン』

 

 何をするのか、と問いかける間もなく、生物が触れた左手が勝手に動き、その指から爪弾が五発、勝手に撃ち放たれ、『皇帝(エンペラー)』の弾丸を撃ち落とした。

 撃ち落とした後、呆気にとられながら、自分の左手を見てみれば、もう爪は回転していない。動かすことも出来なくなってしまっていた。

 

『チュミミィ~~ン』

「こ、こいつ……」

 

 この生物は本当になんなんだろうか? そもそも聖なる遺体というのも何か分からない。チェックは『奇跡を齎す聖人の遺体』と口走っていたが、それは結局誰の遺体なのだろうか? そして、それを追い求める意味は?

 

(分からない……分からないが……)

 

 ジョレンはふわふわと浮遊する謎の生物を見ながら思う。

 自分にスタンド能力を与えたこの遺体。だがそれだけではない、自分がピンチになった時だけ、身体を本人の意志とは無関係に動かすなどという、普通ではありえないことが起きるのは一体なぜだろうか。負傷していた左腕が動いたのも分からない。これが奇跡の一端だというのか。それに、もしかしたら―――

 

(リリィの足もこれで治るのか……)

 

 そう考えるジョレンの真正面に謎の生物がふわふわと動いてきて、こっちの顔を覗き込んで。

 

『チュミミィ~~ン』

「……奪われるなってことなのか……? それとも……」

 

 よく分からない。どれだけ考えても情報が足りない。だが―――

 

「可能性があるなら……」

 

 おそらく渡せば、自分はスタンド能力を失う。だが、ルミアは助けられるだろう。相手の狙いは聖なる遺体であって、自分たちの抹殺ではない。自分はどうなのか分からないが、ルミアは確実に助かると思う。

 でも、この先は? 例え、スタンド使いの組織が狙ってこなくなっても、天の知恵研究会は確実にまだルミアを狙ってくるのだ。それに今ここで渡して、今現在問題になっている王室親衛隊はどうする? 鉄球だけでさばき切れるか?

 

(できない、よな……認めたくないけど)

 

 この鉄球の力は何年もかけて、ジョレンが再現してきたジョレンの勇気の象徴だ。それでも力不足。それは学院自爆テロ事件の時に嫌という程思い知らされた。残念ながら、ルミアを守るには、この力が必要なのは明白だった。

 

(これからも、守ってやりたい……しな)

 

 なんとなく重ねてしまう。今のルミアの現状と、過去の自分を。異能者だから、などという理不尽に晒され、命を脅かされ続けるルミアを見て、約束もあるが、ただ単純に助けたいと思った。守りたいと思った。今だけじゃなく、これから何があっても。そのためにこの力が必要ならば、早々に捨てることを決めることは出来ない。最終手段だ。ならば―――

 

(どうにかして、あいつを倒す……この爪弾と鉄球で!)

 

 そして、ジョレンは転がり込んだ家の隅の方に目線をやって―――

 

***

 

 ジョレンが他人の家に転がり込んだ後、チェックはただひたすらに待っていた。

 この間合いが最善である以上、自分から近づいていくなど愚策中の愚策。故にただ待つ。

 ジョレンが逃げる可能性は、こうやってルミアを人質に取っている以上、ほぼ無いと確信していた。それが相手もスタンド使いだから感じる一種の確信なのか、それとも多くの人を殺し続けてきた自分の勘のようなものなのかは本人も知らない。

 ただとにかく待つ。銃口を壊された窓に向けて、ただじっと―――

 

「来たかッ!」

 

 窓から飛び出し、一瞬よぎる影。その人影にピタリと照準を合わせ、滑らかな手つきで『皇帝(エンペラー)』の引き金を引く。三発の小さな銃声、火線が三つ飛ぶ。それが、人影の頭を何の妨害もなく撃ちぬいて―――

 

「な……!?」

 

 だが、手ごたえが何か違う。そう感じた時にはもう遅かった。

 

「こっちだ」

「馬鹿な。ジョレン=ジョースター!? ならば、あっちのは……」

 

 遅れて窓から飛び出して来たジョレンに驚愕しながら、自分が撃ち抜いた人影の方に目線をやれば―――それは撃ち抜かれて頭部から硝煙の煙を吐く、木製の人形だった。ただ木を削って作っただけの安易な人型の模型。

 

「爪弾で家の中にあった薪を削って作った!」

「小癪な真似をッ!」

 

 だが、すぐに正気に戻り、続けざまに四発。リロード要らずの『皇帝(エンペラー)』を連射する。それぞれが異なる軌道を描き、最大限に撃ち落されにくくしてある弾丸が、ジョレンに迫り。

 

「あ……」

 

 その時―――ジョレンは何やら不自然に驚いたような表情を見せ―――次に不敵な笑みを浮かべ。

 

「ッ!? ッグゥ!?」

 

 次の瞬間、そのままなんの防御もせず突き進み続けたジョレンは四発の弾丸に見事に身体を穿たれた。右足と右腕に一発ずつ、左肺に二発入っている。即死ではないが、明らかに致命傷。このまま行けば呼吸が難しくなり、弱り死ぬだろう。無論、そんなに待つわけもなく、すぐに追撃を撃つ構えだが、抵抗される可能性が限りなく小さくなったのは大きなアドバンテージだ。あとはとどめを刺すのみ。

 

「喰らえ、とどめ―――」

「《慈悲の天使よ・遠き彼の地に・汝の威光を》―――」

「!?」

 

 引き金を引く直前にチェックのすぐそばから聞こえてきたあり得ない声。そして、自分の方から放たれた癒しの波動が倒れ込む寸前のジョレンへと届いて―――

 

「レン……君!」

「あぁ、ルミア……助かった!」

(しまった、こいつ、意識を取り戻して―――)

 

 ルミアが唱えた白魔【ライフ・ウェイブ】。遠隔で治癒魔術を飛ばす、高位法医魔術(ヒーラー・スペル)だ。それを受けたジョレンの身体はみるみるうちに傷が埋まっていき、完治とはいかないまでも、動くのに十分なレベルまで回復していた。

 ルミアが意識を取り戻していることを向かってくる時に先んじて知ったジョレンは、これを頼りにして防御を構えなかった。ここで助からないほどの致命傷を与えていれば、法医魔術(ヒーラー・スペル)など意味はなくなる。甘えずに相手の心臓や脳幹を穿っていればよかった。だが、そんな後悔ももう―――

 

「入ったぜ……あんたッ!」

「クッ!?」

 

 目測8メトラ前後。鉄球の撃墜飛投距離ではないものの、きっちり爪弾の射程距離には入っている。そして、ジョレンは右手の人差し指の爪を回転させ、こっちに向けている。もうルミアに銃口を突きつけるより早くジョレンの爪弾は発射される。それをしようとした瞬間に撃ち抜かれる、もうその行為は無意味と化してしまった。

 

「『皇帝(エンペラー)』ッ!」

 

 最後の抵抗と言わんばかりに、チェックはスタンド銃の銃口を神風の如き速さでジョレンに向け―――

 

「これはもう……『爪』を超えた……『牙』だ。これからは『(タスク)』と呼ぶッ!」

 

 ―――ジョレンが回転させた人差し指の爪弾を発射したのはほぼ同時だった。

オリキャラの設定集の投稿は必要?

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。