ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

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遅くなって申し訳ありませんでした。
少し落ち着いてきたので、ここからは少し早くなると思います。


第二十五話 「それぞれが『尽くす』もの」

 そよ風が吹き抜ける丘。緑一色の草原。日陰替わりの一本の大木の下で丘から遠くに見えるフェジテの街並みを見ている、二人の青年がいた。

 一人は身体の要所を軽甲冑で守った騎士風の装いをしており、緋色に染められた陣羽織―――王室親衛隊の陣羽織を羽織っている。その眼には若さゆえか、漲るほどの覇気が宿っており、若輩ながら、只者ではない雰囲気を滲み出している。

 もう一人は紺色の露出の少ない装束を着ており、腰の方には―――二つの『鉄球』を腰に吊るしている。その装束の胸元のあたりには、シンメトリーで広く細く枝分かれした大木のような紋章がついている。それが意味することを、騎士風の青年は知っていた。

 装束の彼の眼には、覇気のようなものが感じられない。だが、死んだような眼をしているというわけではなく、固い意志がその奥底にはしっかりと感じられる。ただそれを表に出そうとはしていないだけで。

 彼らは旧知の仲であった。それぞれが家ぐるみの付き合いをしており、幼少の頃から付き合っていた仲だった。しかし、今日から彼らはこれから自由に会えるような立場ではなくなっていく。

 騎士の青年はその類いまれな剣の才能と女王陛下への忠誠心の高さから、王室親衛隊に入隊することができ、装束の青年は自身の家業を今日から継ぐことになっていた。二人とも、今日が自身のプライベートを自由にできる最後の日ということで、幼少の頃に二人でよく遊んでいた、このフェジテ全体を眺められる丘に久しぶりに集まっていた。

 10分も20分も沈黙と爽やかな風が二人の間を吹き抜け、時間が過ぎていく。何も語らず、ずっと動かず、静かに流れる時をも無視するかのように、二人は街並みを眺めているだけであった。

 そうしている中、眉一つ動かさずに装束の青年が不意に口を動かした。

 

「ゼーロス。お前は王室親衛隊になったようだな」

「どうした、急に」

 

 前々から報告していたことをここで急に確認するように聞かれ、ゼーロスと呼ばれた騎士の青年は眉をひそめた。

 

「いや、なに。祝いの言葉の一つも無かったと思ってな。おめでとうと言いたかったが、どう切り出そうか迷っていた」

「あぁ……本当にお前は不器用だな」

 

 そんなことを真顔で言う友人に呆れながら、ゼーロスはその言葉が素直に嬉しかった。なんというか、相手がこんな調子のため、時間を空けて会うと、本当にどこまでも疎遠になった感じがしてしょうがなかったのだ。

 

「お前は見事に『忠』に尽くす人間になったわけだ」

「『忠』に尽くす?」

「そのままの意味だ。お前は王室親衛隊として女王陛下に忠誠を尽くす。それはそのまま忠誠そのものに尽くすことと一緒だ。忠誠を示すためならば死ぬのもためらわない。そんな人間になる」

「……確かに女王陛下に尽くすため……忠誠を示すためになら、命を懸けても構わないとは思っているが……何やら変に意味のある言い方だな」

「そういうつもりは無いのだが」

 

 なら感性が独特だということだろうか? それとも親や祖父母から教わったのか、どこかの本で読んだのか。

 いずれにしても、ゼーロスは友人がそういう言い方をするのを昔から、どこか不思議だと思っていた。彼がそういう言い回しをするのを不思議に思うのではなく、単純に友人のことをどこか不思議な人だと思っていた。

 いつもそんな彼に興味というか好奇心を持ち、話を続けるのが、この二人の日常だった。今日も、それに従い、ゼーロスは疑問に思ったことを問う。

 

「じゃあ、お前は何に尽くすというんだ? 同じ、女王陛下に……『忠』に尽くすわけではないのか?」

「違うな。私が尽くすのは『忠』ではない。言うなら『(つとめ)』に尽くすのが私の一族であり、私自身だ」

「……? それは何がどう違うんだ?」

「私が尽くすのは、あくまで『(つとめ)』。それがどんな内容のものであろうと、納得出来ずとも、ただ何も言わずに遂行する……女王陛下からの命令を正確に執行する……「法」は法……それがどんなものであろうと、法の審議に関わることはない。それが私たちの一族」

「…………」

「だがゼーロス、お前は違う……お前は『忠』に尽くす。それがどういうことか……? お前が守るべき者のためになら、法すら犯す覚悟があるということだ。例え自分が重罪人になることがあっても、それが女王陛下を守ることに繋がるなら、迷わずにそれを選び取れるということ……王室親衛隊に入るということは……お前はそういう人間になるということだ」

「……なるほど」

 

 彼の言葉はゼーロスにずしりと重りのようにのしかかってくる。それは別に自分が王室親衛隊の任務に不安を覚えているだとかそういうことではなくて。

 ただ目の前の友人が、この国のために、そして一族のために、自ら困難な道を選ぼうとしている、その覚悟がひしひしと伝わってきたからだ。自分はこのような人間と友人だったのだ、と。それが幸運だったとかそういうことじゃなくて、自分は覚悟のある人間の隣にいたのだ、という認識がゼーロスの(こころざし)を引き締めてくれていた。

 

「お前は強い人間だな、グリム」

 

 素直に思ったことを、改めてゼーロスは目の前の友人、『グリム=ツェペリ』に話した。すると、グリムはゆっくりと首を横に振った。

 

「別に何が良いとか何が悪いとかいう話ではないさ。ただ、少しずつだが、違う道を歩み始めているというだけで。この世には様々なものがあり、様々な人間がそれに尽くしている。『欲』に尽くす者。『自由』に尽くす者。本当に色んな者がな」

「……そういうものなのか。じゃあ、他人を羨ましく思うなんてことはないのか?」

「……私はツェペリ家に生まれたことに、女王陛下からの任務を仰せつかうことができることに誇りを持っている。持っている、が―――」

 

 その時、一瞬だけ。

 空を仰いだグリムの表情がほんの少しだけ憂いを帯びたものとなっていた。それこそ、長年付き合っていた自分でなくては分からないような、微妙な表情を。

 

「一つだけ、羨ましい。強い人間だと、私が思うものがある」

「それは……どんな?」

「……そうだな、例えるなら―――」

 

 それが、ゼーロス=ドラグハートとグリム=ツェペリの最後の会話だった。

 このすぐあとに奉神戦争が起こり、ゼーロスは戦場に向かうことになり―――戦争が終結し、生還した後も、二人はプライベートで顔を合わせることは無くなった。

 そして、そのまま時は過ぎ、いつの日か、結婚して子供ができた、と報告じみた手紙のみがゼーロスの元に届き、十数年して、彼が帝国宮廷魔導士団に入団したと聞かされることになる。

 その子供の名前は―――

 

***

 

「セリカ、頼む―――ッ!」

「ハッ!?」

 

 それは怒りのあまりか。それともただショックのためか。

 過去の情景を思い出していたゼーロスはグレンの叫びで現実に引き戻された。その瞬間、会場を警邏(けいら)していて、この場に居合わせていた衛士たちが、表彰台を中心に、グレン、ルミア、ジョレン、アリシア、ゼーロス、セリカの六人を囲んだ光の障壁によって完全に締め出されていたところだった。

 衛士たちが結界の障壁面を叩きながら何事かを叫んでいるが、その声は結界の中には入ってこないようだった。

 

「ほう? 音も遮蔽する断絶結界か。ずいぶんと気が利くな、セリカ」

 

 グレンの言葉と共に、セリカはにやりと笑った。

 そのセリカの左掌の先には、光の線で構築された五芒星方陣が浮かび、鈴なりのような音を立てて駆動している。

 

「……~~~ッ! 貴様、何者だ!? 我が友人、グリム=ツェペリの息子、ロートゥ=ツェペリに化けるとは……!?」

「「「!?」」

 

 突然変化した状況、そして憤怒と焦燥がゼーロスの中で入り交じり、消化しきれぬ衝動となって吐き出すように吠えていた。

 その言葉に、その場にいる全員が固まった。別にジョレンとしてはそんなつもりはない。というか知るわけがないことだが―――これはやってはいけなかったことなのではないか、そう思わせるには十分なほどに、震えあがりそうな咆哮だった。

 当然のように、その叫びに応える者などおらず、しばらくの間、沈黙が結界内を支配する。その様子を感じ取ったゼーロスは諦めたように歯噛みし、グレンら三人を睨みつける。その圧倒的な威圧感に思わずビビり上がりそうになるが、グレンはやせ我慢で不敵に笑って見せ、アリシアの方に向き直った。

 

「……へっ、まぁいい。陛下、僭越ながら上申させてもらうぜ。そのおっさんは陛下の名を不当にも(かた)って、罪もない少女を手にかけようとしていた―――そうだ、このルミアを、だ」

「…………」

 

 アリシアはグレンをじっと見つめている。

 

「陛下、安心してくれ。もう終わりだ。ルミアは無事に保護したし、陛下を拘束していた親衛隊の連中もうこうして結界の外。陛下を力で押さえつける不埒な連中はもういない。そのおっさんがアホみたいに強いのは知ってるが、流石に俺とセリカを同時に相手にはできねーだろ」

「おのれ……逆賊共……」

「ばーか。逆賊はどっちだっつーの。とにかく、あとは陛下が一言、下知(げじ)すれば終わりだ。おっさんも、この状況で陛下直々の勅命なら聞かないわけにいかねーだろ?」

 

 ようやく終わった―――その場の誰もがそう思っただろう。ゼーロスも、当初の目的を果たすことも、そのドロドロの感情の行き先を探すこともできず、苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「ゼーロス」

「はっ……なんでしょうか? 陛下」

「その娘を……ルミア=ティンジェルを、討ち果たしなさい」

 

 それは本当に静かに、そして自然にアリシアの口から出た、予想外の言葉だった。

 

「……は?」

「…………」

「―――ッ!?」

 

 その言葉に、グレンは固まり、ルミアは青ざめ、ジョレンは俯いて無言になってしまう。

 そんな三人に構わず、アリシアは冷酷な氷の眼で、ルミアを見て、淡々と言葉を続ける。

 

「その娘は、私にとって存在してはならない者です」

「ちょ……陛下、何を言って……?」

 

 想像だにしていなかったアリシアの言葉に、今度はグレンが狼狽える番だった。

 

「いなければ良かった。愛したことなど一度もなかった。どうして、その子がこの世に存在してしまっているのか……我が身の過ち、悔やむに悔やみきれません」

「そ、そんな……」

 

 そんな母親の言葉に、流石のルミアも耐えきれなかった。

 

「まさか……ほ、本当にそう思っていたの? それが、あなたの本音だったの……? あの優しさは……? あの温もりは……?」

 

 がたがたと肩を震わせ、後ずさりしながら、それでも縋るように問うが―――

 

「ええ、全部嘘です。政務に疲れた時、気分転換に興じた戯れですよ? だから、私に逆らった愚かさを悔いて死になさい」

 

 淡々と突きつけられる残酷な言葉に、がくりと、遂にルミアが項垂れて涙を浮かべてしまう。

 

「い、いや、ちょっと待ってくれよ、陛下! なんでそんな心にもないことを……ッ!?」

 

 焦燥に身を焦がすグレンとは裏腹に、ゼーロスは力を取り戻していく。だが―――

 

「ふふ、ふふふははは……やっとわかってくれましたか、陛下。どうだ、下郎? これが陛下の真意だ。大義は我らに有る」

「ッ―――!?」

 

 そこに果たして事態が好転したことに対する喜びがあったかどうか。まるで憑き物が落ちてしまったかのように、静かにそう宣言するゼーロスの眼は明らかにさっきとは別物になっていた。

 怒りに燃えているようで、決して血走ってはいない。まるで怒りをそのまま結晶にしたかのような眼がそこにあった。

 そして、右手に構えた剣をゆっくりとジョレンの方に向けて言う。

 

「ジョレン……そう、ジョレン=ジョースターだな……? 『バトルロワイアル』に出ていた……一つだけ腰に吊るした鉄球、確かに使っていた。今思い出した」

「…………」

 

 無言。ジョレンはその言葉を聞いても、ずっと俯いたまま、何も言わない。

 

「貴様がロートゥ=ツェペリとどんな関係なのかは知らない。貴様がどうして我が国の処刑執行人の一族、ツェペリ家の秘伝……医療と『処刑』のために編み出した回転の技術を身に着けたのかは知らない。だが、ルミア=ティンジェルを庇い立てた罪、そして不当にロートゥ=ツェペリの名と姿を使った罪、到底許せるものではない」

「しょ、処刑……?」

 

 すっと耳に入ってきた初めて聞く情報に、涙で頬を濡らしながらも、ルミアはジョレンの方を向く。

 しかし、それでも―――ジョレンは微動だにしない。何も言わない。

 

「覚悟しろ。ルミア=ティンジェル、ジョレン=ジョースター、そして魔術講師よ。貴様ら相手に処刑執行人であり我が友人たるグリム=ツェペリの手を煩わせるまでもない。今、ここで我が剣の(さび)にしてくれる」

「くっ……!?」

「あぁ……」

 

 二つの細剣(レイピア)を抜刀して、ゆっくりと間合いを詰めてくるゼーロスに、グレンは脂汗をかきながら古式拳闘の構えを取り、ルミアは絶望のあまり力なく項垂れてしまっている。

 そして、また一歩ゼーロスが踏み出して―――

 

「言いたいことはそれだけか?」

「ッ!?」

 

 ドン、と何かが射出される音が結界の中に響く。ゼーロスが視線を向ければ、自分が踏み出した少し前の床が抉られていて―――ジョレンの方を見れば、右手人差し指の爪が無くなっている。

 そんな状態のジョレンの眼には―――あえて形容するなら黒い炎が宿っていた。怒りとも絶望とも違う、何か本質的に違う感情が炎として瞳に宿っていた。それを見たゼーロスは思わず一歩引いてしまう。

 

「き、貴様……何を……?」

「そう、命令……命令だ。あんたは今、命令に従ったことになった」

「は……?」

「確かに大義はあんたにある。俺らを殺しても罪にはならない。無罪だ。それともまだ裁判もやっていないから推定無罪か? まぁ、どうでもいい……関係ない。どうせ罪人になった俺にはもう関係はない」

 

 言いながら、ジョレンは両手を重ね合わせ、指に残った全ての爪を一斉の回転させた。その指先が向かう先は当然ゼーロスの身体だ。一点の曇りもなく、ただゼーロスの心臓を撃ちぬこうと待ち構えている。

 

「そこだ。今俺が地面に撃ち込んだ部分がギリギリ爪弾の『射程』……あんた……まだ推定無罪だが……今度、爪弾の『射程』に入ったら、即!始末してやる……!」

「ッ!」

「れ、レン君……?」

「ジョレン、お前……」

 

 そこに嘘やハッタリの類いは一片たりとも入っていない。本当にゼーロスが一歩でも射程内に入ってきたら撃ち殺す、と、その言葉に宿った意思が言っていた。それはルミアもグレンもそれを感じ取れる程に、強く濃い意思だった。アリシアとセリカも、無言だが、その異様な雰囲気に密かに息を呑んでいた。

 しばらく、誰も何も言わない奇妙な沈黙があった。そんな中、ゼーロスは自分でもびっくりするほどに冷静な心持ちで、ジョレンの姿を見ていた。ゼーロスはこう思っていた。

 

(まるで番犬だ……)

 

 本当に、今、この場、この状況に似つかわしくない感想だと、自分でも思っていた。しかし、それ以外に言葉が見つからない。

 ジョレンのすぐにでも自分を殺しにかかろうとする姿は、ルミアを守ろうという意思から来るものだ。しかし、それは決して騎士のようでも、ましてや用心棒のようでもない。獣、番犬のようなものだという感想がしっくり来ていた。

 だが、それでも―――その姿は、その瞳の輝きと呼べるものは―――美しいと感じるものだった。

 

(そうか……グリム、これが―――)

 

 最後に、丘でグリムが言ったあの言葉。あの言葉の意味が、ゼーロスには分かった気がした。

 

 

『一つだけ、羨ましい。強い人間だと、私が思うものがある』

『それは……どんな?』

『……そうだな、例えるなら―――それは『信』に尽くす者だ』

『『信』に尽くす……?』

『『信』とは、この世で最も移ろいやすいものだ。例え、一生の友情を誓った親友同士でも、何かの拍子に壊れてしまうような……信頼がこの世で最も信じられないものだ。だが……しかし、だ。もし、そんなものにも尽くすことが出来るような人間がいるなら……恐らく、それが一番強いんだろう。『信』に尽くせるような……そんな人間に、俺はなりたかったのかもしれない』

 

 

(彼が『信』に尽くす者、か)

 

 その漆黒の意思を見て、ゼーロスは素直にそう思った。そして、それを思った時、ゼーロスはふっと自嘲染みた笑みを浮かべて。

 

「!」

 

 とても穏やかな気持ちで、爪弾の射程内に足を踏み入れた。

 それと同時に無言で撃ち放たれる爪弾。真っすぐゼーロスの心臓を撃ちぬくため、飛来してくる螺旋状の火線があっという間にゼーロスの元へと届き。

 

「訂正しよう」

「「「!?」」」

 

 次の瞬間、咲いた銀閃。その一瞬の出来事に、その場にいる全員が目を疑った。だが、その事実が変えられることはない。銀閃によって貫かれた螺旋の火線が真っ二つに斬られ、消滅したことを。

 その様子に、さっきまで表情を微塵も揺るがせなかったジョレンも驚愕に目を剥いていた。

 そんな皆に構うことなく、堂々と爪弾の射程内でゆるりと双剣を構えなおすゼーロスは、続けて言う。

 

「お前たちは罪人ではない」

「は……?」

 

 急に手のひら返しのようなことを言い始めるゼーロスにグレンは呆気にとられる。

 

「逆にわしが罪人だ」

「何を……」

 

 わけが分からない、グレンもルミアもそう言いたかった。ゼーロスの言葉とは裏腹に、殺意は変わらずに自分らに向けられていたから。

 

「なぜ貴様らが罪人ではないのか……それはもう何もできないからだ」

「…………」

 

 ただ一人、ジョレンだけがその言葉を聞いても、表情一つ変えない。ただ彼我の圧倒的な実力差に呻くこともできず、睨むのみだった。

 

「貴様らはもう何もできない。わしが全員ここで殺す。この場所に残る罪はただ一つ、無辜なる国民を切り刻んだという罪だけだ」

「違う、この場所に残る罪は……あんたを撃ち殺したという罪と国家反逆罪だ。そんな罪はない」

 

 そんなゼーロスの物言いにジョレンは言い返す。グレンは分かった、これは予告だ。両者ともに相手を殺すという純粋な予告。この二人の間に他の余計な感情は無い。ただ相手の命に向かっていくだけの殺意のみ。

 

「先生、ルミアを頼みますよ」

「は……?」

 

 そんな二人の雰囲気にすっかり呑まれてしまっていたグレンをジョレンの言葉が引き戻した。

 

「殺すつもりでやっても、十数秒時間稼ぎできれば万々歳でしょう」

「ジョレン、お前……」

 

 無論、殺すつもりであることは疑いようもない。だが、そう断じるジョレンの表情はただ力不足に歯噛みしていた。

 

「先生にしかできないんでしょう? 教授がそう言っていたんでしょう? じゃあ、俺にできるのは、邪魔が入らないようにするだけですから」

「……死ぬなよ」

「それは先生にかかってますから」

 

 そう言うが最後、ジョレンは腰に吊るしてあった鉄球を右手で取り、左手の爪を回転させ、ゼーロスに向け、回転させた鉄球を胸元に持ってくる。

 次の瞬間、二つの殺意がぶつかった。

 

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