ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

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第二十七話 「月夜の下で『二人』は語る」

 魔術競技祭で起きた事件。そして、そこから派生した騒ぎは大ごとなく収まることになった。

 ゼーロスの投降宣言で暴走していた王室親衛隊は沈静化し、アリシアが学院生徒たちの前で自分の身に降りかかった事件のことを演説した。

 帝国政府に敵対するテロ組織の罠にかかったが、勇敢な魔術講師と学院生徒の活躍によって事なきを得たこと。

 セリカが張った結界によって、内部の会話などは聞こえていなかったことも幸いし、国難にかかわる危険な部分はさりげなくぼかし、華々しい部分をあえて美化し強調する―――世界を相手取る一国の女王の巧みな話術が、場にいた全ての者達を見事に欺いた。

 一時、居合わせた者達を不安と動揺が支配するが、それもすぐに落ち着き、最後に一騒動あったものの、魔術競技祭はここに無事終了することになった。

 

 それから時間もそれほど経っていない夕暮れ時の中、朱に染まった街中をジョレンは自分の家に向けて歩いていた。

 事件の途中、巻き込まれたことでアルベルトの工作で保護されることになったリリィとミクリに終わったことを伝えるためだ。それと―――

 

(リリィに全部伝えなくちゃ……な)

 

 学院自爆テロ事件の時から、自分の身に降りかかっていた奇妙な出来事。

 リリィを巻き込むまいとして黙っていたことだったが、一回巻き込まれてしまった以上は、もう隠し通せるものではない。リリィは元々そういうものを感じ取りやすい感性をしているし、首を突っ込んででも知ろうとする気質がある。逆にそのまま放置する方が危険だろうし、教えないという不誠実な態度なまま、ジョレンは何食わぬ顔で過ごせそうになかった。

 そのためにグレンとルミアが事件の後処理に時間を取られる中、ジョレンだけ無理を言って抜けさせてもらったのだった。

 そうこう考えている間に、ジョレンは自分の家の前までたどり着いていた。古い木造の家で、街の外れに建っている格安家賃の家。扉などはもうガタガタで定期的に修繕しないと取れてしまいそうな程にボロい。

 だが、そんな扉が今は鋼鉄の扉よりも重く感じていた。

 

(だ、ダメだ、こんなことじゃ……)

 

 この話をした後、自分はますます狙われることになるだろう。組織のメンバーを一回退けたということはそういうことだ。それなのに、こんな弱気でこれからリリィを守っていけるわけがない。

 しっかりしなくては。それに、自分が抜ける時に口添えしてくれたのは、あのゼーロスだった。あの人は本当に自分に期待してくれているのだった。

 それを裏切るわけにはいかないだろう。ジョレンはそう意を決して扉を開いた。

 

「り、リリィ? ミクリ? 終わったぞ、もう終わった……帰ってきたぞ」

 

 しかし、返事はなかった。

 一歩家の中に入って見渡しても、そこには人影すらなかった。夕暮れによって窓から奇妙に伸びた光が部屋の中を照らしているが、その陽の光に二人の姿が映ることはなかった。

 だが、普段の家の様子とは一つだけ違う物が代わりに映っていた。

 

「なんだ……? なんで、あんなところに()()が……?」

 

 一回も置いたことも触ったことのない木箱が見せびらかすようにドンと置かれていた。まるで人が一人丸々入れるような大きさの木箱が。

 既に今日だけで何回も襲撃されているジョレンは、すぐさま鉄球を右手でかっさらうように構えて、木箱のみならず周囲にも注意を向ける。

 次の瞬間、木箱がほんの少しだけ、ガタッと音を立てたのを、ジョレンは聞き逃さなかった。

 

「ッ!? おい……ふざけんな……この木箱……」

 

 間違いない、誰かが入っている。しかも、確実に隠れるつもりでこの中に入っている。そしてリリィもミクリもいない状況、これは確実に―――

 

(て、敵だ……他に考えられない。敵が中に潜んでいるッ……)

 

 ジョレンは一歩飛び退き、左手の爪を回転させ始める。

 この場には魔術の痕は一欠片も無い。敵どころか魔術学院の生徒であるミクリも魔術を繰り出していないということは、敵の正体はスタンド使いとしか考えられない。自らは魔術を使わずにミクリが反撃する間もなく制圧した、とするなら―――

 

(あいつら……ルミアの次はリリィを人質に俺を……!? 俺の中の遺体を取ろうってことか……!)

 

 そう考え着くと、どうしようもなく鉄球を握る右手に力が入る。怒りが腹の底から沸き上がり、力が入った葉が軋むかのような音を立てる。

 そして、木箱をガッと掴み、その上蓋に左手をかけ、右手の鉄球を回転させ、いつでも木箱の中で力を炸裂させられるように構えている。

 

(本当に相手がスタンド使いなら、この木箱を開けた瞬間、何が起きるのか分からない……スタンド能力の不可解さはもう、あの拳銃だけで嫌という程、身に染みた……)

 

 スタンド能力相手では、後手に回った時点で既に相手の術中でもなんらおかしくない。相手の得意な間合いに入れられているのか、それ以外のことなのかは分からないが、相当にやばい状況だろう。それは分かっている。だが―――

 

(クソ……リリィ、ミクリ、待ってろ―――)

 

 今回お世話になった学友と唯一の肉親が人質になったジョレンの頭の中から立ち止まるという選択肢は吹っ飛んでいた。何か仕掛けてくる前に、この鉄球を叩き込む。いつもよりも切羽詰まった状況から来る単純かつ明瞭な考えに基づいて、木箱の箱をバッと開いて、振りかぶるジョレンの眼に入ってきたのは―――

 

「あ、あれ……?」

「え、えっと、お兄ちゃん……バア……」

「……どういうことだ?」

 

 そう呟いたジョレンの表情は割と笑ってなくて、リリィは少し引きつったような笑顔でそんな訳の分からないことを言っており―――

 

「どうしたんですか、リリィさん。驚かすんじゃなかったんですか」

「あっ!? ミクリさん、まだ言っちゃダメですって!」

 

 そんなこんなでリリィが焦っていると、木箱が不意に分解され、一部分だけミクリの顔になっていた。明らかに『アース・ウインド・アンド・ファイヤー』の能力だった。

 

「……どういうことか教えてもらおうか? リリィ」

「ははは……」

 

 今日その時、リリィはジョレンの怒りを買うことになった。

 

***

 

 すっかり夜も更けて、家のランプをつけ、小さな部屋を優しい光が照らしている。

 しかし、その光の下でたんこぶを作った少女がしょげている姿は全く優しい光景ではなかった。

 

「はぁ、アルベルトさんが先に事態が終わったことを教えてくれたわけね……」

 

 思えば、アルベルトがかけたはずの魔術的な工作が既に無くなっている時点で気づくべきだった。そこは自分の落ち度とはいえ、この状況で心配させるようなことは本当に控えて欲しいと思う。

 

「ていうか、凄い仲いいな、お前ら……」

 

 嘆息しながら、部屋の隅っこでぼーっと突っ立っているミクリの方に目線をやって言う。ミクリも悪戯に協力していたはずだが、罪悪感のありそうな顔はほとんどしていない。思えば、なんで巻き込まれた時に一緒にいたのかも謎だった。鉢合わせるのはあるかもしれないが、そんなすぐに意気投合することなんて―――

 

「だって兄さん!? ミクリさんって宇宙人なんですよ、知ってました!?」

「あー……うん、知ってる」

「宇宙人と会えたなんて私、感激してしまって……色々、面白い話も聞けましたし!」

「俺も今、何かを理解したよ……」

 

 ジョレンはリリィが推理小説から来るミステリーやSFの類が大好物であることを思い出し、奇妙なほどあっさりと納得した。普通にリリィは人懐っこい性格をしているし、ミクリも相手の興味や好意を邪険にする性格はしていないから、短時間でもすぐに仲良くなるのは別におかしくはなかった。

 しかし、なんとも軽い空気で逆に話が切り出しづらいな……とジョレンが感じていると。

 

「兄さん……大事な話、あるんですよね?」

「…………」

「ごめんなさい、少しは雰囲気が軽い方が話しやすいと思ってしまって……」

「……ほんと、お前には敵わないよ」

 

 ふっと表情を緩め、リリィの頭を優しく撫でる。リリィはほんの少し、こそばゆそうに身じろぎしていたが、すぐに力を抜いて、ジョレンの手に頭を預けるように摺り寄せてくる。

 そんな兄弟の様子を見て、ほんの少しだけ無表情から微笑んだミクリは静かに外に出る扉に手をかけた。

 そして扉を開け、外に出ようかというところのミクリの背にジョレンは振り返らずに言葉をかけた。

 

「今日は本当にありがとう、ミクリ」

「いえ。お二人に何もなくて本当に良かった。それではまた……学院で」

 

 そう、静かに言うミクリの声音には確かな安堵と喜びがあった。助けられてよかったという安堵と喜びが。

 それを感じ取ったジョレンはミクリのその表情を見てもいないが、同じように微笑んで―――自分の身に何が起こったか、つらつらと語って聞かせた。

 リリィは最後まで、失望することも怒ることもせず―――ただただ静かに、穏やかにその言葉を聞いていた。

 

***

 

 ジョレンの話は10分もしない間に終わった。

 その間の時間は、決して常識的ではなく、平和的な話など何一つなかったが、それでもリリィは不満など言わず、ジョレンの身に起こったこと、これから起こるかもしれないことを全て聞いてくれた。

 話し終わった後に不安そうな顔はしていたが、それでも文句は言わなかった。それはきっと、ジョレンの覚悟を巻き込まれた時に既に見ていたからだろう。リリィにそれを妨げることは出来ないし、それをしたくもなかったのだ。

 そんな妹にジョレンは自然と小さく感謝の気持ちを述べていた。リリィはどうやらそれで満足したようで、無茶だけはしないで欲しい、とこれもまた小さく頼んでいて、ジョレンはそれに頷いていた。

 

 そして、話が終わった今、ジョレンは一人で夜の帳が降りた町の中を歩いていた。

 北地区学生街にある飲食店で、どうやら他の二組のクラスメイトたちは優勝後の打ち上げをしているようだった。

 本当なら、今日はもうずっとリリィと一緒にいるつもりだったが、打ち上げの話をうっかりしてしまった結果、行かなくてはダメだと半ば追い出される形で行くことになったのだった。

 しかし、ジョレンは店の方で何か起きている気がしてならず、向かう間、思わず嘆息してしまっていた。

 

「ここか……なんか、立派な店だな……」

 

 貧乏人であるジョレンには一回も縁は無いだろうと思っていたような店を前にして、今更ながら緊張してくる。やることはどうせ学生の打ち上げで、グレンの計らいで自分は金を払う必要は無いとはいえ、どうにも遠慮したくなる気持ちが溢れてくる。適当に店の隅で引っ込んでよう、なんて思いつつ、店の扉を開けると―――

 

「何やってんだ……?」

「あ、ジョレン。もうすぐお開きになる予定なんだけどよ……先生が……」

 

 入ってすぐに、ジョレンは中の様子を見て、訝し気な表情になりながら、すぐ傍にいたカッシュに問いかけた。

 見れば、確かに二組の生徒たちが飲めや歌えの宴会を繰り広げてはいた。

 しかし、その端っこのテーブルでグレンが悲しそうに突っ伏しており、その横には何やら眠りこけているシスティーナが毛布にくるまっていた。そして、ルミアがそんなシスティーナの世話を焼いている。あとは、足元やテーブルの上で転がっているお酒の瓶らしきものが少々。それだけで、お金関係にはシビアなジョレンは全て察することができた。

 

「あの様子じゃ、特別賞与とか賭けの分も全部吹っ飛んだな……?」

「あぁ、そうみたいだ……」

 

 カッシュの肯定の言葉に、ジョレンは身の毛のよだつような寒気を覚えながら、ご冥福をお祈りするしかなかった。

 

「あ、レン君、いつ来たの?」

「ついさっきだよ、本当に」

 

 そんなことをしていると、ジョレンが入ってきたことに気づいたルミアがとことこと寄ってきた。

 その晴れやかな様子を見ているだけで、もう心配は要らないことが容易に分かった。

 

「ねぇ、レン君。ちょっと外でお話したいんだけど……いいかな?」

「ん……まぁ、やることもないから俺はいいけども」

「……ありがと」

 

 そう呟きながら外に出るルミアに続いて、ジョレンも再び外に出た。

 外の風はやはり、寒々としていて、すぐにでも建物の中に入りたいと思わせてくるが、どうにもジョレンはこの空気を嫌いになれない。温もりはないはずだが、どこか落ち着く空気だった。

 見れば、ルミアが空を見上げており、ジョレンもそれにつられて空を仰いだ。そこには、雲一つない夜空に大きな満月が浮かんでいて、今、外にいるたった二人の少年少女を穏やかな光で照らしていた。

 

「妹さんとは、お話できた?」

「あぁ、話をしようってなったら、驚くぐらい楽にできた。やっぱりリリィには敵わないなって思ったよ……そっちこそ、話せたのか?」

「うん。あの後、お母さんと色々話せたよ……不満に思っていたこと、ずっと言いたかったこと、全部……そしたら、なんだかすっきりしちゃって……なんで私は意地なんて張ってたんだろうって」

「……まぁ、でも、どうにもならなくなる前に話せれてよかったな」

「うん……今日のことは先生と……レン君のおかげ」

「俺は別に……」

「なにもしてない、なんて言わせないよ」

「っ……」

 

 言おうと思っていたことを先読みされ、戸惑うジョレンにルミアは感謝と怒りを織り交ぜた表情で言葉を続ける。

 

「最初に話しかけてくれた時も……王室親衛隊の人から逃げていた時も……スタンド使いの人と戦っていた時も……ゼーロスさんと戦っていた時も……全部、全部、レン君は私のためにやってくれていた……私の……お母さんとの約束を……守ってくれた。だから、ありがとうって言わせて欲しいの。確かにグレン先生が来なかったら、上手くはいかなかったのかもしれないけど、レン君がいなくてもダメだったんだから」

「……本当か?」

「うん……今、こうやって私がいれるのは……間違いなくレン君のおかげだから……」

「でも、俺は最初から最後まで、相手の人を殺しかねなかった……そんな方法しか取れなかった……もし、そうだとしても、俺に感謝の言葉なんて―――」

「それでも、レン君は優しい人……私はそう思っている。レン君が何も悩んでいないわけじゃないって、もう私は分かってる。それでも、自分が守りたいもののために命を懸けれる……そんな優しくて強い人なんだよ……レン君は……」

「そう、なのか……そうだといいな……」

「そうだよ……そうなんだよ……」

 

 ジョレンの小さく消え入りそうな言葉に、ルミアは何度も何度も肯定の言葉を重ねてくる。

 どうにも何か今一つ自信が持てないジョレンの心にルミアの言葉が染み入ってくるようだった。それと同時に、ルミアが今ここにいることが、自分が守れたことの裏付けであるように思えて。そう思うと、自然と自分の中の暗い部分が光に照らされたみたいに小さくなっていって。何やら残っていた不安に思う気持ちは、今だけは無くなっていた。

 そして、しばらく両方とも何も言わない静かな時が流れ―――

 

「今、ここにいてくれて、ありがとう」

「最後まで、約束を守ってくれて、ありがとう」

 

 最後の言葉が偶然重なった時、二人ともハッとして、無意識に顔を赤くさせていた。

 そんな二人を月光はただ照らす。優しく穏やかに照らしている―――

 

***

 

 フェジテの街中の一つの建物の屋根に男が一人、横たわっていた。

 黒一色の服に、黒い髪色、瞳をしている青年だ。その右頬は抉り飛ばされ、今にも肉が千切れ、口の一部になろうとしているようだった。

 苦しそうに呻くと同時に、内臓を傷つけているのか、血をとめどなく吐き出している。スタンド『皇帝(エンペラー)』の本体、スタンド使いの組織のメンバー、チェックだ。彼は下にいる人から奇異の視線で見られながら、それを意に介さず、ただじっと横たわっていた。

 しばらくすると、屋根に奇妙な膨らみが出来始めた。それは屋根と同化しているような感じだったが、ゆっくりとゆっくりと膨らみ続けて、別の物質へと分離しているような、そんな奇妙な現象だった。

 

「……来たか」

 

 ゆっくりとその膨らみに視線を移して、それを確認すると、膨らみは不意に屋根と完全に分離し、一枚の布へと変わった。そして、今度は布がめくられ、その下から一人の男が、またこれも屋根から分離するようにして現れた。

 ウェーブがかった金髪。紺色のジャケットに身を包んだ大柄な美丈夫だ。彼もゆっくりと屋根と分離し、布の下から這い出てくると、チェックの方に心配そうな表情で駆け寄ってくる。

 

「大丈夫だったか、チェック? やはり、先に法医呪文(ヒーラー・スペル)で治療しておいた方が良かったんじゃあないか?」

「そんな、甘ったれたことが言えるわけがない……失敗したのに……ジョレン=ジョースターはどうだった……?」

「切り抜けたな……天の知恵研究会の策略も崩壊した。ジョースターは無事だった」

「そうか……もし殺されていれば遺体だけ掠め取れたかもしれなかったが……そう上手くはいかないか」

 

 その報告を聞いたチェックはようやく身体の力を抜いたように目を閉じた。その様子を見て、すかさずジャケットの男が法医呪文(ヒーラー・スペル)をかける。流石に頬の肉までは再生しないが、少しばかり楽になったのが雰囲気で感じられる。

 ジャケットの男は治療しながら俯いて、チェックに話しかける。

 

「すまない、チェック。お前は魔術師じゃないのに、私の我儘でいつも最前線に立たせてしまっている」

「ふん……魔術師じゃないからなんだっていうんだ。俺にはスタンドがある……」

「だが……」

「それ以上は言うな」

「…………」

 

 チェックの拒否にジャケットの男は反論することができない。俯き続ける男に、今度はチェックが声をかける。

 

「それに俺らの一派にとって最重要なのはお前のスタンド能力だ。安易にお前を最前線に立たせるわけにはいかないと、話し合って決めただろう。例えお前がどれだけ高位の魔術師で、規格外のスタンド能力を持っていようとな」

「……そう、だな……話し合って決めた……」

 

 そう言われても、男が俯いて隠していた悲しげな表情は微塵も揺るがなかった。

 

「……帰るぞ、また次の策を考えなくては。それにまだ場所を特定できていない遺体の捜索も」

「あぁ……そうだな、チェック」

 

 チェックの言葉にジャケットの男は短く応答して、ふわりと布を舞わせた。空気の抵抗を受けながら、布が二人を覆い隠す寸前、チェックは不意に屋根の下の通路の景色を見下ろした。

 そこには、車椅子を押す少年の背が見えた。その姿は間違いなく、昼の時、チェックが殺そうとしたジョレン=ジョースターに違いなくて。

 しかし、その腰には鉄球は()()()()()()()()。だが、その姿を見たチェックは思い出していた。ジョレンと対峙した時の、彼の殺意、敵意。学生とは思えぬ、目的に一直線に向かうが故にある確かな黒い意思を。それを思うと、チェックはどうにも苛立たしさが消えなかった。

 

「次こそは……ジョレン=ジョースター……」

 

 決して、眼下の少年には悟られず、漲るほどの殺意を滲ませる青年は―――ふわりと布に覆われ、そして、屋根から消え去っていた。

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