ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

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第五話 「講師の『覚醒』と夢語らい」

「昨日は、すまなかった」

「……え?」

 

 翌日、1時間目の授業が始まる前。突如、教室内にそんな声が発せられた。

 それを言っているのはグレンで、それを受けているのはシスティーナだ。

 謝った。10日間の間、とてつもなくやる気のない授業とそれを反省すらしない図太さを見せつけてきたグレンが、昨日の事について、システィーナに謝っていたのだ。しかも授業が始まる前に教室に来ている。いつもなら遅刻していたはずなのに。

 クラス中が困惑していたが、一番困惑していたのはジョレンだった。

 しかし、同時に思い当たる節もあった。

 

(まさか……ルミアか?ルミアが先生を説得したのか?)

 

 いや、それしか考えられなかった。ジョレンが帰った後で、二人で何かを話したのだ。

 そして、グレンとシスティーナの話が一段落して、グレンは教卓の方へと歩いていき。

 

「それでは授業を始める」

 

 その言葉に、教室がどよめいた。

 ジョレンも驚きを隠し切れない。一体どんな話をして、グレンをその気にさせたのか全く分からないが―――

 

(……ありがとう、ルミア)

 

 今はその言葉だけが思い浮かんでいた。ルミアへの感謝の気持ちが。

 ルミアは全くそんなつもりはなかったんだろうが、ジョレンのチャンスをかなり近くまで引き寄せてくれた。

 これほど感謝すべきことはなかった。

 

「さて、と。これが呪文学の教科書だっけか」

 

 そう言って、ため息をつきながら、ペラペラとページをめくっていくグレン。

 

「いらね」

「「「え!?」」」

 

 次の瞬間には、ごみ箱に全力投球していた。

 ホールインワンされた教科書がごみ箱の中で音を鳴らす。その光景を見た皆はまた自習の用意を始めるが―――

 

「さてまぁ、授業をする前に言っとくけども。すぅ……お前らってさぁ、本当にバカだよな」

 

 わざと息を吸ってまで言った、その講師としてあるまじき暴言に教室中にイラつきが蔓延していく。ジョレンはいかにもグレンらしい言動だとも思ったが。

 

「ふん。【ショック・ボルト】程度の一説詠唱のできない三流魔術師に言われたくないね」

「さて、そんな馬鹿なお前らに【ショック・ボルト】程度の授業をしようと思いまーす。まぁ、本当はもう少し高度なこともやりたいけどー。学生のレベルに合わせないといけないからねー、しょーがないねー」

「はぁ!?」

 

 煽るようなことを言った眼鏡をかけた生徒『ギイブル・ウィズダン』も、それを更に上回るうざさの棒読みの煽りに思わず声を荒げてしまう。

 

 

「さて、【ショック・ボルト】についておさらいだ。詠唱する呪文は《雷精よ・紫電の衝撃以って・打ち倒せ》。じゃあ、この呪文を区切って四節にしてみると何が起こる?」

 

 黒板に呪文を書き、《雷精よ・紫電の・衝撃以って・打ち倒せ》、と区切って見せるグレン。

 しかし、それを答えられる生徒は誰一人いなかった。そんなことは教わっていないし、試そうとする生徒もいなかったからだ。

 

「おいおい全滅かよ? なっさけねーなー」

「そ、そんなこと言ったって、そんな所で節を区切った呪文なんてあるはずないですわ!」

「おいおい何言っちゃってるんだよ、完成形の呪文をわざと違えてても、これはれっきとした呪文だぜ?」

 

 そう言って、反論したのはツインテールのお嬢様『ウェンディ=ナーブレス』だ。だが、そんな反論をばっさり切り捨てる。

 

「その呪文はまともに起動しませんよ、必ずなんらかの形で失敗しますね」

「だーかーらー、完成形の呪文を違えてんだって言ってんだろ?そうなるのは当たり前。じゃあその失敗がどういう形で現れるかって聞いてんだよ」

「何が起きるのかなんて分かるわけありませんわ! 結果はランダムです!」

「ランダム!? お前、それマジで言っちゃってんのかよ、ハハハハ! 俺を笑い殺させる気か!?」

 

 クラスの中ではシスティーナに次ぐ優等生のギイブルとウェンディの二人がことごとく撃沈し、グレンに煽られる。

 しばらく待っていたが、とうとう答えられた生徒は出てこなかった。

 

「なんだ全滅か?んじゃもういい。答えは『右に曲がる』だ」

 

 そう断じて、グレンは四節で呪文を唱えた。すると【ショック・ボルト】が途中までは真っすぐ飛んだが、途中から不自然に右に曲がっていった。

 

「マジかよ……」

「信じられませんわ……」

 

 驚愕を禁じ得ない現象に、生徒たちは全員が口を開けて、それを見ているしかなかった。

 

「んで、確か五節にすると~、『射程が3分の1になる』」

 

 《雷・精よ・紫電の・衝撃以って・打ち倒せ》と区切って唱えると、確かに目測だが、射程がそれほどまで落ちて起動した。

 

「節を戻して、呪文の一部……そうそうこの《の衝撃》の部分を消すと、『出力が大幅に落ちる』

 

 《雷精よ・紫電   以って・打ち倒せ》と唱え、ジョレンに向かって撃ったが、ジョレンはほぼ何も感じなくて、目をパチクリさせていた。

 

「なんで俺に撃つんですか」

「いや、ちょうどいいところにいたから。まぁ、ショックボルトのことを『程度』とか言いたいなら、これぐらい出来ねーとな。まぁ、出来ても程度なんて言えるような呪文じゃ、本当は無いわけだが……」

 

 どや顔でチョークを指で回しながら、そう言って見せるグレン。

 生徒たちは腹立たしいことこの上ないが、それに対して反論することが出来ない。グレンには自分たちの見えない部分が見えていることが今ので分かったからだ。

 

「そもそも、なんでこんな意味不明な本を覚えて、変な言葉を口にしただけで不思議現象が起こるか分かってんのか? 

だって常識で考えてもおかしいだろ?」

「そ、それは……術式が世界の法則に干渉して……」

「とか言うんだろ? 知ってる。それがお前たちの常識だからな。でもおかしいだろ? 仮に世界の法則に介入、干渉するものだとして、なんでそんなことが出来るんだよ? これは人間が理解できる程度の文字の羅列でしかないんだぜ? しかも覚えなきゃいけない、それはなんでだ? と、ここまで言ってきたが、それを疑問に思った奴もいないんだろう、それがお前らの常識だったわけだしな。あぁいや、俺の知ってる中で疑問に思ってそうな奴が一人いたが、まぁいいか」

 

 そこまで言われて、とうとう全員が黙り込んでしまった。そのグレンの指摘がまさにその通りだったからだ。

 そして、その前口上で期待している生徒が一人―――そう、この時を待ち望んでいた、ジョレンだ。

 

(間違いない……やっぱりグレン先生は……)

 

「んじゃ、今日は【ショック・ボルト】を教材とした術式構造と呪文のド基礎を教えてやる。興味のない奴は寝てな」

 

 そうグレンは言うが、ジョレンを含めて、今この教室で眠気を抱いている生徒は誰一人いなかった。

 

***

 

 そこからのグレンの授業は素晴らしいの一言につきた。

 魔術は世界の心理を追い求めるものではなく、人の心を突き詰めていくもの―――ルーン語による呪文の本当の効果、魔術文法と魔術公式の解説……それら全てが理路整然とまとめられ、分かりやすくされた授業。今日のグレンの授業に文句をつけようなんて生徒は出てこなかった。

 

(これだ。これが学びたかった。この根本的な部分を理解したかったんだ)

 

 まだ全然分からない事だらけだが、ジョレンの胸中は喜びと次の授業に対する期待で満ちていた。

 リリィの足を治すための魔術的医療術の取得……既存の法医呪文(ヒーラー・スペル)だけでは難しいかもしれないほどの難治療。それを可能にするための研究。

 その研究の土台……魔術の根本的な理屈。それを説明してくれるような先生をジョレンはずっと待っていた。

 これで、少しだけでリリィの足が治る未来に近づけたのかと思うと、更にテンションが上がる。

 ―――それと同時に。

 

(やっぱりあいつのおかげだよな……)

 

 授業の中、ちらりとジョレンはルミアの方に視線を送る。

 彼女がいなかったら、おそらくグレンはやる気なしの授業のまま、何も起こさずに一か月が過ぎていたに違いない。

 ジョレンからしたら、感謝してもしたりないぐらいだった。

 

(何かこう……奢る?ぐらいはしたい……)

 

 と言っても、ジョレンに自由に使える金は少ない。

 学食一回分ぐらいなら捻り出せなくもないが、極力避けたいものである。

 

(こう学食より安上がりで、なおかつ奢る価値のある……)

 

 チラリと自分が持ってきた食パン1斤を見る。

 そして思った。これしかない、と。

 

***

 

 翌日の昼休みの時間。

 ジョレンは真っ先に、授業後で残された黒板の文字を板書しているルミアの方に行った。

 

「なぁ、ルミア」

「ん? どうしたのレン君?」

 

 首をかしげて聞くルミアに、すっと青色の包みを取り出して見せるジョレン。

 

「今日はちょっとだけ昼食を捻ろうと思ってな。サンドイッチを作ってみたんだが、作り過ぎたみたいで。よかったら、一緒にどうかと思って」

「え? えっと、板書取り終わるまで待っててもらえるなら……?」

「時間はあるからそりゃ、待つよ」

「うん、じゃあ早く終わらせるから」

 

 と言っても、もうほとんど取り終えていたようで、1分2分程度で終わった。

 

「学食のテーブル使うのはアレだし、中庭いかないか? ベンチに座って」

「うん、分かった、じゃあ行こうか」

 

 その後、他愛のない雑談をしながら、教室を後にする二人。

 その様子を見た教室にいた生徒たちは―――

 

(((普通、渡す方、男女逆では?)))

 

 とか思ったとかなんとか。

 

***

 

 学院の中庭、広がる芝生に、色とりどりの花が植えられた花壇。弁当を持ってくる生徒などは、よくここに集まっていた。

 その隅の方にあるベンチに二人並んで座っているジョレンとルミア。

 ジョレンが包みを広げると、中からたくさんのサンドイッチが現れる。卵、トマト、ハム……それらの具材とレタスが挟んである、色んな種類のサンドイッチが少しずつ入っていた。

 

(いつも昼食に持ってくる食パン一斤に、食材を買ってきてどうにか出来た……学食よりは安いだろ、多分……)

「えっと、レン君? ボーっとしてどうしたの?」

「いや、ちょっと思い出し笑いを……」

「確かに若干笑顔だったけど、笑ってたって言われると微妙だったような……」

 

 残った食材は朝食に使えたし、などと内心回想に入りそうだったジョレンをルミアが引き戻した。

 

「でもなんで私を誘ってくれたの?」

「それは―――」

 

 それを聞かれて、正直に話した方がいいのだろうか? とか少し考えるが―――

 

「……まぁ、ちょっとお礼を」

「お礼? えっと……逆にお礼をしなきゃいけないようなことを一昨日したような……」

「いやまぁ、グレン先生をやる気にさせてくれたみたいだし」

「え?」

 

 差し出される理由も分からないお礼なんて怖いだろう、と思い、正直に話すことにした。

 案の定、ルミアは言われてキョトンとした顔をしている。

 

「ルミアだろ? あの後に、グレン先生を説得してくれたの」

「……ふふ、そんなことないよ。確かにシスティに謝ってあげてください、とは言ったけれど、ちゃんと授業をしてください、とは言ってないから」

「じゃあ、それだけ話して、先生が真面目に授業し始めたってことなのか?」

「それだけじゃないけど……聞きたい?」

「聞きたいけど……」

 

 悪戯っぽい笑顔をして、顔を覗き込んでくるルミアに、ちょっとだけ身構えるジョレン。しばらくその反応を面白そうに見つめた後で。

 

「じゃあ、私も質問していい?」

「質問内容による」

「その鉄球のこと、教えて欲しいな」

「鉄球か……」

 

 鉄球をホルスターから外して、手で持って、しばらく見つめる。

 別に話してはいけないというわけでもない、ただ聞かれなかったから、詳しくは説明しなかっただけで。

 食事中の会話としては、可もなく不可もなくか、と思ったジョレンは話すことにした。

 

「一昨日は、その鉄球で方陣の出来てないところを調べてくれたけど、どうやったの? それに指も動かしてないのに回転してたよね……」

 

 それに、好奇心で瞳を光らせて聞いてくるルミアから逃げられなさそう、というのもあった。

 

「別にこの鉄球自体は普通だよ、鉄を削って自分で作ったものだけど。特別なのは、使い方だけ」

「使い方……? あの回転のこと? どんな魔術を使ったの?」

「『魔術』じゃない、『技術』だ」

「え?」

「魔力の波動とかも感じなかっただろ? あれは単純に技術によって回転させていたんだ」

「そんなことが……」

「出来るよ。俺の尊敬する人が使ってたもので……見よう見まねで再現するのに3、4……いや、5、6年はかかったけど。それに、それでも劣化でしかないし」

 

 鉄球を見ながら、目を丸くするルミアに、実際に回転させて見せる。

 相変わらず、手も使わずに鉄球が動き、回転していく様子は本当に魔術のようにしか見えない。

 

「回転させると、振動が起こる。その『波紋』で色んな効果が起こせる。あの時は振動の機微で周囲の状況を読み取ったんだ。そうしたら方陣の足りない部分がなんとなく分かったってだけで」

「今、こうやって見ても信じられないよ……魔術以外でこんなことが出来るなんて」

「『人間には未知の部分がある』。魔術しかり、技術しかり……案外、超常的な現象もやろうと思えば簡単に起こせるのかもしれない」

 

 あの時、回転させた鉄球を携えて現れた男のことを思い出す。『人間には未知の部分がある』。これもあの男の言葉だった。

 ルミアも、その言葉を感慨深そうに聞き入って。

 

「うん、そうかもしれないね」

「今度はこっちの質問。さて、グレン先生に何を言ったんだ?」

「えっとね……私の夢を話したんだ。先生がなんで魔術を勉強しているのか、って聞いてきたから……」

「夢?」

「魔術を真の意味で人の役に立てたい……そのために魔術を深く知りたい……って」

 

 そう、ちょっとだけ照れくさそうにはにかむルミア。

 

「確かに人を殺せるような力である魔術なんて無い方がいい……でも、それが既に()()以上は()()ことを願うのは現実的ではない……だから考えないといけないんじゃないかって。それだけだよ? 私が言ったのは本当に」

 

 ジョレンの顔を見て、疑ってるんじゃないかとでも考えたのか、そうやって弁明らしきものを始めるルミア。

 しかし、ジョレンはその話を聞いて、一人、自分の夢について思いを馳せていた。

 リリィの足を治すために法医師になる。別にその夢に不満があるわけではない。それを恥ずかしいとも思わないが―――

 

「立派だな、その夢」

「え?」

「俺の夢よりずっと立派だ」

 

 ただ、自分本位な夢でしかない、と思わせられた。ケガのために障害が残ってしまったのを負い目に感じて、それを治したかった。妹の笑顔を見るためにも。それは完全な自己満足(エゴ)であることに違いは無い。

 それに対して、ルミアの夢がとんでもなく立派だと心の底から思っていた。

 そして、そんな直球な褒められ方をして、ルミアは鳩が豆鉄砲を喰らったようにポカンとしてしまっていた。

 

「えっと……レン君の夢って?」

「妹の足が悪くて……それをどうにか治すために法医師になりたかったんだ。だから、グレン先生の授業を受けたかった。あの人が他の講師とは違う授業をしてくれるだろうって、実は分かってたから」

「……」

「だからだよ、こうやってお礼なんてするの。でもどっちも自分本位なもので……だから、ルミアの夢は立派だな、って思っ―――」

「そんなことないよ」

「え?」

 

 途中で遮られて、今度ポカンとしたのはジョレンだった。

 対してルミアの顔は、非常に真剣―――というより、若干怒っているようにも見える。

 

「レン君の夢も立派な夢だよ、妹さんを治すために頑張ってるんでしょ?」

「う、うん、そうだけども」

「じゃあ胸を張っていいと思うよ。自分本位なのかもしれないけど、人のために頑張ってるんだし。それにそんなこと言ったら、私のも自己満足になっちゃうから……」

「う、うん?……うん……それならいい、のかな?」

 

 早口でまくし立てるみたいなルミアの論調に、若干変な声が出てしまうジョレン。

 

「それならよかった」

「はは……まぁ、グレン先生の授業でようやく色々分かってきたから……魔獣学院に入ってからようやく夢に近づけてるわけだし、自分の夢を否定してたわけじゃないよ」

「ん、そう? ……」

 

 そう、苦笑して卵サンドイッチを一つ手に取って、食べ始める。卵の甘みとちょっと塩っけのある調理がアクセントになっていて美味しかった。

 

「あ、そうだ」

「ん?」

 

 その様子を見ていたルミアが、不意に手を合わせて思い出したように口を開いた。

 

「私が法医呪文(ヒーラー・スペル)のこと教えてあげようか?」

「え?」

「他の分野は苦手だけど、法医呪文(ヒーラー・スペル)なら得意だし……どうかな?」

「いや、それは悪いっていうか―――」

「じゃあレン君も私の夢を手伝ってくれる?」

「は?」

「私がレン君の夢を手伝うから、レン君も私の夢を手伝ってくれれば、問題ないと思うけど」

「た、確かに理屈じゃそうだけども」

 

 ちょっと唐突な提案に思考がパニックになりかけるも、冷静に考えていく。

 ルミアの法医呪文(ヒーラー・スペル)の腕前はちょっとしたプロのレベルだと有名だ。確かに手助けしてもらえるなら、これほど頼りになる人もそういない。

 でも、自分は? ルミアの夢を手伝うとして、自分はそれで何が出来るのか?

 

「……でも、俺がどうやってルミアの夢を手伝うんだ?」

「私の夢は一人じゃ出来ないから……魔術が人を傷つけないために考えても、皆が聞いてくれなきゃ意味が無いから。一緒に頑張ってくれると嬉しいの」

「いやでも、システィーナとかいるだろ? 俺より優秀だし」

「私の夢はまだシスティには話してないし、レン君は知ってると思ったから」

「な、なにを……?」

「可能性を信じることを」

「は、はぁ?」

 

 よく分からない、という顔のジョレンを見て、微笑み、鉄球の方に視線を向け。

 

「5年以上もかけて覚えたその『技術』...出来ると信じてたんだよね? 信じてたから、5年も頑張れたんだよね?」

「……」

「もし、私が途中で夢を投げ出しそうになった時に、可能性を信じることをまた教えてくれたらいいな、って今さっき思ったの」

「……多分、お前は投げ出すような奴じゃないと思うけど」

「あはは、そう言ってくれるのは嬉しいけど、絶対はやっぱり無いから」

 

 ルミアの視線を追いかけるようにして、自分の鉄球に目を移すジョレン。

 当初はどうやって回しているのか見当もつかず、手あたり次第に試していった記憶は、未だに残っている。

 出来ると信じていた……確かにそうだ、と、ジョレンは今ルミアに言われてようやく気付いた。

 そして、微笑んでいるルミアの顔をしばらく見て。

 

「まぁ……お前が俺で良いって言うなら、手伝うよ」

「本当に?」

「あぁ、その代わりこっちも手伝ってもらうから。まぁ一緒に、な」

「ふふ、ありがとう、レン君」

「最初はこっちがお礼しに来たはずなんだけどな……」

「あ、そういえばそうだったね。お昼ごはん食べないと……いいかな?」

「そりゃ当然」

 

 包みごと、サンドイッチをルミアの方にも寄せると、ルミアがトマトサンドイッチを取って、嬉しそうに食べ始めた。

 

「あ、これ凄く美味しいね……レン君、料理出来るんだ」

「家で作ってるの俺だしな。まぁ、遠慮なくどんどん食ってくれ」

「うん! レン君もたくさん食べないとダメだよ?」

「そりゃもちろん食べるよ」

 

 そうして、しばらく二人でサンドイッチを食べる。喋っている時間が長くて、昼休みの時間が消費されたので、気持ち早めにだが、サンドイッチの味が良かったこともあって、すぐに無くなってしまった。

 爽やかな風が吹く中、食べ終わって重しが無くなった包みが飛ばされないように、すぐにたたんでしまい込むジョレンに、ルミアが笑顔で。

 

「これからよろしくね? レン君」

「あぁ、一緒に、だろ? よろしく頼む、ルミア」

 

 二人して言い合ってから、授業のチャイムが鳴る前に、教室へ戻っていった。

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