ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

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第七話 「『約束』のために死闘へと赴く」

 打ち付けられた身体中が痛い。全身がバラバラになりそうだった。

 少し動かそうとしただけで激痛が走り、脳がやめろと叫んでくるようだった。

 

『諦めるのか?』

 

 微睡むような意識の中で、誰かの声が響いてくる。

 

『諦めるなら諦めるならいいけどよォー。迷惑にならない形にしてくれねぇか?』

 

 男の声だ。その調子は飄々としているようで、どこか芯の通った、不思議な声だった。

 頭の中に風景が浮かんでくる。そこは裏路地で、ところどころに血が飛び散っている。

 そんな中、妹を背負っている自分と、二つの『鉄球』をその手に持った男がいる。

 男は、少しうんざりしたような、それでも、しっかり見れば、心配してくれているような、中途半端というよりは、その両方ともとれる不思議な表情をしてこちらを見ている。

 

「だって……そんなこと、でき―――」

『まさか出来るわけがない……なんて言うんじゃねぇだろうな?』

 

 男は読心術でも、超能力でも持っているのか、自分が言おうとした言葉を簡単にさらって先に言葉へと変えてしまった。

 不意に膝をつき、顔を自分に近づけて、男は更に言葉を続ける。

 

『分かってるのか? 出来るわけがない、は―――』

「四回、まで……?」

『……お前』

 

 男が怪訝そうな顔をして、こっちの顔を覗き込んでくる。

 しかし、一番不可解に思っていたのは自分自身だった。

 なんで、その言葉を知っている? だって、初めて教えてもらったのは、この時だ。言われる前に知っているはずがない……

 あるはずのない矛盾した記憶の中、男はもう完璧にうんざりした様子で頭を掻きむしりながら立ち上がって。

 

『分かってるなら、さっさと行きやがれ』

「俺は……」

『行くんだ、ジョレン=ジョースター。今、教えることは何もない』

 

 その言葉と同時に、男の姿も、周りの情景も全てが蜃気楼であったかのように崩れていく。

 

「……はい、ありがとうございました」

 

 これは現実ではない。自分が見ている夢なのだろう―――

 それは分かっていたが、不意に口から漏れ出た。今は記憶に無くても、あの時に言えなかった感謝の言葉が―――

 

***

 

「クソ……あの夢は、確か……つーか痛ぇ……」

「「「ジョレン!?」」」

 

 既に生徒全員が魔術的な拘束を受け、何もできなくなっている中、【ライトニング・ピアス】を受けてなお、立ち上がったジョレンに全員が驚愕の声をあげた。

 ジョレンの身体は至って無傷だ。壁に背中を打ち付けた衝撃で気絶しかけていたが、外の情報も朧気ながら覚えていた。

 そんな中で、一番鮮明に覚えていたのは、最後に聞いたルミアの声だった。

 

「あいつ……何が『ごめん』だ……なんでお前が謝る……」

「お、おい……ジョレン、大丈夫なのかよ……?」

「あぁ、この通り、死んでない」

 

 心配そうに声をかけてくるカッシュに、腕を回して見せるジョレン。

 かなり痛むが、動きに支障はない。走ることも出来そうだった。

 そして、立ち上がった瞬間、床の方から何かがジョレンに向かって飛んでくる。

 回転した鉄球だ。何も操作していないのに、自動的にジョレンの手に収まるように飛び戻ってきた。

 

「……」

 

 しばらくの間、手に収まった鉄球を見つめ……そして、教室の扉に手をかける。

 

「じょ、ジョレン……? どこに行くんだよ……」

「ルミア……とシスティーナを連れ戻しに」

「む、無理だろ!? 相手は軍用魔術を使うテロリストなんだぞ!? 絶対に殺される!」

「かもな……これもどこまで通用するやら、だし」

 

 手元で鉄球を弄って見せるジョレン。だが、誰も鉄球の効果など知らない皆に対しては、何の安心も与えることは出来ない。

 

「でも行かなきゃいけないんだよ」

「ど、どうして……そこまでして……?」

「ちょっとした『約束』があるってだけだよ、本当にそれだけ」

「は、はぁ?」

 

 そんな困惑の声を無視して、扉を開け、走り去っていくジョレン。

 

「お、おいッ!?」

「戻ってくる、きっと戻ってくるから」

 

 みんなの声を背中に受けながら、そう言い残し、廊下を走っていく。

 相手がどこに向かったのかは分からない。しかし、それでも見つけるために走っていく。

 

(ルミアの奴……自分のせいで俺が攻撃されたと思って、謝ってきやがった……)

 

 あのテロリストが来たのは、確かにルミアが目的だったからかもしれない。だが、それは違う。自分が攻撃したからだ。攻撃したから、反撃を受けてこんなことになったのだ。

 

(一緒にやろうって先に言ったのはお前だろ……!)

 

 その『約束』だ。これが大事なんだ。約束は『神聖』なものだ。それを反故にされても構わないが、それが自分の意志でない、強制的なものであるというのなら―――ただ強大な力に流されて反故にされるのだけは我慢ならない。ルミア自身の意志でないというなら、何度だって再度約束しに行ってやる。

 その思いがジョレンの中で『覚悟』となっていく。約束が反響するたびに、決意となっていく。

 そして、それと同時に一つだけ分かったことがある。

 

(あいつはいい奴なんだ……どこまでも良い奴だ。それだけは決して変わらないことがハッキリした。あの時、追撃を喰らいそうだった俺を、自分の命を賭けた脅しまでして助けた……俺はそれで逃げることだってできる。俺を逃がそうとしてくれていた)

 

 だが、それとこれとは話が別だ。ルミアに引けない一線があるように、ジョレンにも確かにそれがあった。

 

「これからお前のもとに向かうッ! 夢を叶えるまでずっと一緒だッ! 互いの夢を絶対に叶えるまでッ!」

 

 夢を叶えるための『約束』。

 始めて他の人から交わしてほしいと言われて交わした『約束』は、他の人が思うよりもずっと大切なものだった。

 

***

 

 ジョレンが行動を再開してから、数分が経過している。

 しかし、相手の姿を再補足することが未だに出来ていない。どういったルートを通ろうとしているのか全く分かっていないのだから、しょうがないとも言えるが。

 

「まずい……このままルミアをどっか手の届かない場所に連れていかれたら、どうしようもない……ッ」

 

 そもそも相手の目的が分からない。なんでルミアを誘拐した? なぜ殺害が目的ではない? 様々な事が開示されていない状況下で相手を追うことがどれだけ成功確率が低いのか、改めて思い知らされることになった。

 時間が経つほどに増していく焦燥に駆られ、再び駆けだそうとしている中で。

 

「その心配の必要はないな」

「ッ!」

 

 声がした方向を見れば、そこには教室での騒ぎの時にいた男の片方、ダークコートを羽織った男が立っていた。

 その眼はどこまでも鋭く細められており、ジョレンのような学生相手でも油断をしていない証明でもあった。

 

「まさか、ジンの【ライトニング・ピアス】を喰らって生きていたとはな……魔術的防御を構えていた形跡もなかったが、どうやった?」

「ふざけたことを聞いてんじゃあないぞ。教えるわけがないだろう」

「ふん、確かにな。今から殺す相手が生き残った術を聞いてもしょうがない、か」

 

 そう言うや否や、男は左手の人差し指をジョレンに向けた。

 それに反応して、ジョレンも腰につけた鉄球をすぐさま取り出し、構えて。

 

「《雷槍よ》」

「おらァッ!」

 

 男が【ライトニング・ピアス】の呪文を唱えるのと、ジョレンが鉄球を投げるのはほぼ同時だった。

 次の瞬間、雷閃と鉄球が真正面からぶつかり、火花を上げ散らかした。

 

「ふん、鉄球ごときがなんだと言う。【トライ・レジスト】でも付呪(エンチャント)してなければ、貫通して終わりだ」

 

 しかし、ギャルギャルギャルギャルギャルギャルと凄まじい音を立てて回転し続けている鉄球は貫通する様子が全然見当たらない。

 拮抗している。ただ投げただけの鉄球が軍用魔術と拮抗していたのだ。

 

「馬鹿な……!?」

 

 そして、バチィッ!!という音と共に鉄球も【ライトニング・ピアス】も両方弾かれた。鉄球は床へと叩きつけられ、【ライトニング・ピアス】は軌道が上へと逸らされ、天井に穴を開けるだけの結果となった。

 ダークコートの男が呆気に取られている中、床に叩きつけられても、静かに回転していた鉄球が、不意にジョレンの元へと戻っていき、それをパシィ、と受け止めていた。

 

「なんだ、その鉄球は……? どんな魔導機だ……!?」

「ふっ―――!」

 

 驚く男を後目に再び鉄球を投擲するジョレン。

 今度は何の障害もなく、真っすぐに男へと向かって行って。

 

「《大気の壁よ》―――ッ!」

 

 咄嗟に唱えられる黒魔【エア・スクリーン】。空気膜の障壁が男を中心に展開され、飛んできた鉄球をすんでのところで空気圧によって押しのけられるが、膜の外側で凄まじい回転を継続しながら、べったりと張り付いているようにも見える。

 鉄球が向かって行く力と【エア・スクリーン】の弾こうとしている力が均衡しているのだった。

 

「回転か……? この回転が原因なのか? この回転の力で弾いたり、食い込んだりしているというのかッ!?」

「うおおぉぉ――――――ッ!」

 

 驚愕に目を見開いている男に向かって、突進するように距離を近づけていくジョレン。

 パシュッと鉄球が右手に戻ってくると同時に、今度は更に近い距離から投球フォームへと移行する。

 

(俺の鉄球の撃墜飛投距離は本家の半分にも満たない……5~6メトラ、いや7メトラまで近づかなければッ!)

 

 それが最低限、相手を一撃で気絶まで持っていける距離。その有効射程距離までに近づかなければ絶対に勝てない。

 そして、目測6メトラ。ここからならいける―――

 

「させるか……《炎獅子よ》―――ッ!」

「ッ!? この―――まだッ!?」

 

 一節詠唱で放たれる黒魔【ブレイズ・バースト】。火球が着弾した部分を中心に、周りにダメージを与える、高威力の無差別範囲呪文。

 至近距離で対抗呪文(カウンター・スペル)無しで喰らえば、助かる可能性はほぼ0だ。それに周りに逃げ場がない廊下内―――躱すことはできない、防ぐしかない。

 それを悟ったジョレン、振りかぶって投げようとしていた鉄球を急遽、胸元まで持ってきて、それを両手で擦るように回転させ―――

 

「巻き込め―――」

「ぬッ……!?」

 

 瞬間、鉄球を中心に猛烈な空気の流れが出来る。それが【ブレイズ・バースト】の熱を遮り、威力を流れで巻き込み、乱気流に揉まれ吹っ飛ばされる気球のように、火球を圧倒的な気流によって散らしてしまっていた。

 ちょっとした熱は受けたようで、反射的に汗などをかいたようだが、実質的なダメージは0に等しいようだった。これには、流石の男も絶句するしかない。

 

「【ブレイズ・バースト】まで防ぐだと……!? なんだ……? それは一体なんだッ!?」

「『技術』だ。あんたには到底理解できない、な」

 

 言いながらジョレンは密かに勝機を見出していた。

 

(相手の呪文は全部防げる……! そしてこの距離ッ! いける、このままぶち込めるッ!)

 

 そのまま、相手のマナ・バイオリズムが整う前に鉄球を振りかぶり―――

 

「喰らってくたばれェッ!」

 

 投げ放たれた鉄球が回転によって生じた風圧を伴いながら、男の顔に向かって肉薄していく。

 

「『技術』か……なるほど、大したものだ」

 

 しかし、それがあと数十cmという状況になってから、男から驚愕も焦りも消え去った。

 

「確かにこれは、少し本気を出さねばならんか」

「は……?」

 

 そう言うが早いか、突如男の背後から、何かが前方に滑り込んできて、鉄球を弾き飛ばしていた。

 無論、回転の力によって、滑り込んできた何かも弾かれたが、ジョレン渾身の一撃が防がれたことに変わりは無かった。

 すぐさま戻ってきた鉄球をキャッチすると同時に、鉄球を弾いたものの正体が明らかになった。

 

「剣……? 浮いてる、しかも五本も……!?」

 

 宙に浮く剣の魔導機。自立して動く形でもあるのか、魔力増幅回路が組み込まれているようで、圧倒的な魔力が漲っているのが分かる。

 そして、鉄球を弾けるほどの質量と、咄嗟に防御に入れるほどの速度。しかも一本ではなく五本も起動しているこの状況。まず間違いない、まずい。一気に状況を逆転させられてしまった。これでは鉄球一つでは考えるまでもなく手数が足りない。押し切られるのが目に見えていた。

 

「さぁ、第二ラウンドと行くぞ、少年魔術師。さばききれるか?」

「くッ―――!?」

 

 鉄球を構える。構えながら打開策を考える、が―――

 

(ど、どうすれば……!? どうすれば相手に一発でも叩き込め―――)

「行け」

 

 考える時間は与えないと言わんばかりに、男の言葉を皮切りに一斉に向かってくる五本の浮遊剣。

 一本、先んじて突っ込んできた浮遊剣に、右手のひらで回転させた鉄球を直接押し付けるようにして防御する。

 

「グァッ!?」

 

 一瞬、火花が飛び散るが、すぐに衝撃によって、剣も鉄球を持ったジョレンの身体も弾かれ、後退させられる。

 その隙を逃さないとばかりに、今度は二本の剣が、左右から迫ってくる。

 左右からの同時攻撃に、一つしかない鉄球では防御しきれない。すぐさま、後ろに飛び下がるようにして、切りかかってくる剣を躱す。しかし、またその次に、残りの二本の剣が飛び掛かってくる―――

 

(だ、ダメだッ! 後ろに下がらなきゃやられる!? 距離を離されてしまうッ!?)

 

 もうとうに男との距離は、鉄球の撃墜飛投距離の外だ。ここから投げてもし当たったとしても、致命的なダメージにはならない。逆に防御手段を失ってジ・エンド確定だ。

 

「く、クソッ!」

 

 更に一歩下がって、上から振ってくるように飛んできた剣を避ける。避けられた剣が抉るように地面に突き刺さり、破片が周囲に飛び散った。

 

「こ、これしか―――」

 

 自分目掛けて飛んできた破片を、左手で咄嗟に掴み取り、すぐさま回転を加える。

 次々飛んでくる浮遊剣による波状攻撃。さばききるには武器が二つ以上ないと不可能に近い。苦肉の策というほかは無かった。

 今度は、左から横なぎに切りかかってくる剣を回転させた破片で受け止める、が―――

 

「―――ッ!?」

 

 回転していた破片に、剣が食い込んで、一瞬で回転が止められてしまう。そのまま、剣が破片を左手のひら諸共切り裂いた。

 凹凸(おうとつ)の多い破片では回転が不完全で、力が発揮しきれないのだった。

 

「クッ―――うおおぉォ―――ッ!」

 

 だが想定内―――手のひらが切り裂かれたことによって、出血している。その傷の部分を右手で持っている鉄球を回転させて押し付けた。すると、回転の力によって、流れ出た血が男の方向かって勢いよく飛び散った。

 

「ぬっ!? き、貴様、小細工を……!?」

(い、今だッ!?)

 

 剣の操作に気を取られていたのか、それとも剣自体が死角になったのかは知らないが、飛び散った血は男の眼に直撃し、一時的に視界を奪う。

 それを好機と見て、一気に距離を詰めるジョレン。相手の視界を奪った今、浮遊剣による迎撃は正確性を失った―――この一瞬の隙に相手の懐にまで詰め寄り、鉄球を喰らわせる―――だが。

 

「え……?」

 

 動かなくなったのは、五本の浮遊剣のうち、二本だけだった。残りの三本はさっきと変わらない動きを継続している。そのうちの一本が今まさにジョレンに刃を振り下ろそうとしていた。

 

「まさか、自動なのか……? この三本―――」

 

 ジョレンが言い終わらないうちに振り下ろされる剛速剣。咄嗟に身を捻って躱すも、やはり残り二本の剣が追随してくる。

 

(や、やられた……!手動のは二本、自動が三本だと……!?全く気付かなかったッ!)

 

 歯噛みしてももう遅い。見れば、男はもう血を拭い終えたようだ、ジョレンの方を忌々し気に睨んでいる。そして、視力が回復したということは、せっかく封じた二本の手動剣も機能を回復したということだった。

 

「ぜ、全然近づけないッ!」

 

 勢いを増す、五本の浮遊剣による波状攻撃。後退しながら躱し、躱しきれない剣は鉄球で弾く。しかし、その戦法は必ず終わりを迎えることを、ジョレンは嫌という程理解していた。

 

「あっ……」

 

 背中に何かがぶつかる。

 見るまでもない、壁だ。袋小路だ。廊下の終わり、逃げ場の終着点。

 これ以上後退することは出来ない。後退することが出来ないということは、今まで後退することで何とかさばいていた相手の攻撃を、もうどうすることも出来ないということだ。

 詰み(チェック・メイト)に嵌まってしまった。

 

「手こずらせてくれたな……」

 

 男が忌々し気な声音でそう言うと、浮遊剣が逃げ場のないジョレンを取り囲むような位置で待機する。例え、ジョレンがここからどんなアクションを取ろうと、必ず仕留められるような、完璧な位置取りだった。

 

「貴様の名を聞いておこうか、少年魔術師」

「……ジョレン=ジョースター」

 

 酔狂か何かか、それとも自分をてこずらせた相手の名前でも憶えておこうというのか、男の言葉に従いながら、ジョレンはどうにか、この浮遊剣の包囲網を突破する方法を必死に考えていた。

 一本目は避けれる。二本目は鉄球で弾ける。三本目は左手を切り落とされる覚悟で行けば、まだ死なずには済むだろう。じゃあ四本目は? もしいけても五本目は?

 ……無理だ、抵抗しきれない。どんな手を打っても、体の部位一つ二つを犠牲にする覚悟で特攻しても、必ず最後の剣で心臓を貫かれるだろう。

 

(やっぱり無理だったのか……? 俺じゃあ……)

 

 悲壮感が心を縛り付けてくるなか、包囲していた剣がゆるりと動き出して―――

 

「さらばだ、ジョレン=ジョースター。強き少年魔術師」

 

 鉄球を持っていない左側―――一番左端に浮遊していた剣が逆袈裟の形で斬りかかろうとする―――

 

(クソッ! すまねぇ、リリィ、ルミア、システィーナ……!)

 

 心の中を悪循環する負の感情のせいで、目をつぶってしまうジョレン。

 恐怖というよりは罪悪感、無力感によって取った無意識の行動だったが、ジョレンはそんな自分が猶更情けないと思った。

 だが―――

 

「あれ……?」

 

 ガキィンッ!と何かが弾かれる音が不意に響いた。

 そして、その後、衝撃が来ない。痛みも。

 不思議に思って、恐る恐るつぶっていた目を開けるジョレン―――

 

「な……なんだ? それは……一体……?」

 

 そこには、今までの中で一番、驚愕に目を剥いている男の姿と今まさに斬りかかろうとしていた左端の剣が弾かれていたところだった。

 見れば、男の視線は自身の下の部分に向けられている。

 それにつられるようにして、ジョレンも下の方に視線を向ける―――

 

「な、なんだこれ……!?」

 

 そこには、自分の右足の中から飛び出した『ミイラ化した足』があった。

 まるで自分の足が抜け殻みたいにめくれて、その中にミイラの足が入っていたのだ。しかも、自分の足を突き破られているはずなのに痛みも感触もまるでない。

 

「こ、これは……あの時の!? 道具保管室で見たミイラの足なのか!?」

 

 しかし、それしか考えられない。この既視感を持つ足を見たのは道具保管室以外にはなかった。

 一瞬だけ現れて消えたと思っていた、あれは幻覚ではなかった。自分の足の中に入っていたのだ。だから消えたように見えていた。

 パニックに陥りかけるジョレンの思考だったが、それを引き戻したのは、一つの声だった。

 

『チュミミィ~ン』

「は……?」

 

 すぐ横からだ。甲高い鳴き声のようなものが聞こえる。

 ほぼ放心状態のまま振り向いてみると、そこには謎の生物が浮かんでいた。

 全身はピンク色、短い尻尾に、その周りにはハートマークをかたどったような装飾。普段なら口があると思しき場所にはトゲが生えており、全体的にウーパールーパーを彷彿とさせる雰囲気があった。

 だが、何一つ状況が把握できない。こいつが現れたのはなんでだ? そしてなんで攻撃を弾けた―――

 その思考に正解を教えるかのように、自らの手からシルシルシルシル……と何かが回転している音が耳に入ってくる。

 

「な、こ、これは……!? い、一体、何が回転しているんだッ!?」

 

 見れば、自身の手の指の上で何かが回転している。右手は5個、左手には4個ついており、何故か左手の小指だけはそれがない。

 いや、ただ無いだけじゃない。何故か小指だけ本来あるはずのものが無くなっていた。

 

「まさかこれは……そうなのか? まさか―――」

 

 しかし、もう疑いようもなかった。

 爪だ。自身の爪が円盤のように回転してそこにあったのだ。

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