漆黒の妖狐   作:千本虚刀 斬月

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シンセイタン

 羽衣狐と呼ばれた大妖狐が居た。

 

その狐はかつて宇迦之御魂神の使徒として『葛の葉』と名乗った。

 

宇迦之御魂神とは、日の本の國における五穀豊穣の女神。葛の葉はかつてはその最上位眷族であった。

 

そんな天狐が道理から外れ、大妖怪 羽衣狐として幾度の憑依転生の果てに『死』の真理に致ろうとは。

 

だが『世界』はそれを許容することは決して無く、拒絶した。そして、羽衣狐の魂魄を内側から弾き出したのである。

 

 

 

 そして、弾き飛ばされた羽衣狐の魂魄は、次元の狭間を漂い、とある世界へと流れ着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 羽衣狐は今生においても再び妖狐として産まれ落ちた。前世については、覚えて居ない。

 

両親は妖狐の中では末端程度の格であり、地方にある決して大きいとは言えない稲荷神社の管理を任されて居る、人間で例えるなら派遣社員くらいの地位で、裕福とは言い難い。正直、出世の見込みは薄い。

 

そんな壮年の夫婦の間に漸く授かった女児である。二人は愛娘に羽衣(はねい)と名付け、宇迦之御魂神に加護を嘆願した。唯、健やかなる成長を。

 

 

両親から見て、羽衣は幼少期から既に容姿端麗で文武両道、直観に秀でていて勘も鋭かった。両親揃って親バカ全開で可愛がる毎日であった。

 

だが同時に、妖としての負の側面に飲まれかねない危うさも度々見受けられた。獲物を弄んで嗤う、闇の化生としての側面。両親はそこだけが心配であった。

 

そんな愛娘の10歳の誕生日。学校から帰ってきた羽衣は白黒2匹のネコを連れていた。しかも、唯のネコでは無く、猫又の中でも希少な猫魈と呼ばれる存在だった。

 

話によれば、このネコは姉妹であり、両親は死んでしまったため身寄りが無い。黒猫の方は、名を黒歌と言い、羽衣と余り変わらない年である。白猫の方は、名を白音と言い、未だ5歳と幼い。

 

両親は愛娘の滅多に無い『お願い』を承諾。寧ろ、喜んだ。この娘は一人のままでは、いつかきっと闇に飲まれる。両親は常々その危惧が拭えなかった。恐らく、娘には守護るべき存在が必要なのだ。

 

しかし、その判断は最悪の事態を招く結果になるのだった。

 

一同はその運命を、未だ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界には異形種が数多存在している。妖怪を筆頭にした魑魅魍魎、須弥山に住まう仏達、世界各地で信仰されている神々、伝説に謳われる英雄の子孫、無辜の民草に災禍を撒き散らす存在として討伐された怪物。

 

そして、聖書に記載されている天使、堕天使、悪魔の3大勢力。数百年前に世界規模の大戦争を引き起こし、数え切れないほど多くの者達が死んだ。本来なら頂点に君臨し続けるべき(ヤハウェ)4柱の魔王(サタン)すらも、である。彼等は勢力の維持は疎か、存続すらも危ぶまれる事態に陥ったのだった。

 

そこで悪魔が苦肉の策として悪魔の駒(イーヴィル・ピース)なる極めて特殊なマジックアイテムをつくり出した。コレを使えば、純粋な神仏は不可能だが、それ以外の他種族を眷属として悪魔転生させられるのである。上位の悪魔には元から高慢な者が多かったが、より拍車が掛る事になってしまう。中には本人の了承を得るどころか、力尽くで強引に転生させて、呪いで縛って服従させる下衆な輩まで居る始末。おかげで、今や悪魔は各勢力から蛇蝎の如く忌み疎まれていた。

 

────そう、例えば()()()()()()・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍福は糾える縄の如し。

 

災いと幸福は表裏一体で、まるでより合わせた縄のように代る代るやって来るもの。不幸だと思ったことが幸福に転じたり、幸福だと思っていたことが不幸に転じたりする。成功も失敗も縄のように表裏をなして、めまぐるしく変化するものだという。

 

物事は、些細な切っ掛け1つでいとも容易く反転してしまうものであるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 災禍というものは、何時も唐突に訪れる。そして、往々にして血の臭いを伴って、幸せな日常を塗り潰す。

 

その日、羽衣はいつも通りに学校から帰ってきた。だが、自宅の神社に近付くにつれて違和感が生じ出す。いつもなら出迎えてくれる黒歌と白音が、今日はその気配が無い。

 

家が見える位近くになると、嫌な予感はもはや確信に変る。家族の血の臭いが微かに漂ってきたのだ。必死になって縺れそうになる足を前に進めた。

 

漸く辿り着いた羽衣が見た光景は、俄には信じ難いものであった。

 

押し込み強盗(上級悪魔)に因る、正に犯行の瞬間であった。両親が惨殺され、親友であり妹でもある2人を誘拐されようとしている。

 

「・・・あ゛っ嗚呼、アアアアア!・・・ウア゛ア゛ア゛アアァァ!!」

 

その光景を見せ付けられた羽衣は絶望し、怨嗟と憎悪にによって染まる。無明(くろ)く、暗闇(くろ)く、真黒(くろ)く。

 

そして羽衣は羽衣狐だった記憶を取り戻した事で完全覚醒した。

 

否、してしまった。

 

敵意を感知し自動迎撃する10本の尾、周囲の者達が無明の深海に放り込まれたと錯覚する程に濃く重い妖気、狐尾の中に仕込まれた幾つもの武器、『鬼道』なる未知の術式。そして、()()()()()()()()()()()()()()()

 

黒瞳が極彩色に輝き、その眼には『死』が映る。

 

────嗚呼、世界はこんなにも『死』に満ちている。

 

 

 

 

 

 

 傲慢なだけの低俗な賊の末路など語るまでも無いだろう。

 

「そう言えば、前世でも切っ掛けは権力に溺れ欲に塗れた者共だったか。せっかく異なる世界に生れ直しても、結局は()()()()のか。まったく、我が事ながらつくづく業が深いものよ。だが」

 

重傷を負わされた黒歌と白音を『回道』で癒しながら、前世について語り聞かせる。

 

今生の両親を手厚く弔い、そして黒歌と白音に言い放つ。

 

「妾に着いて参れ!征くぞ!!」

 

 

 

 




勢い良く格好付けたものの、ぶっちゃけノープランだった羽衣狐様(ノ≧ڡ≦)
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