コカビエルの聖剣騒動から幾何かの時が経過し、夏の季節に差し掛かっている。
聖書の3勢力は何処も会談のための準備に追われ大忙しらしい。
会場が駒王学園ということで、リアス・グレモリー眷属とソーナ・シトリー眷属も、様々な雑事に動き回っている。
主な下準備を終えたら、来日してくる各上役の案内や接待で不備や粗相をしないようシミュレート。
名門での上級悪魔で、魔王の妹で、曲がり形にも土地の管理者として、やるべき事は多い。それでもまだ学生と言う事で、仕事量は忙殺とは程遠い分量だ。
そんな悪魔共を尻目に、安倍家はプチバカンスとして海水浴場に訪れている。
羽衣狐は黒のビキニに薄いレースパレオと麦わら帽子、黒歌は黒のマイクロビキニの上に薄地の白Tシャツ、両者ともに自身のスタイルと美貌に自信があるため何憚る事無く堂々としている。白音と清芽は競泳用にフィンとシュノーケル、だがその所為でメリハリのきいたボディラインが浮き彫りになっている。女性陣揃ってスタイル抜群の美形故に人目を惹いて止まない。
当主にして保護者の清明はブーメランパンツで流石に何時ものUMAに騎乗していない。
ここは安倍家の保有するプライベートビーチでは無い。やや時期尚早ではあるが、一般の海水浴客も少ないながら居るのだ。人化擬態が出来ない、一目で人外と分る異形の連中は連れてきていない。
まだ本格シーズンでは無いのと、異様な風体の野郎共の御陰なのか、
このまま何事も無く・・・そう考えていた時期があった。
女性陣が着替えている最中に、唯一の男である晴明が大きめのパラソルと折りたたみのテーブルとイス、浮輪やビーチボール等の準備も一通り終える。
皆揃って、軽くじゃれ合い、さあ、遊ぶぞ!と言うところで突如発生した濃霧に包まれる。即座に集合し、戦闘態勢を整え、堅固な結界で守護る。
霧が晴れた時には何処かに転移させられ、大量のゴミクズが群がってきた。
一応は悪魔のようだが、もはや原形を留めていない。多種多様な生物が不規則に入り交じって、オーラもヘドロの様に濁っている。自我も崩壊しているのか、呻くぐらいで意志の発露が見られない。まるで、拉致だか売買だかで調達して、無理矢理に強化して使い捨ての尖兵に仕立て上げられた様な有様。
そして、我こそが指揮者と言わんばかりに舞い降りてくる男。
慇懃無礼な態度と、侮蔑と嘲弄の混じった言動。そして、卑屈さが滲み出ていた。
「お初にお目に掛かる。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『
どうでもいい御託を並べている間に羽衣狐と黒歌と清明が結界の解析を試みるが、揃って結果はエラー。
ソレを見て勝ち誇るクルゼレイだが
「隙だらけです!」「ですわ!」
清芽の呪法と白音の冷刃が炸裂…する直前にオーラを爆発的に開放する事で難を逃れる。
成程、圧の強さといい、密度といい、質といい、コカビエルに勝るとも劣らぬだろう。
つまりは、
「呪層界・怨天祝奉――縛道の六十一・六杖光牢」
存外、清芽も生長しているものだ。
「いきます!最大級の――断瀑!!」
必殺に足る筈の大洪水は、突如海中から飛び出した海竜によって阻まれた。
そして、クルゼレイを守護るように立ちはだかる褐色肌に眼鏡の女悪魔。凄まじい形相で睨み付けてきた。
「キメラ共!!行きなさい!!」
寄って集って来たキメラ群に、羽衣狐の10尾が迎撃。急所と思われる部位を吹き飛ばすが、穴を埋めるカタチで他生物のパーツが生えてきた。頭部を吹き飛ばしても頸から即座に蟒蛇が生えてきたり、千切れ飛んだ腕から毛深い蹄が複数生えてきたり、と言った具合だ。増殖能力とは、無駄に手間取らせてくれる。
一秒程度の隙に、女悪魔とクルゼレイは濃霧に包まれ、戦場から消失していた。逃げ足だけは一級品と認めざるを得ない。
残っている雑魚の掃討については特に問題ない。増殖能力が意味を成さない攻撃も、増殖能力を凌駕する速度と規模の攻撃も、手段は揃っているのだから。
一行は全員無事に元の海水浴場に帰還。最後は虚化した羽衣狐の
「まったくも~~!せっかくのいい旅夢気分が大にゃし!!」
「うむ。次に会った時は、八つ裂き程度では飽き足りぬなぁ?」
「なんたる非道!!高貴なる者にあるまじき行いですわ!!」
「もうお昼。疲れました・・・お腹が空きました…」
等々、せっかく盛り上がって居た楽しい気分に水を差された事、非道な所行に対する不快感、肝心の敵を逃がしてしまった事、心身の疲労と空腹によるイラつき、様々の不満が愚痴となって噴出している。
その間に晴明は、先の戦闘記録にクレームを添えて悪魔陣営に送付を行う。
元はと言えば、現悪魔陣営の政権奪取の際の詰めの甘さと、その後のどっち付かずな中途半端な対応が原因と言える。此方は飛び火を受けた様なものなのだから、多少の文句も言いたくなる。
置き去りにしてしまっていた貴重品やらの荷物等は無事で、皆が安堵し着席する。
「まあまあ、落ち着くが良い皆の者。一先ず、昼餉にしようでは無いか。腹が満ちれば、多少は気も収まろう」
ついでにちゃっかり海竜のテイムに成功していた清明は、大きめのクーラーボックスから弁当を取り出し、テーブルに狭しと並べていく。
メニューは稲荷寿司(プレーン、枝豆+ひじき+鶏挽肉、生姜+鮭フレーク+白ごま)、厚焼き玉子、鶏もも唐揚、トマトとオニオンのサラダ、カットフルーツ盛り合わせ、アイスハーブティーor
わいわいと賑やかに全てを食べ終え、気を持ち直し意気揚々な一行。特に羽衣狐は何時もより趣向を凝らした稲荷寿司でテンション回復していた。
そもそも、今日の目的はバカンスだ。しっかり気分を切り替え、享楽に興じるべきだろう。端末が振動し、通知表記に魔王の名が表示されようと、もう知らぬ。今日はもう仕事の話はしない、考えないと決めたのだ。
清明筆頭に白音と清芽はシュノーケリング、黒歌はボディボードで果敢に波を攻めている。浜辺に残ったのは羽衣狐は、初夏の浜辺と潮騒と蒼穹を肴に、キンキンに冷えたリモンチェッロを堪能する。