当然ながら、妖怪であろうとも衣食住は必須である。だが実家でもある稲荷神社にこのまま居続けるのは、
いくら羽衣狐として覚醒したとしても、肉体が未成熟故に、虚化による全力解放や『死』の権能は過負荷が甚大である。黒歌と白音も居る以上、無茶は出来ない。
しかし、残念ながら悠長に考えていられる暇は無さそうだ。
先程撒き散らしてしまった霊圧に引き寄せられたのか、
この家を捨てざるを得ない、と判断した。
何時だったか
つまりは、力ばかりで技術が成っていない、未熟の証明であると。もっとも、霊力とは魂魄が恒常的に発し続けるものであり、その力が強大で濃密なほどに制御も困難なものとなる。
妖怪とは畏れられる程に存在力が増す。しかし現状においては、3人共が未成熟であり、手勢も居らず、この世界における異形共の諸々の情報がまるで足りていない。そんな状態で悪戯にチカラをひけらかすのは、流石に愚行と言わざるを得まい。
今は潜伏して力を蓄える事を優先すべきとして、先ずは自身の力を磨く事に専念したのだった。
羽衣狐はコントロールを完璧なものとしエネルギーのロスや身体への負担を最小限に留め、攻撃の際ですら僅かも余す事無く使い熟す事で、オーラを漏らさない様にした。とは言え、虚化時には制御が若干甘くなるという欠点もあるのだが。
黒歌は多重障壁を常時展開する事で、隠形と防御を同時に為していた。日常的に
白音は仙術を以て、自身の気と自然のマナとの同調させ、隠すのでは無く紛らわせる方向性だ。妖怪が本能として持つ凶暴性が薄く、霊刀・村雨に担い手として認められた白音は仙術への適性も高かったのだ。
数年後、3人は表立って目立つ事無く、しかし充分に強くなっていた。
それも
この世界における安倍 晴明の末裔達にして、当代でも有数の魔獣使いの家系、安倍一族。狙って会いに行ったわけでは無く、偶然の巡り合わせである。ここまで縁が深いとは、因果を感じずには居られない。
今のところ、当主とは対等の契約を結んでいる。衣食住の保証される限り、
この世界の妖怪は、前世の世界に居た
雪女もといイエティのステファニーとクリスティー姉妹。幼年期までは人間と変らない姿形なのだが、第2次成長期を境に、ゴリラになっていく。これには流石に、初めは羽衣狐も驚いたものだ。
人魚にしても、基本的には足が生えた魚である。アレでは人魚と言うより魚人だろう、と思ったが、何とか呑み込んだ。まあ、黒歌は実際にツッコんでいたが。稀にだが、童話然とした人魚も居るらしい。
羽衣狐としても、異形である事には何ら不満や忌避感など無い。前世ではその類いの輩も、配下の中には多く居た。ここの魔物達も、巫山戯ているようで実はハイスペックだったりする。
仮にも拠点としている駒王町には、様々な怪異が跳梁跋扈している。何しろつい最近まで聖書陣営の奴儕が騒がしくしていたし、やっと派遣された管理者も箱入り小娘である。一応は名門出身で現魔王の妹らしいが、過保護に甘やかされてきたのが見て取れた。正直、余り期待は出来そうに無い。
案の定、町の統治は覚束ず、堕天使の小団やはぐれ悪魔などが頻出する有様。その手腕は稚拙であり、一般人に被害が出た後で漸く動き出す、と言った事も。
当然、他勢力からは舐められ、町民や同族の中にも面従腹背の輩は少なからず居るだろう。
例えば、
草木も眠る丑三つ刻。駒王町のとある場所にて、その戦いは行われていた。
一方は、中学生位の3人の男女。『紅髪の
相手は、A級はぐれ悪魔である1人の男。
男の手には、禍々しい瘴気を纏う歪な刃。一度その秘められた能力を解放すれば、持ち主と同一化し、刃そのものと成る。身体硬度は正に鋼であり、身体からは無数の刃を射出でき、掌で触れれば相手のオーラを収奪出来る。しかして、歴代の使い手達を狂気に侵蝕し殺戮に駆り立ててきた、血に飢えた妖刀。
3VS1でありながらも、はぐれ悪魔が優勢だった。木場 祐斗は、唯一スピードで勝っていたものの、攻撃の威力的に決定打には及ばない。姫島 朱乃は、不意を突かれ魔力の大半を奪われた。リアス・グレモリーは、渾身の一撃ならば倒せるかも知れないが、そもそも当らない。
とは言え、圧倒的な差がある訳では無い。はぐれ悪魔とて相当に消耗しているが、誤魔化すのが巧いのだ。あくまで余裕を演じているだけ。しかし、気圧された姫島 朱乃が怯んで生じた隙を突かれ、完全に趨勢は決した。
そこからは一方的だった。木場 祐斗がリアス・グレモリーを庇って、重傷を負って倒れた。残るリアス・グレモリーは、激昂しながら攻撃を放つも、結果としては魔力を疲弊しただけ。
どう見ても詰んでいる。姫島 朱乃がなけなしの魔力で必死に転移用の魔方陣を描いているが、間に合わないだろう。転移し終える前に刃の雨が降り注ぐ可能性の方が非常に高い。
悪魔共の諍いを感知し、斥候として影から監視していた白音は嘆息する。
「このまま見殺しは流石に駄目ですよね。あんなのでも一応は管理者ですし、後で悪魔達から文句を言われても困りますから」
白音は自分の甘さに言い訳しながらも、隙だらけの頸に抜刀一閃し、はぐれ悪魔と対峙する。
想像以上の硬さに少し驚いた。小手調べ程度だったが、練り込んだ気を叩き込んだのに、一瞬ふらついただけで殆どダメージになっていない。芯まで届いていない。全力で無ければ斬れないか。
悪魔達も、驚きながらもちゃんと逃げてくれたようで、少し安心した。
「アナタは危険です。―――『村雨』!」
躊躇無く、能力を解放する。同時に猫魈としての本性を露にする。
まあ、一応は羽衣姉様と安倍家当主の許可は下りたのだ。黒歌姉様の御陰で悪魔達の監視も無い。余り派手にやり過ぎなければ問題ない。
「我は刃なり。ぬぅはあぁ!!」
相手はは刀身射出するが、数量は大したものでは無い。
「!――氷楯!」
氷塊を拵え眼前に敷く事で即席の楯にし、無傷で凌ぐ。
「ほう、さっきのガキ共よりは愉しめそうだな?」
舌舐めずりする様は、正に血に飢えた獣。突進し、手刀の連続突きを為てきた。威力はあるが、隙も大きい。
「甘いですっ!水垢離!!」
対魔の霊刀である村雨の冷清水を浴びせることで、邪気を洗い清める技。よく闇堕ちしかける二人の姉を正気に戻すために編み出した技である。悪魔に対して聖水に等しい効果があるのは、白音の抱える
「くっ、ぐうぅぅ!?・・・やってくれたなぁ、小娘ェ・・!」
いかに妖刀が
「だが、こんな程度じゃ俺様は倒せんぞお!!」
両掌を突き出し、刀剣射出。物量、速度、威力、全てにおいて脅威と言える域に達していた。
「!!縛道の三十九・円閘扇!!」
「グハハハ!無駄無駄アアァ!!」
悔しいが、このままでは間も無く防御は破られてしまうだろう。だが、もう少しは持つ。円閘扇を維持したまま、響転で後上空に跳んだ。円閘扇は耐えきれずに破砕したが、相手の射程範囲から僅かながらも逸れる事に成功する。
梅針は舌打ちし、再び狙いを定めようとする。しかし、その一瞬の隙を見逃す白音では無かった。
「させません!縛道の六十一・六杖光牢――――雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」
後述詠唱する事で術式は完成し、これで容易には破戒出来ない。
「まっ、待て!待ってくれ!?」
白音は、焦る梅針の請いを聞き入れる事無く、必殺の気を練る。
「さようなら。――断瀑・穿!」
はぐれ悪魔は消滅したものの、妖刀は残ったまま。
駆け付けた安倍家当主も、降って湧いた厄介な案件に困惑する。
正直言って始末に困る。放置は論外として、先程の戦い振りを見る限り、リアス・グレモリーに預けるのも躊躇われる。封印処置も手間暇が掛るし、今回の様に盗み出される危険が常に付きまとう。
結局、今回の件は
一先ずは一件落着と言っていいだろう。
何か盛大にフラグが立った気がするが、きっと気のせいだ。
村雨
刀身から水気を発生させ、寒気を呼び起こす。邪を退け、妖を治める退魔の霊刀でもある。
白音は、仙術等と併用する事で、以下の業を編み出した。
水垢離
冷清水を浴びせることで、邪気を洗い清める。
白霧霞
刀身から純白の濃霧を発生させる。感知系の異能力を無効化できる。
冷刃
相手を斬り裂き、傷口を壊死させる。または、相手を刺し貫き、内部から凍り付かせる。
氷楯
氷塊を眼前に敷く事で即席の楯にする。
逃水
見えて近づいてもその場所には居らず、さらに遠くに見える。まるで鏡花水月の如し。
滑水
水流の薄膜を纏う事で摩擦係数を激減させる。走行速力の底上げや、物理攻撃の受け流し等に使用する
断瀑
高圧力の激流で圧壊する。範囲を収束させることでウォーターカッターの様に切断に用いる事も可能。
天相従臨
天候を支配し、制御下におく。雨と雪に特化している。
雪華葬
猛吹雪を発生させる。降雪は溶ける事無く、対象の悉くを凍て付かせる。
泡沫の波濤
浄化の清水を大量に発生させ、津波を起こし、全てを洗い流す。
凍禍
刀身にほぼ絶対零度の冷気を纏わせる。
絶
周囲一帯に絶対零度の衝撃波を放つ。一撃必殺の威力を誇るが、僅かでも制御を誤ればオーバーフローで自滅する。
凪
魔力や妖気や怨念を、鎮静し昇華させる事で無害化させる。自分や味方に使用した場合、いわゆる賢者のの境地に到らせる事も可能。