漆黒の妖狐   作:千本虚刀 斬月

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蟒蛇

 羽衣狐と黒歌は安倍家当主清明(はるあきら)の付き添いで、少々厄介なモンスターの確保ないし討伐の為、遠出をしている。

 

羽衣狐としては、今生においても魑魅魍魎の主として成り上がっていくのも悪くは無いと思う。だか、如何しても為なければならない程の事かと言えば、否である。愛した息子はもう居ないのだから。他でもない、羽衣狐が自らの手で葬り去った。魂魄すら完全消滅した以上、復活の余地など何処にも無い。

 

今の生活には、存外に愛着が湧いている。何より、二人の愛する妹分を自分の不用意な気まぐれで危機に曝す気は無い。

 

ちなみにその二人の妹だが、少なくとも白音については先日の妖刀の一件で確実に悪魔に目を付けられてしまっただろう。ただでさえ希少かつ貴重な猫魈として拐かされかけた過去があるのだ。その過去は心的外傷後ストレス障害(PTSD)となり、今なお白音を苛んでいる。だがそれでも、既に仇を討ち終えている以上、悲哀と悔恨はあれども憎悪はない。

 

黒歌もまた、悪魔達を快くは思っていない。安倍家の手前もあり流石に積極的に敵対はせずとも、許容為かねる様で怨恨の念を燻らせている。

 

羽衣狐としても赦すつもりは無い。元より馴れ合うつもりは毛頭無いが、あの事を抜きに考えたとしても、正直言って悪魔達の事を信じる事は出来ない。現政権だけでも、傲慢な純血悪魔と他種から眷属に転生した者達(詐欺同然の手口で騙された者、脅迫や恫喝で下僕にさせられた者、諸々の権利を無視され只管に酷使される者、etc.)との軋轢が絶えず、刃傷沙汰に発展するケースも少なくない。加えて先代魔王達の末裔達が常に返り咲く機会を狙っているのだ。更に言えば、天使や堕天使とは冷戦状態であり、切っ掛け一つで総崩れを起こしかねない危うさがある。その様な有様で信用も信頼も出来る理由を探す方が難しいと言うモノだ。

 

 

 

 

 

 

 

 今回の一件についてだが、悪魔からの要請らしい。

 

何時も通りに世紀末覇者スタイルでUMAに騎乗し、更に怪鳥の背上に乗り付けながらの説明。不安定な場所かつ高空を高速移動中でありながら姿勢を全く崩さない。威風堂々たる佇まいは流石と言える。相変わらずその拘りの意味は良くわからないが。ちなみに、雪ゴリラの姉妹+末妹の雪娘も一緒に乗っている。

 

話を訊くに、今回問題のモンスター群は、数刻前に突如として空間を裂いて出現。8頭もの蟒蛇である。ヤツラは思いの外手強く、地獄の番犬と名高いケルベロスでさえ斃して喰ってしまう。そこで魔物使いとして世界的に高名であり可及的速やかに動く事の出来た安倍家に依頼が来たのだとか。

 

羽衣狐はかつての世界で酷似した存在と相対した事があった。前の世界での安倍家の三代目である安倍 雄呂血の式神「雄呂血」だ。その威容は日本神話に謳われる八岐大蛇を彷彿とさせるものであった。

 

はたして、偶然似ているだけであろうか…?

 

「もう一度言うが、ゆめゆめ油断はせぬ様にな?あくまでうぬ等の身の安全が優先ゆえ、殺害も止む無し。だg「でも、可能な限り生け捕りにして貰いたいわね」

 

「「「!」」」

 

「・・・何故此奴等がここに居る?」

 

「―――何でコイツ等がここに居るのにゃ?」

 

そこに居たのはリアス・グレモリーと、その眷属の2人。恐らく悪魔側が派遣した捕獲要員であろうが、よりにもよって此奴等とは。白音は留守番で良かった。

 

 

3人は自己紹介もそこそこに此方に無言でジト目を向けてくる。「目は口ほどにものを言う」とは良く言ったもので、容易く察せた。大方、自分達3人掛りでも敵わなかった妖刀はぐれ悪魔を倒した白音について訊きたいのだろう。だが、魔王の妹にしてグレモリーの次期当主ともあろう者が自ら契約を破棄する訳にはいかない。そんなところだろう。

 

言わんと為ん事は嫌と言うほど伝わってきたが、だからといって懇切丁寧に説明してやるつもりは一切無い。さっさと仕事の話に移る。

 

悪魔側からの派遣戦力はこの3人のみ。それ以外にも一応、フェニックスの涙×5、特製の滋養強壮剤(スタミナポーション)×3を支給されて来たらしい。

 

 

話の最中、黒歌が念話を飛ばしてきた。

 

(ねえ羽衣、どさくさに紛れてアイツ等殺っちゃっていいかにゃ?)

 

その提案を暫し真面目に検討してみる。

 

あの餓鬼達が死ぬこと自体は構わない。だが意図的に死に追いやったことがバレた場合が面倒だ。あの随分と過保護な魔王を敵に回すことになり、現状においては業腹ながら勝ち目は無い。では放っておけば死ぬかというと、それも期待薄であろう。元より蟒蛇単体の戦闘能力は然程でも無さそうで、奴等でも2体までなら相手取れるだろうし、支給されたという薬の類いや転移魔法がある以上は余程下手を打たない限り死にはすまい。仮に、思い通りに巧く排除できたとして、次に派遣されてくる輩は()()()()である可能性が高い。ならば、未熟で浅薄で在るが故に与し易くもある奴等の方がマシか。

 

(―――と言うわけで、殺すのは駄目じゃ。もっとも、奴等が窮地に陥ったとしても助けはせんがな。例え、その結果死んだとしてもな)

 

(・・・ま、しかたにゃいかぁ。了解にゃ)

 

 

 

 

 準備も完了し、戦闘開始である。開戦の合図として先制攻撃をリアス・グレモリーが撃ち、姫島 朱乃が自慢の雷撃で追い打ちを掛け、木場 祐斗が魔剣で地に打ち付ける。すかさず3人がかりで魔方陣を展開。それによって先ずは1体、捕獲に成功する。

 

妖刀の件での失点を取り戻したくて仕方ないらしい。初手から派手にやっている。

 

しかし、少し驚いた。あの蟒蛇は一頭でも下手な百鬼夜行なら壊滅できる力を誇る。それをあっさり捕獲するとは……

 

「ふぅん…あいつらなりに、本気で鍛えてたみたいにゃ」

 

「…多くの悪魔は鍛錬を厭うと聞いたが、先の一件が相当堪えたようじゃの」

 

さて、此方も仕事に取りかかろうか。蟒蛇はあと7頭も居る。

 

「さて、 妾達も蟒蛇退治と参ろうか!」

 

空に立ち睥睨しながら、十の狐尾で嬲り、のたうち回る蟒蛇を雁字搦めに押え付ける。

 

「ふふん♪私だって、ひっさしぶりにフルスロットルで大暴れにゃ!!」

 

上空に多数の魔方陣を一瞬で展開し、絨毯爆撃で蹂躙する。加減もバッチリで、ちゃんと瀕死寸前手とどめている。

 

晴明と雪女3姉妹も1頭に挑み掛かる。特に危なげなく、間もなく制圧するだろう。

 

拍子抜けするほど順調ではある。

 

だというのに、嫌な予感は強まっていく。黒歌も余り貼れない表情な辺り、同じ感覚なのだろう。

 

 

最後の一頭まで恙無く無事に狩り終えたところで、やはりというべきか、乱入者が現れた。

 

「…所詮は試作品の使い魔か。元より期待などしていなかったが、失敗作にも程があろう!」

 

唐突に空間転移の魔法で虚空に出現した輩。

 

ライトアーマーにマントを羽織り、山ン本五郎左衛門の心臓である「魔王の小槌」を佩いた男。

 

男は、悪魔特有の魔力を有し、現魔王ルシファーの妹(リアス・グレモリー)に対し嫌悪と侮蔑を抱いている様だ。

 

「―――よもや、このような場で見えようとは。・・・まあいい。どのみち、忌々しき偽りの魔王の血筋は根絶やしにするつもりだったのだ。些か時期尚早ではあるが、死んで貰おう」

 

男は憤怒と怨恨を滾らせながらそう言い、リアス・グレモリーに対して殺意を向ける。

 

そこから暫くの間、問答が繰り広げられた。

 

 

曰く、初代魔王の末裔や派閥の悪魔の大半は『禍の団(カオス・ブリゲード)』とやらに所属し、現悪魔体制の転覆を目論んでいるのだとか。

 

正直、過去の怨恨を引き摺るばかりで、傍目には到底王者の威風は感じ取れない。

 

「何だかんだごちゃごちゃ言ってるけどさぁ、結局のところは悪魔陣営の内輪揉めで、私達は関係なくにゃい?」

 

「まあ、そうじゃな。じゃが、妾達のことも逃がすつもりは無いのじゃろう」

 

大凡、悪魔諸共この場の全員を鏖にしてしまおうという魂胆なのだろう。自信過剰で愚昧な、この手の輩としては典型的すぎる思考。

 

「あ~あ、お手本みたいな見事なフラグ建てだにゃー」

 

黒歌は獰猛に嗤う。とても、愉しそうに。

 

 

 

 

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