漆黒の妖狐   作:千本虚刀 斬月

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人は皆すべからく悪であり
自らを正義であると錯覚する為には
己以外の何者かを 己以上の悪であると
錯覚するより 他にないのだ
確信した正義とは、悪である
正義が正義たり得る為には
常に自らの正義を疑い続けなければならない


4話 鈴虫

 悪魔の男(シャルバ・ベルゼブブ)は、一頻り怨敵の身内(リアス・グレモリー)に罵倒を浴びせた事で少しは落ち着いたらしく、安倍 雄呂血に撤退を命じる。

 

「貴様はフーラー(これ)を連れて失せよ。万が一にも斃されてしまっては詰らぬからな。」

 

安倍 雄呂血は不服そうではあったが、渋々ながらも大人しく従い、撤退する。

 

シャルバ・ベルゼブブはそれを確認し、強固な結界を展開した。外からの邪魔が入らない様に、獲物を決して逃がさない様に。

 

「ふん!まあ、ちょうど()()()の試し斬りの相手を探していたところだ。―――――鳴け『清虫』!」

 

あの斬魄刀はその銘の通り、鈴虫の鳴き声の様な音波による攻撃を旨とする様だ。共鳴によってオーラの流れを掻き乱し、暴発を誘導し自滅に誘う事すら可能とする。

 

もっとも、その手が通じるのは未熟者だけ。実力者ならばその程度でコントロールをかき乱される事など無いのだから。

 

しかしながら、その未熟者にはリアス・グレモリーや姫島 朱乃、残念ながらクリスティと雪娘が含まれてしまっていた。特にリアス・グレモリーは魔力操作が雑なくせにポテンシャルが高いのが仇となっていた。

 

「フハハハハ!!無様だな、グレモリーの姫君よ!滑稽な姿をさらしたまま、死ぬが良いわ!!―――清虫二式・紅飛蝗!!!」

 

斬魄刀を振り、斬撃軌道に大量の刃が形成され、広範囲に降り注ぐ。

 

破壊力そのものは大したことは無く、ステファニーの氷雪の楯だけでも辛うじてだが防ぎきれる威力である。もっとも、奴にとって最重要なのはリアス・グレモリーとその眷属であり、刃の大半をその3名に割り振っていた、というのも大きいだろう。そして集中攻撃を受けた3名は、先のギリアン戦での消耗やダメージと併せて満身創痍の有様。

 

更には、『鈴虫』の副次効果と自身の持つ権能『蠅の王』を併用する事で、羽虫の大群を召喚し使役しだした。

 

「小娘、貴様はただ殺すだけでは飽き足りん。生きたまま少しずつ、熔かすように咀嚼される気分を、存分に堪能させてくれるわ!!」

 

蒼空を埋め尽くす程の鈴虫、蟋蟀、蝗虫、蠅の大群。全てが魔蟲であり、通常の羽虫とは一線を画す。それが一斉に我等全員の事を貪喰しに殺到してくる。

 

成程、七大罪の暴食を司り、邪悪の樹(クリフォト)において愚鈍を司る、ベルゼブブの末裔らしいやり方と言えるだろう。生理的嫌悪を抱かずには居られない、なんとも嫌らしくて悍ましい攻撃。

 

だが、しかし

 

「「五月蠅い!!」」

 

羽衣狐の呪層界・怨天祝祭で強化された双蓮蒼火墜が、その大半をあっさりと消し飛ばした。

 

そして黒歌の、詠唱の代わりに普段から宝石に貯蓄していた余剰霊力(特製のバックアップ)を用いて即時発動させた飛竜撃賊震天雷砲がシャルバに放たれた。

 

「!!?」

 

しかし、曲がり形にも真の魔王を自称するだけはあり、本人のスペックだけは無駄に高く、防御障壁を咄嗟に展開した所為で無傷である。だが、両掌は痺れ、顔を顰め

 

「っ!何処の馬の骨とも知れぬ下女風情が、真の魔王たるこの私に、何をした―――!!!」

 

キレた。

 

「こうも容易く剥げるとは、安い鍍金じゃの。」

 

「こんなに簡単に溢れちゃうなんて、狭量な器だにゃん。」

 

ステレオで煽られた事で更に激昂し、幾重のも魔方陣を展開し多属性同時砲撃を行ってきた。下手な術者では反属性同士が対消滅を起し、攻撃が成立すらしない。しかしシャルバは、粗いながらも一応は相乗させ一纏めに出来ている。ソレを考えるとセンスも相応にあるのだろう。

 

上手く挑発に乗ってくれて助かった。もしも卍解『清虫終式・閻魔蟋蟀』を使われていたなら、厄介この上無かった。その内心をおくびにも出さず、あくまで余裕の態度で煽り続ける。

 

「いや、それは悪手じゃろう。のう、()()()()?」

 

三尾の太刀を抜刀一閃。それだけでシャルバの攻撃は完全消滅した。その実、下位十刃の王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)にも匹敵する代物だったのだが、一つの極大放射光線と成っていたが故に、簡単に『死』(殺せ)た。

 

「・・・・・・なん・・だと・・?」

 

「どうしてって表情してるけど、わかんないかにゃあ?アンタの攻撃、確かに見てくれは派手なんだけどさぁ、その割に中身が詰ってないのよね。スッカスカにゃん。」

 

「バカなっ!?今の私の力は()()()()()()()によって前魔王と同等のものとなっているのだぞっ!!?・・・ならばこれでどうだアアアァァ!!!――清虫百式『狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)』オオォッ!!」

 

シャルバの全身が黒い体毛で覆われ、腕が四本に増え、背中には二本の大角と四枚の蠅翅、目は大きな複眼に、魔力の量も質も劇的に上昇した。しかし、頭に血が上りすぎていて、己の失言に気付いていない。

 

しかしオーフィスとは、思わぬ大物の名が出て来たものだ。もしこれが戯言で、あの焦った態度が演技であったのなら、シャルバは滑稽な道化を敢て演じていることになる。相当な役者だ。ゴールデンラズベリー賞間違いなしと思いきや、ゴールデングローブ賞だって受賞出来るだろう。まあ、流石にソレは無いか。

 

だが、それを黙って聞き流せなかったらしい()()()()()()が口を挟んできた。傷や消耗は回復薬の類いで癒したのだろうが、そもそも此奴等では万全の状態であったとしてもシャルバには敵わない。

 

「せっかく奴の意識を我等に集中させ、矛先が向かぬ様に立ち回っておったのにのぅ。格が違うことくらい理解できようにな・・・」

 

「いや本当、台無しだにゃん。空気読めなさすぎでしょ。そのまま寝てなさいよね、まったく・・・」

 

 

清明(はるあきら)達には、その意図を念話で伝達していた。だから今は、自衛と結界の解析に専念してくれている。だと言うのに・・・いや、舌戦であれば或いは?そう思い、羽衣狐と黒歌は一先ず成り行きを静観することにした。

 

だがしかし、案の定と言うべきか、やはりと言うべきか、稚拙な罵り合いが展開された。お互いが相手に対して捻りの無い罵倒をぶつけるだけで、無駄にヒートアップしていく。

 

そしてとうとう我慢できなくなった連中は、物理的言語に訴えだした。

 

木場 祐斗が魔剣創造(ソード・バース)で造った魔剣では強度がまるで足りず、鋼皮(イエロ)を貫くどころか逆に魔剣の方が砕け散る。姫島 朱乃の雷撃砲も、リアス・グレモリーの滅波も、諸共に鎧袖一触で消し飛ぶ有様。

 

「ククククク、この程度かね?では、お返しだ。なに、遠慮せず受け取ってくれ給えよ!―――九相輪殺(ロス・ヌウェベ・アスペクトス)!!」

 

為す術無く直撃を受け、倒れ伏す3人。しかしながら、辛うじて生きている。否、敢て生かされている。

 

「フハハハハハハハハハ!!先程も言ったであろう?ただ殺すだけでは飽き足りん、となあ!!そうやって無様を晒しながら待っているがいい。丹念に嬲ってサーゼスクへの宣戦布告にしてくれるわ!」

 

つい先程まで羽衣狐と黒歌の2人の事は脅威と見なしていたのに、リアス・グレモリーに気をとられすぎて失念するような愚は犯すなど、全く度し難い愚かさだ。

 

だがこれで()()()()()使()()()()()、悪魔共の介入や監視の心配は無い。その点は寧ろ好都合でさえある。

 

「これで此方も、気兼ねなく全力を出せるというものじゃ!」

 

羽衣狐は虚化する。霊圧はより強大となり重厚濃密、常闇の如き禍々しい妖気(モノ)に変る。そして黒歌も魔獣戦形・厭離黒猫戦姫を発動させる。猫又の別側面である火車の能力を纏い、冥界の瘴気を取込み、自身を凶化させる。漆黒よりも暗い黒焔を以て、対象の()()()()()()を焼灼し尽すのだ。生命ならざる亡者であろうと例外では無く、魔法や術式の類いにさえも有効である。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――」

 

「こっちもいい加減、我慢の限界だにゃ!!――縛道の六十三・鎖条鎖縛!!」

 

「!!?グウッ、私とした事が・・・だが、今の私にこの程度の術など「遅いわ!――破道の九十・黒棺!!」

 

しかし狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)は伊達では無く、強固な鋼皮(イエロ)と超速再生を誇る為、これでも致命傷には未だ届かない。

 

「隙アリにゃん♪―――滅活黯燒!!」

 

黒歌の誇る奥義が完全に決まった。相手の物理的強度も魔術的防壁も一切無視して、活力源(魔力、体力、生命力等を含めた全エネルギー)を無に帰する。しかし、対象の内在エネルギーが膨大である場合、完全な活動停止に致までに幾何かのタイムラグが生じる。その間に何かしらの方法でエネルギーを補充されれば無為となってしまうのだ。

 

「グッゴウ、ヴァア゛ア゛アアア゛ア゛ア゛ア!?な、何なのだこれは――!!しっ、死ぬ!死んでしまう?真の魔王たる、この私が、こんなところで?否、断じて否だ!!」

 

既に『鈴虫』の開放状態を保てず、オーフィスの蛇も消失。尚も、シャルバは往生際悪く足掻こうとする。最後の力を振り絞って転移用魔方陣を描き、しかし甲高い波砕音を響かせ砕け散った。

 

清明(はるあきら)がシャルバの多重複合結界を解析し掌握、逆用してシャルバの退路を鎖したのである。

 

シャルバの面貌が絶望に染まり、せめて誰か一人でも道連れにしようと視線を彷徨わせ

 

「疾く逝ね。―――王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!!」

 

 

 

 

 

 

 

後に残っているのは斬魄刀『清虫』のみ。

 

こうして旧魔王派の筆頭だったシャルバ・ベルゼブブは死亡した。

 

 

 

 




今後出す予定のある(出るとはいっていない)キャラ
ウルキオラ、ギン、バラガン、土蜘蛛、草冠宗次郎の氷輪丸
検討中
九条望実、シエル、安倍吉平、ネロ・カオス、スターク&リリネット、蒼崎橙子、獅子劫界離、イリーガルレアのキャラ
出さないつもりのキャラ
ノイトラ(原作以上の散り様ハードル高すぎ)、サーヴァント、BLEACHの原作生存組、型月作品主人公達

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