漆黒の妖狐   作:千本虚刀 斬月

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蝿の王

 

 

 

 

 

 悪魔の男(シャルバ・ベルゼブブ)は、一頻り怨敵の身内(リアス・グレモリー)に罵倒を浴びせ強固な結界を展開した。外からの邪魔が入らない様に、獲物を決して逃がさない様に。

 

「ふん!まあ、ちょうど()()()の試し斬りの相手を探していたところだ。この『魔王の小槌』のなぁ!」

 

かの妖刀は、妖魔の血を啜り命を奪う事で無限に力を増強させていく存在であった。しかし、黒崎一護の月牙天衝で砕け散ったと聞いていたが……

 

シャルバは抜刀し、威圧する。

 

見てくれだけなら、朽ち果てる寸前の刀身だが、禍々しい瘴気を発し、更に異形に変形していく。今まで斬って取り込んできた妖魔等の一端を発露しているようだ。

 

刀身から8本の悍ましい触手が伸びて8頭の蟒蛇に突き刺さる。そして、あっと言う間に蟒蛇を吸収した。

 

「ふん…!今の悪魔共を殺せもしないなら、せめて我が力の糧となる事で役に立てと言うのだ!」

 

数多の魑魅魍魎の妖気を纏い、一振りの妖刀でありながら百鬼夜行を体現する。

 

あの妖刀の一撃、未熟者では擦っただけでも無事では済むまい。生命力をごっそり持って行かれる上に、妖気が毒のように浸食し身体を冒していくだろう。

 

晴明と雪女姉妹、グレモリーの一行は冷や汗が顎を伝う。

 

「フハハハハ!!怖じ気づいたか!?無様だな、グレモリーの姫君よ!だが、まだ足りぬ。もっともっと、滑稽な姿をさらし、死ぬが良いわ!!」

 

シャルバは自身の魔力と刀の妖気を織り交ぜ、練り上げ、重圧を伴う衝撃波を発生させた。

 

破壊力そのものは大したことは無く、ステファニーの氷雪の楯だけでも辛うじてだが防ぎきれる威力である。もっとも、奴にとって最重要なのはリアス・グレモリーとその眷属であり、刃の大半をその3名に割り振っていた、というのも大きいだろう。そして集中攻撃を受けた3名は満身創痍の有様。

 

更には、自身の持つ権能『蠅の王』を使用する事で、羽虫の大群を召喚し使役しだした。

 

「小娘、貴様はただ殺すだけでは飽き足りん。生きたまま少しずつ、熔かすように咀嚼される気分を、存分に堪能させてくれるわ!!」

 

蒼空を埋め尽くす程の夥しい蠅の大群。全てが魔蟲であり、通常の羽虫とは一線を画す。それが一斉に我等全員の事を貪喰しに殺到してくる。

 

成程、七大罪の暴食を司り、邪悪の樹(クリフォト)において愚鈍を司る、ベルゼブブの末裔らしいやり方と言えるだろう。生理的嫌悪を抱かずには居られない、なんとも嫌らしくて悍ましい攻撃。

 

だが、しかし

 

「「五月蠅い!!」」

 

羽衣狐の呪層界・怨天祝祭で強化された双蓮蒼火墜が、その大半をあっさりと消し飛ばした。

 

そして黒歌の、詠唱の代わりに普段から宝石に貯蓄していた余剰霊力(特製のバックアップ)を用いて即時発動させた飛竜撃賊震天雷砲がシャルバに放たれた。

 

「!!?」

 

しかし、曲がり形にも真の魔王を自称するだけはあり、本人のスペックだけは無駄に高く、防御障壁を咄嗟に展開した所為で無傷である。だが、両掌は痺れ、顔を顰め

 

「っ!何処の馬の骨とも知れぬ下女風情が、真の魔王たるこの私に、何をした―――!!!」

 

キレた。

 

「こうも容易く剥げるとは、安い鍍金じゃの」

 

「こんなに簡単に溢れちゃうなんて、狭量な器だにゃん」

 

ステレオで煽られた事で更に激昂し、幾重のも魔方陣を展開し多属性同時砲撃を行ってきた。下手な術者では反属性同士が対消滅を起し、攻撃が成立すらしない。しかしシャルバは、粗いながらも一応は相乗させ一纏めに出来ている。ソレを考えるとセンスも相応にあるのだろう。

 

正直に言えば、決して易い雑魚では無い。厄介な難敵と言える。だが、その内心をおくびにも出さず、あくまで余裕の態度で煽り続ける。

 

「いや、それは悪手じゃろう。のう、()()()()?」

 

羽衣狐の眼の色彩が変わる。

 

三尾の太刀を抜刀一閃。それだけでシャルバの攻撃は完全消滅した。攻撃力なら、己の黒虚閃(セロ・オスキュラス)にも匹敵する代物だったのだが、一つの極大放射光線と成っていたが故に、簡単に『死』(殺せ)た。

 

「・・・・・・なん・・だと・・?」

 

「どうしてって表情してるけど、わかんないかにゃあ?アンタの攻撃、確かに見てくれは派手なんだけどさぁ、その割に中身が詰ってないのよね。スッカスカにゃん」

 

「バカなっ!?今の私の力は()()()()()()()によって前魔王と同等のものとなっているのだぞっ!!?更には悍ましき妖刀までも!・・・ならばこれでどうだアアアァァ!!!オオォッ!!」

 

妖刀を投げ捨て、制御に割いていたリソースを戦闘に回す。魔力の量も質も劇的に上昇した。しかし、頭に血が上りすぎていて、己の失言と失策に気付いていない。

 

しかしオーフィスとは、思わぬ大物の名が出て来たものだ。

 

だが、それを黙って聞き流せなかったらしい()()()()()()が口を挟んできた。傷や消耗は回復薬の類いで癒したのだろうが、そもそも此奴等では万全の状態であったとしてもシャルバには敵わない。

 

「せっかく奴の意識を我等に集中させ、矛先が向かぬ様に立ち回っておったのにのぅ。格が違うことくらい理解できようにな・・・」

 

「いや本当、台無しだにゃん。空気読めなさすぎでしょ。そのまま寝てなさいよね、まったく・・・」

 

 

清明(はるあきら)達には、その意図を念話で伝達していた。だから今は、自衛と結界の解析に専念してくれている。だと言うのに・・・いや、舌戦であれば或いは?そう思い、羽衣狐と黒歌は一先ず成り行きを静観することにした。

 

だがしかし、案の定と言うべきか、やはりと言うべきか、稚拙な罵り合いが展開された。お互いが相手に対して捻りの無い罵倒をぶつけるだけで、無駄にヒートアップしていく。

 

そしてとうとう我慢できなくなった連中は、物理的言語に訴えだした。

 

木場 祐斗が魔剣創造(ソード・バース)で造った魔剣では強度がまるで足りず、彼奴が纏うオーラを貫くどころか逆に魔剣の方が砕け散る。姫島 朱乃の雷撃砲も、リアス・グレモリーの滅波も、諸共に鎧袖一触で消し飛ぶ有様。

 

「ククククク、この程度かね?では、お返しだ。なに、遠慮せず受け取ってくれ給えよ!」

 

魔法の大規砲撃速射。為す術無く直撃を受け、倒れ伏す3人。しかしながら、辛うじて生きている。否、敢て生かされている。

 

「フハハハハハハハハハ!!先程も言ったであろう?ただ殺すだけでは飽き足りん、となあ!!そうやって無様を晒しながら待っているがいい。丹念に嬲ってサーゼスクへの宣戦布告にしてくれるわ!」

 

つい先程まで羽衣狐と黒歌の2人の事は脅威と見なしていたのに、リアス・グレモリーに気をとられすぎて失念するような愚は犯すなど、全く度し難い愚かさだ。

 

だがこの状況、悪魔共の介入や監視の心配は無い。むしろ更に貸しを作れる好機。その点は寧ろ好都合でさえある。

 

「これで此方も、気兼ねなく全力を出せるというものじゃ!」

 

羽衣狐は虚化する。霊圧はより強大となり重厚濃密、常闇の如き禍々しい妖気(モノ)に変る。そして黒歌も猫又の別側面である火車の能力を纏い、冥界の瘴気を取込み、自身を凶化させる。漆黒よりも暗い黒焔を以て、対象の()()()()()()を焼灼し尽すのだ。生命ならざる亡者であろうと例外では無く、魔法や術式の類いにさえも有効である。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――」

 

「こっちもいい加減、我慢の限界だにゃ!!――縛道の六十三・鎖条鎖縛!!」

 

「!!?グウッ、私とした事が・・・だが、今の私にこの程度の術など「遅いわ!――破道の九十・黒棺!!」

 

しかしこれでも致命傷には未だ届かない。

 

「隙アリにゃん♪―――暗澹禍焔!!」

 

黒歌の誇る奥義が完全に決まった。相手の物理的強度も魔術的防壁も一切無視して、活力源(魔力、体力、生命力等を含めた全エネルギー)を無に帰する。しかし、対象の内在エネルギーが膨大である場合、完全な活動停止に致までに幾何かのタイムラグが生じる。その間に何かしらの方法でエネルギーを補充されれば無為となってしまうのだ。

 

「グッゴウ、ヴァア゛ア゛アアア゛ア゛ア゛ア!?な、何なのだこれは――!!しっ、死ぬ!死んでしまう?真の魔王たる、この私が、こんなところで?否、断じて否だ!!」

 

既にオーフィスの蛇も消失。尚も、シャルバは往生際悪く足掻こうとする。最後の力を振り絞って転移用魔方陣を描き、しかし甲高い波砕音を響かせ砕け散った。

 

清明(はるあきら)がシャルバの多重複合結界を解析し掌握、逆用してシャルバの退路を鎖したのである。

 

シャルバの面貌が絶望に染まり、せめて誰か一人でも道連れにしようと視線を彷徨わせ

 

「疾く逝ね。―――王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして旧魔王派の筆頭だったシャルバ・ベルゼブブは死亡した。

 

残された妖刀『魔王の小槌』の扱いは……まあ、また悪魔達に押付ければ良いか。

 

 

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