漆黒の妖狐   作:千本虚刀 斬月

5 / 13
信田の妖狐

 

 

 シャルバはテロリストになっていたとは言え純血悪魔、それも魔王ベルゼブブの正式な血統だった。それを、如何なる理由があろうと悪魔ですら無い部外者が殺した、と言うのは悪魔上層部の間で問題になったらしい。

 

これがリアス・グレモリーとその眷属であったのならここまで問題視はされなかっただろう。同じ純血悪魔で、名門グレモリー家の姫君、何より現魔王ルシファーが溺愛する妹なのだ。しかし羽衣狐と黒歌は悪魔ですら無い部外者にも関わらず、魔王すら斃しうる力を持っている。この点も、取分け面子を重視する悪魔至上主義な連中にとって大層気に食わなかったのだ。

 

悪魔上層部にとって看過しかねる、場合によっては脅威になり得る集団と見做された。悪魔陣営に下り従う意志がないのなら危険分子として処刑すべきだと宣う奴等まで居たらしい。

 

その所為で羽衣狐と黒歌と清明(はるあきら)は悪魔共から取り調べを受ける羽目になった。

 

羽衣狐の正体が葛の葉の生まれ変わりであることや、黒歌と白音が猫又の上位種の猫魈であることが露見してしまった。まあ、この程度の情報漏洩は想定済みで許容範囲内だが。

 

無論、全てをバカ正直に話すわけは無い。平行世界での(羽衣狐としての)諸々、『死』の権能、虚化は黒歌と白音と清明以外には話していない。黒歌の魔獣戦形・厭離黒猫戦姫、白音の村雨の業も同様。何時れは知られる事になる可能性はあるが、その時はその時だ。

 

『回道』についても黙秘する事にした。この世界では治療回復に特化した術式の類いはほぼ存在せず、基本的には神器(セイクリッド・ギア)やマジックアイテムやポーションに頼っている有様。その状況で『回道』の事を知られたら、面倒な事になるのは分かりきっていた。

 

「(悪魔の駒(イーヴィル・ピース)なんて代物を創り出せる位じゃ、そういった術式体系を築けぬ道理はあるまいに、何故しなかったのか甚だ疑問よな?)」

 

「(殺れる前に殺れば無問題って事?どんだけ能筋揃いなのにゃ?そんなんだから、どの陣営も頭数減りまくって困った事になってるんだにゃん。)」

 

取り調べの休憩時間中に念話で愚痴り合ったりしていると、清明と銀髪女中の悪魔(グレイフィア・ルキフグス)が入ってきて、無罪放免で釈放される事に決まったと言う。もしかしたら、日本神話勢力との関係悪化を恐れての判断かも知れない。羽衣狐自身はとっくに宇迦之御魂神との縁は切れているが、それでもかつては最高位の眷属だったのは事実なのだから。

 

元々は悪魔からの緊急要請を受け、その仕事の最中に巻き込まれた形である。そもそもの依頼自体は完璧とは行かずとも達成は出来ているし、結果的にではあるがシャルバを斃した事でリアス・グレモリーと眷属達の命は助かったのだ。おまけに妖刀『魔王の小槌』まで()()()()()()のだから、少なくとも一方的に糾弾される謂れは無い。

 

謝罪と魔王ルシファーの「今後も出来るだけ協力し合える関係を築いていきたい。」という言伝を受け取り、一同は漸く帰宅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、案の定と言うべきか、やはりと言うべきか、悪魔共が執拗に干渉してくるようになった。

 

時折、はぐれ悪魔や強大な魔獣の討伐の協力要請などがある。報酬も前払いの上に色付きなので引き受けては居る。しかし、確かに悪魔陣営との接点は過多とさえ言えるが、だからといって全面的に賛同し協調しているわけでは無い。

 

伝説の妖狐の生まれ変わりである羽衣狐、仙術に秀でた種族と名高い猫魈である黒歌と白音、その誰もが既に上級悪魔に相当ないし凌駕し得る戦闘能力を誇るが故に、勧誘が多く煩わしい事この上無い。偶に強硬手段に及ぼうとする不埒な輩も居るが、その手合いは殺す事無く丁重に(容赦なく再起不能にして)リアス・グレモリーに引き渡している。やり過ぎだと文句を言われる事もあるが、正当防衛の範疇であろう。無論の事、証拠についても抜かりは無い。ボイスレコーダーを常備し、悪魔と邂逅した際は必ずスイッチを入れるようにしている。連中は人間を見下しているため、この手の文明の利器に対する警戒心がとても薄いのだ。御陰で引き渡しの時に揉める事が殆ど無い。

 

そういった細々とした面倒事は多々あれど、今のところは取り立てて目立つような大きなトラブルなどは無い。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』や旧魔王派も表立った行動は何も無く、現悪魔政府の上層部は毎日のように紛糾するばかりで遅々と進まぬ会議を繰り返しているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数年。

 

今日はリアス・グレモリーに駒王学園高等部の旧校舎(オカルト研究部)に呼び出されている。余談だが、最近のリアス・グレモリーは新たな眷属が増え、懊悩の原因であった婚約の件が解消された事で、君主として一皮剥けた感じで悪くない。

 

安倍家次期当主の清芽は高等部の3年、白音は高等部の1年、どちらもオカルト研究部には所属せず悪魔達とは一定の距離を保ったビジネスライクな付き合い方を徹している。羽衣狐と黒歌に到っては駒王学園の生徒ですら無い。

 

態々足を運んでみれば、教会から派遣されてきた使者という、聖剣使いを謳う2人の小娘。

 

曰く、堕天使組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部のコカビエルが各地の教会に保管されていた聖剣エクスカリバ―の幾つかを強奪した。目的はいまだ不明瞭だが、賛同した協力者達と共に駒王町に潜伏していると思われる。教会上層部は『禍の団(カオス・ブリゲード)』の関わりを大層危惧している。判明している共犯者は3名。『皆殺しの大司教』と悪名高いバルパー・ガリレイ、他には中級と下級の堕天使が数名。

 

話の内容はやや想像以上で気になる点は幾つかあったが、会議の展開は寧ろ興醒めだった。

 

仮にも土地の管理を任された上級悪魔を相手に、随分と一方的に要求を突きつける。その様子は端から見れば「虎の威を借る子狐」と言った風情だ。それに対して、悪魔のガキ共は随分と舐められていると感じた様で、魔剣の小僧と助平丸出しな餓鬼は特に突っ掛かっていく。

 

結局、2VS2の模擬戦闘が行われる事になった。

 

自慢気に見せびらかしていたエクスカリバ―とやらも別段脅威と言うほどでは無く、小娘2人の実力もやはり大したものでは無かった。

 

ただ、何かしらの切り札を隠し持って何時のは明白。流石にそれまで見せびらかす考え無しの自信過剰では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 教会が今回の案件で派遣してきた雑魚エクソシストの所為で町に滞在している怪異達はピリピリしている。

 

大人しく犯人一味の捜査とメインアタッカー達のサポートに徹しているのなら未だしも良かったのだが、中には異端と見るや侮蔑し得物をちらつかせる輩も居る。

 

怪異の類いとは人間に畏れられてこそ価値がある。舐められて見下されて、虚仮にされたままで終わらせられるわけが無い。売り言葉に買い言葉で小競り合いになる事もしばしば。

 

更に言えば、コカビエル一味は雑魚エクソシストを積極的に狩って回っており、品の無い血のニオイが町中の彼方此方から漂う有様。

 

町に連中が死の間際に抱いた怨念が沈澱していき、どんどん陰気に倦んでいく。まるで地獄の瘴気の様に、秘めたる本能や衝動を暴き立てようとしてくる。

 

この地に災禍を呼び込むための呪法の下拵えなのだろうが、()()()()()()()()()()()()()

 

思い出す。そもそも、羽衣狐自身も前世では幾多もの人間の生き肝を喰らい、怨念で漆黒に染まった池の水を(清明)の産湯にしたのだ。それが文字通りの意味で違う世界に生まれ変わり、最近は日和って温くなってきていた。だがそれでも、羽衣狐が庇護し愛するのは極一部の者に限られ、悪魔は元より大多数の住民も対象には含まれていない。ただ、いたずらに祟りや呪いを振り撒いて愉悦に興じる気にもならなくなった。

 

コカビエルは確かに堕天使組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部の中でも武闘派の戦狂いと名高い。率いる一味は少数ながら精鋭で、手際の良さから連携も上手くとれている様子。だが実際に戦った場合、手の内を幾らか曝す羽目になるとしても最終的には勝てると断言できる。無いとは思うが『神の子を見張る者(グリゴリ)』そのものがコカビエルに加担するなら流石に話は変るし、余り考えたくは無いが『禍の団(カオス・ブリゲード)』が本格介入した場合は敗北すら視野に入れなければならない。

 

「やれやれ・・・全く、ままならぬものよのぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。