少し未来のシンフォギア   作:竹流ハチ

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The First
「Vitalization」


 

 

力天使アリエルが引き起こしたパンドラ事変から二ヶ月、世界各地で起きた重力異常や電波障害による世界の混乱は収束の兆しを見せ始めた。

 

世界中に被害をもたらしたパンドラ事変はS.O.N.Gの活躍によりその最終目標は防がれたものの、世界で最も名の知れた災厄が最後にもたらしたのは新たな戦いの火種だった。

 

「デルタ1、異常無し」

『了解、引き続き肝試しを続けよ』

「くたばれ、オーバー」

 

容量が許す限りたとえ時間や空間であろうと、神や災厄という形無きモノであろうとも捕らえるパンドラの匣が引き起こした重力異常は世界中で確認された。

 

しかし、重量異常が確認されなかった地点が世界各地に点在し、そこがかつて文明が栄えていた遺跡が残る土地であることに気付いた組織はS.O.N.G以外にも多数存在した。

その一つであるアメリカ合衆国はマヤ文明が残したチチェンイッツァの遺跡もその一つであると分かるや否や、メキシコへの関税を1年免除する代わりに遺跡の調査に乗り出した。

 

そこから分かった情報は集められた考古学者達を驚愕させ、『マヤのカレンダー』がただ日付を知る為の物でも予言をする物でもないと判明するとその周囲一帯は海兵隊による検問が敷かれた。

 

「クッソ、いつから俺等は陸兵隊になったんだ?」

「黙って歩け」

「こんな森の中から今更何が出んだよ、もう3週間だぞ」

「上の考えなんて知るか。俺等は学者さん達を守るのが役目だ」

「何から守んだよ?ノイズなら頭数足りねぇぞ」

「そりゃあっ、止まれッ!」

 

遺跡周辺の警備をしているデルタチームが愚痴を零しながら歩いていると、デルタ2の赤外線ゴーグル越しに人間の足が見え、すぐさま銃口を向けた。

 

銃口に怯えるように後ずさってからその足は止まったがデルタ1がその小さな足の正体に気付くと、すぐに隣で銃を構えるデルタ2の銃口を手で下げた。

 

「馬鹿、子供だ!」

「こんな夜中にこんな場所で子供がいるわけないだろ!」

「目ん玉ガラス玉か!非戦闘員だ、銃を下ろせ!」

「構えてろ!装者の可能性がある!」

「ペンダントを持っていないだろ!一般人だ!」

 

デルタチームが森の巡回警備の為に唯一整備された道で遭遇したのはボロボロのぬいぐるみを抱えた小さな少女だった。

 

デルタ1の指示に対してデルタ2は遺跡調査の障害として説明されていたS.O.N.G所属の装者の可能性を疑ったが、かつて装者との共同作戦に参加していたデルタ1は俯いている少女がペンダントを下げていない事は既に確認していた。

 

「司令部、問題が発生した。一般市民に見つかった」

『《招待》は可能か?』

「相手は子供、可能だ」

『なら目隠しをしてから連れて来い。明日の朝になったら町で下ろす』

「了解。聞いてただろ、銃を下ろせ」

「ちっ、あのイヤリングはなんだ?あんなのガキが着けてるもんか?」

「俺が知るか、ペンダントじゃないなら気にする価値も無い」

 

司令部からの指示には従うしかないデルタ2も銃を下ろすと他の隊員達も渋々銃を下ろしたが、デルタ2はまだ十代前半であろう少女が耳に着けているイヤリングが気になったが、公開されている情報の中にはイヤリング型のシンフォギアは開発されているというデータは無かった。

 

国連とS.O.N.Gの協定により現在開発中の試作品は全て情報が公開されている為、もしもS.O.N.Gがそんな物を隠し持っていれば合衆国相手に余計な騒動の起爆剤になりかねない物を実戦に投入する訳がない。

 

装者を相手する可能性がある為に調べられる情報は全て頭に叩き込んでいるデルタ1は少女を怯えさせない為に銃を背に担ぎ、少女に近付いて膝を下ろすと俯いていた少女の顔が暗闇の中でも鮮明に確認できた。

 

少女は服装こそ見窄らしいが肩まで伸ばしている髪とサイドテールは枝毛の一つもない手入れされていて、暗闇の中でも赤外線ゴーグル越しにデルタ1の瞳を覗く意志の強い瞳を、そして少女と共に作戦に出た事があるデルタ1はその顔をよく知っていた。

 

『転職したのですか?』

「おま……!?

 

デルタ1が他の隊員達に交戦開始を指示しようとした瞬間、少女はボロボロのぬいぐるみの腕を引きちぎるとその中に仕込まれていたフラッシュバンのピンが抜け、地面に放ると同時に辺りに閃光と響音を撒き散らした。

 

赤外線ゴーグル越しに強烈な光を受けて交戦能力を失ったデルタチームの脇を少女が駆け抜けていくと、遺跡周辺の警報が森中に鳴り響き照明が遺跡全体を照らした。

全体が警戒態勢に入る前にシンフォギアで突破口を開く予定だった少女は本来の手筈と違う事に気付き、電気工作を行う筈だった別働隊に無線を繋げた。

 

「どうなってるんですか?」

『大丈夫大丈夫〜。さっきの人達ならどうせ意味無かったよ〜』

『タイミングはちゃんと測ってるから〜』

「全く、計画通りに動いて下さい」

 

シンフォギアでの突入は余計な人的被害と証拠隠滅に繋がる為に限界まで生身での潜入。既に潜入している別働隊からシンフォギアを受け取ってから制圧する作戦だったが、想定以上に練度の高い特殊部隊を警備に就かせていた為に別働隊はシンフォギアを使っての制圧は現実的ではないと独断で作戦を変更していた。

 

少女は別働隊に呆れながら検問所を超えて遺跡内部に入ると銃を構えた海兵隊達が既に少女の姿を捉えていて、銃声がけたたましく鳴り始めると少女も目標のデータの回収は諦めて海兵隊の注意を引き付けるに専念した。

 

小柄な身体を駆使して死線を潜りながら遺跡内を駆け巡っている少女を狙おうと弾丸が襲えど、確実に狙いが定められるタイミングには必ず射線を切る障害物があり、少女も2秒以上射線を確保できないように作戦考案の段階で緊急用の逃走ルートは構築していた。

 

だが遺跡の中央にあるピラミッドの形に違和感を覚え、注意が逸れていると突然目の前に壁が現れて思わず立ち止まった。

否、其処には『無い筈の古代建築物』が建っていて事前の情報とは違う為に少女の足が止まり、すぐにルートを変えようとしたものの、その背中に銃口を突き付けられると手を挙げて降伏の意を示してから振り返った。

 

顔をマスクとサングラスで隠した海兵隊二人が少女に銃口を向けながら司令部に報告していて、少女はため息を吐いて海兵隊に連れられながら遺跡の様子を眺めていると、やはり少女の記憶と現在の遺跡は細部が異なっていた。

 

そうして少女は海兵隊達が集まる遺跡内の広場に連れて来られ、遺跡調査のリーダーの考古学者の前に突き出されると、考古学者は顔見知りの少女を迎え入れるように手を叩いていた。

 

「おぉ!これはこれは、静香君じゃあないか!?こんな所まで観光かい!?」

「ジョーンズ教授、やはり貴方ですか」

「君と私の仲なのに教授なんて固いじゃあないか!気軽におじ様と呼びたまえ!君の為に私の助手の席は開けているよ!」

 

アメリカを代表する考古学者『スティーヴン・ジョーンズ』が少女の名前を口にすると、静香も教授からの熱烈なラブコールにうんざりした様に肩を落としていた。

 

かつて聖遺物を研究する際に静香がジョーンズ教授の世話になってから妙に好かれ、ジョーンズ教授の分野であり危険やロマンがある聖遺物関連の研究となればもしやと脳裏を過っていたが、静香のその勘は寸分の狂いもなく的中していた。

 

「ジョーンズ教授、貴方の行いは国際特別災害項目7条『全世界に被害が及び得る人為的災害』に抵触している為、貴方を一時拘束する」

「何故だ!?これは天使とかいう輩が引き起こした現象だ!?私は関係ない筈だぞ!?」

「こんな熱帯雨林の中でこれだけの設備なのに発電機の一つもない。そして、電源が繋がれたコードの先は全て遺跡の内部へと向かっている。ここの電源は全てこの遺跡が賄っているのでは?」

「見たか!?あれが私が唯一助手にしたいと思う彼女の聡明さだ!君の言う通り、この遺跡にはまだ多くの謎が残されている!君になら是非協力を仰ごうじゃないか!」

「投降を拒否する、そう受け取って構いませんね?」

「ああ、勿論だ!S.O.N.Gなんかに君を置いておくには惜しい!私と共に熱く語り合おうじゃないか!其処の二人もよくやってくれた、皆も持ち場へ戻りたまえ!」

 

海兵隊に囲まれていても決して気後れせず対等に話そうとする静香の豪胆さにジョーンズ教授は益々気に入り、話が噛み合わず肩を落とす静香を捕まえた二人に手渡すように手を差し出したが、二人は静香の腕を掴んだまま差し出そうとはしなかった。

 

すると異変に気付いたデルタ1がすぐに銃口を向け、他の隊員達も臨戦態勢に入ったが二人はそれに動じる様子も無く、マスクを外して海兵隊には似つかわしくない端正で惚けた表情のまま静香を見下ろした。

 

『シズシズ、ああいう人がタイプなの〜?』

『年上趣味か〜』

 

静香を捕らえていた二人が装者『譜吹 空』と『譜吹 海未』であると判断した瞬間、デルタ1が引金を引こうとしたがそれよりも早く少女達がスイッチを押すと遺跡全域にも達する範囲で仕掛けていた電磁パルス発生装置が起動し、照明がショートした遺跡周辺は暗闇へと変わった。

 

誤射を避ける為に発砲はしなかったものの、デルタ1もすぐに赤外線ゴーグルに切り替えて銃口を構えた瞬間、違和感を覚えた。銃を構えた割にはあまりにも軽く、これまで訓練で何百時間と銃を扱ってきたからこそ銃の重さが『半分も無い』事に瞬時に気付いた。

 

そして少女達の前方の空間に向けられている他の隊員のレーザーポインタの光線が歪んでいる事に気付き、自身の拳銃も向けてその空間に光線を向けると其処には目視では確認が出来ない人型の存在が立っていた。

 

『データは回収できたよ。後は教授を連行するだけかな』

 

別の隊が照明を回復させてからデルタ1が状況を確認すると、海兵隊が構えていた銃身はいつのまにか全て両断されていて、その足元にはその残骸が転がっていた。

 

そして、少女達の前にいる空間の歪みが少しずつ収まっていくと其処に現れたのは『白の天羽々斬』のシンフォギアを纏った装者『百合根 律』。歌わずとも並外れた適合率でシンフォギアを纏う隠密行動特化の装者、そしてその穏やかな笑みの裏に隠れた本性を知るデルタ1にとっては両手を挙げるしかない最悪の相手だった。

 

「クソッ、アレの相手は止めだ」

「はぁ?上から何言われるか分かんねぇぞ」

「見ただろ?ノイズと同じ位相差障壁でコソコソできる奴だ、次落ちるのは俺かお前の首だ」

「み、認めないぞ!まだ私の研究は終わってない!責務を果たさないか!」

「おい!コッチは言われた通りに働いてただけだ!文句ないだろ!」

「ありませんよ。私達も用事があるのは上に居る方達とそこの教授ですので。他の皆さんも、銃を下ろして貰えませんか?」

 

必要の無い争いを好まない律はまだ銃を構えている海兵隊に笑い掛けながら投降を促すと、司令部からの指示が無くなった時点で現場で判断するしかないと結論付けて壊れた銃を地面に投げ捨てた。

 

その様子に慌てた教授はデルタ1の無線を奪い取り、見つかる筈のない司令部に連絡を入れたけれど応答はなく、その代わりと言わんばかりに遺跡を大きな影が覆った。装者達が空を見上げると、その視線の先には本来は光化学迷彩により隠している筈の空中母艦『ドナルド』がその姿を現した。

 

ジョーンズは珍しく上層部がやる気になったと喜んだの束の間、その搭乗口は厚い氷に覆われていて指揮官達を乗せた空中母艦は無線への回答もないまま北へと進んでいくと教授も既に占拠されているのだと察した。

 

「まだ何かありますか?」

「ぐぬぬ……ちょっと待て!今探す!」

「はい。皆さんは早く撤収準備を」

「ここは閉鎖だ〜!お家に帰るぞ〜!」

 

まだ諦め切れないジョーンズ教授が何か手はないかと研究を纏めた手記を捲っていき、その間に海兵隊に撤収の号令を出すと圧倒的な戦力差がある装者には逆らえない海兵隊達もその指示に素直に従い始めた。

 

引き際の見極めている海兵隊達が次々に荷物をトラックを乗せていく中、ジョーンズ教授は遺跡内部で見つけた新たに見つかった碑文をメモを見つけ、最早それしか手が無いと決断するとその文章を読み上げた。

 

「『復活の日は來れり 太陽に手を伸ばす巫女よ 我等が太陽を掴む日は來れり』ッ!」

 

ジョーンズ教授が藁にもすがる思いで大声で碑文の解読結果を読み上げ、何かのキーワードかと警戒した律はアームドギアを構えて不意打ちに備えた。

しかし、その言葉は何に反応する訳でもなく虚しく森の中で霧散し、何かが起きるかと構えていた律も周囲を見渡して変化が無いことを確認してからシンフォギアを解除した。

 

自らの心血を注いだ研究成果が没収される事にジョーンズ教授は項垂れ、その手から手記がこぼれ落ちた。

 

「何を起こすつもりだったんですか?」

「分からない……ただ新たに見つかった碑文だったから何かあるかと…」

 

律がジョーンズ教授に手錠を掛けて連行していき、回収のヘリが来るまで待機するしかない静香は落ちた手記を拾い上げるとページを捲っていった。

 

「ここの文章ですか?」

「ああ、そうだよ……」

「これ、太陽じゃなくて『光』じゃないですか?太陽なら線が入っている筈ですし、こんなに欠けてる筈がありません」

「それだとまた別の文字だよ。でも何か神を象徴する言葉の筈なんだが」

 

かつては荒療治専門であったS.O.N.Gも装者候補生が選抜されるようになってからは皆が装者に見合った相応の知識を持つようになり、分からない事があれば突き詰める性格の静香とジョーンズ教授はまだ任務中であるにも関わらず議論を白熱させていき、他の三人も呆れながらそれを横で眺めていた。

 

仲良し二人の世間話はいつ終わるのか、回収のヘリはいつ来るのか、お腹が空いたから帰りたいとそれぞれ考えながら海未は地面に腰を下ろしてから寝転がると、雲一つない夜空の頂点からはかつての爪痕を残した月が照らしていた。

 

バラルの呪詛を解除する為の造られた古代兵器カ・ディン・ギル、先代の装者達の活躍によって月を掠めるだけに収まったが、最早かつての姿を覚えている人間の方が少ないくらいだろう。

 

二人が星や彗星と議論を白熱させていく中、海未は何気なく夜空を見つめているとふと思い付いた言葉を口にした。

 

「それ『月』じゃないかな〜?」

「月は他に文字があります」

「いや、漢字みたいに違う文字でも同じ意味みたいな」

「だけど欠けている事に説明が付きません」

「ほら、欠けてるじゃん」

 

思い付きで喋る海未に静香も一度は呆れたものの、マヤのカレンダーの配置が変わっている事や新たな碑文が現れた事を考えていくと、月に刻み込まれていたバラルの呪詛が静香の脳裏に引っ掛かった。

 

月に手を伸ばす巫女、その言葉が意味するもう一つの呼び名を知っている静香はその言葉のまま、もう一度碑文を読み直した。

 

「『復活の日は來れり フィーネよ 我等が月を掴む日は來れり』」

 

直後、森全体から遺跡に向かって緑白色のエネルギーが収束し、ピラミッドから天に向かってエネルギー波が立ち昇るとその余波で照明が全て割れ、遺跡内に居た人間が吹き飛ばされると大地は解読された碑文に応えるように脈動を始めた。

 

大地は地震のように震え、森中から動物達が逃げ出す悲鳴が聞こえ、体勢を立て直した装者達はすぐに聖詠を唱えて臨戦態勢を取った。まるで昼間の様に周囲を照らすエネルギー波は天高く照射され、遺跡の内部からかつて滅びた人類殺戮兵器が再び姿を現すと装者達はその姿に愕然とした。

 

「の、ノイズ!?」

「アルカノイズじゃないよ!?」

「本部に連絡がつかない!海兵隊は今すぐ撤収してください!」

 

ソロモンの杖と共に完全に消滅した筈のオリジナルのノイズ、その姿を再び確認すると同時に本部からの指示を待たずに装者達は一斉に交戦を開始し、譜吹姉妹が海兵隊の撤収の援護に回ると静香はジョーンズ教授を抱えて後方へと退がっていった。

 

だが消えた筈のノイズを前にし、長年の研究がようやく実を結んだジョーンズ教授は恐怖すると共に歓喜した。

 

「やはり私の研究は間違っていなかった!ここは第二のカ・ディン・ギル!この遺跡に蓄えられていたエネルギーは全てこの日に月を穿つ為のエネルギーだったんだ!」

「第二のカ・ディン・ギル?此処にもフィーネが居たという事ですか?」

「いいや違う!あの文章は二つの意味があったんだ!一つは今日この日月を穿ち、そしてもう一つは巫女達の復活だ!」

 

ジョーンズ教授が興奮しながら話す間にも大地の脈動は少しずつ早くなっていき、天を衝くエネルギー波がこのまま破壊力を増してから月に直撃すればルナアタックの再現は不可避。月が再び穿たれれば次こそは粉々に砕け散り、その影響は地球全土に及ぶ事になる。

 

けれど遺跡内部から溢れ出てくるノイズ達の処理に手間取っていると北の空から再び空中母艦が現れ、そこから水色の光を纏った少女が聖詠と共に降り落ちた。

そしてシンフォギアを纏った少女は空から遺跡を囲うように光線を放ち、着地と共に錬成陣を起動して巨大な氷の壁を築き上げるとノイズ達は位相差障壁を無効化する氷壁に阻まれて襲撃が収まり、やむを得ず交戦していた海兵隊はすぐに撤収を再開した。

 

「ガリィナイス〜!」

「タイミング完璧〜!」

「チッ、何が起きてんのよ!」

 

『水色のアガートラーム』を纏うオートスコアラー、『ガリィ=トゥーマン』が心底不機嫌そうに状況を確認しながら未だエネルギー波を放ち続けているピラミッドを睨み付けていて、静香も合流すると装者候補生達は一人を残してその場に集結していた。

 

「第二のカ・ディン・ギル、これも月を穿つ為の古代兵器のようです」

「ハァ!?んなもん誰が起動したっていうのよ!?」

「……すみません、軽率でした」

「ったく、アンタの所為でアタシ等ヒーローから一気に悪者じゃない」

「しずちゃんは悪くないよ。それよりもガリィの氷で止めれない?」

「やれたらとっくの昔に試してるっての。威力が強過ぎて錬金術どころかアタシの身体でも近付けない。やるならあのレーザーと真っ向勝負して押し返すしかないんじゃない?」

「そんな無茶できるわけ……」

 

シンフォギアを纏っていても近づく事さえ出来ないカ・ディン・ギルのレーザーに為す術がない状況でそんな命懸けの無茶苦茶な作戦は無謀以外の何物でもない。だが、律達はそんな作戦でもそれしかないなら迷わずその選択肢を選ぶ最後の装者候補生の姿が見えない事に気付いた。

 

そして次々に空中母艦から搭乗員がパラシュートで降りていく中、誰もいない筈の空中母艦がレーザーに沿うように空高く飛んでいくのを見て誰が操縦しているのか一瞬で理解した。

 

「ティナの馬鹿!死ぬ気なの!?」

『垂直にレーザーを受ければこの母艦なら5秒耐えれる、後は死ぬ気で押し返すわ』

「絶唱使ったって無理に決まってるでしょ!?」

「せめて私達も連れてってよ〜!」

『定員オーバーよ』

「勝算はちゃんとあるんですか!?」

『必ず成功させるわ。ガリィはこっちに来て手伝いなさい、封印解除(デウスドライブ)を試すわよ』

「上司はアタシだっつの」

 

装者候補生達の呼び掛けに応えながら最後の装者候補生は作戦変更の余地無しとして、ガリィを呼び寄せてから空中母艦の限界高度であるオゾン層まで突入した。

 

そして大気で減衰する事なく月を穿たんとするレーザーの中へと飛び込んでいき、始めこそレーザーを散らしたものの一瞬で空中母艦はレーザーに飲み込まれ跡形もなく消え去った。

 

レーザーは月の周囲を浮かぶ瓦礫を少しずつ掠めて月本体へと迫っていて、装者候補生達が固唾を呑んで祈る中、星のような高さでレーザーが突然弾けるとその黄緑と水色に輝く二対の巨大な翼が開かれた。

そして其処から聞こえる二人の歌声はたとえ距離が離れていようと伝わる念話によって地上にいる者達へと響いた。

 

『《輝け 魂ごと全部》!』

『《翔け 天に届くほど》!』

「ティナ!」

 

たとえ絶望的な状況でも決して諦めない、その強い想いを胸に秘めた『翡翠色のガングニール』の装者候補生『アリア・カヴァルティーナ』の歌声が響き渡ると、アリアのアームドギアである歌声に他のシンフォギアも歌い出すかのように共鳴し始めた。

 

そして装者候補生達がシンフォギアを解除するとその光はアリアの元へと集まっていき、ガリィに錬成させた巨大な氷の拳でレーザーを押し返していたアリアの中へと吸い込まれていくと、ガリィもアガートラームをアリアに託してからその場から転移した。

 

一人で歌っているんじゃない、私達全員の想いを乗せた歌が吠え叫んでいるんだッ!

 

Emustolronzen seikilos tron (少女の歌には、血が流れている)!」

 

ガリィによる錬金術の補助が無くなると瞬く間に氷の拳にも亀裂が入り、端から砕け始めたけれどそれに臆する事なくアリアが胸の中にあるもう一つの聖詠を歌い上げた。

するとアリアの聖詠に応えた完全聖遺物『セイキロス』が背中から更に四対の翼をはためかせ、その氷の拳を補強するかのように六色の装甲で展開されるとその推進力は更に爆発的に増した。

 

月をも穿つエネルギー波を押し返すその様はアリアの愚直なまでの真っ直ぐさを体現し、そして決して諦めない心の様にその勢いは次第に増していき、レーザーは六対の翼を持つ奇跡を前に四方へと引き裂かれていった。

 

「『過去を全て重ねて』!」

「「『今を全て束ねて』!」」

「『未来を全て乗せて』!」

「『煌めきを放て』ェェェェ!」

 

限定解除(エクスドライブ)の更なる先。

 

同時に纏った六つのシンフォギアに各部位を担当させる事で擬似的に一つのシンフォギアとし、限定解除に必要なプロセスを並列処理する事でシンフォギア本来の力を得る新たな決戦機能。六対の翼をその背に宿した封印解除(デウスドライブ)を完全に使い熟しているアリアはエネルギー波を完全に引き裂き、咆哮と共に神殿へその拳を叩きつけた。

 

カ・ディン・ギルの最大出力さえも押し返した拳の威力は凄まじく、粉々に砕け散った神殿を中心に地面が大きく割れるとその衝撃波に装者達も吹き飛ばされたが、アリアが封印解除(デウスドライブ)を解除すると装者達を守るように再びシンフォギアをその身を包んでから地面に叩き付けられた。

 

「痛たた……うひゃあ〜、これ報告書で済むの?」

「国際問題だね〜」

「アタシ知ーらない」

 

自身を覆う瓦礫を押し除けながら装者達が瓦礫の中から這い上がると、メキシコが誇る世界遺産の惨状にまた報告書が厚くなると肩を落としているが、アリアは世界を救った拳の感触を確かめるように手を強く握り締めた。

 

「任務完了。これより帰投します」

 

 

 

 

「ティナー!いっけー!」

 

クラスメイトの一条さんが上げてくれたトスに合わせ、私も音が鳴るくらい床を踏み締め、相手がブロックできない打点まで高く跳んだ。

 

そして全力のスパイクを相手コートに叩き落とすとボールは狙い通りサイドライン上に落ち、二年生の球技大会で優勝点を決めると二階から応援してくれていたクラスメイト達からは黄色い歓声が沸き、一緒にプレイしていた人達は一斉に抱きついてきた。

 

「やったー!アリアさんのお陰で勝てたよー!」

「皆で頑張ったからよ、私一人の成果じゃないわ」

「アリアさんが確実に決めてくれるお陰で私達も動きやすかったもん!」

 

私に抱き付いてくる皆は一様に私を褒めてくれるけど、幾らスパイクを決めれようがレシーブとトスは一人では絶対に出来ないのだからこの優勝は皆で勝ち取ったものだ。

 

相手コートからは『く゛や゛し゛い゛〜!』と床で駄々をこねている海未の声が聞こえ、負けん気が強い空がそれを引っ張ってコートの外に出しながら悔しそうに私の方を見ているけど、二人のコンビネーションだけで勝てる程バレーボールは甘くなかったという事だ。

 

優勝したクラスの表彰式は一日の最後だし、エキシビジョンマッチであるバレー部一軍との試合は午後だから一旦休憩にし、体育館から出ると二階で応援していた律がタオルを手渡してくれた。

 

「お疲れ様ティナ、大活躍だったね」

「皆のお陰よ」

「空と海未も珍しくやる気だったけど、ティナが率いるチームにはまだ届きそうにないね」

「お灸を据えられて何よりね」

 

私達が立ち話をしているとコートの片付けが終わって2年生によるバスケットボールの準備が始まり、いつまでも入口付近に居ると邪魔になるから階段から二階に上がってコートを一望できる席に座った。

 

先日のメキシコの一件で派手に遺跡を破壊してしまったから罰としてシンフォギアを没収され、報告書も書かされる羽目になってしまったけど、事後処理は全て終わってからはこうして学校に登校する事ができている。

 

一年生の時はスイスに留学していて進級のテストだけは受けていたから同年の子達と一緒のクラスになり、外国人でしかも帰国子女ともあって質問攻めにされたりと大変ではあったけど、こうして同じコートで同じ競技をできるくらいには交友も深められているから受け入れてくれた環境には感謝しかない。

 

「良かった」

「何が?」

「ティナが楽しそうに学校に通えてるみたいで良かった」

「……風鳴司令みたいな事を言うのね。S.O.N.Gの隊員でも学生なら学業が本分でしょ」

「そう言ってスイスで学校に通わず引き篭もってたのはティナでしょ?」

 

スイスに居た頃は歴とした国連の職員だったから学業は本分ではなかった、なんて言ったところで顔を覗き込んできてる律にはそれが嘘だと分かるだろうし、現に私の顔を見て可笑しそうに笑ってるから言うだけ損だ。

 

律の言う通り、人付き合いが絶望的に苦手な私はこれまで同世代の子達と一緒に過ごすという経験が無かったからなるべく避ける様にしていた。ずっと本部に引きこもって勉強、仕事、訓練の毎日。直属の上司であった響さんに学校へ通う事を勧められても仕事を盾に断ったくらいだ。

 

全てが異質な私を受け入れてくれる環境、そんな場所は無いと思ってたから避けていたのだけど、そんな考えを変えてくれたのは他でもない律達だ。

 

「学校は楽しいわ。勉強も大勢で学べばそれだけ違う考えがあるし、競うにしても殺伐としてないから」

「剣道が競技に選ばれてたら殺伐とやったんだけどねー」

「人の話を茶化さないの」

 

こうして気楽に話してくれる律も、異質な私を全力で負かそうとしてくる空達も、私と目が合って手を振ってくれている同級生達も、私にとっては初めて私を受け入れてくれた大切な居場所だ。

 

こんなにも大切な居場所を守る為なら私は何度だって、誰とだって戦ってみせる。たとえそれが私にとって最悪の道だとしても、この居場所を無くす位なっぶ

 

「にゃにかしりゃ?」

「また難しい事考えてたでしょ」

「っ、律はアニエルが居なくなってから随分お気楽になったのね」

「ずっと気を張ってても疲れるだけだよ。私はオンオフはしっかり出来るタイプだから」

 

考え事をしていると律に頬を突かれて遮られてしまい、手を下させてから皮肉を言っても臨機応変の効くメンタルの強さを評価されている律にはまるで効果がない。

 

世界を滅ぼそうとしたアニエルがまだ律の中に居る筈なのに『今は害が無いから気にしない』と割り切れるからこそ、エクスカリバーという振るう先を見極める必要があった完全聖遺物も任される事になっていたんだろう。

 

人の身には過ぎた力である完全聖遺物、それを生まれ持ったからには正義の為に役立てられるようにならないと。

 

「ほら、ティナに興味がある先輩の試合が始まるよ」

「大和さんよ」

「あれ、もしかして私お邪魔?」

「言ってなさい。ただ応援して欲しいって言われただけよ」

「もー、ティナったら照れなくていいんだよ?」

「叩き落とすわよ」

 

 

 

 

 

 

『それじゃあカ・ディン・ギルは世界各地に存在してるのね?』

「そう考える方がいいだろう。だが碑文を読まなければ恐らくは起動しない筈だ」

『分かった、その点は徹底して周知させる。ジョーンズ教授が協力的で助かるわ』

「あんな内容のコメントされた後で手伝わなきゃ何処の誰に殺されるか分かったもんじゃあないからな」

 

メキシコでの一件の後、世界遺産を破壊したお咎めとしてアリアに装者代表として現地取材に応えさせたが、アリアは取材に対して『世界各地にある遺跡が今回と同じ規模の事故を起こす可能性がある。各政府が事態の把握と対応に追われているから民間人は近寄らないで欲しい』と無断で機密情報を公開した。

 

結果としてそのニュースは全世界でも放映され、各国が極秘でエネルギーを利用しようとする目論見はアリアの一声によって潰えた。

その罰も含めてアリアに報告書を書かせているが、本人にとっては報告書を書く事なんて当たり前と思っているから何の罰にもなってない。これが海未か空だったら多少の効果もあっただろうに。

 

『……フィーネ、確かにその言葉に反応したのね?』

「ああ。聞いた事はなかったが静香君がその言葉を口にしたはあの有様だ。勿論、私は凡その見当は着いているがね。フィーネとはずばり…!」

『ジョーンズ教授、暫く貴方には私達に協力して貰う。勿論今回は快く引き受けてくれるわね?』

「此処なら静香君とも語らい合えるから寧ろ歓迎しよう!初めから私もS.O.N.Gに入ってれば良かったんだ!」

『あくまで協力よ。今回のルナアタックはフィーネと関係のある者達が計画した数千年越しのモノ、月が欠けることもフィーネが失敗する事も予知していたのなら他にも何かを遺してるかもしれないわ』

 

国連本部が設置されているスイスからモニター越しで我々と会議をしている国連特別災害対策本部本部長、『立花 響』はやはりフィーネという単語が出てきた事が気に掛かっているようだ。

 

先史時代にアヌンナキに恋をしたフィーネだったがアヌンナキはバラルの呪詛で対話の道さえ閉ざした。その時からフィーネが単独行動を始めたのなら第二のカ・ディン・ギルを造ったのは当時存在した他の巫女達という事になる。

 

フィーネの様に聖遺物を利用した再装填可能な砲台は造れなくとも、数千年太陽のエネルギーを集めて月を穿つに足りる砲台を複数造り上げたのだからフィーネ同様に危険な存在である事に変わりはない。

そして碑文に書いてあった事が本当ならフィーネが復活するというのだから、我々が先手を打って行動して今回の様な事件を阻止しなければ世論が黙っていない。

 

それにフィーネの復活という言葉には我々にも心当たりがある。それが今回の件と無関係であると分かるまでは我々の動きを悟られる訳にはいかない。

 

此処からはジョーンズ教授に聞かせる訳にはいかないから退出願い、改めて立花本部長と向き合うと好奇心の塊であるジョーンズ教授には立花本部長も頭を抱えているようだ。

 

『今回は米国も正規の手続きを踏んでの研究だから国連も何も言わない、というのが建前で其々が同じ事をしてたから有耶無耶にするつもりよ』

「そうなるだろうな。それで、別件の方は?」

『セイキロスに関しては少し調べたけど、やはり元になった墓碑からは何の反応も無かったわ。恐らくセイキロスは推測通り歌の形をした完全聖遺物、それが今はアリアの中に封じ込められるわ』

「やはりか…」

 

アニエルの一件でアリアが覚醒させた完全聖遺物『セイキロスの墓碑銘』。世界で最初の音楽とも呼ばれている聖遺物はアリアがまだ産まれる前に母親がセイキロスを覚醒させたが能力を発揮せず、そのままアリアにその歌へと移ったと判明しているがその能力は未だ測り切れていない。

 

違う世界に干渉して完全聖遺物を呼び出す、シンフォギアの負荷を一時的に無くす点から他の聖遺物に干渉する力があるとは分かっているが、そんな逸話がセイキロスに残っていない以上は誰かがその力を歌に込めたと考えるしかない。

 

そんな事ができるとしたら音楽という概念を生み出されてた時代の者達だが、それがこのタイミングで復活すると聞いて関係無いだなんて言い切れる訳もない。

 

『エクスの先だから封印解除(デウスドライブ)、アリアにしては随分洒落た名前を付けたものね』

「デウスドライブを此方でも解析してみましたが、やはりアニエルの時とメキシコの時とでは解除している封印が少し違います。以前は共鳴により増幅されたフォニックゲインによって限界まで解除してますが、メキシコでは各シンフォギアが対応している箇所だけを解除し、余計な負荷を避ける事で稼働時間を伸ばそうとする明確な意図が感じられます」

「たった二度の使用でそこまで扱い熟すか。最早単なる才能で済ますには行き過ぎてるな」

『セイキロスは此方でも研究は進める。だけどその身に宿しているアリアはその何倍もの速さで理解を深める筈。決してアリアから目を離さないで』

「分かっている」

 

両親に見捨てられた事を幼い頃から理解していたアリアはシンフォギア装者として最も重要な感情に飢えていて、それがLiNKERとの極めて高い適合をもたらしているのだろう。

 

何が起きても正義を全うしようとする姿勢も装者としてはこの上ない才覚ではあるが、その正義感とS.O.N.Gのやり方とでは若干の相違がある以上、アリアが想定外の行動に出る可能性は否めない。

現にインタビューでの命令無視、装者がメディアでの発言でもたらす影響をアリアが理解していない訳がない。

 

世界中に警告のつもりでわざと情報を流した、S.O.N.Gのやり方では手温いと感じて独断で動いたのは間違いない。

 

『ティナちゃんも私達が守るべき子供ですから、皆で見守りましょう』

「そうだな。私達が側にいる間はアリアも自棄にはならないだろう」

『はい。それではまた何か分かったら連絡して』

「分かった」

 

何かと仕事の多い立花もセイキロスを調べる為にすぐ側で見守ってきたアリアを私達に託したんだ、その期待を裏切らない為にも私達は出来る限りのことをしてあげなければ。

 

立花との通信を切り、椅子に背を預けると隣で聞いていた静香は何か気になる事があるのか腕を組んだまま思案顔を浮かべていた。

 

「どうした?」

「アリアさんにご両親が居ないのは薄々感じていました。けどどうしてS.O.N.Gに入隊する必要があったのか気になって」

「テレビに出ていた立花に憧れて、そう聞いた事はあるが真意は他にあるだろうな。その辺りは私よりも静香達が支えてやってくれ」

 

感情の昂りに反応するシンフォギアにとって普段抑圧している感情をLiNKERで爆発させているアリアは理想的な装者だ。

 

だがそんな些末な理由でアリアを暴走の危険に晒しながら戦わせるつもりは毛頭無い。少しでもその危険性を無くせるよう静香にも協力を願うとアリアを慕っている静香も大きく頷いてくれた。

 

そうして話をしていれば廊下からは学校から帰ってきたアリア達の声が聞こえ、セイキロスに関するデータを画面上から消すと同時に扉が開いた。

 

「たっだいま〜!」

「ああ、お帰り。球技大会は楽しかったか?」

「レギュラー共を私達で叩きのめしたよ〜!」

「二人ともクラスが違うから駄目って言ってるのに聞かなくて」

「そう言いながら律も本気だったじゃない」

「スポーツでも負けたくはないからね」

 

世界から見捨てられたと一度は諦めていたこの四人がこうして学校が楽しいと言ってくれているんだ。任務では口を煩くしなくてはいけないが、それ以上に保護者として四人が学校生活を楽しんでくれているのは喜ばしい事だ。

 

「アリアさんはクラスの人とも仲良くしてますか?律さんばかりと話していませんか?」

「だ、大丈夫よ。ちゃんと他の子達とも話してるから」

「アリアさんは一年丸々居なかったんですから、普段の仕事は私に任せてしっかり学校に通って下さいね」

「分かってるから、ほら此処で話してたら仕事の邪魔よ」

「ヒュ〜、真面目ちゃんのシズシズ誑しめ〜」

「うるさい」

 

年下の静香に学校での生活を心配されて顔を赤くしているアリアも、それを囲う全員も私からすれば我が子同然のように可愛い子達だ。装者である以上穏やかにとは言えないが、せめてお互いが助け合い支え合えるような存在になってくれると信じている。

 

五人は土産話をしながら司令室から出ていったが、歩きながら顔だけを振り返らせたアリアの視線は私の手元にある資料に向けられ、私がそれを絶対に見えないように背に隠して見送ると私と視線が合ったが自動扉がそれを遮ってくれた。

 

もう勘付いてる、自分の身体の事なのだからそれも当然か。

 

「今は静香や他の子達にメンタルケアは任せるしかないか」

「学校に通う前よりもずっと安定していますし、それが良いかと」

「このままセイキロスも無事に引き剥がせるといいんですけどね」

 

藤堯の言う通り、今のまま終わればきっと誰も傷付く事なくアリアを守る事ができる。セイキロスも人から引き剥がしてしまえば形がない以上、霧散して消えるしか道もない筈だ。

 

だが魂にまで固定化された聖遺物は聖獣鏡ですら引き剥がせないのは既に立花が試している。たった二度の融合でそれなのに、産まれてからずっとその力の一端を引き出していたアリアとセイキロスは引き剥がせるモノなのか。

 

立花の時は叔父様も同じ気持ちだったのだろうか、人の命を預かるというのはいつになっても慣れないモノだ。

 

 

 

 

エジプト、ギザのピラミッド内部。

 

三つのコールドスリープ用ピラミッドがカ・ディン・ギルの起動を検知してコールドスリープを解除し、眠っていた十代半ばの少女が目を覚ますと先に起きていた二人はため息を吐いた。

 

『やっと起きたか』

『ふわぁぁぁ………フィーネの寝坊助めぇぇ…マジ眠い』

『姉さんが最後、早く起きて』

『ふいふい……状況は?』

『やはり聖鎧はコールドスリープに耐えられなかったようだ。復旧には少し時間が掛かる』

『うぇ……バレたらあの人ブチギレんでしょ…』

 

現代までコールドスリープによる影響で主人より授かった聖鎧が起動できない状況に少女は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、生まれ持った特異な力は健在している事を確認すると吹っ切れたようにはにかんだ。

 

『まぁいいや!そんじゃあおっぱじめようか!』

『ああ、フィーネが再び目覚めた今こそ我々が彼女の助けとなる時だ』

『人類の統合、永遠の世界平和を果そう』

 

三人のかつての主人が望んだ全なる者による人類の統合、そして恩人であるフィーネに加勢する為に永い眠りに付いていた三人は目的を再確認し、遥か東方で生体反応と共に感知したセイキロスの元へと転移した。

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