少し未来のシンフォギア   作:竹流ハチ

12 / 19
「また逢う日まで」

『返事はいつでもいいから、いつかお願いね』

 

とんでもないモノを貰ってしまった。

 

メキシコでの一件が後処理を含めて片付き、普通の学校生活を楽しんでいると球技大会の練習の時から何かとお世話になっている大和先輩に屋上へ呼び出され、断る理由も無いから屋上へ向かうと何を言われる訳でもなく手紙を手渡されてしまった。

 

可愛い封筒に入っているしさて中身は何やら、なんて能天気になれたら良かったけど世間に疎い私でもこういったモノが何なのかは知ってる。だから生まれて初めての事に対応に困っていると大和先輩は『そんな顔初めて見た』と可笑しそうに笑ってから屋上から去っていった。

 

「一体どうしたら……」

 

これまで幾度となくナンパはされた事はあるけど、こうした形での交際の申し込みは初めてだからベンチに座って手紙を読んでいくと、大和先輩の想いの丈がそこには綴られていた。

 

手紙とはいえ好意を相手に伝え、それも同性の相手ならば尚更勇気のいる行動の筈。私にはまだそういった経験は無いけど人付き合いが下手な私からすれば尊敬すらできる。

 

手紙を読み進めていくと大和先輩が私の事を心から好いてくれているというのがよく分かり、胸の中がポカポカしてくる様な感覚すら感じる。手紙を読み終えて胸に詰まった熱い息を空に向かって吐き出し、白い息が霧散していってからようやくどうしたらいいのかを思考が回り始めた。

 

率直に言えば、駄目だ。装者の家族は弱点になり得るから監視が行われる。今の装者候補生には全員家族が居ないから行われていないだけで、私に恋人が出来てしまえば身分を隠しながら守らなければならない。

それが現実問題として不可能だというのは響さんの過去から考えてもハッキリしている事だ。そして装者の家族に手を出す輩がその後にどんな手を使うかなんて考えるまでも無い。

 

あの人を守る為にも断るのがS.O.N.Gの職員としての役目だろう。

 

「……どうしようかしら」

 

でも、守りながら交際するという選択も私なら出来るかもしれない。

 

最近風鳴司令達が私に隠して研究しているセイキロスという名の完全聖遺物、私の中にある歌がセイキロスというのも予想が付くけどセイキロスは私にとてつもない力を与えてくれる。

 

シンフォギアを六つ同時起動し各部位に対応させ、並列処理することでシンフォギアとしての限界を引き出す【| 封印解除(デウスドライブ)】。人間に耐えられる筈のないそのフィードバックをセイキロスが掻き消してくれるお陰で私は今も生きている。

 

それにアニエルとの戦いで無意識的に呼び出したもう一振りのエクスカリバーがいつでも呼び出せるようになれば、きっと関係を結びながら影から守るというのも出来る筈だ。

 

今の私なら、きっと……

 

「少し、返事は待とう」

 

『返事は待ってくれるみたいだから少し私だけで考えてみよう』、暫くは今の関係でいるのがベストだと考えが纏まり、本部に帰ろうとしたがふと背後に人の気配を感じた。

 

扉が開く音は聞こえなかった、なら遠距離からの移動ができる相手だろうけど不意打ちをしないという事は対話を望んでいるのか。

荒事になっても絶対に落とさないように手紙をポケットに仕舞い、立ち上がってから振り返るとそこには現代には似つかわしくない先時代的な装いを纏った三人が立っていた。

 

一人は背の高い30代前半と思わしき銀髪の男性、真ん中に立っている同年程の紅髪の女、そしてその少し後ろに立っている同じ髪色で静香と同じくらいの女の子。凡そ武器となる物は持っていないみたいだけど、錬金術師同様油断ならない。

 

「うぃっす、フィーネ!相変わらず黄昏てるなんて笑っちゃうよ!」

「………何か用かしら?」

「迎えに来た」

「要らないわ」

「そう言わずに付いて来てくれ。我々もフィーネの様にカ・ディン・ギルを造った、君を頼っていただけ昔の私達じゃないんだ」

 

この三人が第二のカ・ディン・ギルを、しかもアニエルに続いてこの三人も私をフィーネと勘違いしているようだけどそんなに私とフィーネは似てるのかしら?

 

取り敢えず交戦するつもりは無いようだから三人を見定めていると一番短気そうな紅い短髪女は痺れを切らしたのか、近付いて来て私の腕を掴んできたから当然振り払うと露骨に苛立ちを見せた。

 

「まだアタシ等が役立たずだって言いたいの?」

「……ええ、そうよ。あんなゴミを造って私が納得すると?」

「ガワが違うだけで破壊力は一級品だし、聖遺物使わずにアレなんだから問題ないっしょ」

「大アリよ。貴方達は今や古い人間、こっちの事情も知らないのによく顔を出せたわね」

「相変わらず言うねぇ…」

 

此処でやり合う気はないけどフィーネが戦う場所を気にするとは思えないから強気に出ると、女も顔を突き合わせてきたが少女がその手を引き、今にも手を出しきそうな短気な女もその手は振り払おうとしなかった。

 

このタイミングで三人揃ってフィーネに会いに来た、復活というのはフィーネの事ではなくこの三人の事だったのね。

 

「姉さん、出直そう」

「此処はどうやら学び舎みたいだ。私達が傷付けていい場所ではない」

「……チッ、折角そのお高く止まったその鼻っ面へし折ってやれると思ったのに」

「フィーネ、君の言う通り一旦出直してから現代を学んでくる。その後もう一度話を聞いて貰えるかな?」

「ええ。その時までに呼び名も考えて来ることね」

「コミュケーションの一環か、そうしよう。助言感謝するよ」

 

女が少女に手を引かれて退がっていくとやけに聞き分けがいい銀髪の男はそう言い残すと、三人はその場から錬成陣を出す事もなく忽然と姿を消した。

 

錬金術とはまた違う手法、ロストテクノロジーによるモノならセイキロスを宿している私にも使えるかもしれない。幸い私の事をフィーネと勘違いさせたまま帰らせる事ができた、次会った時には確実に確保して目的を聞き出すとしよう。

 

またやる事が増えたから早く本部に帰ろうとしたその時、『りんり〜ん、りんり〜ん。海未ちゃんからだよ〜』と誰かに聞かれたらまず勘違いされる端末の呼び出し音が鳴り、一応周囲を確認したけど誰も居なくて胸を撫で下ろしてから通話ボタンを押した。

 

海未が勝手に着信音に設定しただけだから変えてもいいけど、変えたら変えたで煩そうだからそのままにしてるだけで愛着とかは余りない。

 

「もしもし?」

『あっ、真面目ちゃん大丈夫〜?』

「ええ、今から帰る所よ」

『じゃなくて〜、何か変な気配がした気がしたから〜』

 

相変わらず鋭い、本能剥き出しの海未は人の気配を察するのが得意だから異様な雰囲気は感じ取っていたか。

 

何処に居るのか手摺りに近寄って学校を見渡してみると、校門の前でオフロードバイクに跨りながら電話を掛けている人を見付け、その人が私に気付いてヘルメットを取ると其処に居たのはやはり海未だった。

 

この距離でも正確に探知できるだなんて海未もなんだかんだでとても優秀な装者だ。普段の素行の悪ささえなければ今からでも正式な装者になる事だってあり得るだろう。色んな意味でありえないけど。

 

『真面目ちゃんどうかした〜?』

「別に、何でもないわ」

『もしかしてラブレター貰ったとか〜?』

「っん」

『え!?当たった!?嘘嘘、誰から!?』

「知らない、私も帰るからそこで待ってなさい」

『送ってあげるからちゃんと教えてよ〜!?』

 

変な所でも勘がいいから思わず声が漏れてしまうと、海未が驚きの余りにバイクを倒しているのが此処からでも見えた。

 

誰からなんて絶対に教えるつもりはないから校門で合流しても口に鉄壁を築いて海未からの追及を無視し、本部に着いてからも聞いてくるから『この事を誰にも言わない』と約束させると海未も渋々ながら承諾してくれた。

約束さえすれば海未も口は固いだろうから信用するけど、他の人達にも勘繰られないように気を付けておかないといけないわね。

 

隙あらば尻尾を掴もうとする海未をはぐらかしつつ司令室に入ってから司令達に声を掛けると、先に帰っていた律と静香も居たが珍しく暁さんや月読さんもその場に混ざっていた。

 

錬金術で転移が出来るから普段は世界各地で活動している二人がこうして一度に本部に帰ってくるのは珍しい。各地にあるカ・ディン・ギルと思わしき遺跡の調査報告を確認しているみたいだし、何か進展があったのかもしれない。

 

「海未か、丁度いいタイミングで帰って来たな」

「おっ、もしかしてご指名〜?諭吉さん100人から考えてあげる〜」

「ああ。雪音と海未はイギリスに飛んでもらう」

「おっぱいさんも〜?私一人でも行けるよ〜?」

「今回は装者候補生の育成の一環だ。すぐに鉄火場に変えるお前達にもその頭脳を活かしてもらう」

「う〜ん……だってさ、マジメちゃん!」

「行くのは貴女よ」

 

装者候補生という立場上、人命救助か戦闘任務のどちらでもない限りは極力学校に通う事を義務付けられているが、S.O.N.Gとは本来各地の国家機関との連携を前提に活動している特殊な機関。

海未みたいにアームドギアなんかで雑に採掘していい遺跡はこの世に一つ足りとも無いのだからこの機に一般常識を学ばせるつもりなのだろう。

 

海未が駄々を捏ねているのを司令は無視して淡々とイギリスでの活動内容を伝え始め、私が聞いていても仕方ないから一旦鞄を部屋に置いて来ようとしたその時、司令の机の上に一枚の封筒が置いてある事に気付いた。

 

S.O.N.Gや国連が連絡に使うような無地の白封筒ではなく、城が描かれている柄有り封筒で細かい住所や切手が貼ってある事から個人宛の物に違いない。

この中でイタリアに直接由縁があるのは私だけ、きっと院長が私の事を気にして送って来たんだろう。

連絡先も伝えず出たというのにS.O.N.Gに送ってくるだなんて、司令達も私に気を遣って施設の監視をしていたんだろうか。

 

「あれ〜?司令それ誰のっ

 

司令が一人でいるときに受け取ろう、そう思っていると司令の話を話半分に聞いていた海未が手紙に気付き、司令も咄嗟に隠そうとしたけど海未はその手よりも先に手紙を握った。

 

すぐさま私が海未に足払いをかけ、手紙を持っている左腕を後ろで捻り上げながら床に叩き伏せて手紙を取り返したけど、司令室で激しい物音を立ててしまったから会議をしていた人達は静まり返って私達の方を見て唖然としていた。

 

少しやり過ぎかもしれないけど、私の手紙だけは誰にも読ませる訳にはいかないんだ。

 

「どこまで見たの?」

「どこって、手に取っただけだよ〜!?」

「英語で住所が書かれてるでしょ。覚えたの?」

「知らないよ〜!?司令助けて〜!?」

「放してやるんだアリア、私が無造作に置いていたのが悪かった」

「……人の手紙を勝手に見るのは礼に欠けるわ、覚えておきなさい」

 

何処まで情報を見られたかカマを掛けながら海未に尋問したけど嘘が本当か何も見てないと言い、風鳴司令も止めはしないものの放すように言われたから海未の上から退いた。

 

「いたたっ……」と蹌踉めきながら海未も立ち上がると此方を見ていた人達も元の作業に戻り、私も海未の乱れた服装を直してあげると少しは反省したのか海未もしょんぼりとした様子だ。

 

「ごめん……」

「謝ればいいのよ。それでは私はこれで」

「ああ、しっかり休むんだぞ」

 

今回はしっかり反省しているから海未の事は許してあげてから司令室から退出し、廊下を歩きながら改めて差出人を確認するとやっぱり院長から送られてきた手紙だった。

S.O.N.Gに入隊する為に施設を出てからはお金を送るだけで連絡は取っていなかったけど、司令達は院長の事を知っているから手紙も開けずに検閲しないでくれたのだろう。

 

エレベーターを待ちながら中の手紙を読んでいくと、一枚目には私の事を気にしていたり、渡しているお金で子供達が不自由なく過ごせていたりと近況が書かれていた。施設に居た頃は勉強と身体作りで忙しかったからあまり構ってあげられなかったけど、こうして役に立てているのなら幸いだ。

 

封筒の中には子供達の写真も入っていて、ロクに仲良くもできなかった私にも笑顔を向けてくれていて見ているだけで元気が貰える。いつか暇が出来たら会いに行こう、そう思いながら一枚目の手紙を封筒に仕舞ってから二枚目の手紙に目を通した。

 

 

 

 

「海未め……約束を破るとはいい度胸ね」

 

クラスで保険委員をやっているから球技大会での活動を纏める全体会議に参加させられ、先に帰っている海未にバイクで迎えに来るよう頼んだのに、幾ら待っても来ないから結局タクシーで帰る羽目になってしまった。

 

当然S.O.N.Gの経費で払ったけど無駄遣いには変わりはないし、そもそも私との約束を破るだなんて初めての事だ。来れないなら来れないなりに連絡をするようにお説教しないといけないわね。

 

今日は優しく接してあげないと心に固く誓いながらエレベーターに乗り、泣きそうなら少しは優しくしてあげようと妥協案を考えているとあっという間に司令室がある階で止まった。

 

「オヤツ抜きくらいでいいかァッ!?

 

そして扉が開くと同時にエレベーターから出ようとした瞬間、エレベーター前で屈んでいた所為で見えなかった人で足が躓いてしまい、体勢が崩れるとその人諸共倒れそうになってしまった。

 

咄嗟に腕を伸ばして屈んでいた人を押し潰さないよう片手で受け身をとったものの、勢いを殺せず廊下を転がると鞄からは教科書や文房具が廊下に散乱してしまい、あまりの厄日に倒れたまま深いため息が出た。

 

ホント、今日はとことんツイてない日ね……

 

「んも〜、そんな所で屈まな……ティナ?」

 

S.O.N.G内でいざこざを起こしたくはないから軽く注意しようと振り返ると、そこで蹲っていたのは学校でもよく目立つ金髪と変わった形の髪留めをしているティナだったけど何か様子がおかしい。

 

いつもなら自分で避けるだろうし、避ける事は出来なくともすぐに立ち上がる筈なのに私とぶつかって尻餅を着いたまま其処を動こうとはしていなかった。そんなのほほんとした所を見た事がないし、

 

こんなにボロボロと泣いている姿なんて見たことがなかった。

 

「ティナ、大丈夫?」

 

姿勢を崩したままずっと泣いているティナに声を掛けてもまるで反応が無く、変な悪戯かと思って周りを見ても誰も居ないから本当に泣いているのだろうけど、こんな姿のティナを想像すらした事がない。

 

調子が悪いなんて話も聞いてないし、誰かに嫌な事をされたなら立ち向かうタイプのティナが分け目もふらず嗚咽を漏らしながら泣いているなんて余程の事だ。

 

何をしてあげればいいのか色々考えたけど、ティナの弱い背中から海未が夜泣きしていた頃を思い出すと自然と体が動いた。

 

「ほら、どうしたの?」

 

ティナを後ろから抱き締めてあげると震えているティナは私の腕を掴んできたけれど、引き剥がそうとしてる訳じゃなくて何かに縋ろうとしているのかギュッと強く握られ、私も強く抱き締め返すと少しだけ震えが弱まった。

 

ティナの手には手紙が握られているけど、これが原因かしら?詳しい文字までは見えないけど文字列から見て英語ではなさそうね。封筒に書かれている城は確か……デルモンテ城だったっけ?

 

「もう……大丈夫…」

「本当に?」

「ごめんなさい……」

「いいのよ、友達なんだから」

 

何か掴める情報がないか探しているとティナも少しは気を持ち直せたのか立ち上がろうとしたから支えてあげ、何とか泣き止もうと目を擦っていたからハンカチで拭いてあげるとされるがままになっていた。

 

いつもの様子が嘘の様に素直、もしかしたらこっちがティナにとっての素なのかもしれないわね。ティナの家庭環境は知らないけどこんなに賢かったなら甘えるのも苦手だったのかもしれないし、我慢する事も早い内に覚えてしまって言い出せない事も多かったのかもしれない。

 

誰よりも賢くて強くても、ティナだって人の子なんだから泣きたくなる日もあるんだろう。余計な詮索は藪蛇ね。

 

「今日はもう休んでなさい。泣いて疲れたでしょ?」

「………」

「ほら、上がった上がった」

 

エレベーターの扉を開けてからティナを半ば強引に押し込み、ティナの自室のある階のボタンを押すと閉まり際に「ありがとう」と小さく笑ってくれたからきっと大丈夫だろう。

 

伊達に海未の姉をやってないからお姉ちゃんスキルには私も自信がある。あの様子なら明日にはいつも通りのティナに戻っているだろう。

 

散らばった道具類をバッグに詰め込んでから気を持ち直して司令室に向かうと、海未が司令に何かを猛抗議してるけど司令は淡々と書類を読み上げていて、律と静香も反応のあった遺跡について分析官と話し合っているみたいだ。

 

誰もティナの事は知らない、なら黙ってた方がいいわよね。

 

「空、丁度良かった。お前は暁とイタリア行きだ」

「うぇ〜、何で〜?」

「何でじゃない、遺跡調査と装者としての振る舞いを暁を見て学んでくるんだ」

「イタリアかぁ……イタリアねぇ………そういえばあの城もイタリアだったっけ〜?」

「あっ、それティナが持ってた封筒の事でしょ〜!?」

 

流石は海未、イタリアと聞いただけでパッと意思疎通ができるなんて愛しの妹はやはり違う。怒るなんて可哀想な事ができるわけがない。

 

イタリア行きなんて真平ごめんだから切歌さんに任せて私達はさっさと部屋に戻るとしよう。

 

「こら、話の途中だぞ」

「空ってイタリア語読めたよね〜?」

「ちょっとなら読めるよ〜」

「えっと、orfa……io…あと何だったけな〜?」

「『orfanotrofio』、そう書いてあったの?」

「そうそう!さっすが空、頼りになる〜!何て意味なの〜?」

「確か小学校って意味じゃなかったけ〜?あっ、イタリアにはちゃんと行くから日程は後で教えてね〜」

「全く、ちゃんと用意しておくんだぞ」

 

海未には取り敢えず適当な答えを教えて司令にもアピールをすると、特に勘ぐろうとしてこなかったから適当な事を言っていると流されたんだろう。

 

まさか司令達がティナの素性を知らない訳がないし、S.O.N.Gに入る前の事なんて言い触らす事でもないのは分かる。でもその住所から送られてきた手紙を読んでティナが泣いていたのなら話はもっと複雑かもしれない。

 

丁度良いタイミングでのイタリア出張だ、仕事は切歌さんに任せて私は少し別行動をしてみよう。

 

 

 

 

「フォルテ姉さん、これ見て」

「うぉっ!?ラルゴ、ガキンチョ共が演算機作ってるじゃん!?」

「この時代の者達も皆学び、進化してきたんだ。最早我々だけが特別ではないんだ」

「なーんだ、折角ドルチェの独壇場だと思ってたのに」

「こんなへっぽこ機械には負けない、でも欲しい」

「貢物とか貰ってたアタシ達が今や文無しとは、時代の流れは怖いね〜」

 

先時代から蘇った三人の巫女と神官、アリアの事をフィーネと勘違いしながらもその指示通りに世界の情勢を知る為に各国を旅していたが、三人を待ち受けていたのは予想を遥かに超える人類の発展だった。

 

かつては神から与えられる叡智の結晶であった演算機が各家庭に普及、選ばれし者の証であった首飾りがファッションアイテムとなり、果てには古代には無かった小型の通信機まで。

優秀な個から全てが分け与えられた時代とは違い、群として一人一人が機能した事が文明を大きく発展させたというのは三人も認めざるを得なかった。

 

しかし、家電量販店を巡っていた三人の前にあるテレビが映し出している映像は古代から変わらぬ光景だった。

 

「こんだけ発展してもやってんのは結局人殺し、笑っちゃうよ」

「信仰の違いだけじゃない、領土や資源を求めてイチャモン付けてる」

「彼女達の働きもこれでは報われないな」

 

中東で止まぬ紛争、それに便乗する諸外国の利権を求めた代理戦争は文明によって発展しても時代を超えても変わらず、変わっているのはそれぞれ建前は『平和の為』と公言しているくらい。

 

真に平和の為に戦っている現代の巫女達の活躍を知り、少しは期待をしていた三人は最早それが人類の限界なのだと悟っていた。

 

「アタシは何だっていいよ、フィーネさえ揃えばアタシ等が終わらせるんだし」

「でも、フィーネ怒ってた」

「突然の訪問だったからね。彼女の立場を理解する為、そして我々が現代社会で生きていく為にもまずは社会勉強はするべきだ」

 

三人にとってフィーネは一度裏切った相手、しかしその裏切りを予見していた三人にとってはそれはそれ程重大な事ではなかった。

 

神に最も寄り添った巫女として常に皆の前に立ち続けたフィーネが初めて恋し、そして初めて自分の為に叡智を使った事を咎める事をフィーネに恩のある三人には出来る筈もなかった。

 

フィーネの想いは長い月日の中でも叶う事はなかった、だからこそ三人はフィーネと共に世界の調和という目的がフィーネにとっても有益であると伝える為、全ての同士達によって施された一度切りのコールドスリープを果たした。

 

「で、誰かちゃんとした戸籍あるの?」

 

だが、フォルテの疑問に対して二人は答える事ができず、蘇って早々立ちはだかった大きな壁に三人はテレビを前で項垂れた。

 

新たな地に住み着くのにも前住所が必要な時代、選ばれし力はあれど住所が無く身寄りもない三人にとっては現代での身分証明は困難を極めていた。

 

「マジでどうすんの?路銭ならまたアタシが稼いでもいいけど、三人の生活は流石にずっとは賄えないし」

「取り敢えず、現代社会で必要そうな物を此処で探そう。その金額と用途を纏めて三人で相談しようか」

「うぃーす」

 

家電量販店で散開した三人はそれぞれ目に映る現代の神器に目を輝かせていたが、ドルチェは他に目移りする事なくパソコン置き場へ戻ってくると新型のノートパソコンを前に感動していた。

 

神の叡智を持ってしても終に叶う事がなかった演算機の持ち運びを後世で可能にしたという人類の進歩に感激しながらパソコンを眺めていたが、その値段が目に映ると肩を落とした。

 

姉のフォルテが得意の舞踊で路銭を稼いだお陰で三人共服を買い揃える事は出来たが、服の値段から考えるにそう易々と買える代物ではない。パンフレットを見るにかなりの有用性はあるが元手が足りないのではどうする事もできない。

 

『ん〜、君これ欲しいの〜?』

 

いつかの目標として頭に記憶して立ち去ろうとしたその時、突然ドルチェの後ろから目線を合わせる様に屈んだ女性が隣に並ぶと独特な間の伸びた話し方でドルチェに話し掛けた。

 

近付かれる気配を感じなかったのに間合いを詰められていた事にドルチェは敵対勢力の可能性を考えたが、周囲を警戒している女性がドルチェと同じパンフレットを手に取るとペラペラと捲り始めた。

 

「おっ、お目が高いね〜」

「誰?」

「私?私は通りすがりのお姉ちゃんだよ〜」

「名前」

「ん〜、シャフライ=ラスモーニャフっていうの。長いでしょ〜」

「長いですね」

「だよね〜」

 

ドルチェの質問に対して女性は警戒心を見せる事なく名前を名乗り、ドルチェも不用意な事は避けようと気を落ち着かせると独特な雰囲気を纏った女性はパンフレットを棚に戻し、近くを通った店員を手招きで呼び寄せた。

 

「はいお客様」

「このパソコン買うよ〜、はいカード」

「か、かしこまりました!少々お待ちを」

 

まだ未成年に見える女性から使用上限無しのカードを手渡され、説明だけで終わるつもりだった店員も気前のいい女性の気分が変わらぬように素早くレジへと駆け出して行った。

 

不思議な人だが邪魔をしては悪いとドルチェはパンフレットを戻して立ち去ろうとしたけれど、女性は立ち去ろうとするドルチェの手を握って立ち止まらせた。そしてドルチェの手にもう一度パンフレットを手渡すと、ドルチェは女性の行動の真意が読めず首を傾げた。

 

「あの」

「一足早いサンタさんからプレゼント〜」

「いいのですか?」

「うん、またね〜」

 

女性はたった今買ったパソコンをドルチェに譲ると言い出し、ドルチェも理由無しに施しを受けるのは気が引けたが女性は気にした様子もなく笑顔を見せてその場から立ち去って行った。

 

女性と話してからパソコンの入った箱を持ってきた店員も不思議そうにドルチェに手渡してまた店内を徘徊し始め、一人残されたドルチェは取り敢えず起きた出来事を自分の中で整理した。

 

まさかまさかの民からの貢物、フォルテ姉さんとそう変わらない風貌だったけどあの年で人への善意で身を割けるだなんて殊勝な心持ちだ。

 

「おっ、やっと見つけた。ドルチェは小っこいから見つけんの苦労……何その箱?」

「姉さん、この世界はまだ信じるに値しますよ」

 

人類の統一の際には彼女は間違いなく相応の立場に就く事だろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。