リディアン初等音楽院、S.O.N.Gの前身である特機二課が適合率の高い少女を効率的に集める為に作った学校はシンフォギアが公になった今ではほぼその機能が停止し、妙に機材が揃っているという事で幼い子等が音楽の道を目指す際の登竜門となっている。
海外から入学する生徒も少なくない中、その中でも一際異彩を放っている静香が所屬するクラスは今日授業参観日になっていた。
「それじゃあこの問題が分かる人?」
「はい」
「えーとっ、出来れば静香さん以外にも分かる人がいれば…」
「はい」
「……それじゃあ静香さん、答えられかな?」
二年生の時に転入してきた静香を当時から担任として見てきた冴島薫は静香が同年どころか同世代でも抜きん出た才覚があり、小学生の授業など教えるまでもないというのは当然分かっている。
だが学校とは社会性や社交性、大勢の中で生きていく術を学ぶ場でもあるから普段から感情が希薄な少女にはまだ教えられる事があると思っていた。
だが今日に限っては普段手を挙げない静香が全ての質問で挙手し、そして答えを言うだけではなくその理由や起源まで解説しようとするから冴島も主導権を握られないよう何とか授業を切り盛りしていた。
「次の問題はクロスワードになっていますので、ご家族の皆さんも一緒になって考えてみてください。答えが分かった方は挙手をお願いします」
冴島が徹夜で考えた音楽に絡めたクロスワードを生徒達に配って周り、手を叩いて同時に解き始めさせるとクラスの中央に座っていてよく目立つ静香が早速手を挙げた。
だが今回のクロスワードには絶対の自信がある冴島は静香の隣までやって来て回答を見て、同世代どころか自分と同じくらいじゃないかと項垂れながら回答に丸を付けた。
「静香さんは本当に勉強できるのね。先生自信無くしちゃう」
「偶々分かっただけです」
「私徹夜して考えたのに……えっと、静香さんのお姉さんですか?」
『はい。アリアと申します』
静香の複雑な家庭環境や保護者が有名な歌手である事も考慮して今までの授業参観ではこうした交流の場は遠慮していたが、今回の出席確認では静香は高校生の姉が来ると回答していた。
姉がいるというのも初耳であったが静香について話す機会が欲しかった冴島も心待ちにしていたが、この姉が居て静香が居るというのは一目見て理解した。
高校生だというのに自前のブランド物のスーツを持っていて、ただでさえ背も高いのに凛とした顔立ちは静香の親にしては若過ぎるにしても高校生にも見えない。そして姓すら違うのだから保護者同様『訳有り』の人物であると分かった。
「いつも静香がお世話になってます」
「いいえ、静香さんは本当に勉強熱心ですので教えるのにも力が入ります。今日はちょっと張り切っているみたいですけど」
「普段の静香はどういった様子なのですか?」
「や、やめて下さいアリアさん。これがいつも通りですから」
「普段は発表とかはあまりしないのですが、今日はお姉さんが来ているからか凄く頑張っていますよ」
「先生もやめてください…!」
他の生徒達がクロスワードを解いている間にアリアと冴島は学校での静香の様子について話し合い、何とか二人の話を遮ろうと静香も抵抗したが静香の話をしているとアリアが朗らかに笑っていて、周囲の環境が特殊な静香にとっては良い姉なのだと確信した。
他の生徒達も答えが分かって手を挙げ始め、会話を中断した冴島はまた全員の様子を見回りながら拗ねた静香を宥めるアリアを眺めていると、姉というよりも親友のような距離の近さを感じ、不思議な関係だと思いながら授業を進めた。
それからも静香はアリアの前で良い格好をしようと問題に対して挙手を続け、どんな問題でも間違いなく答える静香は良くも悪くも悪目立ちをしていた。だが冴島は敢えてそれを黙認し、授業の最後に保護者も交えて校歌の合唱をする為生徒達も立ち上がると冴島が伴奏を始めた。
生徒達の元気のある歌声、保護者達の戸惑いのある歌声、その中で部屋の中央で歌う二人の歌声はハッキリと教室内を響き渡り、その歌声を初めて聞く保護者達が目を丸くして驚いているのを横目で見てから冴島は伴奏に意識を向けた。
音程が合っている事や声の強弱ではない。静香の歌声には何処までも透き通るような純粋な歌への想いが込められていて、聞く人に愉しげに踊るような静香の感情が伝わっている。
そしてその隣にいるアリアの歌声はこの場で歌う全員を包み込むような温かさがあり、静香と手を繋ぎ歌える事への幸せが不思議と伝わり周囲の人達もそれに呼応するように合わせ始めた。
それぞれの個性が現れた即興の楽団による合唱が終わると自然に二人に向けての拍手が起き、拍手を浴びる二人は何が何だかといった様子だが静香が下世話な目で見られる事はないだろう。
授業も無事に終わり、生徒達が帰り始める中で冴島がアリアを呼び止め「少しよろしいですか」と尋ねるとアリアも快諾し、場所を応接室に移してから静香を廊下で待たせると二人は面談を始めた。
「アリアさんは歌がお上手ですね」
「さっきのは私達だけが褒められるようなものでは」
「やはり装者というのはそういった方達が集められるのですね」
面談を始めて二言目で装者について言及されアリアも警戒したが、「風鳴翼さんから聞いてますよ」と付け足されると胸を撫で下ろしたものの冴島も直ぐ近くに装者が二人も居るという事実に驚きしかなかった。
かつてノイズに襲われていた所を翼に救われ、縁があったのか翼が仕組んだのか分からずともリディアンでの教師生活が始まるや否や、装者である静香を託された冴島にとっては装者というのが並の子ではないと分かっていた。
だからこそアリアも装者と見抜き、下手に話を隠されるのを前持って防いだがアリアの心証は芳しくなかった。
「確証があってもなるべく隠すようにしてください」
「すみません。ただ私も保護者としての静香さんの身内の方とお話ししたかったので」
「………分かりました。静香の事で何か?」
「大した事ではないのですが、静香さんはやはり周りの子とはどうしても違うのでお家での様子を聞かせて貰えたらなと」
何か静香の不調を感じたのかとアリアも心して聞いたが、冴島は装者ではなく一人の子供としての静香の様子をアリアに尋ね、深い意味があるのかと一瞬考えたものの冴島の様子からそうではないと察したアリアは表情を和らげた。
高校生で装者になれる天才に感情論が通じるのか、冴島もそれを危惧したがアリアの変わりようを見て意識を改めた。
「楽しそうですよ。年上ばかりの環境ですけど、静香も気が強いですから」
「学校ではあまり友達を作ったりしようとはせず、本を読むか次の授業の準備ばかりで少し心配で。勿論それが悪いという事でもないのですが、小学校は初めて社会性を学ぶ場でもあるので」
「静香はちゃんと分かってます。現に同年の子を見下したりもしないし、威張ろうともしていない。あの子は友達を作るという事に慣れていないだけ、すぐに仲の良い子もできます」
静香の事を話すアリアは何処に出しても恥ずかしくない姉の様に振る舞っていて、「ちゃんと見てくれている人は居るんだ」と冴島も心の内でホッとした。
アリアも微かに聞こえたその声に「静香の事はみんな妹の様に可愛がってますよ」と応えると冴島は声が漏れたかと口を塞ぐ素振りを見せた。
するとずっと外で待たされていた静香が扉を開けて顔を覗かせて中の様子を伺い、冴島も予定に無かった面談だったから「詳しい話は別の日に」という事で打ち切り、アリアは静香が学校では一人の少女で居られるよう冴島に深く頭を下げてから応接室から出た。
よく出来た姉だと冴島も感心している中、学校から出たアリアは仏頂面をしながら隣を歩く静香の機嫌を取ろうと紅茶のペットボトルを渡したが、静香はそれを黙って受け取るだけで機嫌を直そうとはしなかった。
「私はちっちゃな子供じゃありません」
「分かってるわよ。ちょっと老婆心が出ただけじゃない」
「大体、私よりもティナさんの方が社交性を学ぶべきです。特別仲の良い方ができたのは私も嬉しいですけど、それでは律さんから相手が変わっただけですよ」
「そ、それも分かってるわよ。ちゃんとしてるから静香も仲の良い子を作るのよ」
「私は自然に仲良くなった子と友好を深めるので大丈夫です」
「ズルイわよ…」
静香も人の事を言えない筈なのに自分は出来ると断言してアリアの反論をきっぱり跳ね除け、アリアは納得がいかないと思いながらも一緒に歩いたが静香の機嫌が少し直っているのを見て一息ついた。
世間で広まり続けるトンネル爆発事故での判断に対するバッシングついては立花本部長が開いた会見で『あの場で出来る最善の対応だ』とフォローし、無責任に責め立てる世間に対しても苦言を呈した。
世間の信頼の厚い立花本部長の言葉、そして公開された現場の状況からも全員を救う選択を取れる状況ではなかったという考えも広まりだし、過激な意見は一先ずは息を潜めた。
心無い言葉に傷付いていた静香が引き摺っていないのなら身近な年上として見守り続けよう。そう考えているとアリアは不意に背後から視線を感じ、振り返ったけれど背後には誰もいなかった。
静香を見てもアリアの様子を不思議そうに見つめるだけだったが、「先に帰ってなさい」と告げてからアリアは静香と別れて街の方へと歩き出した。人が行き交う街中をアテも無く探して回していると、探し人である三人が優雅にカフェテラスでコーヒーを飲んでいる所を見つけるとフォルテが手を振った。
「おっす、しけた顔してて笑っちゃうね」
「誰かさん達の所為でね。何か用なの?」
「今日、面倒な事が起きるから事前に知らせておこうと思って」
「今この状況の事かしら?」
「もっと面倒。真面に相手したら装者はかなりの痛手を負う」
人目につかない所で過ごすように指示した三人が当たり前の様に街を出歩いているからアリアも呆れたが、ドルチェの忠告が冗談にしては具体的な内容だったからアリアも席に着いた。
「どういう事?」
「今日、東京スカイタワーで爆破事件が起きる。犯人はテスラ財団に協力していたパヴァリア残党の一人とその一味」
「へぇ、それを事前に止めればいいのかしら?」
「下手に警備を敷けば目標が変わって、次の犯行の予測が難しくなってしまう」
「そう、それで強い相手なの?」
「んにゃ、雑魚だよ。残党も下っ端だしアンタなら片手で倒せる」
単純に相手の戦闘能力が高いのかと聞くとフォルテがそうではないと言い、片手で倒せるとまで言わせるのならそういう意味での面倒や痛手ではない。
社会的地位の喪失や装者への批判。力無き民衆が振るう無力の武器が引き起こす出来事という結論に至るまではそれ程時間は掛からなかった。
「人数は?」
「分からない、私の予知は正確ではあるが自由に視れる訳じゃない。視れる先も時間もバラバラ、だから今回の件も視たのはつい昨日の話だ」
「そう、もし当たっていたら貴方達の言うことを全面的に信じてあげる」
「それとそろそろ何方に付くかも考えておきなよ。アタシ等は別にS.O.N.Gとやり合うつもりはないけど、アリアの願いはアタシ達じゃないと叶えられないのは確かだよ」
「それは私の未来も見えたって事かしら?」
「うん、死ぬってさ」
「人間はいつか死ぬからその予知は当たるでしょうね」
予知の内容を聞かれると未来が変わるからか真面目に応えるつもりはないようだから話を打ち切り、アリアが立ち去ろうとするとフォルテは「あの子、静香ちゃんだっけ?」と何の気も無しに背中からその言葉で突き刺さし、アリアの足が止まった。
「……本当なの?」
「次は死ぬ気で無理する。アンタ等S.O.N.Gじゃ止められないよ」
冗談ならこの場で叩き伏せる意志を見せながら振り返ると、フォルテはそれを気にした様子もなく手をひらひらと振っていて、言いたい事はあったが此処で事を構えてもシンフォギアが無い今はやるだけ無駄だからそのまま無視して帰路に着いた。
けれど思い当たる節が多いその心中は決して穏やかとは言い難く、事前に食い止める手立てが無いか考えを巡らせても翼をどう説得するのかという段階で手が詰まり、今のS.O.N.Gのやり方に対する焦燥感は一段と高まった。
S.O.N.Gは決して先手を打てる組織ではない。確証を得てから正式な手続きによる認可を取ってからようやく身動きが取れる国連公認の組織。存在が秘匿とされていた時代ならば多少は無茶も出来たかもしれないが、今は当たって砕けられる程小さな組織では無くなってしまった。
S.O.N.Gは今や人を助ける為の力を制限する枷になってしまっている。そして世間はその力に甘え、守られて当たり前だと勘違いしている。
誰かが変えなければいけない。絶対的な地位を手にして対抗馬も居ないまま気が抜けているS.O.N.Gを、守られる事を当たり前の権利だと勘違いしている民衆の意識を。
救われるべき命を救い、悪を徹底的に滅し、皆が正しき理念を基に生きる理想の世界に。
「アリアさん」
「っ、静香……」
「司令には報告しませんから、少し話しませんか?」
フォルテ達からの勧誘にアリアが再び心を揺らがせながら街を歩いていると下ろしていた視線の先に静香が現れ、三人と会っていた事を内緒にすると言い出して全て見られていたと悟ったアリアは黙ってその後に付いて行った。
静香の向かった行き先はかつてキャロル=マールス=ディーンハイムが吹き飛ばした旧東京都庁を中心に出来た平和公園。
何の因果かと思いながらアリア達はベンチに座ると静香の様子を伺ったが怒りよりも悲哀が滲み出ていて、アリアに道を踏み外して欲しくない一心で静香はアリアの右手を両手で強く握り締めた。
「一人で無茶したら嫌ですよ、アリアさん」
「しないわよ。私が一人で頑張った所で結果は見えてる」
「そう言って一人でセイキロスを使い熟そうとして、古代人達とも密会して、私がアリアさんの言葉を信じ切れると思いますか?」
「………心配掛けるわね」
「アリアさんはいつも誰かの為に無茶して、自分の事なんて考えようともしない。そんな生き方をしていたらいつか壊れますよ」
「分かって
「分かってないッ!」
心の内を悟られないよう静香の言う事を聞き流していたが静香がそれに我慢できずアリアの声を遮るように大声を上げ、周囲の視線を引いた。
初めて見ると静香の感情的な姿にアリアは目を丸くしているが、静香は目の前から消えて無くなってしまいそうな恩人を離すまいとまた強く手を握り、溢れる涙を拭う事も忘れて思いの丈をぶつけた。
「アリアさんが私の事を家族と呼んでくれて嬉しかった!ずっと一人だと思っていた私にも家族だと思ってくれている人が居てくれて凄く嬉しかった!なのに……なのにどうしてアリアさんは遠くに行こうとするんですか!どうして側に居てくれないんですか!」
「……」
「私は周りからどう思われたって構いません、言いたいなら好きに言わせればいい!けど、これ以上家族に遠くへ行って欲しくないんです!アリアさんにはずっと側に居て欲しいんです!」
これまで静香が一度足りとも望まなかった『家族』という存在、もはや血縁のある者が居ない静香にとっては形だけでも家族と呼んでくれたアリアには尊敬と共に親愛を感じていた。
似た者同士で姉のように振る舞ってくれるアリアだからこそ弱みを曝け出し、誰にも言えなかった我儘をアリアにぶつけるとアリアも隣に座っている頼れる仲間とはもう家族なのだと気付き、小さな家族を泣かせてしまう自分の不甲斐なさに呆れてしまっていた。
ありのままの自分の想いを伝えてアリアから返答を待つ静香にアリアも少しでも応えようと、これまで一度も打ち明けた事がない一人の少女としてアリア自身の想いを告げることにした。
「私はね、S.O.N.Gの皆がいるこの世界が大好きなの。皆が幸せになってくれるのが私の幸せだし、私が頑張れば誰かが笑って過ごせるなら私はどれだけでも頑張れる」
「ならどうして悩む必要があるんですか…?」
「……S.O.N.Gは優し過ぎる。このままじゃ誰かが傷付くけど、私はそんな所を見たくない。誰かが理想の正義を成そうと事を起こせば、国連もS.O.N.Gの存在感が無くならないようその権限を強くするわ」
S.O.N.Gを立て直す為にも、S.O.N.Gに甘える世界の意識を変える為にも、そして家族が笑って過ごせる世界にする為にも誰かがいつかやらなければいけなかった。S.O.N.Gと同じ目的を持ち、強硬な手段を取れる対抗組織の設立を。
アリアの口振りから不穏な意志を感じた静香はアリアに顔を突き合わせたが、アリアは変わらず穏やかな笑みを浮かべるだけだった。
「そんな事アリアさんがする必要なんてない!」
「誰かがやらなきゃいけないのよ」
「それがアリアさんである必要なんて…!」
「無くす物が少ない私なら適任よ」
話を聞いているけれどまるで意志を揺らがせる事ができずに焦る静香とアリアは優しく額を触れ合わせ、その小さくとも優しい温もりを感じると自然と静香の意志が伝わってきた。
遠くに行って欲しくない、ずっと側にいて欲しい、そんな幼い願いが渦巻く心の中心にあるのは『誰にも傷付いて欲しくない』という静香の優しさを象徴する想いだった。
過激派に狙われているのが静香じゃなかったら表沙汰にできない強引な手で残党達を黙らせたかもしれない。けれど静香がそう願うようにアリアも静香の事を愛しているからこそ少しでもその痛みを少なく済ませたいと思った。
『私も愛してるわ。これからもずっと』、アリアの心に反応したセイキロスがフォニックゲインの共鳴反応を起こし静香の心の中へと伝えると、念話の存在を知っている静香は驚いたように顔を離したけれど、その視線の先にはアリアが構えていた端末の画面が向けられていた。
装者が敵対勢力に寝返った際の対抗手段としてエルフナインが開発した脳に刺激を送ることで見る者を昏倒、少なくともシンフォギアを纏えなくする『映像型アンチLiNKER』を正面から見詰めた静香は映像に目が釘付けになり、思考能力を全て映像の処理に使わされるとやがて事切れたように気を失った。
「さようなら、静香」
自分を愛してくれている家族を害意から守る為、
誰かに愛されている罪なき人々を脅威から守る為、
未来を生きる全ての人達の平穏と安寧を守る為、
人類を纏め上げる全なる者になる覚悟を決めたアリアは横たわる静香の手元に発信済みの端末を置いてその場から立ち去った。
頭が痛む……一体いつ寝ていたんだ…
初めて感じる程の脳の痛みに額に手を当てながらベッドから起き上がると隣に座っているエルフナインは静香を寝かそうとしたが、静香はLiNKERの影響が強く残っていて頭の中に響く音が煩くてその声が上手く聞き取れない。
そもそも何で私は医務室に……今日は確か…アレ……そう、授業参観……
「…りに…ないで…!」
「アリアさん…」
アリアさんの心の中が見えたんだ。
私達は間違ってた、アリアさんはあの日からずっと泣いてたんだ。
誰かに助けて欲しくて、誰かに愛されたくて、誰かに止めて欲しくて。
エルフナインの制止を振り切って医務室から出て司令室を目指すと足取りも不安定で真っ直ぐ歩けず壁に寄り掛かったけど、一刻でも早くアリアを抱き締めようと足を進めた。
あの正義感の裏に隠していた孤独を間違った埋め方をしてしまう。『全人類の救済』なんて馬鹿げたやり方でその孤独を埋められる筈がない。きっと古代人に弱みを突かれてしまっただけなんだ。
何とか司令室前まで辿り着き扉が開くと司令室はディスプレイに映る惨状を前に騒然としていて、静香に気付いた翼が引き止めようとしたけど静香はすぐに転移室へと駆け出した。
「違う……アリアさんじゃない…あんなのアリアさんのやり方じゃない…!」
転移室に転がり込むように入ってパネルを操作して即座に東京スカイタワー前に転移すると、東京スカイタワー周辺には人集りと緊急隊員達が大勢集まっていて、その視線の先は夜空を赤く染める程の炎を噴いている展望台に向けられていた。
なりふり構っていられない静香はすぐにシンフォギアを纏い、ドローンに掴まり一気に展望台まで上がってからその中に飛び込むと着地の衝撃だけで全身が軋み、装甲に亀裂が入ったけれど静香の意識は既に視線の先にあるアリアに向けられた。
「『ティナ』さんッ!」
黒煙を立ち昇らせスプリンクラーでも消えない程の大火の中には多くの死体が転がっていたが、そのどれもが爆発ではなく胸に大きな穴が開いていたり切り裂かれていたりと他殺されていて、その血溜まりに立っている三人の前にはアリアが立っていた。
静香が呼び掛けると三人は振り返ったけど、ティナは目の前で腰を抜かしながらも携帯のカメラを向けている女を見下ろしていた。
「そ、それが貴方達S.O.N.Gのやり方なんでしょ!?邪魔な相手は殺して事故で死んだ事にするんでしょ!?」
「アタシ等がS.O.N.G?聞いてて笑っちゃうんだけどどうすんの?思ってたより早く来たし」
「そ、そこの貴方!この人殺しを捕まえなさいよ!」
「どうする?見せしめ?」
「やめて下さい!その三人の言っている事はまやかしです!そんな夢幻を叶える力なんて人間が持ってる訳がありません!ティナさんならこんな事をしなくても必ず側にいてくれる人が居ます!」
静香はカメラを向けている女に見覚えがあり、その女はトンネル事故の際に静香の責任を追求した助教授だった。調査によって人知を超えた力を使うを良しとしないシンフォギア否定論者の過激派であると発覚し、世論が変わった事に逆上し装者を誘き寄せてその正体を暴こうとしていたのだ。
アリアさんは今日この事件が起きると知っていたから私の為に無理をしたんだ。私の所為で…!
『煩いわね。装者?S.O.N.G?寝言は寝て言ってなさい』
炎で建物が燃えていく轟音の中でもアリアの声は静香の頭の中にまで響いてきた。
これまでは【|限定解除(エクスドライブ)】か【|封印解除(デウスドライブ)】の際にしか出来なかった念話の精度が急激に跳ね上がっている事に驚いていると、振り返ったアリアと入れ替わる様に女の前に立ったドルチェは手に持っていたボウガンで女の頭を撃ち抜いた。
その衝撃波は凄まじく遠くに立っている私にも伝わり、すぐ側に立っていたアリアさんの髪留めが床に落ち、腰の辺りまである長い金髪が下され水滴を滴らせながら静香の方を見つめていた。
その綺麗な琥珀色の瞳からは何の感情も感じ取れない、ただただ空虚な瞳が私を見つめていた。
「………バベルの使徒及びアリア・カヴァルティーナ!貴方達は国際特異災害項目七条『全世界に被害が及び得る人為的災害』に抵触した為、S.O.N.Gの名の下で拘束する!」
最早止めるには武力行使しかないと愛している筈の家族に両腰の火薬庫から覗かせている迫撃砲を向けたけれど、アリアはそれに興味も示そうともしなかった。
どうしてそんな目をしてまで世界の為に生きようとするですか……どうして私の想いが貴女に伝わらないんですか…!
「その名はもう捨てたわ」
「お願い……やめて…!」
「私の名は『フィーネ』!」
「ティナさん!こっちに来てッ!」
再び巫女と神官の導き手となった金髪琥珀目で永遠の刹那に存在し続けてきた先史文明期の巫女。
その魂は既にリインカーネーションを終えて居なくとも、セイキロスを産まれる前から保持していたが為にフィーネの器として身体だけが覚醒していたアリアは新たに受け継いだその名を叫んだ。
「終わりの名を継ぐ者だッ!」
二部は2期から4期を詰め込んだオードブル
残り7話くらい全部戦闘する、筈。
アリアがフィーネの器として覚醒したもののフィーネの魂は無い抜け殻というのは一部の頃からちゃんと考えてました。えらい