『静香が既に戦闘中だ、急いで向かってくれ!』
「了解!ここで降りるよ!」
「りょ〜かい!」
「分かってるわよ!」
まだ夜も更けていない都心の東京スカイタワーで起きた爆破事件は犯行と共にライブ中継がネットで配信され、その主犯はトンネルでの爆破事故でしずちゃんを異様に責めていたシンフォギア否定派のリーダー格でもあった助教授だった。
何者かの協力によってS.O.N.Gの独房から逃げ出した助教授とその仲間は最早正気を失ったかと言わんばかりに陰謀論を説き、世界中からの称賛を浴びようとしていたがその前に突如として現れたのは古代人である三人とティナだった。
古代人は瞬く間に助教授の仲間を殺し、その助教授もドルチェと呼ばれる少女に殺されたみたいだけど、助教授の携帯が壊れる前に聞こえたティナの口上は輸送車で聞いていた私達の度肝を抜いた。
「最優先でティナを止める!他の三人は後回し!」
「そんな分かりきってる事言ってないで行くわよ!」
「ちょ、空待ってよ〜!?」
輸送車では遅いからシンフォギアを纏ってビルの屋上を伝っていき、装者の到着に合わせて規制が入り人気の無くなったスカイタワー前までやって来ると空は鎖を柱を足場に跳び上がっていった。
空も何かを焦っているし、しずちゃんもアンチLiNKERを使われて適合率がかなり下げられていた。ティナが本気で戦う気だったならそんなまどろっこしい手は使わない筈だけど、しずちゃんが無理をすればかなり危険な状況には変わりない。
どうかティナの派手な潜入であって欲しい、そう願いながら柱を跳び移りながら展望台まで到達すると、その僅かながらの願いも叶う事はなかった。
きっとがむしゃらに戦ったんだろう。そこら中に爆発痕や穴が開いていて戦争でも起きたのかという惨状が広がっていたけれど、肝心のしずちゃんは壁に叩きつけられたのか亀裂の入った壁の前で血を流しながら倒れてシンフォギアも解除されていた。
今にも崩れ落ちそうな炎の中には古代人達が立っていたけど、そんな有象無象なんてどうだっていい。
「ティナ、本気なの?」
「くどいな、お前達はそればかりか」
「……そっか」
「りっちゃんダメだって〜!?早く退こうよ〜!」
「海未、彼奴らぶっ殺すわよ!」
「ええ!?」
相変わらずスーツ姿のティナが本当にS.O.N.Gを抜けて古代人側に着くのか聞いてみたけど、どうやら私達の話はもう聞く気がない様で我慢の限界を超えた空が鎌を構えて斬り込むと、フォルテ達もティナを守ろうと動き出した。
前回はティナに気を取られてあまり構っていられなかったけど、今日はすこぶる機嫌が悪い。鞘から長刀を抜き、最初からドルチェの首を狙って一閃を振るうと前回の鎖から変わって矛先が鋸の様に鋭利な槍を携えたフォルテが割って入ってくるとそれを防いだ。
すぐに刃を返しながら振り上げて腕を落とそうとしたけれど、すぐに手を離して片手で槍を振り下ろしてきたから位相を変えてその槍を避けた。私に触れる事は出来なくとも槍が叩き付けられた床は粉々に爆ぜていて、威力だけなら一級品だろう。
「っと、何今の避け方!?絶対あたぁ!?喋ってんでしょ!?」
「その間抜け面のまま殺してあげるよ」
「此奴ッ、笑わせてくれんじゃん!フィーネ、使っていいっしょ!?」
「好きにしなさい」
「よし来た!これが避けられるもんなら、避けてみな!」
何かを使うつもりなのかフォルテがティナに許可を求めて承諾されると私の間合いの中だという槍を引き、突き構えをとったから私も再び位相を変えて後の先を取れるようにその動きを注視した。
「りっちゃん避けてぇッ!」
ラルゴの相手をしていた海未が叫ぶと同時にフォルテは狙いを定める訳でもなく私に向けて突きを放つと、槍の穂先から無数の紅い稲妻が走り私の視界を埋め尽くしてきたけど、一瞬身を退いていたお陰で私に触れそうな何筋かは叩き落とせた。
位相を変えていたにも関わらずシンフォギアの装甲をかすめた稲妻は背後にあった壁を完全に突き崩し、瓦礫になる前に塵と化しているのを見るに退いてなかったらかなり危なかった。
フォルテも初見ならほぼ必中であろう隠し技がまさか避けられると思っていなかったのか、大きく距離を取るとティナの横に並び空達も一旦距離を取って再び硬直状態に入った。
「よく分かったね」
「凄いでしょ〜、ちゃんと見てから戦わないと怪我しちゃうよ」
「『ゲイボルグ』の完全聖遺物、何でそんなの手に入れてるのよ」
「場所を知ってたか、それともエクスカリバーみたいに呼び寄せたか」
「私が思うに真面目ちゃんかな〜」
「海未ちゃんの意見を採用、それじゃあ他の二人の武器もこの世界には現存してない聖遺物かもしれないね」
ラルゴとやり合ってたのに武器の特徴や剣の距離で突きを放つ絶対の自信の表れ、突けば30の突きに分裂するというケルト神話に出てくる『ゲイボルグ』だと判断したから海未は声を掛けてくれたんだろう。
海未の機転の回り方はこういった時にこそ役に立つ、ゲイボルグと分かってしまえば私だけで対処できるから後は残る二人の武器もこの世界には存在しない完全聖遺物の可能性はかなり高い。データが無いから初見なら戦い慣れてなくても勝てる見込みがある、ティナならやりそうな手だ。
逆に言えば、そういった武器を使わないと先手を取れないフォルテ以外は戦いに不慣れと考えてもいい。
「戦力分析は終わったようね」
「ティナ、私はティナを斬りたくない。大人しく投降して、そうすれば罪はその三人に背負わせられる」
「笑わせる」
「面白いこと言ったつもりはないけどね」
「百合根の名が泣くわね」
ティナが全く面白くない冗談を言うから腰に下げていた短刀を顔目掛けて投げると、フォルテが槍で弾いて天井に突き刺さった。
それで終わったと思ったのか得意げにしたけれど、すぐに短刀の柄にある動体センサーが起動すると『二分咲き 鳳仙落花』が発動してティナ達の上から短刀が降り注いだけど、ティナがフォルテから槍を奪い取ってその全てを叩き落とされてしまった。
フォルテ同様人の限界を超えた動き、シンフォギア無しでもあの動きが出来るなら多少斬っても致命傷にはならないか。
「りっちゃん、しずちゃん連れて退こうよ〜」
「今ふざけてる場合じゃないの」
「でも司令達も帰ってこいって言ってるし〜、空も何か言ってよ〜」
「此処で退いたら次のチャンスがあるかも分からない。此処で確実に仕留める」
「もぉ……怒られても知らないからね〜」
海未はティナと戦うのには乗り気ではないようだけど、いつかぶつかる日が来るのなら今日此処で決着をつけてしまった方が話が速い。
司令の声も夢中になっていて聞こえなかった、首三つ揃えて差し出せば事も収まるだろう。
「今回の件、大和さんは知ってるの?」
「………」
「悲しむだろうね、ティナがこんな事をするなんて。いや、寧ろ大和さんもその三人の手先かもしれない」
「っ!」
「偶然三人と出会して、偶然ティナと仲良くなって、偶然過去にもS.O.N.Gに助けられたことがある?私なら信じないし、上の人達も信じないだろうね。三ヶ月くらい勾留したら吐くんじゃないかな?」
どんなにフィーネの様に振る舞ったって中身はティナだ。大和さんを大切に思っているティナは受験勉強をしている大和さんを今から三ヶ月勾留するという意味を理解し、怒りに任せて突っ込んできたから私も腕の一本を落とすつもりで踏み込んだ。
そしてお互いに間合いに入ろうとした瞬間、窓の外から銃声が聞こえると私とティナの身体が身動きできなくなった。
即座に地面を踏み締めて無理やり『影縫い』を解いて砕け散っている窓の外に目を向けると、外では大きな凧に乗った調さんが私達に向けて銃を構えていた。
緒川さんから忍びの極意を受け取った調さんとはやりたくないから剣先を下げるとティナも構えを解き、調さんが燃え盛る展望台の中に入ってくると見た事もない怒気を感じたけど、その怒りを何にぶつける訳でもなく私達の間を遮ってティナの方を向いた。
「ティナ……いや、フィーネ。今はお互いの為、退いて欲しい。大和奏の身柄の安全は私達が保証する」
「………」
「学校にも登校したいならしていいし、S.O.N.Gからは絶対に手を出さない。情報統制もしっかりする、誰もフィーネの正体には気付かせない。そっちの三人も住処が欲しいなら私達が与える」
「マジで!?シャワーある!?」
「結構よ、私達はS.O.N.Gからの援助を受けない」
「そう。ならせめて何処で活動をするのか、連絡はして欲しい。協力出来るのなら私達も可能な限りはする」
S.O.N.Gを抜けたティナに対して月読さんはこれまでと変わらない保護を約束するとティナの端末まで差し出し、反論したかったけどこれ以上の戦闘はスカイタワーを完全に破壊しかねないし、何より月読さんの一存ではなくS.O.N.Gの意向なら従わない訳にはいかない。
空もそれは分かっている様で憎しげに睨みつつもしずちゃんを背負うと先に窓から飛び降りていき、ティナは迷った末に端末を受け取ると何も言わずに背を向けた。
「ごめんね、ティナ。私達がしっかりしてなくて」
「………」
「帰って来てなんて簡単には言えないけど、困った時は頼って欲しい。私達はティナの」
「家族なんて必要ない。正義を成す為なら私は誰とだって対峙する。たとえS.O.N.Gであろうと邪魔立てするなら例外じゃない」
「そうならない事を祈ってる」
「………帰るわよ」
「うぅ……また冷たい水で水浴びかぁ…」
月読さんは優しい言葉を掛けているけれど、対するティナは背を向けたままS.O.N.Gと対立する方針は変えようとせず、フォルテがティナの手を掴むと一緒に何処かへと消えてしまった。
此処も早く消火しないといけないし、エルフナインさんが戦闘データからドルチェ達の聖遺物の特定にっ
調さんもこの高さから下りるのは手間だろうから私が抱えて降りようと手を差し出すと、調さんは私の手を握るよりも先に近付いてきて敵意を感じさせない動きで私の頬を叩いて乾いた音を立てた。
「ッゥ…」
「ちょ、しらしらもまずいって〜!?」
「私が叩いたから司令には殴られない、感謝して欲しいくらい」
見た事も無い怒気をその静かな口調から発している調さんはそのまま窓の外へ飛び降り、海未が心配そうに手を握ってきたから気にしなくていいと笑ってから私達もその場を後にした。
ティナが完全に道を違えたのにS.O.N.Gがそれを後押しするだなんて、翼さんが何を考えているのかは私に人の心を望んだあの時から変わらずよく分からない。
人としての優しさなんて求められても怪物の私が応えられる訳もないのに。
地上で待機していた装甲車に乗り込んだ私達はそのままS.O.N.G本部へと帰って来ると暁さんが出迎えてくれたけど、調さんと同じように随分と怒っているようで何も言わずに私達を先導するとそのまま司令室へと入った。
自分のデスクの前で立っている翼さんは私達の方は見ようとはせず、「ありがとう」と一言告げると暁さんは司令室から出て行き扉が閉まった。全員忙しなく分析や情報統制に奮闘している中で翼さんが私達の方を見ようともしないのは海未も流石に居心地が悪いようだ。
「まず最初に言っておくが、静香はかなり危険な状態だ。あの環境で意識を失っていたんだ、身体の小さい静香なら尚更酷な状況だっただろう」
「申し訳ありません。判断を見誤りました」
「ごめんなさい……」
「そして静香の適合率が急激に落ちている。アンチLiNKERの効果が切れた今もだ」
多分ティナの裏切りがティナを心から信頼して尊敬していたしずちゃんには堪えたんだろう。それに一人であの三人を相手したんだ、無理もない話だ。
「次に海未が特定したゲイボルグだが、アウフヴァッヘン波形から考えても間違いなく本物だ。それにガングニールの波形とも特徴が似ている、全く同じとは言えないが恐らく『ガングニール』という括りから引き出せる聖遺物だったのかもしれない」
「ん〜?でもウチにあるのってロンギヌスが元じゃなかった〜?」
「そうだ。元々ドイツで管理されていて先の大戦での文書が焼け落ち、日本が保管するようになった際にはガングニールという名にすり替わっていた。つまり我々のガングニールは名ばかりの別物、アリアは本物を呼び寄せている」
セイキロスが完全聖遺物を何処からか呼び出すという報告はアニエルの中に居た私も聞いていた。けどエクスカリバーや目の前にある物に限った物だと思っていたし、それほど便利な物をティナがこれまで使わなかったというのも怪しい話だ。
「ある程度縁のある聖遺物を呼び出した。ガングニールがゲイボルグの原点と言われている点から観れば辻褄は合いますが、私達にラルゴのように盾を持った装者なんて……」
「1人居た、私も会ったことはないがアガートラームを盾のアームドギアとして扱えたらしい」
「概ね合っていれば呼び出せる。かなり厄介ですね」
「呼び出す度に精度が向上しているとも取れる。元は目の前にあったエクスカリバーを呼び出す程度だったのが、古代人達と出会ってからこうも容易く呼び出せるようになったのはあの三人の影響というのはほぼ間違いないだろう」
ティナが生まれる前からその身に宿していた歌の形をした完全聖遺物セイキロス、それを生み出した先史時代の生き残りが偶然ティナを見つけられたとは思えない。私達が存在を確認する前にティナは接触してたみたいだし、相手にはセイキロスを探知する方法がある。
なら見つけ出すのはそう難しい話じゃなさそうだ。
「エルフナインが詳しい分析をして、何か新しい情報があれば伝える。それでは次の話だ」
翼さんはそう言ってようやく私達の振り返ると隣に立っていた海未は怯える様に私の背に隠れ、仕方ないから海未の前に立ってあげると分かりやすいくらい怒りが爆発しそうになっている翼さんは私を見下ろしてきた。
「海未」
「は、は〜い?」
「海未は初めから交戦しようとはせず、静香を連れて退避しようとしていたな。何故だ」
「しずちゃん以外生きてる人居そうになかったし〜、居たらマジメちゃんが助けてると思ったからぁ……な〜んて、えへへへ…へへ………やっぱ怒る?」
「いや、海未の判断は正しい。そもそもあの爆破事件は助教授が引き起こしたものだ。アリア達は確かに犯行集団を殺しはしたが、まだ爆弾を所持している可能性を考えれば妥当な判断だ。私達と相対するとは言えど、一度も敵対するとは応えていない相手に事を構える愚か者にシンフォギアを託した覚えは微塵も無い」
今回の怒りの矛先は感情に任せて特攻したしずちゃんと命令を無視し続けた私と空。旧本部の時も私達から攻撃して今回もとなれば相手からしてみれば敵以外の何者でもない。
私も空も古代人は敵だと判断するに足りる確証があったから戦ったのだけど、翼さんはそれでは納得してくれなかったらしい。
「何か言いた気だな」
「相手は先史時代に生きた人間です、今の世界の常識を知らなければ当たり前のように空間を移動する。本当にあの連中が人助けをするなら私達よりも遥かに優れた技術を持った三人はすぐに企業からの援助を受けられる。そうなれば民衆の支持は相手に移り、私達は無駄金使いの税金泥棒と呼ばれる。勝ち目のないレースをするよりも対抗馬を消した方がっ
「司令怒んないで〜!?りっちゃんには私からきつ〜く言っとくから!?ね!?ほらりっちゃん駄目でたたたぁぁ!?りっちゃん痛い〜!?」
「もう、邪魔しないで。司令と話してる最中なんだから暇なら他所に
翼さんと話している最中なのに海未がふざけて私の口を塞いで勝手に終わらせようとするから塞いでいる手を捻り上げ、司令室の外に追い出そうとすると後ろから翼さんが捻り上げている私の腕を掴まれた。
それなりに痛む強さで握り締められ、「手を離すんだ」と有無を言わせない怒気を滲ませた声で指示されたから言われた通り手を離し、海未に「行くんだ」と言うと海未も迷った素振りを見せた後に駆け足で何処かへと去っていった。
「何故海未を傷付ける?」
「海未ちゃんのお遊びに付き合ってる暇がないからです」
「遊んでいるように見えたか?私には律を守ろうとしているように見えたが」
「有事でもないのに守られる必要は有りません」
翼さんは私に人の心を理解して、感情的な面を出して欲しいんだろう。百合根の名を持つ私に対する想いは私も理解できるし、少なくとも最後の一人の私には人として生きて欲しいから厳しくされているのも分かってる。
けど、そんな事を求められた所で『人でなし』の私には無理な話だ。
「翼さんも気付いてる筈です。私が歌を歌わなくても戦えるのではなく、歌えないけど戦えるだけというのは」
「………」
「皆の様に心の中から歌が湧いてこないし、湧いてこなくても適合率で誤魔化しが効いてるだけです。翼さんには申し訳ありませんが、人の心を理解できる装者になって欲しいなら他を当たってください」
「私は律に自分らしく生きて欲しいんだ。お前はアリアを友だと言っていただろう、なのにどうして簡単に剣が振れる?」
「ティナは……私と同じ『人でなし』と思ってたから、仲間意識があっただけです。でも空も言ってましたが、私とティナは違う。私はティナの様に自分の道を選べないし、選ぶつもりもない。それが翼さんが求めている私らしさ、友人の一人二人斬った所で今更後悔しません」
翼さんは私が百合根の血を根絶やしにしようとした理由を分かってない。人を斬って後悔するような心を持っていたら百合根の役目を果たすことなんて到底できなかった。
たかだか2.3年経った所で私の本性が変わる筈もない。
「天羽々斬が不釣り合いだと言うのならお返しします。私は貴方が望むような人間にはなれませんので」
装者である事に固執するつもりはないから私の腕を掴んだままの翼さんの手を解き、代わりに天羽々斬のペンダントを握り締めて貰ってから頭を下げて司令室から退出した。
後は翼さんがS.O.N.Gの司令官として私を辞めさせるのか、それとも割り切って次の装者候補生が見つかるまでの繋ぎの隊員として使うのか。何方にしろ決めるのは翼さんだから私はただ答えを待つのみ。
隊員としての道を選ばれたらその時はもう一度ティナと対峙して、私が為すべき事を為すまでだ。
確か子供が178人と付き添いが30人、乗務員は9人。うーん、これで全員!
高度700m上空。ヨーロッパ中の賢い子供達を集めてオーストラリアで自然保護に関する有難い講演を聞くという旅行プランは飛行機の自動操縦の気まぐれで紛争地域の上空を飛んでしまい、迎撃ミサイルで片方の翼が折れてエンジンも止まってしまう事故が起きてしまった。
S.O.N.Gにはすぐに出動命令が出され、謹慎処分中の空とりっちゃん、そして未だに目を覚さないしずしず以外。つまり私とガリィだけでの任務はテレポートで座標を指定してから飛行機の翼にしがみつけたものの、あまり考えずに来たから残りは全部アドリブでやるしかなかった。
結果としてキリちゃんに少し手伝って貰い、飛行機を下から支えるように巨大な竜巻の形をした氷の塔がペルシャ湾に出来上がっていた。氷の塔からは氷で作った滑り台で乗っていた人達が陸へと降ろしていき、全員が救助されたのを確認した添乗員の後に続いて私達も滑り台を降りると上空700mから降りるのは中々スリルがあって面白い。
楽しい滑り台を滑り終わってイランの領土へ降り立つと普段はあまり協力的ではないイラン軍が出迎えていて、先に話を付けてくれていた『フォルちゃん』達のお陰で余計ないざこざが起きずに済んだ。
「いやぁ、フォルちゃん助かったよ〜!ありがとうね〜!」
「いいっていいって。ほら、あっちの姉ちゃんにもお礼を言いな」
「S.O.N.Gのお姉さん、ありがとうございます!」
「良い子だね〜!何とこのお姉ちゃんは何処からともなく飴ちゃんが出せるんだよ〜」
「はぁ!?んでアタシがそんな事を……ちょ、分かったからあっち行ってなさいって!」
飛行機を止めることは出来たもののイランは領土に降りようとしたら撃墜するとか言い出すし、かといって一人一人船に下ろしてたら途方もない時間が掛かるところをフォルちゃん達がイラン側に現れると途端に協力的になってくれたから私達も大助かりだ。
イランが気前よく帰りの飛行機も用意してくれたから子供達もそれに乗ってお家へ帰って行き、フォルちゃん達とそれを見送ってから別れて私達も本部へ帰投した。
りっちゃんと空が謹慎になって以来、フォルちゃん達は私達の行く先々に現れては少し強硬ではあるけど問題を解決していて、S.O.N.Gとは違って顔出しOKだからその知名度もすぐに上がって連日ニュースのトップを飾ってる。
『バベルの使徒』、そう名乗っている三人は世界中での平和活動と救助活動を目的とした慈善団体として売り出し、S.O.N.Gとの協力関係を隠さない方針には国連の上の方も頭を悩ましているらしい。
下手に存在を隠さないから隠蔽も難しいし、かと言って表立って対立したら世間からの目も厳しい。
真面目ちゃんらしい真っ向勝負には恐れ入る。
まっ、私達は仕事が楽になるからラッキーだし、フォルちゃん達も話せば分かってくれるからこのまま仲良くいられるのならそれが一番だ。
「ん〜、美味し〜!ほら空も、あ〜ん!」
「んっ……」
「美味しい?」
「おいし…」
「良かった〜!」
日常に帰って来るとずっと働き詰めだったから司令も休暇を認めてくれた。久し振りに空と二人でスイーツ店へ足を運ぶと平日の昼間は流石に人も少なく、お店の中は私と空だけだったから隣で食べさせてあげていると空も美味しそうに食べてくれた。
謹慎になってから…ううん、それよりももっと前から空は少し疲れている様に感じてた。空は凄く優しいから色んな事に気を回してくれるし、私の事も構ってくれるから疲れてるんだと思ってたけど、どうもこの様子は違うみたいだから妹の出番という訳だ。
「何かあった?」
「ううん、気にしないで」
「気にするよ〜。だって大好きなお姉ちゃんが悩んでるんだよ?海未ちゃんって実は司令から褒められるくらい頼りになるんだよ〜?」
「……何でもないの」
「そっか〜。ん〜、最近しずちゃんのお世話ずっとしてるし〜、真面目ちゃんのお部屋も掃除してるし〜、あの時ヤケに三人を倒そうとしてたな〜」
「……………」
「空は失敗すると取り返そうとするし〜、何か失敗したからヤケになったなら真面目ちゃんがS.O.N.Gを抜けちゃった事かな〜?ん〜、でも何でそれを空が責任を感じてるのかな〜?」
「海未には敵わないわね……」
「おっ、喋る気になった〜?」
「もう殆ど正解よ、ティナがS.O.N.Gを抜けたのは私の所為なの」
それからは空が皆には内緒で真面目ちゃんのお母さんに会いに行って、真面目ちゃんと会うのを止めたと話してくれたから合点が入った。
折角数年振りにお母さんに逢えると喜んでいた真面目ちゃんとお母さんを引き離してしまって、それがS.O.N.Gを抜けてしまう引鉄になってしまったと思ってるんだ。
空が正直に話してくれたから頭を撫でてあげると空は苦しそうな表情をしていて、ここまで話が拗れてしまうとら思ってもいなかったんだろう。
「静香もティナに家族と呼ばれて喜んでた、それなのに私が勝手な事をしたから……!」
「誰も空の事を責めたりしないよ〜」
「その方が嫌なのよ!折角海未が笑っていられる場所が出来たのに、私がそれを台無しにしてたんじゃ意味が無いじゃない!」
「空、し〜」
私の幸せをずっと考えてくれて、皆の幸せをずっと考えてくれて、皆のお姉ちゃんでいようとしてくれていた空がやっと私の前で弱さを曝け出して泣き始め、少し声のボリュームを落としてから目一杯抱き締めてあげた。
いつも夜が怖くて泣いていた私に空がしてくれた様に震える体を抱き締め、空が思いっきり泣いても私がギュッと受け止めてあげた。
「空ばっかりに心配掛けてごめんね〜。でも大丈夫、誰も空を責めたりしないよ〜」
「っ……海未…私どうしたら…っ!」
「真面目ちゃんもすっごく悩んで、悩んで悩んでS.O.N.Gを抜けたと思うの。だから、真面目ちゃんの事は空の責任じゃないし〜、真面目ちゃんも私達のことを嫌いになんてなってないと思うよ〜」
「でも……静香に顔向けできない…」
「私からちゃ〜んと言っておくから、ね?ほら良い子良い子〜」
空はしずしずが傷付いてしまった事を凄く気に病んでるみたいだから、しずしずには私から事情を説明してあげる事にすると空は私の胸に顔を埋め、私もおっきな甘えん坊をしっかり抱き留めた。
これで空が責任を感じなくなればいいけど、暫くは見ててあげないと危なっかしいな〜。ナインちゃん辺りに頼んで暫く様子を見てて貰おうかな〜。
「ほ〜ら、元気になったら甘い物が食べたくなるでしょ?もう一口ど〜ぞ」
「……ありがとう、海未。本当に良い妹を持ったわ」
「それはお互い様、でしょ〜?」
とっても優しくて頼り甲斐のあるお姉ちゃんでも偶にはこういう時だってある、そんな時はいつもお世話になってる妹がしっかりフォローしてあげなきゃいけない。
それが私達譜吹姉妹の生き方、生涯を懸けて証明していく命題なんだから。
少しは元気を取り戻した空を餌付けていると私の端末が鳴り、見たくないけど恐る恐る画面を見るとやっぱり召集が掛かっていた。動ける人数が少ない今は真面目に働くしかないからため息を吐きつつ立ち上がった。
「空も帰る〜?」
「ええ、一人で居ても仕方ないし」
「それじゃあ帰りは空の運転で帰ろっかな〜」
「仕方ないわね」
お代を払ってから空にバイクのキーを渡し、後部座席に座って急かすと空も呆れながらもヘルメットを被ってからバイクに跨ってエンジンを吹かすと、いつもより少し速度が速いから飛ばされないようしっかり後ろから抱き締めた。
今日も空は招集で呼ばれなかったのはまだ司令達が空が独断で戦い始めると警戒しての事だろうし、空もそれは分かってくれてると思うから気にしてないといいけど。
「シュルシャガナとアガートラーム、火災現場に到着。同時にバベルの使徒のドルチェの到着を確認」
「早いな、先史時代の空間転移とはいえこうも便利なものなのか?」
「恐らく何かしらの位置情報と紐付けして飛んでいるのだと思いますが、情報が少な過ぎて何とも……」
「ドルチェの聖遺物を分析、やはりアレは現存する聖遺物とパターンが一致する物はありません。ただ、アウフヴァッフェン波形を検知できるという事は」
「ただ使ってる訳じゃなく、適合しているという事か」
「その可能性は高いかと」
櫻井女史、そしてフィーネが残したシンフォギアという異端技術に関わるエネルギーパターンの一致。装者が先史時代に於ける巫女の代わりならばあの者達は全員巫女や神官という事か。
だがフィーネはそういった者達を裏切り、バラルの呪詛を破壊してでもエンキとの再会を願った。なのにあの三人はそれでもフィーネを慕い、アリアにその代わりまでやらせている。それにセイキロスが歌の聖遺物なのも偶然とは思えないが、フィーネがシンフォギアやフォニックゲインという観点に最初から目を付けていたとも思えない。
世界各地に点在する製造年がバラバラのカ・ディン・ギルはバベルの使徒が長い期間歴史の陰で建造していたのなら、その過程でフィーネの狙いに気付いて歌の形を選んだ。
フィーネならばセイキロスの意図に気付いて必ず覚醒させ、再び自分達を導いてくれると信じて。
だが、実際には櫻井女史が研究者として大成する前に母親のお腹の中にいたアリアにセイキロスは受け継がれ、アニエルを倒す際に覚醒した事でようやく三人も目を覚ました。
「セイキロスは自分達に適合する完全聖遺物を呼び出す為に用意した。この予想をどう思うエルフナイン」
「あり得ますね。如何に形を保っていても適合しなければ使い熟せない、特にシンフォギアも無しなら尚更です。かつて巫女だったのなら神からの寵愛を受けた者達が集まっていてもおかしくはありません」
「しかしセイキロスは高い共鳴反応を示しています。その目的が一つだけとは考え難いかと」
「そうだな。それならばペンダントや指輪でも良かった筈だ。けれど歌を選んだ。シンフォギアや聖遺物のように真価は発揮出来ずとも、万人が共通の力を生み出せる手段を」
「聖遺物は適合率が低くても多少なりともフォニックゲインを発します。歌の形をした聖遺物であるセイキロスなら一度歌えば数多く人達のフォニックゲインに共鳴するでしょうね」
共鳴、私達もS.O.N.Gを抜けた立花を探す為にレイラインを利用して絶唱する事で地球規模で共鳴反応を探知するという手を使った。それを所構わず自由に行えるという事はセイキロスは全てを見渡す目にもなり得るわけか。
完全聖遺物の供給、人類の監視、不穏な言葉が並び始めたな。アリアがそれに気付いていない訳もないし、それを目的に動いているのなら早急に手を打たなければ身動きが取れなくなってしまう。
「バベルの使徒は本当に平和の為に活動している様に見えますが、執拗にフィーネに拘った理由が未だ見えないのが怖いですね」
「エネルギーが充填されたカ・ディン・ギルは全て監視しているが、その何処にも出没したという情報はない。本来セイキロスを目覚めさせる筈だったフィーネへのメッセージという線は固いだろうな」
「アリアさんが三人を纏めている事を考えても不穏な動きがあればアリアさん自身が対応する筈、我々よりも対応や判断が早いのはアリアさんが指示しているからと考えれば納得もいきます」
「アリアだからこそ相応の信頼も出来る、やり辛い相手だ」
力に振り回されて闇に堕ちるという心配がない相手がこうも取り扱い辛いとは、アリアはS.O.N.Gから手が出せないような対抗組織が生まれる事も懸念していたんだろう。
アリアは本気で私達よりも人を助ける組織としてS.O.N.Gと対立する気だ。それだけならまだ共存の道はある、だが古代人達はわざわざ何千年もの時を超えてただ人助けの為だけにここまで大事を起こす必要があったのか?
人助けをしたいならフィーネは関係なかった筈だ。何故フィーネに拘った?聖遺物とは関係無しに人に触れるだけで静香を治癒したあの力は一体何だったんだ?
フィーネとあの三人の関係性、三人が隠している素性が掴めずにいては私達も強硬な手段を取る訳にはいかない。だが万が一があればそれぞれ抱えた問題に直面して不安定な装者候補生ではなく私達が出る必要もあるだろう。
「ん、イガリマの反応?場所はこの街です、映像を写します」
「イガリマだと?」
海未達とドルチェが協力して救助活動を行っている中、突然市街でのイガリマの反応を捉えた藤堯が画面に映像を映すと、イガリマを纏った空がS.O.N.G本部が立つこの街のビルの上に立っているのが分かった。
空は周囲を見渡しながら時折端末で何かを確認するとビルを跳び移っていき、悪戯でイガリマを纏っている訳では無さそうだがそうでないなら何をしているんだ?
「端末の画面を出せるか?」
「少々お待ちを」
空が何を確認しているのか端末の画面を此方でも反映させて画面に表示させると、都心の地図を広げて立ち寄ったビルにマーカーを付けて回っているみたいだ。その範囲は数キロに及び、点々と跳び移ってはマーカーを追加していき、この調子でいけば大きな円を描くようにマークが置かれていくだろう。
空と海未は許可を求めても通りそうにない時は事後報告で済ませる悪癖がある。気付かれないわけもない今回もそれなのだろうが、一体何をしてるんだ?
「このまま円を作ったら中心は何処だ?」
「えっと、旧都庁がある平和公園です」
「彼処か。その割には始めた頃の点は旧都庁から右往左往しながら遠ざかってるな」
「ですが今は大きく円を描いて……止まった」
大きな円を描くように移動していた空は突然立ち止まり、現在地をマークしてから地図の範囲を広げると西へ顔を向けた。そのまま西に行けば旧都庁に着くが、マークをしてから旧都庁に気付いたなら何かの場所を調べていたことになる。
「『空、帰って来るんだ』」
何かまた無茶をする前に帰還するように指示をすると、当然見られている事を分かっていた空は周囲を見回してから私達が見ている監視カメラを見つけると、苦しみに表情を歪めたまま深く頭を下げた。
『ごめんなさい、私もS.O.N.Gを抜けます』
「『馬鹿を言うな』」
『私の所為でティナがS.O.N.Gを抜けました。必ず私が連れ戻します』
「『頼む、一人で無理をするな。空が抜ければ海未はどうする?』」
『海未なら一人でも大丈夫です。私よりもずっと賢くて、優しい子ですから』
頭を上げた空は今にも泣きそうな顔を見せてからヘッドギアを外すと手から零し、真っ直ぐに旧都庁へと向かい始めた。
確証はないが海未と同じように装者が感覚的に古代人を追えるのなら空は古代人を追えなくなる境界線を探り、そこから弧を描く事で中心点を導き出したんだ。
「旧都庁にバベルの使徒がいる!至急非常回線を暁に繋ぐんだ!」
『ちょっ、今質疑中デスよ…!』
「空がバベルの使徒と旧都庁で交戦する気だ!止めてくれ!」
『ッ、リョーカイです!チョッチ失礼!』
オーストラリアで行われている世界自然会議にS.O.N.G代表として送っている暁に無理を言って呼び戻し、転移するポイントとして旧都庁は登録されていたからすぐに反応を確認出来たけれど空の反応は止まる事はなく、このままでは街中で暁が戦闘することになる。
シンフォギアの相手ならダウルダヴラを使わざるを得ないが、未だ加減が出来ない暁のファウストローブを街の中心で使う訳にはいかない。
「百合根は何処だ!?」
「今は学校です!端末も置いて行っているようです!」
「……エルフナイン、暫く任せる。他の者達は海未達の援護を続けるんだ!」
「えっ!?僕ですか!?」
暁と月読がシンフォギアを使えない以上、私の手の内にある天羽々斬が現状一番自由が効く。司令塔が動けば指揮が乱れるのは重々承知しているが、今ここで空まで失えばいよいよ装者候補生の存在意義まで危ぶまれる。
才に恵まれながらもそれを活かせていなかった者達に未来と安寧の場を与える為に作った装者候補生制度。だが装者候補生達は自らが大切だと思っている者達の為に自分一人で全ての責任を負おうとしている。
あの子達を守るのが私の役目だというのに、互いの為に刃を向け合う姿を座して待つことなぞ出来よう筈もない。今一度、私に力を貸してくれ天羽々斬。
「外が騒がしいねー、ラルゴ見てきてよ」
「そう言って手を進める気だろう」
「しないってば、フィーネもそう思うでしょー?」
ガキンチョ達が作ったボードゲーム、チェスというのでラルゴと遊んでると家の外ではイガリマとよく分からないのが戦い始め、アタシの駒の尽くを奪ったラルゴに様子見して来るように頼んでも頑として動こうとはしなかった。
この家に越してきたフィーネはドルチェからカ・ディン・ギルの設計図を見せて貰ってからはそれとにらめっこばかりだし、アタシ等はフィーネの言う通りに動くつもりではあるけど指示も無いんじゃ張り合いもない。
「そら、チェックだ」
「このぉ……」
ラルゴもさっさとトドメを刺せばいいものをいたぶってくるからどう盤面をひっくり返そうか思案していると、元の持ち主の趣味なのか全面銀で出来た壁の向こうで聞き覚えのある旋律の歌が聞こえてきた。
それと同時にイガリマの反応がより強くなり一瞬その神威が放たれると銀の外壁が爆発で吹き飛び、戦っていたであろう女の人が吹っ飛んできたからすぐに机を蹴り倒して女の人を空中で受け止めて着地した。
「イタタ……生身相手に絶唱とかやり過ぎデスよ。って!?マジで居たデス!?」
「正義の味方、フォルテさんだよ。で、あっちが空だっけ?」
私達の神通力とは少し違う、変わった力を使っていた女の人は私達が隠れていたのを知らなかったのか驚いてるみたいだけど、イガリマを構えている空は私達を見つけられて良かったと安堵してる様にも見える。
手抜きしてたらイガリマだと一撃で殺される。フィーネもかなりタチの悪い聖遺物を使おうとしたもんだ。でも絶唱ってのは装者にかなり負荷を掛けるみたいだし、現に空も立ってるのがやっとって感じだ。あれじゃアタシどころかラルゴも倒せやしない。
「何か言っても聞かなそうだけどさ、一応フィーネもアンタ等と事を構えたくはないって言ってんの。聞き分けないしつこい女は嫌われるよ」
「何千年も粘着してるのはそっちでしょ」
「フィーネはアタシ等にとっては恩人、その夢の手伝いくらいしたってバチは当たんないでしょ」
「そう、ならその夢はS.O.N.Gとティナで叶える。貴方達には此処で消えて貰う」
「やっていいんでしょ?」
フィーネはS.O.N.Gに戻るつもりなんてないのに空はやる気満々みたいだし、アタシも黙ってやられてあげるほど優しくはないからフィーネに許可を求めると、無言の了承が返ってきたからゲイボルグを現界させて構えた。
そして空が歌い出すと同時に伸びる鎖で牽制を仕掛けてきたからゲイボルグの穂先でそれを絡め取り、空の動きを制限しようとしたけど鎖は囮だったのか一気に間合いを詰めてきた。あくまでその手に持ったイガリマでアタシの魂を刈り殺すのが目的なのだろう。
穂先に絡めた鎖をしならせ、その足を絡め取ろうとすると空が跳び上がったからそれに合わせて私から距離を詰めて槍を力強く振り下ろした。その一閃は小さな鎌で受け止められたけれど、無理矢理足を着けられた空の足元の床に亀裂が入りシンフォギアでは受け止めきれなかったのか膝まで着いた。
その隙に更に詰め寄って蹴りで放つと防御はされたものの、空は床の上を転がっていき距離を離すことは出来た。
「もう分かったっしょ、アンタじゃ勝てないって。アタシ弱いもん虐めとか趣味じゃないんだよね」
「ハァ…ハァ……」
「アンタさ、フィーネが何でアンタ等から離れたか分かってんの?アンタ等がいつまで経っても惚気てて、だーれも本気で世界平和を目指してなんかいなかったからでしょ?だってそんなのは夢物語、S.O.N.Gじゃ実現不可能だってアンタ等が一番分かってたんだから」
女の人が身体を酷使した所為で吐血している空の側に駆け寄り、最早戦える状態じゃないだろうし血を吐いて頭も冷めただろうから口で分かりやすく言ってあげると、その目は未だに私を睨み付けていた。
弱いもん虐めは好きじゃないけど聞き分けのない子もあまり好きじゃない、幾らフィーネの古巣とはいえあまり障害になるようなら排除する必要があるか。
「次アンタが攻撃してきたらアタシはフィーネとか関係無しで殺す。もう邪魔しないで、分かった?」
「空、もう帰るデスよ。みんな心配してるデス」
『姉さん、どういう状況?』
『ドルチェ、次イガリマが動いたら撃って』
『了解、フィーネは了承済み?』
『さぁね、嫌なら止めるでしょ』
どうやら山火事の救助活動が終わったドルチェが遠くから此方を捕捉してるみたいだし、空の動き次第では矢で射抜くように頼むと快く引き受けてくれた。
流石私の妹、心が通じ合うってのは手っ取り早くて助かるよ。
「ほら、見逃してあげるから帰った帰った」
「連れて帰らなきゃ行けないのよ……!」
「帰れって言ってんの、最終通告だかんね」
「ティナのお母さんと約束したのよッ!」
『撃って』
感情が表に出過ぎて話を聞く気が無いみたいだからドルチェに狙い撃つように頼むと、崩れた壁から見える遥か遠くのビルの頂上で引き絞られた矢が煌めき、女の人が後ろに目でも付いてんのかってくらいに目敏く反応したけどもう遅い。
雷鳴と共に矢が放たれると女の人は人智の壁を築いたけれどそんな柔な盾で防げるようなら神話にはならない。フィーネには悪いけど昔馴染み二人は全人類の調和の礎になってもらう。
まさに目にも留まらぬ速さの雷矢が二人を射抜くかんとしたその時、崩れた壁を隠す様に空から巨大な壁が降り落ちてきて地鳴りと共に家が大きく揺れ、壁の外に築かれた壁は紅く溶け落ちながらも神の雷矢を受け止めてみせた。
ラルゴの盾ではないからS.O.N.G側の誰かなのは間違いないけど、あの一撃を受け止められるとコッチの最大火力が通じない事になる。
予想外の隠し玉がやってきたみたいだからゲイボルグを構え直していると壁を伝って外から入ってきた新しい装者からは祭囃子のような音楽が聞こえてきた。だけどアタシでも計り切れない圧、そして天羽々斬と何かもう一つ混じったような違和感を感じるがそれだけで空とは別格なのが伝わって来る。
「アンタ何者?」
「S.O.N.Gの司令官、風鳴翼だ」
「今度は司令官自らとは。それでどうすんの?全面的にやり合うの?」
「いや、S.O.N.Gの隊員が多大な迷惑を掛けた事への詫びを言いに来た。すまなかった」
「………いいよ、今回までは許したげる。けど、また他の誰かが来たら容赦しない」
「しかと心得た。帰るぞ大馬鹿者」
S.O.N.Gの司令官がわざわざ出張って来るとは思ってなかったのか、空はさっきとは打って変わって大人しく二人に連れて帰られていき、風鳴翼がいなくなると巨大な壁は自然と消滅したから胸を撫で下ろした。
現代にアヌンナキに見劣りしないの実力者がいたとは知らなかったけど、アタシ等とは事を構える気は無いみたいだから暫くは様子見でいいか。空も去り際にフィーネの方を見ていたけどフィーネは気にした様子もなくまだ設計図を見ていて、未練は大して無いようだし心配は要らないか。
「姉さん、さっきのは?」
「S.O.N.Gの司令官だってさ。あんな壁作れるとかヤバ過ぎんでしょ」
「あれは壁じゃない」
「じゃあ何なの?」
「この建物と変わらない位の巨大な剣だった」
「うっそ……アレはちょっと相手したくないなぁ…」
空や律が大した事なかったから甘く見てたけど、あんなのがもう何人か居るとなるとフィーネにはもう少し気張って貰わないと困る事になりそうだ。
「フィーネ、聞いてんの?」
「……何か言ったかしら?」
「喋るのめんどいならアンタもアタシ等と念話してよ。その為のセイキロスなんだから練習しとかないと」
「気が向いたらするわ」
「向いたらって……まぁいいや」
設計図を読んでるフリして何か考え込んでいるフィーネもそろそろ前に出張ってくれればいいのに、まだメディアへの顔出しNGを貫いてるお陰で私とラルゴはそっちの対応までやらされてるんだ。
カ・ディン・ギルなんてフィーネと会えた今となってはただの飾り物なのに何を撃とうとしてんだか。
「次会ったらホントにやるから覚悟しといてよ」
昔からフィーネは私達の前で本心を語ろうとはしなかったし、エンキ様もエンキ様でフィーネを特別扱いしてたから同じアヌンナキから人類諸共見限られてしまったんだ。
私達が仕えていた方だけは人類の衰退といずれ来るであろう困難に立ち向かうべく人類の統合、全なる者の統治を目指していたけれどエンキ様と一緒に私達の前から居なくなってしまった。
アヌンナキを失い、フィーネを失い、仕えるべき主人を失った私達は同志達の命を懸けてセイキロスを作り出した。全ては人類全ての平和と平穏の為、誰一人として蔑まれる事もなければ虐げられる事もない理想の世界の創世の為。
「アンタには新しいアヌンナキになって貰うんだからしっかりしてよね」
「……」
聞いてんだが聞いてないんだかよく分かんないけど、S.O.N.Gの相手も出来ないようならセイキロスも適合しなかった筈だし、暫くはフィーネの言う通り気が向くまで待ってあげるとしよう。
次回、渾身のオリ歌パート。
装者候補生達の強化の為に羞恥心を捨てて書き殴りました。