少し未来のシンフォギア   作:竹流ハチ

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装者候補生制度が凍結し、心身共に傷付いた装者候補生の中で活動可能なのは海未一人となった。

翼は望まない争いからは身を退いていた海未を起点に状況を打開しようとするが、フィーネになる事を選んだアリアの選択を邪魔する事も望まない海未は修行を抜け出した。
だが、そんな海未を頼る者が現れると海未は決意した。

自分の姉と決めた命題を果たす為に、自分の愛する家族を守る為に、刀身を失った剣を掴む事を。



「英雄故事」

 

「はぁ……」

 

溜息なんて吐いたのは久方ぶりだが今回の一連の出来事に不甲斐なさを痛感し、司令室から少し離れた休憩室のベンチに座ってから肩を落とした。

 

『装者候補生制度を凍結する』。わざわざ立花本部長がS.O.N.Gにやって来ると、S.O.N.Gが装者候補生を制御し切れず度重なる違反を犯した事で国連の印象さえも悪くした為、装者候補生全員を対象にした罰則を与えられた。

 

当然反論はした。だがバベルの使徒との交戦は常に此方から仕掛けた事についての追及には嘘を吐く訳にはいかないからありのまま答え、全員の適性を疑われる形で一方的に話を打ち切られ再開の目処は立ちそうにもない。

 

あの子達の適性は疑う余地もなく完璧だ。皆お互いを心配しているが為に一人で無茶をしようとして空回りしてしまっただけ。成長すれば同年の頃の私達よりもずっと多くの命を救える子達だが、短期間で余りにも印象を悪くしたのは痛かった。

 

「はぁ……」

 

そもそも私が司令官というのは荷が重いのかもしれない。叔父様が国連本部での勤務になってから後継者として仮にも風鳴の名を持つ私が選ばれたが、私自身指揮する立場に向いている性格ではないと分かっている。

 

情に流されやすいし、あの子達なりの覚悟を見せられると無茶を通そうとしてしまう。S.O.N.Gの司令官ならば叔父様の様に常に状況と装者の状態を把握して最善手を模索し、引き際を見極める確かな判断能力が求められる。

 

それが私にあるかと言われれば、無いと答える他ない。

 

あの子達は同じ年頃の私達よりも環境も整い、勉学にも長けているから私の指示が間違っていれば当然違和感や不満を覚える。それが積もった結果がアリアのS.O.N.G脱退、そしてあの子達が支え合えるようにしていたからそれぞれのやり方で責任を取ろうとした。

 

まだ自分達が歩むべき道を決められずにいるあの子達には何の罪もない、全ては導いてやれない私の不徳の至りなのだから。

 

『お隣失礼しまーす』

「ほんぶ、立花……」

 

私の席をくれてやれば国連も納得するだろうが何が起きるかは火を見るより明らか、どうにか事を収拾する手はないか考えているとさっきまで私を悩ませていた張本人である立花が休憩室までやって来ると、わざわざ私の隣に座って缶コーヒーを手渡してきた。

 

立花も装者候補生制度の成立の際には助力をして貰った。今となってはそれもパンドラ内で見たガングニールの後継者を探す為だったのだろうが、それでもいつかは必要な制度だとは分かってくれていた。

 

それを国連の本部長として今回否定しなければならなかったんだ、私以上に公私を分けて判断を下さねばならない立場にいるのは立花の方だ。

 

「空ちゃんと静香ちゃんは大丈夫ですか?」

「二人とも心身共にダメージが大きい。間も無く目は覚めるだろうが、シンフォギアを纏える精神状態ではないだろう」

「そうですか……あの子達も皆一人で頑張っちゃうタイプですもんね。そういう面では今の所海未ちゃんが一番安定してますよね。マイペースというよりも落ち着いてて判断も的確ですし」

「海未は元来優れた判断能力を持った子だ。アリアや律の陰に隠れて日頃はそれを己の好き好みにしか発揮してなかったが、今回の一連の騒動では自分まで負の連鎖に陥ってはいけないと自制してくれていたんだろう。空と剣を交えたバベルの使徒に対して今も変わらず協力的な態度を保っているからな」

「流石は翼さんが選んだ子ですね」

「……その子達が今は自分の置かれた状況に苦しんでいる。S.O.N.Gでは人を助けられない、自分の心を信じたくない、家族を失いたくない、遠くへ行かせたくない。私が少しでも気を回してあげられていればこの状況だって

「翼さん」

 

私がもっと目を掛けてあげていれば、そんな考えばかりが脳裏を過ぎっていると立花に呼ばれて我に返ると立花はそんな私にも優しい笑みを向けていて、あの頃から変わらない温もりが伝わってきた。

 

「翼さんの所為でもないですよ。いつかは皆が立ち向かうべき壁の前に同時にぶつかっただけ。私達がしなきゃいけないのはその壁を避ける道を探す事じゃありませんよ」

「だが……何と声を掛けてあげればいい?その場しのぎの口八丁ではあの子達にまた余計な気を遣わせてしまう」

「私達は背中を押してあげるんですよ。声なんて掛けなくてもあの子達が自分の信じた道を歩ける様に、自分が信じたい気持ちに向き合える様に背中を押し続けるんです」

「それではあの子達の道は別れてしまう。特にアリアは既に引き返す事が困難な場所に立っている。あの子がS.O.N.Gのやり方に満足していない以上、いずれ同じ事が繰り返される」

「今のやり方もティナちゃんの本意ではない筈です。セイキロスを持ってしても世界を平和になんて出来ない、それを一番理解しているのはその力を宿したティナちゃんですよ」

 

人々の心に共鳴し、完全聖遺物を呼び出すセイキロスでも世界平和は遠く険しい道のり。アリアがそれを本気で成就させるつもりならばバベルの使徒すら利用するというのは分かる。

 

だがそうなると尚更S.O.N.Gはあの子の理想には遠い、人々が決めた決まり事の範囲でしか動けない組織にアリアが今更戻ってきたいと思わせる事なんて出来るだろうか。

 

「空ちゃんの話の通り、ティナちゃんがお母さんに会えなくて泣いていたのなら、あの子は今でもずっとお母さんの事が大好きな筈です。皆の事も、この世界の事も、大好きだからこそ強い自分が守らなきゃいけないっていう使命感があるんだと思います。自分が傷付く事になったとしても誰よりも強いから我慢する、皆その想いがあるからこそ無茶するんですよ」

「…………」

「守らなきゃいけない相手に負ければ、焦ってる気持ちも少しは収まるんじゃないですか?」

「…………叔父様に似てきたな、立花」

「私の師匠ですから」

 

立花が何を言いたいのか理解した私はその強引ながらも効果のありそうな手段を提案され、褒め言葉代わりの賞賛を贈ると立花も照れ臭そうに笑った。

 

あの子達は誰よりも賢くて、誰よりも強くあろうとするから一人で困難に立ち向かおうとする。そんな中で唯一海未だけは常日頃から空を頼っていたからこそ協力するという点で今回強みを出してきた。

それが今回海未が見出してくれた光明ならば、それを掴まない手はない。海未には少し辛い立ち位置に立ってもらう事になるが友人の為ならば協力してくれるだろう。

 

「だが空と静香はまだしも、アリアと律はかなり手強い。現に今までも空と協力しても二人に対しては全敗だ。律は自分の不調には流されないから隙を突くのも困難だろう」

「ふっふっふ、お忘れみたいですね翼さん」

「何がだ?」

「私達装者は六人も居るんですよ?師匠になりうる存在が5人も居れば効果も5倍、組み合わせれば5の階乗です!」

 

一抹の不安は残るが、折角の立花の気遣いだ。これまでじっくり休んでいた海未には私達が教えられる全てを叩き込むしかあるまい。

 

 

 

「ねむ……ねむ…」

 

鬼司令達は何を血迷ったのか私を超人にしようと全員が全員違うメニューでの特訓を始まってから3日目、ナインちゃんのIDカードを無期限で借りる事でようやくS.O.N.G本部からの脱出に成功した。

 

筋トレ、精神統一、映画鑑賞、模擬戦、忍術修行、私を殺す気で鍛えようとしてきた5人から何とか逃げ仰せて久し振りに娑婆へ出て来れたけど、空も居ないのに遊びに行ったってしょうがない。

 

仕方なく一人で学校に向かったけど幾つかセンサーを越えるのに邪魔だった鞄も置いてきたから朝から担任に怒られ、特訓で疲れて眠っていたら怒られての散々な目に遭い、ようやくお昼ご飯だというのに味を感じる余裕もなかった。

 

「どうしよっかなぁ……」

 

司令達も人間の装者候補生でまともに機能してるのが私だけだから私に何とかして欲しいってのは分かるけど、私は別に真面目じゃないし皆みたいに世界がどうとか愛情がうんたらとか、そういうヒーローみたいなテーマが似合うタイプの人間でもない。

 

皆が仲良くできて、頑張ってお金を稼いで、ついでに人助けをして、ちょっと普通じゃなくても皆が笑っていられる日常がずっと続いて欲しいと思ってただけだ。

 

そもそも私のシュルシャガナは空のイガリマと二つで一つ、私だけで戦う想定はハナからしてないのにやれと言われても土台無理な話だ。

まぁ、そんなだから皆が辛い時に私を頼ってくれなかったのかな?

 

「海未ちゃん、ちょっといい?」

 

お昼ご飯も食べ終わったから屋上のベンチで一眠りしようと目を閉じていると日差しが遮られ、渋々目を開けると私の前に立っていたのは真面目ちゃんの事が大好きな先輩のカナちゃんだった。

 

一応私の護衛対象でもあるけど、フォルちゃん達が狙う訳ないし狙われても真面目ちゃんが許さないだろうから今まで通り距離を置いていたけど何かあったのかな?

 

「ん〜……どうかした〜?」

「眠たくないなら少し話せないかなって思って」 

「いいよ〜、どっこいしょ」

「し、下着見えてるって!?」

「気にしない気にしない〜」

 

ベンチから起き上がって私の隣を空けてあげるとカナちゃんも座り、言い辛い事なのか言葉に詰まりながらも話を切り出してきた。

 

「その、アリアちゃん大丈夫?最近学校に来てないし、空ちゃんも急に来なくなったけど何かあったの?」

「空は絶賛入院中で〜、真面目ちゃんは残念ながら連絡は付かないけど元気にしてるよ〜」

「入院と連絡がつかないってどういう事!?」

「ん〜、バベルの使徒って最近有名だよね〜」

「うん……テレビでもよく見るけど」

「アレのリーダーが真面目ちゃんなの、凄いよね〜」

 

隠したってどうせS.O.N.Gまで聞きに来るだろうし、ずっと心配に思うよりもどういった状況か教えてあげれば多少落ち着くかなと思ったけど、ズイズイッと顔を近付けてきたから逆効果だったかも。

 

「アリアちゃんS.O.N.G抜けたの!?」

「声はなるべく小さめで、ね?」

「で、でもアリアちゃんは頑張ってS.O.N.Gに入ったって言ってたのに何で…!」

「S.O.N.Gじゃ出来ないことをしたかったんだって〜。だからS.O.N.Gと近い学校にも顔が出し辛いのかも」

「使徒の人達とはやっぱり仲良くないの?」

「う〜ん、個人的には仲良くしたいんだけど他の子達が中々ね〜」

 

かなちゃんが気になってる事について何も隠さずに教えてあげると、思いの外機密事項をボロボロ喋るからか一旦質問責めも収まった。

 

大好きな人が居なくなって焦る気持ちは凄く分かるから待ってあげていると少しは気持ちの整理もできたのか、深く呼吸をしてから今度はしっかりと私の目を見てくれた。

 

「その、教えもらったのにこう言ったら悪いけど、私に教えても良かったの?」

「怒られちゃうだろうけど、教えなかったら無茶しそうだからね〜」

「っ……アリアちゃん、やっぱり元気じゃなかったんだ」

「私達も気に掛けてたつもりなんだけど〜、ずっと辛かったんだろうね〜」

 

私が怒られてカナちゃんが無茶しないのなら結局は私の為にもなるし、真面目ちゃんがこれ以上悩む必要が無いようにせめてカナちゃんだけはしっかり守っててあげたいから教えてたんだけど、やっぱりカナちゃんは私達が知らない所で真面目ちゃんを支えようとしてくれていたんだ。

 

ほんわかしてるけどハキハキしてて、芯もしっかりしてそうなS.O.N.Gには居ないタイプ。空も私以外の前ではお姉ちゃんっぽくしようとしないから、余計にマジメちゃんにはその性格が合ってたのかもしれない。

 

「真面目ちゃんからお返事は貰ったの〜?」

「ッ!?何でその事を!?」

「真面目ちゃんが珍しくボロを出したからね〜、真面目ちゃんが真剣に悩むならカナちゃんしか居ないかな〜って」

「……悩んでくれてたの?」

「すっごくね。でも、自分の幸せよりも優先したかった事があるのかも」

 

S.O.N.Gの隊員の殆どは恋人なんて居ない、居たらそれこそ守らなきゃいけない人が増えてしまうから自分で自制するか隊員同士で付き合うかの二択。

 

そんな中で真面目ちゃんは付き合うかどうかで真剣に悩んだんだ、その気持ちは本物だろうし誰が反対しても私は応援した。けど真面目ちゃんは自分が幸せになる事よりも、世界を守りたいという正義感が上回ってしまったんだ。

それを「そんなの駄目だ」なんて偉そうに言えないし、真面目ちゃんが真剣だからこそ私も使徒の三人とは仲良くしたいと思ってる。

 

でも、真面目ちゃんの事をずっと待っていたカナちゃんを泣かせてまで選んだ道が本当に真面目ちゃんの為になってるのか、誰かが聞きに行かなきゃいけないってのも分かる。

 

「大丈夫、真面目ちゃんには私から言いに行くから心配しないで」

「っ…ごめんねっ……!」

「ほら、いい子いい子〜」

 

私には真面目ちゃんの代わりはできないし、カナちゃんの代わりもできないけど、私には私にしか出来ないことがある。皆には出来なかった『今の気持ちを聞きに行く』役目は私がやらなきゃいけないんだ。

 

私からの気持ちを込めたメモをカナちゃんに渡してからすぐに学校を出て本部へと帰ると、私が学校に居たからか連絡もしてこなかった司令に頭を下げて謝った。けど司令は私が抜け出した事に関しては何一つ怒らず、「修行をする理由は見つかったか?」とだけ聞いてきた。

 

正義の味方だったり世界の平和だったりの為に戦うのはらしくないけど、真面目ちゃんのことを待ってる人の為なら私も多少の無理は我慢できる。

 

「私をも〜っと強くしてください!皆が無茶しなくなるくらい、皆が私を頼ってくれるくらい、皆が手を取ってくれるくらい、もっとも〜っと!」

 

私がバベルの使徒と戦う理由を見つけられた事に司令は口の端を緩めたけど、すぐに顔を引き締めると大きく頷いた。

 

「分かった。譜吹海未、現時点を持って装者候補生の全ての過程を終え、シュルシャガナの正式装者に任命する。その行動の全責任は私が負う、装者候補生達がその背中を追えるよう強くなるんだ」

「りょ〜かい!」

 

しらしらが色々あってずっとお休みしてたから空きになってたシュルシャガナの正式装者の席。

 

私がちゃんとするまでお預けだと言われてたけど、装者候補生制度が凍結されても活動する為に引き継ぎを前倒しにしてから私は装者になる事を選び、私もずっと訓練室で待たせていた切ちゃんの元へ走った。

 

「おっ、帰ってきたデスね」

「切ちゃん、全力でお願いね〜!」

「当たり前デス。久し振りにイガリマも戻って来た事ですし、ティナと律にもやった事がない本気の手合わせしてあげるデスよ。後で泣いても知らないデスからね?」

「《 skarius shui shagna tron(罪を洗い流す激流)》」

 

最初は空が安心して居られる場所を作り、私とパパとママが背負った罪を濯ぐ為に纏ったシュルシャガナ。けど今は空の為だけじゃない。お金では買えないモノを見つけるという命題、その新しい答えを私達はS.O.N.Gで手に入れたんだ。

 

私はS.O.N.Gで出会った『家族』を守る、たとえどんな壁だって家族の為なら乗り越えてみせる。

 

誰にも止められない、誰にも邪魔させない、全ての障害を取り除く私のアームドギアであるチェーンソーが装着と同時にエンジン全開で唸り声を上げ、切ちゃんも滅多に使わないイガリマとダウルダヴラのダブルコントラクトを見せてくれた。

 

魂ごと葬り去る事さえできる力を前にしても今の私は引く訳にはいかない。皆のお手本になれるように今は私が頑張る時なんだ!

 

「10秒凌ぎ切ったらアタシの太鼓判をあげてもいいデスよ!どっからでも掛かって

「頭吹っ飛ばしてやるんだから〜!」

「だぶぁっ!?いきなり殺す気デスか!?」

 

 

 

 

「ちょ、ドルチェちょい待ち!」

「待たない」

「あっ、このっ、ってもぉ!?このゲームドルチェに勝てっこないじゃん!」

「うぃん」

 

空の襲撃から1週間が経ち、師走の月に入ると廃城となったチフォージュシャトー内には飾り付けもされたクリスマスツリーが置かれ、偶の余暇を過ごすバベルの使徒の三人はテレビゲームで盛り上がっていた。

 

かつては神の叡智だった演算機、その担い手となっていたドルチェはラルゴとフォルテを圧倒すると、自分の妹ながら一切の加減をせず勝利のガッツポーズをする妹を横にフォルテは項垂れた。

 

「はぁ……フィーネもやらなーい?」

「好きにしてなさい」

「んな事言って、アンタこっちに来てからずっとカ・ディン・ギルの設計図と睨めっこじゃん。アタシ等はそんなの使う気ないって」

「私に従う、そう言った筈よ」

「無条件なんて言った覚えもないけどね。アタシ等と同じ、世界平和の樹立を目指すなら手伝ってあげるって言ったでしょ」

 

バベルの使徒が目指す世界平和。全なる者による人類の調和こそが人類に残された最後の道だと信じ、指示に従う三人にアリアも相応の信頼は置いている。だがその調和から乱した者に対して慈悲を与えないその思想の根の深さは窺い知れていた。

 

フィーネと同じ巫女ならば付き従うアヌンナキという上位者が居た筈なのに何故フィーネに固執したのか。たとえ手を組んでいてもアリアにはその理由を明かさない三人にアリアも計画を明かすつもりは毛頭なかった。

 

「アンタ、ホント昔から変わんないね。自分一人だけフラフラどっか行って、アタシ等はせっせこ頑張ってんのにさ」

「フォルテ、止めるんだ。彼女は昔のフィーネではない、そんな事を話しても無意味だろう」

「此奴も一緒だって言ってんのよ。アタシ等にはなーんにも教えずに考え事ばっか。そんなんじゃ人の上には立てないと思うけどね」

「好きに言ってなさい」

「ッ、アンタのそういう所が嫌いだって言ってんのよ!アタシ等には目もくれない癖に、何でアタシ達と一緒に来たんだよ!」

「姉さん!」

 

フォルテ達がまだその名を持っていなかった先史時代、神に選ばれた者と云えど一人では生きていける世ではなかった。

 

早くに両親を病で失い、妹との二人だけで各地を転々として命を繋ぐ毎日。神に捧ぐ舞踊も神に与えられた演算能力も己が生きる為に使うしかなかったある日、それを背信だと咎める集団に何の所以もない太陽神の怒りを鎮める贄として二人は捕らえられた。

 

才能を与えられてもそれを活かすことも、人並みの幸せも得られず、人々の無理解から話し合う事すら出来ず、か弱かった二人は成す術もなくその祭壇に縛り付けられた。

 

そして腹から腸を引き摺り出そうと司祭が短刀を振り下ろしたその時、突然祭壇の隣に現れた女は司祭を二人から引き剥がし、司祭が女に短刀を振り下ろしたものの紫色の障壁が女を守ると短刀は粉々に砕け散った。

 

『な、何者だ!?儀式を妨げるとはなんたる狼藉か!』

『貴方に名乗る名はない。だが、あの方々が目を掛けた子等をこんな遊びに付き合わせる気は無いわ』

『っ、その不埒者を捕らえろ!』

 

女は指一つ手を出さず、だが二人が囚われそうになると必ず守り、司祭達が持ち得る全ての武器が破壊されて諦めるとその女は二人を連れて別の場所へと転移した。

 

其処には二人が見たこともない巨大な結晶が立ち並び、子供から大人まで多種多様な人種の集団が生活をしていた。

 

『此処は?』

『アヌンナキに仕える運命の者達が集まる場、私もその一人よ』

『アヌンナキ?神様じゃないの?』

『今はそう理解しておきさない。貴方達は気難しい方に仕える事になる、礼を欠かぬよう此処で皆と共に学びなさい』

『その、アンタの名前は?』

『私は----よ。何か用があるなら呼びなさい』

 

不確の未来視を生まれ持ったラルゴも同様に理を乱す魔女だと追われていた所をフィーネに救われ、三人は同じアヌンナキの元でその高度な技術を学び、そして人類の平和の為に何が必要かを識っていった。

 

偉大な指導者の元で学んだ三人は瞬く間にその頭角を現し、巫女達の中でも上位の身分へと昇格したものの、フィーネは三人を助けてからは関わりを持とうとはしなかった。

 

フィーネが慕うアヌンナキと三人の指導者であるアヌンナキは同じ平和を願いながらも意見が対立し、強硬な姿勢を取る三人の指導者は立場が危うくなると三人を自らの神殿へと招いた。

 

『恐らく我とエンキは道を違えるであろう』

『そんな……私達はどうすれば?もう多くのアヌンナキがこの星から

『喚くな。我とてエンキ一人に遅れを取る事はないが気がかりがある、貴様達は我が居なくとも真に人間が幸福な生涯を送れる世を作れ」

『……御身の意志のままに』

『全なる一による人類の統合、愚かな人類が平和を望むならそれ以外に道などない。我が僕ならば必ず成し遂げよ』

『はい、シェム・ハ様』

 

その後エンキとシェム・ハが道を違え、月にバラルの呪詛が刻まれると巫女達はお互いに通じ合えていた統一言語を失い、フィーネもすぐに巫女達の前から消えると混乱が起きた。

 

誰もがフィーネとエンキの仲は分かっていた。だからこそ民を平等に慈しむシェム・ハは特別階級になりかねないフィーネを疎み、エンキは強硬な手を使うシェム・ハと対立していたが、フィーネを含む巫女達は争いの元凶がフィーネであるとは当時は知る由もなかった。

 

故にフィーネはエンキとの再会を望んで月を穿たんとし、三人はラルゴの未来視によって知ったフィーネの計画の破綻という未来を救う為、巫女達の中で意志のある者を集めてフィーネの援助の為に数千年の時を掛けて現代までその想いを繋いできた。

 

人々の心を繋ぐ事ができるセイキロス、人類の調和の先にある新たな統一言語ならばフィーネの願いも叶えられる。フィーネに救われた巫女達はそう信じていたが、結果は別のフィーネに仕えることになり、そして再び三人を突き放そうとするアリアにフォルテの怒りは限界を迎えていた。

 

「アンタ何がしたいのよ!本当に人類の為に戦うのか、またごっこ遊びしに戻んのか、ハッキリしてよ!」

「ごっこ遊び、面白い言い方ね」

「幾らフィーネだからって…!」

「二人とも落ち着くんだ!客人が来ているぞ!」

 

たとえS.O.N.Gを抜けた身でもS.O.N.Gをコケにされて苛立ちを見せたアリアとフォルテが睨み合うとラルゴが二人に静止をかけ、招待のない客人に目を向けると部屋の扉の前に立っていたのはシュルシャガナを纏った海未だった。

 

先日の出動では遂にガリィ一人になっていたからやる気を失ったかとアリアは思っていたが、海未の雰囲気から感じる闘気がこれまでとは違うというのは感じ取れた。

 

「お邪魔だった?」

「気にしないで。何か用?」

「用って言えば用かな〜」

「んなの後にしてよ」

「そこを何とかお願いできないかな〜?」

「ちっ、何よ?」

 

フォルテの威圧する様な睨みに対しても海未は普段と変わらない柔らかな笑みを浮かべたまま、

 

「フォルちゃん、私と戦ってくれない?」

 

そう言い放った。

 

「……アンタは話が分かる奴だと思ってたんだけどね」

「あ〜!?別に使徒の三人と喧嘩しようって訳じゃないよ!?ただ、其処に居るフィーネとお話したいって言っても駄目でしょ?」

「ええ、当然」

「だから、私が勝てたら少しだけお話しさせて。そうしたら私も帰るし、また一緒に人助けをしようよ」

「アタシは良いわよ、ただしアタシは殺す気でやる。フィーネも邪魔されたら次は殺していいって言ってたからね」

「……そっか〜、じゃあ二人は危ないから離れてて〜」

 

フォルテの明確な殺意に対して海未は怯みはしなかったものの、友達だと思っていた相手から怒りに満ちた声を掛けられて眉をひそめたがドルチェ達には笑顔を見せて退くように言った。本当にフォルテと戦いに来ただけというのを理解したドルチェは変わった人だと思いながらも、同時に愚かだと感じていた。

 

聖遺物を扱えるから戦闘力が高いドルチェとラルゴと違い、フォルテは生粋の武闘派で装者候補生が数人がかりでも遅れを取らなかったのに今更一人で何をしようというのか。パソコンを貰った借りがあるとはいえ、姉の機嫌を優先したドルチェは2人を止める事はなく、睨み合う二人を遮る物は全て退かされた。

 

「いつでもどうぞ」

「オッケ〜、それじゃあ全力で行くよ〜!」

 

ゲイボルグを顕現させて構えたフォルテは先手を海未に譲ると海未は一呼吸置き、両手で構えたチェーンソーをフル回転させると同時に心の歌を周囲に響き渡らせた。

 

「《エンジン全開 覚悟しな》!」

 

海未が歌い出しと同時に回転するチェーンソーの刃を地面に喰い込ませると地面を這うように高速移動し、前回戦った時とは違う戦術にフォルテは一瞬動揺したものの、近付いてきた海未に槍を突き出すと海未は突きの下を掻い潜って穂先を蹴り上げた。

 

早々に決着が付く、そう考えていたアリアも海未の動きの変わり様に驚いていて、何故一人で戦う事を許されたのか気付くのにはそう掛からなかった。

海未のチェーンソーの動きは小回りの効く空との連携を前提に敵武装の破壊を目的とした大振りが基本だった。それが今ではチェーンソーという武器の特徴を理解し、格闘術を織り混ぜる事で僅かな隙さえも潰している。

 

その動きでは空が攻撃を差し込む隙はない、つまりザババのユニゾンに頼らない海未自身の力を引き出す為の戦い方を海未が受け入れたという事だ。フォルテが押されている事よりも海未がそんな戦い方を受け入れた事の方が余程衝撃だった。

 

「《ハートをくり抜く衝動 感じさせてやる》!」

「耳元でうっさいなぁ!」

「っとと、《他の誰もが敵でも 知るもんか》!」

 

想像以上に小回りの効いた海未の立ち回りに更に苛立ちを覚え、槍で薙ぎ払おうとすると海未のチェーンソーが小型のチェーンソー二本に分裂し、槍を挟み込むように受け止めて火花を散らすとフォルテは慌てて海未を蹴り飛ばして距離を置いた。

 

アームドギアの変形、律の剣やクリスの銃のようにアームドギアは装者が望む形に変わるがその形には当然意味がある。譜吹姉妹の道を邪魔する何もかもを破壊していた海未のチェーンソーが変わり、一人でも戦えるようになったのは海未が周囲に甘えるだけの戦い方では護れないモノがあったから。

 

「《邪魔をするなら私と踊ろう》!」

 

チェーンソーの回転刃により触れるだけでも高火力、その軌道も片方のチェーンソーで地面を抉る事で急激に体勢を変えて複雑化し、間合いを詰められ過ぎると見切りやすい槍の欠点を突いた手数を稼ぐ戦い方にフォルテは苦戦を強いられていた。

 

だが、当然フォルテも打つ手は残していた。

 

「そんなに歌いたきゃ口だけ残してやんよ!」

「《八裂きっ、キャァッ!?

 

完全聖遺物ゲイボルグの神威を発揮して超至近距離でも突きを放つと穂先から30にも及ぶ稲妻が海未を襲い、咄嗟に巨大な丸鋸に変形させ盾のように構えて防ごうとしたものの、必中の稲妻はその防御を貫通して海未の身体を貫いた。

 

その苦痛に歪む表情を見ていて拳を握っているのはアリアだけではなく、S.O.N.G本部の司令室に集められ中央画面を見ている他の装者候補生も同様だった。

 

「何考えてるんですか!?海未一人で勝てる訳がないでしょ!?」

「あの三人は情けはかけてくれません!本当に殺されますよ!」

「………」

 

深い傷から目覚めた静香と空、そしてシンフォギアを手放した律。それぞれフォルテとの戦闘経験があるからこそ海未では勝てないと翼に抗議したが、翼は腕を組んだまま撤退の指示は出さず、三人は救出に向かおうとしてもシンフォギアを持たない状態で行っては邪魔になるだけというのは当然理解していた。

 

「お前達が家族を、親友を取り戻す為に早る気持ちは察そう。だがその軽率な行動が仲間に負担を掛け、安易な判断が仲間を危機に晒した。私達の立場なぞ気にする必要はないが、海未はお前達の代わりに本当は戦いたくないフォルテと戦う事を決心したんだ。そこまでされて尚、まだ恥を晒すか?」

「っ、だからといって海未が死ぬくらいなら幾らでも恥をかきます!海未は私の大事な

「その家族を残して一人死地に向かったうつけは誰だ!」

 

子供達の背中を押す、その立場に徹することを決めた翼はS.O.N.Gの立場よりも自分達の行いの責任を全て海未が背負っているのだと分からせ、悔しさと同時に言い返せない三人は海未が戦っている映像を見るしかなかった。

 

身体を稲妻が貫き、シンフォギアの防御機構が身体の損傷を防いだものの負荷は大きく膝を付き、咳き込みながら血を吐くと周囲に響く心の歌にはノイズが走り始めた。

 

「《過去はッゥ…殺しても蘇る」

「アンタ等が居るとフィーネが駄々こねんの。だからさっぱり忘れられるようアンタから殺してあげる!」

「ゾンビみたいだね》ェッ!?」

 

再びゲイボルグの突きが放たれ、身体が言うことを聞かない海未は床にチェーンソーを突き立てて無理矢理身体を移動させたものの、移動の反動を殺し切れず手からアームドギアを零した海未は床の上を転がった。

 

この数日、何度も床の上に倒れ込んできた海未は最早反射的に立ち上がり、身体の損傷具合が眼で分かるフォルテはまだ立ち上がってくることに驚いたが心の歌は既に響いておらず瀕死の状態には変わらなかった。

 

「もう其処に立ってなって。痛くしないから」

「私ね……『ティナ』の事全然怒ってないよ」

「あん?」

「だってティナが自分で決めた事だもん……私は応援したい…」

 

誰もがアリアの奪還を望んでいた中、最初からそうなる事を望んでいなかった海未は二人の戦いを見ているアリアにその想いを伝え続けた。

 

「世界平和だって……ティナならきっと出来るよ…」

「………」

「泣き落とし?くだんない」

「でもね…」

 

海未の言葉をアリアの情に訴えてかけているのだと判断したフォルテは直ぐにその口を塞ごうと距離を詰め、心臓を目掛けて突きを放った。だが海未は瀕死の身でも自分から一歩距離を詰めて無数の突きが放たれる前に手で穂先を掴み取った。

 

突然な事に動揺したフォルテが槍を動かそうとしても微動だにせず、次第に海未のシンフォギアが黒く染まっていく現象を目にしてアリアは目を見開いていた。

 

「此奴ッ!?急に何なの!?」

「皆泣いてたよ……ティナが何の相談もしなかったから………皆自分の所為だって…」

「姉さん離れて!シンフォギアの様子がおかしい、自爆かも!」

「往生際の悪い奴ね!」

 

演算機の扱いに長けたドルチェがシンフォギアの封印が閉じられフォニックゲインの流れが急激に変わっている事に気付き、全員を巻き込んだ自爆と判断するとフォルテはすぐに槍を手放して距離を置いた。

 

だがシンフォギアには自爆機能なんて付いていない。絶唱でさえも歌わなければ使えない事を知っているアリアは瀕死になろうと未だ真っ直ぐ見詰めてくる海未から目を逸らすことができなかった。

 

「ティナが何したって怒んないし……応援するけどね…」

「もう消えなって!」

 

フォルテはドルチェが持つ神の雷矢が込められたボウガンを受け取り照準を海未に向け、躊躇いなく引き金を引くと空気を引き裂く凄まじい轟音を立てて放たれた雷矢は海未を襲った。

 

けれど、いつも側にいる空の為に心の奥底に眠らせていた過去の記憶、そしてアリアへの怒りが心の歌に重く深い音を増やすと右腕全体が黒く染まり、槍を投げ捨ててから雷矢を正面から受け止めて握り潰すとフォルテ達は唖然としていた。

 

「私の家族を泣かせた事だけは、それだけは絶対に許せないのッ!」

 

海未はアリアの行動が齎した家族の涙だけは許せないと吠え上げて胸のペンダントに手を添えると、フォルテもすぐに次弾を装填し、今度は質よりも量で攻めようと引金を引き続けて雷矢を乱射した。

 

だが、海未はそれを眼中にも入れずにペンダントの両翼を押し込んで今は無きドヴェルグ=ダインの遺産を用いる事で機能していた決戦ブースターの名を叫んだ。

 

「『イグナイトモジュール』、抜剣ッ!」

 

 

 

 

 

『切ちゃんは倒せそう?』

『無理だよぉ……シンフォギアが全然保たないしぃ…』

『シンフォギアが強化されれば勝てる?』 

『そりゃぁ……多分…』

 

結局、切ちゃんとの勝負は勝負にさえならなかった。

 

イガリマとダウルダヴラのダブルコントラクトはフォニックゲインの増強による錬金術の連発だけでも厄介なのに、切ちゃんは遠慮なく太陽錬成まで使ってくるんだ。

 

切ちゃんも本気ではないにしろビー玉サイズの球体に触れるだけでシンフォギア諸共吹っ飛ぶんだから戦いにもならない。

 

それをずっと見ていたしらしらは私が更衣室で着替えていると話し掛けてきて、強化する方法があるような口振りだけど、一番現実的なリビルドでさえ簡単に出来るものじゃない。

 

『イグナイトモジュールって知ってる?』

『暴走状態に意図的に引き起こして、コントロールする奴でしょ?でも肝心なダインスレイヴが無いし〜』

『無くても出来るよ』

『どうやって?』

『ダインスレイヴは心の奥底にある闇を解き放つ。前はその呪いを利用して暴走状態を引き出してたけど、制御機構自体はシンフォギアに備えられてる。つまり』

『自分で暴走状態になって、その状態を保ちながら理性も保つって事?』

『そう』

 

その理屈なら確かにイグナイトモジュールは使えるかもしれない。けど暴走状態になる程の不安定な感情のままシンフォギアの制御なんて出来るわけがない。

 

ダインスレイヴで無理矢理心の闇を引き出すからそれを制御する心が大事だったのに、これじゃあ一人二役でしかも同時に舞台に立ってるようなもんだ。そんなの滑稽以外の何者でもない。

 

『暴走するか不発になるかがオチだよ……』

『試す価値はある。それに海未なら制御できる』

『何でそんな事言い切れるのぉ……?』

『普段からしてるから』

『そんな事してないよぉ……』

『……海未は自分の家族を殺した時の事、思い出せる?』

 

もっと現実的に強くなる方法はないかと考えようとしたその時、しらしらからとんでもない言葉が飛んできて、何かを考える前に私はしらしらの胸倉を掴んでロッカーに叩きつけてた。

 

『違う……!私はパパとママを殺してなんか…!』

『エルフナインが空から聞いた話を無理矢理聞き出した。海未が引き金を引いたって』

『違うッ!私は殺してないッ!私じゃない!絶対に私じゃない!』

『いつもその事を思い出して泣いていて、空が泣き止むまでずっと側にいた。だから海未はその事を忘れようと必死に心の奥底に埋めようとした。その記憶よりも怖いモノで蓋をしようとした。だから怖い映画ばかりを見て、自分の記憶を書き換えようとした』

『違う違う違う違う違うッ!私は殺してなんかないッ!』

 

それ以上聞きたくなかった。

 

それ以上聞いてたらまた泣いてしまう、また空に迷惑を掛けてしまう。しらしらの口を黙らせようと無我夢中で拳を振るい、防げた筈のしらしらは避ける事もせずにロッカーごと倒れて激しい音が室内に響いた。

 

すると途端に目の前の現実に引き戻され、しらしらの口が切れて血が出して倒れているのに気付くと涙が溢れてきて膝から崩れ落ちた。

 

しらしらを殴ったって何も変わらないのに、悪いのはいつも私だったのに、泣き止まなきゃいけないのは私なのに暴力で解決しようとした自分が嫌で泣きじゃくると、しらしらは殴られたというのに私を抱き締めてくれた。

 

『誰も海未を責めてない。海未は自分で何とかしようと頑張って、それが今までずっと出来てた。だから海未なら出来ると思うの』

『嫌だよ……思い出したくないよ…!』

『たとえ思い出して暴走しても、誰かを傷付ける前に私が必ず止めてまた抱き締める。何度だって海未は悪戯好きだけど素直で優しくて誰かの為に頑張れる子だって思い出させてあげる。だからそんな自分を信じて、海未は絶対に家族を傷付けるような子じゃない』

 

絶対に思い出したくないあの日の記憶。でもパパとママが目の前で居なくなったあの日の恐怖が、今の私にとって大事な家族を守る為の力になるかもしれない。 

 

『ホントに私に出来ると思うの…?ホントに私ならみんなを助けられるの…?』

 

優しかったパパとママなら、私の事を何て言うのかな。

 

『一番心が強い海未にしか出来ないと思ってる』

 

私に頑張れって言ってくれるのかな?

 

 

 

『GAAAAA!』

「海未さんのフォニックゲインに急激な乱れ、このままでは暴走します!」

「制御機構が海未さんの感情の爆発を受け止め切れていません!」

 

心の奥底に沈めていたトラウマを自分で掘り起こした海未は全身を包み込むシンフォギアの形を保ち切れず、黒く液状化して人ならざる者の姿になりながら強烈な咆哮を上げた。

 

フォルテ達もあまりの絶叫に耳を塞いでいたが機械越しにも胸の奥にまで響く悲痛な叫び声、家族を失ったあの日の海未の悲しみを知っている空は耐え切れずイガリマを持つ切歌に詰め寄った。

 

「お願いします!イガリマを貸してください!」

「……駄目デス。今行って、何が出来るんデスか?」

「何も出来ないかもしれないけど!海未が泣いてるのに黙っていられません!」

「今の空に海未の為に何が出来るんですか?一人で突っ走って、大事な妹を置き去りしようとしたのは空自身デス。今の空に出来るのは海未が自分に負けないよう応援してあげる事くらいデスよ」

 

皆の為にアリアを連れ戻したかった、その想いは理解しながらもその為に海未の想いを犠牲にしようとした事を許せずにいる切歌はイガリマを纏う事を認めず、居てもたっても居られない空はすぐに分析官のヘッドフォンを奪った。

 

「海未、自分に負けないで!海未は強い子でしょ!」

『GAAAッ…!』

「お願い!私を許してくれなくてもいい!けど今だけは頑張って帰って来て!」

「っ、海未さんの波形の乱れが急激に下がっています!」

「制御機構、稼働確認!装甲が形成されています!」

「海未、頑張って!」

 

空の声が暴走する海未の心の中にも響き渡り、荒れる感情の大波に波紋となって広がると海未の心の中で再び音楽が鳴り始め、自分の闇と直面した海未は何度も心のエンジンを吹かそうと足掻いていた。

 

パパとママが死んでから何もかもが変わった、だけどずっと側にいてくれた家族が私の事を呼んでる。私の家族が泣いているのに私も泣いていたら誰がその涙を拭いてあげられるんだ。

 

『《怖くてもっ……泣いたってぇ…いいんだよ…頼ってね…》!』

「そうよ海未!自分を信じて歌って!」

 

私は皆に頼られる装者になるって決めたんだ!

 

「《私の鼓動で》!」

「私達の想いをティナに伝えてッ!」

 

私は家族を守るって決めたんだッ!

 

『《君を守るから》ァァァ!』

 

そして空の呼ぶ声と同時にスターターの紐を全力で引き上げると、これまで恐れ隠してきた心の闇さえも動力に変えた海未の心が猛烈な火を吹き、海未を覆っていた黒い液体を蒸発させるとその熱にフォルテ達も怯んだ。

 

そして心の闇が蒸発したその下から現れた海未の装甲は大部分が黒く染まっていて、皆が後から付いて来られるように道を切り拓くと決めた海未を後押しするように全身のありとあらゆる場所に駆動輪を模した機構が施されていた。

 

「ラルゴ、盾貸して!」

「《闇夜に煌めき 世界を照らせば 先へ進める!》」

 

ドルチェのボウガンだけでは討ち取れないと判断したフォルテはラルゴが持つどんな攻撃でさえも受け止める盾を奪い、二人から距離を取ると理性を取り戻した海未は巨大なチェーンソーを構えて斬り掛かった。

 

その攻撃を盾で受け止めるとその衝撃は床にまで伝わってひび割れたものの、皮七枚を引き裂かれて火花を散らしながらも伝承通り皮一枚でチェーンソーを受け止め、その脇からボウガンを構えた。

 

だがチェーンソーが受け止められた事を感知した関節の駆動輪が火花を散らしながら回転し、受け止めた盾ごと押し潰さんばかりの力を発揮するとフォルテは振り下ろされるがままに下の階へと叩き落とされた。

 

「ッゥ!?アイアスが折れてんじゃん!?」

「《一緒なら走れる 道があるから》!」

 

防いでいた筈のアイアスの盾もシュルシャガナの無限軌道の前に折れ、追いかけてきた海未の有無を言わせない絶対の破壊の前にフォルテは防戦一方になり、壁や床を斬りつけようとも一切気にも留めない海未の攻撃に次第に城全体にも亀裂が入り始めた。

 

「何をやった所でフィーネはアタシ等の味方だっての!」

「違う!ティナは皆の味方、フォルちゃん達だけの味方なんかになる訳ない!」

「んなの一緒でしょ!アンタ等のごっこ遊びに飽きたから、本気で世界を変えようとするアタシ等に付いた!何でそれが分かんないのよ!」

「ティナはごっこ遊びだなんて思ってない!憧れた人が歩いてきた道をそんな言い方するような子じゃない!」

 

これまでS.O.N.Gで命懸けで人命救助を行ってきたアリアの心を信じている海未はフォルテの言葉を真っ向から否定し、それが気に喰わないフォルテは避けるのをやめて一点集中の矢を放つと海未もそれを形を変えた丸鋸で軌道を逸らした。

 

だが逸らした後には目の前にいた筈のフォルテが忽然と姿を消していて、周囲を見回しても高速移動の類ではなく転移したのだと気付いた。S.O.N.G本部の分析官達も即座に解析して結果を伝えようとしたけれど、背後の壁向こうで空気の流れが変わった事を察知してチェーンソーに戻して振り下ろした。

 

その瞬間目の前の壁を塵にしながら紅い稲妻が海未に襲いかかり、幾本もの稲妻が身体を掠めて痛みが走りチェーンソーが受け止めている稲妻に身体を押されながらも、海未は自分の歌を歌う事をやめなかった。

 

「《朝日が煌めき 空を照らせば 笑顔もみせてね》!」

「世界の調和を認めないならS.O.N.Gは敵だ!アンタ等がその道を選んだ事を忘れんじゃないわよ!」

 

丸鋸で防いだ時は貫かれ、律が剣で叩き落とした時は触れることが出来たことから『凡ゆる防御行為を貫通する稲妻』だと理解した海未のチェーンソーの回転刃は少しずつ稲妻を削り取っていった。

 

たとえS.O.N.Gとバベルの使徒の道が違える結果になっても、私が間違ってるならしらしらが止めてくれる。私の背中を押してくれる大人達が止めてくれる。だから私は今出せる全てを力に変えるって決めたんだ!

 

「《君が笑う為なら 私も頑張るから》!」

 

そして稲妻を完全に削り切ったチェーンソーが地面を全力で叩くと、城に入っていた亀裂は下の旧都庁にも広がっていき、一つ目の稲妻を削り切った海未の前には、新たに無数の稲妻が迫っていた。

 

だか、海未も持てる全てのフォニックゲインをチェーンソーに振り分け、自分の足を軸に高速で回転し始めるとその回転に合わせてチェーンソーは次第に大きくなっていき、その刃は稲妻だけではなく遮るもの全てを削り斬る無限の刃と化した。

 

「《明日も笑っていてね》ェェェェッ!」

 

『stand by chainsaw』

 

城壁と稲妻、海未の邪魔をする全ての逆境を回天する刃が切り裂き、受け止めようとしたフォルテのゲイボルグさえも完全に折ると最早通用する攻撃と防御の手段はないと判断したフォルテはドルチェ達の元に戻った。

 

そして城が崩れる前にアリアも連れて行こうとしたけれど、フォルテが負けた際の約束を果たす為に動こうとしないアリアを睨みながら転移した。

 

海未の容赦ない攻撃を受け続けたチフォージュシャトー城が少しずつ崩れ始め、初めてのイグナイトモードに力を使い果たした海未は崩れた床を伝って下の階から這い上がって行くと、アリアは初めて椅子から立ち上がって海未を引っ張り上げると労うように海未に笑ってみせた。

 

「強くなったのね」

「ティナのお陰でね〜」

 

ボロボロになりながらも自分と話す為に誰も勝てなかったフォルテを降した海未にもっと言葉を掛けようとしたけれど、自分の始めた事に責任を持ち今回の件で自分がやるべき事を明確に見つけたアリアは笑みを収めた。

 

「それで、私に言いたい事って何かしら?」

「カナちゃんに会いに行って、ちゃんとティナの口から説明してあげて。凄く心配してたよ」

「その為だけに、フォルテと戦ったの?」

「ティナにとってカナちゃんは凄く大事な人だもん。今度カナちゃんを泣かせたら許さないからね〜」

「………ありがとう、海未」

「ティナも出来ればS.O.N.Gとは仲良くしてね〜」

 

奏の想いを伝える為に来た海未はそう言い残し、崩れた壁から下へ降りていくと城に残されたアリアはその想いを汲む為に海未が降りていく姿を見送った。

 

海未の想いも、フォルテの想いも分かってる。その上で何方が正しいかなんて私が決める事ではない。だけどフォルテは邪魔するモノを排除するという立場を見せた以上、私の願ってきた正義とは違う。

かつては統一言語を封じる為に使われた呪詛を反転させる、それが出来ればきっとこの世界は誰もが分かり合えて悲しみが生まれない世界になる。

 

「私が、もう一度バラルの呪詛を作ってみせる」

 

『絶対正義』という人類の果てなき夢の成就。

 

崩れゆく銀城から空に浮かぶ月を見上げ、為すべき事を見つけたアリアは拳を握り締めて己の宿命に立ち向かう事を決心した。

 




チェーンソー→回転する刃→回天する刃
そもそもシンフォギアはRN式回天特機装束だけど、そこから拾ってきました。時に自分の才能が恐ろしくなる……
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