少し未来のシンフォギア   作:竹流ハチ

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ダインスレイヴ無しでのイグナイト化に成功した海未によってフォルテは敗北し、他の装者候補生達は自分達もイグナイトモジュールを使おうとするが、装者になった海未によって禁止されてしまう。

己に足りない物は何か、本当に必要だった物は何か、改造執刀医がバラルの使徒のみに与えた聖鎧を前に二人の覚悟が試される。


「Vitalization」

 

『二人のアホ〜!』

 

今は無きドヴェルグ=ダインの遺産を用いずに達したイグナイトモードで海未はフォルテを倒し、ようやくティナに私達の思いを伝えられてから一夜明けたけど、海未も今回ばかりは中々許してはくれず私が起きた時には隣には居なかった。

 

 

 

ボロボロになりながらも本部に帰って来た海未を切歌さん達は勿論司令も労っていて、今回が命懸けで勝算も少なかった戦いの中で海未が自分に打ち勝ったのだから当然だ。

 

私達が勝手に戦っても勝てなかった相手を殺さずに倒し、ティナまで辿り着いたのは律にとっても衝撃だったのかいつの間にか居なくなっていて、海未は私達の前にやってくるといつもと変わらない笑顔を向けてくれた。

 

『怪我は大丈夫〜?』

『はい………ご迷惑を掛けてすみませんでした…』

『気にしない気にしない〜。空も元気そうだし、良かった良かった。でも駄目だよ〜、勝手に戦ったりしちゃ』

『今の海未には何も言い返せないわ、本当に強くなったわね』

『えへへ〜』

 

元々ザババのユニゾンを前提で訓練していたのに一人でもあんなに戦えて、歌も一緒に歌っている時と違ったから海未も心の底から一人でも強くなろうと努力したんだ。

 

それを褒められないような嫌な姉にはなりたくなかったし、静香も後ろめたさがあったから当然私達はそれを褒めた。

 

『凄く頑張ったのね』

『うんうん、めちゃんこ頑張ったよ〜』

『切歌さんに稽古を付けてもらったの?』

『そうだよ〜』

『戦い方は雪音先輩?』

『そうだけどぉ……』

『イグナイトってペンダントの羽根を押し込むと起動するの?』

『イグナイトモジュールはどうやったら使えますか?』

 

私達だって強くなりたい、その気持ちがちょっと前に出過ぎたのか私達が詰め寄ろうとするとそれを聞いていた海未は手をパンッと叩いた。何かと私達が目を丸くしていると海未は腕を組んでから『二人とも、正座』と言い出した。

 

何故そんな事を言い出すのよく分からないから私達もお互い目を合わせていると『正座ッ!』とフォルテと戦っていた時くらいの覇気で命令された。思わず私達は司令室で正座をさせられるとクリスさん達は可笑しそうに笑っていたけど、海未の表情は全然笑い事で済ませてくれる雰囲気ではなかった。

 

『まだ分かってないの?』

『何がですか?』

『またそうやって無理する為に強くなろうとしてる。私がそんな事して欲しくてフォルちゃんと戦ったと思ってるの?』

『そうは言ってもこのまま海未ばかりに負担を掛ける訳にはいかないじゃない。イグナイトだって……海未に使って欲しい力ではないし』

『っ、そりゃ私も使いたくないけどさ〜、皆が無茶するから私も仕方なく使っただけなんだよ〜?それを使い方は〜とか、どうすれば〜とか、そんな事聞かれて嬉しいと思う?』

 

珍しくお怒りモードの海未を前に私達も少し下手に出ると海未もすぐに怒りの矛先は下げてくれて、そこが攻め時だと思った私達は視線を配ってお互い海未を言いくるめる手に出た。

 

『それは分かってる。でも海未一人に無茶はさせられないわよ』

『私達も出来た方が絶対良い筈、私達も強くなればきっとアリアさんも考えを変えてくれる筈です』

『う〜ん……そうじゃないんだよなぁ…』

『それに私は海未のお姉ちゃんなのよ?海未に負けたままではいたくないわ』

『私も、海未さんに負けていられない』

『………結局、強くなりたいからイグナイトを使いたいんでしょ?』

『『当然』』

 

そこからは海未は普段の優しくておっとりした可愛い喋り方から一転して捲し立てるように私達を不慣れな罵倒で罵り、『絶対にイグナイトモジュールは使わせないから!あと私は装者で二人はただの職員だから敬語で話して!それに二人がシンフォギアを使うのも私が監督するし、変なことしたらすぐに手錠掛けて牢屋に入れてやるんだから!』と早口で言うと司令室から出て行ってしまった。

 

まさかそこまで怒らせてしまうとは思わず、司令達にどうしたらと目で訴えても『海未の言う通りだ。装者候補生制度が凍結された今、二人は分析官でもなければ機動隊員でもないS.O.N.Gに身を置くただの見習い同然。装者をこれ以上怒らせないよう精進するんだな』と投げ出されてしまった。

 

「うっす、空。サボって何やってたんだよ?」

「内緒〜」

「ウチもアンタ等みたいに好きに休みたいよ」

「好きで休んでる訳じゃないってば〜」

 

部屋に帰っても口も聞いてくれないし、寝る前の日課さえさせてくれない。今回ばかりは本気で怒らせてしまい、流石に申し訳なく思いながら私も学校に通うとクラスメイトの桐生直は暫く休んでいた私に心配をする声を掛けてくれた。

 

家の用事という事で海未が話を通してくれていたから私もそれに乗っかったけど、直が気にしているのがその海未が私と一緒に居ないからだろう。

 

「そんで?海未と喧嘩でもしたの?」

「そんなとこかな〜。私が悪い事だし、気にしなくていいよ〜」

「マジ?あれ結構ブチギレてね?」

「ちょっと機嫌が悪いだけだよ〜」

「だといいけど、アンタが悪いなら謝んなよ」

 

勘のいい直は普段と然程変わらない様子の海未を見て相当怒っているのに気付いてるみたいで、謝るように勧めてきたけど海未が怒る理由も分かってる。海未だって血の滲む努力と思い出しくないトラウマを乗り越えてようやく引き出せた力なんだ。それを初めから頼るなんて嫌な気になるのも分かってる。

 

ただ、幾ら謝っても許してくれなかったし、口も聞いてくれないんだから仲直りのしようもないから困ってるんだ。

 

「アンタ等でも喧嘩すんだね」

「こんなに怒らせたのは初めてだよ〜」

「アタシも妹と喧嘩ばっかだけど、プリンの一個でも持ってきゃ仲直りできるもんなんだけどな」

「いいね〜、仲睦まじくて〜」

「アンタも何か献上したら許してくれるって」

 

事情を知らない直は気さくに笑っていて私としては深く受け止められるよりは有難いけど、そんな事したら余計に怒らせそうだから胸の中に案として仕舞っておこう。

 

そうして久々の学校生活はあっという間に過ぎていき、放課後になると学校の前には私の行動を制限する為にわざわざ迎えの車が来て本部まで直行で連れ帰られ、私の信用は地に落ちているのだと実感させられた。

 

律は相変わらずS.O.N.Gに顔を出すつもりはないようだけど、私は海未に追い付くまではどんな特訓にだって耐えるつもりだった。つもりだったけど、

 

「あの、本気で竹刀でするつもりですか?」

「ああ、久し振りにシンフォギアを使ったみたが感覚が鈍っていたからな。練習がてら相手をしてやろう」

 

訓練室に連れて来られた私と静香の前に立っているのは珍しくジャージに袖を通した風鳴司令本人で、片手に竹刀を構えているが対する私達は当然シンフォギアを纏っている。

 

イガリマとダウルダヴラのダブルコントラクトを扱える切歌さん。仮にもイグナイトモードでしか倒せなかったガリィ。今は適合率が下がっていても元々は数十万のノイズを一人で相手ができたクリスさん。怪物揃いのS.O.N.Gの中でもそれを束ねる風鳴司令が格別に強いことは当然知っているけど、流石にシンフォギアで生身相手を痛め付けるのは気が引ける。

 

「爆発物控えめでね〜」

「分かってますよ」

「作戦会議は終わったか?それなら何処からでも打ってこい」

「………先手必勝!」

「あっ、卑怯ですよ!」

 

痛めつけるのは気が引けるから一撃で仕留めようと鎖を地面に打ち込んでから一気に距離を詰め、私の鎌と風鳴司令の背後から這い出て襲い掛かる寸胴の挟み撃ちを仕掛けた。静香に手柄はあげたくないから不意を突いての攻撃に司令は動こうとはせずそのまま私の間合いに入ったその瞬間、風鳴司令の姿が見えなくなった。

 

司令の背後から襲っていた筈の寸胴は粉々に砕かれていて、微かな風を肌で感じると同時にシンフォギアの装甲も全て砕け散り、バックファイアを喰らって膝を付くとようやく背後に風鳴司令が立っている事に気付いた。

 

「生身に後の先を合わせられた…!?」

「未だ頑冥不霊の域から出られないか。何故お前達よりも不真面目だった海未に二人が劣っているのか、それに気付けぬようなら装者には向かないな」

「ならこれも打ち落としてみたらどうですか!」

 

愚か者呼ばわりされ、しかも海未に劣っているとまで言われた静香は早速火薬箱に手を突っ込むと掴める限りの小型ミサイルを空中に放り、一斉に点火して風鳴司令へと迫った。

 

だけど風鳴司令が竹刀で横に一閃を振るうと一拍置いた後に風が吹き荒れ、ミサイルは尽くその軌道をズラされると風鳴司令ではなく私の方に数発飛んできたから思わず跳び退いた。

 

「危ないでしょ〜!?」

「す、すみません!」

「今のが一般市民なら死んでいるぞ」

「一般市民が居たら使いません!」

「そうか。仲間なら良いと思ったか」

「そういう訳じゃ…!」

「お前達は優秀だ。だがそれ故に仲間を蔑ろにし、巻き込んでも避けるだろうと安易な考えで行動に移す。私達の頃とは違い、お互いに実力を把握しているからこそ起きる弊害だな。だがそれがガリィがアリアと律を同時に手玉に取れた理由でもある」

 

以前テスラ財団に潜入したガリィとティナ達が砂漠で戦った時、ガリィは多く見積もっても律と同じくらいの戦闘力だと思っていたのにティナも纏めて相手をしても引けを取らなかった。

 

二対一じゃなくて二人対一人、私達の共闘はお互いの隙を潰し合うだけで真の意味でお互いの強みを活かし切れてはいない。そこを突け込まれる程私達も弱くはない筈なのに、風鳴司令の前ではこうも簡単に捻られるのなんて。

 

「アリアが連れ戻す、その甘さが命取りだ」

「煩いッ!私は家族を取り戻す、それを邪魔されるくらいなら…!」

「ところで、良いのか?」

「何がですか!」

「もう私の間合いだぞ」

 

心を揺さぶられ冷静さを欠いていた静香に歩いて近づいていた風鳴司令が竹刀を振り下ろすと、頭をコツンと叩くだけで静香の心ごと装甲を打ち砕いて静香に膝を着かせ、風鳴司令はそれに満足したように訓練室から出て行ってしまった。

 

初めから勝ち目なんて無かった。風鳴司令は私達がフォルテ達に負けてからまだ何も変わっていないと知らしめたかったのだろう。ティナを連れ戻したいという想いは静香と一緒なのに、私と静香の心が通じ合うわけがないからわざわざ同時に。

 

悔しい、でもそれ以上に何も出来なかった自分に腹が立つ。

 

「ほら、立てる?」

「一人で特訓します……」

「………分かった。気が済んだら戻って来るのよ」

 

静香に手を差し伸ばしても払い退けられ、一人で居たいのだろうからそのままにして私も訓練室から出ると、扉の向こうからは建物が揺れる程の爆発と一緒に静香の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

 

けど、私にはそれを止める資格はない。今静香が苦しんでいるのは私の所為なのだから、それを止めるにはティナを連れ戻すしかないんだ。

 

 

 

私は一体何の為にシンフォギアを纏っているんだろう。

歌で世界を救う、かつて私を育ててくれた神父が教えてくれたその言葉を信じて私は戦ってきたのに、大切な人を失うと途端に歌に力が込められなくなった。

 

こんな事なら………こんな事になるのならいっそ…

 

「静香ちゃん?」

「……何?」

「次、体育だよ?」

 

あの日以来来てなかった学校に登校すると担任の冴島先生やクラスメイトは気に掛けてくれたけど、あまり話す気分ではなかったから二、三言話すだけで詮索を振り切り、授業中ずっと窓の外を見ているとクラスメイトの桐生真が既に算数の時間が終わっていると教えてくれた。

 

普段はあまり関わりのある子はではないけど、教えてくれたのに嫌な顔をするのは失礼だから体操着に着替えたけど、運動しようという気分には全くならない。

 

「家の人と喧嘩でもしたの?」

「……そんなとこ」

「ウチも一緒。今朝姉ちゃんと喧嘩したの」

「その割には元気そう」

「いつもの事だもん、気にしてたって仕方ないよ」

 

喧嘩するほど仲が良い、それを地で行ける人が羨ましい。こっちは殺し合いまでしたのに仲が良いどころかほぼ絶縁、しかも音信不通ときたものだ。

 

「静香ちゃんは喧嘩とかしなさそうだね」

「しない、したいとも思わない」

「じゃあ何で喧嘩したの?」

「……何も分ってなかったから」

「そっか、あるあるだねー」

 

結局、私はアリアさんの事を何も知らずに甘えていたから一人で苦しんでいたアリアさんを引き止められなかった。それをあるあるの一言で返されると少しムッとしてしまい、かと言って言い返すのは大人げないから教室から出ると真も後を追ってきた。

 

「ごめんごめん、でも良かったじゃん」

「どこが?」

「その人の事、一つ分かったじゃん!」

「その所為で不仲になったんじゃ意味がない」

「仲直りすればいいよ。きっと向こうだって謝りたいと思ってるでしょ」

「もういい、この話は終わり」

 

会う事だって叶わない相手とどうやって仲直りしろと言うんだ。何も知らないのにズカズカと心の中を踏み荒らされ更に気分が悪くなってしまった。

 

これ以上感情の揺れ幅で適合率を下げたくないからさっさと下駄箱に向かうと、まだ付き纏ってくる真に肩を掴まれ遂に堪忍袋の尾が爆発四散してそれを思い切り振り払った。

 

「アリアさんと真のお姉ちゃんは違うの!謝りたいと思っても謝れないのにそんな事言われても迷惑なの!もう放っておいて!」

「いや、その……」

「何!?」

 

私達は生きる希望を与えてくれた夢を叶える為に命懸けで人を救って、大切な仲間に命を預けて戦ってる。その絆は家族よりもずっと深くて、ずっと強い。だからこそその中でも家族と呼んでくれたアリアさんが去って行くのが信じられなかった。

 

こんなに残酷な世界でも一緒に笑い合っていた大切な仲間が、口数は少なくて生意気でいつでも省エネモードの私の事を家族と呼んでくれた人が、何の相談も無しに遠くに行くなんて信じたくなかった。

 

それを謝れば許してくれるなんて、普通に生きてれば家族と会える真とは生きてる世界が…!

 

「今日体育館だよ……?」

 

ぶつけたって仕方がない怒りを真にぶつけて八つ当たりしようとしたその時、目を丸くしている真に今日の体育は体育館での授業だと告げられた。

言葉の意味を理解するのに何拍か置き、ようやく授業中に担任がそう言っていたのを確かに思い出した。

 

周りの子達も喧嘩かと顔を覗かせていて先生達も集まり始め、勝手に勘違いしてたのが恥ずかしくて顔が燃え滾りそうなくらい熱くなったからすぐに真の手を引いて体育館へと向かうと、真は怒鳴られたというのに可笑しそうに笑っていた。

 

「今日の静香ちゃん面白いね!」

「私は面白くない!」

「でも、大声出して少しは気は晴れたんじゃない?」

「………」

「今日の体育は持久走だから今日くらい全力で走んなよ!嫌な事あったら汗を流す、それが鉄板だよ!」

「熱血ドラマじゃないんだから…」

 

結局、体育の時間は真に流されるまま持久走を全力で走り切ると自己ベストと同等のタイムを記録し、先生はぜひ地区マラソンに出ないかと誘ってくれたけど当然断ったものの、自分でもこの記録には驚いた。

 

最近はずっと身体が言うことを聞かない倦怠感みたいなのが付き纏っていたのに、真に煽られると負けたくないという気持ちがずっと背中を押していた。ある意味これも怒りの力の一端なのかもしれない。

 

だけど、海未さんが手にしたのは私が今抱え込んでいる苦しみよりも遥かに重いトラウマを超えた先に手にした力。命よりも大切な家族を手に掛けた記憶を掘り起こして、自己嫌悪しながらもその過去を受け入れる度量があったからこそ海未さんはイグナイトモードを使い熟せたんだ。

 

それなら私には多分使い熟せない、私は弱いから自分を恨んで暴走してしまうかもしれない。それは司令も言っていた周りを顧みない愚かな行為、試す事さえ愚かしい。

 

でも、だとしたらどうしたら私はもっと強くなれるの?大切な家族を取り戻す為に私は何をしたらいいと言うんだ。

 

「『んで、アタシの所に来たと?』」

 

私に出来る事なら全部やった。

 

面倒くさがりなあの海未さんがやったという修行は全部やっても答えを見つけられず、海未さんは月読さんから助言を得たという話は聞いていたから私も先代の装者に助言を求めた。

 

私が装者になっても夢は諦めないと言っていた雪音先輩は私を待っていたかのように訓練室でイチイバルでの訓練を行なっていた。そのスコアは及第点には少し届かないものの、犠牲者ゼロでしかも速度は決して悪くはないが、適合率低下による単純な火力不足がスコアに響いているようだ。

 

だけどその高い技能は今でも十分通用するから何か突破口は無いかと私から話を振ると、クリス先輩は汗一つ掻かず訓練を続けながら聞いてくれた。

 

「私はどうすれば海未さんのように強くなれますか?」

「『んなのアタシに聞かれてもっと、イグナイトは海未に使うなって言われてんだろ?』」

「イグナイト以外、例えばリビルドとか」

「『一人でか?ティナみたいな自分一人でフォニックゲインを高める手段がなきゃ無理だろ』」

「何でも構いません、何か手を知りませんか?」

「『一に実戦、二に実戦、三四も実戦、五に奇跡。アタシ等はお前が思ってる程真っ当なやり方で強くなっちゃいねぇんだ。死ぬ覚悟で闘って、フォニックゲインがこれでもかって位に高まって、ようやく新しい活路を見出してきた。それを便利な道具扱いされても教えられる事なんざねぇんだよっと!』」

 

先代装者達は私達が訓練を受けていた期間よりも短い期間で様々な敵と交戦し、時に命の瀬戸際まで追い詰められるようなギリギリの戦いを強いられてきた。

だからこそ火事場の底力の引き出せて、それを常態化させる術を覚えてきたというのは理解できる。

 

でも私達にはそんな都合良く敵なんていない。S.O.N.Gがこれまで活動してきたからこそ、そんな局面には早々出会わなくなったのに今以上に強くなるなんて一体どうすればいいんだ。

 

「………なら、私はこれ以上強くなれないんですか?」

「『さぁな?アタシは競争相手に塩送る馬鹿じゃねぇし』」

「っ、なら貴女に助言を求めた私が馬鹿でしたね。失礼します」

「『ちょっと待てって!』」

 

クリスさんは訓練室で訓練を続けるだけで特に助言も聞けそうにないから階上のモニタールームから出ようとしたその時、私が手を掛けようとしていた扉のタッチパネルが背後から撃ち抜かれた。

 

思わず振り返ると切歌さんでもなければ破壊不可能とされている訓練室の壁をクリスさんは立っていた場所から正確に撃ち抜いていて、しかもタッチパネルを『貫通もせず』に的確に内部基盤でその弾痕が残されていた。

 

適合率は下がってもクリスさんはこんな芸当を熟せてしまう。もしこのまま適合率が戻る事があればきっとイチイバルの装者に返り咲かれてしまうだろう。

 

「『アタシ以外に聞いても一緒だよ。お前に教えられる事はアタシ等には何もねぇ』」

「そんなの分からないじゃないですか!私は経験も浅いし、歳だって頭一つ若い!皆よりも伸び代だってきっと…!」

「『だから言ってんだろうが!アタシ等から教えられる事はもう全部叩き込んでんだよ!』」

 

どんなに背伸びをしても私は小さい、律さんや空さんと組み手をする時も力では絶対に勝てないから正攻法は通用しない。

だからこそ私にはまだ伸び代が残っていると言おうとしたけれど、クリスさんはそれを遮ったものの私の可能性を否定するのではなく自分達の指導が既に終わっていると叫んだ。

 

クリスさんがシンフォギアを解除した事で訓練が打ち切られて訓練室のVRが消えていき、クリスさんが訓練室から出たから言葉の真意を知りたいから私もその後を追いかけた。

 

クリスさんは訓練着のまま資料室に入っていき、私も後に続いて入るとクリスさんはS.O.N.Gの内部情報を束ねるシステムに端末から接続し、装者だけに与えられるパスコードを入力すると私達では知り得ない訓練項目を見せてくれた。

 

「これがアタシ等が実際に経験した内容から考案された装者候補生用のプログラムだ。何百とある訓練を全部やってんのはお前だけだ」

「でも海未さんの修行はやった事ありませんでした!」

「アレは空を頼ってたアイツを矯正する為に作った専用メニューだ。訓練の内容を理解してるお前がやった所で何の意味もねぇよ」

「じゃあ……それじゃあ私は…」

「お前は考えうる全ての状況に対処できる一番装者に近い候補生だ。お前に足りないのは訓練でもなけりゃ、イグナイトやリビルドのようなとっておきでもない。自分の心と向き合う覚悟だ」

 

ずっと真面目に訓練をこなして、その意味を理解して、実戦で活かしてきた。

 

それでもバベルの使徒に勝てなかったのだから強くなる手段を求めていたのに、クリスさんが示したのは既に私がS.O.N.Gの要求する水準を優に満たしているという指導の限界であり、それをこなしている筈の私が勝てなかった根本的な原因を突きつけてきた。

 

「お前にとっての家族って何だ?甘えたり甘えられたりするだけか?優しくしてくれりゃ満足か?」

「………」

「家族ってのはそんな生温いもんじゃねぇんだ。それこそあの馬鹿娘達はその繋がりを証明する為に人生を賭けてた。アタシも家族の夢を鼻で笑ってた時期もある。何でも許してやる、何でも聞いてやる、それは家族ってよりも

「もういいです、そんな事ならイチイバルも必要ありません」

 

クリスさんの綺麗事に付き合う為に来たわけじゃないし、そんな理由でイチイバルが私の力にならないのならもう頼るつもりもない。私の夢は世界を歌で救う事、広義的な意味で捉えればセイキロスを扱うアリアさんの仲間になればそれも叶えることができる。

 

私をこれ以上強くできないS.O.N.Gなんかに用はないから出て行こうとするとクリスさんに肩を掴まれ、無理矢理振り向かされるとクリスさんは拳を振り上げていたけれど私の表情を見ると拳が振るわれる事はなかった。

 

「良いですね?家族を語れるだけの思い出があって。楽しいですか?家族との繋がりなんてDNA以外何も残っていない私に家族の在り方を語って」

「………」

「ええそうですよ、私はアリアさんに依存してますよ!私を家族と呼んでくれたアリアさんが大好きですよ!それの何が悪いんですか!優しくしてくれた家族の側に居たいと思う事の何が悪いって言うんですかッ!」

 

甘えるだけじゃない?優しくされるだけじゃない?そんなの知ってるし、今更言われなくたって分かってる!

だから何なの!それだけじゃなくても、それだけの魅力があるから私は追い掛けているのに、どうしてそんな水を差すんだ!

 

家族の繋がりを語るのならせめて家族が一瞬でも一緒に居た記憶のある人に語ればいい。正論を語りたいのならそれを聞いて関係を改められる家族が居る人に語ればいい。

 

家族も居ない私にそんな綺麗事を聞く理由はない、今はただ私の家族の側に居たいだけなんだ。それがS.O.N.Gの道から外れるというのなら私は喜んで装者の適性なんて捨ててやる。

 

「S.O.N.Gが私の家族を否定するなら、私は私の家族を守ります。それが嫌なら今ここで殺せばいい」

「アタシから何言っても無駄か」

「ええ、無駄です」

「……じゃあ好きにしろ」

「今までお世話になりました。次会う時に武器を交わす事にならないといいですね」

 

もう必要のない端末を資料棚に置いてから部屋から出ると外で聞いていたのか海未さんが立っていたけど、私は頭を下げるだけで言葉を交わさずその横を通り抜けた。

 

今守るべき家族が居たから海未さんが強くなれたのなら、私だって家族を守る為に誰よりも強くなってみせる。

 

私だって自分の力で家族を守ってみせる。

 

 

 

 

S.O.N.Gを抜けた静香はその足で崩れ落ちた旧都庁に向かい、警察の警備網を潜り抜けて瓦礫の山に足を踏み入れるとそれを察知したアリアがバベルの使徒を向かわせると瞬時に静香の周りを囲んだ。

 

S.O.N.Gと敵対する事を決めたバベルの使徒は新たな完全聖遺物を手にしていたが、与えられた命令はフォルテの意思とは反していて、念話だけでは足りずその場で吠えたもののアリアが一方的に会話を打ち切るとフォルテは即座に新たなアジトへ戻った。

 

ドルチェに連れられて飛んだ静香はアリアの前に現れると、フォルテが怒鳴り散らしているのを横目にアリアは静香の方を見つめたがその目は決して優しい物ではなかった。

 

『何でこいつを守る必要があんのよ!』

『S.O.N.Gを抜けた、そうでしょ?』

『んなの知ったこっちゃないわよ!』

『S.O.N.Gとの敵対は認めたけど一般市民にまでその矛先を向けていいなんて言ったかしら?』

『アンタいい加減にしないと…!』

『ドルチェ、眠る場所を用意してあげなさい』

 

フォルテの追及を無視したアリアがドルチェに部屋の案内をさせ、去り際に『学校には行きなさい』と突き放すように言い放ち、後ろからフォルテの怒鳴り声が聞こえてくる中ドルチェは静香を案内した。

 

『貴女は怒らないんですか?』

『別に。姉さんはフィーネが心配だから怒ってるだけ。シンフォギアも持たない貴女には怒る価値なんてない』

『私はティナさんの助力になる為に来た。私ならきっと貴女達よりも役に立ちますから』

『フィーネが怒っている理由も分からない癖に』

 

同じ背丈の二人が並んで歩きながらいがみ合うと先にドルチェの言葉が静香の琴線に触れ、立ち止まってからドルチェを睨み付けるとドルチェはそれに対して呆れるような視線を向けた。

 

『幼稚な貴女のお粗末なプライドが何の役に立つの?』

『口だけ達者な貴女達とは違って私はティナさんの…!』

『フィーネの名を受け継いだ彼女が貴女に頼ることは決してあり得ない。自分を貫けなかった貴女の覚悟が私の覚悟に勝ることも決してあり得ない。だから興味無い』

 

他の二人より幼くもフィーネの為に同士達が想いを繋いでくれると信じて数千年の眠りに就いたドルチェは背格好だけで同世代だと判断する静香を嘲り、静香が寝泊りする部屋まで案内すると「お子様はちゃんと学校行きなよ」と言い残して転移した。

 

誰も私の気持ちを理解しようとしてくれない。子供扱いして大切な事は教えてくれないし、私の事を頼ろうともしてくれない。そんなの私が望んでる家族じゃない。

でも、きっとティナさんなら私が期待に応えれば分かってくれる筈だ。今はS.O.N.Gを抜けるなんて荒技で仲間になったから怒ってるだけで、私がちゃんと役に立てばきっと私の事を認めてくれる筈だ。

 

静香は自分が思い描く家族を想いながらベッドに身を投げ出し、募る不安を有耶無耶にしながらベッドで眠りに付いた。次の日になるとS.O.N.G本部に置いてきた筈の教科書やバッグまで用意されていて、静香を睨み付けるフォルテが学校の裏手まで送迎すると昨日までと変わらない一日が始まった。

 

授業の内容がを頭に入れる必要も無い静香はボーッと聞き流し、昼休みに入るとそんな様子を見ていたからか真が「放課後ウチの姉ちゃんと遊びに行こうよ」と言い出した。付き合う理由はないけれど、付き合わなかった時の方が面倒なのが容易に想像できた静香は仕方なく了承した。

 

そうして放課後になると真と静香は姉と待ち合わせているファミレスに向かい、真達が着くと道路の向かい側からは真の姉である直が手を振りながら駆け寄ってきた。

 

だが直が連れてきた同級生に静香が目を丸くしていると、静香と同じように気分転換として直に誘われた空は静香が付いて来ているのを見て眉を上げた。

 

「はぇー、すっごい美人さん。姉ちゃんの友達?」

「そう、顔は可愛いんだけど変わってんの」

「ありがとう〜。そっちのおチビちゃんも、よろしくね〜」

「……ええ、よろしく」

「あれま、随分と澄ました子だね。まぁいいや、今日はアタシと空が奢ったげるから好きな物頼んでいいからね」

「やったー!」

 

静香がバベルの使徒と合流した事を知っている空は事を構えるような真似はせずに知らないフリで通し、静香も同じ様に振る舞うと何も知らずに連れてきた二人は首を傾げながらファミレスの中へと入って行った。

 

四人は店の奥へと通されると各々頼みたい物を注文し、真と直がジュースを注ぎにドリンクバーに向かうとニコニコと笑っていた空は途端に冷めた表情に変わり、静香もそれを見てすぐに動けるように身構えた。

 

「S.O.N.Gを抜けた静香さんじゃない、フィーネの手伝いに行ったんじゃないの?」

「ティナさんに言われてこうしているだけ。必要があれば私も」

「呼ばれないわよ。フィーネは絶対に静香の手を借りたりしない」

「っ、そう言ってればいい。ティナさんは私を蔑ろになんてしませんから」

「しないでしょうね。だから頼られないのよ」

「要領を得ない話し方がお好きみたいですね。言いたい事があるならハッキリ言えばいいのに」

「あらそう?昨日フィーネが静香の為に頭を下げてから荷物を持っていく時に言ってたわよ。『静香は私の仲間ではない』って」

 

静香は驚愕した。

 

静香に睨まれても何処吹く風といった空が一言一句聞き間違えられぬように吐いた言葉はそのどれもが静香の想像から逸脱していて、言い返す言葉を準備していたのに喉に詰まったまま何度も思考を回した。

 

バベルの使徒とS.O.N.Gは現状敵対関係にあり、その統領とも言えるアリアが直接本部に出向き、ましてや装者候補生の私物を持って行く等、常軌を逸している。

 

「何で…!?」

「なーに話してんの?」

 

聞きたい事が山ほどある静香が一番気になった部分を問い質そうとしたが、話に夢中になって隣に立つまで気付かなかった真から声を掛けられると言葉を無理矢理区切った。

 

「別に何でも……」

「空はコーヒーでいいんでしょ?」

「ありがとう〜」

「真、静香ちゃんの分も何か注いで来なさい」

「え〜?何で?」

「えー、じゃない。行けって言ってるの」

「ちぇ、はいはーい」

 

空と二人きりにした途端に静香の様子がおかしくなった事に気付いた直は真をドリンクバーに行かせ、席に座りながら二人に話の続きをするように目配せをした。

 

だが装者達が何も知らない一般人の前で正体を明かすわけがないと察すると、真も自分の身の上を話そうと真が離れているのを確認してから口を開いた。

 

「私、空と海未が装者なの知ってるから」

「………う〜ん、何で?」

「私達、小さい頃装者に助けられた事があるの。真は小さかったから覚えてないだろうけど、空が付けてるペンダントと同じのを金髪の人が付けてたから」

「そっか〜。そういう時代なんだね〜」

 

数年前まではノイズ災害での生存者は厳重な監視体制が敷かれ、シンフォギアという最高機密を秘匿にする為に多くの人員が導入された。

 

しかし、先代の装者達に救われた人々は元の生活に戻れても何の理由で再度狙われるのか分からず、目撃者が狙われた際に再度接触を図るのが困難な人数に達した為に『特異災害被災者社会復帰支援機関』という名目の保護機関が設立された。

 

家族を亡くした事で所在を追うのが困難になる人物をS.O.N.Gや関連する機関の職や施設に入れ、纏めて保護管理するという合理性を求めた立花響が考案した機関であり、父を亡くした真や直が通うリディアンもその一つであった。

 

「別のクラスの装者も知ってるし、気兼ねなくどうぞ」

「……ティナさんが本部に来たというのは本当なんですか?」

「わざわざ事前に連絡までして静香の荷物を取りに来たわよ」

「なのに、私を仲間じゃないと?」

「ええ。静香をS.O.N.Gに戻す為なら多少手を貸すとまで言ってたわ」

 

静香がバベルの使徒のアジトにやって来てから数時間後、S.O.N.G内は突然送られてきたアリアからの連絡に騒然としていた。

 

『静香の荷物を取りに行くので用意しておいてください』、フィーネとしてではなくアリアとして送られてきたメッセージに翼も困惑しながらも静香の着替えや勉強道具等を用意して待っていると、アリアは転移を使う事なく正面から本部へと入った。

 

多くの警備兵に囲まれても気にする事もなく司令室までやって来ると、アリアが来ると聞いて装者候補生だけではなく装者達もその場に集まっていた。

 

『言われたものは用意した。他に必要な物はあるか?』

『いいえ。ありがとうございます』

『ティナは帰って来ないデスか?』

『私は私のやるべき事をやります。フォルテ達もその為に使います』

『私達は誰が相手でも倒す。でも静香はティナの側に居たいからS.O.N.Gから抜けた。静香にとってはティナの側に居させた方が幸せなのかもしれない』

『……私は本当の事を知ってる。私の為にそうしたって事も理解してるし、多分それは間違ってなかった。でも今の私は家族よりも世界平和を選んだフィーネ、静香の想いに応えられないし静香に同じ道を歩かせるつもりもない。静香が幸せになれる道はS.O.N.Gだけだと思ってる』

 

フィーネとして、アリアとして、家族として、静香とは同じ道を歩けないと応えたアリアの視線の先に居た空はその言葉に己の意志を決めた。

 

『あの三人には装者を襲っていいと許可を出した。本気でやらないと勝てないわよ』

『……望むところよ、ティナ』

『それじゃあ、今日はもう失礼します。律も早くしないと次はフォルテに殺されるわよ』

 

装者候補生達を焚きつけるように煽るアリアに対して律は視線を逸らしたが、真実を知っても尚フィーネとしての道を歩んでいると知った空はアリアの運命を変えた事への償いが最早何の意味も無く、前に進まなければアリアまで手が届かないと理解した。

 

そして、それには静香の協力も無ければそれさえ叶わないことも。

 

 

 

 

 

「ティナのお母さんとティナを会わせなかったのは私よ」

「はい?」

「ティナと会う約束をしていたお母さんを私が会うべきじゃないって引き離した。だからティナは今の道を歩く事を決めた」

「何で…?」

「ティナがS.O.N.Gを辞めてお母さんと暮らす事を願うと思ったから」

「何でそんな事をしたんですかッ!」

 

初めは何を言ってるのか理解できなかった。

 

そもそも私達はあの日から何日も一緒に居て、その事を話すタイミングなんて幾らでもあった。ティナさんが家族に裏切られたから傷付いているのを分かっていたけど、その原因は分からないから私が必死に側に居ようとしたのを知ってる筈なのに。

 

全部引き返せなくなってから今更そんな事を言われて怒号と共に空さんの胸倉を掴むと周囲を騒然としているけど、今の私はS.O.N.Gのルールも無ければバベルの使徒として身分を隠す必要もない。

 

たとえどんな手を使ってでも事実を引き出して、ティナさんの前に連れ出さなきゃいけないんだ。

 

「ティナが何でLiNKERと適合できたか知ってる?」

「それはセイキロスが胸の中にあったから…!」

「違うわ。ティナは家族からの愛に飢え過ぎていて、LiNKERの脳に対する負荷をかき消す程の効果があったからよ。ティナの正義感も愛情を欲するあまりの歪んだ目的思考だったの。本人がそれを認めたわ」

「嘘だ……そんなの嘘に決まってる!私はティナさんの側に居た!それならティナさんは遠くへなんて行ってない!」

「それだけティナが歪んでたのよ。私もこうなるなんて思ってもみなかった。私達が側に居れば、いつか家族と過ごせるように見守れば全て丸く収まると思ってた。けどティナはもう限界を超えてたの」

 

まるで抵抗しない空さんは私からの叱責にも飄々とした態度で応えているのが気に食わず、その顔に拳を振るってもされるがままで抵抗の一つもせずに私を慰めるような目で見ていた。

 

「ごめんなさい」

「謝る相手が違う!ティナさんに謝れ!」

「ティナは私のやった事を理解してくれてるわ。きっと私が一人で突っ込んだ時の感情の揺れが念話で読み取られたんだと思う」

「なら何で私に謝るんですか!」

「静香にとって一番大切な人を奪ったからよ。静香にとって誰よりも大切な家族を私が奪ってしまった。それが怖くてずっと私一人で何とかしないとって考えて、何度もそれが裏目に出た。ティナの幸せと静香の幸せ、そんな選択になるなんて思ってなかったの」

 

ティナさんの前に突き出してやる、そんな事ばかり考えていると空さんはティナさんを悲しませた事よりも私から家族を奪ったという事を悔やんでいて、その為に何度も無茶をしたと言われると握る拳が鈍った。

 

空さんにとっても家族は大切な存在だ。たった一人しか居ない家族、私にとってのティナさんの様に海未さんの事を大切に思ってる筈なのに、空さんはそれを投げ出してでも私の為にティナさんを取り戻そうとした。

 

謝る事で何も解決できないからティナさんを取り戻そうとしていたのが空さんにとっての償いだったんだ。でも、たとえそうだとしてもティナさんは帰って来ない。私はティナさんに遠くへ行って欲しくないだけなのにどうして皆分かってくれないんだ。

 

「ちょい待ち二人、真何処行った?」

「え?」

 

周囲から異様な目で見られていても止めなかった直さんが真の姿が見えないと立ち上がると、私達も店内を見渡したけどドリンクバーとその付近には居なかった。

 

嫌な予感がする、そう感じた私達はすぐに店の外に出ると車道を挟んだ先の歩道にはドルチェが立っていた。服装も現代の服ではなく古代の絹のような巫女服を装い、その手には海未さんが破壊した筈のボウガンが再び構えられていた。

 

『やっと気付いた』

「え、な、なにこれ!?」

「バベルの使徒は念話も使えるのね」

『当然、と言ってもこれはフィーネに与えられた本物。これまで身内でしか出来なかったから』

「真を何処に攫った!」

『煩い、店の看板の上に乗せてる』

 

一般人を巻き込むような事はしない筈のバベルの使徒がS.O.N.Gと関わりのある人間を狙う気かと思ったが、心底うんざりした様子のドルチェの言う通り、真は店の場所を示す背の高い看板の上に意識を失った状態で乗せられていた。

 

「アイツ何?今流行ってるやつ?」 

『私はバベルの使徒。そして、S.O.N.Gを壊滅させるアヌンナキの巫女!』

 

ドルチェは周囲から視線を気にすることもなくボウガンを曇天の空に向けると番われた矢は青白い電撃を纏い、私達に対して初めて怒りを向けるとその引き金を引き、雲の中へと残像を残す稲妻の如き速さで矢が放たれると空から一筋の雷がドルチェに落ちた。

 

突然の落雷に周囲一帯が停電に陥り、信号も消えると道路では人が入り乱れる混乱が起きたけれど、その張本人は纏っていた巫女服が銀色の鎧へと変化していて、ヘッドギアやアームドギアは無いが私達は直感的に理解できた。

 

「シンフォギア…!?」

『逆。アヌンナキだけが錬成できた聖鎧を貴女達みたいな半人前でも纏えるようにダウングレードさせたのがシンフォギア。そして私達は仕えていたアヌンナキ、『シェム・ハ』様に聖鎧を与えられた唯一の巫女。出力も限界値も全てがシンフォギアを凌駕してる。それよりも、そっちの小さい方』

「っ!?」

『何方に付くの?S.O.N.Gなら私は命を狙う。コッチだと言うならフィーネを悲しませたくないから生かしてあげる』

 

元々捨てた命だ、別に命を失う事を恐れてない。でも折角ティナさんの側に行けたのにそれを失う事も、私が戦わず空さんが殺される事も選べる訳がない。

 

ドルチェの言う通り、私はただ自分が嫌な事に我儘を言って周りに気を使わせる事で過ごしやすい環境を作っていただけだった。本当は空さんの様に後悔するかもしれない選択でも選ぶ強さがないといけないのに、私はそれを理解するどころか罵ってしまった。

 

そんな私に今更選べなんて言われても私の手の内には何も残ってないのに……

 

「静香、ティナが戻ってくる気がないって聞いて私は安心した」

「………」

「戻るかもしれない、そんな甘い考えを捨てられた。ティナはやると決めたら最後までやり通す、だから私はその先でティナが私達と手を取り合える道を作ってあげることにしたの」

「道を作る……」

「今は交わらない道だとしてもティナにとって最善の道を作ってあげればティナは必ず同じ道を歩いてくれる。だから私はティナの為にフィーネと戦う」

 

私達の元にティナさんを連れ戻そうとしていた筈の空さんが今は一切迷いのない顔でそう言いながら、ポケットの中から取り出した物を私に投げ渡してきた。

 

それは没収された筈のイチイバルのペンダントと哲学兵装『魔弾の射手』のイヤリング。私が捨てるといった装者としての才能を空さんは持って来てくれたんだ。今日ファミレスに呼ばれたのも偶然なんかじゃない、空さんは真と直さんが姉妹だと知っていて私とも関係があるから呼び出していたんだ。

 

「何で私と真の事を…?」

「担任の先生に聞いたのよ。ティナが遠くへ行ったから誰かがティナの代わりをしなきゃいけなかったしね。そしたら静香と真ちゃんが大声で喧嘩したって聞いてビックリしたわよ」

「あ、あれは喧嘩じゃありません!」

「でもお陰で静香の事が少し分かった。静香は相変わらず頑固で偏屈で融通が利かなくて、その癖メンタルも弱い」

「ボロボロに言ってくれますね…!」

「けど私が選んで後悔した選択も、ティナが進むと決めた道を認めることも、最後には立ち上がってくれるって信じられた。静香、ティナの為に『フィーネ』を倒すの手伝ってくれない?」

 

ティナさんとフィーネ、身体は同一人物だけどその向かう先は違う。ティナさんは家族との幸せを選びたかった、その道に帰る事だって出来たのにフィーネとして世界平和を願った。

 

フィーネの望む世界の在り方が正しいかなんて私には分からない。けど、それがティナさんが望む世界じゃないのなら私は家族の為に戦わなきゃいけない。フィーネという器を破壊してティナさんがティナさんとして生きられるように。

 

もう一度ティナさんが笑えるように。

 

『覚悟は決まった?』

「私はS.O.N.Gの隊員として、イチイバルの装者としてバベルの使徒を、フィーネを倒す!貴女達に世界を支配させたりなんてしない!」

『人類にとってそれが救済になるとしても?』

「人の生き方を強制する権利なんて誰にも無い!私達は自由に選択して、何度も後悔して、それでも前を向いて歩いていく!バベルの使徒達にその選択を奪わせたりしない!」

「貴女達の言う通り、フィーネの支配下に入れば悲しみは無くなるかもしれない。けどそんな人生に味気も無ければ面白味もない。悲しみを乗り越えるからこそ人は喜びを感じられるのよ」

 

私達が聖詠が歌える位まで適合率が戻り、今からでも戦えるようになると何故だかドルチェはそれを喜んでいる様に笑みを浮かべ、ボウガンを私達に向けた。

 

『選択して後悔する、それが人としての在り方。私も同意見』

「だとしても、私達は加減できない」

『それも同意見。私達はフィーネの為に生きると決めた、その覚悟を無駄にはしないッ!』

「《enjerr Ichaival tron(灰色の世界を音色で燃え上がらせよう)》!」

「《seas deed igalima tron(君の為に真実の偽りを唄おう)》!」

 

 

心の奥から浮かぶ聖詠を歌い、ペンダントが光の粒子へと変わると私達の想いが鎧を形作り、私達の覚悟がアームドギアを形成し終えると心の歌が周囲へと鳴り響いた。

 

装者が同じような鎧を着た相手と対峙していると一般市民は野次馬しようと建物の窓際に寄っていたが、ドルチェはそれに気にも留めず引き金を引くと背筋に寒気がしたから互いに反対へ回避行動を取った。

 

するとドルチェからボウガンから放たれたのは瞬きをしてなくても目で追うことが出来ない紅い稲妻。光に呑まれたと感じた次の瞬間には私は何処かのビルの中に突っ込んでいて、目に焼き付いた雷光を何度か瞬きをして治したものの、身体中に感じる痛みはそう何度も耐えられるものじゃない。

 

『今ので死んだ?』

 

私達はヘッドギアのお陰で助かったものの、逃げ惑う人達は聴覚をやられて平衡感覚を失ったのか足取りが覚束ず、此処から避難させるのは難しいだろう。

 

それにあの稲妻、直さんの目の前で二つに引き裂けてから回避した私達に直撃していた。恐らくドルチェの思うがままに動く軌道の読めない光速の矢、撃たせない事に集中しないと一方的にやられるだけだ。

 

『耳がダメになっても念話があれば会話できる。ほら、危ないから皆逃げて』

「《さぁ、私と踊りましょう》!」

『もっと煩くなる』

 

空さんの状態は確認出来なかったから私だけでも窓から飛び出して火薬庫から小型ミサイルを宙に放ると、私の方をじっと見ていたドルチェは既に私に照準を合わせていた。

 

咄嗟にミサイルを爆破させて爆風で私の軌道を無理矢理変えると次の瞬間にはまた稲妻が私の居た場所を貫き、目を閉じても残像が残る雷光と爆音が鳴り響きとてもじゃないが歌うどころじゃない。

 

ドルチェの戦闘力は聖遺物頼りなのは分かってるけどその戦闘力があまりにも高過ぎて近付く事もままならない。魔弾の射手を使うにも六発限りの制限があるのに有効打以外で使うなんて……

 

『私達相手に隠れても無駄』

 

ビルの影に隠れて次の手を考えていたが次の瞬間、視界が暗転してから身体の感覚が遠退き、視界が先に戻るとまた雷矢が直撃したのか建物を貫いてから車に身体を叩き付けられていた。

 

雷の矢、恐らくアレはドルチェでも扱えるように姿形を変えられた別の聖遺物。狙った場所に落とせる雷と聞いて思い浮かぶ伝説なんて一つしかない、けど形無い聖遺物をどうすれば違う世界から持ち出すことが出来るんだ?

いや、そこはこの際どうでもいい。大切なのは雷の攻略だ、私の未完成のリフレクターや土の元素の壁は容易に破られる。守る事が出来ないなら攻めるしかない、けどその攻め手も私だけじゃ弱い、せめて空さんの位置さえ掴めれば……

 

「『…こえますか!?』」

「エルフナインさん…?」

 

一人では勝てない相手に痛みで回らない頭で何とか策を考えていると、雷の影響なのかヘッドギアからは途切れながらもエルフナインさんの声が聞こえてきた。

 

「『よかっ…!現在こうせ……なのは確認してます!雷の影響で……ぎれて聞こえ…と思いますが、……さんの位置を転送…!』」

『余計な手出しは要らない』

 

S.O.N.Gも私達が交戦中である事は確認出来ていたのか、エルフナインさんが転送してくれた位置情報がヘッドギアの空間投影ディスプレイに表示された。私達の会話を探知したドルチェは黒雲に稲妻を撃ち込むと通信が途絶え、位置情報も更新されなくなったが現在位置が分かっただけ有難い。

 

最後の情報を頼りにドローンを複数台飛ばし、ドルチェの姿をディスプレイで確認しながら駆け出すと、空さんも同じく向かっていたから私のドローンを併走させてドルチェの様子を投影する事で情報の共有を行った。

 

すると空さんがヘッドギアを指差しながら開いた手を握る動作を始め、何を伝えようとしているのか考えてからヘッドギアの通信電波を作戦時に扱う広域通信から装者間での短距離通信に切り替えた。するとノイズが走っていた通信が鮮明になり、「聞こえたらニコニコ笑いなさい」と言われたから顰め面を見せると満足そうに笑っていた。

 

「『私達だけなら通信できるわね』」

「せめて海未さんが到着するまでの時間を稼がないと」

「『来ないわ。通信を断たれて切歌さん達も一切顔を見せないって事はこっちに来れない訳がある。多分ノイズをばら撒いてドルチェの戦いを邪魔されないようにしてる筈よ』」

「何故そんな事を?」

「『簡単よ。私達くらいなら戦いが不得意なドルチェだけでも勝てると思われたのよ、あの憎らしいフィーネにね』」

 

バベルの使徒達の行動からこの戦いがフィーネが仕組んだ盤面だと空さんが読むと、口では笑いながらもその目付きは過小評価を付けられたことに苛立っているのが見て取れる。

 

それがフィーネの思惑だからなのか、それとも私達をよく知るアリアさんだから苛ついているのか分からないけど、そんな評価で作られた道筋を黙って歩く私達じゃない。

 

「『ドルチェは必ず此処で捕らえる。あの高い鼻へし折ってやるわよ』」

「当然」

「『静香のタイミングに合わせるから、好きに攻めなさい。それじゃあ行くわよ!』」

 

接敵するまでに攻め手を確認し合い、一歩も動いていないドルチェの待つ通りに出たと同時に私達を射抜くように稲妻が放たれた。けれど余りにも精度が高い稲妻はスライディングをするだけで頭の上を通過していき、次弾が装填される前に小型ミサイルを掴めるだけ掴んで空に放ち、避けようともしないドルチェに命中して連続する爆発に飲み込まれていた。

 

まさかこんな安い手で終わる訳もないし現に手応えもまるで感じず、空からドルチェに向かって稲妻が落ちると爆煙は消し飛ばされて無傷のドルチェが再び引き金に手を掛けていた。

 

だけど、背後から空さんが巨大な鎌を振り下ろすと初めてその場から動いて鎌を避けた。

 

『ちょっとマシになった』

「それはどう、もッ!」

『その速度じゃ当たらない。当たってあげてもいいけど』

「言ってくれるわね!」

 

空さんもアームドギアの形を変えながら顔色一つ変えずに避けているドルチェに斬り込んでいき、その隙を埋めるように私もドローンでの自爆特攻を掛けてはみたものの、やはり私の攻撃は避けようともしない。

 

アヌンナキが遺した聖鎧、フィーネに与えられた完全聖遺物、そしてドルチェ自身の高い演算能力。その全部を凌駕するにはイグナイトモジュールを使うしか…!

 

今の自分を超える為、ペンダントの両翼に手を掛けてから使うか判断に迷っていたその時、自動車を背にしていたドルチェが突然ドローンを避けた。

その行動に気を取られてしまい、背後の自動車に逃げ遅れた一家が取り残されているのが見えた時には既に制動距離は過ぎていた。

 

「しまっ…!?」

 

間に合わない、標的に接近した事でドローンが爆発すると私は思わず目を背けてしまった。

 

「前を向きなさいッ!」

「空さん…!?」

 

一般市民を巻き込んでしまった現実から目を背けようとした私に空さんからの怒号が飛んできて顔を上げると、私が爆破した筈の車は無傷だったけれど、代わりに車の前に割って入っていた空さんの左腕が煙を上げて装甲もボロボロになっていた。

 

直後、私達は頭が割れそうになる轟音と共に雷矢に貫かれると道路に置き去りになった車に何度も叩きつけられた。

連続する負荷を超えた痛みに動けずにいると私よりもボロボロの筈の空さんはすぐに駆け寄って来て、手を引っ張って私を立ち上がらせるとまたドルチェと対峙した。

 

「静香がどれだけミスしようと必ず私がカバーする!下を向くのをやめて歌い続けなさい!」

「っ、向いてません!」

「ならよし!次はもっと攻めるわよ!」

 

私が諦めそうになっても、自分がボロボロになっても空さんから聞こえる歌は途切れる事はなく、傷付く程にその歌から伝わってくる覚悟が増していくのを感じる。

 

後悔も償いも纏めて燃やし尽くして立ち上がる覚悟はティナさんや海未さんだけが特別持っていた物じゃない。後悔したからこそ、償いたいという思いがあるからこそ前を向いて立ち向かう覚悟を持っていたから皆は強くなれたんだ。

 

私も強くなりたい。空さんみたいに、私の手を引っ張ってくれる人達みたいに誰かを守れるくらいに強くなりたい。

 

もっと強くなって、みんなが笑顔になれる世界を作りたいッ!

 

『何度やっても同じ事。貴方達の歌は私には届かない』

「なら聞かせてやるわよ!私達の歌を!」

 

私が強くなりたい理由をようやく心の奥から掬い上げると、イチイバルはそれに応えるようにイガリマと共鳴し始めて空さんと心が繋がると新しい歌が聞こえてきた。

 

何度も後悔して、そして立ち上がった私達の歌。とっておきなんてなくてもこの歌があれば十分だ!

 

「《変わらない日々を守りたい》!」

「《そんな想いばかり積もる度》!」

 

私と空さんが絆のユニゾンを歌い出し、私達に止めを刺そうとするドルチェが引き金を引くと紅色の雷撃が私達に迫った。

 

けれど私が張った金色のリフレクターが大きく湾曲しながらもその雷撃を受け止めると、普通のリフレクターなら簡単に破壊できる出力を出しているドルチェはそれに驚いているようだったけど何も難しい事はない。

 

シンフォギアには数字では語れない強みがある、それはクリスさんの切り札がイチイバルの再生能力を利用した様に聖遺物が力を貸してくれる事。

 

私のリフレクターは受け止ていた雷撃を張り詰めた弦の様にドルチェの方に放つと、ドルチェも障壁を張って防いだけれどその障壁さえも一撃で破壊されていた。

 

『へぇ、イチイバルを面白い使い方してる』

「《前へと進むのが怖くなっていた》!」

 

雷撃を跳ね返す術を手に入れた私はドルチェにドローンを大量に飛ばして足止めをしつつ距離を詰め、ドローンを見た目以上に頑丈なボウガンを振るって叩き落としているドルチェの首を空さんが狙うとドルチェも半歩下がった。

 

その足がドローンの残骸を踏んだ瞬間、ドルチェの聖鎧からフォニックゲインが供給されたドローンが爆発すると超至近距離の爆発には身体が耐えられないのか、ドルチェが吹き飛ぶと初めて地面に背を付けた。

 

その隙もミサイルで追撃しようとしたけれど倒れていた筈のドルチェの姿が一瞬で消えた。すると頭上から嫌な気配がした私がドーム状にリフレクターを張ると黒雲から幾つもの雷撃が落ちてきた。

 

「っ、《貴方の側に居たい》!」

「《ずっとずっと》!」

 

リフレクターは何とか受け止めてくれてはいるけれど、落雷を逸らすのが精一杯で周囲の音なんて聞こえやしない。だとしても、私達は歌う事は止めない。

 

それが私達装者の生きる道だから!

 

 

 

 

絆のユニゾン、確かに二人のフォニックゲインは急激に上昇して私の雷を跳ね返す程の輝きを見せた。

 

けれど、それでも私には届かない。私の演算能力でしかコントロールできない全能神の完全聖遺物『ゼウスの雷霆』、そして雷を矢として放つ為に渡された『ハラダヌの弓』の哲学兵装であるボウガン。

 

完全聖遺物ありきの力ではあるけど、それを使い熟せるのなら姉さんみたいに個人の戦闘能力に左右されることのない無類の力になる。

ビルの上から道路を見下ろすと、空から絶え間なく降り注ぐ雷を受け続けている静香のリフレクターは今も雷を逸らし続けている。だが私が何処にいるのか探す暇なんて無い筈。

装者を殺すのは気が引けるけど、これも姉さんの為。

 

ボウガンに再び雷を装填して限界まで溜め込んでから引き金を引くと、紅い稲妻は空気を裂く甲高い音と共にリフレクターを貫いて地面で炸裂して閃光を散らした。

雷矢を撃ち込んだ道路は酷く破損して周囲の車は余波を受けただけで炎上し黒煙が昇っている。

 

これでお仕舞い、後味の悪い勝ち方になったけど仕方ないだろう。

 

「《君を泣かせたくない》!」

「《ずっとずっと》!」

「何?」

 

勝負は決した、そう思って立ち去ろうとしたけど足下からまだ歌が聞こえてきた。

 

あの一撃をまともに喰らって生きていられる生物なんていない。跳ね返した様子もないという事は消失した?一体何処に?疑問は残るけれどフォニックゲインは確かに弱まってきている。リフレクターが割れた今、次で確実に仕留める。

 

地上から昇っている黒煙が視界を遮っているがシンフォギアの中にある聖遺物のお陰でその位置は把握出来ている。二人に照準を合わせもう一度雷を装填すると、不意に強いビル風が吹いた。

ビル風に煽られて黒煙は風と共に消えていき、地上の様子が鮮明になると私が照準を向けた先には静香しか居らず、静香も同じように手に持ったライフルの照準を私に向けていた。

 

「《我儘な》!」

「《泣き虫は》!」

「「《私だったのに》!」」

 

私よりも先に静香が先に引き金を引くとライフルの銃口に錬成陣が現れ、世界を引き裂くような甲高い銃声が鳴ると銃弾が撃ち出された。その弾丸も錬成陣に包まれるとその場から消え、背後に転移したの感じて全身を障壁で包み込むと弾丸は私を撃ち抜こうと様々な射線に転移し続けていた。

 

現実性を歪めた必中の弾丸、要するに狙った場所に当たるまで追い続ける哲学兵装だというのは理解した。けどイガリマの反応は未だ静香と同じ場所にあるのに空は何処に行った?

 

「此処からは私達の番よ!」

 

障壁に包まれたままでは雷矢も撃てないから二人の策を見破る方に意識を回していたその時、背後から声が聞こえ振り返るとシンフォギアを解除した空が静香の小さな火薬庫を私に向けて構えていた。

 

火薬庫の蓋が開く前に障壁を正面に集中させたけど、火薬庫の中からは私が撃ち出した雷矢がそのまま私に放たれ、障壁を傾斜をつけて上空へ弾いたものの衝撃で私も宙に弾き出されてしまった。

 

黒煙の中でシンフォギアを解除し、このビルをこの短時間で登り切ったのか。この土壇場でそんな無茶苦茶なやり方を選んで私を出し抜くなんて。

 

本当に、フィーネは面白い物を遺していった。

 

「空さん!」

 

空もビルの屋上から飛び降りると地上から投げられたイガリマのペンダントが私の横を通り過ぎ、空がそれを手にすると聖詠と共にシンフォギアを再び纏った。その手に持った鎖鎌からは魂殺しが発現していて、一度でも斬られたら私がこの舞台から降ろされてしまう。

 

腕の一二本なら良いけれどそれだけは許されない。私にはまだやらなきゃいけない事があるんだ、空中で自由に身動きできない今仕留めるしかない。

 

「《空を見上げていても》!」

「《涙を流したとしても》!」

 

ボウガンに雷を装填して空に向けたが背後から再び甲高い銃声が聞こえると弾丸はボウガンの弦を引き千切り、空が構えた鎌の切っ先が私の首元に触れた。

 

魂を刈られる直前で地上に転移すると最初に放たれた弾丸が背中に命中して姿勢を崩され、障壁を張りながら体勢を立て直すと既に空の鎖に巻かれた巨大な魚雷が遠心力を乗せた状態で振り下ろされていた。

周囲への被害を抑える為、魚雷が私に触れる前にその四方を障壁で囲んで爆風が上空へ向くように制御し、魚雷が爆発しても障壁が割れる程度で済んだ。

 

だが私の攻め手はボウガンを破壊されたせいでかなり狭められてしまった。ボウガン無しでの貫徹能力ではあのリフレクターは貫けないし、私の障壁も無敵ではない。

 

姉さんに見られてたら何を遊んでるんだと怒られるだろう。でも私は元よりシェム・ハ様とフィーネには限りない恩義があるから従ってるに過ぎない。自分の意思で決めて、自分の思うがままに戦うのはこんなにも気分が高揚するものなのか。

 

「面白い!もっと私に可能性を見せて!」

「《先に進む道はある》!」

 

不要なボウガンは放り捨てて装者達と真っ向から戦うと決めると、黒雲は私の機嫌を読み取ったかのように周囲に雷を落としているが、その尽くを避けて近付いてくる空に手に集約した雷を引き伸ばして槍のように投げた。

 

だが空が鞭のように振るった鎖に槍は叩き落とされ、鎖が帯電するとそのまま私を縛り上げるように絡まってきた。雷を扱う私にそれが効くわけもない、それが分からない二人でもないだろう。

 

ならば狙いは何だろう?聖鎧を砕くのが狙いか?それとも私の魂か?それとも別の何かか?

巫女だ祝福された少女だと持て囃され、望んでもいない演算能力を与えられて物事を俯瞰でしか見られなかった私に疑問を浮かべさせてくれる二人が次に何をするのか。

 

楽しくて仕方がない。

 

「《ずっとずっと先へ》!」

「《ずっとずっと前へ》!」

 

空の鎌が迫ってきたから少し後方に転移した瞬間、また甲高い銃声が鳴り響くと私の目の前に弾丸が現れた。咄嗟に障壁を張ると弾丸は転移したが何故か再出現せずに忽然と姿を消し、その隙を狙ってミサイルが迫ってきたから静香の背後に転移し直した。

 

心臓に移植された雷霆を全力で放出。私の考え得る限りの最高の一手を繰り出そうとしたその時、また私の眼前に弾丸が出現すると咄嗟に回避したものの距離を取られてしまった。

私の転移した眼前をマーキングした弾丸、私達の転移の性質を利用してそれを逆に利用した戦法で潰しに来たか。この短時間の実戦の中で哲学兵装の存在証明をより強固にして、より曖昧でもその効果を発揮できる様にしてる。

 

「その転移、相当不便な力みたい」

「君の考察を聞かせて貰う!」

「転移が本当に自由自在なら初めからビルの中を転移し続けて撃てば良かった筈。なのにビルの屋上や自分の背後、私達のすぐ側にしか転移しない。恐らくは視認している、もしくは私達のフォニックゲインの反響によって地形が確認できている局地にしか飛べない力。違う?」

「正解!」

 

細長い魚雷で殴り掛かってくる静香は私達の転移の制限を看破し、嘘偽りなく正解だと答えると静香は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「随分楽しそう」

「楽しいから!でもそれだけじゃ負けてあげられない!私の雷はまだ消えていないのだから!」

 

転移をしても魔弾の回避をしなければいけない以上先手は取れない、そしてここまで大見得を切っておいて今更逃げ出すような選択もしたくない。

 

私も避けるばかりではなく全身から電撃を放出すると静香は錬金術の壁で防いだものの、『ゼウスの雷霆』は際限なく使える無限の力。ボウガンのように一点集中は出来なくともこの二人を倒すくらいなら余りある力だ。

 

だけど私と対峙している二人も次で決めるつもりなのか、互いに視線を交わすだけで意思疎通を図ると空は地面に鎖を打ち込んで静香が駆け出してきた。

 

「《私達が進む道は此処にある》!」

「《望む世界はこの先にある》!」

「その先に行きたいなら、私を倒してみなよッ!」

 

静香が何かをする前に地面に全力の雷を流し、地下を通る配管を通じて空へと墜ちる雷が幾本も立ち昇り、静香はシンフォギアでは決して耐えられない出力の雷の奔流の中へ飲み込まれた。

 

「「《だから》!」」

 

だが二人の歌は絶対的な力を前にしても鳴り止まなかった。

 

ゼウスの雷光にも劣らない輝きが奔流の中から溢れ出ると、同時に無傷の静香が新たに背負ったマントで奔流を引き裂いた。

 

新たにその姿を変えたシンフォギアは黄金の輝きを纏っているがそれだけではない。この時代ではロストテクノロジーである錬金術の極致『黄金錬成』をこの土壇場で完成させた静香が着地すると、その足元の割れた地面からは無数の鎖が地上に飛び出した。

 

ビルや地面を突き破りながら複雑に絡み合う鎖は次第に私が転移できる場所を制限していき、破壊しようと雷を落としても静香が触れる事で黄金に錬成し直された鎖が電流を分散する事で私の攻撃を無力化してみせた。

 

「《この手》!」

「《伸ばし》!」

 

複雑に絡み合った鎖の中で瞬く間に増殖するドローンを幾つも飛ばしつつ私にライフルを向ける静香、そして私の逃走経路を少しづつ狭めながら自分が通れる最短ルートを駆け抜けてくる空。

 

雷霆を封じられ、転移を封じられ、シェム・ハ様の聖鎧も私の味方をしてはくれない中で演算能力と障壁だけでこの逆境をどう切り抜ける?

 

「「《夢を掴んでみせるから》ッ!」」

 

《極刑・Sky gauge》

 

鎖の隙間を縫って逃げようにもドローンで逃走経路は塞がれ、空に鎌の間合いまで入り込まれ切っ先が首元に触れると甲高い銃声も3発鳴り響き、弾丸が私達の周囲を取り囲んだ。

 

空を退ければ弾丸が私を貫くだろう、下手にアジトへ転移しようものなら弾丸による追跡を可能にする。現状私がそんな事をすればフィーネへの迷惑だけならまだしも、姉さんにもかなり怒られてしまう。

私にはまだやる事がある、この二人が私に通用するくらいに強くなったのなら及第点だろう。

 

今の私に打てる反撃の術はないから聖鎧を解除して両手を上げて降参すると、空を覆っていた黒雲もしだいに散っていき綺麗な夕焼け空が広がっていった。

ようやく戦いが終わったのかと建物の影に隠れていた人達がそそくさと避難していく中、静香も歩み寄ってきたが二人とも納得がいかない様子だ。

 

「私の負け。おめでとう」

「どういうつもりかしら?」

「流石の私も頭を狙われて防ぐ手段を奪われている今は勝ち目がない。死ぬよりは生きてた方が楽しいから」

「……そう、なら聞きたい事が山ほど有るから本部に連行する」

 

聖鎧が無いと雷霆は私自身にも危険が及ぶ。騙し討ちをするつもりもないというのは分かってくれたようで、静香に私の腕を後ろで組まされると随分と大掛かりな手錠を掛けられた。

その瞬間感じた事もない脱力感が私の身体に襲い掛かり、思わず膝を着いてしまった。

 

だが一番厄介なのは私の中にある聖鎧と雷霆、念話さえも私の呼び掛けに応えなくなってしまった事だ。

 

「大丈夫?」

「この手錠、力の封印も出来るの?」

「教えない。質問するのはこっちだから」

「緒川さんが迎えに来てくれるみたいだから待つとしますか」

 

異能の力の完全封印なんて完全聖遺物を封印するのが精一杯の現代人が開発できる技術ではない。二人はそれ程大層な物だと思ってないみたいだけど、この手錠で私達三人が同時に捕まる事だけは絶対にあってはいけない。

 

やっぱり無理を言って私が最初に舞台に上がって良かった。S.O.N.Gと国連、そしてフィーネの思惑通りになる訳にはいかない。全ては姉さんの想いの成就の為に私は私の舞台で踊らせて貰うから、フィーネ。

 




次回、このシリーズでは初めてアイドル大統領が出ます。
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