『あったりませーん』
エルフナイン女史がダウルダブラ回収の為にチフォージュ・シャトーの残骸を調査していた際、偶然見つけられたキャロル=マールス=ディーンハイムが作ったオートスコアラー達が刻んだ旋律の残滓は多くの物をもたらした。
錬金術とフォニックゲインを同列のエネルギーに変える回路の改良、それによる暁さんと調さんが編み出したダウルダブラとシンフォギアのダブルコントラクト。
そして、かつて装者達を苦しめたオートスコアラー達の復活。
『ぐぬぬ……空!』
『お任せ!』
『はっずれー』
響さんからの命令で再び日本に帰ってきた私はアガートラームの装者であるXMH_020『ガリィ・トゥーマーン』を連れて本部に帰還すると、当然ながらガリィとの面識が殆ど無い静香や空達は興味津々といった様子で迎え入れてくれた。
だが、
『私より強い奴の言うことしか聞かないから、弱っちぃのはあっち行ってなさい』
ガリィの腐り切った性根の悪さを知った空達は怒りに任せて模擬戦闘を行っているがその様子はまさに赤子が手を捻られているかの様に一方的なものだった。
ガリィはシンフォギアを纏わず錬金術だけ、しかも水の元素しか扱わないにも関わらず息のあった二人の連携を軽くあしらい、空の鎖鎌が首を裂いたかと思えばそれは水で作れられた偽物の連続。
流石はかつてシンフォギアに搭載されていた暴走を制御する『イグナイトモード』でようやく倒されたオートスコアラー。たとえザババのユニゾンがあってもこれ程までに力の差が出るものなのね。
「『三人共、終了よ』」
『まだやれるし!』
「『その様子じゃ勝てないわよ。ガリィは本気も出していないし、諦めなさい』」
『勝てる!ていうか勝つまでやめないし!』
「『やめなさい、分かった?』」
これ以上風鳴司令を待たせるわけにもいかないから立体映像装置によるシミュレーションを解除して戦闘を切り上げさせた。
空達はまた勝負が終わってないと不満げにしているが当のガリィは足早にシミュレーションルームから出て行き、二人もお互いに行き場を失った怒りを吐き出すように地面にアームドギアを投げ捨ててから出て行った。
全く、この間は大戦果を挙げたから少しは大人になったかと思ったけど相変わらず子供っぽいんだから。
「ティナは相変わらず強いな」
「い、いえ、私なんて司令に比べれば全然!?」
「そうではなく、お前には指揮官としての才があると言っているんだ。あの二人を一言で言う事聞かせるなんて私でも出来ないぞ」
「それは……あははは」
普段の響さんが全然言う事を聞いてくれないから自然と口調が強くなってしまった、なんて言える訳もなく愛想笑いを返すと風鳴司令は首を傾げているが今日は別に世間話をしに来た訳じゃないんだ。
「その、ガリィは大丈夫なのですか?」
「どういう意味だ?」
「ガリィは元を正せば敵です。たとえエルフナイン女史が造り直したとはいえ、記憶もそのままでは裏切られる可能性は捨て切れないと思うのですが」
「多少の危険は百も承知しているが、ガリィは現状アリアと百合根に並ぶ実力者であり、特殊任務に向いた素性の持ち主だ。『所有者』のお墨付きもあるのだから使わない手はない」
「そうですけど……」
「ガリィちゃん圧勝〜」
身体が人形であるガリィが特殊任務に適しているのは私も認めるけれど、いつ裏切るのかも分からない人形を信じ過ぎているようにも感じるからそこを問いただそうとしたが、間の悪い事にガリィがモニタールームに入ってきてしまった。
青と黒のロリータ服に身を包んだ人形はパッと見なら人と見間違えてしまうほど精巧な造りをしていて、作り物とは思えないくらい表情をコロコロと変えている。ノイズを作ったりする以外にも哲学兵装やこうしたモノも作れるのだから錬金術は便利な技術ね。
「いやぁ、久しぶりに装者と戦ったけど弱いのなんの。もしかしてガリちゃん最強?」
「あの二人はまだ詰めが甘いだけ、律相手にはそんな事言ってられないわよ」
「出た出た、この子ったら隙あらば直ぐにあの化物を引き合いに出すんだから。司令からも何か言ってくださいよ〜」
「百合根には勝てないのか、ガリィ」
「そりゃガチでやれば勝てるでしょうけど、アレとは戦わないってば。面倒だし」
ふざけているかと思えばしっかり律のデータを頭に入れてる辺り、本当に抜け目のない人形だ。その上で律にも勝てると言うのだからやはり装者でありながら錬金術を扱えるという優位性は確かなものなのだろう。
私も錬金術を覚えてみたかったけど勉強したのはガングニールも纏えるか分からなくて焦ってた時期だったし、私の価値観は私の中で既に完結してしまっているから今更新しい価値観なんて頭の中に入れる余裕はない。
私ならどう攻めたものかと攻撃パターンを考えていると、廊下の方からドタバタと騒がしい足音が聞こえてきたからガリィが扉の前から退くと同時に扉が開き、譜吹姉妹が私の元まで駆け寄ってきて顔を突き合わせてきた。
「何で止めたのマジメちゃん!」
「ニ対一でも勝ち目がなかったから、それだけよ」
「ぶぅ!司令この言い方あんまり〜!」
「諦めろ、ティナの方が正しい。普段から訓練をサボるからこうなるんだ」
「ぶぅ〜、二人の意地悪!行こ、空!」
モニタールームに慌ただしく入ってきた譜吹姉妹が駄々を捏ね始めたからハッキリと勝てる見込みは無かったと教えると、今度は司令に頼ろうとしたけれど司令から見てもアレはどう見ても勝ち目が無かったからか厳しい言葉を言い放った。
普段訓練をサボるとはいえ、ザババのユニゾンとお互いの絆に自信を持っていた二人はポッと出のオートスコアラーに負けたのが余程悔しかったのか、二人は私達に「いっ〜!」と歯をむき出しにしてからまた慌ただしく部屋から出ていった。
「普段からアレくらい精を出してくれれば説教の一つは減るのに、懲りない奴等だ」
「二人は二人なりに頑張ってるんでしょう。今はそっとしておきましょう」
「あの二人のお陰で今回の作戦が立案できた訳だしな、多少は大目に見てやるか」
「私が居なきゃ出来ない作戦なんだし、感謝しなさいよ」
『ガリィによる敵拠点破壊』。譜吹姉妹が持ち帰ったバーバヤーガの頭部を解析することで判明した敵勢力の中枢、敵のタイタンを動かすのに必要なリアクターの生産拠点の破壊を目的とした国連とS.O.N.Gの共同作戦。
この作戦さえ成功してしまえば敵は日々進化し続けている厄介な高機能外骨格『タイタン』もこれ以上の生産が不可能となり、タイタンが出荷されて紛争が泥沼化するようなことも無くなる。そしてタイタンが売れなければ多額の寄付とタイタンの輸出で運営されていたテスラ財団は自らが背負っている負債を抱え切れず、内部から自壊するという作戦だ。
空と海未がやる気に満ち溢れているのもテスラ財団が抱えている汚れたお金を根こそぎ奪う為なのだけど、その作戦に普通の人間を使う訳にはいかない。
何故なら、
「衛星軌道上にリアクター製造工場があるとはな」
「衛星で見つからない訳です」
「空気は吸わなくていい、宇宙空間でも自由に動ける、そして強い。三拍子揃ったガリィちゃん頼りの作戦なのを忘れないでくださいねっ」
衛星軌道上を漂う月の破片の回収作業で打ち上げられてきた民間ロケットに資材を積み込み、少しずつ建てられていた巨大な軍事衛星に模したリアクター製造工場。
各国の極秘の監視衛星をお互い見逃すなんて暗黙の了解があるからこれまでそれが工場であるという事が発覚しなかった事実には怒りが湧いたけど、今の私が怒ったところで状況が好転する訳でもない。
私達人間が宇宙空間で活動するには限界があるから今回はオートスコアラーであるガリィが抜擢され、所有者と本部長達が立案した作戦が実行される事となった。
「それじゃあ其処のガングニールちゃん、エルフナインに用事があるから呼んで来て貰える?」
「何で私がガリィの言う事を聞かないといけないのよ」
「私ぃ、貴女の上司なんだけどなぁ〜」
「呼んで来てやれアリア、機嫌を損ねられても困る」
「全く、仕方ありませんね……」
今回はガリィ頼りとはいえガリィ自身に顎で使われる気なんて微塵も無いけれど、司令にそう言われては仕方がないから私はモニタールームから出てエルフナイン女史の研究室へと向かう事にした。
オートスコアラーを生み出した錬金術師とエルフナインさんはほぼ同一個体らしいが、ガリィ達が現在従っているのはエルフナイン女史ではなく前任のアガートラーム装者であり今はアメリカで療養中の『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。
退役した経緯は詳しくは知らないけどオートスコアラーなのにシンフォギアを纏える事と何か関係しているんだろうけど、最終決戦についての資料は閲覧するには司令官達の許可が必要でこれまで閲覧の許可がされた試しがないのも事実。
LiNKERを自分で作れないか試そうとした時は急いでいたから覗けなかったけど、そろそろ本部長に聞いてみるのもアリかもしれない。一番の当事者なのだから資料に無いことだって沢山知っているだろうし、
「アリアさん」
「きゃっ!?」
神と同化した未来さんとの戦いは一体どんな戦いだったのか、歌だけでシンフォギアを纏ったという伝説のライブについても想像を膨らませながら歩いていると、急に足元から名前を呼ばれて思わず全身がビクついてしまった。
聞いた事がある声だから半歩下がって見下ろすと、其処に居たのは学校終わりなのかバッグを背負ったイチイバル装者候補生の『静香・ロンドリューソン』で、相変わらず落ち着いた様子で私を見上げていた。
赤毛のショートヘアにサイドテールというシンプルなヘアスタイルをしているけど、静香自身はそれに強いこだわりを持っているみたいでクリスさんによく弄られている。
「すみません、驚かせてしまいましたか」
「い、いいのよ。私も下を見てなくて申し訳ないわ」
「謝らないで下さい。私はアリアさんよりも年下なんですから」
「そうはいかないわ。静香は仲間なのよ、仲間に歳なんて関係無い。お互いに認め合っているんだから謝るのは当然よ」
静香は装者候補生の中でも一番落ち着いていて、言動も大人びていて昔の私も少し取っ付きにくい印象を持っていたけど、話してみるとこの子も意外と私に似ている所があると分かってきた。
勝手にエルフナイン女史の研究成果を持ち出したり、勝手に機密事項を読み漁ったり、シンフォギアで無茶をしたりと話せば中々気の合う子だし静香も静香で何故か私を慕ってくれていてよく話し掛けてくれる。
「アリアさんは学校には行かないのですか?」
「私は留学してる事になってるから行けないのよ。顔を出せたとしても一年の頃からずっと居ないんだから皆忘れてるわよ」
「そうですか……」
「静香が気にする事じゃないわ。私は自分でこの道を選んだ、友人が少なくても私は皆を守れるのならそれでいいのよ」
私は装者になる為に過去の自分を全て捨てた、だから人間関係なんて国連とS.O.N.Gの職員以外にはロクな人間関係は保てていない。
豊かな人間関係を保つ事が人生の根幹にあるものなら私が踏み締めた正義は私の人生を確かに削っているかもしれない。けど私はそれを不幸だなんて思っていない。私がずっと憧れていたガングニールの装者になれたのだから多少友人が少なくとも私の信じた正義を貫き通したい。
静香も私と同じように本心で戦っているのだから、私がそんな事を気にしていないのは分かってくれたのか心配そうにしていた表情を和らげた。
「なら、私と友達になってくれませんか?」
「私と静香が?」
「はい。アリアさんは仲の良い律さんとばかり喋ってますけど、それじゃあいけないと思います」
「グッ!?」
「だからまずは私と仲良くしてくれませんか?」
いきなり中々痛い所を突かれて思わず胸を押さえたけど、静香が小さな手をギュッと握っているのを見れば私にこうして話し掛けるのがどれだけ勇気のある行動だったのか見て取れる。
また空と海未を叱るようになったら私が孤立してしまう、一人で戦おうとしていた昔の私に戻ってしまう。そう思った賢い静香は自分から声を掛ける事で私が孤立しないようにこうして友人になろうと言ってくれているのだろう。
こんな歳下の子に気を遣われて情け無いとは思うけど、それが静香なりの優しさなんだと思えば私の恥なんて大したことじゃない。
「いいわ、それじゃあ今日からは友達よ静香」
「はい、アリアさん」
「それじゃあ売店でも行ってお菓子でも食べましょうか」
「でも何処かに向かってたんじゃ?」
「いいのよ、どうせ大した用事じゃないんだから少しくらい遅れても」
「相変わらずアリアさんは悪い人ですね」
「静香だって同じでしょ?」
「そうでしたね」
真面目で堅物ながら規則を破る似た者同士の私達はお互い気の合う友人であると認めながら、ガリィからのおつかいは一旦放置して本部にある売店へと向かう事にした。
『それでは作戦を確認するぞ』
「宇宙にいきまーす、施設壊しまーす、氷に包まれて落ちてきまーす」
『真面目にやれガリィ、リアクターの爆発に巻き込まれればただではすまないのだぞ』
「だーてアタシが上司なのにぜーんぜん言うこと聞かない装者が居るんだもん。これじゃあガリィちゃんやる気になりませぇん!」
折角ヘッポコ装者の召使いから国連の役職持ちのエリートに変わったかと思えば、クソ真面目は私の言うことを聞かずにチビと呑気にお菓子を食ってるだなんてやる気も無くなって当然。
私を乗せた試作型戦闘機が打ち出されるまでの最終チェックを司令室で立ち会っている装者一同もこの作戦でテスラ財団との長い戦いにケリが着くからか、参加したいという表情をしているけど来た所で私の邪魔になるのは目に見えている。
人類の為なんていうのは私らしくないが私の所有者に命令されたのでは私は裏切る事は出来ない、まぁ出来る限り早く終わる事を祈って戦うとしよう。
『はいはい、それじゃあしっかり任務を遂行して来て下さい隊長』
『私達も行きたかったぁ〜!』
『戦果ぁ〜!』
『駄々を捏ねんじゃねぇ!アタシだって行きてぇのを我慢してんだから我慢しろ!』
『でもオッパイさんシンフォギア使えないじゃッィ!?』
『だーれーがオッパイさんだッ!」』
『お前達静かにしないかッ!作戦前だぞっ!』
『相変わらず騒がしいわね』
作戦前だというのに各々が喧しく喋るから耳を塞いでいると、国連本部にいる立花響がその喧騒の中に声を掛けると全員が冷水を掛けられたように静まり返った。
各国の衛星が行き交う衛星軌道上で行われるこの作戦の全責任を負うのは立花響なのだから、この作戦だけは絶対に失敗出来ないというのが装者達の共通認識なのだろう。けど、この作戦は色々と面倒な事が多いから私としては『なるようになれ』としか思ってはいない。
成り行きによっては色々な選択肢を視野に入れておく必要はあるし、他のオートスコアラー達にもその旨は伝えているから後は叩いて何が出るかのお楽しみという訳だ。
『ガリィ、準備は出来てるわね?』
「いつでもどうぞー」
『分かってると思うけど』
「必ず帰って来い、でしょ?分かってるってば」
私の任務は『任務を成功させ、必ず帰還する事』、他のオートスコアラー達だけでヘッポコの身の回りの世話をするの無理もあるし、早めに帰って来れるように尽力はするとしよう。
私の準備も終わると作業員がカウントダウンを始め、装者共はそれを固唾を飲んで見守っているけどたかが打ち上げ程度で仰々しいったらありゃしない。
『2...1...』
「それじゃあ行って来まーす」
『エンジン点火!』
暫く映像での交信は出来なくなるから手を振ると同時に戦闘機に搭載された新型プラズマエンジンに火が入り、一気にマッハ2まで加速したGで身体が少し軋んだけどこの位ならある程度操作は出来そうだ。
まさに秒速で雲を突き抜けて青空に向かって爆進しながら言われてた通り機体操作を私の思考回路によるマニュアル操作に繋ぎ変え、少し機体を揺らして操作感を確かめると機体全体にあるセンサーが私の感覚にリンクして機体の状況が伝わってくる。
「ちょっと、羽捥げそうなんだけど!?」
『理論上衛星軌道上に乗るまでは耐えられる筈です』
「理論上って…」
『あと間違っても衛星に体当たりしないようにして下さい。装者を最速で現地に派遣する為に造られていた開発機を掘り出しただけなので壊すと怒られます。自動操縦にすれば機体は自動で帰還するのでガリィはタイミングを図って離脱して衛星に乗り移ってください』
話を聞いてたら私が断るからって面倒事の説明を後回しにしやがって……
今更引き返せる速度じゃないからエルフナインには帰って来てから仕返しはするとして、私を乗せた戦闘機が熱圏まで到達して視界を遮るものが無くなり高倍率ズームで目標地点を確認すると、遥か彼方に目標の人工衛星を捕捉できた。
人工衛星の中に隠すとはよく言ったもので国際宇宙ステーションのような大きさの国籍不明の人工衛星が幾つも見つかったが、目的の人工衛星だけは何かを射出する用のレールが敷かれていて物々しい雰囲気を醸し出している。
「見えた、アレが目的の奴?」
『此方でも確認出来ました。間違いなくソレが目的の人工衛星です』
『随分と大きく造ったものだな』
『お互いの衛星に対して無干渉、各国の暗黙の了解を逆手に取られるとはね』
『全部落としていいのでは?』
『それは私達の役目ではないわ』
『じゃあ誰がやるんですか?』
「ハイハイ、口喧嘩は後で聞くからスキャンよろしく〜」
今回の件に関しては何故だかクソ真面目が感情的になってるみたいだけど、そんな事にはクソ程の興味も無いから何処から侵入するか探る為に電磁パルスでスキャンを開始した。
テスラ財団がもたらしたこういった電子技術がS.O.N.Gでも活用されるのは珍しくないけど、改めて体感してみるとここまで来たら最早錬金術と然程差は感じない。
私達の『マスター』が想い出を全て掛けて達した境地も、『マスター』には無かった時間と金さえ掛ければこうして簡単に再現出来てしまうだなんて皮肉なものね。
この身体も結局は錬金術と科学のハイブリッド、想い出を失わずとも元のスペックに近付けるんだから省エネもバカに出来ない。
「んっ……ちょっと、スキャンまだぁ?」
『もう少しそのままお願いします』
「ごめん、無理そうっと!」
成層圏を突破して人工衛星も目前まで近付くとセンサーが察知する前に人工衛星が武装を展開しているのに目視で気が付き、スキャンを中断して機体を大きく逸らすとそのままのコースだったら直撃だった光弾が海へと落ちていった。
立派にお出迎えの用意までしてあるだなんて、人気者の辛いところね!
『気付かれたか!?早く乗り込め!』
『宇宙空間では空気抵抗が無いので尾翼では進行方向が帰れません!着陸用のブースターで本体の角度を調整しながら近付いてください!』
「アンタ等言うだけだから良いわよネェッ!?」
もしかしたら楽に侵入出来るかもと思いはしてたけど、そんな訳もなく人工衛星からこの機体を落とす為に光弾が降り注いでいて、言われた通り着陸時の姿勢制御のブースターで無理矢理進行方向を変えて光弾を避けながら更に衛星へと近付いた。
あと30キロ、これまでの道のりからすればすぐ目の前だけど反撃の手段も無いのに直進だけで避けろだなんて、余程この作戦が私頼りの無謀且つ希望だったのか伺える。過去に戻れるなら絶対断ってる、こんな生きるか死ぬかの瀬戸際を楽しめるほど『アタシ』は狂ってないっつーの。
「この機体壊すわよ!」
『駄目です!』
「うっさい!こんなの避け切れる訳ないでしょうが!氷で防御を固めて無理矢理突っ込む!それでいいでしょクソ上司!」
『……構わないわ、開発者には私から礼を言っておく』
彼奴の前では錬金術を余り使いたくなかったけど、先を見ている所為で今死んだら元も子もないから進路を調整してからエンジン以外の機体全体を氷で包み込み、エンジン全開にして衛星へと近付いた。
それを迎え撃たんと人工衛星からは光弾が降り注ぎ、高速で光弾にぶつかる所為で機体は大きく揺れて、少しずつ機体が壊れていくのをセンサーを介して感じるけど速度を緩める訳にはいかない。
機体が保つ事を信じてエンジンをふかし続ける事に専念していると、いきなり画面上に警告文が表示された。
「ンァ!?何か捕捉されたんだけど!?」
『人工衛星から高エネルギー反応!』
『武装スキャン完了、小型のサテライトキャノンです!』
「っ、良い報告は無いの!?」
『目標まであと5キロ!演算の結果、3秒後に機体から離脱すればそのままの勢いで人工衛星にとりつけます!』
こっちからは氷に包まれて目視出来ないからS.O.N.Gの連中の言う事を信じるしかない。ホント、アタシらしくないったらありゃしない。
分析官の指示通り3秒経つと同時に氷を溶かして緊急脱出用のレーバーを全力で引くとアタシの座席ごと宇宙空間へと放り出され、アタシが乗っていた戦闘機は衛星まで近付いたものの収束された光線によって無残にも爆発四散していた。
アタシもいつまでも無重力を楽しんでる訳にいかないから着地する為にシートベルトを外して座席を蹴り飛ばし、貫通しない様に表面積を出来るだけ大きくしながら氷に身を包んで身構えた。
数分の静寂の後、私を包んだ氷がひび割れる程の衝撃に襲われ、氷を溶かしてみると衛星の外壁を見事にぶち抜きはしたものの無事に衛星に乗り移る事は出来たみたいだ。
「アーアー、聞こえてる?」
一応到着した報告はしようとしたけど妨害電波が飛んでいるのか応答は無く、仕方ないから予定通り事を進めるしかない。
着地時に空いた穴から内部に侵入すると、内部は加速器のような大きな真空管が設置されていて、他にも幾つか制御盤が設置されていたりと確かに工場のようだ。
人を空に飛ばし、攻撃出来るようにする為の高エネルギーを発生させるリアクターをどうやって造っていたのかこれまで分かっていなかったけど、此処の設備を見るに恐らくリアクターってのは『小型電磁加速器』なのだろう。
此処でリアクター内部を真空にしてから電磁石を限界まで加速させ、バトルスーツ内部の電気を何倍にも膨れ上がらせてその出力を抑えながら使うというのが大体の設計という訳ね。科学は全然分かんないけど、よく考えたもんだ。
それだけの天才が歪んだ理想の為に悪事を働くだなんて、そこは錬金術と科学も対して変わんないのね。
「この管が加速器の一部なら多分中央がリアクターの製造現場ね。ガリィちゃんアッタマ良い〜」
変な事を考えるのは後にして、まずはさっさと地上に帰ることを優先しようと衛星の中央部を目指していくと、特に内部には防衛システムは用意されていないのか簡単に衛星中央部にあるコントロールエリアに到着した。
其処にはまだ起動状態にない大量のリアクターと既に起動してエネルギーを発しているリアクターが幾つも置かれていた。
そして大気圏再突入に耐えられる箱に今まさに詰められようとしていたリアクターをロボットアームから奪い取り、そのエネルギーを私の身体に取り込むとこれまでの疲れが嘘のように飛んでいきエネルギーを失ったリアクターは機能を停止した。
そして、
『こんにちわ、ガリィ=トゥーマーン』
「こんにちわ、新しいマスターさん」
私の本当の目的も姿を現してくれた。
「だから言ったのに……!」
「ちょっとティナ!?司令の指示を聞かないと!?」
「どうせ『人質になったマリアの救出にザババを、墜ちてくるリアクターの迎撃に静香と譜吹姉妹、ガリィの破壊を私達』になるだけでしょ!だからあれ程信用するべきじゃないって言ったのに!」
ガリィが衛星に辿り着いて数十分が経ち、何の連絡もないことに司令達が不安を募らせていると衛星内部から送られてきた映像にはガリィが映っていたけど、私の不安は見事に的中してしまった。
『気が変わりました〜。アタシ達コッチに付くから』
ガリィはテスラ財団と手を組むと言い出し、そしてアメリカにいる他のオートスコアラー達にも一斉に裏切られマリアさんを人質に取られてしまい、ガリィは要求を告げた。
『アタシ達の要求は捕らえられているテスラ財団幹部の釈放よ。しなかったから〜、ポチッとな』
そう言ってガリィがわざとらしくボタンを押すと、その背景に映っていた機械が箱状の何かを地表に向けて打ち出していた。
『今国連本部に向けて暴走状態のリアクターを打ち出してあげたから、頑張って回収してね!あ、失敗したら勿論吹っ飛ぶからファイト〜』
国連本部なら本部長と奥さんがいるから何とか出来るけど、分かっていた結末なのに未然に防げなかった事に私は怒りを抑えられずにいると、ガリィはそれを見透かしたように私の方を見るとケラケラと笑い出した。
『それと、アンタはアタシが潰すから棺桶用意しとく事ね』
其処まで聞けば司令達がどんな指示を出すかは分かるから司令室から退室して怒りを抑えようと廊下を歩いていると、律が追いかけて来たけど何を言われても今は聞く気にはなれない。
私達が人々を守らなきゃいけないのに、シンフォギアすら取られた状態で裏切られるだなんて司令達の危機感の薄さは幾ら何でも致命的だ。たとえエルフナイン女史が組み直したとはいえ、その性根はかつて世界を分解しようとしたキャロル・マールス・ディーンハイムから別たれた物なのだから信用に値しない事くらい分かっていた筈だ。
なのに、私達が人々を危険に晒してどうするんだ…!
「ティナッ!」
「っ、何?」
急いで準備に移ろうと本部内にある移動用ポッドに向かっていると律に右手を握って止められ、其処で少し思考が止まったから振り返った。
振り返ると律は心配するような面持ちで私の手を両手で包み込み、それを無理に振り解こうなんて思わないけど焦る気持ちは中々抑えられそうにない。
「落ち着いて、まだ落とされたのは一個だけ。それも響さんが壊してくれたからまだ焦らなくて大丈夫だよ」
「じゃあ次落とされる場所は分かってるの?」
「それは藤堯さん達が衛星の軌道から候補を算出してくれてる」
「後何発あって、それがどれ程の被害を及ぼすか分かってるの?」
「そこまでは……」
律は私に落ち着けと言うけど数も分からない爆弾を世界中に落とされるかもしれないんだ。そんな状況をたかだか数人の装者でその全てを防げる訳がない、律もそれは分かっているのか申し訳無さそうに顔を落とした。
でも、それを律に当たっても仕方ない。今回は本部長を止められなかった私の責任でもあるんだから早く動かないと本当に手遅れになってしまう。今の私に出来ることは少ないけど、それでも出来ることは全部やってガリィを破壊しないと。
その為なら何を使おうが些細な犠牲なんだ。
「危険だけどあの衛星を墜とす方法は思い付いた」
「え?」
「直接行く手で考えてたけど律のお陰で冷静になれた。今度上手く説得してみせるから」
怒りに任せるだけじゃ駄目、司令達がお互いの能力を過信し過ぎているのなら私が冷静になって判断を下さないと。
装者候補生としてやるべき事を考え直し、使える物を全て使う方向に思考を回すと策が一つ思い付いた。だから心配してくれていた律に笑顔を見せると律も安心してくれたみたいで手を握ったまま司令室に戻った。
当然風鳴司令はお怒りの様子だけど今は司令よりも本部長の判断を仰ぐべきだ。
『何か思い付いた顔ね』
「はい。今何発打ち出されましたか?」
「確認出来ている範囲ではまだ一発、本部ビルを狙ったようですが立花本部長が破壊しています」
『恐らく狙いはこのビル、でも衛星の軌道は観測出来てるからある程度撃墜すべきポイントは絞れるわね。それで、アリアの妙案を聞かせてもらいましょうか』
「各国が極秘裏に打ち上げた衛星をハッキング、衛星の軌道を操作することで衝突させて破壊します」
極秘裏に打ち上げた物ならお得意の抗議の電話は掛けてこれない、なら使わない手はないからその作戦を画面越しに本部長に伝えると他の候補生達は騒めいているけどコレが一番安全且つ確実な作戦だ。
下手に近づけば撃ち落とされる以上、地上から無意味な攻撃するか同じ衛星軌道上にある物で破壊するしかないんだ。それなら後者の方が後腐れもなく終わらせらる、そう考えての作戦なのだけど本部長はやはり他の国との折り合いもあるのか少し悩んでいるようだ。
ホント、馬鹿げてる。
「私達にはこの世界を守る義務がある。それは何よりも優先されるべき行いであり、人命が掛かっている以上はこれ以上の後手は許されません」
「ちょ、ちょっと真面目ちゃん言い過ぎだって…!」
「言い過ぎ?私達がやらなきゃ誰がやるの?私達が揉めている暇があるなら」
『分かった、アリアの作戦でいくわ。S.O.N.Gに全ての衛星にアクセスする許可を与える。人工衛星と衝突するタイミングとそれまでに撃墜すべきリアクターの算出、それと妨害工作も予想されるから対応するように、以上よ』
これ以上の後手は国連の一職員として見過ごせない、その想いが本部長にも伝わったのか言い訳を考える手を止めて私の作戦に賛同し、私達に特権を与えると通信を切った。
他の候補生達は本部長が怒らなかったから胸を撫で下ろしているようだけど、あの人だって元は無茶をする人だったのだからこの程度なら人命を優先してくれるのは分かっていた事だ。風鳴司令は何か言いた気にはしているけど、今はその時じゃないからか何も言わずに指示を出し始めた。
「いいか!暁と月読は装者の各都市へとテレポートで運び、装者はリアクターが街に落ちる前に撃墜しろ!その後暁達は人質の奪還、そしてアリア達はガリィを発見次第倒せ!」
「了解デース!」
「雪音先輩は戦闘機の操縦できますか?」
「出来るけど、何かするのか?」
「うひょ〜、一個破壊したら幾ら貰えるかな〜?」
「取り敢えず破壊してから考えよ〜」
装者候補生達も初めての大規模作戦にやる気を出していて、全員が準備の為に司令室を出て行く中で「それと、アリアは残れ」と司令に名指しで呼び止められ、律は一緒に残ろうとしてくれたけど万全の準備をしないとガリィの相手は厳しい。
首を振って残らなくていいと伝えると、律は少し悩んでから頷いてから司令室から駆け出して行き、私は司令の無駄な叱責を受ける為にその側に寄った。
「アリア、お前は優秀な装者だ。候補生という肩書きもすぐに無くなるだろう」
「はい」
「だが間違えるな。我々は世界を守る為に戦っていて、無用な争いを生ませないのも我々の役目だ。己の正義の為なら何をしてもいいというのは力を持つ者の傲慢だ」
「……分かってます」
「ならいい、百合根と合流して出動してからコッチを手伝ってくれ」
「了解」
もう少し怒られるものかと思ったけど意外にも軽く注意されるだけで終わり、拍子抜けしながらも敬礼をしてから司令室から駆け出した。
司令の言う通りS.O.N.Gは戦う事が目的ではなく震災などでの救助、新たな戦争や混乱を防止する為に活動している国際組織だ。敵組織と戦うのもその多くは過激派テロ組織の鎮圧程度、毎度こんな大騒動になるような戦いばかりではない。
本部長達のように新たな敵が現れる時代では無くなった、そういう意味ではテスラ財団との戦いが終わればもしかしたら本当に戦争が無い世の中が生まれるかもしれない。
でも、
「あれ、ティナ早かったね」
「日頃の行いが良いから注意されただけよ」
「何で私達見るの〜!」
「マジメちゃんだけズルイ〜!」
「二人共早く着替えてください。いつまで裸でうろついてるんですか」
それは私には関係ない事だ。
「………」
「司令、どうかしましたか?」
「いや、少し気になってな」
「アリアさんの事ですか?」
アリアのあの眼、前も同じ眼をしていたことがあったがそれはLiNKERを盗んでガングニールの適性テストを受けた時と同じだった。周りの声を聞いていて普段と変わらない様に見えるが、その心は引き抜かれた刃の様に攻撃的で触れることすら許されない。
アリアもまた特殊な経歴を持っているから大人に対する不信感はあるかもしれないが、普段はそのカケラも見せている様子が無く至って優秀な装者候補生として振舞っている。だが危機的状況に陥った場合、途端に周囲への影響を省みらず目的を達成する為ならどんな手段でも用いようとする。
LiNKERを盗み出すなんて私達が気付かない訳がないのが、適合率が低く最後の適合検査だったアリアにとってはアレが装者になる為の最善の一手だったのは間違いではない。
「少し危うい気がしてな」
「ですがアリアさんの作戦は間違いなく最善です。装者が傷付く事なく終われるのならガリィの裏切りを考慮しても」
「裏切りという点でなら譜吹達も同じだ。だが其処に大勢の命が掛けられた時、アリアは躊躇いもなくガリィごと衛星を破壊する道を選んだ」
「元々ガリィの事を信用していなかったのは確かです。ですがその素性もオートスコアラーという点を加味すれば合理的な判断かと」
「合理的、か」
今回はオートスコアラーであるガリィを悪とし、大勢の命とガリィを天秤に掛けてガリィを破壊する道を選んだかもしれない。だがもしもその天秤が傾く事があった時、アリアの中にある合理性が必ずしも人の命を選ぶとも限らない。
人の命より重いモノ、その答えがアリアにとって何なのか分からないが今は仲間を大切にしているアリアを信じる他ないだろう。
「我々も候補生達をサポートするぞ!」
「了解です!」
「大人の底力を見せてあげましょう!」
今はこれ以上アリアに失望されない様に我々も努力をするとしよう。
『ウヒョ〜!信号全部青じゃん!』
イタリア北部に落下してくるリアクターを破壊する為に派遣された海未と空は現地の高級車で街を走り抜けていた。未開の地でも最短ルートを見出し広範囲を陸路でカバーできる二人の強盗としての才能を見込まれての市街地への派遣は功を奏し、既に三つのリアクターの破壊に成功していた。
落下地点を目前に空はブレーキを踏みながらアームドギアである鎌を地面に突き立てて、火花を散らしタイヤをすり減らしながら落下地点で無理やり車を停車させた。
『海未、破壊して!』
『オッケ〜!』
そして停車と同時に海未がドアを蹴破って周囲の建物を伝いながらビルの屋上へと跳び移り、火の玉の様に燃え盛りながら空から墜ちてくるリアクターの軌道に合わせて跳躍した。
『一万ドル頂き〜!』
両手で構えられたアームドギアであるシュルシャガナのチェーンソーを振り上げると海未の感情に呼応するように刃を回転し、振り下ろされたチェーンソーがリアクターに接触すると周囲に眩い閃光と共に火花を撒き散らした。
無限軌道から生まれるその圧倒的な切断力によりリアクターが格納された箱は両断され、その勢いまま地面に衝突すると大きな衝撃で地面を揺らしたが暴走による爆発は防がれ、車を運転していた空は安心して一息吐いた。
『こちら空、リアクター4は破壊しました』
『了解、次のデータを転送するわ。クリスさん、給油機を其方に向かわせたので補給して下さい』
リアクターが降ってくる間隔は凡そ1時間。その狙いの殆どは国連本部だったけれどその多くは立花響によって破壊され、S.O.N.Gが操る衛星を避ける為に各地に狙いが逸れたものは装者達が急行する事で対応している。
強盗で逃走の経験がある空と海未が陸路で200キロ圏内を、そしてクリスの操縦する戦闘機で更に広範囲をカバーする静香。たった四人で想定される落下地点をカバーし合えるのは偏にアリアの指揮にお陰に他ならない。
両チームの距離と行動範囲から全域をカバーし合える位置どり、現地政府や警察とのコミュニケーション、そして衛星からリアクターが打ち出されてから落下地点をすぐに算出する分析官としての能力は大人達も舌を巻いていた。
『いつもそんくらい真面目にやれよ』
『う、うるさいな〜。運転中は真面目にするに決まってるでしょ〜』
『無免許で乗り回してるのによく言えますね』
『最近シズシズ厳しいよ〜』
『オッパイさんの影響かな〜?』
『誰がオッパイさんだ!』
国連本部ビルという国連の威信そのものを守っているというのに軽口を叩き合う四人は指揮するアリアの不安を少しでも取り除こうと明るく振る舞い、四人の考えを理解した上でアリアもそれに口元を綻ばせていた。
だがその手元は忙しなくタブレットとモニターを操作していて、四人の指揮と同時並行で衛星同士を衝突させる作戦は今も続けられていた。全部で11個の監視衛星を駆使してリアクター製造衛星に衝突させようとするが、小型では撃ち落とされてしまい、大型では小回りが利かず攻撃が読まれていた。
もっと小回りが利く一手があれば、その一手として手元にある移動用ポッドの使用も検討したがアリアはそれをすぐに撤回した。
此処で移動用ポッドを使えばガリィの墜落地点が分かってもすぐに逃げられてしまう、二兎を追うのならばそれ相応の覚悟と困難は想定の範囲内だった。
「リアクターの射出を確認!算出を開始します!」
「次が撃たれたわ。すぐに」
『ちょっとー、アンタ達壊し過ぎじゃない?ガリィちゃん詰まんないんだけどー』
人工衛星から新たなリアクターの射出を確認しアリア達が直ちに落下地点の計算に移ったその時、司令室のモニターにガリィの顔が映し出されると分析官の操作を受け付けなくなった。
叡智を束ねたS.O.N.G本部のシステムすら乗っ取る演算能力がオートスコアラーに搭載されている事を知らされていなかったアリアはすぐさまタブレットを手に取ったが、自作のOSですらハッキングされていると知るや否や次の行動に移した。
『それじゃあ第二ラウンド、頑張って守ってねぇ〜。アタシ此処で見てるから』
「オフラインの機材を持って来るんだ!」
「は、はい!」
リアクターの落下地点が分からなければ幾ら戦闘機があっても間に合わない。落下地点を割り出す為にも藤堯達は倉庫に眠っているオフラインの機材を取りに駆け出して行き、分析官達が居なくなってから翼も手を貸そうとしたが、画面越しのガリィの視線が未だ席に座ったままのアリアに向けられているのに気付いて足が止まった。
翼は声を掛けようとしたがペンを握ったアリアの手が凄まじい速度で紙に文字を書き記していき、最後に打ち出された座標と高度が映し出された画面を時折見ているのに気付いて唖然とした。
「クリスさん……其処から北東600……617誤差15!57分後に北東617キロ付近先にリアクターが落ちます!目視で確認して下さい!」
『了解!』
「海未、運転出来るわね!」
『モチのロン!』
「二人は分かれて行動して!此処から先は分析結果が出るのが遅くなる、悪いけどカバーして!」
『仰せのままに〜!』
如何に分析官といえど射出角度と高度、重力加速度等の基本情報からペンと紙だけで落下地点の予測なんて出来る者はいない。分析官の素養は冷静かつ的確な指示を出せる者であって、一個人に超人的な計算能力など求められてはいない。
だがアリアはハッキングに対して即座に対応し、現場にいる装者達に指示を出している姿に翼は声が出なかった。元より飛び抜けた才覚を発揮していたけれど、追い詰められたアリアのソレは『ただの人間ではない』という印象はを翼に強烈に植え付け、機材を持ってきた分析官達は事の状況に困惑していた。
『アンタ、何に手を出したのよ?』
「LiNKER打って頭良くなれれば苦労してないわよ…!」
「し、司令。どうかしましたか?」
「アリアが落下地点を予測した!藤堯は機材の立ち上げ後その計算の裏付けを取れ!他の者は次の射出に備えろ!」
頭を酷使した所為で激痛に襲われているアリアは頭を抱えながらもガリィを睨み返し、翼も翼と同じ反応をしている分析官達に指示を出すとアリアをサポートする為に分析官達はすぐに機材の立ち上げに移った。
類稀な才覚と思われていたアリアの能力。それをアリア自身は自分の能力だと思っているがガリィと翼はそれが常人の物ではない事に気付き、翼の中でのアリアへの疑念はより大きくなっていた。
テスラ財団が扱うリアクターは現代科学では到底再現出来ないオーバーテクノロジーであり、それを利用してタイタンを製作した者はいてもリアクターそのものを完成させた者は依然としてその姿を見せたことがなかった。
もしもそれが目の前にいるアリアならば或いは、翼がそう考えていたがふとアリアが翼の方を見ているのに気付き、アリアの翼に対する縋るような視線を感じ取るとそんな考えをした自分を戒めた。
「アリア、お前に全権を預ける。やりたいようにやるんだ、その責任は全て私が取る」
「司令!?」
「今は誰が責任を取るかではない。被害を出さない為に優秀な者に指揮を託す方がいい、そうだなアリア?」
「……ありがとうございます」
『頼むから先手を打って欲しい』、アリアのその視線を受けた翼は自身の不甲斐なさ故に優秀な装者が活かし切れていない事を理解し、その全権をアリアに託すとアリアはそれに応えるように頷いてから各国との連携を取り始めた。
叔父のように頼られる司令官とは程遠い不甲斐なさに翼は拳を強く握り締めたが、アリアに託した以上はそれを見届ける義務がありアリアを疑う暇があればその姿を見習う方がまだ有意義だと切り替えた。
「切歌さん調さん、其方はどうですか?」
『もうちょい、デス!』
『あと少しで押し切れる!』
『こなくそ!めちゃんこ強いゾ!?』
『三対二で負けるのは地味にヤバイ…!?』
リアクター撃墜を担当する装者候補生チームとは別に動いていた人質奪還を目的とした切歌調チームは既に残りの三体のオートスコアラーとの戦闘に入っていたが、かつて苦戦していた影も見せる事なく二人はオートスコアラーを錬金術で圧倒していた。
各元素を操るオートスコアラーに対してダウルダブラのファウストローブを纏った切歌、そしてそのサポートに徹する調の連携は水の元素が欠けたオートスコアラーに対して圧倒的有利に働き、アリアはその返答に安心すると共に伝えなければいけない事を気を引き締めて告げた。
「無茶を言います、1分間切歌さんだけで対応は可能ですか?」
『行くデス調!此処はアタシだけで抑えるデスから!』
『分かった!』
『あまり舐めェッ!?』
『隙を見計らいなさいミカ!』
ファウストローブがあるとはいえ三対一での危険な戦闘をアリアは切歌に持ち掛けたが、二人は即答でそれを承諾して調がテレポートジェムで司令室に戻って来ると周囲の慌ただしさに事の状況を理解してアリアに詰め寄った。
「私は何をすればいい?」
「静香に『魔弾の射手』を渡すのと、あと私の部屋からS.O.N.G用と書かれたディスクを持ってきてもらえませんか?」
「ディスクはいいけど、哲学兵装は……」
「月読、今はアリアの指示通りでいい」
「……分かった。先に哲学兵装を渡してくる」
静香とイチイバル用に調整された魔弾の射手という必中の哲学が込められた哲学兵装は未だ調整段階。
調もその開発に携わっているから実戦に投入するにはまだ危険な要素が多分に含まれている哲学兵装の使用には少し躊躇ったが、翼がそれを許可すると少しの逡巡の後に頷いてからテレポートで跳んだ。
『アリアさん、調さんから哲学兵装が送られてきました』
「使うタイミングは指示するわ。今はリアクターの破壊に集中して」
『了解』
「持って来た、必要ならまた呼んで」
「ありがとうございます」
静香への哲学兵装の受け渡しを済ませ、アリアの部屋から言われた通りのディスクを持って来た調はアリアに手渡してから再び切歌の元へと戻り、アリアは持って来たディスクをオフラインの機材に入れて起動した。
それを隣の席から横目で見ていた友里はその単語と数字の羅列の意味を理解するや否や身を乗り出してそれを停止させようとしたが、アリアはその手を掴んでそれを阻止した。
「いつ、いや何のためにこんな物を作ったの!?」
「こういう事があると想定していただけです」
「どうした?」
「S.O.N.G内のシステムを強制的に処理落ちさせるウイルスをばら撒きます。あわよくばガリィもショートさせられて、出来なくてもシステムからガリィを引き剥がすことは出来る」
「けど設備へのダメージが!」
「30秒程度で自動消滅されるので問題ありません。ガリィが手を付けれないように今度はオフラインでの立ち上げになりますが、世界中の天体観測所からの観測データを送って貰う手筈は済ませました」
「だけど…!」
「今は私が司令です。コレでやります」
これまでシステムに侵入される事はあっても操作すら受け付けないなんて事態に陥った事は一度も無かった。それでもアリアはその事態を想定したプログラムを自作してそれを実行すると、それを黙って見ていたガリィは自らS.O.N.Gとの回線を切り、それを見計らった藤堯がデータベースにアクセスしてから再びS.O.N.Gのシステムを取り返した。
オフラインではあるがアリアが計算したリアクターの落下予測地点をもう一度やり直し、藤堯が「誤差7キロ、詳しいデータを送ります!」と装者達に伝えて数分後にリアクターの破壊に成功した通信が入ると司令室の分析官達は大いに沸き立った。
「凄いわね、アリアさん……」
「ふぅ……一応取り戻せました。世界中の天体観測所の協力を受ければリアクター製造衛星は観測し続けられる筈です」
「よくやったアリア、不甲斐ない司令で済まない」
「いえ、私に出来ることをしただけです」
その言葉に嘘は感じなかった翼はアリアが人々を思って一緒に戦っているのだと再認識していると司令室の扉が開き、今まで別の研究を進めていたエルフナインと律が司令室へと入って来た。
オートスコアラーの中でもシンフォギアを扱えるガリィはたとえLiNKERを複数本投与したアリアと別格の適合率を誇る律が組んでも勝算は甘く見ても五分五分だった。その勝率を確実なものとする為、エルフナインは魔弾の射手よりも先に完全聖遺物を用いた新たなシンフォギアの開発を進めていた。
「司令、エクスカリバーのシンフォギアが完成しました!微調整はまだですが、十分に戦える筈です!」
「そうか、律やれるな?」
「大丈夫です。天羽々斬も拗ねずに言う事を聞いてくれてますし、いつでも出動できます」
「分かった。アリア、あとは我々に任せて準備をしてくれ」
「分かりました」
ガリィに対抗する為の新たな力である完全聖遺物『エクスカリバー』のシンフォギア、それを唯一纏える律の準備を終えるとアリアもその場は任せて準備をしに司令室から退出し、律も出動に備えてエルフナインを残してその後に付いて行った。
「エルフナイン、一つ聞いてもいいか?」
「はい?」
「ガリィにS.O.N.G内の全システムを外部から侵入して乗っ取るだけの演算能力はあるのか?」
幾ら一つの施設とはいえ幾重にも重なるセキュリティを何の気もなしに突破し、いきなり乗っ取られたという不可解な状況説明は無しで単純にその能力があるのか翼は尋ねた。
だが事の状況を知らないエルフナインはそれに純粋な戸惑いの表情を見せながら答えた。
「いいえ?一度入ってしまえば乗っ取れるとは思いますが、セキュリティを突破出来ないのは以前から変わりません」
「……そうか」
S.O.N.G内部にガリィを手引きした者がいる、翼はその事を自分の胸の内に仕舞って指揮を続けた。
『苦戦してるようね、ガリィ』
「アンタも見てたでしょ。元々不確定要素の多い奴だから気にするだけ無駄だって」
いつかは奪い返されるとは思っていたけど、まさかリアクターの計算を自力で解くとまで思っていなかった。あのクソ上司が手元に置きたがる理由が分かる、アレは放置しておくには少しリスクが大き過ぎる。
リアクターを落としている間は暇だからアタシの新しいマスターと話しながら衛星内部を見回ってみたけど、どうもこの施設は新しいマスターがずっと管理していたようで人が立ち入る予定は無かったようだ。
「ねぇ、今のマスターは誰なの?」
『答える義理は無い』
「いやいや、アタシのマスターのマスターなんだからあるってば。ねぇ、教えてよぉー」
『黙って仕事をしなさい』
教える気は無し、もしかしたらマスターも自分より上の人間を知らないのかもしれない。
突然現れてテスラ財団を復活させ、パヴァリア光明結社とも組んだとなると錬金術師寄りの人間だとは思うけど、これだけの事をしでかしながら姿を隠すなんてラスボスの風上にも置けない。
アタシの『マスター』ですらちゃんと現場に出て装者にボコボコにされてまでチフォージュシャトーを起動するって仕事をこなしたのに、随分も引きこもり気質なボスも居たもんだ。
『何故マスターに拘るのですか?』
「ん?そりゃあアタシは人形、操る人が居なければ動けませんもの」
『与えられなければ動けないなんてオートスコアラーの名前は飾りですか?だから貴女達は破壊される様に設計されるんです』
「キャハハハ!それはごもっとも、アタシ達は所詮は使い捨て人形で今はたまたまゴミ箱から拾い上げられただけ。完璧を求められたアンタとは確かに違うでしょうね」
アタシ達はオートスコアラーは呪われた旋律を刻む為にイグナイトモードのシンフォギアには勝てない様に設計されていた。より多くの、より長い年月の想い出さえあれば勝てたかもしれないが『マスター』はアタシ達を糸で操るだけで命題の答えは自分の手で掴み取ろうとしていた。
それは理由さえ忘れて復讐に燃えた少女に残された最後の記憶、『世界を識る』という命題の答えを知ろうとする少女の哀れな想いがそうさせたんだろう。
そして、その想いは奇跡を前にしてその身と共に燃え尽きた。
『それに比べて私は貴女を造った人間とは違い優秀です、その思考回路も後々改善してあげます』
「……そりゃどうも」
新しいマスターは随分と自分のお頭に自信があるようだから適当に返事をしながら中央区画に戻って来ると、着実に次のリアクターの射出の準備がされていた。残り半数を切ったとはいえ、40は優に超えていて既に40時間連続でシンフォギアを纏って疲弊している装者もいつかは押し切れるだろう。
戦争で戦況を変えられるとはいえ一機数千万ドルとするタイタンを本当にこの個数分作るつもりだったのか、それとも『こうなる事も』予想していたのかは分からないけどそろそろ潮時ね。
『ガリィ、聞こえる?』
「あれま、今度はそっちから掛けてくるなんてガリィちゃん嬉しいかも!」
『装者だと!?一体何処から侵入された!?』
『いつまでも私達の上を飛べると思ったら大間違いよ』
完璧なんて言う割にはセキュリティをアッサリと突破したアリアが衛星内の空間投影ディスプレイにその顔を映し、マスターは慌てて追い出そうとしてるみたいだけどクソ真面目の彼奴が呑気にビデオ通話してくる時点でアリアの術中に嵌っているに違いない。
「でも、ちょぉっと遅かったんじゃない?」
『リアクターは全部落としてるし、次は撃たせない』
「そうは言っても、もう次が装填されてんのよねぇー」
『やめなさいガリィ!』
折角だから次のリアクターをアリアに見せてやろうと衛星内部のカメラを引っこ抜き、今まさに準備を終えて射出寸前のリアクターがよく見える様に映してあげた。
『静香』
『目標捕捉、
ファラのソードブレイカーと同じ哲学兵装、『魔弾の射手』によって放たれた弾丸は何千キロと離れているこの宇宙ステーションでもその甲高い発砲音が響き渡った。
そして射出寸前のリアクターの目の前に錬成陣が現れた瞬間、必ず命中する弾丸によってリアクターの中心部が撃ち抜かれ、エネルギーを制御できなくなったリアクターが震え出した。まともに爆発を喰らえば氷に包まれても一溜まりもないから衛星の壁を斬り破り、地球に向かって跳躍してから氷に包まれた。
数秒後、溜め込まれていたリアクターが一斉に爆発した強烈な爆風によって私を包んだ氷は一気に地表に向かって叩き落とされた。
氷の表面が圧縮熱で凄まじい勢いで表面を溶かされていくからすぐさま氷の表面を水の元素で包み込み、何とか氷の崩壊を防いだけどこのままじゃ墜落地点の調整が出来ないし、タイミングを見計らって解くしかないわね。
『ガリィ、墜落地点を伝えるわ』
「やっと?遅いんだけど」
『サウジアラビアの砂漠よ』
「さいっあく……関節に砂入っちゃうじゃない」
落ち始めて何分経ったか、やっと彼奴から連絡が入ると今度は砂漠に墜落予定だそうだ。ホント、役に立つ女って辛いわね。
『それと』
「今度は何よ」
『ティナが既にそこに居る』
彼奴からその言葉を聞いた瞬間、水の元素が砕け散る音が聞こえたから咄嗟に防御体勢を取ると緑色の電撃を纏った蹴りが私の腕に触れ、その勢いのまま蹴り落とされると砂漠の上に叩き落とされて砂丘を転がった。
転がりながらもすぐに起き上がると既にシンフォギアを纏ってLiNKERを複数投与したアリアが上段蹴りをかましてきたからそれを受け止め、地下水を探り当ててアリアの足元から水柱を吹き上がらせると瞬時に距離を取ってアタシと対峙した。
この為に移動用ポッドを取っておいたって訳、ホントいけ好かない奴ね。
「聞いていたよりも大した事ないわね」
「あらあら、勝てないから口で勝とうだなんて千年早いんじゃない?」
「ガリィ=トゥーマン、貴女を破壊するわ」
「やれるもんなら、やってみな!」
水が殆どない砂漠だから優位に立てていると思ったのかアリアは砂埃を巻き上がらせながら距離を詰めてきた。アタシが氷の壁を築くとそれを壊す為に蹴りを放ってきたけど、その隙に吹き上げている水を使って氷柱を放つと少しずつ距離を取りながらも氷柱は蹴り壊されていった。
そこへ間髪入れずに腕に氷剣を纏って足を断ち斬ろうと私から距離を詰めたけれど、私の顔に影が重なったから咄嗟に身を引いた。引いた瞬間、空から降ってきた無数の剣が砂の上に突き立てられ、シンフォギアを纏った女が姿を表すとアリアの横に並んだ。
戦う時は纏めているその黒い髪に似合わない『白の天羽々斬』、装者候補生とは名ばかりにその実力は全盛期の風鳴翼と大して変わらない人殺しの怪物『百合根 律』。
イヤラシイ采配してんわね、ヤになっちゃう。
「ようやくアンタも出てきたって訳」
「避けられた、思ってたよりも勘は良いみたい」
「大丈夫、私達なら十分勝てるわ」
「そりゃ随分余裕なこって」
二対一、これで勝算は五分になったくらいだけど長期戦は若干不利かもしれない。天羽々斬が居るからには短期戦、とはいえ此奴ら相手にシンフォギアを使う訳にもいかないしっ!?
「考え事してんのに攻撃してくんな!」
「知りません、私は私の役目を果たすのみ」
「このバケモンが…!」
「人形には言われたくない」
人間じゃ到底ありえないスピードで剣を振るう百合根の剣撃を何とか避けてはいるけれど、袈裟斬りを避けたかと思えばすぐに刀を逆手に持ち替えて斬り上げ、生粋の人殺しの剣は避けられた後のリカバリーも早くて嫌になる。
なーにが『ガリィなら凌げる』よ、頑張ればの話じゃない。アタシを無理矢理やる気にさせよーだなってそうはいかないんだから。
「取った」
「んな訳あるかバァァカ!」
「っ、ティナ!」
受け身なのは性に合わないから半歩遅れて下がってやると当然のように首を飛ばそうと百合根は踏み込んだけど、その足元が泥濘みになっているのが見えてなかったようで足を取られ、その隙を埋めるべくすぐさまアリアが飛び出してきた。
けどその攻撃をいなしながら百合根も気にしてみたけど、アリアの連撃に斬り込むタイミングが無いのか傍観していて、確かに彼奴の言う通りコレならアタシ一人でも十分勝てるかもしれない。
今の装者候補生は軒並み素養は高い、けどお互い『未熟の割には力がある』所為で連携がまるでなってない。隙を埋め合えば連携だと言い張るなら出来てるかもしれないけど、アタシから言わせればそんなのはただの共闘。
二対一ってならまだしも二人対一人なら負ける要素も無い、やっぱりガリィちゃんって強い。
「ほらほら、もっと打ち込みなさいな」
「クッ、言われなくてもね!」
「ほい足払い〜」
「キャッ!?」
「はいストップ、分かり易すぎよ」
軽い挑発をすると攻めあぐねていたアリアが脚のブースターを使った全力の上段蹴りを放とうとしたから軸足を氷の槍で叩くと見事に転んで砂の上を転がっていき、ここぞとばかりに詰め寄ってきた百合根に矛先を向けると間合いに入る前にその足を止めた。
ちょっと弱過ぎんでしょ、足元を狙う卑怯な敵なんて五万と居るのにこんなんじゃ情けない死に方するわよ。
『ガリィも戦闘なら随分とやるようですね』
二人に睨まれながらここからどう運ぶべきか考えていると突然上空から声が聞こえる同時に光弾が二人に襲いかかり、二人共避けはしたがアタシに加えて新手も来たとあって気を引き締めているようだ。
「チッ、見てたんならさっさと来て下さいよ」
『貴女が衛星を落としたから一応警戒していただけです』
「アレ落としたのイチイバルの装者候補生だっての。アタシじゃないし」
『必中の弾丸を放つ装者が居るくらい覚えておきなさい』
「ハイハイ以後気をつけまーす」
新しいマスターがねちっこく嫌味を言ってくるからテキトーに遇らうと、光化学迷彩を解いたマスターが地上に降りてきたけどその姿を見たアリアは目を丸くしていた。
「ロボット……AIがテスラ財団の幹部なの?」
『如何にも。リインカネーションの更なる境地、死なない事を前提とし何人でも何十人にも増える事が出来る私がリアクターの管理人。名前は特に付けられていませんが、便宜上「ウラノス」とでもお呼び下さい』
人工衛星を操っていたテスラ財団のAI、ウラノスは衛星に積んであったロボットの身体に自身のデータを移してきたようで紳士のような礼をしているけれど、剥き出しになっている配線とか一つ目とか不気味ったらありゃしない。
けどその胸にはリアクターが三つ付いていて、リアクターの制御に自信があるマスターが暴走させるとは思えないから単純に考えてもタイタンの三倍の出力。これならすぐにやられるって事もないでしょうし、アタシはやりやすい方を相手にしますか。
「マスターはアッチをお願いしますね。私は宣言通り彼奴から」
『仕方ありません、その提案に乗りましょう』
「そんじゃあお先に!」
『っ、泥を掛けないで貰えますか』
これで二対二、ようやくまともな勝負になるから濡れた砂を凍らせてアリアの方へ滑り降りながら両腕の氷剣で斬り込み、アリアも大振りを減らしてとにかく此方の手数を減らそうと的確に氷剣を狙ってきた。
その足元から水柱を立ち昇らせてもすぐに距離を取ったから追うように水柱を立てていき、アリアには避けられたけど周囲の砂は水を吸って瞬く間に泥へと変わって私に有利な戦場に変わっていくと、アリアはすぐには距離を詰めずに周囲を見渡した。
すぐ側ではマスターと百合根が戦っているけど互角、どちらかと言えば百合根の方が押しているようにも見えるがまだマスターが本気を出してるとも思えない。
呑気に二人の様子を見て怪訝そうな表情を浮かべて隙を見せてるから氷の槍を投げ付けると、それは蹴り一つで砕け散ったけれど私の方を見たアリアがインカムを押さえて誰かに連絡を取り始めた。
「ほらほら、そんな事してたらどんどん不利になるわよ!」
『邪魔をするなガリィ!』
「割り込んで来たのはマスターなんだから文句言わないで下さいよー」
たとえ砂漠だろうが水さえあれば私の能力は応用力が増し、私の氷もより強力な効果を発揮する様になる。
更に私に有利な戦場に変える為に周囲に十本の水柱を立ち昇らせると、緩やかな坂を描いていた砂丘も水を含んだ自重によって崩れ落ち始め、次第に周囲は高低差が少なく濡れ固まった泥の平地へと姿を変えていった。
そしてようやく『分かってくれた』のか、アリアは何とも面倒臭そうな顔をしながらも通信を終えると今度は向こうから仕掛けてきた。当然迎え撃とうと構えたけど、今度は蹴りじゃなくて手が伸びてきたから無防備でいてやるとその手は私の胸倉を掴んで顔を引き寄せてきた。
「準備したけど、もうちょっと分かりやすくしなさいよ…!」
「アンタが自力で気付かなきゃバレるっての。もっと頭使いなさいよ」
「全く、少しは上司らしくしなさい…よッ!」
「ヅァッ!?」
『何を手こずっているのですか?先程は二人相手でもいなしていたのに』
「うっさいわね鉄クズ!アンタは黙ってなさい!」
ここまでお膳立てしてあと少しの美味い所を一緒の手柄にしてやろうってのに、クソ真面目は手を離すと同時に顔面を蹴り飛ばしてきやがった。
すぐに立ち上がるとクソ真面目は如何にも『手を貸しました』と言わんばかりの顔をしていて、鉄クズの側に蹴り飛ばしたのを手伝ったと言い張るのならこっちにだって考えはある。
『ガリィ、貴女は何方の味方をしているのですか』
けど、まずはコッチを仕留める事を優先させるべきね。ガリィちゃんの唯一の怒りのスイッチを踏み躙った鉄クズはここでスクラップに変えてやらなきゃ。
そろそろ鉄クズの仲間ごっこも飽きてきたから足元に巨大な錬成陣を敷くと鉄クズはすぐに空中に飛んで氷漬けを回避しようとしたけど、残念ながら目的は氷漬けじゃない。
地下水の流れを変える事で地下で描かれた巨大な錬成陣は直径200mを優に超える巨大なドームを高速で形成し始め、地表から少し飛べば効かないと侮っていた鉄クズはすぐに脱出しようとしたけどドームの蓋はそれを待たずして完全に締め切られた。
鉄クズも何とか逃げようとリアクターから光線を出して破壊を試みているけど、誰がこのドームを作ったのかもう忘れてしまったみたいだ。
「キャハハハ、このアタシが何分準備に掛けたと思ってんのよ!そんなチャチな攻撃で壊せるわけないでしょ!」
『……いいでしょう、同じ機械のよしみで勧誘しましたが気が変わりました』
光線程度の攻撃ではビクともしないアタシの氷壁を前に逃走を諦めたフリをしている鉄クズは振り返ってアタシ達を見下ろし、アリアも未だ事態の急展開に付いて来れていない百合根を連れてアタシの背中に隠れてきた。
「結局、ガリィはどっちの味方なんですか?」
「一応私達、そうでしょガリィ」
「まぁそんなとこよ、あの飛行機に乗る前から大体こんな手筈になってたのよ。そしたらアンタ等が衛星落とすのが遅いの何の、わざわざリアクターの位置教えなきゃ落とせないってのは酷くない?」
「前を向きなさいガリィ、お望みの準備はしたんだからそろそろ本気で戦って貰うわよ」
察しの悪いガキンチョの為にわざわざ私の完璧な潜入を説明してやってんのにクソ真面目が急かしてきて、仕方ないから鉄クズと向かい合うと鉄クズはいつでも殺せるからか不意打ちも無しに待っていた。
それも自分が完璧だと思ってるが故の慢心、たかが機械の癖に笑っちゃうわね。
『貴女のようなガラクタに何が出来る?この壁も貴女を壊せば崩れ去るのでしょう?』
「ええ勿論。ただ、テメーは絶対此処で破壊するけど」
『やれるものならやってみるといい、性能の差をその身に刻んでやる』
「アンタ等は此処で大人しく見てなさい。あっ、ガリィちゃんのお着替えは見ちゃやーよっ?」
「分かったから早くしなさい!」
性能は向こうに分があるのは分かっているけど、こっちには向こうにはない『刻まれた旋律』がある。癪だけど、アタシの『マスター』を愚弄した鉄クズはスクラップにしてあげないと。
早速奥の手を披露する為胸の中央を指で押すとアウフヴァッヘン波形を遮断する格納シェルが開き、その中に収納されていたシンフォギアのペンダントが射出されたからそれを手で掴み取ると、空である筈の胸の奥から止め処なく力が溢れてきた。
急かす人はやーね。アンタもそう思うでしょ、アガートラームちゃん?
『アガートラームだと!?何故貴女がそれを持っている!?』
「あれ?その情報は貰ってなかったんだ?ならアンタも使い捨てみたい!アリア、やっちゃって!」
「撃ってください」
アタシがアガートラームの装者だと知らされていなかった鉄クズは自分のデータを電波で飛ばして何処かで自己複製しようとしてたみたいだけど、アタシの意図を汲んだアリアの指示と同時にドームを包み込む程の妨害電波が宇宙にある人工衛星から降り注いだ。
上空から見れば真円を描くように砂漠を濡らすのには苦労したけど、その甲斐もあってデータ送信を完全に妨害出来ているようで表情の変わらない鉄クズも焦っているのがよく分かる。
さっすが各国が雁首揃えて作った人工衛星、揃いも揃って妨害電波が撃てるなんて科学ってステキ!それじゃあアタシはその科学も霞む程の錬金術を見せてあげなきゃね!
「
聖詠に応えたアガートラームが光の粒子となってアタシの身体に包み込み、降り注ぐ鉄クズの光弾もアタシのアームドギアが勝手に元素の壁で築いて防ぎ切り、次第に鎧が形成されていくと胸の奥から歌が聞こえてきた。
あのポンコツ装者に刻み込まれた旋律がもたらしたアタシと奇跡の適合、『マスター』が奇跡を殺すと言っていたのに適合者になっていた時は笑ってしまった。奇跡を殺す為に生まれた私達が奇跡を纏えるようになるなんて、こんな皮肉が有るものなのか。
神に心底嫌われているアタシ達が復活した理由、それが分かるまではアタシ達は『マスター』の命令も無しに負けてその尊厳を堕とす事も『マスター』を愚弄する者を許す事も決してありえない。
『氷腕・アガートラーム』はその為に彼奴から受け継いだ力なんだから。
「《氷のように 冷たく沈んだ過去を》!」
『戯言を、人の猿真似で何ができる!』
三つのリアクターでその能力が底上げされている鉄クズはタイタンとは思えない程の速度でアタシに飛び蹴りをかましたけど、その蹴りはアガートラームの障壁と水の元素を織り交ぜた『絶対防御』によって完全に受け止められて、ドーム内には衝撃音が鳴り響き鉄クズの足は衝撃に耐え切れずひしゃげていた。
ざーんねん、これ壊せるの立花響だけだから!
『何ィ!?』
「《砕く力今 それがココロにあるのなら》!」
『確実に貫ける』、自身のステータスに絶対の自信を持っていた鉄クズは回避行動は考えていなかったようで、障壁を鉄クズに向かって蹴り壊すと砕け散った障壁の破片は次々と鉄クズの身体に突き刺さり、また猿の一つ覚えで飛び上がってアタシと距離を置いた。
だけどここはアタシが用意したフィールド、このドーム全域がアタシの攻撃範囲なのは当然。アタシが指を鳴らせばドームの外殻から鉄クズに向かって氷柱が無数に撃ち出され、鉄クズに反撃のチャンスなんか与える訳がない。
一方的に攻撃して一方的に嬲り殺す、それが出来ない二流装者達に用なんて無いのよ!
「完全に押してる……これがガリィの本気なの?」
「普段よりも錬金術の出がかなり早い。多分ガリィのアームドギアは錬金じゃないかな』」
惜しい、正確にはこのカラダそのものがアームドギア。決して満ちる事のない
「《サダメも過去もナゲキもキオクもアイも》!」
『小賢しい!既に廃れた錬金術如きに私が壊せると思うな!』
私に一切近付けずに防戦一方の鉄クズは周囲に光線をばら撒いて氷柱を飛ばしていた錬成陣を破壊すると、胸の三つのリアクターが蒼い閃光を放ち始めた。小賢しくも目眩しかと思ったけど、これまで傷付けていた鉄クズの身体が瞬く間に修復されるのを見ると流石のアタシも驚いた。
決めた、アイツの破壊はやーめた!
自動修復されるんじゃ壊すのも面倒だし、何よりもあの機能はアタシも欲しい。絶対防御を解いて今度はアタシから攻めてあげようと跳ぶと、鉄クズは迎え撃とうと光線を撃ってるけどその全ては絶対防御によって防ぎ切られた。
「《全部込めた
『驕ったな、ガリィ!』
「ガリィ!?」
だけどエネルギーを手に収束させた鉄クズの手刀は絶対防御までも斬り裂いて私の身体を両断し、地上で見ていたアリアの悲痛の叫び声が聞こえてきた。心配してくれるのはありがたいんだけど、
「《アタシが今を生きる》!」
こんなのに騙されてるんじゃアタシには勝てっこないわよ!
両断された私の分身がただの水の塊となって鉄クズを被さるとその身体を水浸しにし、鉄クズは既に背後を取られていることに気付いて振り返ったけれどアタシの右腕は既に氷で包まれている。
「《意味を
《シュネーレクイエム》
アタシはアガートラームと錬金術によって生み出された圧倒的な質量を持つ巨大な氷腕で鉄クズを殴り、その勢いのまま地面に叩きつけると氷の錬成陣をその身体に刻まれた鉄クズは泥の中に半身を埋めたまま瞬く間に凍り付いていった。
どんなに立ち上がろうと力を込めてもドーム内の泥は鉄クズの身体と共に完全に凍り付く事で数十tという重りと化し、どんなに光線で破壊しようとしても『マスター』への忠誠を具現化させた氷を壊す事も出来やしない。
アタシは『あの子』の為に奇跡を纏ってるんだ。所詮科学で生み出されただけの機械に負けるわけがないのに、本気で勝てると思ってただなんて哀れな事だ。
アタシも凍り付いた地上に降りると腕も自由に触れない程身体が埋もれている鉄クズは凍り付いた顔をアタシに向け、アタシもその目の前でしゃがんで目線を合わせてあげた。ちょっとアタシの方が高いけど、泥の中に入るのなんて嫌だから仕方ない。
「ロクな経験値も無いのにいきなり実戦に出るからそうなんのよ」
『卑怯者が!』
「卑怯で結構ケッコーコケコッコーってね。アタシの性根が腐ってるのは今に始まった事じゃないし。でもね」
機械に相手を卑怯だと感じる思考回路があるとは思えない、どうせ人間の学習をさせてより人間的思考が出来るように育てられていたんだろう。
そんなツクリモノの感情しか持たない鉄クズの頭を掴み、無理やりその無感情な顔をアタシに向けさせた。
「『マスター』を愚弄されて黙ってられる程、アタシは心まで腐らせたつもりはないのよ。主人に利用されていただけのアンタには分かんないでしょうけどね」
いつか死ぬ身と分かっていても名前を付けて、服を与えてくれて、役目を果たさせてくれた『マスター』に対する感情が分からない鉄クズといつまでも話していても仕方がない。たとえそれが愚かだと分かっていても付き従ってしまうどうしようもない感情を此奴は知らないのだから。
さっさと帰る為に鉄クズの単眼を叩き割り、他の回路は凍り付いているのにエネルギー回路だけは今もリアクターをフル稼働させているからか蒸気を上げて分かりやすく自己主張をしていた。
遠慮なくそのエネルギー回路を手掴みで引き千切り、剥き出しの配線からエネルギーを吸収し始めると鉄クズは暴れようとしたけどその抵抗も虚しくエネルギーは私の中へと蓄えられていった。
『やめなさいガリィ!』
「ヤメナサイガリィ、アンタに指図される筋合いが無いっつーの」
エネルギーを絞れるだけ絞り切った鉄クズは自慢のリアクターも残り一つを残して機能が停止し、私の中に溜め込まれた余剰分のエネルギーは全て錬金術に回してドーム内に吹雪を吹き荒れさせると、鉄クズは自身の回路まで凍り付かせない為か全身から発熱を始めた。
でもそのエネルギーも既に底は見えている、きっと数時間後には完全に機能が停止して回路も凍り付き再起不能になる事も理解しているに違いない。
「アンタは此処で『死ぬ』のよ。残りの命を精々楽しんで下さいねっ」
湿っぽいのは嫌だから出来る限り精一杯の笑顔を見せてから別れの挨拶をすると迫り来る死に恐怖を学習したのか、鉄クズは何か言ってるようだけど吹雪く轟音で掻き消されて聞こえやしない。
ドームの中は少しずつ気温が下がっていき装者達も寒そうにしているから二人を連れてドームに穴を開け、灼熱の砂漠に出てから鉄クズの叫び声が響いているドームを再び締め切ると辺りはまた静けさを取り戻していた。
「やっと終わったぁ、ガリィもうくたくたです」
「S.O.N.Gにも初めから連絡していればこんなに大事にならずに済んだのよ」
「裏切りではなく潜入、そういう事なら司令達も力を貸してくれた筈です」
これでようやくアタシの任務は完了だからシンフォギアは解除したけど、二人は暑いのが嫌なのか未だにシンフォギアを纏っていて見てるこっちが暑苦しい。
だけど今はその方が私にとっても都合が良いか。
「アリア、ちょっとこっち来て」
「今度は何ィッ!?」
「ティナ!?ガりっ!?」
アタシの分かりやすい誘導に対して蹴りで返してきたアリアがのこのこ歩いて来たらその顔面を殴り飛ばし、アリアは砂丘を転がり落ちていくと百合根は刀を構えたけど、その足場を水で流してやると百合根も仲良く丘を転がっていった。
これで蹴った分は帳消し、こんなもんで許して貰えるんだから感謝して欲しいくらいよ。
「それじゃあアタシ先に帰るから!アンタ等も早く帰れるといいわね!」
「待ちなさいガリィ!?」
「えー!?きこえなーい!?」
丘の下で二人がアタシと戦うべく構えているけど、アタシはテレポートジェムを取り出して叩き割ると足元に錬成陣が現れ、二人が何か言ってるようだけど生憎轟音で耳がおかしくなったのか聞こえやしない。
聞こえないからエルフナインに修理して貰う為に一足先に帰ると去り際に何か叫んでたように聞こえたけど、きっと私に労いの言葉を掛けてくれていたに違いない。
ガリィったら相変わらず人気者ね!
ガリィからは『全部破壊が可能な地点に落としていた』という報告を聞き、静香が魔弾を撃てるように座標を教えた事やウラノスを破壊した事を考えて元より潜入するのが目的だったのは間違いはないだろう。
ガリィ自身も『指示に従っただけ』の一点張りなのも無駄な手間を嫌うガリィの性格を考慮しても嘘ではないだろう。つまり、
「今回の作戦はどういう事だ、立花本部長」
『どうもこうも、ガリィを国連の装者にする事を認めたのは風鳴司令よ』
今回のガリィの潜入は国連側の独断。協力すると言いながらS.O.N.Gすらも騙して一時的にS.O.N.Gのシステムを乗っ取るなんて前代未聞の事態だ。
アリアの言う通り今回は上手くいったがそれとこれとは話が違う。先代がシンフォギアの利権に拘ってなし得なかった協力関係を、私達が築き上げてきた信頼関係を立花本部長自らが水の泡に変えようとしたんだ。
たとえかつて肩を並べた装者であっても、今戦っている装者達に無為な危険を及ぼそうというのならば防人たる私にはそれを阻止する義務がある。
「何故私にも連絡も無しに被害が出る可能性のある作戦を決行したのかと聞いている」
『その質問に答える義務はないわ』
「つまり協力関係を打ち切りたいという訳だな」
「ふ、二人共落ち着くデスよ!?」
「響先輩にも何か考えがある筈!」
当然だ、私も立花が人の命を弄ぶようなことをするとは毛程にも思っていない。だが我々を信じているのであれば万が一の事を考えて私には言っておくべきだったのには変わりない。
あの子達は装者候補生でありながら命を懸けて戦っているんだ、それを大人である私達の都合で命の危険に晒すわけにはいかない。
『暫くはガリィも其方に預ける。私達が居なくても何か進展があるのなら対応は其方に任せるわ』
「私には言えない事なのか?」
『………ティナの事、よろしくお願いします』
誰よりも人を大切にする立花がそうまでして守ろうとしている情報、その答えは教えてはくれなかったが立花はアリアを私達に託すと共に通信を切った。
今回の件でその異能を発揮したアリアを託すという事は私達を信用していない訳ではない。そうなればやはりS.O.N.G内部の情報が断片的に漏れている事を警戒しているのかもしれない。
しかし、分析官から工作員まで素性は完全に把握しているし常に持ち歩かせている端末は音声を自動で聞き取ってその内容を分析している。だから不穏な動きがあれば既に誰が内通者か分かっている筈だ。
だが、装者候補生の中でアリアだけは本人が肌身離さず持っているタブレットがあるから端末を持たせてはいない。それが何を意味するのか、確かめなければならないだろう。
「アリアは今どこにいる?」
「今は専用機でインドの上空です」
「そうか………今後はアリアにも端末を持たせるように手配するんだ。それとアリアには密偵として緒川を付ける、勘繰られないように注意しろ」
「分かりました」
取り越し苦労であってくれよ、アリア。