少し未来のシンフォギア   作:竹流ハチ

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「砕かれた天羽々斬」

日本の防人として常に政府中枢にてその席を保持してきた風鳴家、その本家守護を任される緒川家。今日までで風鳴の手によって防がれた争いや国家の分裂は数知れない。

 

だが、風鳴家には家系図にすら載っていない真なる影が居た。防人という肩書きも無く、本家守護という名誉も無く、ただ風鳴の栄盛の為だけに影として生き死んでいく者達がいた。

しかし次期風鳴当主が掲げた『風鳴家の透明性の確保』という方針に真なる影は風鳴に無用な手間を掛けさせる事は悪とし、自らの家系を闇に消すべく一族を粛清した。

 

『キミが、律だな』

『……風鳴家当主、風鳴翼殿とお見受けする。何か御用で?』

『もういい、止めるんだ』

『これは我が家系の宿命、いずれはこうなる運命だった』

 

降りしきる雨音だけが響く真夜中、微かな蝋燭の炎に照らされた少女の背後に立っている翼は少女の名を呼ぶと少女もそれが風鳴の現当主であると認識した。

 

少女の周りには数知れない死体が倒れ伏していて、中には幼い子供も居たが誰もが迷いの無い一太刀で絶命しているのが見て取れた。

風鳴の為に鍛え上げられた剣が自らの家族を、一族を潰えさせる為に振るわれた事に翼は苦痛の表情を浮かべたがそれが少女の救いにはならない事は理解している。

 

『遥か先の時代、戦に巻き込まれた百合根家が風鳴によって護られた過去は知っている。百合根家はその恩を忘れず、この時代まで風鳴の為に影から尽くしてくれていた。だがもう時代は違うんだ、百合根家が血を流す必要はない』

『恩?最早これは呪い、戦い方を知らなかった百合根に引き際など有りません。ただ風鳴の為に咲き、風鳴の為に散っていく。私の剣を受けた者にはその呪いが降り掛かったに過ぎない」

『その最後の一人になるつもりか』

『………皮肉なものですね。自分達が可憐に咲き誇る花を支えているつもりが、結局は多くの根の内の一本でしかないのに必要とされていると勘違いするなんて』

 

血に濡れた白鞘を持った少女は翼に背を向けたまま一族の愚かさに乾いた笑いを浮かべ、残された最後の百合根の血を断つ為にその刃を首に添えた。

 

『この世とはかくも儚きものです。家族を殺し、一族を殺し、最後には自分まで殺すなんて私は何の為に生まれてきたのでしょうか?』

 

風鳴を守る為に鍛えた剣が斬ったモノに自らの宿命を嘆きながら、その最後が風鳴の当主に見守られている事だけをせめてもの救いとしてその手に力を込めた。

 

だがその刃が少女の首を断つ事はなく、どれだけ力を込めようと刃が動かない代わりに首の後ろから血の温もりを感じた。そして右手から血を流している翼の両腕が背後から回されると少女の身体を強く抱き締めた。

 

『もうよせ、これ以上必要の無い犠牲を出さないでくれ』

『……私は剣しか知らぬ身、今更表舞台で何を踊れと?』

『お前にこれを託す、きっとその答えを教えてくれる筈だ』

 

翼がS.O.N.Gの司令官となった事で空いた天羽々斬の装者の席、それを最初の装者候補生として少女の首にペンダントを掛けた。少女はペンダントから聞こえる声に応えるように握り締め、それが新たな使命であると受け止めると頷いた。

 

『御心のままに、当主殿』

『当主としてではない、風鳴翼としてお前を後進に選んだ』

『……分かりました、翼さん』

 

 

 

 

テスラ財団のリアクター製造の任を担っていたAIであるウラノスをガリィが破壊してから二週間が過ぎた。

あれ以降テスラ財団の動向は掴めていないが少なくとも新たなタイタンが戦場に現れたという話は聞かず、私達装者候補生も本部待機を解かれて日常へと帰って来た。

 

任務で席を外す事は多いけれどクラスメイトにも恵まれて私が委員長なんて大役を任されてはいるけど、任された以上はその仕事をこなしながら今は提出する資料の山を持って廊下を歩いている。

幼い頃から殺人術を叩き込まれてきた私が学校に通うだなんて夢にも思わなかったけど、通ってみれば同年代達に囲まれるのは心が落ち着くものだ。

 

「あっ、私も半分持つよ!」

「多識さん、この位私だけでも」

「いいのいいの!委員長には私もいい思いさせて貰ってるから!」

 

職員室へと資料を運んでいると後ろからクラスメイトで新聞部の多識さんが駆け寄ってくると資料の山を半分手に持ち、手伝わなくても大丈夫だと言ってもコロコロと笑いながら私と並んで歩き出した。

 

人の好意を無為に断る訳にはいかないけど、これを盾にまた私の特集を組みたいと言い出しかねないから多識さんは油断できない。

 

「写真なら撮らせてあげないよ」

「え〜?減るもんじゃないじゃん〜」

「駄目なものは駄目です」

「ちぇ、まぁいいや。これ職員室まで運べばいい?」

「うん」

 

前もって写真は断ると多識さんも露骨に残念そうな顔を浮かべながらも運ぶのは手伝ってくれるようだし、その身のこなしの柔軟さは眼を見張るものがある。

それを先生からの説教を回避する以外にも活かしてくれれば私も怒ったりしなくて済むのに。

 

「この間は何処に行ってたの?」

「内緒、お家の用事だから」

「いいなー。綺麗で頭も良くて、しかも花道の総本家の跡取り娘だなんて大和撫子変身セットじゃん」

「そんなセットはありません」

 

多識さんの軽口に付き合っていると、多識さんは何故か職員室に行くには遠回りな人気の少ない階段へと迂回を始めた。

 

「……少し前にこの学園にシンフォギア装者が居たって噂、知ってる?」

 

一応付いて行きながら私が先に階段を下りていると、多識さんは突然足を止めてそんな事を言い出した。

 

私が想像してる話と多識さんが話そうとしている内容は出来れば違って欲しいけど、私に直接言うって事は結構自信があるのかな?

 

「……立花さんの事?」

「立花響、雪音クリス、風鳴翼、暁切歌、月読調。私が調べた限りではその五人、もしかしたらもう少し居るかもね」

「それで?それを私に言っても何も出てこないよ?」

「委員長、変な事に首突っ込んでない?委員長が休む日に必ず休む二人もいるし、無免許でバイクを乗り回してるのも知ってるんだよ?」

 

あの二人はそんな事も……全く、目立つ真似をすればいつか足が付くとは思ってたけどまさか同級生に見つかるだなんて。

 

まだ確信ではないものの他にも幾つか証拠を持ってるのか多識さんは私を見下ろしながら返答を待っていて、まさか事を荒げる訳にはいかないから資料を片手で持ち上げながら大人しくペンダントを胸元から取り出した。

 

一応地の利は譲ってあげたけど、こうも無防備な女の子相手でも警戒してしまうなんて自分が情けない。

 

「そうだよ、私は多識さんの想像通りシンフォギア装者だよ」

「や、やっぱり…!」

「で、それを今度の新聞に書くの?」

「か、書かないよ!ただ委員長を調べてたら偶々線が繋がったっていうか、好奇心で…」

「もぉ、多識さんらしいなー」

 

好奇心、多識さんらしい理由だから私も可笑しくてつい笑ってしまうと、私が怒っていないと受け取られたのか顔を強張らせていた多識さんも笑みを零していた。

 

だから私が一息も吐かぬ間に距離を詰めて顔を突き合わせると、気を抜いていた多識さんは退く事も出来ずに表情を凍らせた。わざわざ人気の少ない所を選んでくれたんだ、少しくらい怖がらせておいた方がいいよね。

 

「もし私が装者だって周囲にバレたら真っ先に疑うからね」

「え、あ、いわ、言わないよ……!」

「これは遊びじゃないの、貴女は余計な事に首を突っ込んだ。引き際を知らない好奇心は破滅を呼ぶ、覚えておいて」

「う、うん……」

「貴女には監視を付ける。それは貴女を見張る為でもあるし、守る為でもある。納得はしなくてもいいから理解して」

 

世界の危機に関わる事だから情報漏洩を防ぐ為に監視が付く事を説明すると、普段は優しそうな私に話しただけでそこまで大事になるとは思ってなかったのか、半ば半泣きになりながら何度も頷いてくれた。

 

シンフォギアが世間に周知された最終決戦の後、シンフォギアが兵器になり得ると批判もあったがそれはその後の実績から少しずつ無くなっていった。S.O.N.Gの活躍も当然あったけど、それ以上大きな要因となっていたのが立花さんだった。

 

高校卒業と共に国連直属となった立花さんは私生活の殆どを救命活動に捧げる事で欧州での知名度を上げ、シンフォギアが誰かを守る為に使われている事をアピールした。結果的にその名声が現在の私達の任務遂行にも役立っていて、緊急事態だと分かれば現地の人の協力を仰ぐのも以前と比べて容易になっているみたいだ。

 

多識さんがこうして簡単に口を割ったのも装者に荒事を好む性格の人間が居る訳がないと確信していたのだろう。それは間違いではないけど、機密である事には変わりがないのだからもう少し慎重になるべきだったかな。

 

「もう、それじゃあ持って行こ」

「う、うん!」

 

少し怖がらせてしまったからまた笑顔を見せて足を進めると、多識さんも表情を明るくしてから後ろを付いて来た。

 

それからは職員室まで荷物を運んだから多識さんにはお礼を言い、分けていた資料を受け取り担任の机に資料を運んだ。

 

「持ってきましたよ」

「あら、ありがとう」

「いえいえ、それじゃあ私も帰りますね」

「あっ、百合根さんにお客さんが来てるの」

「へっ?私に?」

「応接室に居るから行って貰える?」

「はぁ、私をお呼びなら」

 

資料を運ぶ以外には学校でする事が無いから帰ろうとすると担任に呼び止められ、何事かと思えば私にお客さんだなんて。装者とはいえ学校ではただの生徒なのに誰なんだろう?

 

お客さんについては予想が付かないから誰かと考えながら職員室に隣接した応接室の前まで行き、扉をノックすると聞き覚えのある声で『入っていいわよ』と聞こえてきた。

確かに珍しいお客さんだと呆れながらも扉を開けて入ると、応接室のソファに座っていたのはこの学校では留学している事になっているスーツ姿のティナが座っていたのだ。

 

確かに留学した生徒が帰ってきて誰かを呼んでいるなら教師達も気を利かせてくれるだろうけど、用事があるなら端末で連絡してくれればいいのに。

 

「ティナが学校に来るなんて珍しいね。それにスーツだなんて、教師と間違えられたんじゃない?」

「ええ、新任と間違えられたわ」

「可愛い服持ってるんだから着て来たらいいのに」

「今日はそういう気分じゃなかっただけよ」

 

長い金髪を変わった形の髪留めでポニーテールにしていて、身長も高いティナがスーツを着て校舎を歩いていればまず間違いなく未成年には見えない。只でさえ立ち振る舞いが大人っぽいのにスーツ以外着ようとしないんだから間違えられても仕方がない。

 

私も向かい合うようにソファに座ったけど、今日は何の用事なんだろ?

 

「それで?今日はどうしたの?」

「別に大した事じゃないわ」

「そう言って大した事じゃなかった事ある?」

「……緒川さんに尾行されてるわ」

「ほら、そういう事言い出す」

 

大事には大抵首を突っ込むティナが今度は何をしたのかと思えば緒川さんに尾行されていると言い出し、ティナ自作のタブレットを渡されて表示されている画像を見たけど、街中の鏡を何枚か経由して撮影したのか尾行をしている緒川さんを映していた。

 

そしてついこの間支給されたばかりのS.O.N.Gの端末をバラバラに分解した残骸が入った袋を取り出し、盗聴もされていたと言いたいのだろう。盗聴だけなら私もされてるだろうけど、緒川さんまで付いてるならティナが疑われているのはまず間違いない。

 

「何したの?」

「何もしてないわよ」

「それなら私も尾行される筈だよ。そんなに気にした事ないけど、多分尾行はされた事無いよ」

「そう、それじゃあやっぱり私だけなのね。探られて痛い腹はないけど、こう付いて来られたらやり辛いのだけど」

 

ティナの事だから悪い事をしてるとは思えないけど、司令達が無意味にそんな事をするとも思えないから何かしら疑われる余地があったから念の為といったところだろう。

 

確かにティナは生まれこそ一般家庭なのに超人的な知識量と卓越した戦闘センスを有している。入隊時に素性は洗いざらい調べられているとはいえ、改竄ができない訳じゃないから身内から可能性を潰しておきたかったのかな?

 

となると、

 

「ティナがテスラ財団のボスと思われてるのかもね」

「どう考えたって無理でしょ。ニコラ・テスラと戦ってた時点で私達11歳よ」

「でもテスラ財団にも若いエンジニアも居たし」

「裕福でもなかった私が世界中駆けずり回って悪徳科学者を搔き集めるなんて現実的じゃないわね。ビデオ通話だけであの連中が動くとも思えないし」

「そこら辺も含めて可能性を潰してるんだよ。頼れるティナがもしも敵だった時が一番脅威になるから」

「どの口が言ってるのかしら?」

「この口です」

 

皆に頼られてるティナにはもう少し愛想良く振舞って信用を得て欲しいと遠回しに伝えると、ティナも棘を出してきたから指で口角を上げながら適当にいなすと呆れたように笑ってくれた。

 

私に相談してくれたということはそれなりに深刻に捉えるべきか悩んでいたみたいだけど、私の答えが『普段通りでいい』と分かってくれたようでやっとソファに身体を預けて一息付いた。

 

「私が敵だった時に相手になる律がその様子なら大丈夫そうね」

「そんな時が来ればちゃんと懲らしめてあげるよ」

「まるで私には当然勝てるような言い方ね」

「だって勝てるもん」

「その自信が羨ましいわ」

「伊達に鍛えてないからね」

 

かつては風鳴の為だけに振るわれた私の剣が今はこうして誰かと肩を並べて人を助ける力になっている。私のこれまでの行いに罪があるかは私の判断する所ではないし、あったとしても私がこれからやる事に変わりはない。

 

「でもね、私が一番強くてもいざという時はティナの方が頼りにされるの。それはティナが誰よりも努力をして、誰よりも優しいから心の底から信じてるんだよ」

「私は別に律みたいに特別じゃないわよ」

「ティナはティナだよ、誰も私とは比べてない。だから私が悪者になったらティナがちゃんと止めてね?」

「……善処するわ」

「お願いします」

 

案外ネガティブな所があるティナを励ましていると先生達も留学している生徒と委員長が仲良くしているのが気になったのか、様子を伺いに来たから頃合いを見て私達も下校する事にした。

 

 

 

 

 

『律さん、違和感はありませんか?』

「はい」

「ハァ……ハァ…りっちゃんの鬼ぃ〜!」

「ハァ…ッ……死ぬかと思ったぁ〜!」

 

ティナと一緒に本部に帰ると普段は研究室に篭っているエルフナインさんに声を掛けられ、完全聖遺物『エクスカリバー』のシンフォギアの最終調整が終わったから試運転をして欲しいと頼まれた。

 

丁度司令から逃げてる二人も居たから首根っこを掴んでトレーニングに付き合って貰ったけど、纏ってみた感覚だけで言えばエクスカリバーの性能は現行のシンフォギアを遥かに凌ぐものだ。

 

普段纏っている天羽々斬は翼さんから受け継いだものだし、シンフォギアは戦う為だけにあるものではないから一概には言えないけど、私以外に纏える人間が居ないなら私が使う事にはなるのだろう。

 

「大体りっちゃんだけ『何個も』シンフォギア使えるの狡い〜!」

「仕方ないでしょ、そういう体質なんだから」

「鎌は折れるわ、斬り殺されそうになるわ、もう最悪〜」

「かなり加減してたつもりだけど、二人共真面目に訓練しないもんね」

「「ムッカ〜!」」

 

私が天羽々斬を纏う事になり、最初の装者候補生としてシンフォギアとの適性検査を行うと過去に前例の無い事が起きた。現在存在する全てのシンフォギアとの極めて高い適合、かつてマリアさんがガングニールとアガートラームを纏っていた様に私は全てのシンフォギアを纏えるという事が判明したのだ。

 

身体検査等も行ったけどその原因は分からず、どのシンフォギアも不具合無く纏えた事からそういった気質だったという話で終わったけど、まさか完全聖遺物とも適合できるとは正直思っていなかった。

 

「今日はそこで反省するように」

「鬼ぃ〜!」

「悪魔ぁ〜!」

「鬼でも悪魔でも結構です」

 

白金のエクスカリバーを解除すると普段の蒼いペンダントに姿を変え、床に倒れて動けない二人を置いてトレーニングルームから出て汗を流す為にシャワールームに入った。

汗でベタついたトレーニングウェアを脱いでからシャワーを浴び、纏わり付いていた汗は流れていったがエクスカリバーを纏っていた時の違和感は拭えずにいた。

 

エクスカリバーは間違いなく強い、適合者であればそれが素人であろうとも勝利をもたらすに違いない。けどエクスカリバーを握っていると意識が遠のく瞬間が幾度かあった。

その瞬間だけ加減が効かなくなって咄嗟に峰打ちに切り替えて事なきを得ているけど、それがいつまで保つのか分からないし、エクスカリバーを握っていなくてもティナ達にもボーッとしていると言われる事が多くなった。

 

念の為に口実を付けてメディカルチェックを受けても心身共に異常は見られない。ようやく日常に慣れてきている証拠だと翼さんは笑ってくれていたけど、それがもしも実戦で起きたら命取りになる。

 

何処までいっても私は半端な刃、自分すらも制御しきれないなんて間抜けな話だ。こんな私がこんな力を持ってしまっていいものなんだろうか。

 

「ちょっと休もうかな……」

 

シャワーに打たれながらもう少し自分を見つめ直す時間を置こう、そう考えているとまた違和感を感じた。

 

私はシャワーを浴びていた、なのにいつの間にかロッカールームに水浸しのまま立っていて手には端末まで持っているのにその間の記憶がまるで無い。一体私に何が起きているんだ?

 

自分の事なのに自分でも何が起きているのか分からず困惑していると強烈な殺気を遥かに頭上から感じた。ペンダントを持って駆け出そうとしたその時、地下まで大きく揺れる程の衝撃と爆発音が上層から響いてきてアラームが鳴り始めた。

 

『地下9階独房にて爆発、侵入者です!』

「侵入者!?そんな所までどうやって!?」

『職員は直ちに避難、装者は現場に………!?ノイズ発生!本部周辺に大量の電子ノイズが発生しています!市民の避難を開始します!』

 

地下9階にはティナと切歌さん達が捕まえたテスラ財団の幹部二人が収容されていた。そして本部周辺には電子ノイズ。明らかにテスラ財団による攻撃だけど、幹部も軒並み捕まっている現状でこれ以上誰が攻撃を仕掛けて来れるんだ?

 

シャツだけ羽織ってロッカールームから駆け出していると手に持っていた端末に通信が入り、送信者の名前を見ると相手はティナだった。

 

「ティナ、大丈夫!?」

『その様子なら律も無事ね。私と静香は外の電子ノイズを片付けてるけど数が多過ぎる。電子ノイズの発生装置も今探してもらってるけど見つからない。だとすると考えられるのは』

「電子ノイズを発生させられるタイタンの進化系。恐らくそれが首謀者だね」

『ええ。切歌さん達は市民の救助に向かったけど、其方は律に任せていい?』

「うん!任せて!」

『……信じてるわよ、律』

 

最後にそう呟くように付け足したティナは通信を切り、ティナからの信頼を裏切らない為にも私はエレベーターの扉を開けてそこから鉄骨伝いを飛び伝って9階へと急行した。

 

上では既に交戦しているのか激しい金属音が鳴り響いていて、9階の扉に飛び付いて扉を手でこじ開けると廊下では海未と空が再びタイタンを身に纏った幹部達と戦っていた。

 

「りっちゃん何処から来てるの〜!?」

「でもナイスタイミング〜!」

「話が違うじゃない!」

「黙って手を動かせ!」

 

テスラ財団の幹部であるシャルロットとジェームズ。それぞれが再びタイタンを身に纏っていて、胸にある二つのリアクターから見ても最新型のタイタンである事には間違いない。

 

ティナは緒川さんに追跡されていたし私も長い時間一緒に居たからあんな物を開発してる時間はない、そして二人の背後にある地上から地下へと向かう大穴から考えて答えは一つ。

 

テスラ財団にはまだタイタンを開発できる人間が残っていて、ティナの無実は証明された。

 

「りっちゃん見てないでヘルプ〜!」

「その二人をトレーニングルームに叩き落として!」

「了解〜!」

 

シャルロット達を此処よりも地下にあるトレーニングルームまで誘導するように二人に頼むと、シャルロットに切り掛かっていた海未がチェーンソーを引いてシャルロットの体勢を大きく崩すとジェームズの方へと蹴り飛ばした。

 

まだ最新型に不慣れ且つ狭い通路ではお互い躱す事もできずに二人がぶつかり合うと空が二人を鎖で締め上げ、大穴へと飛び落りると二人も引き摺られるように地下へと落ちていった。

 

「りっちゃんおいで〜!」

「お願い!」

「お任せ〜!」

 

私も後を追うように駆け出し、海未に抱き抱えて貰いながらトレーニングルームまで一気に飛び降りると、先に着いて鎖を解かれた空が宙に浮かぶ二人と睨み合っていた。

 

「有難いわね、広ければ戦いやすくなるのはどっちだったかしら?」

「ボスがようやく俺達に姿を見せてくれたんだ、それなりに成果は見せなきゃな」

 

やはり幹部である二人よりも上、未だ創始者が分からずじまいだったテスラ財団のトップが姿を現したのか。それなら二人に拘っている暇はない、更に地下へと続いている大穴の先にいる創始者を止めて電子ノイズを大元から消さないと。

 

「シズちゃん居れば此処ごと吹っ飛ばして貰ったのにな〜」

「そしたらトレーニングしなくていいもんね〜」

「二人共、よく聞いて」

「ホイホイ、どうしたの〜?」

「あの二人は私一人でやる、二人はティナ達の方に行って」

「いやいや!?それは………本気で言ってるの?」

 

今から私だけが大穴の先に行って大将首を取る、若しくは二人に行ってもらうという選択肢もある。でも空達には悪いけどあの二人に勝つには空達だと時間がかかるし、タイタンやリアクターを作れる相手を空達だけで倒せる可能性はとても少ない。

 

それなら私が目の前のシャルロット達を素早く倒し、大穴の先にいる相手も私が倒す方が被害は最小限で済む。普通なら無茶苦茶な指示だというのは分かってる、空も私が本気で言っているのか確認してくる程だけど私は至って本気だ。

 

ティナ達が戦った時の実戦データを見た限りこの二人くらいなら私だけでも十分勝てる、それなら二人にはティナの加勢に行って貰う方が救える命が多い筈だ。

 

「《floreas Amenohabakiri tron(天上に裂き誇れ、無垢なる刃よ)》」

 

胸に浮かぶ聖詠を唱えるとペンダントとシャツは光の粒子となり、私の身体を包み込むと私の胸の奥からは力が止め処なく湧き上がってきた。

 

我が使命の為に鍛え上げられた刃が血で呪われていたとしても、一度咲いたからには散るまで咲き誇ってみせる。誰かの名誉の為に地に隠れるのではない、皆を幸せにする百合の花になると決めたんだ!

 

私の身を包んでいた光の粒子を腕を振るって切り裂き、私の中にある不安ごと断ち切ると私の覚悟の証である『純白の天羽々斬』がその姿を見せた。

左手には私の第一の刃である長刀が発現し、翼さんの様にその身全てが剣とは謂えないけど、私の『天剣・天羽々斬』に斬れない物は存在しない。

 

「行って二人共!此処でテスラ財団は完全に潰す為に!」

「……オッケ〜!後は任せた〜!」

「必要なら呼びなさいよ!」

 

二人が背を向けられるように私が一歩前に踏み出すと、後ろからは私を信じてくれた二人が大穴の方へと跳んで出て行く音が聞こえてきた。

 

その様子を見て三人がかりで相手をすると思っていたシャルロット達は可笑しそうに笑っていたけど、私はそれに耳を貸さずに刀を構えた。

 

「随分と舐められたものね、たかが一人で私達を同時に相手出来るとでも?」

「降伏するなら今の内だよ。3秒数えるから武器を下ろしなさい。降伏しないなら死ぬ覚悟があるとみなし、命を取る」

「遂には三秒待ってくれるみたいだ。ならこっちが三秒でころ」

「3ッ!」

 

私が猶予を与えたのに呑気に話しているジェームズに向けて刀を振い、剣先から空間が歪んで見えざる刃『一分咲き 日蝕ガオ』が放うとジェームズの片腕ごとそのタイタンの片翼を斬り裂いた。

 

一瞬の出来事にジェームズはまだ自分の腕が落ちた事を認識しておらず、地面が割れる程足に力を込めて一気に跳んで距離を詰め、刀が斬馬刀へと姿を変えるとジェームズに全力で振り下ろして地面に叩き落とした。

 

「2ッ!」

「ヅァッ!?」

「何なのこいつ!?本当に候補生!?」

 

斬馬刀を再び刀に戻してジェームズの腹に突き立てて動きを封じると、その様子を見ていたシャルロットが大穴へ逃げ出そうとしたから腰に下げた小太刀を大穴に投げてその縁に突き立てた。

 

そしてシャルロットがその横を通り過ぎようとした瞬間、動体センサー式『三分咲き 鳳仙落花』が起動してシャルロットの頭上から無数の刃が降り注ぐと翼で身を包んだシャルロットが地に落ちた。

 

「物理法則を何だと思っているんだ!?」

「1」

「このッ!」

 

地面に落とされたシャルロットに私がゆっくり近付くと両肩の砲塔にエネルギーが充填され、私目掛けて火を噴くとその砲弾は確かに私の身体が『あった』場所を擦り抜け、その光景を目撃したシャルロットは目を丸くして疑っていた。

 

その様子に賢いシャルロットは私のアームドギアが刃だけではなく、このシンフォギアそのものがアームドギアの性質を持っているとすぐに理解した様だ。

 

「貴様ッ……!?」

「貴女達程度じゃ私の歌を引き出せないようね」

 

きっとシャルロットはこう考えているのだろう。本来の位相からズレる事で現実の世界からの攻撃から身を隠し、攻撃する時のみ現界する『ノイズ』の様だと。

 

これがノイズの位相差障壁を無力化するシンフォギアの調律機能を利用し、私への攻撃と防御を不能にし、影に生きてきた私に与えられたアームドギア『位相差障壁』。同じシンフォギアでない限り攻撃が通らないこの鎧を前には、どんなに高性能な武器を持っていようと全くの無意味となる。

 

別の位相に身を置いて安全圏から距離を詰めて刀を振るい、シャルロットの首元を刃が貫いている途中でその刃を止めると、少しでも動けば私が元の位相に戻って自分の首を貫かれると悟ったシャルロットは動きを止めた。

 

「命は取らない、けど行動不能になってもらう」

「歌も歌わないで何が装者よッ!」

「了承と捉えるわ」

「ッグ!?」

 

攻撃も防御も出来ないとあっては戦闘中でも軽口を叩くと調書にあったシャルロットは相変わらずだったから、現実世界に現界して峰打ちを首元に叩き込むとシャルロットは苦痛の表情を浮かべながらその場に倒れ伏した。

 

これで此処は終わり、早く先に進まないと。

 

「翼さん、聞こえますか?」

『ああ、其方はどうだ!?』

「終わりました。ジェームズが負傷しているので直ちに救護班をお願いします」

『流石だな、律。其方にすぐに救護は』

 

 

 

 

「律!」

 

風鳴司令からシャルロット・ディルバルス達を倒した律との通信が突然切れたと報告を受け、援護に駆けつけてくれた海未達と入れ替わりで私が律が戦っていたトレーニングルームに入るとその惨状に思わずを口を塞いだ。

 

シャルロット・ディルバルスとジェームズ・ボーキマンの身体はズタズタに斬り裂かれて部屋全体が血塗れになり、ホラーが苦手とはいえ実際に臓物が撒き散らされていては真っ先に感じるのは恐怖どころか狂気だ。

 

律が好き好んでこんな事をするとは思えない、きっと反抗されたから仕方なくしたのだと自分に言い聞かせながら痕跡を探していると、血の足跡が大穴の奥へと向かっているの見つけた。

状況から考えて律に間違いないから意を決して私も大穴に飛び込むと、地上から真っ直ぐに空けられた大穴は最深部にある聖遺物の保管庫まで到達していた。

 

「司令、聞こえますか?」

 

普段人が出入りする場所ではないから明かりのスイッチが外にある保管庫は薄暗く、周囲に目を凝らしながら司令にも連絡を取ろうとしてみたけど妨害されているのか繋がる事はなかった。

 

一応警戒しながら足跡を追って先に進んでいくと、どうやら保管されている聖遺物には興味が無いのか物色している形跡もなく、律の足跡も迷いなく奥へと進んで行っていた。

そしてその足跡は部屋の奥にある誰も入る事が許されていない扉の先に向かっていて、相手の目的は始めからその部屋にある聖遺物だったのだろう。

 

封印された開かずの部屋。其処には響さん達の最終決戦で生み出された常世の法則から脱した神殿やシンフォギアのカケラが多く納められていると聞いている。

其れ等を悪用されれば再びパンドラの匣が開くかもしれない、そう懸念した司令達が国連にも秘密で隠し通してきた物を何故外部の人間が知ることが出来たのか。

 

やはり裏切り者がいる、そう確信しながら扉を開けると其処は白く巨大な空間が広がっていて、柱も無いのにこれ程までに巨大な空間を維持出来ているのはこの空間自体も錬金術やその類のもので捻じ曲げられているのかもしれない。

 

そして、その部屋の中央にはボロボロのタイタンを纏った銀髪の男とエクスカリバーのシンフォギアを纏った律が立っていた。

 

「律!」

「ティナ、終わったよ。テスラ財団はこれで壊滅、人々が苦しめられる時代は終わる」

「何故だ……何故貴女が…!?」

 

私も律の側に駆け寄ると銀髪の男は手酷くやられているのか私を無視して律を憎らしげに睨んでいて、律もその黄金の剣を下ろしてはいるものの勝利の哲学に護られた律には一矢報いる事すら不可能だろう。

 

改めて男の顔を確認し、一体何処の科学者なのかと記憶の中で探っていくと少し違和感を感じた。

 

「貴方は………何者?私の記憶には貴女の様な科学者は居ない。なのに何故タイタンを作れたの?」

「私は教え導かれた者だ……全ては神の啓示に従ってきた………真なる平和をもたらす為に多くの血も流した……だがその悲願は確かに達成出来るというのに何故貴女が…!?」

「…て律、知り合い?」

「知らないよ、苦し紛れの命乞いじゃないかな?」

 

私が話しかけても銀髪の男は真面目に答えるつもりがないのか、それとも真面目に答えてその支離滅裂な回答なのか分からないけど命乞いに耳を貸す気質じゃない律には何を言っても無駄だろう。

 

もしも無名の科学者が操られているだけだとしたら、第二波があるかもしれない。ここまでの損害を出してまでこの部屋を狙った理由を問い質し、目的を聞き出さないと。

 

「貴方は私達の監視下に置く。その命乞いも何かしら役に立つかもしれないから、言い足りないなら司令達の前で言うことね」

「『何故私をお救いになられないのですか』!?」

「話は司令しっ

 

これ以上は時間の無駄だから銀髪の男を拘束しようとした足を踏み出した瞬間、後ろから強い衝撃が伝わり背中から胸に掛けて何かが貫くような違和感を感じた。

 

自分の胸元を見下ろすと其処には血に濡れた黄金の剣が背後から突き刺されていて、心臓が高鳴ろうとする度に激痛と激しい目眩が襲い掛かってくる。

 

思考が働かない、シンフォギアも維持出来ずに解除されると再び背中から強く押されて黄金の剣が抜けると貫かれた心臓から血が噴き出しながら私は倒れ伏し、自分の意識が暗く静かな場所へ沈んでいくのを感じた。

 

力が入らない、霞む視界の端には黄金の剣を持った誰かが私の側に近寄って来ると再び剣先が上がり、

 

「り……つ…」

 

黄金の剣は再び私の胸を貫き、其処で私の意識は途絶えた。

 

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