少し未来のシンフォギア   作:竹流ハチ

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「神様がくれた贈り物」

 

 

「…ねぇ!今度ティナも連れて皆でお買い物行こ〜?」

「………」

「ティナはぜ〜んぜん自分の服持ってないからさ、皆で選んであげよ〜!シズシズも行くでしょ〜?」

「今その話をする気にはなりません」

「っ、なら空は行くよね〜?」

「海未、静かにして」

「ごめん……」

 

敵の幹部、そしてテスラ財団の創始者であった名も無き銀髪の男は律の手によって葬り去られた。世代を超えたテスラ財団との戦いも完全に終止符を打たれたが、装者候補生の面々の表情は決して明るくはなかった。

 

S.O.N.Gの最下層にある開かずの間から出てきた律に抱き抱えられてきたアリアは胸を幾度と無く鋭利な刃物で突き刺されていた。翼達はすぐにアリアを緊急治療室へ運び、装者候補生達もアリアの手術が終わるのを手術室の外で待っていた。

その間、海未が何とか場の空気を保たせようと話を振ったけれど、他の面々は海未程気を強く保つ事が出来ず、海未も自分だけが話しているのに耐え切れず口を噤んだ。

 

装者候補生達は皆アリアを慕っていた。誰よりも規律に厳しく付き合いも悪いがそれはアリアが人付き合いに慣れていないだけで、誰よりも優しくまっすぐな気持ちを持っているアリアの事を嫌いになる者は居なかった。

 

「皆ごめん……私がもっとしっかりしてれば…」

「りっちゃんは悪くないよ〜!?私達なんて戦えもしなかったし……」

「律の選択も、ティナの選択も間違いじゃなかった。あの場で出来る精一杯の事はした、それ以上は賭けだった。テスラ財団を潰せただけまだ白星よ」

「潰せたらアリアさんが死んでもいいって言うんですか!」

 

自分の非力さを恨んでいる律を慰めようと海未も声を掛けていたけれど、空の布を掛けないその言葉に静香が反応して掴みかかろうとし、海未がそれに割って入ったものの静香が止まる事はなかった。

 

「ちょっとシズシズ落ち着いて〜!?空も言い方考えてよ〜!」

「言い方を変えても一緒よ、最初から分が悪過ぎる賭けだった。相手にはこっちの情報が筒抜けなのに私達は相手の名前すら知らないのよ?また逃げられる可能性だってあった、それを律が止めてくれただけでもラッキーよ」

「それでも私達が一緒に居れば…!」

「居ても足手まといになっただけよ!ティナが負けたなら私達で勝てる相手じゃなかった!律が居なかったら、律じゃなかったら、その場に居たのが私達だったらもっと犠牲は多かった!そのくらい分かるでしょッ!」

 

重要機密である筈の保管庫の存在さえも知っていたテスラ財団を相手に善戦した律とアリア。その二人と他の装者候補生の間にある実力の差を理解している空の荒げた言葉に静香の動きが止まり、次第に力が弱まると海未も抑える手を離したけれどその心中は同じだった。

 

静香には必中の哲学兵装『魔弾の射手』が、空と海未にはザババの加護を受けた強力なユニゾンがある。

だが律とアリアとガリィの純粋な戦闘能力はそれらを含めても三人を上回っていて、それが並大抵の事では超えられない壁だというのは三人共理解していた。

 

何とか場を収めた海未も椅子に腰掛け、天井を仰ぐと大きく息を吐いた。

 

「ハァ…………なんだろ、初めてすっごく悔しいって感じるな〜」

「そうね……私達は誰にも負けないって思ってたけど、仲間も守れないんじゃそう感じるわね」

 

高い適合率で初めから装者候補生だったから、恵まれない環境だったけれど恵まれた才能を持ち合わせていたから。

これまでも逆境に打ち勝ってきた自分達は強いと感じていた三人も、初めて何かを犠牲に勝利した事で『装者になる』という意味を理解した。

 

自分達が強ければそれに対抗しようとする相手もより強い者達が現れる。聖遺物に護られたシンフォギアといえど、無敵ではないのだと思い知らされた三人は自分の無力さに手を握り締めていた。

 

何時間待っていたのか、四人はアリアの回復を祈りながら部屋の外で待っていると手術中のランプが消え、部屋の扉が開くと数時間に及ぶ大手術を終えた医者に四人はすぐさま詰め寄った。

 

「先生、アリアさんの容体は!?」

「ティナ生きてる〜!?」

「お、落ち着いて。アリアさんは取り敢えずは生きてる、またいつ発作が起きるかは分からないけど傷の縫合は出来たよ」

 

四人に詰め寄られた医者も言葉を詰まらせながらも一先ずの治療を無事終えた事を告げると、四人はその場に崩れ落ちながらも溜め込んでいた胸の息を吐き出しながら安堵した。

その様子に医者も四人がずっと側にいたのを察し、自分も屈んで四人に視線を合わせた。

 

「正直、私にも何故生きているのかは分からない。心臓だけは傷付かずにいてくれたのが奇跡だった。君達が何と戦っているかまで聞き及んでいないけど、神様は君達の事を見ていてくれたみたいだね」

「良かった……良かったよそらぁぁぁ!」

「そうね……本当に良かった…!」

「後は医療カプセルでの集中治療になるから、君達も今日は帰りなさい。司令達には私から連絡しておいてあげるから」

「そうですね……ほら、邪魔にならないように帰るよ」

 

海未が泣きじゃくり空も安心して涙を浮かべているのを律が立ち上がらせながら二人を連れて行き、医者も立ち去ろうとしたけれど其処にまだ一人残っている事に気付くと足を止めた。

 

アリアが生きている事に心底安堵しながらも、それでは説明が付かない事があると気づいた静香は残っていた。

 

「お聞きしたい事が」

「何かな?」

「アリアさん、心臓には傷が無かったのですか?」

「ああ、胸を刃物で貫かれていたみたいだけど何故だか傷は無かったんだ。どういった風に戦っているのか私には分からないから一概に言えないけど、彼女は運が良かったとしか」

「………分かりました。この事は司令達以外には内密でお願いします。緊急時の特別権限を持つ装者候補生として貴方に命令します」

「え、ああ、了解したよ」

 

自分が伝え聞かされていた内容では『心臓を複数回突き刺され、絶望的な状態』だったアリアが心臓が無傷で生きているという事に静香は疑問を抱いていた。

 

その頃、アリアの無事を知らされた翼達も胸を撫で下ろしていたが、直ぐにS.O.N.G内部に潜んでいる内通者に関しての話に戻した。

 

「翼さん、あれが本当に創始者だと思う?」

「恐らくだが間違いないだろう。現に奴が着ていたタイタンの性能は格段に上がっていた、テスラ財団の技術力が如何に高くとも世間にタイタンを造れる程の技術力を持つ科学者はそうはいない。今回の銀髪の男も顔認証で検索しても出てこない程だ、余程情報漏洩には気を配っていたみたいだな」

「じゃあテスラ財団はようやく壊滅デスか?」

「恐らくは、そしてそれよりも厄介な事が起きた」

「最深部の開かずの間、アレ知ってんのアタシ等とガキ共くらいだろ?」

『正確には当時の職員、装者、今の装者候補生よ。現在S.O.N.Gに残っている職員でそれを知り得たのは極僅か、つまり』

「装者の内、誰かがまだアレの続きをやる気って事か」

 

今回の件で裏切り者の絞り込みがより正確になったが、それ故に誰が裏切り者でも翼達にとって大きな痛手となるのは必至だった。

長年共に戦ってきた仲間、そしてその後を継ぐ者達の中の誰かが敵と内通して触れてはならない領域に触れようとしたのは翼にとってもかなりの衝撃だった。

 

あの領域を軽んじていないのであれば、それはつまり再びパンドラの匣を開けようとしている事に他ならない。

響と未来が人生を賭して閉じたその匣を開く事だけは避けなければならない。翼はあの日固く決心していた、それがどのような結末を生むとしても。

 

「正直に言う、私はお前達を一欠片も疑っていない。立花、お前もだ」

『でも、あの子達も違うと思うんです』

「ああ、私もそう思う」

「それじゃあ誰なんだよ?」

「……フィーネ?」

「んな馬鹿な!?フィーネはもう眠っただろ!今更起きてどんちゃん騒ぎする訳がない!」

 

クリスのその意見は最もだった、最終決戦にてパンドラの匣を閉じると共にリインカーネーションを終えたフィーネが再び現れるのは理に適っていない。だがフィーネと同じ類のモノなら或いは、翼がそう考えているとそこまでの会話を聞いていた切歌は画面越しの響と向かい合った。

 

「響先輩、言っちゃっていいデスか?」

『うん、切歌ちゃんなら言うと思ってたよ』

「何を?」

「翼さん、ごめんなさいデス!」

 

響からの許可を貰った切歌は翼に向かって頭を下げると、突然の事に翼も目を丸くしていた。

 

「な、何だ?」

「アタシ、全員の個人データを調べ上げちゃったデス!」

「なっ!?マジかよ!?何処まで!?」

「クリス先輩の秘密のお話相手まで!」

「ふざけんな!?お前の指図か!」

『ごめんねクリスちゃん、でも必要だったの』

「立花は相手が並々ならぬ相手だと早々に気付いていたのか」

『確証は無かったです。ただ、そうであった時に後手に回るのだけは避けたくて」』

 

クリスの赤裸々な個人情報まで切歌が調べ上げている事に翼もそれがどれだけ危険な手か理解し、それでも響と切歌が全員の為に内密に行動していたのだと納得すると、S.O.N.Gの司令としてではなく仲間としてそれに感謝していた。

 

「雪音の赤裸々な情報は置いておき、何か掴めたか?」

『二つ程。一つはティナちゃんの絶対的な潔白。通信データを監視され、緒川さんの尾行もある中でタイタンを造る事を指示できるとは思えません』

「納得、二つ目は?」

『ティナちゃんは今回とはまた別で監視対象にすべきだという事です』

 

これまでの盗聴や監視からアリアがテスラ財団と繋がっている可能性はゼロに等しいという結論に翼も肩を下ろしていたが、響が再び監視すべきだと伝えると怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「何故だ?」

『ティナちゃんの容体は絶望的だったと。ですが奇跡的に心臓だけは無傷で助かった』

「ああ、原因は分からないがそうだ」

『私は奇跡だけを信じる訳にはいきません。ティナちゃんは何かしらの力で守られた、その可能性がある限りは監視すべきだと思います』

「…言いたい事は分かるけど、らしくねーな」

『これでも甘く見てる方だよ』

 

かつては奇跡を纏っていた響が奇跡だけでは済ませられないと言う姿は全員にとって少しだけ寂しくもあり、それが大人になるという事なんだと理解していた。

 

魔女が奇跡を掛けたのなら響達にはその魔女と魔法を徹底的に調べ上げ、人間に悪影響が無いか調べないといけない。それが子供達に装者という重責を担って貰っている大人の役目なのだから。

 

「そうだな………アリアには悪いがもう少し続けるとしよう。だが今後は本人にも伝えた上で協力してもらう、これ以上アリアに不快な想いをさせる訳にもいくまい」

「そうデスよ、ティナは賢いから自分で原因を見つけちゃうかもデス!」

『分かりました、私も立場上何処まで手伝えるかは分からないけど出来る限りはします』

「んじゃ、話はこんくらいにするか?」

『あ、待って。もう一つ大切な話があるの、多分そっちが本題になるかな』

 

全員がアリアの回復を待つと共に回復すれば助かった原因を調べるという方向に話を纏め、クリスが会議を終わらせようとしたがそれを響が遮った。

 

そして再び険しい表情を見せると、本部長としての話そうとしているのが分かった四人は口を閉じた。

 

『アリアのメディカルチェックを此方で確認していた時、百合根の状態も目に通したのだけど彼女はいつからあの状態なの?』

「あの状態?たまにボーッとする事?」

『ええ、私が知る限りではあの子はストレスに負けるタイプの子じゃない。自己管理も出来ていて無理だと分かればそれを伝えられる子だと判断し、だから暴走が許されないエクスカリバーの装者にも選んだ。なのに今は自覚症状まで出ている』

「それは私が百合根の過去から日常に慣れてきたのだと判断して、少し時間を置けば次第に回復するものだと」

『あまりこういう事は言いたくないのだけど風鳴司令、貴女は甘過ぎる。貴女は決断を下す時、その子の感情を推し量ってから決断している。それがどれだけ危険な事か分かっていないとは言わない、だけど危険な事を日和見で居られては困る』

「申し訳ない……」

『私達はフィーネに乗り移られた櫻井女史を知っている。彼女は自分の意識の裏からフィーネに操られ、次第に自我が消えていった。フィーネは確かに眠ったかもしれないけど、それがフィーネにしか出来ない所業とは限らないのよ』

 

律の状態に懸念を抱き、かつてのフィーネと状況が似ている事からそれに目を向けた響は翼に厳しい言葉を掛けたが、百合根という風鳴によって狂わされた家系である事が翼の判断を鈍らせていたのは確かだった。

 

かつてフィーネは特機二課でシンフォギア開発の第一人者絶大な信頼を得て、クリスという上部だけの仲間で特機二課を振り回し、その間にも着々とカ・ディン・ギルの建造を進めていた。

それが今回当てはめられるとすれば、最初の装者候補生、最後まで誰かの操り人形であったテスラ財団、そして彼女が手にしている勝利の哲学を有した完全聖遺物。

 

その考えに至ると現状がどれほど危ういのか理解出来ない者はいなかった。

 

『あの子ではない、あの子の中に居るかもしれない存在に先手を打たれる訳にはいかない。未来をそっちに向かわせてるから律と会わせなさい。未来なら相手の穢れを感知できる、律の中に二人いればきっと分かる筈よ』

「りょ、了解デス!」

『風鳴司令は律の側に付いていなさい。きっと彼女も自分がコントロール出来ていない不安で一杯の筈。そこに突け込まれれば第二の人物に完全に乗っ取られてしまうかもしれない』

「分かった、此方も動きがあり次第逐一報告する」

『この戦いは私達の代で必ず終わらせる、あの子達は必ず守り通すわ』

 

災害対策本部長として、そして立花響として跡を継ぐ後輩達を守り通すという意思は全員が共有し、お互いに行動を開始した。

 

 

 

 

『ママ』

『あら可愛いティナ、もう言葉を覚えたのね』

 

子供の頃、私は何かを覚えるのが得意だった。

 

一度見たなら大抵の事なら覚えていられたから、私の父親は私が生まれてからすぐに離婚し、ママ一人で育ててくれているのを理解していた。

 

 

『ママ、出来たよ』

『あら、ティナ……もうここまで出来るのね』

 

子供の頃、私は勉強が得意だった。

 

書いている文言を理解出来ないということはなく、得た知識の中からならどんな問題でも答えを導き出せた。

 

 

『ママ、私行きたくない』

『お母さん、この子は間違いなく逸材です。是非うちのクラブに、悪い金額ではありませんよ』

『………この子に任せます』

 

子供の頃、私はスポーツが得意だった。

 

小学生ではあったけど陸上と水泳で上級生との体格差を物ともせずに一位を取り、沢山のスポーツクラブから勧誘が来ていた。でも私はママと一緒に暮らしたかったからその道を全て断った。

 

 

『ごめんなさい……』

『いえ、ですが……』

『ティナ、賢い貴方なら此処が何処か分かるわね?私を恨んでくれて構わない、情けない母親でごめんなさい』

『……さようなら』

 

子供の頃、私は孤児院に入れられた。

 

あの人は何から何まで一人でこなす私が自分の手に負えず、更には黒髪の父と赤毛のあの人から生まれた私が金髪だった事で大きく揉めた事で疲弊していたのだろう。その気持ちは理解できていた、だから私が孤児院に預けられたのはそこまで驚きはなかった。

 

ただ、私が愛されていなかった事には驚いた。

 

 

『「今回は全員助けられたので良かったです。タバコのポイ捨てでこれ程大きな山火事になるとは思ってなかったと思いますが、皆さんも十分気を付けて下さい」』

『「ありがとうございます。国連所属装者、立花響さんでした」』

『ティナ、また見ているの?』

『…………』

『装者、あの事件の子達も大きくなったわね』

 

子供の頃、私は立花響に憧れていた。

 

最終決戦で全世界にシンフォギア装者の存在が知られてから立花響はその象徴とも言うべき存在になり、人命救助で世界中に赴き世界中から「英雄」という称賛の声を浴びていた。

 

正義を纏い、人々を助ける立花響が私には眩しく思えた。

 

 

『ティナ、本当に行くんだね?』

『手紙を出します。お元気で』

『いつでも帰っておいで、此処はティナのお家だよ』

『……私は振り返らない、必ずチャンスを掴み取ってみせます』

 

確実に装者の座を狙える年齢になってから、私はS.O.N.Gと連絡を取った。

 

S.O.N.Gとリディアンの関係性を暴き、S.O.N.Gから装者候補生のテストを受けてみないかとの打診を受けた私は二つ返事でそれを了承した。

世界中から何十人と候補を集められて、その中からたった数人しか選ばれない狭き門ではあったけど私は誰にも負けない自信があった。

 

過去を全て捨てた私に誰も追い付ける筈がない、正義を纏うのは私だと心に誓っていた。

 

 

『アリアさん、観戦いいかな?』

『………』

『失礼しまーす』

 

ガングニールの装者候補生になってから、私は焦っていた。

 

エルフナイン女史が管理していたLiNKERを盗み出し、過去のデータから危険ではあるが効果が認められていた3本同時摂取をする事で適合率を無理矢理上げ、無事に適性検査をパスした。

 

けどその所為で国連所属になる事まで決まってしまい、国連ではLiNKERを補充できないからガングニールの聖詠を自力で引き出す訓練を死にものぐるいでやっていた。そこへ顔を出してきたのは風鳴司令の懐刀、歴代最高の適合率を誇る『百合根 律』だった。

 

ノイズの位相差障壁をアームドギアとして扱うという対人において無敵を誇るその適合率が、隠しもしない経歴から分かる踏んできた場数から得た経験値が、同じ装者候補生でも手も足も出ないその強さが私は羨ましかった。

 

『もう遅いよ、明日にしたら?』

『……』

『アリアさん、明日からスイスだって言ってくれれば良かったのに』

『……別に興味なんてないでしょ』

『あるよ、LiNKERを盗んだ事は報告しないといけないし』

 

ノイズと生身で戦うシミュレーションをしながら話半分には聞いていたけど、観戦と言いながらも強化プラスチック製の刀を持っていた百合根律の言葉で攻撃の手が止まり、身体にノイズの槍が突き刺さってシミュレーションが中止されたけど私は百合根律の方を向き直った。

 

『……』

『アリアさんがやったのは重大な規則違反。本当なら牢屋行きだよ』

『……』

『海未とか空は素性がアレだから分かるけどアリアさんも………ううん、多分二人よりも私に似てる』

 

何を言いたいのかは大体分かったから手に持っていた拳銃を百合根律に向けて引金を引き、百合根律も私がそうする事を予測していたのかすぐに詰め寄って容赦無く私の首を狙って刀を振るってきた。

 

適性テストでも一度だけ手合わせをした事があったけれど、その殺し合いは止める人間もそれを指示する人間も居らず、私達だけの戦いは互いに一歩も譲らなかった。

 

『アリアさん、焦り過ぎだよ。今のアリアさんは昔の私と一緒、使命感と自分の感情が入り混じってて自分でも制御し切れてない』

『……』

『もっと自分の歌を、ガングニールの歌を聞いて。アリアさんが歌わなきゃ誰がアリアさんの歌を歌うの?』

 

何でも出来る超人の話なんて聞く気は無かった。私の道を邪魔をするのなら何としてでも排除する、その気持ちで一杯だった私に百合根律は刀を交えながら語り掛けてきて、その余裕が尚更私の嫉妬心に火を付けた。

 

全てを失ってでも手に入れた私の全力を簡単にいなして、私が欲しい物を何もかも持っている百合根律に私の気持ちを分かった風にいられるのが気に食わず、百合根律を蹴り飛ばしてからペンダントを握り締めた。

 

『っ……どうして聖詠が浮かばないの…!』

『それは自分を信じてないからだよ!』

『うるさい!』

『下ばっかり向いてないで前を向いて!アリアさんはアリアさんなんだよ!』

『うるさいうるさいうるさいッ!貴女に私の何が分かるッ!』

『思い出して!何でシンフォギアを纏いたいのか、何で装者になりたいのか!』

 

百合根律に焚き付けられて私の感情が爆発し、思いの丈を弾丸に込めてぶつけようとしたけど百合根律はそれを全て叩き斬り、もう一度思い出すようにと語り掛けてきた。

 

子供の頃どうして立花響に憧れたのか、どうして装者になりたいのか。

 

百合根律の言葉が私の心の中で響き、そして何故私が装者になりたいのかを見つめ直すと胸の奥から微かながらに光を感じた。それは私が手を伸ばし続けてきた希望の光、私が生きていく為に掴み取らなきゃいけない光。

 

私は、

 

『《belcanty wagner Gungnir tron(光を追い、闇を纏う亡霊)》』

 

英雄になりたかった。

 

 

 

 

懐かしい夢から目覚めると私はガングニールを纏って立っていた。

 

何かを蹴り飛ばしたような足の感覚、周囲の電気配線が千切れショートし音がそこら中から聞こえ、立っているすぐ側には集中治療室のカプセルが叩き斬られていたりと、新しい情報ばかりが頭の中に入ってきて処理が追い付かない。

 

そして本部中に最大警戒レベルの警報が鳴り響く中、エクスカリバーのシンフォギアを纏った律が私の前に立っていて、律も自分の手に握られている聖剣と周りの状況に理解が追いついていないのか目を丸くしていた。

 

「私何を……」

「律、落ち着いて」

「まさか、私がティナを……!?」

「律!」

「っ、ティナ………良かった、無事で」

 

律が取り乱しそうになっていたから喝を入れて取り敢えずは抑えられたけど、お互いに状況が理解し合えていない現状で出来ることは少ない。だが、私の傷が完全に癒えている事と私を貫いたのがあの聖剣である事は間違いない。

 

可能性はとても低い、けど私は可能性よりも律を信じている。律は誰かを傷付けるような人じゃない、凄く優しい心を持った私の親友だ。

 

「律、落ち着いて聞いて」

「うん…」

「今からLiNKERと絶唱を使って神殺しを引き出してから律を蹴る。多分、気を失う位痛いと思う」

「………ティナ、信じていいんだよね?」

 

LiNKERで適合率を底上げし、更に絶唱まで加えれば私のガングニールでも響さんのように神殺しを宿す『かも』しれない。当然それは響さんだから出来た事なのかもしれない、でも今必要なのは人間以外を問答無用で殺す力を宿しているという可能性があればいい。

 

私の意図がちゃんと律にも伝わったみたいで、エクスカリバーを持った手を下げると完全に無防備な状態を晒してくれた。

 

私もLiNKERを三本摂取する事で限界まで適合率を上げると灰色の装甲が緑白色の電撃を纏う緑色へと変わり、更に絶唱まで歌い上げるとフォニックゲインが急激に昂まり、シンフォギアが悲鳴を上げる程のフォニックゲインが脚のブースターに込められているのを感じる。

 

「私を信じて天羽々斬を渡して。必ず助けてみせるから」

「……」

「その……へいきへっちゃら、だから」

「……ぷっ、響さんの真似?モノマネ苦手なんだね」

「う、うるさい!舌噛んでも知らないわよ!」

「はいはい、待ってるからね」

 

律が深刻そうな表情するから私なりに励ましてみたのに笑われてしまい、顔が燃え上がりそうだから早く済まそうと急かすと、律も少し表情を和らげてから天羽々斬のペンダントを投げ渡してから目を瞑った。

 

お互い殺し合ったことがあるから人が死なない加減くらい把握している。でも律じゃない何者かが居るとすれば『殺されるかもしれない』可能性を前にして表に出てこない訳がない。

 

ペンダントを胸元に仕舞いながら律の側まで歩み寄り、軽くリズムを刻みながら全身の力を抜きつつステップを踏み、身体のリズムと今にも弾けんばかりのフォニックゲインの波長の波が合うのを待った。

 

「必ず、助けるから」

 

そしてリズムとフォニックゲインの波長が完全に重なった瞬間、右足のブースターの放出口を反転させて稲妻のような轟音と共にフォニックゲインを放出してその場で縦回転しながら力の全てを込めた踵落としを律の肩に叩き付けた。

 

律の身体は一瞬で床を突き抜けていき、神殺しが発現したかは確認する事が出来なかったけど私も律が突き抜けていった床を飛び降りた。

少しの浮遊感を感じながら落下していると最下層で床が崩れるのは止まっていて、終着地点で着地すると其処は白くて異常な広さを持つ封印された開かずの間。

 

私達が暴れるには都合のいい空間だ。

 

「貴方、何者なの?」

 

着地の衝撃を緩和した分の排熱を行い、絶唱によるバックファイアで全身の軋みを感じながら立ち上がり、私に背を向けて瓦礫に向かって歩いている『金髪の女』の背に声を掛けた。

 

積まれた神殿の瓦礫の山をその指先で撫でながら歩き回っているその女の足が止まり、振り返るとそれは律の顔立ちではあるが目が鋭くなり律とは明らかに別人だった。

私の方へ向き直った女は何も言わずに手に持ったエクスカリバーを剣先を下げて構えると、目にも留まらぬ速さで私との距離を詰めてから容赦無く斬り上げてきて、それを避けると今度は連続で聖剣を振るってきた。

 

背後だったり、眠っている時だったり、何かと不意打ちばかりしてくるから戦うのが苦手なのかと思ったけど割と強いわね。でも律の剣捌きを前にしたらこんなモノ屁でもない。

 

「どうして私を狙うのか、聞く理由もなくなったわね」

「………」

 

装者を殺すのが目的なら他の四人を殺すチャンスは幾らでもあった。けどそうはせず私だけは確実に狙おうとした事を考え、私ではなくガングニールを狙ったのだと考えれば自ずと答えは見えた。

 

「貴方、『神殺し』を殺すのが目的ね」

「っ!」

『アリアさん、伏せて!』

 

私を殺すだけじゃない、響さんを含めた全ての神殺しを殺す事が目的である事を看破すると黙々と斬っていた女の手が一瞬鈍った。そして、わざわざ天井の穴から見下ろせる位置から動かずに避けていた甲斐もあり、静香の声と共に空から小型ミサイルが降り注いできた。

 

女は後方に大きく飛びながら剣撃の風圧でミサイルを落としていったが、頼れる私の仲間達が揃うと今度は容易には詰めて来ず様子見に徹していた。

 

「いきなり絶唱が聞こえるからビックリしたよ〜」

「ティナは無事みたいだけど〜」

「あれは、律さんですか?」

「違うと断言出来るわ。アレは人じゃない」

 

既にシンフォギアを纏っている静香達は思い思いに喋っているけど、視線の先にいる律に似たナニカに対して警戒していて、静香がアレが律なのか確認してきたけどさっきの剣捌きで確信を持てた。

 

アレは律の身体を奪った別の何か、それも人間よりも数段高位の存在に違いない。かつてカ・ディンギルによってバラルの呪詛を破壊しようとしたフィーネか、それとも他の誰かなのか。

 

「って事は、八つ裂きだね〜!うひょ〜、ゴールドラッシュは私が貰っちゃうもんね〜!」

「ちょ、りっちゃんまで八つ裂きになっちゃうよ〜」

『姦しいな、人間。喋らなければ戦えないのか?』

 

海未がチェーンソーを唸らせながら攻撃のチャンスを伺っていると律とは別の声がその口から発せられ、海未も女の動向を見極める為に黙ると女は自分の腕をジロジロと見つめて品定めをしているようだ。

 

『この身体、やはり悪くないな。依代になるだけはある』

「人の身体に乗り移って品定めなんて趣味が悪いわね、名前くらい名乗ったらどうなの?」

『貴様等に名乗る理由はない。邪魔立てするなら寵愛を受けた貴様等でも容赦しない』

「寵愛?誰からの?」

 

喋り出したから名前くらい吐くかと思えばまだ名無しの権兵衛を貫くつもりのようで、寵愛という単語に引っかかった静香が聞き返すと女は眉を顰めて怒りを露わにした。

 

咄嗟に先手を打つ為に駆け出し、女は静香を狙って動き出したけど私に向き直って剣を振るったから右足でそれを蹴り返した瞬間、黄金の剣が煌めくと剣の腹を叩いた筈の足の装甲が一撃で砕け散った。

LiNKERが切れるような時間じゃないから耐久力が落ちた訳じゃない、ならエクスカリバーの『持ち主を勝利させる』という哲学が私の装甲を問答無用で砕いたのだろう。

 

やはり一撃でも喰らえば致命傷になる。それを確認できたから今度は避けることに集中して連撃を躱し、側面から鎖に繋がれた空の鎌が女の首を狙うと容易に鎌は叩き落とされはしたが、その隙に左脚で蹴り飛ばすと女は防御が間に合わず少し後退さった。

 

やっぱり戦い慣れているという感じはしない、けど違和感を感じる。

 

「う〜ん、4対1は卑怯かな〜?」

「卑怯も何もないです、相手は民間人を狙った卑怯者です」

「それもそっか〜、投降するなら今の内だよ〜」

『……嘆かわしいな、これが神の聖なる遺物を使って得たチカラか』

 

攻撃は確実に入った、けど女はそれに顔色一つ変えずに鎧を叩く程度でダメージが入っているようには思えない。ガングニールの電撃にも怯んでいないし、何より私が最初に与えた渾身の踵落としがまるで効いている様子がない。

 

『この程度とは、やはり神の力を模倣した玩具でしかないか』

「それじゃあオモチャかどうか、私の全開で試してあげる!」

 

何かがおかしいと思考を巡らせていると破壊力が足りないと勘違いした海未が私よりも前に跳び出し、チェーンソーを巨大化させて振り下ろすと女もそれを剣を横にして防いだ。

 

チェーンソーの回転数が上がるにつれて火花を巻き散らしながら女の足元にヒビが入れ、破壊力は私の蹴りよりも段違いかもしれない。

 

「海未、離れなさいッ!」

 

だが、それを片手で受け止めている女は明らかに異常だ。

 

私が駆け出す前に再び黄金の剣が煌めくと火花を散らしていたチェーンソーの切断刃がチェーンごと斬り裂かれ、海未も咄嗟に千切れたチェーンを女に向けて射出して距離を取ろうとしたけれど、至近距離だったというのに女はそれを斬り落としていた。

 

黄金の剣の間合いまで詰められた海未がチェーンソーを盾にしようとしたけど、それすらも完全に斬り裂くと海未の左腕を剣が掠めた。

 

止めを入れられる前に静香が手榴弾を投げて海未を爆発に巻き込んで後方に吹き飛ばし、二人の間に装甲を再展開した私が割り込んで追撃を抑えたけれど、女は咳き込むだけでまるで眼中にないようだ。

 

「ッゥ……あれぇ…私の装甲硬いよね…?」

「あの剣、律の時より強くなってる」

『当然だろう、貴様等と私ではこの剣の所有者としての格が違う。振るえば勝利する?私が振るわずとも自ら振るわれる事を望むのがこの剣に与えられた神命だろう』

 

律が纏うエクスカリバーと戦った事がある二人があの女が纏うエクスカリバーの哲学がより強固なモノになっていると言うんだ。

恐らく間違いではないけどそうなるとこの女は剣の所有者であるアーサー王となるけど、あの口振る舞いで同じ人間である事は考えにくい。

 

考え難い、けど認めざるを得ない。

 

「貴方、天使ね」

 

これまでの女の口振りや私達への反応からが 今相手にしているのが神に仕える天使である結論を出すと今まで私達を小馬鹿にしていた態度が変わり、海未達は何を言ってるんだと言わんばかりに目を丸くしていた。

 

「い、いやいや、天使なんていないよ〜」

「うちの可愛い天使ちゃんなら此処に居るけどさ〜」

「茶化さないで下さい。アリアさん、本当にそう思っているんですか?」

「ええ。私も信じてなかったけど、神が存在して天使が存在しない道理はない。完全聖遺物を人以上に操れる存在が居るとすればそれは人より高位の存在だけよ」

 

響さんが多くの神を殺したように人よりも高位の存在はこの世に溢れている。それ等は超常的な力で人々を守っていたり、私欲の為に呪いを振り撒いていたりと様々らしいが天使が存在したという話はこれまで聞いた事がなかった。

 

だけど、人間に出せる最高の適合率を誇る律よりも完全聖遺物を操れるような存在が居る以上は認めないといけない。私達がこれから戦う相手はこれまで戦ってきた何よりも強い。

相手が高位の存在だと知って静香達も武器を構えたけど女は私の方だけを見ていて、何か考えているのか攻撃してくる素振りは見せていない。

 

『アリア、と言ったな』

「ええ、名無しの権兵衛さん」

『……まぁいい。ようやく貴様等の責任者達の用意が出来たようだ、回線を繋いだらどうだ?』

「アリアさん、司令達からです」

 

電波も自由に遮断出来る、この空間の中じゃ錬金術でのテレポートも期待は出来なさそうね。

 

「繋いでいいわ」

『アリアか!?何が起きたんだ!?全員無事か!?』

「テスラ財団の創始者を影で操っていた存在は律の中に隠れていました。それも天使という存在である事は間違いありません。エクスカリバーを奪われ、海未が負傷しました」

 

天使の方から風鳴司令達と連絡を取るように指示してきたから言われた通り回線を繋ぎ、風鳴司令が開口一番に全員の安否と状況を確認してきたから簡潔に伝えると風鳴司令からは返事は無かった。

 

それは想定外だから言葉が出ないのか、それとも想定内のことが混じっているから言葉を選んだのか、大方後者だというのは風鳴司令の態度から感じ取れる。

 

「知っていたのですか?律が乗っ取られている事を」

『いや、その可能性はあった事を把握していただけだ』

「そうですか………それでは天使、貴女の目的は?何故人々を巻き込んでまで神殺しを殺そうとするの?」

 

律の件に関しては私でも把握出来てなかったし、寧ろ司令達の方が動いてくれていただろうから私も悔やむのは後にして、剣を下ろしている天使と向かい合った。

 

最初は無言だったのに喋り出したんだ、何かしら考えがあって動いているに違いないのだから手を取り合う道があるならそれが一番だろう。

 

『愚問だな、神に仕える者が神を殺した者に罰を与えるのは当然だろう』

「それならタイタンで戦場をかき回し、人々を電子ノイズで苦しめずとも直接私達と接触する方法なんていくらでもあったでしょう」

『私は貴様等を見定め、その結果に応じてこの剣を振るうか決める為に神の信者に私の叡智を与えただけだ。そこから先は人間同士が太古からあいも変わらず勝手に殺し合っているに過ぎん』

「与えただけ?その無責任な行動でどれだけの人が苦しんだと……!」

「静香、やめなさい」

 

慈悲深い神様に仕えている割には天使は随分と薄情なようで異端技術の結晶とも言うべきタイタンを作れるだけの叡智を与えるだけ与え、それによって生み出された結果には我関せずとは。

 

両親を紛争で無くした静香がそんな理由でタイタンが造られたと知ると怒りを露わにし火薬箱に手を入れたけど、天使がその言葉に反応したから静香を手で制した。

 

『無責任?貴様等の自業自得の行いに何故我々が責任を持たねばならない!神から限りない寵愛を受けてきた貴様等の為に何故我々だけが尽くさねばならない!貴様等はいつもそうだ、そうやって何かを与えられる事を弱者の特権として至極当然のように振る舞う!それが与える者にとってどれほど長い期間を掛けて手にした物でも浅ましく手を伸ばしてくる!』

「誰も欲しいなんて言ってないわ」

『救いを求めただろう!慈悲深い神はその祈りに応え、聖遺物を与えることで争いが収まることを願った!その結果が何だ、その聖遺物で新たに争いを起こして剰え神を殺すとは何事だッ!何故貴様等は何も学ばない、何故そこまで愚かなのだッ!』

 

激昂している天使の話を聞いている限り、この天使は響さん達の時代からずっと戦いを見ていたようで、シンフォギア延いては多くの戦争で利用されてきた聖遺物の在り方に随分と怒りを感じているらしい。

 

人の祈りや呪いによって産み出される聖遺物もあるにはあるが、その多くは神や天使から与えられた物がその大半を占める聖遺物。それを神からの寵愛と受け止めるのなら確かに天使の言う通り、人間はその寵愛を土足で踏みにじるような事を何度も繰り返してきた。

 

これからもきっと繰り返そうとするだろう、だけどそれを止める為に私達装者が居るんだ。

 

「貴女の言う事は理解したわ。けど貴女に言われなくても私達は自分達で解決できる。己が信仰心の為に多くの人を巻き添えにした貴女には何の正義もない、ただの自己満足よ」

『聖遺物の破片を弄った程度の玩具で図に乗る愚か者に聖遺物を扱う資格など無い!私が全ての聖遺物を回収し、再びパンドラを開いてこの星をゼロに、神が真に愛されていた時代まで引き戻す!』

「やらせる訳ないでしょ。永劫を生きる貴女に今を生きる私達の運命を決めさせたりなんてしない。愛が欲しいなら掴み取ってみせればいい」

『塔を作ってまで神に縋ろうとした分際で、私に愛を語るか愚か者ッ!』

 

パンドラを再び開こうとしている時点で交渉の余地は無いと判断した私は低下してきた適合率を上げる為にLiNKERを打ち、静香達も臨戦態勢に入ると天使は黄金の剣を振り上げた。

 

そして一撃で決めるつもりなのか黄金の剣はこれまでよりも強く煌き、風を巻き起こしながらこれまで片手で振っていた剣を両手で強く握り締めた。

負傷した海未を抱えながらじゃ衝撃の射程外に出るのは難しい、此処で何とか天使の気を引き続けるしかないわね。

 

『塵と帰れ、愚か者共が』

「気に入らない人間を皆殺す、それが天使のやり方ですか」

『先に始めたのはそっちだ、私は神の為に戦う戦士としての役割を果たすまで』

「同じ考えじゃなきゃ殺すって、随分と野蛮だね〜」

『貴様等と話していても最早得られる物はないか、後悔は先にしておくべきだったな』

 

これ以上は引き延ばせないか、海未が完全には回復してないけど仕方ない。

 

「お喋りはここまでよ、やられた分はきっちりやり返すわ」

『ならばやってみろ、おろかっ!?』

 

これ以上の時間稼ぎは効果が無さそうだから此方から話を打ち切ると天使は振り上げた黄金の剣を振り下ろそうとした。

 

だけどその瞬間、天使の背後から鋭く凍らせた氷剣が胸を貫くと血が噴き出し、天使は唖然とした表情で背後に顔を向けたけれど其処には誰も映っていなかった。

だが、突然空間が球状に歪んでシャボン玉のように破裂すると、其処には最後の装者候補が完全に隙を突いた事に口の端を歪めめ笑いながら立っていた。

 

「ごめんなさいね、アタシ話長いの苦手なの」

『ッ!』

「あら怖い、怒っちゃやーよ」

 

私達とは普段から別行動をしていて突入のタイミングが違うと分かっていたからその性根の悪さを期待していたけど、一体いつから居たのかは知らないが期待通りに不意打ちをしてくれたガリィは天使の反撃も易々と躱すと私達の元まで退いてきた。

 

普通なら致命傷だというのに天使はよろめいているだけだが、少なくとも痛みは感じるようで隙を突いたガリィを恨めしそうに睨み付けていた。

 

『天使の名を騙る人形が…!』

「成る程、だからやけにアタシに対して態度が悪かったって訳。気が短いと損するわよ」

「ガリィ、貴女はシンフォギアを使わなくていいわ」

「ハァ?あんなもん喰らったら弾け飛んじゃうじゃない」

「あの鎧を突き抜けたのはガリィの攻撃だけよ。聖遺物からの攻撃に何かしらの耐性があるなら今はガリィの錬金術が頼りになる。避けるくらいできるでしょ?」

 

私達の攻撃に対しては無防備と言っていいほど防御が手薄だった、なのにガリィの氷剣は背後からとはいえその鎧を貫いていたから何かしら理由があるに違いない。

 

ならそれが理解できるまではガリィには身を粉にして貰おうと煽ると、私から吹っ掛けてくるとは思ってなかったのか目を丸くしていたけどすぐに意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「へぇー、それじゃあ精々ガリィちゃんの足を引っ張らないことね」

「暁さん達が待機せざるを得ない現状、効果的な攻撃を与えられるのはガリィだけ。全員の攻撃を織り交ぜながら突破口を開くわよ」

「オッケ〜」

「分かりました」

「少しは動けそうだから避けるだけなら任せて〜」

 

まだ装者候補という肩書きが付いている私達だけど、今此処で天使を止められるのは少なくとも私達しか居ない。なら肩書きなんて捨てて私達は人類の為に、律の為に必ず勝ってみせる。

 

『だがこれで玩具が揃った……まずはその玩具から破壊するッ!』

 

私達の世界は、私達で守ってみせる。

 

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