今後も、よろしくお願いいたします。
久しぶりに、見るあの頃。
何もかもが信じられなかった、あの頃。ただ毎日を自堕落に、作業のように過ごしていたあの頃を。
「ねー、次なんだっけー?」
「体育じゃね?」
「いや、2か月で終わると思うぜー」
「いや、一年は続けてみせるから!」
今は、授業と授業との合間の時間。この中学校では、俗に10分休みと呼ばれているこの時間。
次の授業の準備をする二人組、最近付き合い始めた、女子に関しての話をする男子達、その他にも好きな漫画やアニメ、ゲームの話をする者、寒くなってきたためか、暖房の近くに集まり談笑する女子達もいた。
(次は体育か……)
周りの発言から次の授業を知り、準備をする。俺の学校の冬の体育は柔道だった。
(納豆にネギ入れて、白米にかけて食いてえ……)
あの頃の俺は、周りの行動に流されていた。しかし、それでも馴染むことはなかった。
「さっみー!」
「早く、ヒーターの所に行こうぜ!」
冬の体育館の床は冷たい。俺は剣道で慣れているが――柔道は畳の上だからその分、冷たくはないと思う――周りの人間達はそうではないようだ。
畳は授業の度に敷かねばならない。ノルマは1人に2枚ほど。ちゃんと2枚運ぶ人間と、1枚運ぶ、もしくは運ばない人間がいるのはいつものことだ。俺は後者だった、1枚運ぶ方の。
俺はどうしても、集団で何かをする、ということが出来なかった。班行動なりなんなり。よく今まで生きてこれたものだ。
「それじゃあ、整列して!」
体育教師の呼び掛けに応じ、畳の上に正座をして並ぶ。
「あー、1人余るなあ」
「そうだなあ、誰が余るかなあ」
クラスの男子が2人、期待するような目で俺をチラチラ見ていた。いつも、仲の良い2人組。ストレートに言えばいいものを。仕方のない。
「俺、余るよ」
「おお! マジサンキュー!」
俺のクラスには1人、不登校のやつがいた。いじめなどではなく、単純に学校に来るのが面倒さいだけらしい。つまりだ、そいつが来ないと男子の人数が奇数になり、二列になると余ってしまう。しかも、半永久的に。クラスの人間達は仲の良いやつと、一緒にやりたがる。だから、俺が余ればその様にできる。
(俺も助かるっちゃあ、助かるんだけどね……)
俺は柔道があまり好きではなかった。痛いのは人間誰でも好きではないだろう。剣道のは我慢できるが、柔道は慣れなかった。打ち所が悪いと、下半身不随になったり、最悪死ぬというのもあまり、やる気にならない要因だった。ただの俺のワガママだが、この状況は少しありがたかった。無論、余れば3人で組まされるが、そこはどうとでもごまかせる。余らない状況ではしかたがないので、ちゃんとやっているし。
(早く、終わんないかなあ……)
別に俺は、このクラスでいじめられていたり、省られているわけではない 。俺が周りに馴染めていないだけだ。しかし、もうこの状況を変えるには遅すぎる。それこそ、違う運命を辿らなければ不可能だろう。
この頃を思い出す度に、俺は思う。
俺は一体、何をするためにこんな所にいるのだろう、と。
勉強するためだろうが、そこにはなんの生産性もなかった。人間性、社会性、協調性…………。そんなものは、学べなかった。
これが、俺の思い出したくなくても思い出してしまう、忌々しい記憶。俺が、今の俺である原因を作った過去。この世界でも夢に見てしまう、最悪の過去だ。
(ったく、最悪な夢見ちまった……)
なのは達とさっき話したせいで、夢に見てしまったのかもしれない。その時にいるかの様に鮮明で、それでいて第三者の視点から眺めている様な不思議な夢だった。
あの少女達は、良い人達だ。もちろん、シグナム達ヴォルケンリッターの皆も。ただ、なのは達は少し、強情で頑固だ。そこは少し困る。善意でやっているのかもしれないが、触れられたくないことはある。それに…………まだ、信じきれないんだよなぁ。
やっぱり、どうしても人間を信じることは今でもそう簡単には出来なかった。心の奥底では信じきれてはいない。こんな自分が嫌になる。それでも、どうして俺がこんな風になったのかも、よくわからない。故に、対処のしようがなかった。
「起きられましたか。御加減は如何ですか? ロード翔悟」
そんな風に俺が暗くなっていると隣から声が。何故か、妙に近い。
「なーんも、変わり…………シーニー、なんで隣に寝てんの?」
「添い寝ですが、何か?」
隣にはシーニーが寝ていた。いや、確かに添い寝とか男子が憧れているだろうけどさ、今やることじゃなくね?
「添い寝って、いや何故?」
「貴方がうなされていたもので、つい。そしたら、止まりましたが」
なにそれ、超はずかしい。しかも、うなされてたのかよ……。めんどくさいことになりそうだ。
「どうなさったのですか? 何か怖い夢でも?」
「なんでもねえよ」
「なんでもないはずがないです。正直に言ってください」
ほら、めんどくさいことになった。あまり、根掘り葉掘り聞かれて気持ちの良いものでもない。ただ、それで引き下がるシーニーではなかった。
「正直に言ってください!」
「…………」
見つめ合う俺とシーニー。寝ながら何をしているのだろう。見つめ合うといっても、そこに甘い雰囲気などは有るはずはなく、ただの一触即発の様な空気が有るだけだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「あーっ、もう! わかったよ、話せば良いんだろ、話せば!」
俺は結局、折れてしまった。俺は家族には甘い。ただでさえ、孤立していたのに家庭でさえ孤立してしまうのは怖かったし、避けたかった。シーニーは形はどうであれ、この世界での俺の唯一の家族。隠すなんて、無理だった。それに、シーニーには色々世話になってるしね。ああ、鋼の心が欲しい……。
「前から思ってたけどシーニー、俺の姉ちゃんと少し似てるな」
「貴方の姉、ですか?」
「そうそう。料理はシーニーほど出来ないけど、雰囲気とか俺が黙るとじっと見つめてきて、喋らせようとする所とかね」
俺の姉は、体が弱かった。持病も持っていたし。冗談で「添い寝する?」とか言ってたのも一緒だな。仲は……悪くはなかっただろう、多分。喧嘩は時々してたけど。
「貴方が言わないからです」
「人間誰しも、聞かれたくないことの1つや2つ、あるもんだよ。シーニーだってそうだろう」
「私は融合機なので、よくわからないです」
「お前………人間だろ? 融合機とかそんなの関係ないの。ここに存在してるし、人間なの」
こいつは……。変なところで自分のことを持ち出す。俺にとって、シーニーが融合機とか人間だとか考えたことはないが、融合機だから~、と言うのは、なんかやめて欲しい。いいじゃん、区別なんかしなくて。
「そういうものなのですか?」
「そうだ!」
そう、そういうものだ。ぜっっっっったいに! 忘れないで欲しい。
「話が逸れましたね。それではお聞かせ願えますか?」
「俺が見てた夢は、昔のことだよ。中学生の頃の夢をね……」
体を起こして、話し始める。
本当に、思い出したくもない。俺のトラウマ。あの頃があったから、俺は人と接するのに拒絶感を感じるようになった。その前にからも兆候は有ったが、本格的になったのは中学生の頃からだろう。人生って、一ヶ所で転ぶと後々着いてくるな。
「出来れば夢の内容を伺いたいところですが……今はやめときます。とても、辛そうなお顔をしてますから」
「あ……そうしてもらえると助かるかな」
シーニーのこういう所は好きだ。俺の本当に嫌なことは強要しない。本当に姉そっくり。
「ですが、何故話してくれたのですか? 嫌なら、だんまりを決め込むことも出来たでしょうに」
これは、言いづらいというか恥ずかしい。でも、言わないとまた聞かれるんだろうなぁ。
「家族だから……」
「あの、もう一度。よく、聞こえません」
冗談でもなく、本当に聞こえないのだろう。小さく言い過ぎた。だから、今度は大きな声で。
「家族だからだよ。家族にはあんま隠し事はしたくねえんだよ」
「家族ですか……」
「そう。シーニーは俺にとって、母さんで、姉で、妹は無理があるけど……家族なんだよ。だから、大事にはしたいんだ。シーニーはどうなんだ?」
そうすると、シーニーは俺の目を見て、真っ直ぐに
「私にとって貴方は、仕えるべき主であり、お守べきかけがえのない存在です」
そして、とシーニーは突然、真面目な顔から笑顔になって、
「可愛い弟みたいな、大切な家族です
! でも、フェイトさん達とも仲良くしてください。フェイトさん達とも貴方ならすぐに仲良くなれます。そうすれば、昔のことなんて大丈夫です!」
家族と言ってくれたのは嬉しかった。でも、仲良くとか少しハードル高いぞ。
「簡単に言うけどさ……」
「大丈夫です、貴方なら。私にも、こんなに優しくしてくれているのですから」
シーニーの顔には不安なんて見られなかった。有るのは自信だけ。そこまで、俺を信じてくれているのか。
「うん……まあ、頑張ってみる」
「はい!」
変われるわけがないと思っていた、今の自分。この世界でなら、変われるかもしれない。今こそ、変わるべきなのかもしれない。
負け続きな今の俺。でも、勝てるかもしれない。そう、自分自身に…………。
StrikerSの構想はかなり有るのですが、肝心の今の話の執筆があまり進まないです。
試験があるので、次の投稿は12月に入ってからになると思います。今度は期間を空けないで投稿できるようにします。
感想、アドバイスなどよろしくお願いいたします。