ラウラが目を覚ますと、ベッドの上に居た。浮いているような感覚も無く、ここは先程の廃墟ではなくIS学園なのだと理解するのに、時間は掛からなかった。
「起きたか」
「教か……織斑先生……」
「もう放課後も過ぎている。いつもの呼び方で構わないよ」
千冬の微笑む姿に、一瞬強張ったラウラの体は再び脱力し、ベッドに沈んだ。
「試合中に何が起きたか、理解しているか?」
「おぼろ気ですが、機体のエネルギーが無くなった瞬間に何かが起きたと言うことは……」
「そうか。……お前にはしっかりと話しておかないとな」
話を聞くと、ラウラの機体にはVTシステムと呼ばれる違法プログラムが搭載されていたのだと言う。
正式名「ヴァルキリー・トレース・システム」。過去の大会優勝者の動きをパイロットに強いるという、非人道的なシステム。非常に巧妙な手口で隠されており、現在もドイツ軍独断によるものか、それとも政府も関わっていたのか調査中だという。
「パイロットの精神状態、もしくは機体の損傷具合によって強制的に起動するように仕組まれていたらしい」
「精神の状態……」
ラウラには、思い当たる節があった。かほとの模擬戦において聞こえた謎の声。あれがVTシステムだったのだろう。あの時、自分の持っていた物を粉々にされ、完全に自信を失っていた。だが、自分を「試合の相手」として目を離さず、真剣に向き合ってくれていたかほを見て、その誘惑を一時は断ち切ったのだ。今回は、機体が解除された隙を突いて、システムが乗っ取ったのだろう。
「しばらくは安静にすることだ。動きをトレースさせられたのだから、筋肉が悲鳴を上げている状態らしい」
「分かりました……」
そして千冬が退室しようとした時に、ラウラは呼び止めた。
「教官。あの……デュノアやオルコット、それと凰はどうなりましたか?」
「安心しろ、3人とも無事だ。システムに飲まれたお前を相手にしたのは、西住だったからな。西住は少し打撲があったが、それ以外は問題ない」
「良かった……」
ラウラが同年代の人間や上級生を思いやる一面を見て、千冬は少し驚き、そして微笑んだ。
「教官、お願いがあるのですが……」
「珍しいな? どうした、何が欲しい?」
「その、戦車の図鑑というのはありますか?」
「戦車の?」
変わったリクエストに首を傾げる千冬だが、ラウラはあの不思議な空間での出来事を思い出していた。
(西住先輩と、あの空間でⅣ号と呼ばれた女性、そして戦車……何か関係があるかもしれない)
かほの正体について探ろうと、決意した。
「楯無、足が痺れた」
「我慢しなさい! もう、暴走機体と戦うなんて無茶するんだから!」
自室で、かほは楯無から説教を受けていた。ラウラ達を助けたは良いものの、教師の制止を振り切って出撃したというのは、いただけないものだった。腰に手を当ててプリプリと怒る楯無に、かほは縮こまる。
「本当に……かほちゃんは昔……から……!」
「……刀奈?」
徐々に涙ぐんだ声に変わり、思わず本名で尋ねてしまう。普段の笑みは無くなり、大粒の涙をポロポロと溢していた。
「一人で何でも……背負わないで……! 友達が居なくなるなんて……私は嫌……!」
「……………………」
かほは足がしびれるのを堪えて立ち上がり、泣きじゃくる幼馴染みを抱き締めた。
「……ごめん」
「変なときにお馬鹿さんになるんだから……」
自分に対して反省しながら、同居人が落ち着くまで優しく撫で続けるのだった。
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それでは、次回もお待ちください。