クラス対抗戦。名前の通りクラスの代表同士が戦うという、シンプルなイベント。その会場の2年生が座るエリアにて、かほと楯無は戦いの様子を見ていた。
「オルコットと戦っているのは、確か二組の凰鈴音だったか?」
「そうよ。中国の代表候補生。一年でその座に登り詰めた天才ね」
「ほう……。天才というと慢心するイメージもあるが……」
2人の戦いを見るかほは、口元だけは笑みを浮かべていた。
「まだ荒削りだが、実力は確かなようだ。後は磨けば、鋭い剣になれそうだな」
「今年は面白くなりそうね~」
「ふっ、だな」
その時だった。
ドゴォォォォンッ!!
凄まじい音が轟いたと同時に、先ほどまでセシリアと鈴が戦っていたエリアは土煙に覆われていた。
「な、何だ!? カール自走臼砲か!?」
「これは……マズイ状況かもしれないわね……!」
突然の出来事に静かになるアリーナ。土煙が晴れていき、人の形をした影が見えた瞬間に二人は動き出した。
「これは異常事態だ! 全員避難しろ!」
「観客席にいる代表候補生は、他の生徒を避難誘導して!」
外部からの侵入者と判断したかほと楯無は、すぐに大声で避難を呼びかけた。わずかな差だが、この時にいち早く反応したのは教師と代表候補生だった。その次に一般生徒だ。最初こそパニックになりかけたものの、避難誘導をする立場にある者が落ち着いて対処したため、ドミノ倒しといった事は起こらなかった。
だが、ここで問題が起こる。
「西住さん! ドアにロックが!」
「何だと!?」
侵入者の仕業か、生徒たちが出入りするドアにロックが掛けられていた。何とかこじ開けようとする生徒もいるが、相手は完全オートで開くドア。中々開かなかった。
「どいて! 私がこじ開けるわ!」
そこへ楯無が、自身の専用機である『
その時、かほはアリーナを向いた。
「っ! オルコット! 凰!」
扉がロックされているという事は、ピットへ戻ることも不可能であるという事だ。いくら実力があるとはいえ、このような事態に遭遇するのは初めてかもしれない。不安に思ってアリーナを見た時に、侵入者の姿を見た。
異様なほど腕が長く、露出部分が一切見られない、全体的に黒っぽい機体。それが侵入者だった。
(あれは……? 妙だ。人の気配を感じない……?)
かほは、前世で人間と触れあってきた戦車なだけあって、人の気配というものが分かる。しかし、目の前の異様な存在からはその様子が微塵も感じられなかった。
セシリアと鈴は、相手が何者か分からないためうかつに攻撃することが出来ず、武器を構えるのみだった。そしてまた、侵入者も攻撃をしてこないという状態である。
(なぜ攻撃をしない? まるで何かを探しているような……)
その瞬間、相手と目が合った。
「っ!?」
ゾワリと寒気を感じた。嫌な予感を感じたかほは、無意識に大声で叫んでいた。
「伏せろぉぉぉぉぉ!!」
その声に気付いて他の生徒たちが伏せた瞬間、観客席に太いビームが放たれた。しかし、安全のために張られているバリアによって防がれる。この事にもかほは違和感を持った。
(あれほどの威力だというのに、バリアで防ぎきれた……? まさか、バリアレベルが強化されてるのか? この緊急事態に先生たちがバリアを強化する余裕が無い筈。もしや……扉のロックもバリア強化も相手のハッキングによるものか? だとすれば何のために? 学園の破壊のためならば、むしろバリアを弱くするはずだ……)
分からない。相手の目的が、分からない。そして、人間は分からないことに恐怖する。かほは目の前の存在に、恐怖を感じた。
「助けて……お母さん……」
「っ!」
避難している生徒の一人が、泣いている。先ほどの攻撃を見てショックを受けたのだろう。他の生徒たちも、泣いているのを宥めたりしている。一年生たちのいる観客席からも、同じような光景が見られた。
(学友が……後輩が…………泣いている……)
先ほどの恐怖は消え、代わりに“何か”がこみ上げてくる。
――――西住かほ。お前は何だ?
(私は人間だ。西住家の人間、西住かほだ)
――――お前の前世は何だ?
(Ⅳ号戦車。大洗女子学園戦車道チーム、その隊長車として戦い続けた)
――――戦車とは、恐怖に打ち崩される物か?
(違う! 戦車とは、鋼鉄の装甲で弾をはじき、その火力で相手を倒し、突き進む存在だ!)
――――お前に伝説を与えた“彼女”は、人が悲しむのを良しとしたか?
(違う! “彼女”……いや、“彼女たち”は人が喜び、笑うことが好きだった!)
――――お前の誇りとは、恐怖によって脆くなるのか?
(………………)
かほは、侵入者を睨みつけていた。その握り拳は、力が入るあまりプルプルと震えている。
(私の誇りとは、前世が戦車であったこと。“彼女たち”と共に戦えたこと。そして……今の私が人間であるという事だ!)
観客席の生徒達が避難し終わったのを見届け、自身も観客席から離れていく。しかし、その行き先は避難用シェルターではない。
(後輩が泣くのを黙って見てるなど……何が先輩だ! 何が戦車の誇りだ! 恐怖に屈しそうになった己が恥ずかしい!)
携帯電話を取り出し、電話を掛ける。幸い電話用の電波まで妨害されてはいないようだ。
「織斑先生。お願いしたい事があります」
諸事情により忙しくなるため、1ヶ月ほどは投稿頻度が遅くなると思います。申し訳ありません。
それでは、次回をお待ちください。