航宙空母シナノ 太陽系防衛戦線   作:朱鳥洵

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 武蔵からの方はお久しぶり、初見の方ははじめまして!
 今回からシナノのお話となります。本当は三番艦でしたが2202準拠だと銀河の後ですからね。
 シナノってどんな艦? と思った方は「宇宙戦艦ヤマト復活篇」のデザインを参照していただきたく。
 では、よろしくお願いします。


第1話 「辺境より」

「レーダー、目標を捕捉」

「作戦開始。コスモタイガー部隊は、本隊へターゲットを誘導せよ」

 漆黒の宇宙に光るのは、高速で飛ぶ機体のエンジン。

 緑の惑星に向かう編隊は、ミサイルを放ち上へと離脱する。

「ミサイル、目標へ着弾。目標、こちらへ移動を開始」

「砲撃準備。タイガーは任務継続」

 視界に入った長い髪をかきあげ、彼女は艦長帽の下から前を見据えた。

「目標、主力戦艦の射程圏内へ」

「まだよ」

 代わる代わるミサイルを撃っては離脱する編隊の光が艦橋から見え始める。

「距離7000」

「主砲照準補正」

 ドレッドノート級の主砲がわずかに上を向く。

 艦橋の前に装備された15.5cm三連装砲も同じく上を向き、エネルギーが回る。

「距離2000」

「全機離脱命令。主砲発射用意!」

 緑の星を眼下に見て上へ離脱した機体のコクピットからは、いくつもの赤い光点が見えていた。

「距離700!」

「撃ち方はじめ!」

「……っ、うちーかたーはじめ!」

 三隻の艦艇から放たれた青い光線は、宇宙の闇に爆炎の光を灯す。

 レーダーから消えていく反応を見て、レーダー手は肩の力を抜いた。

「ビーコン、反応消失。掃討完了」

 彼女の視線にうなずくと、艦長は口を開く。

「演習終了。全機シナノへ帰投せよ。……お疲れ様」

 髪をなびかせてエレベーターの前に立った彼女は、そのまま前を見ずに足を止めた。

「戦術長」

「は、はい!」

「撃ち方号令に迷いがある。実戦では命取りになるから、気をつけて」

「はい……」

 開いたエレベーターへと入り、艦長は艦橋をあとにした。

「あーごめんね? 沙耶、ちょっとキツいでしょ?」

「あぁいえ、それは……」

「気使わなくていいから、ね」

 レーダー席から立ち上がり落ち込む彼の肩を叩くと、彼女もエレベーターへと乗り込んだ。

「じゃあお疲れ〜」

 陽気に手を振り、彼女は下へ向かう。

 第11番惑星上空で艦載機を収容したその艦は、ヤマトと同じ艦影を持ちながら後部に格納庫を兼ねた飛行甲板を備えていた。

 ヤマト級4番艦、航宙空母シナノ。

 時間断層で作られた最後の艦のひとつであり、戦艦ベースの設計がなされたヤマト、武蔵、銀河とは全く違う設計思想で建造された艦。

 48センチ砲は装備せず、ヤマトでは副砲として扱われた小口径砲一基とヤマト級共通の魚雷、ミサイルと甲板防衛用の煙突ミサイルを攻撃兵装として持つ他は、主砲が置かれていない甲板に搭載されたパズルレーザー砲があるのみ。

 攻撃力はヤマトはおろか武蔵にすら劣る。

 それでもこの艦は旗艦能力を持ち、この第11番惑星で演習を重ねながら出撃の時を待っていた。

「沙耶(さや)、いる?」

 ノックの後に聞こえた声で、彼女は扉を開けた。

「なに、夏姫」

「何じゃないってば。入るよ」

 言葉より先に部屋に入り扉を閉めた彼女は、目の前に立つ親友の肩を掴む。

「沙耶、堅いっ!」

「…………は?」

「前からずっと言ってるよね、愛想良くしなって!」

「そんなの……」

「そんなの、じゃないの! みんな沙耶の事怖がっちゃってるじゃん!」

「えっ、そう……なの?」

「そうなの! だから」

 肩から手を離した夏姫はそのまま両手を彼女の口元へ持っていき、人差し指で無理やり口角を上げにかかる。

「笑顔でって言ってるよね⁉︎」

「夏姫……いたい……」

「沙耶が笑顔を覚えるまでやめない」

「覚えたから」

「嘘言わない。艦長ならもっとこう……部下から慕われなきゃ!」

「なふき……ふよい……」

「沙耶が笑わないのが悪い」

「わらひわううあい」

「何言ってんのか分かんないんだけど……」

 しかし彼女の抗議の意思は伝わったのか、夏姫は手を離した。

「私悪くないのに……」

「またやろうか?」

「それは結構」

 ふーん、と腰に手を当てて眼下の親友を睨む。

「ま、いいけど? 飴と鞭、みたいな」

「……それ、私嫌われ役じゃない?」

「そ、そんな事ないよ? 大丈夫、大丈夫」

 直後、室内に呼び出し音が響く。

「じゃ、あたしはこれで」

「うん。……こちらシナノ、司令部ですか」

 

 

西暦2203年末、地球

「では、失礼します」

 敬礼をして司令室を出た沙耶は、そのままの足で海辺へと向かった。

 途中、実習帰りの学生たちとすれ違った。

「お兄ってば帰ってくるなりぐーたらしてさぁ」

「えー? でも武蔵の戦術長なんでしょ?」

「いやそうなんだけど――」

 ――武蔵。あの娘は……。

 そんな思考を振り払った彼女は、足早に桟橋を登る。

 塀で阻まれ隔離された海には、ガントリーで固定された艦が並んでいた。

 飛行甲板と半分水中に沈んだエンジンノズルを眺めて、深いため息を吐く。

「お悩みですかな」

「っ⁉︎」

 その声に振り向くと、同じ階級章をつけた男が立っていた。

「近藤艦長……」

「覚えていてくれて何より。そして遅れながら、艦長就任おめでとう」

「いえ……ありがとうございます」

 近藤は横目でシナノを見る。

「あの、近藤艦長」

「ん?」

「アルタイルの皆さんは……どうしてますか」

「武田艦長は退役したと聞いたよ。宗方隊長は武蔵で世話になっている。そういう君はどうなんだ、アルタイルの副隊長」

 唐突な問いかけに後ずさり手で顔を隠す。

「やめてください。元々私に、誰かを束ねる力なんて無いんですよ」

「少なくとも信頼は得ていると思うがね」

「……部下と、どうやって接していいか。みんなと、どうやって話していいのか分からないんです」

 そんな、絞り出すような声に、彼は。

「なぁんだそんな悩みか!」

「そんなってなんですか。こっちは真面目に――」

「隣のドックを見てみろ」

 彼に連れられて見たドックには、シナノと同じ艦体をもつ艦が係留されていた。

「えっ――?」

 その姿に息を呑む。

 痛ましいほどに傷だらけで、係留されているのにまっすぐ浮いていられない。

「武蔵、どう見える」

「どう……」

 武蔵の背は、彼女達に伝えられていたものとは明らかに違う真実を物語る。

「これは――」

「艦がここまで損傷する戦闘指揮を、お前は良しとするか?」

「……状況次第、です」

「質問を変えよう。艦が沈んでも構わないとする戦いに、もちろんと頷けるか」

「それは……」

 ――答えられない。

 ――だってそれは、部下に死ねと強要する事だから。

 ――だってそれは、ただのエゴだから。

「俺は、その戦いを指揮したヤツに次を任せることを考えている」

「……!」

「艦長にとって大事なのは、部下を信じる事だ。俺たちは間違いだと思った時に、倒れそうになった時に判断を下せばいいだけだ。あとはどーんと構えていりゃいいんだよ」

 快活に笑う彼の声を背に、吹き飛んだ第三砲塔と穴の開いた艦橋後部ブロックを見上げる。

 ――私に、こんな決断ができるだろうか。

「まあ難しく考えるな。俺もちゃんとできてる自信はないからな」

「艦長」

 近藤が彼女の肩を叩いた直後、彼の背後には敬礼をする男女が立っていた。

「どうした有賀、佐伯」

「いえ。なんとなく」

「私は義哉さんの付き添いです。今は謹慎中で、武蔵の修理には関われませんから」

 沙耶よりも少し若いと思われる2人は、桟橋から見える武蔵の背を見て微笑む。

「謹慎中?」

「見ての通りだ。武蔵は、ヤマトとガミラス艦隊が宇宙で戦っている間に無断発進して地球に侵入したガトランティス艦隊と戦った。だから、武蔵のクルーは全員謹慎中なんだよ」

「……地球を守るための戦いだったのに、それを咎める事が司令部にできるんですね」

 大きく抉れた破孔をもう一度見て眉を潜めると、彼女は近藤に頭を下げ、踵を返した。

 海風になびく髪を見つめていた彼の裾を引っ張った柑奈の方を見ると、彼女は有賀を睨んでいるようだった。

「えっと、柑奈?」

「……むぅ」

「何かしたっけ、俺」

「知りませんっ」

 ふいっと不機嫌そうに視線を移した彼女に怪訝な顔をしつつ、有賀は近藤に問いかける。

「あの人は」

「もしかしたら、未来のお前かもしれないな」

「……はっ?」

 足早に桟橋を歩く彼女の背中を見て、近藤は微笑むのだった。

 

 

「そっか、武蔵はそんな事になってたんだね」

 宿舎に帰って夏姫に一通り話すと、彼女はそれだけを返してコーヒーを入れた。

「それで? シナノは次どこに行くの?」

「銀河中心方面から断続的に接触している艦隊の掃討、みたい。補給は雷撃型コスモタイガーに関連する物も多いし……」

「艦隊戦かぁ……味方艦多くなると大変なんだよね」

「しっかりしてよね。今回はガミラス艦隊もいるんだから」

「うぇ、本当?」

 渋い顔で頭を掻く彼女に笑いかけ、沙耶は端末に目を落とす。

「……艦長、か……」

 部屋の一角に立てられた二つの写真を眺めて、沙耶は過去へと思いを馳せる。

 ――教えてほしい。私が、何をすべきか。

「今日は星が綺麗だよ。沙耶も見てみよ?」

「星なんて、宇宙に出ればいつでも……」

「地球でのんびりしながら見る星が一番綺麗なんだよ。ほら、こっち来て」

 手招きをする夏姫に呼ばれ、開け放たれた窓際へと歩き出す。

 そこには満点の星空――天を穿つ天の川と色とりどりの輝きが瞬いていた。

「ねっ、綺麗でしょ?」

「ええ……とても」

 宇宙をゆく艦もなく、ただ自然の光だけが満ちる空の下で。

 先程までの悩みなど些細なものだと思わせるようなその光景に、2人はしばらく目を奪われていた。

 その向こう側では、地球に迫る艦隊を食い止めんと戦う艦隊の姿がある事を頭の片隅に置きながら。

 

 ――第1話 「辺境より」――




 ありがとうございました!
 いやぁアレですね、武蔵では結構クルーの練度高めだったので難しいです……(笑
 それではまた次回、お会いしましょう!
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