航宙空母シナノ 太陽系防衛戦線   作:朱鳥洵

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 皆さまお久しぶりです!
 ちょっと早いですが、書けたものは投稿しませう。という事で投稿をば。
 10話は戦闘もないので比較的平和なお話となります。
 それでは、よろしくお願いします。


第10話 「継がれる想い」

「蓮、エンジンの方は大丈夫なの?」

 艦長室。

 向かいに座る蓮が持ってきた資料を片手に聞くと、彼女はコーヒーカップを置いた。

「修理はちょいかかるね。でも大丈夫、航海長も手伝ってくれてるしさ」

「手伝わせてるんじゃなくて?」

「人聞き悪いねぇ……確かに最初はやらせてたけど、段々ノってきたみたいで」

「そう。苦じゃないなら良かったわ」

「頼りになるよ、アイツは」

「貴女がそんな顔するの、珍しいわね」

 沙耶の顔が緩む。

 キョトンとした顔の蓮はしばらく考えると、突然笑い始めた。

「バカ言え、うちはそんな軽い女じゃないっての」

「そこまでは言ってないでしょう?」

「目は口ほどに物を言う」

「そう? それなら貴女の目も」

「そんな目はしてないっつーの」

 座り直した彼女は、コーヒーカップを口につける。

「……本当はさ、思いっきりぶん殴ってやるつもりだった」

「しなかったって聞いたわ」

「してない。アイツ、あんまり話したこともなかったけど、もっとぼんやりしたヤツだと思ってたんだ。操艦の腕は信用してなかったわけじゃない。でもうちは咄嗟に無理だって思った」

 沙耶は彼女の顔を見ないよう、あくまで資料に目を落とす。

 蓮の言葉は続く。

「違ったんだよな。アイツの目を見たら、うちは失礼な事を思ってたんだって。それに、あそこから抜けたら、うちらはどうなってたか分からなかった。あの場所から加速をかけないと、抜けた瞬間に蜂の巣にされる可能性を考えてなかった。戦術長に後から聞いたよ」

 背もたれに身体を預ける。

「もっと信じないと……あの件で殴られるのはうちの方だ」

「彼、きっと貴女を殴ったりはしないわ」

「知ってる。アイツがそんなヤツじゃないのは」

「……そう」

「結局うちは、なーんにも分かってなかったんだ。ここ最近ずっと、そればっかり考えてる」

 深い、深いため息。

「きっと彼は、貴女が思うより気にしてないわ」

「気にしてんのはうちだけ……だとしてもさぁ」

「その気持ち、言ってみたら?」

「……失望されそう。信じてなかったんだって」

「大丈夫よ」

「悩んでるとこ見せるなんて、うちらしくないし」

「人間だもの。悩むこともあるわ」

「そうかな……」

「少なくとも、私のところで愚痴るより建設的じゃない?」

「…………」

 少しムッとした顔を見せた彼女は、バツが悪そうにふいっと目を逸らした。

 

 

 同じ頃。

「戦術長、パルスレーザーの改良は3番砲まで終わりました。20センチのショックカノン増強ももうすぐで」

 窓越しに甲板を見下ろしていた尊に楠木が報告する。

「ありがとうございます。順調で良かった」

「……ごめんなさい。改良作業のせいで、戦闘に不便を」

「いえ。使えたとしても、結果は同じだったと思います」

「でも」

「この艦の武装は対艦戦闘には向かないんです。それを対艦戦闘できるようにしてもらってるのに、楠木さんに文句は言えませんよ」

 屈託のない笑みをせる彼に、肩の力が抜ける。

「ありがとう」

 小さく呟き、彼女は踵を返した。

 歩き去る音を感じながら、尊はこの星の太陽に手を伸ばす。

 窓越しに光るそれを手のひらで隠し、影になった手の甲を見つめた。

「僕は……何ができるんだろう……」

 

 

「あれっ? 沙耶達は?」

 翌日の事である。

 艦橋に上がってきた夏姫の声に、作業服姿の光洋が振り返る。

「今日は艦を離れているそうですよ。確か尊と朱音と行政府だったかと」

「そっか。楠木さんも……で、キミはこんなところで油売ってていいの?」

「機関長に、『この星に来てから張り切りすぎだ。今日はもう休め』って追い出されました」

「頑張ってたもんね。今日は私がいるから、キミは部屋に戻りな」

「部屋にいても落ち着かないんですよ」

「まあいいけど。身体壊さないでよ」

 そのまま席に座った夏姫は背もたれに身体を預け、天を仰ぐ。

 ――このまま、平和な時間が過ぎてくれたなら。

 

 

 艦を降り、ドックを出た沙耶達は第11番惑星を管轄する行政府にいた。

「受け入れてくださり、ありがとうございます」

「シナノは練習航海で使っていたわけだし、それに中破でやってきた味方を地球に戻れなど言えるかね。頼ってくれて嬉しいよ」

 とても軍属出身とは思えない笑みに肩の力を抜く。

 しかし彼はすぐに声色を変えた。

「それで、頼みは補給か?」

「……はい」

「足りないのはなんだ? 食糧か? エネルギーか?」

「離脱時に、シナノは搭載していた実弾兵器のほとんどを使い果たしてしまいました。戦闘とワープの余波で波動コイルやその他の物資も少しばかり損害はありますが、戦線復帰のためにも実弾兵器は必須かと思い」

「実弾か……」

 沙耶の答えに、彼はパラパラと手元の資料のページをめくる。

 その顔はどこか、言外に「難しい」と言っているようだった。

「シナノは……ヤマト級共通の魚雷とミサイルと20cm用三式弾……」

 資料はこれまでこの第11番惑星に船籍のあった艦とそれの諸元、補給装備をまとめたものらしかった。

「魚雷とミサイルはなんとかしよう。ただ20cm砲用の三式弾はさほど用意できないかもしれん。あと……ガミラスはどうする」

「ガミラスは月面大使館の方から、ある程度の武器弾薬を補給するため、この惑星の周回軌道でゲルバデス級とガイペロン級がランデブーを待機しています」

「そうか。じゃあこっちが用意するのはシナノと2隻の空母だけだな……できるだけはやってみよう」

 

 

「変わってないですね。ここはなんにも」

「そうね。平和で何より」

 尊の呟きに頷き、すっかり復興した建物を見る。

 ガトランティスによって破壊された街並みはあらかた回復し、ここは新しい街ができ始めていた。

 ガミラスが再建した人工太陽も正常に稼働している。

 再建のための資源運搬が収益直後のシナノの任務でもあった。シナノが出撃した時にはまだ復興は半ばであり、戦禍の跡が残る場所も多かったのである。

 しかし今彼らが歩いている街並みは、既に戦禍など遠い過去のことのように感じられるほどに発展していた。

 ガトランティス襲撃の悲劇を繰り返さぬよう、今のこの星には専属の防衛艦隊が常駐している。それもこの平和に一役買っているのかもしれない。

「軍人さん?」

 不意に聞こえた声に振り向くと、小学校低学年と思しき女の子がじっと見つめていた。

 楠木と目を合わせ、首を傾げる尊に微笑み、沙耶は後ろにいる母親に会釈をしてしゃがむ。

「そうよ」

「……ありがとう。助けてくれて」

 意味を理解しきれず、沙耶はちらりと彼女の母親の顔を見た。

「この子の父親……夫は、以前にもこの星に住んでいた事があるんです。夫を助けてくれたのは、空間騎兵とヤマトだったと教えてくれました。この子には、軍人さんが助けてくれたんだと教えているみたいで」

「そういう事でしたか」

 母親の補足に納得した様子で彼女の方に目を向けると、少女はポケットから薄い緑色に輝く石をいくつか出し、両手で差し出していた。

「おまもり。あげる」

「本当? ありがとう」

 両手に受け取った沙耶が笑顔を見せると、彼女もまた眩しい笑みを見せる。

「その石はこの星で取れる鉱石の一種です。夫は鉱夫で、あの時もその石が綺麗だと持っていたみたいで。その石を持っていた自分以外、近くにいた人は死んでしまったと。だから、その石のことをお守りだと言っていたんです」

「ありがとうございます。……私達にも、効くでしょうか」

「きっと。諦めない人を守ってくれる、みたいですよ」

 行こうか、と娘と手を繋いで歩き出す。

 帽子を取り2人を見送る。

 その背中が小さくなってから、沙耶は2人と向き直った。

「帰ったらヒモでもつけて、艦橋のみんなに配りましょうか」

「お守りですか?」

「ちょうど個数はあるみたいだから」

 楠木に微笑みかけると、彼女は少し驚いた様子で。

「艦長も、そういうの信じるんですね」

「住民との交流は大切よ。それに……」

「それに?」

 ふと、かつて送り出した父と彼のことを思い出す。

 少し前までの自分は、科学的根拠が全てと信じて願掛けをしても何かが変わるわけではないと思っていたし、実際父にも彼にもお守りを渡したことも、自身が持った事も無かった。

 けれど、これを受け取ってわかった事がある。

 渡した人の気持ちは、渡された側に通じるという確かな実感。科学的根拠などなくても心に感じるものはきっとある。それは必ず、心のどこかで決断を変えるのだろう。

 そんなことを考えたが、口に出すのはやめた。

「なんでもないわ。帰りましょう」

 ――もしこれに、渡してくれた親子の気持ちの他に、これからの私の気持ちを乗せられるのなら。

 シナノという艦とそのクルーに対する気持ちは、彼女の中で徐々に、確かに変わりつつある。

 彼女がアルタイルに感じていたものより遥かに大きな何か。

 それが何なのか、彼女はまだ知らない。

 

 

「お守り?」

「また珍しいな、艦長がこんなもんを」

 翌日のこと。

 艦橋に集まった主要メンバーに沙耶が渡したのは、紐で結んでペンダントのようにした昨日の石。

 夏姫と共に2人で一つ一つ紐をつけていったものだが、それはあえて言わない約束にしていた。

 光洋と蓮の言葉に、沙耶はそれを渡しながら答える。

「街の人から貰ったのよ。きっと守ってくれるでしょうって」

 そう告げた沙耶は既に首からそれを提げていた。

 翡翠に似た色のその石は透明度がそれよりも高く、外からの光を反射して美しく光り輝いている。

「なるほどなぁ……にしても、こんな綺麗な石この星で採れたんだな」

「それには私も驚いたわ。鉱石なのに最初からこんなに透明なんて」

「渡してくれた子のお父さんが鉱夫なら、何かの作業で出た研磨済みのやつだったのかもね」

 蓮と沙耶に言いながら席に座った夏姫は、それを右の手首に巻き付け始めた。

「これでよし」

「手首ですか?」

「そう。これでレーダー覗き込んでも邪魔にならないでしょう?」

「あ、確かに」

「でも楠木さんは腕だと邪魔になっちゃうか……ちょっと貸してみて?」

 大人しく渡すと夏姫は手慣れた様子で楠木の髪の一部を結び、それを止める髪飾りとした。

「どうかな?」

 持っていた鏡で様子を見せる。

「こんな事もできるんですね……」

「紐を長めにしてあるからね。結構色んなことできるよ」

 そんな2人を尻目に、他のメンバーも首からかけたり席の目立つところにかけたりと、思い思いの場所に置いていく。

 これを渡したことで、彼らの意識は変わったのだろうか。

 そう信じて、沙耶は席のモニターに目線を移した。

 ――いいえ、むしろ変わったのは。

「うちも腕につけようかな。夏姫、それどうやってやった?」

「尊は……お前は普通にかけるのな」

「はい。航海長は?」

「とりあえず席のこのあたりにひっかける。昔は車運転する時とか、こうやってひっかけてたらしいし」

「今でも地球ではやってる人いますけど……」

 ――きっと、私の方なのね。

 彼らの会話を聞きながら、窓の外から差し込む太陽の光に目を細める。

 戦線復帰までもう間も無く。

 せめて今だけは、何もない時が流れますように。

 渓谷に建設されたドックには、補給物資を運ぶトラックが着き始めていた。

 武装の強化も間も無く終わる。生まれ変わったシナノは、飛び立つ時を待っている。

 

 ――第10話 「継がれる想い」――




 ありがとうございました。
 シナノは残り3話、あと少しとなりましたがよろしければ最後までお付き合いいただけますと幸いです。
 それではまた次回、お会いしましょう!
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