航宙空母シナノ 太陽系防衛戦線   作:朱鳥洵

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 お久しぶりです。
 シナノ第11話となりました。これを含めて残り3話の予定ですが、果たしてどうなることやら。
 第11話もよろしくお願いします。


第11話 「願いの灯」

 陽の光に照らされた機器や拘束用の器具が次第に切り離されていく。

「慣性制御良好。波動エンジン、量子フライホイールから運動エネルギーをフライホイールへ変換」

「補助エンジン点火。ガントリー解除まで5秒」

 艦内に鳴り響く轟音と同時に一瞬艦が下がるが、すぐに慣性制御で浮き上がる。

「シナノ、微速前進」

「微速前進」

 高度を上げながら、補助エンジンの推力で前進を始めた巨艦は大きな影を落としながら街の上を重々しく通過していく。

 建物の窓ガラスは少しずつ振動し、轟音を立てて通過する巨艦を見送る。

「ガミラス艦隊、空母2隻は既に上昇機動に入りました」

「街への影響範囲外まで航行したら波動エンジンに点火して上昇する。各員加速に備え、第一格納庫の固定を再確認せよ」

 沙耶の声からしばらくして、エンジンの音が次第に高くなっていく。

 メインノズルの奥から噴き出した炎はそのまま艦を押し上げ、瞬く間に緑の惑星を眼下に見る。

 前方には既に隊列を組んで指示を待っている友軍艦が見えた。

『如月艦長』

 通信を繋げてきたのはガミラス指揮艦のゲルバデス級だった。

『所定の配置、完了しています』

「了解。あとは手はず通りに。健闘を祈ります」

 通信を切る。

 目を閉じて深く息を吸い込んだ沙耶は、艦内用のマイクを手に取った。

「全艦に通達。本艦は10分後に作戦を開始する。第一種戦闘配置、作戦に従い航空隊は所定の位置へ」

 

 

 ――前日。

「本艦は明日の正午に発進します。そこで、作戦を共有したいと思うの」

 ドックに係留されたシナノの作戦室に集められたのは、シナノの士官とガミラス指揮艦、ゲルバデス級の艦長だった。

 全員に配られた端末に映し出された経路図と沙耶の説明を合わせ、作戦を叩き込んでいく。

「――以上。質問は」

「今我々の代わりに戦闘している艦隊は、本艦の指揮下に入るんですか?」

 尊の質問に、沙耶は席に座りながら答える。

「今展開している艦隊は無人艦だけで構成された艦隊なの。本艦が作戦領域に入った時点で、自立思考から本艦からの制御信号に従うように切り替えて作戦を完遂させるわ」

「残存数は?」

「恐らく作戦開始時点で3隻残っていればいい方……波動砲の発射台としてしか使わないし、中破でも使い道はある」

「如月艦長。しかしこの作戦では、シナノだけ突出しすぎる。本当に大丈夫か?」

 ガミラスの高官の声に目を向ける。

「大丈夫です。そのために本艦指揮下の地球空母もガミラス指揮艦の指示を聞くようにしてあるのですから。それに本艦はこの惑星で本格的な改修を行えた結果、波動防壁の出力を下げないまま火力向上ができています。しかし、もしもの時は」

「……その時は」

「ガミラス艦隊だけが頼りです。ガミラス艦隊はその経験を生かし、本艦および本艦指揮下の艦船とは別行動をとってもらいます。うち、デストリア級1隻とケルカピア級2隻は遊撃隊として、本艦指揮の艦隊とゲルバデス級指揮の艦隊双方の支援をやって欲しい。それが私からの要望です」

 その言葉に少し沈黙が走る。

「もしもの時は我々が引き継ぎましょう。しかし、だからと言ってシナノが身を投げ打っていいわけではない」

「もちろんです。我々も万全を期して作戦を遂行します。そのために数少ないドックを占領してまでシナノに改装を行ったのですから」

「そうでしたな。我々は、シナノと共に」

 ガミラス式の敬礼。

 沙耶達がそれに地球式の敬礼で返すと、ガミラス指揮官はさらに続けた。

「我々はシナノと共に戦うことを誇りとし、語り継ぐために生き残ります」

「語り継ぐほどの武勇ではないと思いますけど……」

「英雄ほど、自らの功績に謙遜するものです故」

 

 ――まぶたを開け、前を見据える。

 友軍艦のエンジンの炎と瞬く星々が照らす宇宙を見据え、その先に見える明るい星に手を伸ばす。

 ――あの人が、見ているようで。

 ――そんなものは幻。わかっている。

 ――でも、それでも。

 ――見ているのなら、今の私に彼はなんと声をかけるのだろう。

 そのまま拳を握り、胸に当てる。

 ふと見た宇宙には先程見えたはずの明るい星は無く、代わりに胸元の宝石のお守りが外の光を受け輝いていた。

 納得する。

 ――私が、彼から遠ざかっていただけなんだ。

 触れたくない辛い記憶から逃れようとすればするほど、それは重くのしかかる。

 でも今は。

「……大丈夫。近くにいるから」

 小さく呟いた。

 きっと、彼ならそう言うだろう。

 沙耶と比べ楽観的だった彼なら、そうやって明るく元気づけてくれるはずだ。

「行きましょう。みんなで」

 何かに背中を押されるように立ち上がった沙耶は、指揮官らしい強さと優しさをそなえた瞳でまっすぐに行く先を見つめた。

「全艦へ、旗艦シナノより。全員で、必ず生きて、そして勝って帰りましょう」

 沙耶を見つめるクルーの目には、以前のような萎縮はなく信頼が刻まれている。

 微笑んで、そのまま続けた。

「今まで地球と、ガミラス星を守ってきた人達の想いと共に。全艦、発進!」

 

 

 鉄の残骸が浮く闇の中に、一つの閃光が瞬く。

 爆炎を突き抜けた青いエネルギーの塊はその先端を分裂させて敵をデブリもろとも消し去った。

 艦体に大きく孔を作られた艦が浮遊する中に、一つの巨艦が姿を表した。

「味方無人艦、残存2隻!」

「良かった……指揮権を本艦へ移して。対艦戦闘はじめ!」

 楠木が操作するパネルに「接続」の文字が表示されると同時に、煙を上げたままの2隻のドレッドノート級が加速をかけてシナノの両翼に陣取る。

 直後、その背後に地球空母2隻とガミラス艦隊が現れた。

「全艦、戦闘開始!」

 沙耶の号令でシナノ以外の全艦は急旋回で散開し、シナノと無人艦は加速しつつ甲板とハッチから艦載機を放つ。

「全機、敵小型艦の掃討にあたれ。シナノ全砲門開け、対艦戦闘はじめ!」

 尊の指示で射撃をはじめるシナノが放つ衝撃砲は一撃で敵艦を貫き、パルスレーザーも装甲を撃ち抜いて内部までダメージを与えるほどの威力を持っていた。

「エネルギー砲門の威力向上は狙い通り、いけてます」

「よし、これならいける!」

 敵艦隊の頭上に抜けたシナノと無人艦は回頭、静止した無人艦を置き去りにしてシナノは再び艦載機と共に突撃を敢行する。

「無人艦、波動砲用意」

「射線上のガミラス艦へ退避命令。本艦は1分後に急速回頭する」

 シナノは巨体を回転させて弱点への直撃を回避しつつ、周囲の艦艇へダメージを与えていく。

 そして艦隊の中心部で突如回転を止め、波動エンジンを最大まで噴出させて上方へ逃れた。

 直後、その場所を無数のエネルギー体が焼き尽くした。

「波動砲命中、敵艦の3割を行動不能にしました」

 刹那、艦橋にアラートが鳴り響く。

「本艦に向けて大型の発砲反応! 艦隊後方の要塞から、敵の艦艇を巻き込んで本艦に向かってきています!」

「全艦に緊急回避命令! 艦載機も急速退避、急げ!」

 艦体のスラスターを作動させたシナノはロールして艦底部をビームに向けながらなんとか回避するが、その後方ではいくつもの爆発が起こる。

「味方艦の損害確認! 本艦も姿勢を立て直す。本艦を含めた残存する攻撃可能な艦艇は攻撃続行、航空機は一旦退避し味方機と自機の損害を確認せよ」

「沙耶」

 沙耶の指示の直後にレーダーを見た夏姫が声をかけた。

「すぐ後ろのメルトリア級が動かないの」

「えっ……? 飛行甲板管制室へ、後方にメルトリア級は見える?」

 眉を顰めた沙耶はすぐに呼びかける。

『見えます。……恐らく、さっきのをエンジンに食らったのか艦の後部ブロックが喪失して漂ってます』

「……戦術長。今シーガル、出せる?」

「守ればいいんですね」

「お願い。航海長は――」

「エンジン推力落とせ、後退して盾になります」

「……ありがとう。無人艦は無事?」

「損傷はありますが動かせます」

「予定変更、シナノの前に展開して弾幕を張らせて。ガミラス指揮艦及び地球空母へ、損傷し動けない艦の乗組員救出のため、本艦は少しこの場にとどまる。援護とサポートを頼みます」

 次の波動砲シークエンスを止めてエンジンを点火した無人のドレッドノート級が後退するシナノの前に陣取り、砲撃を始める。

「ガミラス指揮艦から入電。我らはシナノ防衛と支援のため行動を始める。損傷し速度が落ちているケルカピア級2隻を護衛に向かわせた。当該艦は、攻撃は可能のため弾幕を張るとのこと」

「了解。空母は?」

「空母2隻からは共に、シナノ指揮下の無人艦に代わり波動砲シークエンスを行うとのことです」

 レーダーでは、地球の空母2隻が止まった場所にデストリア級とケルカピア級が護衛のためとどまり、残りの艦が突撃して数を減らそうとしているのが見える。

「シーガル発艦しました」

 第三格納庫から飛び立ったシーガルは、シナノの両翼に接近するケルカピア級を横目に漂流するメルトリア級に肉薄した。

「第一格納庫及び飛行甲板はシーガルの受け入れ準備を。前方は味方艦のため支援攻撃を続行。楠木さんは両翼についているケルカピア級のダメージ確認。砲撃中に異常があれば報告して」

「了解」

 退避していた地球とガミラス航空隊の編隊がシナノの頭上を通り過ぎる。

 遠くで起こる爆発の閃光を見つめ、沙耶はモニターに視線を落とした。

 ――せめて目の前の、手の届く命だけは。

「……絶対に……!」

 拳を握る。

 ――生きて、帰すんだ。

 

 ――第11話 「願いの灯」――




 ありがとうございました。
 あと2話で完結させなければ……という事でがんばりたいと思います。
 それではまた次回お会いしましょう!
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