ようやく書き終わりました!
ということで、シナノも今回で最終回となります。
では、よろしくお願いします。
「機関、噴射停止。慣性航行に切り替え。内圧上昇」
「戦術長。無人艦の砲撃は私が引き継ぎます」
次のオペレーションを始めた尊に話しかけた技師長に笑いかけ、首を横に振る。
「いえ、まだやれます」
「でも……」
「大丈夫です」
「……了解」
技師長の目には心配の色が浮かんでいたが、指示に従ってモニターに向き直った。
「無人艦を重力アンカーで固定。いけます、艦長!」
「ええ。無人艦のエンジンだけで再加速、本艦はこのまま突撃!」
荒々しく両舷に衝突させたドレッドノート級をそのまま繋げ、シナノは後続の敵を振り払って駆け出す。
その背後ではガミラス艦隊によって左右に分断された敵が二発の収束波動砲で消滅する光が瞬いていた。
「エンジン内圧限界点だぜ、戦術長」
加速に揺れる艦内で聞こえた機関長の言葉に頷く。
「……波動砲、発射用意。エネルギー充填開始。強制注入機作動」
「敵要塞まで距離――」
「ロケットアンカー用意!」
指示を飛ばした彼女に親友が叫ぶ。
「沙耶、このままだと2分でぶつかる!」
「分かってるわ。でも加速はまだ止めないで」
「ぶつける気⁉︎」
「違う。ただ、信じてるだけよ」
微笑んだ彼女の目は、とても優しかった。
背後からの波動砲で敵艦隊が殲滅された事から主力戦艦の砲撃は止まり、全てのエネルギーを推力に回した事で無人艦のエンジンは発熱し始めていた。
次第に配管が溶け落ち、加熱された弾薬が爆発を起こす。
「エネルギー充填、70%!」
砲口のシャッターを開放し、光を溜めていく。
無人艦のエンジンからは炎に混じって煙が噴き出し、振動も増えていた。
「無人艦、エンジン間もなく臨界点!」
「速度限界! 損傷部は速度に耐えられなくなるぞ」
「了解、十秒後に無人艦を切り離します。波動砲、エネルギー充填110%。セーフティロック解除」
突出ボルトのロックが上がる。
「無人艦、分離します!」
楠木の号令で切り離された戦艦はエンジンの暴走で内部から大きな爆発を起こした。
同時に射出されたアンカーを要塞の砲口に突き刺したシナノは、波動砲口の光を増していく。
「エネルギー充填120%! 薬室の圧力限界だ、いけ!」
「ターゲットスコープ、オープン。電影クロスゲージ、明度10。照準固定、最終セーフティ解除!」
慣性で前進を続ける艦体のスラスターを点火して射線を安定させた。
「衝突まで20秒!」
「対ショック、対閃光防御! 発射まで5秒!」
ゴーグルをかけ、トリガーに指をかける。
「4!」
撃鉄を下げ、銃床を押さえる。
「3!」
標的を睨み、十字の中心を見つめた。
「2!」
近づく砲口に狙いを定めて、指に力を入れる。
「1……発射!」
眩い光を放った刹那、漆黒の宇宙に衝撃波が流れていった。
後に残ったのは、無数の残骸とエネルギーの余波だけ。
「シナノは――」
「一体何したらこんなに壊れるんだ」
戦闘の終結から1ヶ月。
機関の応急修理をしながらガミラス艦に曳航され、地球にたどり着いたその姿を見て整備担当者の口をついて出た言葉がこれだった。
「……まぁ、色々と……」
バツが悪そうに目を逸らす彼女は、目の前の艦の損傷に心当たりがあった。
――仕方ないでしょう、これは。
心の中でそんなことを思いながら。
「艦長さんの気持ちも分かるけど、ここまで壊されて直すこっちの身にもなってほしいんだけど」
その言葉に不快感を露わにし、少しだけ睨む。
「人は死んだら戻ってこれないけど、艦は壊れても直せる。なら、艦の損傷と人の命は天秤にかけるまでもなく――」
「分かった、分かったよ。でも時間はかかるぞ」
「……お願いします」
頭を掻いてドックに歩いていく背中に頭を下げる。
「ほーら、やっぱり言われた」
「不可抗力よ。1ヶ月かけて外装は手付かずでとりあえずワープできる程度……」
「ま、最後の補給の時に資材ほとんど置いてきちゃってるし、そうなんだけど」
「それより、夏姫はこんな所まで来なくてよかったでしょう」
「沙耶が行くなら、私もセットだよね」
「セットって……」
「あっ、鼻で笑ったな! 大真面目なのに!」
憤慨する親友の横を抜けて歩き始める。
「お疲れ、艦長」
「貴女も来てたのね、蓮」
「うちらの長だからな。車くらい出してやらないと」
「今まで一回もやったことないでしょう」
「チッ痛いところつきやがる……艦長殿……殿……? 姫……? が傷心じゃないかと思いまして!」
「ずいぶんと言い方が投げやりね」
「あのなぁ、気ィ使ってやってんだから、夏姫と一緒にさっさと乗りな。気晴らしにドライブでもしようぜ」
むくれながら車を指した彼女に微笑んで、2人は扉を開けた。
地球はもう夏になっていた。
綺麗な内装の車内は空調は効いているが、外が猛暑なのもあって生ぬるい風が入ってくる。
「ねぇ、蓮」
「空調の文句なら聞かないぞ」
「……なら、なんでもない」
「マジ? やっぱぬるい?」
後部座席で会話を聞いていた夏姫が突然笑い始めた。
「沙耶もそんな事言うようになったんだね」
「私、何も言ってないでしょう」
「目が言ってるの。それに、昔の沙耶なら口に出そうともしなかったよ」
「一体何だと思われてたの……?」
「機械っぽかった」
「機械……?」
「うん。多分、任務に着く前……ううん、私と喧嘩するまではみんなにとって沙耶は怖い人だったと思うよ」
――言われなくても分かってる。
そうは思ったが、それだけに自覚はしっかりとしている。言い返すつもりは毛頭ない。
「……うん。ごめんなさい」
「いや、アレはほら……もう終わった事だし。それに、今は違うよ」
「そうだなぁ。あまりに変わりすぎてみんなびっくりしてたし」
笑いながら会話に入ってきた蓮に嘆息し、同時に頭を抱えた。
――怖い指揮官か……そうなりたくなかったんだけど。
「沙耶って案外打たれ弱いよね」
「ほっといて……」
「やーだよ。……次はもっと、そういう所見せなよ」
「それはイヤ」
「イヤじゃない。見せなきゃダメだよ、可愛いんだから」
「夏姫は私にどうなってほしいの?」
「みんなに好かれる艦長になってほしいかな。あわよくば、いい人見つかるといいんだけど」
「……もう作る気はないわ」
「今はそうでもいいよ。いつかね」
「夏姫の方が早いわ」
「いいや、この中で1番早いのは蓮だね」
「はぁ⁉︎」
突然の話題に動揺したのか、見晴らしのいい直線なのにハンドル操作が揺れる。
「あははっ、動揺しすぎだってば!」
「急にうちに振るからだって。あと笑うな!」
「それで、蔵馬――航海長とは、上手くやってるの?」
「沙耶まで……うちと光洋はそういうんじゃないって!」
「前まで名前で呼んでなかったよね」
「……うっせ」
「なるほど、お付き合い一歩手前ですな」
「夏姫は解析すんな!」
他愛のない平和な会話。
そのうちに、車は海を見下ろせる道に出た。
「ガミラスの人たち、今何してるんだろう」
桟橋に停泊している宇宙艦を眺めながら夏姫が呟く。
「しばらくしたらガルマン星に行くと聞いたわ。私達が戦ってる間にガミラス星が消滅したみたいだし、今はガルマン星移住のためボラーとの戦争中。同盟国とはいえ、地球に軍を割いてる暇はないって事ね」
「そっか……地球を守ってくれてたのに、故郷が無くなってたなんて……」
「彼らの家族はみんな地球や太陽系の都市に移住しているはずだから、私達と戦っていた人達の家族は全員無事……これだけが救いよ」
「シナノが助けたメルトリア級の生存者もガルマン星に行くのか?」
蓮の言葉に、沙耶は首を横に振る。
「入院している人もいるし、艦も無いから」
「まあボラーがガルマン星の方に注力して太陽系への侵攻は無いって話だし、ある意味地球にいるのが安全かもしれないな」
「宇宙に、本当に安全な場所なんて無いわ。シナノと入れ替わりで入った艦隊だって磐石ではない」
「でも今は他のガミラスの植民星より安定してるし、ガルマン星も含めて少なくとも地球の方が安全だよ」
「……だといいわね」
遠い目で水平線を見つめたまま相槌をうつ。
その沙耶に話しかけようとした夏姫を蓮が止め、しばらく無言のまま車は走り続けた。
蓮はそのまま2人を家まで送り届け、自分は他に用があるからと、また車を走らせた。
残された2人は数年ぶりに見る家の玄関を前に苦笑いする。
「郵便受けって、こんなになるものだっけ」
「中に入ったら凄いことになってるんじゃない?」
「……もしかしたら、艦に戻った方が快適?」
「かもね」
夏姫に笑いかけた沙耶は、扉を開けて中に入った。
部屋の中はホコリはあったものの基本的には整然としており、出る前のまま。
一安心したのも束の間、背後の夏姫がため息をつく。
「掃除大変だねこれは……」
「シナノが直るまではやる事もないし、頑張るしかないわ」
言いながら視界の端に伏せて置かれた写真立てを見た沙耶は、それを手に取って微笑む。
「ただいま」
彼の写真にそう告げ、袖を捲った。
「さあ、とりあえず床だけでも掃除しましょう」
「なぁに? 急にやる気出しちゃって。ちょっと休みたいんだけどー」
「今休んだら埃吸い込んで身体壊すわよ」
「ぅっ……はいはい分りましたー」
「無理してやってもいい事ないから、リビングと自分達の部屋だけね。終わったらごはん食べましょう。夏姫は何がいい?」
「沙耶、なんかお母さんみたいだね」
「貴女が子供みたいなのよ。いいから、晩ご飯考えておいて」
「はぁーい、お母さん」
「本当にやめて」
2週間後。
地球艦が海に浮かんでいる港の一角に、3隻の異星の艦があった。
「もうあちらへ?」
2週間ぶりに袖を通した軍服を整えながら、沙耶は高官と握手を交わす。
「ガルマン星もボラーの手がありますから。私個人としては、もう少し地球にいたい。ですが、我々はガミラスの軍人です」
「任務、ですからね」
「……あなた方と共に、地球のため戦えた事は、私の誇りです。ガミラス無き今、私の心の故郷はこの地球……この星のため命をかけられた事は、たとえ公式のものでなくとも、何よりの武勲となるでしょう」
そう語る彼の顔は明るい。
これからボラーとガミラスは本格的に戦争に突入するだろう。
そのための招集、死地に赴くとは思えないほどに清々しく笑う彼は、どこかあの日の彼と重なるところがあった。
「我々にとっても、勇敢で聡明なガミラスの軍人と共に戦えたのは貴重な経験です。地球のために、ありがとうございます」
柔らかな笑みで告げた沙耶の敬礼と合わせて、背後に並ぶシナノの士官達も敬礼する。
「ご武運を。現地までの航海の安全と、またの再会を心から願っております」
「シナノに守られた命、無駄にするつもりはありません」
慣れないであろう地球式の敬礼を返したガミラスの高官は少しはにかむ。
「シナノとあなた方の一層の活躍を願って」
そう言い残し、沙耶たちが見守る中で彼は艦に乗り込んだ。
出港、やがて離水して空に消えていくゲルバデス級、メルトリア級、デストリア級を見送った彼らは、沙耶の合図で帰路につく。
「無事でいられるかな」
親友の言葉に瞳を閉じて、彼女はどこか清々しい顔で空を見上げた。
「私には分からないわ」
「……そうだね」
「でも、信じてる。きっとまた会えるって」
陽が落ちた空には星が瞬き始めていた。
一際明るく光る星に微笑みかけて、沙耶は足を踏み出す。
――私はもう少し頑張ってみるから。
「見ててね、私のことを」
新たな明日へ、決意と共に。
――第13話 「宇宙
――完――
ありがとうございました。
航宙空母シナノの物語はここで一旦終わりとなります。
シナノと武蔵のお話は次の作品まで計画していますが、何せ物語終了時点でシナノは2205年、武蔵は2207年と本編を抜いてしまいましたので、宇宙戦艦ヤマト2205が終わるまでその後の物語を書き始めるのはいかがなものかと思い、シナノ投稿後は「波動実験艦武蔵 魔法使いの惑星」という作品を投稿いたします。
これは既に本編書き終わっていますので、全6話一気に投稿します!
立ち位置的にはヤマト2199本編に対する「星巡る方舟」的な作品で、武蔵劇場版みたいなもんです。
全6話と言いつつ、6話で一つのお話みたいなものです。
よろしければ次の作品も、よろしくお願い致します!