航宙空母シナノ 太陽系防衛戦線   作:朱鳥洵

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 皆さんお久しぶりです!
 シナノ第2話となります。1話は艦長の沙耶だけに視点を当てましたが、今回はそれぞれクルーの距離感に視点を当てています。
 それでは、よろしくお願いします!


第2話 「侵略者の影」

「おーい、こっちに寄せなって! 次が入らないから!」

 つなぎを着て翼の下から顔を出す彼女の声で、入り口付近でもたもたしていた機体がこちらへと牽引されてくる。

「格納庫狭いんだから入れ方には気をつけなよ!」

 釘を刺して再びペンチを取ると、ため息とともに作業に戻る。

「機関長」

「ん、うちに何か用?」

 刹那、若い男が近づいてきた。制服の色から機関室勤務だろう。

「エンジンの調整中でしたが、コレが如何ともし難くて……」

「波動エンジン? あーこれはね……」

 そこに転がっていた赤のマーカーで印をつけ、彼に図面を突っ返す。

「これでできるかい?」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ戻った戻った。うちも中々忙しいからさ」

「そうみたいね」

「えぇ本当に……っと、艦長でしたか」

 姿勢を正して敬礼を見せた彼女に返しながら、沙耶は少し困った顔をする。

「私とあなた歳変わらないのに敬語はいらないでしょう」

「階級ですよ、階級」

 ニッと歯を見せて笑う彼女に微笑む。

「それで、艦載機の補給は順調なの?」

「ええまあ。雷撃型と通常型が混ざってて今はこんなぐっちゃですけど」

「蓮も少し休みなさい。倒れても知らないから」

「ひと段落ついたら寝ますよ。心配なさらず」

「そう。無理しないで」

「りょーかい」

 立ち去る艦長の背中を見送り、彼女はまた作業へと戻る。

 ――そんな疲れた顔してたかな、うち。

 

 

第一艦橋

 窓から入る太陽光とモニターの明かりだけが満ちる中、目薬をさして肩の力を抜く。

「ふぃー疲れたー」

「お疲れ、楠木さん」

「そういうアンタはなんでここにいるの、光洋」

「一応航海長なんだけどな俺」

「航海長は出港するまで仕事ないでしょうが」

「まあそう冷たいこと言いなさんな。半年もいりゃあここが落ち着くってもんだよ」

 軽口を叩く彼に深いため息をつくと、彼女はまた作業に戻る。

「そういや朱音はご両親に会ったのか?」

 席に戻った彼は前を見て聞くが、彼女から返答はない。

「……ちゃんと会えよ」

「分かってるっての」

 少し苛立ちの混ざった声で答え、また視線をモニターへ向ける楠木であった。

 

 

展望室

「なあ、直輝」

「なんだい戦術長」

「その呼び方はやめて欲しいんだけど……」

 肩を落とす彼の姿を軽快に笑い飛ばすと、片耳に当てていたヘッドセットを外して同期の横顔を見る。

「それで、なんだって?」

「ああえーと……艦長の事なんだけど」

「惚れたか?」

「違う」

「美人だと思うんだけどなぁ」

「うっさい。そうじゃない」

「何か思う事でも?」

「もしかしたら……艦長は何かに悩んでるんじゃないかなって思うんだ」

 彼の言葉に天井を仰ぐ。

「強い言葉は弱い心の現れだ、とか言いたいのか」

「そうじゃない。あの人にそれは当てはまらないよ。でも、僕らと話すときに迷いがあるのは確かだ」

 それに「ふーん」と返し、横目で同期の横顔を見やる。

「でも、その迷いに気付いても尊がその態度じゃあ無理だ」

「えっ?」

「お前、正直言って艦長の事怖がってるだろ」

「ぐっ……僕は得意じゃないだけ。そもそも戦闘指揮なんて僕には……」

「任されたのは尊だよ。任されたからには、受けたからにはやり通せ。それが道理だ」

 彼が出て行った扉を見つめて、戦術長の重荷を噛みしめる。

「道理……か……」

 青空が見える窓に背を向けて俯く。

「分かってる……と、思ってたんだけどな……」

 

 

 ――数日後――

 ゆっくり左右に開くドックの門。

 ドックに満ちていたものと海の水が混ざり合う中を、白波を立てて進み始める。

 ブロックを分ける壁からは傷ついた武蔵の艦橋が見える。

「波動エンジン、フライホイール始動」

「フライホイール始動。第1格納庫の慣性制御開始」

 航海長と機関長の声で艦内に甲高い音が響き始めた。

「2分後に垂直上昇、エンジンに点火し地球圏を離脱する」

 沙耶の指示にシナノは速度を緩め、海上で静止する。

 艦外への慣性制御と共に艦底のスラスターに点火し、海水を押し除けながらまっすぐ上昇し始めた。

「格納庫、機体の繋留はちゃんとできてるんでしょうね!」

『大丈夫です、今なら艦が垂直になっても機体だけは微動だにしません』

「ンなことしたらうちらがもたないっての。加速した時に機体ぶっ壊れたらあんたらのせいだかんね」

『分かってますよ』

 軽い通信を終えて波動エンジンから火を噴いたシナノは瞬く間に垂れ込めた雲を抜けて青い空を突き破り、漆黒の宇宙へと突入した。

「月面基地から入電。無人ドレッドノート級5隻をシナノの識別信号を目標にして発進させたとの事」

「工藤くん、護衛はドレッドノート級だけなの?」

「……ええ、そうみたいです」

「うひゃー、重艦隊だぁ」

 工藤と沙耶の会話に口を挟む夏姫。

「でも、こっちに駆逐艦と巡洋艦がない分ガミラスも参加してくれるんでしたよね」

「尊の言う通り。えーと内訳は……」

「デストリア級、ケルカピア級、メルトリア級とゲルバデス級、ガイペロン級。合計16隻よ」

「クリピテラ級はいないのか……」

 思わず口をついた航海長に、沙耶は極めて冷静に説明を始める。

「今回は11番惑星の公転半径を超えた場所で長期間の戦闘になる。基地があるとはいえ、居住性の低いクリピテラ級は兵士にとって苦行にしかならないわ」

「確かにね。沙耶が言う理由で選定していたなら巡洋艦以上の居住性がないと」

「ガミラスも私達と同じ人間なのだから、目に見えた危機は避けたいでしょう」

 遠くに見える月と、ムラサメ改を引き連れたドレッドノート級をすり抜けると、衝突防止灯をともした5隻の艦影が見え始めた。

「無人艦から制御識別信号を受信。本艦を旗艦としてリンクします」

 技師長、楠木朱音のモニターに「LINK」の文字が表示される。

 同時に外に見える5隻も反転し、シナノを囲むように展開して月面を通り抜けた。

「レーダーに感、ガミラスの識別コード……本艦と同行する16隻と確認」

「任務にあたる22隻、予定通り合流しました」

 船務長、神橋夏姫と戦術長の御上尊の言葉に頷く。

「シナノ艦長、如月沙耶より達する。本艦隊は只今より太陽系外縁に接触している敵性艦隊への対処のため出撃する。無人艦は本艦とワープ連動。ガミラス艦隊は本艦と合わせ、2分後にワープへ突入。座標送信」

 艦橋の上につけられたモニターには、2100年以降太陽系外縁天体となった11番惑星より外にマーキングがなされる。

 地球から数光年離れたそこは、太陽ですら数多ある恒星の一つでしかなく夜空に溶け込んでしまう。

 21隻を引き連れているとはいえ、地球の有人艦艇はシナノ一隻。

 孤独な戦いと称しても差し支えはないだろう。

「全艦、ワープ!」

 ほぼ同時にエンジン出力を上げた艦隊はそれぞれワームホールへと突入して消える。

 次に彼らが姿を見せたのは、小惑星ひとつない空間であった。

「ワープ終了。11番惑星の公転軌道外、地球から銀河中心へと移動しました」

「レーダーに感あり、距離3000。交戦中なの……?」

 刹那、轟沈を表す大きな輝きが目に入る。

「全艦へ通達。第1戦闘配備、艦載機発艦。機種はシナノの雷撃機と直掩機に限定。ガミラス艦隊は巡洋艦クラスの速力をもって突撃せよ。第三格納庫はシーガル用意、医療班を分乗させて発進待機。急いで!」

 エレベーターを登るコスモタイガーと共に、艦底ハッチから直掩用の単座戦闘機が射出される。

 飛行甲板を蹴り出す雷撃機は重い爆弾を引き下げて旋回し、直掩機との合流ポイントへと向かう。

「雷撃機28機、単座型12機が発艦しました」

「飛行甲板内部の単座型は10機を対艦装備にして待機」

「ガミラス艦隊、航空隊に続き突撃!」

 シナノを囲うように待機していたデストリア級4隻とケルカピア級7隻が加速し突出する。

「本隊も前進して敵の捕捉を。残存艦艇の数は」

 モニターに視線を落とした夏姫はその反応を目で追い振り向いた。

「残存有軍艦は3隻、敵は27隻!」

「っ……友軍は有人?」

「そう、有人艦艇が3隻」

「友軍に本艦隊が地球より派遣された事を通達。この戦闘は敵の殲滅ではなく敵の撤退を目的として行う! 攻撃隊は敵艦隊の武装のみを狙うように! 特攻してくるなら撃沈もやむを得ないものとする!」

 艦橋に警報が鳴り響く。

「艦長、ですがそれなら敵の殲滅を目的にして機体を出せば――」

 

「部下に人殺しを命じることに正義なんてないのよ!」

 

「っ……⁉︎」

「だから……簡単に『殲滅しろ』だなんて言えない……そんな指示を簡単には出せない」

 立ち上がった沙耶はまっすぐ前を見据え、視線を戦術長に合わせて微笑む。

「仲間を守りましょう」

「はい」

 

 

 黒煙を上げ、戦列の崩れた艦隊に迫る艦影は、コンゴウ型を思わせる葉巻き型の姿をしていた。

 指向するドレッドノートの主砲を粉砕した戦艦が次弾を用意する。

 瞬間、雨のように降り注ぐミサイルによって戦艦とそれに続く艦が爆炎に消えた。

 友軍を守るように飛び去ったコスモタイガーの編隊はそのままターンし、残りの艦隊に魚雷を放って離脱する。

 魚雷が撃ち損じた兵装は高速機動で接近したガミラス艦隊により無力化されていった。

「先行したガミラス艦隊より、有人艦艇は大破しつつ健在との報告」

「護衛機と共にシーガル発艦。生存者の救助を行い帰還せよ」

 工藤の報告を受けた沙耶の声でシナノの艦底両舷の格納庫シャッターが開く。

 そこから露出したシーガル2機と飛行甲板を飛び立ったコスモタイガー4機が爆発轟く戦地へと赴く。

「コスモタイガー隊とガミラス艦隊が戦線を押し返したら前進します。ゲルバデス級とガイペロン級に対艦装備の攻撃隊発艦要請を」

「了解」

 破壊された残骸漂う宇宙を征くシナノ。

 発艦を急ぐ三段空母と戦闘空母を飛び立ったガミラス機の光を見送りながら、沙耶はその先を見つめていた。

 シナノの戦いは、まだ始まったばかり。

 

 ――第2話 「侵略者の影」――




 ありがとうございました。
 空母主体の戦闘をやったことが無いので苦戦しながら書いてあります(笑
 波動実験艦武蔵とは違う戦法を上手く描きたいですね。
 それではまた次回、よろしくお願いします!
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