航宙空母シナノ 太陽系防衛戦線   作:朱鳥洵

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 いやぁ、とても長い時間が経ってしまいました。
 皆様お久しぶりです、朱鳥洵です。
 私生活が色々と忙しくて全く書けておりませんでした、申し訳ありません。
 さて、久々のシナノ第4話となります。
 今回は戦闘の後なのでゆっくり回です(笑

あらすじ
 西暦2203年。
 ガトランティスを退け、ヤマトも帰還を果たし順調に復興していると思われた地球には、密かに魔の手が迫っていた。
 天の川銀河中心方面から侵攻してくる謎の国家に対し、地球はシナノと無人ドレッドノート級、そしてガミラスの混成艦隊を派遣する。
 作戦地点に到着したシナノは、既に勃発していた戦闘に介入し見事敵を退けることに成功するのであった。


第4話 「盾となりし」

「まもなく、アカシ、アサヒが接舷します」

 直後、光学カメラに近づく2隻の姿が映る。

 輸送艦をもとに独自改装が加えられた工作艦アカシと、コンゴウ改型をベースとした工作艦アサヒである。

 初陣から2日。

 地球に向け超空間通信を打電し、寄越されたのが非戦闘艦である事に艦長は今にも文句を垂れそうな表情をしていた。

「まあまあ沙耶、地球にも何か事情があるんだよきっと」

「私、まだ何も言ってないでしょう?」

「目が言ってるよ、こんなもんよこしてって」

 夏姫の目は誤魔化せないわね、と沙耶の顔に自然と笑みが浮かぶ。

「アカシには有人損傷艦の解体を、アサヒには無人艦の修理を頼んで。周辺警戒してくれているガミラス艦隊にも交代命令。終わったらみんなも休んでいいわよ」

「了解」

 ゆるく敬礼して席に戻った夏姫を見送り、沙耶は艦橋を後にした。

「近藤艦長」

 そのまま通信室に入り、地球と回線を繋ぐ。

『怖い顔だ。用件はあれかな、アカシとアサヒの』

「ええ。こちらの通信は――」

『砲艦の増援、だったな。もちろん砲艦の重要性も鑑みて打診したが、派遣できるほどのドレッドノート級も残ってないとの返答だった』

「時間断層でアレほど無駄に作っておいて、ですか?」

『そうだ。俺も不思議に思って工廠に足を運んだところ、何とまあ大量にドック入りしていたよ』

「ドック入り? 時間断層が潰れてから、シナノですらまだメンテナンスは……」

『ああ。どうやらメンテナンスじゃなくて大改装のようだ。全艦、武装と艦橋が外されていた』

「それは……」

『空母にでもする気らしいぞ、ヤツら』

「……機体と、パイロットは」

『無人機も多いだろう』

「銀河の……ですか」

『ああ。次の補給で武蔵にも一機積む事になった』

 予想はついていた。

 時間断層を使い、不相応に進化した戦術AIがあり、2度の戦争で人口が減ったこの時代でその手を取らないはずがない。

 それでも、と沙耶は唇を噛む。

『パイロットも減っていくかもしれん。もしかしたら、アルタイルのパイロットのデータも』

「あの艦は、もうなくなりました」

 とっさにそう返す。

『とにかく、増援についてはもう一度打診してみよう』

「ありがとうございます」

『たまには休めよ』

 通信が切れ、暗転した画面をしばらく眺めていた。

 

 

 通信室を出て廊下を歩いているところに、呼び出し音が響く。

『艦長、お手数ですが艦橋までお越しいただけますか?』

 声を聞けば分かる、夏姫の半ばからかう声だ。

「まったく……」

 少し綻んだ顔を帽子で隠し、踵を返してエレベーターに乗る。

 エレベーターの扉が開くと、そこには案の定ニヤニヤと笑みを浮かべる夏姫の姿があった。

「なんなの、夏姫」

「実は提案なんだけどさ」

「提案?」

「そ。私たち初陣乗り換えたわけじゃん?」

「そうね」

「だから、ここで艦長……艦隊の指揮官に一言もらえないかなーって」

「…………夏姫」

「ん?」

「私がそういうの苦手なのは知ってるでしょう?」

「よぉーく知ってるよ」

「はぁ……」

 明らかに面白がっている様子の彼女に嘆息し、沙耶は首を横に振る。

「お断りよ。それこそ夏姫がやりなさい」

「それは艦長命令?」

「……いつもより意地が悪いのね」

「あたしも分かってきたって事だよ」

 満面の笑みを浮かべる彼女に辟易した態度で嘆息する。

 そのまま踵を返そうとすると、夏姫は「あ、そうそう」と続けた。

「全艦に、3時間後にシナノ艦長からメッセージがありますって送っておいたから」

「……3日間格納庫の清掃を命じます。蓮に認めてもらうまで綺麗に」

「ぅぇ……了解……」

 途端に苦虫を噛み潰したような顔になる彼女を振り返りもせず、沙耶はエレベーターに乗り込んだ。

「分かっててどうしてそんな事したんですか?」

 沙耶を乗せたエレベーターが動き出すとすぐに尊が振り返る。

「んー、沙耶にはちょっとだけ勇気を出してもらわなくちゃいけないから、かな」

「勇気……?」

「そう。沙耶は少しだけ、戦うのが苦手だから」

「そうは見えませんけれど……」

「強がってるだけだよ。それに……沙耶はヤマトを……」

 そこまで告げ、夏姫は首を横に振る。

「やっぱいいや。あたしから言わなくたって」

「……?」

 思わせぶりに席につく彼女に首を傾げつつ、尊は傍の時計に目をやる。

 

 

 ――3時間後。

「定刻です」

「はじめて」

 通信長の工藤の操作により、シナノから僚艦の全てに通信が繋がる。

 彼のグーサインを合図に、沙耶は口を開く。

「皆さんはじめまして。シナノ艦長の如月沙耶と言います』

 艦橋でそれを聞いていた尊は、漆黒の宇宙を見つめながら耳を傾ける。

『まずは到着すぐの初陣、ご苦労様でした。あなた達のおかげで勝利を収める事ができました。ありがとう』

 慣れていないのか、少しぶっきらぼうに放たれた言葉。

 しかしどこか、無機質ではないという事は伝わってくる。

『私は、この艦の艦長を拝命する前にある艦に乗っていました。それはアンドロメダ級”6番艦”、アルタイル。ご存知ないかもしれません。なぜならこの艦は既に船籍を抹消され、名実ともに存在しない艦になったのですから』

「存在……しない……?」

『波動実験艦「武蔵」と共に旅をしたアルタイルは戦闘で大破、武蔵の考案したトランスワープによって地球に帰還。その後アルタイルは時間断層で建造中の艦へとパーツを供与するため解体、すぐに船籍も存在も消されて、今では6番艦はアマテラスとなりました』

 しばしの間を置いて、なおも沙耶の言葉は続く。

『私は、戦うのが苦手です』

 尊には不思議と、その声がいつもよりか弱く聞こえた。

『戦えば、誰かの居場所は無くなり、誰かの大切な人の命も消えてしまう。私は、希望を信じてはいない。ヤマトが来れば。ヤマトの遺伝子を。先の戦いではそんな言葉を何度も聞いた。けれど、そんなものは幻想でしかない。この戦場に、「私達がいるところにヤマトはいない」のが現実。ヤマトも、ヤマトのクルーも神じゃない。守れないものだってある。だから私は、私の持てる力だけを信じる。あなた達仲間を信じている。地球を守るために同行してくれたガミラスの方々は必ず、私が全力で守り抜く。地球を母なる星とする仲間達。命を賭してとは言わない。けれどどうか、地球を守るために力を尽くしてほしい。それが、私があなた達に求める事』

 強がっている声には聞こえない、力のこもった声。

 指揮をしている時よりもはっきりと、彼女の意思が伝わってくる。

『どれくらいの戦いになるのかは分からない。でも、私は必ず』

「――」

『敵を、ここより地球には近づけさせるつもりはない。本艦隊は地球の盾となり、我が艦シナノが僚艦の盾となる。そして私は、あなた達の盾となる。だからどうか、私に力を――』

 

 

「気は済んだ?」

 演説が終わってから1時間。

 バツの悪そうな顔で艦長室の扉を開けた夏姫に、沙耶はあくまで満面の笑みで問いかけた。

「うん、満足」

「そう」

「沙耶の気持ち、きっとみんなに伝わったよ」

「余計なお世話よ」

 言いながら、彼女は親友へと紙を突きつける。

「何これ」

「ヤマトでバツ掃除をさせられた人が持っていたスタンプカード。これが溜まるまで懲罰掃除」

「ふぅん……ぅぇっ、これ格納庫だけだから全然スタンプたまんないじゃん!」

「そりゃそうでしょう、ほかの艦まで巻き込んでるんだから」

「うぐ……いや、でもこれはあんまりじゃない⁉︎」

「そんなこと言っていいの?」

 今度は沙耶が笑いながら、さらに追加のカードをチラつかせる。

 その数、10枚ほど。

「いや、やらせる気満々じゃん! わかった、やるから! ちゃんとやるから!」

「よろしい」

 深いため息をつく夏姫の横顔を見つめ、沙耶は椅子へと腰を下ろした。

 

 

 明かりの消えた艦橋で1人、ただ宇宙へと意識を溶かす。

「盾……か……」

 人をモノのように例える彼女の言葉を反芻する。

「――いや」

 ――モノのように例えているのは、誰かじゃなく自分だ。

 彼女は、自分を艦を動かすパーツとして見ているのかもしれない。

 誰かを守るために進んで犠牲になる。

 それは美しいが、危険な思想。

「どうしてあの人は、あんな……」

 

 

 ――地球。

「ヤマト級を憎んでいる?」

 波動実験艦武蔵の艦長、近藤に呼び出された有賀と柑奈は彼の口から語られたシナノ艦長の過去に唖然としていた。

「じゃああの人は、ヤマトと、武蔵と銀河のせいで大切なものを?」

「結果論だ。ただそこにヤマトが来ず、武蔵がいて、銀河がいただけだ」

 柑奈の言葉に返した近藤は、そのまま視線を天井に向ける。

「だから彼女は、シナノだけは何かを守りきる存在にしたいと願い、自分を盾と言い切ったんだよ」

「1人にできることじゃないですよ、それは」

「ああ。言ったんだがなぁ、あの頑固娘は理解できないときた」

「どうして艦長は、如月艦長の事を」

「それは単純だ」

 宇宙に浮かぶシナノを浮かべ、そして武蔵がいなかった戦場に思いを馳せる。

 そこには銀河がおり、有人、無人を問わないドレッドノート級が白色彗星を押しとどめるために奮戦していた。

 アポロノームをはじめとした先遣隊のほとんどは沈み、ヤマトも消えたその戦場で。

 近藤の盟友、沙耶の父親は閃光に消えた。

 

「頼まれたんだよ。娘を頼むとな」

 

 星の瞬く宇宙で、接舷していたアカシを見送ったシナノは艦の明かりを再び灯す。

 僚艦の補修が終わるまでその場を動けないシナノはさながら宇宙の灯台のようだった。

 アルタイル配属直後に父親と撮った最初で最後の写真。

 そこにはもう1人、彼女の大切な人が写っていた。

「……」

 日付変更を告げるアラーム音を遠く感じ、彼女は重い目蓋を閉じる。

 ひとときの平穏。

 それは彼女達の心を洗い流していく――。

 

 

 ――第4話 「盾となりし」――




 ありがとうございました。
 今後も更新は劇遅になるかもしれません……止めるわけではないのでご安心ください。
 それではまた次回、お会いしましょう。
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