最近暑くなってきましたね……。
さて、シナノの第5話となります。遅くなりました。
それでは、あらすじから。
あらすじ
太陽系に近づく謎の敵の侵攻を食い止める任務にあたるシナノ。
幾度となく近づく艦隊を撃退していたある時、沙耶はふと武蔵と同行していたアルタイル勤務時代の事を思い出すのだった。
――2203年。
「月面で隔離してる奴らの中に怪しい奴は?」
「今んとこはいないな」
武蔵と共に戦い大破したアルタイルは、地球へと帰還する前に月面ドックに入港していた。
波動エンジンと左舷補助エンジン全てを失ったアルタイルが地球大気圏を越えられるかを確認するため、という事のようだ。
施設内を歩いていた当時パイロットだった沙耶は、その会話を聞いて足を止めた。
「隔離……?」
どこか引っかかる言葉に、彼女は2人の将校へと歩いていく。
「ご苦労様です」
「そちらこそ。ところで、先程隔離という言葉が聞こえたのですが」
「ああ、ここにはヤマトからシュトラバーゼで預かった11番惑星の避難民を隔離してあるんですよ」
「避難民……」
「同行していたレドラウズ教授がガトランの蘇生体でしてね。その他にも数名が紛れ込んでガミラス艦のエンジンをぶっ壊しまして。もしかしたら、更にこの中にも紛れてるんじゃないかと」
外壁につけられたモニターには中の様子が映し出されており、沙耶の目は生気を感じられない少女へと向けられる。
「あんな小さな子まで……」
「今のところ子供が蘇生体になった報告はありませんがね、念のためです。それに」
「それに?」
「そのガミラスの子……イリィって言いましたか、彼女は11番惑星で家族が全滅しているので特に疑いがあるんですよ」
「……そう……」
下げた視線にある艦が飛び込む。
それは壊れていたものの、はっきりそれと分かる造形を留めていた。
「ヤマト……」
「イリィという子の私物みたいです。永倉さんが回収していたのを預かったのはいいんですが、あの子とまともに話せず返せずじまいで」
「……ちょっと、話してきてもいいですか?」
「んぇ? あ、ああ……」
「返してきます」
ヤマトの模型を手に、深呼吸の後で扉を開ける。
――大丈夫、夏姫に教えてもらったとおりに。
「何かありましたか?」
閉じた扉と互いを見る将校に話しかけたのは、アルタイルに勤務するもう1人の女性。
「……沙耶?」
モニターに映る中の様子を見て名前を呼ぶ。
「お知り合いで?」
「はい。うちのフネの航空隊副隊長です。彼女、どうして中に?」
「避難民を隔離していると言いまして、そのガミラスの女の子の話をしたら中に」
「……そうですか……」
頑張れ、沙耶。
少し成長した彼女の姿に微笑み、夏姫はその場を後にした。
自分に近づく足音を感じ、彼女は視線を上げた。
隣に来てしゃがみ込む笑顔の女性から少し距離を取り、じっと見つめる。
「こんにちは」
「……こんにちは……」
「ヤマトに乗ったのよね。どうだった? ヤマトは」
「みんなを助けてくれたの。たいちょーさんや、みんな……」
「うん」
「あのね、わたしヤマトが来ればみんなを助けてくれるって思って外に出たの」
ヤマトの名を出すと、イリィの顔は次第に明るくなっていった。
「お兄ちゃんが言ってたから。ヤマトがくれば、あんな奴らすぐにやっつけちゃうって。だから」
「みんなを助けて欲しいって、言いに行ったの?」
「……うん。たいちょーさんに聞いたら、『ヤマトは必ず来る』って言ったの。そしたら、本当に来てくれたの! 空からぱぁーって!」
両手を広げ、恐らくワープアウトの様子を表すであろう手振りを見せる。
想像はつく。
その姿を見た彼女が、どんな気持ちでヤマトを見続けたのか。
ヤマトに、どんな感情を抱いたのか。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「なに?」
「ヤマトは、今どこにいるの?」
「……ヤマトは今、遠い星で困ってる人を助けて、地球を守るために戻ってきてるの」
「本当? じゃあまたみんなを助けてくれる?」
「ええ。だから」
沙耶は優しい笑みで後ろ手に隠したヤマトの模型を差し出す。
「ヤマトを信じて。希望を忘れないでね」
「……うん!」
瞼に残るその笑顔はとても眩しくて。
忘れかけていたものを思い出させるようだった――。
――そして、2204年。
目を開くと、艦橋のモニターには現在の敵味方の座標が記されていた。
突入したガミラス艦隊の巡洋艦が敵を撹乱し、そこに航空機が急襲をかける。
更にその外周からは主力戦艦が艦砲射撃と共に包囲を整え、戦力を抉り取る。
――ヤマトにだって、救えないものはあったのに。
「第一次攻撃隊は後退せよ。ガミラス艦も退避、無人艦は前進し穴を埋めて」
遠くで一際大きく光る爆発の中に、古く懐かしい記憶が浮かぶ。
――私達は人間だから。
「敵艦隊、約半数を撃破。対して本艦隊損耗率はまだ1割以下です」
「敵艦隊に退路を解放。包囲解除。撤退を促して」
モニターには、敵艦隊の後方を開けて前へと回る様子が映し出される。
沙耶は幾度となく襲いくる艦隊を殲滅することなく、撤退を促してきた。
あの星には戦力が十分にあると伝えさせるために。
しかし今のところ、その効果は現れている様子はない。
「敵艦隊、撤退していきます」
「追撃はしない。軽微でも損傷のある艦は即座に後退。全機帰投」
なんてことはない。いつもの戦闘。
しかし。
「本艦所属第二編隊より入電あり。撃沈した敵艦から投げ出された兵を目視。損傷なし、生体反応検知。船外服と思われる衣類を着装しています」
「生存者……⁉︎」
夏姫の声に目を見開く。
「まさか……シーガル、医務科のクルー3名を乗せてできる限り速く発艦せよ。第二編隊は生存者の保護を。無人艦を接近させて、保護の後容体に変調あれば無人艦にて待機!」
思わず立ち上がり指示を出した沙耶は、そのまま力を抜いて座り込む。
――まさか、生存者が……。
独房の扉の前で、深く、長く息を吐き出す。
あれから2日。
生存者の青年は独房の中で意識を取り戻した。
その知らせを受けて、艦長の沙耶自ら彼と話すために出向いている。
「こんにちは」
青年は沙耶を一瞥すると、すぐに壁を見つめた。
――まあ、そうよね。
彼女の首にはガミラスから借り受けた翻訳装置がつけられ、敵から傍受した言語資料からリアルタイムで情報が更新されている。
沙耶が放った挨拶の言葉は、間違いなく彼に届いているようだった。
「ちょっと話さない?」
半ば強引に彼の前に座り、じっと待つ。
腰の銃は部屋の外に置いてきた。
手袋と帽子も外し、艦長に渡されているコートも脱いである。
極力、威圧感を与えないように。
「故郷はどんな星?」
「……」
「貴方は――」
「敵に話すことはない」
「……そうね。でも、私は貴方達を敵だとは思ってない」
「夢物語だ」
「いつか、それが叶う日が来ると信じてる」
「……」
再び黙り込む。
しかし、彼の目は先程と違って人間らしさを宿していた。
「ここ、寒くない?」
「故郷より暖かい」
「よかった。身体は?」
「なんともない」
「そう。……なら、近いうちに貴方を帰さないとね」
そう言って立ち上がった沙耶に、青年は呼び掛けた。
「お前たちの言葉で、お前たちの星はなんて言うんだ」
「地球よ。私達の故郷」
「……我々の星は、ボラーという」
「ありがとう。必ず、私達が貴方を仲間の元に帰すわ」
――1週間後。
イスカンダルへ向かう旅路で、ヤマトがメルダにそうしたように、青年には1週間分の食料と鹵獲したボラーの機体を譲渡しシナノの第3格納庫から解放した。
「あの人が私達の事を話すとは考えてなかった?」
「あの人との会話で、私はこの艦隊の戦力を話していない。だから大丈夫よ」
「そっか」
艦長席の近くでその光を見送っていた夏姫の問いに答え、沙耶は視線を戻した。
「なんか、戦いにくいです」
尊の言葉に頷く。
「ええ、私もよ」
「どうして助けたんです?」
「敵でも、命に変わりはない。助けたかったから助けた。それだけよ。あぁ、でも……」
天井を見上げて、ただ吐き捨てるように。
「負けた艦隊から生還した人があの星でどうなるか、聞かなかったわね」
もしガトランティスのように、負けた艦隊に待っているのがただ滅びだったとしても。
――私達のエゴだとしても。
――救えなかった後悔だけは、したくなかった。
星の海に佇む艦に近づく僚艦を受け入れ、シナノはエンジンを止めた。
願わくば、あの青年に戦場で敵として再会することがないようにと。
そんな沙耶の願いは叶うだろう。
ただ、青年に生きてほしいという願いは恐らく――。
それを知る者は、地球にはいない。
――第5話 「侵略者の名」――
ありがとうございました!
1話に比べたら沙耶の言葉も柔らかくなってきた感じがありますね。
最近色々と忙しくて投稿遅くなりがちですが、ちょくちょく書いては更新しますのでよろしくお願いします(笑)
それでは、また次回。