航宙空母シナノ 太陽系防衛戦線   作:朱鳥洵

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 皆様お久しぶりです。このご時世いかがお過ごしでしょうか。
 僕の執筆進行は相変わらず亀よりも遅いわけですが……なんとかしたいですなぁ。
 そんなこんなでシナノも今回が第6話。もうすぐ折り返しですね。
 では、あらすじから。

あらすじ
 戦闘の最中、シナノへ回収した捕虜から、敵の名を知った沙耶。
 敵の名は、ボラー。
 ヤマトに倣い、捕虜を解放した彼女達に、再び魔の手が迫る。


第6話 「旗艦突貫」

「本艦前方、距離5万にワープアウト反応。数20」

「全艦戦闘配備。各艦、陣形アルファで対応せよ」

 シナノ両翼から前進してきたガミラス艦隊と、その後方に追従する4隻のドレッドノート級が陣形を整える。

「2隻に拡散波動砲の用意を。発射予定は30分後、全巻に通達。作戦開始」

 ガミラスの巡洋艦が加速する光を見送り、シナノは甲板から艦載機の射出をはじめた。

 

 光の尾を引いて戦火へ飛び込んだ機体は、一撃離脱で敵艦を着実に追い詰めていく。

「今回も楽勝ですね隊長」

「かもな」

 そんな通信が流れるほど、彼らは戦いに慣れ始めていた。

 ――しかし。

「本艦後方に重力場の歪みを検知! 更に敵艦隊後方に大きな歪みが発生……ワープアウト反応です!」

 レーダーに増えていく敵を示す光点。

「数は」

「総数10、正面の艦隊後方には大型の艦もいます」

 シナノへ迫る敵は砲撃を始め、艦底に穴を開ける。

「波動砲発射中止、2艦を本艦の護衛に回し、残りの2隻でガミラス艦隊の後退を援護! ガミラス艦隊へ後退命令。転舵反転、全砲門、発射口開け!」

 煙を引きながら艦体を振り回したシナノは、艦橋前部につけられた砲身で敵を捉える。

「撃ち方はじめ!」

 青い光を纏い突き進む陽電子の束。

 それは敵艦の装甲を突き抜け爆炎を上げるが、撃沈には至らず。

 続いて敵へと突き刺さった魚雷とミサイルがようやく敵を葬り去る。

 反転し、前進しながら主砲の一撃で敵を沈める無人艦。

 波動防壁を展開していることによって多少威力が落ちているとはいえ、戦艦の大口径砲の破壊力は強大に見えた。

 ――武蔵とアルタイルがいた時は、そうは思わなかったのに。

 そう思ったのも束の間、入電を示す音が鳴り響く。

「艦長、ガミラス側から作戦が具申されました。どうしますか」

「回して」

 爆炎と弾幕の光に包まれる艦橋で、モニターに映る作戦内容に目を通す。

 ――これだとダメね。

「ガミラス艦へ打電。後退しつつ応戦、シナノは構わず自艦隊の防衛に努めて。無人艦は引き続き、本艦とガミラス艦隊の防衛を」

 無人艦2隻が放つ対艦グレネードと艦橋砲、シナノの魚雷管から放たれた融合弾の光球を目眩しにして敵艦隊の只中に飛び込む艦載機。

 レーダーで見る限り、ガミラス艦隊は作戦が棄却された事に対する不満はあれど命令に従い後退、陣形を整えて応戦しているようであった。

 敵の数は徐々に減りつつある。

 しかし。

 ――ここで散開して攻勢に回っても、間に入り込まれたら……。

 そんな考えが過ぎる。

「くそ、旗艦さえ倒せれば撤退させられるかもしれないのに……!」

 戦術長がそんなことを呟く。

 そう、旗艦さえ倒せれば。

「……旗艦さえ……」

 考え込む。

 旗艦さえ倒せれば、全滅はさせられないまでも撤退に持ち込める可能性は高まる。

「よし……全艦に命令打電!」

「全艦……?」

「ええ。本艦は只今より回頭、敵旗艦への攻撃を敢行する。ガミラス艦隊のうち、ケルカピア級2隻は本艦と同行、メルトリア級とゲルバデス級は回頭し後方の敵に対応せよ。その他の艦は本艦の援護を、無人艦隊は自動ロックでの砲撃を続行、波動防壁展開……作戦開始!」

 艦のスラスターを開いてその場で180度旋回したシナノは、波動エンジンを全開にしてガミラス艦隊の下へと潜り込んだ。

 それを見たメルトリア級とゲルバデス級は砲塔を指向させつつ、シナノの上を通過して後方へと回る。

 下から顔を出したシナノの左右についたケルカピア級は、シナノ前方の主砲塔の代わりとして砲撃を行う。

「ガイペロン級へ、突入部隊援護のため艦載機を爆装して出撃。ゲルバデス級は本艦の代わりに指揮を任せる。以上」

 飛行甲板を蹴ったスヌーカの編隊をレーダーで確認し、沙耶は航海長へと指示を飛ばす。

「最大速力で敵旗艦へと肉薄! 戦術長、ロケットアンカー、近接戦闘用意!」

「了解、ロケットアンカーの投射システムを武装システムへリンク、パルスレーザーの威力を最大出力へ!」

「機関最大速力!」

「任せな、行くよ!」

 シナノから離れ、道を開くケルカピア級の中央を、光を纏った巨艦が通り過ぎる。

 ゆっくり、大きく旋回しながら巨艦に近づく。

 迎撃の砲火は置き去りにされ、シナノはそのまま敵の脇を通り抜ける。

「ロケットアンカー射出、機関停止!」

「ロケットアンカー、射出!」

 シナノの左舷から分離した錨が敵の装甲を貫き、シナノをそこに繋ぎ止める。

 ――ヤマトの戦術に倣えば……パルスレーザーの砲門数が多いこちらが有利のはず……。

「戦術長」

「はい」

「敵艦の艦橋を狙って。確実に無力化したい」

「…………了解」

 巻き取られる錨。

 砲身を持ち上げた無数のパルスレーザーは、艦が回り込むと同時に光る艦橋の窓へと向く。

「撃て」

 シナノが纏う赤い矢は装甲に弾かれながら徐々に命中点を上げて、遂に艦橋の窓を貫き炎に包む。

「ロケットアンカー解除、砲撃はじめ!」

 装甲から離れた錨は、敵艦へと衝突し装甲を抉りながらシナノへと戻っていく。

 燃える艦橋を貫いた陽電子砲と、至近距離から装甲を撃ち抜くミサイル、魚雷が艦を火の海へと変えていた。

「離脱、最大戦速!」

 艦の加速に置いて行かれた錨が艦橋を薙ぎ倒し、破口から噴き出す爆炎が艦を包み込む。

「残存艦は?」

 爆発を背に戻るシナノのレーダーには、まだ数多の光点が表示されていた。

「味方艦に損失は無し、敵艦残存率67%」

「そう……良かった」

「敵艦隊、撤退を始めます」

「全艦に通達、撤退する敵艦の追撃は必要ない。各艦損害を確認されたし」

 

 

 艦隊を引き連れて補給場所へと帰還したシナノにアカシが接舷する。

 同時に、地球から地球、ガミラス双方の食糧補給のために新造された補給艦、マミヤが合流していた。

「武蔵が出撃した?」

『ええ。単艦での探索任務でして』

「どちらへ?」

『大マゼランだそうです。期間は2年間、アケーリアス文明の……もう一つの方舟の探索、とか』

「そうですか……」

 しばしの沈黙。

 そして、沙耶は再び口を開く。

「武蔵単艦との事ですが、装備は」

『艦首波動砲が観測装置に換装されたほかは、佐伯技師長の試作装備を搭載したとの事です』

「それだけ……?」

『いえ。他にはガトランティス戦時に武蔵へ仮編入していたアルタイルの部隊が、正式に武蔵所属になっています』

「……そう……」

『もう艦もありませんから……』

「そうね。名前すら残っていないもの」

『……失礼しました』

 彼の顔は、つい今しがた彼女が元アルタイル所属だと気づいたことを物語っていた。

「良いのですよ。事実ですから」

『お心遣い、感謝いたします』

 頭を下げると、彼は『あぁ、それと』と付け足した。

『近藤艦長も、貴女の事は気にかけておりました』

「ありがとうございます。では、こちらからの報告を」

『お願いします』

 数十分後、通信室から出た沙耶の耳に艦内放送が飛び込んできた。

『艦長、至急艦橋へとお願いします。ガミラス艦が接舷許可を求めてきています』

「接舷許可……?」

 首をかしげ、沙耶は艦隊へと駆け出した。

「どうしたの?」

 開いた扉から通信席へ向かうと、ゲルバデス級の艦長からの電文が届いていた。

 それも、山のように。

「いつから?」

「本艦へのマミヤの補給が終わってからです。艦長は通信中でしたが」

「どうする、沙耶」

 夏姫の言葉に笑顔を見せ、沙耶は返答を打ち込む。

「許可します。客人には丁重にね」

 直後、沙耶は艦橋にいる面子へと目を配る。

「ガミラス艦の接舷に備え。夏姫、蓮、それと戦術長、技師長は後で応接室に来て。以上」

 エレベーターに乗り込んだ彼女は、制服の襟を正して深く息を吸い込む。

 ――大丈夫。

 扉が開いた時、彼女の瞳はまっすぐ前を見つめていた。

 

 ――第6話 「旗艦突貫」――




 ありがとうございました。
 ここからちょっと戦闘がない話数となります。
 次はいつ書き終わるのやら……。
 それではまた次回、お会いしましょう!

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