航宙空母シナノ 太陽系防衛戦線   作:朱鳥洵

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 忙しさにかまけて何もできていなかったら遂に年末ですよ、ええ。
 1年が1か月みたいな速度で駆け抜けていく事に若干の畏怖を覚えます。
 そんな’20最後のシナノ投稿ですが、なんと平和回です。
 それでは、どうぞ。

あらすじ
 西暦2203年に開始したシナノの任務も月日が過ぎ、2204年。
 先の戦闘で、シナノはガミラス艦隊からの入電を無視し、旗艦でありながら敵旗艦に肉薄するという暴挙に出ていた。
 ガミラス艦隊からの入電が相次ぐ中、シナノはガミラスの側の指揮官を招き入れていた。


第7話 「地球とガミラス」

 ――夢を見る。

 それは白い霧へと消えていく、あの人の記憶。

 手を伸ばしても、足を踏み出しても、どれだけ叫ぼうと。もう届かない、届くことのない、永遠の彼方。

 あの時から。

 あの日からずっと……止まったまま。

 

 

「抗議……ですか?」

 ガミラスからの使者を座らせた沙耶は、極めて冷静に問う。

「ええ。我々が問いたいことは二つ。一つは、我々の作戦を無視したこと。もう一つは、旗艦でありながら指揮を放棄し突貫したこと」

「でしょうね」

 予想はできていた、というように嘆息すると、沙耶はまっすぐ彼を見据える。

「任務を始める際、私は、本艦と私があなた達の盾になると言いました。それだけでは理由になりませんか」

「なりませんね。旗艦の……いえ、”貴官の”存在意義を貴女は履き違えている」

「……”貴艦”……?」

 首を傾げる。

 ガミラスの翻訳機で日本語のイントネーションによる異議語を使えるのかという疑問もさることながら、沙耶にはその真意が分かりかねた。

「貴女は、自らとシナノを我らの盾だと言い切った。あの演説は素晴らしい。だからこそ、我々は――」

「あなた方は、ガトランティスとの戦いで多くの人を失った地球人類の代わりに戦ってくれている。私達は、心からあなた達を頼りにしています。そして我々の義務は、”たとえ命に変えても、部下達を生きて帰すこと”なのです」

 失礼します、と一言添えて沙耶は席を立つ。

「あっ、沙耶!」

 夏姫は彼女が出て行った扉と客人を交互に見て、頭を下げる。

「ごめん、後はよろしく!」

「は、はい!」

 駆けていく彼女の背中を見ていた尊は、脇に感じる衝撃に振り向いた。

「返事したからにはしっかりやるんだよ、戦術長」

「いえ、ここは機関長が」

「うちはキミだと思うよ。みんなも」

 頷く彼らを見て息を吐いた尊は、自らよりも高官なのは明らかな異郷の仲間に頭を下げる。

「失礼致しました。僭越ながら、ここからは僕が」

「ええ、喜んで」

 

 

「沙耶、待って!」

 廊下でようやく親友の腕を掴んだ夏姫は、振り払おうとする彼女をそのまま壁に追いやる。

「どうしたの、らしくないよ」

「そんなこと無いわ」

「ううん。沙耶はいつも、しっかりとした答えを出すから。あんな受け答えはしないはずだよ」

「……そう……なの?」

「沙耶。前から気になってた事があるの」

 夏姫の声色の変化は彼女にも分かった。

 その目は真剣で、目を逸らしたらいけないという威圧感すら含んでいる。

「アルタイルを降りてから、沙耶はずっと自分を蔑ろにしてる。どうして?」

「夏姫には……」

「ちゃんと答えてっ!」

 肩を掴む力が強い。

 ただそれだけで、普段の彼女とは違うと実感する。

「私はもう、誰も失いたくないだけ」

「それは、あの人のこと?」

「ええ。そんな気持ちを持つのはもう嫌だもの」

「だから、沙耶は」

「私は死んでも構わない。それで守れるなら」

「何を言ってるの……そんな事して、みんなは!」

「私のせいで部下を死なせることは、何よりもあってはならないことなの!」

「分かるけど、沙耶を失ったらみんなが悲しむんだよ⁉︎」

「もしそうなったら、私の事なんてすぐに忘れて」

「……ッ!」

 廊下に破裂音のようなものが響き渡る。

「ふざけないで……」

 目尻に涙を浮かべたまま、夏姫は遠くへと走り去っていく。

 ただ痛む頬を手で押さえ、ただそこで立ち尽くす。

 ――どうして、分かってくれないの。

 

 

 ――同刻、応接室。

「すみません、艦長もきっと、あなた達の言葉は理解していると思うんです」

 尊の言葉に彼は柔らかい笑みで頷く。

「分かっています。我らも彼女と同じ気持ちですから」

「同じ?」

「ええ。この艦隊に志願した我々は、命を賭してもシナノを守ることが使命だと考えているのです」

 予想外の言葉に目を見合わせる。

 同時に、抗議文がまとめられたものではなくそれぞれの艦からの直接入電であった事に合点がいった。

「あなた方は、月面の大使館から指名されたのでは……」

「大使館から話があったのは事実です。しかし、それはあくまで志願兵の募集でした。いなぁ困りましたよ、駆逐艦のクルーも行かせろと聞かなかったもので」

「……そうなんですか……」

 疑うわけではない。彼の目を見ればそれが全て事実なのは明白だ。

 それでも。

 これだけは聞かねばなるまいと、尊は更に言葉を重ねる。

「あの、どうしてそこまで」

「これは地球への恩返しと、我々の贖罪なのです」

「恩返しと、贖罪」

「今地球にいるガミラス人の半数以上は本土からの移住者です。我々もまた然り。そして我々は、ヤマトを敵とし戦おうとしてきた」

「戦争ですから」

「私がヤマトをこの目で見たのはガミラス本土での事です。その時のヤマトの戦い方を見て、私は震えました」

 天を仰いで思い出すように目を閉じた彼は、興奮混じりで続ける。

「あの艦の、なんと気高いことか。敵の本星を前に民を滅ぼすこともせず、被害を最小に止めるために艦だけを撃ち抜き続けた。そして」

 今彼の目には何が写っているのか、シナノのクルーには分かるまい。

 彼らはヤマトが、遠いマゼランで何を為したのかを知らないのだから。

 彼らが知るのは、ヤマトがガミラスと和平を結び、イスカンダルからコスモリバースを受け取ったという結果だけ。

 ガトランティスとの戦いでヤマトが孤独な戦いをしたのも、彼らが戦地で見る事はなかった。

 戦場でのヤマトを聞くのは、これが初めてなのだ。

 

「――そしてあの艦は、目の前で我々を救ってみせた」

 

 ヤマトを語る彼は、満足げに微笑む。

「あの光はとても……美しかった。無論あれが道中、我々の仲間を葬ってきたのは分かる。だが少なくとも、あの時放たれた青い光はただ我々を救うためのものだったはずだ。あれを人は、英雄と呼ぶのかもしれない」

「ヤマト……ですか……」

「我々の中には、バランでヤマトと会敵した者もいる。だが彼らでさえ、ヤマトは我々の滅びを望んでいなかったと話しているよ。その時我々は決めたのだ。『せめて、あの時救ってくれたヤマトに恥じない軍人でいるのだ』と」

「それが、恩返し」

「ええ。我々はヤマトに救われた。だから今度は我々の全力を賭して地球を守らせてもらう。そのチャンスを与えられた事を嬉しく思うよ」

「しかし、それはガトランティスから地球を守るため共に立ち上がってくれた事で既に」

「ありがたい言葉だ。だが、真に地球を救ったのはヤマトと地球の方々だ。我々はまだ、守れてはいない。それにもう一つ、我々には贖罪がある」

 今度は一転、尊達をまっすぐ見つめる。

「我々ガミラスは、君たちの星を侵略してしまった。この罪は、我々の一生をかけて地球を守る事でしか贖えない」

「いえ、そんな……」

「たとえデスラー総統の命であろうと、この星を侵略したのがザルツ人の部隊であったとしても、ガミラスが侵略したのは事実だ」

「しかし、戦端を開いたのは地球でした。結局は……」

 尊が言葉に詰まったのを見て、後ろから機関長が「ちょっとよろしいですか」と声をかける。

「贖罪はともかく、ヤマトに救われたことから、どうしてシナノとうちらを守ることになるんです?」

「シナノはヤマトの同型艦だ。それに、これは私個人の感情でもある。私は、最初に聞いた艦長の演説に、ヤマトと同じ気高さを感じた。演説だけじゃない、いるかもしれないという生存者のために命をかけるその姿に、私は惹かれた。この艦を無くしてはならない。この艦のクルーを守らねばなるまいと」

「それは、うちの艦長とうちらに――」

「可能性があると信じたのだ。だから、守らせてほしい。この艦を」

 そう言って、彼は頭を下げた。

「僕たちも、信じています。あなた達を」

 尊が差し出した手と握手を交わした彼は、どこか満足げに笑っていた。

 

 

 その後のこと。

「抗議って言うから何かと思ったら……」

「まあ良かったじゃんか、艦隊を離れるとか言われなくて」

「いてっ」

 勢いよく背中を叩かれた尊が振り向くと、蓮が二ヒヒと笑っていた。

「ちょっとは成長したかな、戦術長」

「茶化すなよ朱音」

「うるさい、直輝こそ何もしなかったくせに」

「それは朱音もじゃなくてか?」

「ぅ……とにかく、私は艦橋に戻ります。艦長への報告は戦術長が?」

「あの後ガミラスの方と話したのは僕ですし、多分僕が……」

「じゃあ、後はよろしく」

 手をひらひらと振ってその場を後にする一同を見送り、尊は一つため息をつく。

「はぁ……」

 落胆した気持ちを鼓舞するように頬を叩き、彼もまた一歩を踏み出したのだった。

 

 

 外から聞こえたノックの音に意識を引き戻され、咄嗟に応える。

「何?」

「戦術長、御上尊です」

 少し緊張した声に微笑む。

「入って」

「失礼します」

「御上くん、コーヒーとお茶はどっちが好き?」

「えっ……ぁ……苦くなければ、コーヒー、です」

「分かったわ。そこに座ってて」

 少し広い艦長室は、ヤマトとは異なり艦内の中腹に入っている。

 シナノの艦橋最上階は航空機の飛行甲板への発着管制塔になっているからである。

 おとなしく座る彼にミルク多めのコーヒーを出すと、自分は入れたままのコーヒーに口をつける。

「ありがとうございます……」

「緊張しないで。ここはプライベートだから」

「は、はあ……」

 やっぱり、彼にとって自分は怖い上官なのかと内心落胆しつつ、沙耶は夏姫にそうするように語りかける。

「ごめんなさい、勝手に抜けたりして」

「いえ、ガミラスの方も、理解してくれていました」

「そう……後でみんなにも謝らないとね。もちろん先方にも」

「ガミラスの艦隊は、変わらずシナノについてくれるそうです。守らせてほしいって、逆に頼まれました」

「どんな話をしていたのか、詳しく聞かせて?」

 それからしばらく尊は事細かに説明をしてくれた。

 ヤマトの事と、ガミラスの贖罪について。

 そして、シナノに思っている事も。

「――以上です」

「ありがとう」

「……あの、艦長」

「ん?」

「聞いてもいいですか」

「もちろん」

 沙耶と向かい合った尊は、まっすぐ彼女を見る。

「艦長は、戦うのはお嫌いですか」

「……あなたは?」

「僕は……あまり好きではないです」

「私も同じ。本当は戦いたくないわ」

「なんとなく、そうじゃないかと思ってました。艦長が敵の殲滅を望んだ事は一度もないですから」

「御上くんなら分かってくれると思ってた」

 柔らかく微笑む彼女に、気づけば尊も微笑み返していた。

「あの、艦長」

「また質問?」

「艦長は、どうして戦っているんですか」

 カップを置いて、小さく息を吐く。

「そうね……」

 天井を仰ぎ見る彼女の目は遠い昔を見るようで。

 どこか優しく、どこか痛々しい。

 いつしか、その瞳に引き込まれていた。

 接舷していたガミラス艦はシナノを離れ、ほかの艦と合流したようだった。

 星の海は、今日も凪いでいる。

 

 ――第7話 「地球とガミラス」――




 ありがとうございました。
 今年の投稿はこれにて終わりとなります。
 忙しくてあまり投稿できなかった印象……来年はもうちょっと頑張りたいかもです。
 それでは皆さん、来る2021年は、皆様にとって良い一年となりますように。
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