航宙空母シナノ 太陽系防衛戦線   作:朱鳥洵

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 皆さまお久しぶりです。
 リアルが忙しすぎて投稿できていませんでしたが、第8話となりました!
 今回は沙耶の過去についてのお話となります。
 よろしくお願いします!

あらすじ
 旗艦であるシナノの突貫について、ガミラスからの抗議を受けてガミラスの将校を招き入れた。
 ガミラス側はガミラス側としての戦う理由があったものの、沙耶は頑なにそれを受け入れようとしない。
 会談の後、尊が沙耶の元を訪れると、彼女は自らの過去について打ち明けた。


第8話 「届かぬ願い」

 ――西暦2203年。

「土星に?」

「ああ。ヤマトからガトランティスがこっちに来てるって報告があってな」

「そう……」

「俺は新造の小型艦勤務だから、きっと大丈夫。沙耶こそ、空母に乗るんだからしっかりしろよ」

「分かってる。それより」

 夕暮れの埠頭で顔を見合わせる。

 少し顔を赤らめた彼女は、夕陽に薬指の指輪を輝かせた。

「約束、忘れないで」

「もちろん。まあ大丈夫だろ、ヤマトも向かってるんだ。なんとかなるさ」

 彼の楽観的な思考は、いつも彼女を安心させていた。

「地球で会おうね」

「ああ」

 暗くなっていく基地に身体を溶かす彼を見送り、左手を握りしめる。

 彼女にはもう、母がいない。

 母親は遊星爆弾症候群で亡くなり、父と2人暮らし。

 その父も今は地球防衛のために宇宙に出ている。

 勤務中に出会った彼とは、もう婚約まで済ませていた。

「沙耶!」

「夏姫、いつから?」

「ついさっき」

 背後から駆けてきた親友に笑いかけ、陽が沈んだ海を見つめる。

「彼は行ったの?」

「……うん」

「待つのは辛いね」

 本来なら恋愛ごとに関心などなかった沙耶だったが、彼との婚約に関しては夏姫の暗躍があったという。

 沙耶にとって彼女は良い相談相手だった。

 そして2人は、同じ艦の勤務となった。

 アンドロメダ級、アルタイル。

 空母型アンドロメダ級の一隻であるアルタイルの任務は、波動実験艦武蔵と共に移住可能と思われる惑星の探査へと向かう事。

 ごく短期間の任務であり、武蔵の他はラボラトリーアクエリアスが別動隊として同様の任務に就くことが伝えられていた。

「私達も明日は月に行くんだから、夏姫は寝坊しないのよ」

「そんないつも寝坊なんかしないってば!」

「訓練学校で何回遅刻したんだったかなぁ?」

「アレは……半分は寝坊じゃないし……」

「まあいいけど。一緒の便だから、返信無かったら起こしに行ってあげる」

 

 

 それから、彼女達は宇宙へと旅立った。

 夏姫はアルタイルの管制官として、沙耶は艦載機パイロットとして。

 短い間ではあったものの、沙耶はそこで知ったのだ。

 

 ――自分には無い、艦長の、指揮官の資質を。

 

 きっと自分には無理なのだろう。

 そう思いながら、彼女は戦場を駆けた。

 武蔵が多くを救う中、彼女には無力感だけが募っていくばかり。

 味方の機体を守ることはできず、母艦も大破し、武蔵への移乗も叶わなかった。

 アルタイルが廃艦になり、籍ごと抹消された事を知ったのはすぐ後である。

「沙耶、最近元気ない?」

「そんな事は……」

「仕方ないよ。アルタイルは名前も、艦も何もかも奪われたんだから」

「あそこまで大破した艦は、直す事はできないから」

「でも、アンドロメダ級は量産前提の艦なんだし、パーツ交換とかで」

「無理よ。エンジンが丸ごと壊れているんじゃ直しようがないわ」

 どこか冷めた声で言い放つ彼女は、何かを諦めているようであった。

「もう新型の艦長に内定してるのに、そんなので大丈夫なの?」

「なりたくてなったわけじゃないのよ。どうして私なのか、私が問いただしたいくらい」

 何気なく取り出した携帯端末には、少し前に受信したメッセージが表示されていた。

『艦長に内定したって! おめでとう』

 ――何もめでたくないわ。貴方がなった方がきっと良い。

 返信を送るが、彼に届くのは数日後だろう。

 彼は今、遠い土星にいるのだから。

 

 

「超大型のワープアウト反応あり!」

 星を、宇宙を喰うような彗星が現れる。

 彗星の殻を破り現れたカラクルム級の攻撃により、味方艦は瞬く間に撃沈されていった。

 アンドロメダ率いる地球艦隊が時間断層で作られた無尽蔵の戦力を投入した事で、その戦いは泥沼を極める事となる。

 波動砲による破壊、ガトランティスの攻撃による破壊。

「これの何が違うっていうんだ……」

 飛び交う破壊兵器の光線の光を受け、そんな悩みは吹き飛ぶ。

 迷えば死ぬ。

 そう奮い立たせて前を見据えた刹那――

 

 ――やっぱり俺は。

 

 

『俺はきっと、艦長にはなれないよ』

 返信。

 ニュースでは、土星でガトランティスと会敵したという情報が流れていた。

「今送っても届かないかもね」

「そうね……」

 祈るように目を閉じ、端末を切る。

 遠い景色、遠い音に混じって聞き慣れない音が響いた。

 窓から外を見ると、見慣れた艦形が空をいくのが飛び込む。

「……武蔵……いや」

 それは共に旅をしてきた艦と似ていたが、それとは異なる。

 艦体に開いた窓から漏れる光がその異様さを物語っていた。

「あんな艦……まだ残ってたのね」

 時間断層から湧き出てきたドレッドノート級を引き連れて闇夜に消えていく背を見つめていると、再び端末が震えた。

『緊急呼集』

 もしかしたら、という予感が脳裏をよぎる。

「夏姫、緊急呼集よ」

「ぅえ? 人使い荒いんだから……」

「ぼやいてないで、準備して」

「はーい」

 呑気な返事をする彼女に、自分の予感を伝えることはできなかった。

 これが杞憂であってくれたなら。

 そんなほのかな願いは、すぐに潰えた。

 火星を最終防衛ラインとして、残された艦隊を投入して対抗する。

 その準備が整うまでは波動実験艦銀河が率いる艦隊によって時間を稼ぎ、時間断層で新しく建造された艦は随時投入される、という説明が為された。

 しかし、それよりも気にかかる事はその前に発せられた言葉。

「すみません」

 退室しようとする官僚を呼び止める。

「どうした」

「作戦と直接の関わりはありませんが、お聞きしたい事があります」

「聞こう」

「土星守備艦隊が壊滅したというのは、事実ですか」

「ああ。それと、銀河が到着した時点で地球から増援に行った主力艦隊も残りわずかだったそうだ」

「そうですか……」

「……名前は?」

「如月沙耶です」

「……そうか。すまない、君の父上が乗っていた艦も……」

「分かっています」

 対峙した高官は彼女の指に輝くものを見る。

「ヤマトも、銀河も間に合わなかったんだ。すまん」

 それだけを言い残して彼はその部屋を後にした。

「沙耶」

「……夏姫……」

「今日はもう帰ろっか」

「……」

 この日、彼女は。

 

 

「――私は、独りになった」

 ひとしきり語り終えた彼女は、尊に向かって微笑む。

「だから、私はせめて手の届く範囲の人は守ろうと思った。ただそれだけのことよ」

「そんな事が……」

 ちらりと見る彼女の左手には、話に出てきた指輪がない。

 沙耶はそれに気付いて席を立つ。

「彼がいなくなって、もう必要がなくなったけれど」

 部屋の一角にある机の引き出しを開けると、小さなケースを取り出した。

「どうしても捨てられなくて、まだこうして。呆れた?」

「いえ。まだ僕には分かりませんけど……」

「分からなくてもいい。私と同じ思いをさせないために、私は戦ってるんだから」

「……あの、船務長とは」

「夏姫はあの日から家を出て、私と一緒にいてくれているわ。止めたのだけど聞かなくて」

 困ったものね、と彼女は笑う。

「艦長は船務長の事を大切に思っているんですよね」

「本当はみんな、って言うべきでしょうけど」

「いいんです。でも、これだけはわかってください。船務長も艦長と同じ気持ちだと思います。だからこそ、恐らく艦長の考えには賛同できない」

「……?」

 立ち上がり彼女と目を合わせた尊は微笑みながら告げる。

「艦長が船務長を思うように、船務長が、僕たちが艦長を思っているからです。僕たちのために艦長が死んでいいと思っている人はいない」

 敬礼をして「僕は通常シフトがありますので」と扉に手をかける。

「少しでいいので、覚えておいてください」

 その言葉とともに扉を閉める。

「……貴方に教えられるなんて」

 どこか満足そうな笑みを浮かべた沙耶は、そのまま部屋を出て廊下を歩く。

 目的の部屋の前には見慣れた顔が腕を組んで立っていた。

「教えられたかい?」

「ええ。あなたが差し向けたの?」

「失礼言わない。うちは何にもしてないから」

「そう……ありがとう、蓮」

「ごゆっくり」

 ひらひらと手を振って立ち去る背中を横目に、沙耶は扉のロックを開けた。

 

 

 第一艦橋のエレベーターを出ると、いつもよりむず痒い感覚がした。

「僕に何か?」

 それに耐えかねて尊が声を出す。

「どうだった、艦長は」

 光洋が振り向き、それに合わせて全員の視線が集まる。

「どうって……いつも通りだけど」

「本当か?」

「ん……あぁ、でも普段よりは柔らかかったかも」

「あの艦長にもそんな時があるとはなぁ」

「光洋は艦長の事なんだと思ってるんだよ……色々話したよ。そのあとどうなったかは分かんないけど」

「そっかー」

 直後、開いた扉から声が響いた。

「戦術長、いい仕事だった!」

 はっはっは! と快活に笑う蓮は席の肘置きに腰をかける。

「結局見張ってたんですか……」

「見張ってたわけじゃない。ただ夏姫の部屋の前にいただけさ」

「ほぼ同じじゃないですか」

「同じとは失礼な。夏姫とは話してないよ」

「より悪質では」

「うっせ。……やめろ。やめろって、みんなそんな目でこっち見んな」

「……」

「ぅ……はいはい、なんて声かけたらいいか分からなかったうちが悪ぅございましたよ」

 さっきまでの自信はどこへやら、彼女は肩を窄めて席に座り直す。

「みんないるわね」

 直後、エレベーターから沙耶と夏姫が顔を見せる。

「迷惑をかけてしまったわね。ごめんなさい」

「いえ。艦長、ガミラスは」

「そこもさっき話をつけてきたわ。それと、先程地球からも増援があると連絡が」

 沙耶が戦術長に答えた直後、シナノの眼前に2隻の艦がワープアウトした。

 回頭しシナノに艦首を向ける2隻は、エンジンや波動砲の形状からドレッドノート級である事が分かる。

「実地試験を兼ねて本日より作戦に参加する、主力戦艦改装型の宇宙空母よ」

 2隻は長大な飛行甲板を持つという特徴があるものの、シルエットが著しく異なっていた。

 片方は、ドレッドノートの後ろ半分を飛行甲板と格納庫設備に付け替えたような形状。

 もう片方は、主砲と艦橋を右舷に寄せ、左舷にアングルドデッキを備えた飛行甲板を艦中央に持つ。

「形が違う……」

「言ったでしょう? 実地試験なの。地球側でも決めあぐねているみたいだから、両方作って送ってきたのよ」

「時間断層で大量に作ったからってそんな雑に……」

「同感。でも、もう来てしまったものは使うしかないわ。ガミラスと話をしたのは、その2隻を使った上での作戦方針を決めるためよ。指揮は難しくなるけれど、戦術長。貴方ならできるはず」

「頑張ります」

「よろしくね。補給が終わり次第発進します。御上くん、楠木さんはちょっとついてきて」

 3人が艦橋から出ると、蓮が何故か中腰で夏姫の方へと向かう。

「艦長がうちと夏姫以外を名前で呼ぶの聞いたことなかったんだけど、アレ何。っていうか全体的に柔らかくなってるんだけど」

「御上くんと話して心変わりでもしたんじゃないかな?」

「心変わりってレベルじゃないよアレ……」

「沙耶もあたしも、日々変わってるんだよ」

 そう言う夏姫の顔はどこか満足そうで、いつもより明るかった。

 彼女達がどんな言葉を交わしたのかは、他のクルーには分からない。

 だが確かに、彼女達は変わり始めようとしている。

 人が内に秘めることは、誰にも分からないものなのだ。

 

 ――第8話 「届かぬ願い」――




 ありがとうございました!
 次回はいつになりますかね……ゆっくり書いていきたいと思います。
 それでは、また次回!
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