リボーンダンガンロンパ80th 帰ってきた絶望の高校生 作:M.T.
「うっ、ぐすっ…ひぐっ…やだ…やだぁあああ…」
金剛寺さんは、泣きながら蹲っていた。
そこに、いつもの気高く華麗な金剛寺さんの面影はなかった。
みんな、ただ呆然として彼女を見ていた。
『そろそろクロが決定したようですね?では、投票ターイム!』
金剛寺さんは、涙でグチャグチャの顔で、懇願するようにこちらを見つめていた。
あたしは、躊躇いながらも、彼女に投票した。
『ではでは?結果発表ー!』
モノクマの座る椅子の前からスロットマシーンのようなものがせり上がり、生徒の顔を模したドット絵が描かれたルーレットが回った。
金剛寺さんの顔が三つ揃ったところでルーレットが止まった。その下にはGuiltyの文字が浮かび上がり、スロットマシーンからは大量のメダルが出てきた。
『うぷぷぷ、お見事だいせいかーい!!『超高校級の執事』銀杏田 冷クンを殺害したのは、『超高校級の令嬢』金剛寺 恵麗奈さんでしたー!!』
「あ゛ぁあ゛ぁああああああああああああぁあああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
金剛寺さんは、発狂して頭を掻きむしり、血が出る程台に額を何度も叩きつけていた。
金剛寺 恵麗奈という人間の人格が、完全に崩壊した。
常に気高く、聡明で麗しい『超高校級の令嬢』金剛寺 恵麗奈としての彼女は、もう死んだのだ。
「…金剛寺さん、なんで、銀杏田さんを…自分の執事を殺したんですか…?」
相浦さんが質問を投げかけた。
「うぁ…あぁあ…あぁああ…あぅ…」
金剛寺さんは、完全に聞く耳を持っていなかった。
『幼児退行、か。あーあ、だらしないねホント!潔く罪を認めた法正クンとは大違い!…そこの池沼の代わりに、ボクが説明してあげるよ!…夏川さん、キミの推理は、素晴らしかったよ。点数で言えば、98点!』
「どういう事?」
『ひとつだけ違うところがあるんだよ。…この殺人事件を計画したのはね…実は、銀杏田 冷クンだったのだ!』
「…え?ちょっと待てよ…じゃあ、銀杏田は、自分を金剛寺ちゃんに殺させる計画を立ててたって事かよ!?」
佐伯君が驚いていた。
『そういう事!全部、銀杏田クンが、金剛寺さんのために仕組んだ計画だったのだ!』
「金剛寺さんのため…?」
…ちなみに、今回の動機の一つとなった、金剛寺さんの秘密なんだけど…今から発表するよ!』
『金剛寺さんは、金剛寺家の前当主を殺して当主に成り代わった、貧乏な召使いの実の娘です!』
「…え。」
『金剛寺さんの本名は、灰澤 恵麗奈(ハイザワ エレナ)。貧乏な小男の一人娘でした!彼女の父親は、金剛寺さんがまだ産まれていなかった頃に、主人である金剛寺家の当主を殺害し、そのイスをふんだくって金剛寺家の当主に成り代わったのでした!…つまり、金剛寺さんの父親である金剛寺家現当主は偽物の当主で、金剛寺さんの『超高校級の令嬢』という肩書きは、嘘で塗り固められたハリボテだったのです!いやあ、彼女にも、ちゃんと人殺しの汚い血が受け継がれていたんですねえ。ちなみに、銀杏田クンの秘密はこちら!』
『銀杏田クンは、金剛寺さんに仕える前は、飢えを凌ぐために盗みや殺しを繰り返していました!』
『いやあ、血で汚れた背景を持つもの同士、惹かれ合ったんですかねえ。銀杏田クンは金剛寺さんに心から忠誠を誓い、そして金剛寺さんもまた、銀杏田クンを心から信頼していました!』
「…待て。さっき『動機の一つ』と言わなかったか?まだ他に動機があるのか?」
アーニャちゃんが質問をした。
『まあね!その答えは全部、この映像にあるよ!』
豪華な屋敷が映る。おそらく、金剛寺さんの家だろう。
そこには、夥しい数の人、そしてそれを見下ろす幼い金剛寺さんと、彼女の父親と思わしき男性が映っていた。
「見ろ、恵麗奈!この景色を!いつかは、お前がこの人達の上に立つんだ。お前は、ここにいる人たちみんなの『主人』になるんだ。…言ってみれば、この城のお姫様だな!」
「…お姫様?わたくしが?」
「そうだ!」
「わああぁ…」
金剛寺さんは、目を輝かせながら、あたりを見渡していた。
そこで、画面が切り替わり、壊れた屋敷が映る。
壁や床は血で真っ赤に染まり、所々炎が燃え上がっているのが見える。
最後に、血を流して仰向けに倒れた男性と、寄り添うように倒れた女性が映る。
…多分、金剛寺さんの両親だ。
『金剛寺財閥の令嬢として、巨大組織を束ねる指導者として、最高級の暮らしをしてきた金剛寺 恵麗奈さん!いやあ、本物のお姫様みたいですね!…ですが、どうやら金剛寺財閥には解体の危機が迫っているようですね?では、ここで問題!金剛寺財閥を解体寸前まで追い詰めた危機とはっ!?正解発表は、『卒業』の後で!』
『彼女には、彼女が導いていくはずの大勢の人達がいます。背負っているものは、大きいですよね?…そんな彼女は、どうしても外に出たいと思いました。…ですが、どうやらこの映像だけでは動機が少し弱かったようですね、誰かを殺すのを躊躇してしまいました。しかーし!第2の動機『誰にも知られたくない秘密』によって、誰かを殺さなければという思いは、確実なものに変わりました!』
「…そんな。」
『そして、その事を、全て銀杏田君に打ち明けました!その続きのVTRがこちら!』
「冷…
「…お嬢様。
「…考え?」
「…お嬢様、
「…え?何を言っているの…?」
「宜しいですか、お嬢様。お嬢様は、
◇
「お嬢様、申し上げた物は、ご用意できましたか?」
「冷…やっぱりこんな事やめましょう?…貴方がいなくなっては、誰が
「…お嬢様。よくお聞きください。お嬢様が
「やっぱり無理よ…
「…主のお命と名誉を守る事こそ、執事の職務でございます。…お嬢様、
「…でも、
「…恵麗奈!!よく聞け!!お前が、本当に救うべきものは、守るべきものは何だ!!お前にしか救えない人達が、外にはごまんといるんだよ!!お前が、その手で、その人達を救うんだ!!そうだろ!!?わかったら、さっさとお前のやるべき事を果たせ!!!」
「…!!」
「…ご無礼を働いてしまい、大変申し訳ございませんでした。では、
ザシュッ
「冷!!!」
銀杏田が、自分の腹を刺した。
「ぐっ…お、お嬢様…早く、とどめを…。このままでは、自殺になってしまいます…」
「っ、う゛ぁあああああああああああああ!!!」
グサッ グサッ グサッ
銀杏田は、血まみれになりながらも、微笑みながら息絶えた。
「…冷、今まで、こんな
金剛寺は、涙を拭いながら男子更衣室を後にした。
『いやあ、銀杏田クンは、最期まで執事としての仕事を全うしたんですねぇ…ボク、涙腺にきちゃった…わけないんだけどね!うぷぷぷ!』
「…そんな。」
相浦さんは、口を両手で覆いながら泣いていた。
「…今思えば、銀杏田君が犯行現場に男子更衣室を選んだのは、金剛寺君の犯行に思わせたくなかったからなんですね…。」
宇田川君は、目を逸らしながら悔しそうに言っていた。
『それにしてもさ、執事がご主人様のためにここまでしたって言うのにさ、当のご主人様は無様に失敗しちゃって…甲斐性無しな女だよね、全く!銀杏田クン、きっと地獄で泣いてるよー?…って、聞いてないか。』
「あぁあああああ…冷、冷ぃいいい…わたくしをたすけてよぉおお…この人たちが、みんなでわたくしをいじめるのぉおお…」
金剛寺さんは、小便を垂れ流し、顔を涙と鼻水と涎でグチャグチャにしながら這いずり回り、銀杏田君の遺影に向かって話しかけている。
…これじゃあ、まるで赤ん坊じゃないか。
醜く堕ちていく金剛寺さんを、これ以上見ていられなかった。
あたしは、金剛寺さんから目を逸らした。
『汚いなー。これ以上神聖な裁判場を汚されるのは嫌だし、そろそろおしおきしちゃおっか。今回は、『超高校級の令嬢』金剛寺 恵麗奈さんのために、スペシャルなおしおきを用意しました!』
「い゛やだぁあああああああああぁああ!!!しに゛だくな゛ぃいいい、じにたぐな゛ぃいいいいぃいいぃいい…れい、れ゛ぃい゛いいいいいいいいいいい!!!」
金剛寺さんは、這いずりながら逃げようとしていた。
制服は小便と埃で汚れ顔は血まみれになり、目は充血して瞳は輝きを失い、そして美しかった薄桃色の髪の毛は埃と体液で薄汚れていた。
そして何より、彼女の心は完全に壊れていた。
潔く死を受け入れた法正君の事を思うと、現実と向き合おうとせずに妄想に縋り、子供のように泣きわめきながら逃げ回る彼女は、あまりにも無様で、見苦しかった。
『…ではでは、おしおきターイム!!』
モノクマがハンマーを振り上げると、赤いスイッチがせり上がってきた。
モノクマは、ハンマーでスイッチを押した。
GAME OVER
『コンゴウジさんがクロにきまりました。 オシオキをかいしします。』
◇
逃げ回る金剛寺の下の床が開き、金剛寺が下に落ちる。
そこで映像に切り替わる。
床の下に金剛寺の手に手錠のようなものが付けられ、騎士の格好をした人形が彼女を引っ張る。
周りは、18世紀のフランスのような背景になっていて、平民の格好をした人形達が取り囲んでいた。
金剛寺の髪を人形が引っ張ると、人形が金剛寺の長い髪をバッサリと切った。
そして、金剛寺は断頭台まで引きずられる。
そこで、画面中央にタイトルが現れる。
希望ヶ峰のばら
金剛寺の両腕と両脚に、ギロチンが取り付けられる。
処刑人の格好をしたモノクマが、右手のギロチンの刃を落とす。
ギロチンで右腕を落とされた金剛寺は、苦しそうに白目をむきながら大きく口を開ける。
次に左腕、右足、左足とギロチンの刃を落としていく。
両手足を失った金剛寺は、目をひん剥いて口から泡を吹いて痙攣していた。
そんな中、銀杏田そっくりの人形が現れ、金剛寺に優しく微笑みかける。
希望を目の当たりにした金剛寺は、切断された両腕を人形の方に向け、涙を流しながら喜んでいた。
…が、次の瞬間、人形は処刑人の格好に変身し、大きな斧を振りかぶる。
希望を打ち砕かれた金剛寺は、絶望で顔がグシャグシャになっていた。
そして、人形が金剛寺の首を刎ねた。
モノクマが首を拾い上げて民衆の前に晒すと、民衆は歓声を上げた。
◇
あたしはただ、呆然とおしおきシーンを見ていた。
すすり泣く奴目さんと相浦さん。
顔を逸らしながら、拳を握りしめる佐伯君と九十九君。
俯きながら祈りを捧げる黒須君。
目の前の惨状に恐怖する真樹さん。
大声で泣き叫ぶ小林さん。
目を手で覆いながら顔を逸らす宇田川君。
抜け殻のようになっている千葉崎さん。
上機嫌に、舌を出しながらニヤニヤしている魅神君。
眉間に皺を寄せながら画面を見ているアーニャちゃん。
…誰も、発言しようとはしなかった。
モノクマを除いては。
『いっやあ、銀杏田クンは金剛寺財閥と金剛寺さんの名誉を守るために自分の命を犠牲にしたのに、金剛寺さんがヘマをしたせいでどちらも守れずに、しかも大事なご主人様が死んでしまうなんて…皮肉ですね!まあ、あの世で一緒になれたんだから結果オーライか!
オマエラ、お疲れ様!今回も、メダルをプレゼントしちゃうよ!じゃっあねー!』
モノクマは去っていった。
…銀杏田君の、自分の命を捨ててまで主人を守ろうとした美しい忠誠心とは裏腹に、とても醜悪で、悲劇的な結末だった。
銀杏田君は、一体何のために死んだんだ。
…そう思うと、やるせない気持ちでいっぱいになった。
全員、重い足取りでエレベーターに乗り込んだ。
スリルが欲しいというだけの理由で銀杏田君の死体を弄び、捜査を撹乱した魅神君を除いては。
彼は、軽やかにスキップをしながらでエレベーターに乗り込んだ。
あたしたちはまだ、こんな地獄のような学級裁判を続けなければならないのか。
第2章『血は争えない』ー完ー
【生徒数】残り12名