「作戦概要は以上です。それでは。」
目の前の彼女はそう言いはなった。顔面に装着されたバイザーで素顔は見えないが見えたとしても、彼女の意図を読み解くことはできないだろう。
淡々と伝えられた作戦概要は極々簡単なモノ。Cityから資材補給の為に発着している装甲列車の護衛任務。ただ、それだけである。ここのところの『災獣』の動向を考えれば落ち着いている今が最適な時期なのはわかる。
しかしそれでも、私は言わなければならない。
「任務は了解いたしました。直ちに作戦行動を開始いたします。大型共生種型『災獣』が現れた場合。戦力差を考え撤退と作戦中断の決定権は頂けるのでしょうか。」
装甲列車の行き先である砂漠路線。その目的地周辺で辛うじて確認された大型共生種の痕跡。これを無視していられるほど我々は楽観視を決め込むつもりは無い。
いくら自分達DOLLSが量産可能で代えが効く兵器だとしても、損害が甚大ならば今後の作戦に大きな影響がでる。いくらただの補給任務の護衛だとしても最悪には備えなければならない。
無限にも思える災獣を相手に有限である我々は勝利しなければならないのだから。
『勝利』とは、なにもって勝利なのだろうか。
〈人間を延命させる事が勝利なのだ[警告-思考違反-]〉
ーまたやってしまった。
人格拡張によりインテリフレームを埋め込まれた私は、ある程度の思考を巡らせる事ができる。
しかしそれでもある事を考えようとすれば、思考に歯止めがかかってしまう。
自由意思と思考をある程度は認められているとはいえ、これでは首輪をつけられたようなものだ。
「思考できる」という事が、こんなにも苦しく辛いものとは。
こんなモノを生まれながら持っているニンゲン達が狂わずにいる、ということが今でも信じられない。
いや最初から持っているからこそ、狂わないのかもしれない。
所詮私達は兵器だ。それ以下でも、それ以上でもないのだから。
ならば、この目の前の彼女は?バイザーで顔を隠してはいるが、その体躯はニンゲンでいうところの幼女と分類されるものなのではないか?私の知識に間違いがなければ、こんな場所にいられるような存在ではないはず。
だが、その口から出る言葉に感じるモノは手馴れたかのようなソレ。
「その決定権を与える権限は私にはありません。」
「それでは遅滞戦闘を行いながら、装甲列車を守れ、と。」
任務だ、仕方がない。怒りをたたえた瞳で睨んだとしても、表情が読めない彼女には意味が無い。
彼女はあくまで〈代理人〉。作戦を伝えCPとして、我々のオペレーターをするだけの存在。確かに、彼女に理不尽な怒りを向けるわけにはいかない。だがそれでも言わなければ収まりがつかなかったのだ。私が怒りを向けたのは、おそらくこの会話を聞いているであろうクソッタレに向けて、だ。
私の意図を知ってか知らずか、作戦室に備えられたモニターから軽薄なダミ声が響く。
【キャロり〜ん?聞こえる?】
ー我々の本当の指揮官は、全くもってクソ野郎だ。