作戦記録Part1
遠雷の如く響く砲声…いやアレは咆哮か。ここは全てが砂に還った不毛の大地。時間の流れが加速したかのように風化していく。DOLLSである私も例外では、無い。
砂塵が少しづつ私の装甲を削っていく。だが、そんな全身に纏わり付く不快感を気にしていられるような状態ではない。
目の前のコレは、そんなことを気にしていい相手ではない。
咆哮と共に吐き出された砲弾は岩石なのか鉱石なのかはわからないが、とてつもない破壊力を秘めているのは自明だ。部隊の至近弾を認めた私は咄嗟に確認を取る。
「Ⅵ号戦車ティーガーより全隊へ!損害報告!!!」
「Ⅱ号戦車隊、被弾無しですわ!機動戦に支障無し!!」
「さ、Ⅲ号戦車隊、被弾無しですぅ!でも、マウスさんが!!」
「わらわの事は気にするで無いわ!!Ⅷ号戦車マウス、被弾すれど支障無し!!擦り傷じゃこんなモン!!!」
至近距離に着弾した余波で巻き上がった破片が装甲に突き刺さっているのが、この距離からでも分かる。
そんな状態で強がっているは、部隊の盾であるⅧ号戦車マウス。
私よりも稼働時間が長いベテランであり、その分厚い装甲で重型災獣の猛攻すら軽々と凌ぎ笑いながら蹂躙する。
ーその彼女が、らしくもなく焦っている。それだけで、事の重大さがわかってしまう。
「こちらスツーカ。これより対地攻撃を開始するわ。」
「地上のみんな頑張れー!Hs129、以下同文!!」
空中よりややノイズが入る通信。いまだ辛うじて維持ができている。そうだ、辛うじてなのだ。
ヤツが巻き起こした砂嵐が原因だろう、ジャミングの代わりというわけか。つくづく規格外だということを理解させられる。
機銃の雨が降り注ぐ。が、まるでにわか雨にでも降られたかのように顔をわずかに歪めるだけ。まだ届かない。
だがそれでも、我々は与えられた任務を忠実にこなすのみ。
我々は兵器なのだ。ニンゲン達を延命させるだけの、兵器だ。
思考が邪魔だ、これなら僚機として共にいる『私』の方がマシだろう。
チラリと背後をみれば、顔面に代理人と同じバイザーをつけた自分と瓜二つの存在。
量産された、『私』。
砂塵を盛大に巻き上げながら履帯を回し、強襲形態を維持したまま狙いを絞る。
視界に投影された射撃補正リングが赤く光り、88mm砲が火を吹く。
着弾は確実なはず、だが手応えが無さすぎる。
それもそのはずだ。本体であろう女性型災獣の身体を守るように見上げるほどの巨体を持つ竜型の災獣が、とぐろを巻いているのだ。それに阻まれていて有効打を入れる事ができない。
護衛対象の装甲列車は回収物資の積み込みを終了した。
後は、掘り起こしてしまったアレを無事に持ち帰るだけ。
ーそうだ、全てはアレのせいだ。アレを掘り出した瞬間に、ヤツが現れたのだ。
何が、何が簡単な仕事、だ。あのクソ野郎。
私は、数時間前の作戦室を思い出していた。
※※※※
【キャロり〜ん?聞こえる?】
「主任。今どちらに?」
【路線進路上の災獣が逃げちゃってさ、そいつ等向かわせて、今すぐ。】
「大型共生種が出現した場合、彼女達だけでは荷が重いかと。」
【あ、そうなんだ。で?それが何か問題?】
「了解しました。お聞きの通りです。作戦の変更はありません。」
主任と呼ばれる我らがクソッタレ指揮官殿。
私の88mm砲で打ち抜いてやりたい。そう願わずにはいられない。
実際、目の前の彼女はよくやっていると思う。
キャロリんと呼ばれた〈代理人〉キャロル・ドーリーはその気持ち悪い愛称呼びには全く反応を示さずに淡々と業務をこなす姿は、ニンゲンというよりも我々寄りに感じるほどだ。
「簡単な仕事なんだから早くしろ」と言う言葉を最後に音声のみの通信は切られ、私は不満を抱えたまま出撃部隊の隊長機として装甲列車の護衛任務についた。
渡された報告書によれば、今回の目的地は砂漠地帯でもかなり奥まった場所。
2ヵ月以上前の戦闘により地表が深く抉られ、その時に顔を現した前時代の遺跡の調査。
遺跡。といっても砂に飲み込まれたどこかの国の、何かの施設であろうというのがニンゲンの研究者達の見解だった。
白い防護服を纏った作業員達が物資を回収していく、予想されていた装甲列車に襲いかかってきた小型の災獣共は、さしたる脅威にもならなかった。
それらの破壊した災獣達の残骸の回収をしていると、作業員達がにわかに騒ぎ出す。
どうやら、報告書にあった遺跡から何かが出土したらしい。
大型クレーンで持ち上げられたのは鉄の塊。
いや、腕と脚がついて見えることから、どうやらそれが人型らしいというのは分かる。
推定10m前後の人型の…ロボットかしら?与えられた知識のどれとも該当しないシルエット。
火災にでもあったかのような黒い煤がこびりつき、この異常な砂漠の中で風化したであろう赤錆に塗れた姿は趣味の悪い棺桶のよう。左腕は大きく破損してはいるが、肩に見える装甲板に刻まれたエンブレムが陽に晒されてギラリと輝く。
大きく羽を広げたソレは真っ黒に焼き焦がされたかのような鳥。アレは確か、カラスと呼ばれる鳥類だったか。いまでは絶滅した生物をこんな形で目にするとは思わなかった。
破損してはいるが、辛うじて5体満足なことが奇跡だ。大収穫ともいえる。
だが、こんなモノを掘り起こしてなんの意味があるのだろうか。
修理して使うのだろうか?
災獣には前時代の遺物など意味をなさないというのに。
それを貨物車に運び込んだ瞬間、地響きとともに近くの砂丘の下が崩れる。
空中を哨戒していたスツーカより緊急警報が入り、全部隊が戦闘態勢に入る。
吹き出した間欠泉のように砂が舞い、猛烈な砂嵐が吹き荒れはじめた。
砂嵐の奥。影になって見え辛いが、アレを見間違うわけが無い。
砂漠に潜むと言われる大型共生種。破壊しかもたらさないモノ。
それが目の前に、現れた。