「あ、やべ」
そんな間の抜けた声とともに
私の勝利が告げられて
「え?………」
「おめでとう、君の勝ちだよ」
そう、私は自分でも知らないうちに、いつのまにか勝利していたのでした
「わたくしの…勝ち…ですの?」
「その通りだ、試合は終わったぞ、早くピットに戻れ」
千冬先生の声が聞こえたその瞬間、わたくしはようやく意識を現実へと戻して
「納得いきませんわ!」
「いいから早く戻れ!」
千冬先生に怒鳴られてしまいました
「…仕方ありませんわ…」
私は破壊判定寸前のダメージ表示が展開しているブルー・ティアーズを浮遊させ
ピットに戻って
今度はピット同士の通信回線を開きました
「紅奶さん、先ほども言いました通り
わたくしは今回の結果について
納得が行っておりませんわ」
〈そう、でも君が勝ったことには違いないんだし、君が代表だ、大人しく
全戦全勝の結果を以て代表をやりなよ〉
紅奶さんからの声は素っ気なく
視線はあらぬ方向を向いて…いえ
明確に彼のisの方に向いていました
今のわたくしでは
彼の視線一つにすら値しないと言うの
…そう、やはり彼も本当は決着が不服で…
えぇ、そうに違いありませんわ!
ならばこそ、ここはわたくしが提案を出さねばなりませんね
「今度行われるリーグマッチの前哨戦、そこで決着といたしましょうか!」
〈おう〉
返事は端的に一言
ですが、そこには強い意志が感じられました、必ずや再戦と、今度こそ納得のいく決着をつけようという意志が
「…その時は…正真正銘の勝利を収めて見せますわ」
「!」
時間的には昼なのだろう、明るい部屋で目を覚ました俺は
ガバッと飛び起きようとして
体が動かない不自由に驚く
「………そういうことか」
つまるところ、俺は倒れたらしい
どうも俺専用と言っていたisは超高負荷、超高感度のレーダーを無理やり頭に直結してくるような馬鹿な設計をしていたようで
俺の頭が750倍まで加速できなきゃイカれて死んでいた可能性が高いだろう
「…次は1000倍目指すか…」
現実的には800倍が妥当だろうが
最終目標を1000倍とすれば
通過点を800にできるし
それでいいだろう
「とりあえず…ナースコールどこだ?」
こういうのは大概ベッドの…枕側にあるんだが、…あった
脳内の加速をしようとするたびに頭がズキズキ痛むが、特段の変わったことはない
加速ができないわけでもない
たんなるダメージだろうが
修復の完了までは加速は封印しよう
「…うぉ……」
本当に体が動かない
いや、10倍速から戻れば認識上は早いんだが、それでも客観的に遅いのはわかる程度に遅い…だいぶ寝ていたな、これ
「あった…よし」
ナースコールを押して、
腕を戻す
たったこれだけの動作に軽い疲労感を覚えるレベルで肉体の能力が落ちている
その事実を重く受け止めながら
看護師を待った
「……………………」
忍耐には慣れているし
そもそも時間感覚が十倍速のせいで狂っているのだが、まぁまぁ早く来てくれたと思う
「あ、目覚めた?」
「…………アンタは…」
「あれ、分かんない?期待外れかな♪じゃあ…名乗ってはあげないっ」
来たのは
ナース衣装のウサギだった
「篠ノ之束」
「ん、わかってるじゃん
イイよイイよ〜、親しみを込めて束さんと呼びなさい!…嘘、絶対呼ばないで」
「お、おう」
なんというか、勢いが強い
それに、なんか明るいように見える
「それでね、今回来た理由はね
たった一つなんだけど
その声は
ひどく鋭く、硬く、そして冷たかった
「俺が、俺たちが適性者だから
では答えにならないかい?」
「なるわけないだろクソガキ」
ニベもないなぁ全く
あぁそんな甘い殺気じゃガキしか脅せないよ、俺はそんなガキじゃないんだ(脳内)
俺は物理の直接攻撃にも耐えてきたエリートなんだぜ?(脳内)
「それじゃあ敢えて言わせてもらうよ
お前のセキュリティ、ガバガバかよ
ブラックボックス化も甘い、コピー対策も不十分、緊急停止スイッチすらも『赤月』の中に放置、クレナイコーポ舐めてんの?」
「ガキが、言ってくれるじゃんか
現段階から30年後レベルのセキュリティに文句つける奴とか初めて見たよ
それに、コアのランクのことをどうやって知った、お前だけじゃないけど
それはまだ知られるはずの無い情報だぞ」
視線のぶつかり合いは
…どちらともなく終わった
「知りたいなら教えるよ」
「やだ、知りたく無い
なんか嫌なことを聞きそうだもん」
俺の言葉に対する返事は適当で
しかし明確な拒絶
「でも、さ…isコアをどうやって作ったのかは聞かせてよ」
「ん、わかった
俺ともう一人の適性者…『紅奶』は別に、最初から適性者だった訳じゃなくてな
純粋に機械部品のロボでisに迫ろうとした…兵器としてじゃない、マルチフォームスーツとしての『インフィニット・ストラトス』に対して
全環境対応型の人型マシンの遠隔操作で対抗しようとした
…んだが、やっぱ遠隔操作は無理がある、同じレベルの機動を再現するならどうしても人間が直接使う必要があるってんで、最終的には同じような装身型に落ち着いた
その結果が、isとほぼ同じ機能を有する強化外装骨格とその制御装置
んで、色々と機能を追加して…
自己進化機能とか色々詰め込んだ結果…なぜかisコアが出来ていた
しかも、女にしか使えないロックが無い」
「……………」
静かにしているウサギに視線を戻して
「とりあえず、俺とあいつは
isを作りたくて作った訳じゃ無い、むしろ作りたかったのはeosの方だ
何故かisになったけど」
「…なるほどね…束さんのブラックボックスを開錠したんじゃなく
別の方向から同じ形に進化した
なるほど、分かったよ
認めよう、今は君がすごいと」
「俺だけじゃ無いよ、俺はソフト方面には向いてるけどハードを開発したのは晴羽だからね、褒めるならあいつにしてやってくれ」
「そう、なら別に良いや
…それはそれとして…君にプレゼントをあげよう」
厄ネタの匂いがプンプンするプレゼントとやらを拒否しようとした瞬間
「それっ!」「ぐがっ!?」
鋭い痛みとともに注射針が腕に突き刺さる
「ふっふ〜ん!youにナノマシンをpresent!」「なぜ英語おっ!?……っ!」
体内で炎を発動、無理やりに血管内のナノマシンを焼却しようとするが
やはりナノマシンとて耐熱性があるのか、体内で出せる程度の規模の炎では全く効かずに通られてしまう
「まぁまぁ安心しなさいって
身体回復用の医療型だよ…君の使ってたアレ、みたけどさ?どう見ても人が使うようなものじゃないよ
あんなのはisだなんて認めない
あんな負荷のゲテモノなんて使わされたんだから、ダメージも残ってるだろうと思ってね」
話が一部繋がっていないが
それはまぁウサギクォリティ
しかたあるまい
「で、ナノマシンですか?」
「そうそう、私みたいに細胞単位のオーバースペックって訳にはいかないと思うけど
ちょーっと強化も入ってるし、しばらくすれば普通に動けるようにはなるでしょ
あ、それじゃあ束さんそろそろ帰るから、まったね〜!」
ウサギはウサミミをぴょこぴょこ動かしながら帰っていった…
「…はぁ…本物の看護師が心配だ」
おそらくどこかで足止めを食らっているのだろうまだ皆看護師さんを哀れに思いながら立ち上がり、炎でわずかに浮かぶ
「…よし、浮けるな」
よく考えると純粋に機械系の世界でこんな転生特典持ってる俺は相当な異端だな
いや別に今更だが
「よし、体もだいぶ動くようなってきたし…っと」
枕元に置いてあった鞄や荷物を回収して、中身を漁り…普段用のライズフォン…ではなく、二つ折り式のガラケーを取り出して
「0 0 0 enter」
フィリップへの直通回線を繋いだ