ナニカサレタアメリカをゆく   作:ダルマ

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始まりは、だまして悪いが

──人は、過ちを繰り返す。(身体は闘争を求める)

 

 小さないざこざが、やがて大きな軋轢となり、破綻を迎える。

 

 相容れない二つの主義が、互いを正義と信じ、人々を先導する。

 

 多くの血が流れ、多くの悲劇が生まれても、それでも先導者たちは、振り上げた拳を収める事はなかった。

 

 

 やがて、先導者たちは、禁忌の領域へと足を踏み入れる。

 

 破壊を齎す悪魔の兵器、全てを灰燼に帰すその兵器の名は、核兵器。

 

 

 最初の一発が爆破すれば、後はたがが外れたかのように核の応酬が始まり。

 やがて世界は、核の炎に包まれた。

 

 光と炎が収まり、次に訪れたのは、黒い雨。

 死をもたらす、絶望の雨だ。

 

 やがて、雨も収まり、そして訪れたのは、静寂と終末の足音であった。

 

 

 

 何もかもが黒く焼き尽くされた世界、迎える緩やかなる死。

 

 死を告げる黒い鳥が見つめる世界の中で、僅かに生き残った人々は、狂ったように争い続けた。

 

 何故なら。

 

 

──人は、過ちを繰り返す。(身体は闘争を求める)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントウニ、モウシワケナイ……」

 

 

 事実は小説より奇なり。

 そんなことわざがあったが、まさか、そのことわざ通りの出来事を体験するとは露程も思っていなかった。

 

 で、具体的にはどんな出来事を体験する羽目になったのかと言えば。

 有り体に言って、今目の前で謝罪している"神様"と名乗る人物に間違って殺された、というものだ。

 因みに死因は、神様曰く隕石が後頭部を直撃したかららしい。

 

 そういえば、意識をなくす直前、凄い音と何かが後頭部に当たった感覚はあったが、それがどうやら隕石だったらしい。

 イヤホンして音楽を聴いて歩いてたから、あまり注意していなかったけど。

 

 ま、よくある天ぷら、じゃなかったテンプレ的な事なのだが。

 そんな事は一旦置いておくとして、今、俺は物凄く気になる事がある。

 それは、目の前の神様と名乗る人物についてだ。

 

「レイヴン、オワビトシテ、テンセイ、サセテアゲヨウ」

 

 言葉は片言、目は瞳孔が開いているし顔色もどう見てもよろしくない。

 乱れた髪に継ぎ接ぎだらけの薄い布切れの衣服。

 あと、足元は白い靄がかかっていてよく分からないが、何やらチューブらしきものが衣服の下から伸びている。

 

 やべぇよこれ、絶対神様じゃないでしょこの人。

 いや、仮に神様だったとしても、これ絶対『ナニカサレタ』でしょ。

 俺の事、レイヴンなんて呼んでるし。

 

 因みにナニカサレタとは、俺も大好きな戦闘メカアクションゲーム、アーマードコアの旧作リメイク版に登場する、とあるレイヴンの恐ろしく悲痛な声の事を指す俗称だ。

 なお、リメイク元の旧作版では、同一人物となるレイヴンが、とても同一人物とは思えない程のさわやかボイスな好青年である事も、このネタの効力を上げる要因の一つである。

 

 また、レイヴンとは、アーマードコアシリーズにおいて、主人公を含めアーマードコアと呼ばれる機動兵器の搭乗者を指す名称だ。

 一部のシリーズではリンクスやミグラント等と、別の名称が登場するが。

 それでも、アーマードコア=レイヴンという認識は今でも色濃く残っている。

 

「テンセイサキトトクテンハコチラデキメテオイタ、サァ、レイヴン、ワタシヲ、ザンゲノクルシミカラ、カイホウ、シテクレ」

 

 刹那、俺の前の前に半透明のスクリーンが出現する、所謂ホログラフィックスクリーンだ。

 非科学的な神様という存在の割に、妙に科学的だなと思いつつも、目の前のホログラフィックスクリーンに現れた文章に目を通す。

 そこには、『このミッションを受諾しますか?』と、受けるか否かの選択肢が書かれていた。

 

 どんな世界に転生させられるのか、どんな特典が与えられたのか、詳しい事は全く分からないが。

 しかし、あの神様に注文しようものなら、地獄に叩き落とされそうな気がする。

 

 それに、何が出るのか開けてみるまで分からない、って言うのも、福袋的な楽しみがあってそれはそれでいい気がする。

 

 という訳で、俺は受諾の表示をタップする。

 

「アリガトウ、コレデワタシモ……、カイホウ……、サレル」

 

 刹那、突如足元を浮遊感が襲ったかと思えば。

 次の瞬間には、俺は白い靄で開いた事すら気付かなかった穴に落下していた。

 

 突然の事にパニックになり雄たけびを挙げながら、俺は、漆黒の奈落へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 いつの間にか意識を手放し、再び意識を取り戻した時、最初に感じたのは臀部を伝って感じる揺れであった。

 そして、人々の話し声や車輪の回る音など、雑音が耳に入ってくる。

 更には、うっすら感じる日の光。

 

 どうやら、外にいるらしい。

 

 ゆっくりと閉じていた瞼を開き、周囲の状況を確認してみる。

 

「……え?」

 

 そして、周囲の光景を目にし、俺は間抜けに声を漏らす。

 

 周囲に広がるのは、枯れた草木や廃墟と化した住宅等が点在する、まさに荒廃した大地。

 かつて幹線道路として利用されていたであろう、長年保守点検されず、ひび割れたアスファルトの上を、俺、そして手枷をされた見知らぬ複数の人々を乗せた牛車が進む。

 その周囲を、前世の日本じゃ一般にはなかなかお目にかかれない様々な形状の、銃器と呼ばれる物をその手にした統一感のない装いの者達が、まるで牛車を守るかのように歩いている。

 

 そして、空を見上げれば、そこには淀んだ空が広がっていた。

 

 

 さてここで、落ち着いて今現在、俺が置かれている状況と、この状況から推測できる俺が転生した世界について再確認していこう。

 

 先ず、俺は他の人々と共に牛車に載せられ、何処かに連れていかれている途中である。

 同乗しているのは、年齢も性別もバラバラの人々だが、皆一様にその表情は暗い。 

 また、その身に纏っているのも、薄っぺらい布製の、擦り切れ継ぎ接ぎだらけの衣服のみで、靴も履かずに素足だ。

 

 そんな同乗者とは対照的なのが、牛車の周辺を歩く人々。

 

 多分遊戯銃ではなく、本物の銃器を手にした人々は、継ぎ接ぎだらけの衣服の者、頑丈そうな防弾着を着込んだ者、手作り感満載の自家製アーマーを身に着けた者等。

 まるで統一感のない装いだ。

 だが、これだけは共通していた、皆一様に、時折俺達に向けて、鋭い眼光を飛ばしてくる。

 

 

 そして最後に、現状から推測する事の出来る、転生したこの世界の正体についてだが。

 おそらくこの世界は、俺が以前プレイした事のあるゲーム、Fallout(フォールアウト)の世界と思われる。

 同ゲームはパラレルワールドのレトロフューチャーなアメリカを舞台としたロールプレイングゲームで、世界中にファンも多い大人気シリーズのゲームだ。

 

 そんなゲームの世界に転生したと確信するに至ったその根拠となるのが、俺達の乗った荷台を引っ張る牛だ。

 

 同ゲームの舞台となるアメリカは、核戦争の影響で戦前の社会は崩壊し、ウェイストランドと呼ばれる無法の大地と化している。

 また、核戦争の影響で、ウェイストランドの生態系も戦前の世界とは異なる進化を辿っており。

 その内の一種が、"バラモン"と呼ばれる核戦争の影響で変異した牛だ。

 頭が二つ存在する同種は、ウェイストランドの各地に生息し、そのおとなしい性格から、ウェイストランドの生物において数少ない家畜として飼育されている生物でもある。

 

 

 バラモンの存在に、周囲の荒れ果てた風景、更には世紀末世界の如く装いの者達。

 これらから俺は、ここがフォールアウトの世界と導き出した訳だが。

 今現在、どのシリーズの時系列なのかまでは判断できなかった。

 

 実はフォールアウトシリーズは、作品ごとに時代や場所がバラバラなのだ。

 ま、アメリカは大きいからね、仕方ないね。

 

 それは兎に角、俺の転生したこの世界が、どの作品の時系列にあるのかは重要な事だ。

 何故なら、俺はオープンワールドアクションRPGとして日本でも初めて発売されたフォールアウト3以降しか、プレイした事がないからだ。

 もしそれ以前のシミュレーション風味の1や2の時系列だったら、ストーリーなんて全く分からないから、どう立ち回ればいいか判断できずに困る。

 

 あ、でも、神様から貰った特典とやらで、細かいこと気にせずこの世界を生きていけるかもしれないな。

 

 

 

 とここで、俺は思い出したように、神様が授けてくださった特典を確認しようとした。

 

「あれ?」

 

 だがそこで、俺はある違和感に気付くことになる。

 それは、腕にフォールアウトシリーズの顔の一つである、万能携帯型デバイスのピップボーイでも装着していないかと、俺自身の腕を確認した時だった。

 

 目にしたのは、人生三十年に渡って様々なものを掴んでは離してきた大人の腕ではなかった。

 随分と華奢で小さな、まるで子供のような腕だった。

 

 因みに、ピップボーイは装着しておらず、代わりに同乗者同様に手枷がかけられていた。

 

「……あれ?」

 

 そしてふと気が付く。

 そういえば、幾分声の方も高いような気がする。

 

 急に胸騒ぎがして、俺の今の姿を確認せずにはいられなくなり、姿を確認できるものがないかと周囲を見渡してみる。

 

 すると、急に落ち着きなく辺りを見まわし始めた俺に気付いたのか、対面に座っていた同乗者男性が、俺に声をかけてきた。

 

「どうした、坊や?」

 

 そして、男性は確かに、俺の事を"坊や"と呼んだ。

 

「あ、あの! 俺、やっぱり子供に見えますか!?」

 

「? 何を言ってるんだ? 君はどう見たって、十歳ぐらいの子供だろ?」

 

 俺の言葉に困惑する男性。

 その反応は、俺をだます気もからかう気も毛頭ない、純粋な反応であった。

 それは即ち、今の俺の姿が、人生を三十年も生きてきたアラサーではなく、十歳程の子供であるという事実を意味していた。

 

「……まぁ、困惑しておかしなことを口走るのも無理はないか。どうせ俺達は、これから奴隷商人に商品として売られっちまうんだからな」

 

「……え?」

 

 どうやら男性は何か勘違いしている様だが。

 今はそんな事よりも、男性の言った言葉が気になる。

 

 奴隷商人。

 その単語を聞いて、俺は思い出した。

 フォールアウトの世界では、奴隷業、即ち人身売買が行われている事を。

 

 前世じゃ人権がどうたらこうたらと、人身売買は完全悪として認識され、大っぴらには行われず、時折海外のニュースや教科書の中でしか見た事のない、遠い世界での出来事でしかなかった。

 だが、社会が崩壊し、同時に司法も崩壊したこのフォールアウトの世界では、人身売買も復活。

 人身売買を生業とする奴隷商人なる商人たちが、ウェイストランド各地で活動している。

 もはやウェイストランドでは身近で当たり前な出来事なのだ。

 

「な!?」

 

 そして、そんな奴隷商人が取り扱う奴隷には、とある印がつけられる。

 それが、制御用首輪と呼ばれる、小型爆弾付きの首輪だ。

 

 もし奴隷が脱走を試みれば、直ぐに起爆ボタンを押せばいい。

 そうすれば、あっという間に首なし奴隷の死体の完成だ。

 

 そんな奴隷自身にとって恐怖の首輪。

 

 それを、今、俺自身も、首に装着させられていた事を、手でなぞって確認した。

 

「嘘だろ!? なんだよこれ!!? おい冗談だろ!! ネクストにもカラードにも登録してないのに、"首輪付き"ってか! 冗談じゃねぇよ!!」

 

 今更ながら、冷静に状況を考えれば俺だけ自由の身という訳もなく。

 同乗者の方々と同様に、俺もまた、奴隷の一人であると遅まきながらに気付く俺。

 

 スタート開始が奴隷スタートって、それフォールアウトシリーズのスタートじゃないよ。

 どちらかと言えば、フォールアウト3以降の開発元である会社が開発している、剣と魔法の世界を題材にしたゲームシリーズに近いよ。

 

 え? もしかしてここってウェイストランドじゃなくて、タムリエル?

 

「な訳ねぇよなぁぁ!」

 

「五月蠅いぞ! 黙れこのガキ!!」

 

「っ!?」

 

 自由の利きにくい、手枷の施された両手で頭を抱えながら叫ぶと。

 刹那、牛車を護衛していた、おそらく奴隷商人の一人に、思い切り後頭部を殴られる。

 

 前世で三十年生きてきたが、本気で殴られた事なんて数える程しかない。

 それも、大人になってからは全くないと言っていい。

 

 そんな、久しく味わう事の無かった、他人に本気で殴られたその痛みは、物理的な痛み以上に精神的ダメージを俺に負わせた。

 

「何でだよ、何でなんだよ、神様……」

 

「ふん、奴隷如きが神を口にするか。所詮、お前ら奴隷に神などいない!!」

 

 俺を殴った奴隷商人が、吐き捨てる様な台詞を吐いて、もう一度俺を殴った。

 

 

 殴られた痛みよりも、期待していた人生の再スタートとは真逆のようなスタートへの絶望感から、俺は項垂れる。

 死と隣り合わせなんて生ぬるい世界、影も形も見当たらない特典、絶望しか見えない未来。

 

 本当に、奴隷商人の言った通りなのか。

 やっぱり、あれは神様ではなかったのだろうか。

 

 考えれば考える程、気持ちがどんどん深い闇の底へと沈んでいく。

 

 

 やがて、脳が沈むことに耐えきれなくなり、意識を自発的にシャットダウンする直前。

 俺は、とある台詞の一節を思い出した。

 

 

 ──だまして悪いが。

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