ナニカサレタアメリカをゆく   作:ダルマ

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出会いと別れ

 クラインとの生活も、気が付けば早いもので、一年近くが経過していた。

 その間に俺は、兎に角この地獄を体現したかのような世界を生き残る術を数多く身に着けた。

 クライン曰く、俺は筋がいいらしく、本人も教え甲斐があると話していた。

 

 武器の取り扱い、武器がない場合の対処法、格闘術、トラップの作成に設置。

 他にも交渉術やピッキング、ハッキングに自炊等々。

 

 それから、特にクラインから口を酸っぱくして教えられたのは、女性との接し方だった。

 曰く、女性というものは"女神"であり、この絶望に満ちた世界で唯一の"希望"だそうな。

 

 確かに、後世に種を残すという意味合いならば、その通りだ。

 前世よりも方向性は兎も角、科学技術が進歩しているこの世界においても、結局子供を産めるのは女性だけなのだから。

 

 という事で、クライン直伝のLady Killerを授かるのであった。

 

 

 

 そうそう、この一年間の生活の間で、この世界のゲーム時系列が特定できるであろう情報を幾つか耳にすることが出来た。

 その一つが、今から三年ほど前の出来事。

 ザ・ピットと呼ばれるレイダーが支配する町を、ブラザーフッド・オブ・スティール、通称B.O.S.と呼ばれる一団が攻撃を加え壊滅させた出来事だ。

 この出来事は『天罰』と呼ばれ、口づてに広がっているようだ。

 

 さて、この出来事、ゲーム本編では直接描かれていないが、物語のバックボーンの一つとして、ゲーム内で語られ。

 また、この出来事の後日談のようなダウンロードコンテンツも存在している、その名も『The Pitt』

 

 そして、ここからが重要なのだが。

 俺の前世の記憶が正しければ、前世でこの出来事の起こった年代が、公式か非公式かは忘れたが、西暦二二五五年と何処かで見た事がある。

 兎に角、この記憶が正しく、かつこの世界での実際の出来事もそれに準じているのであれば。

 現在は、三年後の西暦二二五八年という事になる。

 

 そして、この西暦二二五八年、実はフォールアウトシリーズのとあるナンバリングタイトルのゲーム本編開始の年代として設定されている。

 

 それが、フォールアウト3。

 

 たしか上記の天罰関連と共に、この年の七月十三日に、フォールアウト3の主人公。

 即ち人類種の天敵、或いは守護天使。

 プレイヤーの数だけ答えがある、そう、Vault101のアイツが生まれる日だ。

 

 

 しかしまさか、時系列的にはフォールアウト3に準ずることになるとは。

 時代的には約三十年後のフォールアウト4にも登場するアイテムなども存在から勘違いしそうになったが、ま、設定的には三十年前からあっても不自然ではないか。

 

 それにしても、フォールアウト3かぁ……。

 前世で俺がフォールアウトシリーズを知り、そしてハマった切っ掛けのゲーム。

 一応ゲームをプレイ等して知り得た知識は役に立つが、果たして、実際に役立つのだろうか?

 

 

 と言うのも、ここからは再び、今現在の俺の生活環境についての話になるのだが。

 実は、俺とクラインが生活しているのは、フォールアウト3の舞台となっているキャピタル・ウェイストランド。

 かつてワシントンD.C.と呼ばれていた場所から、南西へ約七三一キロも離れた、旧サウスカロライナ州はノースチャールストンと呼ばれた町で生活している。

 

 戦前ならば、飛行機などで移動も楽だっただろうが。

 長距離の移動手段が壊滅している現状では、専ら移動手段は自らの足となる。

 しかも、道中も戦前の様に安心安全等ではない。

 少し歩けば、危険はそこかしこに転がっているのだ、そんな中で約七三一キロも歩く、それも、子供の足で。

 

 とてもではないが、今すぐ関われそうにはない。

 

 しかし、何れ成熟して大人へと成長した暁には、是非とも、フォールアウト3本編の出来事などをこの目で確かめてみたいものだ。

 十年後でもゲームではチュートリアル中で、オープンワールドとして楽しめる西暦二二七七年まで時間がるから、色々と見て回れる筈。

 あ、でも、干渉し過ぎてゲーム本編と異なる環境を作り出すのも不味いか?

 しかし不干渉と言うのも難しいしな。

 でも、まだ時間はあるし、追々考えていけばいいか。

 

 

 なんて俺の暢気な考えに対して、事態は、俺の予想以上の速さで流れていく事になる。

 

 

 

 

「え? 移動?」

 

「あぁ、そうだ。急で悪いんだが、急いで支度してくれ。少し遠出になる」

 

「うん、分かった」

 

 それは、ある日の事だった。

 いつも別のセーフハウスに移動する際は、数日前から予定を発表していたのに、何故かこの時は当日に告げられた。

 

 寝間着から、急いでクラインお手製の子供用レザーアーマーに着替え、必要な物を詰め込んだバックパックを背負うと。

 俺は、クラインと共にセーフハウスを後にした。

 

 そしてやって来たのは、機能しなくなって久しいヨットハーバーであった。

 

「そういえばレイヴン、船は初めてだったな! 船は陸地と違って波などで安定しないと気があるから、気分が悪くなったら、構わず母なる海に返すといい!」

 

 クラインに連れられヨットハーバーの一角に係留されていた漁船に乗り込む。

 見た目は、他のヨットなどの艦艇と同じく汚れや錆などが目立つも、どうやらクラインが使用できるように修理したのか、エンジンはまだまだ現役とばかりに力強く唸りを挙げた。

 

「あの、クライン、何処に行くの?」

 

「まぁ、着いてからのお楽しみだ」

 

 意味深な笑みを浮かべるクラインを他所に、俺達を乗せた漁船はクラインの操縦でヨットハーバーを後にすると。

 程なく、北大西洋へと進出した。

 

 前世と同じ、何処までも広がる海。

 波の音、海風の香り、それはもはや、前世の記憶の中の海と何ら変わりない。

 陸はあんなにも変わり果てたというのに、海は、まるでここだけが時が止まったかのように、変わる事のない姿をしていた。

 

 あれ?

 一瞬地平線の向こうに鯨のような生物の背びれらしきものが見えた気がするんだけど、気のせいだろうか。

 でも、よく考えれば、鯨ってあんなにも尻尾、長かったっけ?

 いや、きっとマグロ食ってるからだろ、うん。

 

 

 

 さて、こうしてまさかの世紀末クルーズを楽しみながら、船旅を続けること約二十四時間。

 途中、一夜を過ごす為に適当な港に係留し、俺達を乗せた漁船は、やがて何処かの湾へと進入し、そのまま大きな川の上流を目指して上り始めた。

 

 川辺には、廃墟と化した住宅地や、壊れかけた橋などが目に付く。

 そんな川辺の様子を眺めていると、やがて、クラインが何かを見つけたのか、操縦室から前方を見て見ろと声を飛ばした。

 

 クラインの声に従い、艦尾から艦首へと向かった俺が目にしたのは。

 川辺の一角に設けられた戦前の施設、今は海水が流入しているがおそらく元は乾ドックだろう。にその巨体を晒している光景。

 前世でも見た事のある、航空機運用の為艦上構造物の少ないその外見は、紛れもなく航空母艦、空母である。

 

 そして、フォールアウトで空母と言えば、もはや導き出される答えは一つしかない。

 そう、フォールアウト3内で街の一つとして登場する、元空母を改造して作られた科学者たちの街。その名を、リベットシティ。

 二十一世紀のスタイリッシュな空母には見られない、何処か野暮ったさが見られるその外観は、間違いなくリベットシティそのものであった。

 

「く、クライン、あれって!?」

 

「おう、俺が知る限り、この辺りで一番デカくて、一番安全な街、リベットシティだ」

 

 クラインの口から語られた答え合わせに、俺は、間抜けに口をあんぐりとさせるのであった。

 まさか、こうも早くフォールアウト3本編に絡む場所に訪れる事になるは想像もしていなかったからだ。

 

 それから程なくして、俺達を乗せた漁船は近くの川辺に接舷し係留させると、そこから徒歩でリベットシティへと向かう。

 それ程離れた距離を歩いたわけでもないが、クラインからは、警戒を怠るなと下船時に注意された。

 ゲームでも、このリベットシティに隣接したワシントンD.C.エリアは屈指の激戦区として知られており。

 それはこの世界でも変わらず、リベットシティに入り込むまでの間、何度遠くから銃声と爆発音を聞いた事か。

 

「久しぶりだな、クライン。元気だったか!?」

 

「あぁ、おかげさまでな」

 

 今まで生活していたノースチャールストン周辺が天国と勘違いしてしまいそうな程、殺伐としたワシントンD.C.エリアの片鱗に触れた俺を他所に。

 クラインは、水密扉を開けて足を踏み入れた先で俺達の到着を歓迎した街の自警団こと、リベットシティ・セキュリティの男性隊員と親しげに握手を交わしていた。

 なお、その身に纏っているのは、リベットシティ・セキュリティ仕様のヘビーコンバットアーマーであった。

 

 どうやら話を聞くに、クラインとは顔見知りのようだ。

 なお、ゲーム本編登場時とは時代が違うからか、その男性隊員は隊長のようだが、名前はハークネスではなく、デルバートと言うらしい。

 

「所で今日はどうした? 南での悠々自適な生活に飽きて、久々にこっち(キャピタル・ウェイストランド)に帰ってきたのか?」

 

「いや、今日来たのはジェームスの奴に用があってな」

 

「カーチス博士にか?」

 

「案内してくれるか」

 

「まぁ、いいが。……所で、そっちのガキは誰なんだ?」

 

「あぁ、こいつは俺の一番弟子さ」

 

 こうして、俺達はデルバート隊長に案内され、リベットシティ内を移動する。

 やはり空母と言う限られた空間の為、ゲーム内でも通路の狭さなどを感じていたが、現実となっても、やはり圧迫感がある。

 子供だからまだ誤って頭をぶつけるなんてことはないだろうが、大人になると……。

 

「ってぇ!!」

 

「ははは! 気を付けろよ」

 

 と、思った矢先に、クラインが頭をぶつけていた。

 

 こうして、途中クラインが頭をぶつけるというトラブルを経て。

 俺達は、リベットシティの居住区、本来は乗組員用の居室が並ぶ区画へと足を踏み入れた。

 

「この時間帯なら、まだ博士は部屋にいる筈だ」

 

 やがてデルバート隊長は、とある扉の前で足と止めると、扉をノックし始める。

 程なくすると、扉が開き、中から男性の声が聞こえてくる。

 

「おはようございます、カーチス博士」

 

「おはよう、デルバート隊長。しかし、どうしたんだ? こんな朝っぱらから」

 

「実は、カーチス博士にお客様で」

 

「私に客? こんな朝っぱらに? 一体誰だ?」

 

「それは、ご自身の目でお確かめを」

 

 と、デルバート隊長が一歩引いて、クラインの方へ扉の中の人物を誘導させると。

 出てきたのは、小奇麗な白衣を身に纏った金髪オールバックの三十代前後の男性であった。

 あれ、この男性、何処かで見たような気がする。

 

「よ、ジェームス、久しぶりだな!」

 

「クライン!? まさか、本当にクラインなのか!?」

 

「あぁ、本物だよ」

 

「久しぶりだな! クライン!!」

 

 ジェームスと呼ばれた男性は、クラインの姿を確認するや、再会を喜ぶハグを行う。

 そして、再会の喜びを分かち合うと、今度は握手で再び喜びを分かち合うのであった。

 

「クライン、どうしたんだ、急に?」

 

「実はジェームス、お前に直接会って話したい事があってな」

 

「そうか。なら、兎に角入ってくれ、さぁ」

 

「分かった。おい、レイヴン、入るぞ」

 

「あ、はい」

 

「ん? そういえばクライン、その子は?」

 

「ま、それも含めて話したいんだよ」

 

「それじゃ、俺はこれで失礼する」

 

 案内をしてくれたデルバート隊長と別れ。

 俺とクラインは、ジェームスと呼ばれたクラインの知り合いらしき男性の住む部屋へとお邪魔する。

 

 元は士官用に割り当てられていた居室なのか、必要な家具などが設けられた広々とした部屋。

 そんな部屋の中には、お腹の大きな一人の女性の姿があった。

 

「あら、お客様って、クラインの事だったのね!」

 

「よぉ、キャサリン、久しぶり。元気だったか?」

 

「えぇ、おかげさまで」

 

 ソファーに腰を下ろしていたのは、マタニティウェアを着込んだジェームスよりも一回り年上と思しき黒人女性。

 クラインはそんな彼女に近づくと、軽いハグを交わし、再会を祝福する。

 彼女の名前は、キャサリンと言うらしい。

 

 

 あれ? 男性がジェームスで、女性がキャサリン。

 どう見ても二人の関係性は夫婦で、そしてここはリベットシティ。

 更にこの世界はフォールアウトであるとくれば……。

 

 あ、思い出した。

 この二人、Vault101のアイツの両親じゃないか!

 どうしてド忘れしてたんだ俺。

 ジェームスと言えば、フォールアウト3の本編においても重要なキーパーソンの一人じゃないか。

 

「そうだレイヴン、ご挨拶しろ。こちら、俺の友人でリベットシティの偉大な科学者でもあるジェームス・カーチスと、その妻のキャサリン・カーチスだ」

 

「おいおい、偉大なは余計だろう」

 

「そうか?」

 

「はは、初めまして! れ、レイヴンです」

 

 これは何て運命の悪戯だ。

 まさかVault101のアイツの両親に、しかも二人とも存命の間に直接出会うなんて。

 確かキャサリンの方は、Vault101のアイツを出産した直後に命を引き取ったので、あの大きなお腹の中にはVault101のアイツがまさに出産の時を待っているのだろう。

 

 加えて、ゲームでは二人の苗字については設定されていなかった。

 だがこの世界では、カーチスという苗字を持っている。

 カーチス、その苗字は、アーマードコアシリーズにおいても登場する。黒い鳥の伝承を持つ一族の名として。

 

 と、色々考察しながら、二人に挨拶する俺。

 しかしながら、ゲーム本編の重要人物二人に直接出会えた緊張から、ガチガチな挨拶になってしまった。

 

「クライン、まさか話っていうのは、俺達に息子を紹介したくて?」

 

「おいおい! 勘違いしないでくれ、レイヴンは俺の子じゃない。弟子だよ、弟子」

 

「あら、可愛いお弟子さんね」

 

「で、話っていうのは、弟子の紹介か?」

 

「あぁ、それなんだが……。ジェームス、ちょっと向こうで話せないか?」

 

「……あぁ、分かった」

 

「キャサリン、悪いけど暫くレイヴンの相手をしててくれるか?」

 

「えぇ、いいわよ」

 

 こうして挨拶を終えると、クラインはジェームスを連れて部屋の端の方へと移動していく。

 どうやら、話と言うのは内密にしたいもののようだ。

 

 一方、俺は、何とか二人の話を盗み聞きできないかと耳を立てながら、キャサリンの大きなお腹に耳を当て、将来のVault101のアイツの胎動に耳を傾けていた。

 

「どう、分かる?」

 

「ん~」

 

 お、今、動いたぞ、音が聞こえた。

 ん? 何だ? 今何だか物凄い音が聞こえた様な。

 

「あの、キャサリンさん」

 

「なーに?」

 

「この子は男の子ですか、それとも女の子ですか?」

 

「女の子よ」

 

 性別を聞いて、俺はもう一度胎動に耳を傾ける。

 うん、凄い活発な音だ。

 

 文字で表示するのなら、ドヒャァッ! なんて表示だろうか。

 流石はVault101のアイツ、生まれる前から格が違うぜ。

 

 

 

 と、Vault101のアイツの胎動ばかりに意識を集中している場合ではない。

 クラインとジェームスの会話の方にも意識を向けなければ。

 

「それは、お前自身の贖罪のつもりか?」

 

「かも、な。だから、あいつを見つけた時、助けようと思ったのかもしれない」

 

「だったら最後まで……」

 

「──だが、あいつには──、が必要だ」

 

「それは、そうかも知れないが」

 

「頼む! これからのあいつの人生には、どうしても──、と思う!」

 

 だが、やはり距離がある為、正確な内容を聞き取る事はできない。

 

 やがて、話も終わったのか、程なくしてクラインとジェームスが俺達の方へと戻ってくる。

 そして、クラインもVault101のアイツの胎動を聞き楽しむと、暫く出産の時期に関する会話が続く。

 

「さて、レイヴン」

 

「ん?」

 

「突然だが、俺とはここでお別れだ。これからは、ジェームス達と生活していくんだぞ」

 

 と、突然何の脈絡もなく、クラインは俺との別れを告げるのであった。


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