転生ユウリちゃんはガラル地方に行きたい 作:ちゃっぱ
ポケモンセンターに一晩泊まっての次の朝。
ワタルさんはやはりというか、仕事が立て込んでいるらしく急いでリーグの方に帰らなくてはならないらしい。
帰路へ着くための用意はしてくれたため、複数のチケットと家までの場所を示した地図をヒビキさんに渡してくれた。
ものすごく至れり尽くせりで申し訳ないと思う。
ああ、いつかこの恩を返さなくてはいけないだろう。
そう呟いたら、ワタルさんは笑って「強いトレーナーに成長して戦える日が来たら、その時が俺にとっての恩返しだよ」と言ってくれたけど……。
(私は、ダンデさんに会うこと以外の夢なんてあってないようなもんだしなぁ……)
ポケモントレーナーになることも夢の一つと言えばいいのか。
でも一番強くなって、たくさんバトルしてチャンピオンと戦いたいと問われたら、それに答えることはできない。
原作主人公のようにチャンピオンへの道ならと思っていても、それをありえないと首を振る自分がいるんだもの。
――――だってここは現実世界だ。
いくら前世でよく見たゲーム世界でのキャラクターが生きていて、ポケモンたちもたくさんいたとしても……それでも、この世界がゲームだからと思うことはない。
ポケモンも私たちと同じように生きている。
前世でのゲームキャラクターだって、性格や言動が似ているってだけで彼らにもちゃんとした感情があるし、ちゃんと生きているって分かっている。
半年くらい前まではそう思えなかった自分がいたけれど……。
でも、ゴンべと接していて分かった。お母さんと一緒にいて、実感できることがあった。
お母さんも私を娘としてたくさんの愛情を注いでくれているし、ゴンべだって喜怒哀楽をちゃんと表現して私を妹のように接してくれる。
「ふぃあ?」
(……うん、そうだ)
イーブイであった頃のニンフィアに言った言葉を思い出す。
ニンフィアと一緒にいろんな光景を見てみたいといった。
たくさん旅をして、たくさんの見たい場所へ行って――――。
そうして、ダンデさんのファンとしてたくさんガラル地方を旅するんだ。
ガラル地方の良いところをいっぱい集めて、ダンデさんが幸せになれるようにエール団並みのパワーでやっていくつもりだから。
……全部やって満足したら、次はほかの地方にもいけばいいだろう。
「ニンフィア、グリーンさんに挨拶に行こうね」
「ふぃ?」
「お宅のニンフィアちゃんを私に下さいって言うの」
「ふ、ふぃあー」
何よ照れるじゃないの、とでも言うかのようにニンフィアが前足で顔を隠して照れたような鳴き声を出す。
いやでも性別的には「なんだよ照れるじゃねえか?」かなぁ……。
グリーンさんのところにいたイーブイこと、私と一緒に居てくれるニンフィアさんの性別は男の子だ。
つまりは性別事故……いや、もう何も言うまい。
ニンフィアも進化したことに満足しているみたいだし。
「さーってとユウリちゃんはポケモンは好きか?」
「う、うん」
「じゃあ行くか!」
「へ?」
ヒビキさんが言うには、何でも……カントー地方への船を待つ間にと、ヒビキさんが何故か観光案内をしてくれるということらしく――――。
「ユウリちゃん、あっちにポケモンがたくさんいるんだ!」
「いやちょっ、ヒビキさん早いッ!」
「ふぃーあ!」
なんで肩車されて走っているんだろうか!
ニンフィアも走ってる速度だよ!?
なんで私の頭に、ヒビキさんのピィが乗ってるわけ!?
いや重いけど鳴き声とか可愛いから文句も何も言えない!
「ヒビキさんいったん止まって!」
「っと、大丈夫か?」
一歩二歩と速度を緩め、歩くようになったヒビキさんにはとても楽しそうだ。
まあ、風が気持ちよかったし楽しかったのは認める。
認めるけど……。
「ぜんぜん大丈夫じゃないよ! もっと安全な移動の仕方でお願いします! というか私歩けるし!!」
「でもユウリちゃんってば、一人で歩くとすぐ転びそうになってただろ?」
「転ばないし! そうだよねニンフィア!」
「……ふぃ」
「ニンフィア!?」
私の言葉にニンフィアがそっぽを向いたことにショックを受けた。
いや確かに私の身体って幼女だよ?
何度か転びそうになったけれど、でも本当に転んだわけじゃないんだけど。
「ぴぃ」
「ピィも楽しかっただと。ユウリちゃんは楽しくなかった? もしかして怖かったか?」
一瞬だけ不安そうな顔をしたヒビキさんに、そんな顔するならやらなきゃいいじゃんとは思ったけれど。
でも多分、落ち込んでいる私を慰めようとしてやったことなんだよね。
慰め方が乱暴だったけど、それでも気を遣ってくれたことには変わりないような気がする。
いやでも、素直に言うのはなんか癪に障るな……。
「……楽しくなかった、わけない」
「そうか! ならよかった!」
にっと笑ったヒビキさんにもはや何も言えるわけはなかった。
・・・
観光と言われて思いつく場所は絶景の景色が見られるところ。もしくはとても人気なお店とかそういうところだろう。
ヒビキさんが連れていってくれたのは可愛いものがたくさんある場所――――ではなく、ポケモンたちが楽しそうに戦っているバトルフィールド。
トレーナーになるなら見学くらいはと楽しそうに案内してきたところにいたのは、意外な人物だった。
「あれ、シルバー?」
まあそれで、こんなことになっているわけで―――――。
「バクフーン、れんごくで火傷状態にしてやれ!」
「させるか! オーダイルそのままハイドロポンプだ!」
わぁーすっごい水しぶきと熱風。
ちょっと離れた場所で見学しているだけなのに、この時点で温度差が激しすぎて風邪でも引きそうだ。
「凄いね、ニンフィア」
「ふぃーあ?」
「ニンフィアはそれほどじゃない? でも、私は初めて目の前でバトルを見るから……」
誘拐されたあの時と、ミュウツーに遭遇したあの時とはまったくもって意味が違う。
あれらは私にとっては事故に等しいものだ。
意図して行うバトルとはわけが違う。
……だから思う。炎と水が合わさって迫力あるバトルが私にできるのだろうかと。
オーダイルを出したシルバーさんに対して相性が不利なはずのヒビキさんはバクフーン共々とても楽しそうだ。
「1対1のバトルじゃないのにね。ヒビキさんも有利なバトルしたらいいのに……」
「ふぃあ」
私の膝に頭を乗せてきたニンフィアを撫でつつ、疑問に思った。
「くそっ。今日こそはお前に勝てると思ったのに……」
「ふふん。伊達にシロガネ山通いしてねーよ!」
(……あっ、まだレッドさんには勝ててないんだね)
ドヤ顔で胸を張って言うヒビキさんだが、その言動の裏にはものすごい努力があったんじゃないかと感じられた。
でも、ヒビキさんだけじゃない。
シルバーさんだっていっぱい努力しているはずだ。
バトルは普通に、ヒビキさんの勝利で終わった。
ヒビキさんはレベル的に強いのだろう。ほのおタイプの技は火傷状態にするなどの効果を期待してのものしか放っておらず、それ以外はすてみタックルなどといったいまひとつではない技が多かったように思う。
それと同時に、シルバーさんが相性などをちゃんと考えてみずタイプの技を中心的に狙っていたのが印象に残った。
「それで誰だ。その子は」
「カントー地方から事故でここにやってきちゃった子。俺が一緒に送る最中で、船が来るまでここで待機」
ヒビキの言葉によって興味をなくしたのだろう。
ただ衝動的に声をかけてしまった。
「バトルって、ポケモンを交換とかポケモン回復とかはしないで戦うの?」
「急に何だ――――」
「ポケモンバトルってテレビでしか見たことなかったから分からないことだらけだから聞きたいの。ヒビキさんも、オーダイルに効果抜群なポケモンに交換するとかそういうことはしなかったから……」
結果的には1対1のバトルのようなもので終了した。
この世界が現実で、ゲームとは違うと思っていても疑問に残るんだ。
テレビで見ていたポケモンリーグのバトルだってそう。
ほとんどのバトルが、ポケモンを交換するときは自分のポケモンが倒れた時と決まっていたから。
「ふんっ。それはポケモントレーナーにとっての最大の侮辱だな」
「へっ――――」
「こらシルバー! 違うんだユウリちゃん。こいつ素直じゃねえから。ほら世の中で言うところのツンデレってやつで」
「誰がツンデレか!」
「ちっさい子供を睨みつけながら文句言ってんじゃねえよシルバーの馬鹿野郎!」
「あ、の……私、悪いこと言っちゃいましたか? ご、ごめんなさい……」
うつむいた私は知らなかった。
ヒビキさんがシルバーさんの背中をバシバシと叩いて睨みつけていたことを。
とっとと弁解しろと言うように、私とシルバーさんを交互に見つめていたことを
「……はぁ」
溜息ひとつにびくりと肩が動く。
それに反応したニンフィアが、呆れたようにシルバーさんを見て……そうして、私の腕にリボンを絡ませた。
「ポケモントレーナーにとっての最大の侮辱といったが、どうしてだかわかるか?」
「い、いえ……」
「トレーナーというのは、ポケモンの力を最大まで引き出しより魅力的に、より高みを目指す人を示す。ポケモンをバランス的に鍛えるのもいいだろう。
ポケモンバトルにおいては、より高度な読み合いで相手に勝つことを考えなくてはならない」
そう説明するシルバーさんは、ただ私に問いかける。
「ポケモンバトルにおいて、効果抜群を狙っての交換もいいだろう。
ちょくちょく回復をして、それで戦うことも規定されたバトルルール以外では駄目だとは言われてはいない。
――――しかし、それが楽しいといえるか?」
と、シルバーさんは私に言う。
それだけ言って満足したのか、ヒビキさんの方を見た。
「あー……ユウリちゃん、こいつが言ってるのはな。ポケモントレーナーにとってバトルは相手との読み合いなんだよ。暗黙の了解……って意味知ってる?」
「は、はい。知ってます」
「おお凄い。さすがユウリちゃんだ。
……まあつまり、先に出したポケモンと一対一で戦う。もちろん必要なら回復してもいいし交換だって駄目だとは言わないけれどーーーどうせなら出した瞬間のコンディションで、出したポケモン一体でどう戦うのか考えて行動するってのが楽しいバトル馬鹿が多いってことだよ」
ヒビキさんの言葉を聞いて、頭に思い浮かぶのはレート戦やバトルタワーでの戦いだろう。
相手が何を出すのか、どんな技を選ぶのか。
出したポケモンでどうやって相手を倒すのか考える戦略を考えて戦う。
(普通なら、面倒とか大変そうだとか思うところなのに……)
ゲームとは違う厳しいバトル要素に困惑し、人によっては逆ギレかもしくは絶望をするかもしれない。
自分は好き勝手にさせろと言って、回復とかもやる人がいるかもしれないなと思う。
ただ、ダンデさんに挑んだらと――――私はそう、思ってしまうから。
あのダンデさんと挑むことになった場合、私の思考を読もうとして、考えてくるのだろうか。
私がどう戦うのかを、ちゃんと読んで、その裏をかいて驚かせることができるのか。
場合によっては、ダンデさんを楽しませることも可能なのだろうか。
レベル差と圧倒的な実力で相手を叩きのめすのではなく、楽しめるバトルができるなら――――。
(あ、そう考えると楽しそう)
とっさにニンフィアにぎゅっと抱きつくと、大丈夫だよと私の頬を舐めてくれた。
「シルバーさん。私頑張って立派なトレーナーになります。強くなるので、その時はバトルしてくれますか?」
「……お前の努力次第だ」
「つまりツンデレ語で『バトルなら大歓迎だ』って言ってるぜ」
「ヒビキ貴様ッ!」
クロバットを出したシルバーさんに対して、ヒビキさんもまた新たなポケモンで応戦する。
バトルフィールドから逃げるように見学席に座って、ニンフィアの頭を撫でながらふと思い至った。
――――シルバーさんってばヒビキさんの言葉を否定してないな、と。
「ツンデレって面倒だね」
「ふぃーあ」
私の言葉にニンフィアは何か思うことがあるのか、ものすごく深く頷いたのだった。