転生ユウリちゃんはガラル地方に行きたい 作:ちゃっぱ
この世界の基準は、前世での知識においてどれになるのだろうかと思うことが多々あった。
バトルやポケモン知識、それとポケモンと生活するための常識。
ヒビキさんやシルバーさん達がいる時点でこの世界はおそらくゲームが基準となるのだろう。ポケモンの最新知識はおそらくカロス地方の新種として発見されたニンフィアぐらいか。
――――もしかしたら、まだウルトラビーストなどは発見されていない可能性がある。いや、エーテル財団が秘匿している可能性があるけれど。
それと同時に思ったのは、ポケモンとトレーナーの関係だった。
「よーっし着いたぜ! グリーンさんならジムにいるはずだ!」
「は、はい」
しっかりと頷いた私に対して、ヒビキさんは苦笑する。
「本当に家に帰らなくてもいいのか? 別に後でジムに来てもよかったんだぞ?」
「はい。だってニンフィアとずっと一緒に居るためには、先にグリーンさんに会って話をしなきゃって思いますから」
「ふーん? ユウリちゃんは真面目だなー」
私の頭を乱暴に撫でてきたヒビキさんは、文句は何も言わずただ私たちを気遣ってくれていたようだった。
多分今までにないぐらいの緊張感で張りつめたような表情をしているからかもしれない。
だって――――これはいわば結婚相手のご自宅に挨拶に向かうようなもの。
いくらニンフィアが野生だったといっても、元の手持ちはグリーンさんだ。ニンフィアもグリーンさんのことは嫌そうな表情になることが多いが、それでも気になっているのだろう。
私はカントー地方で旅をしたいとは思ってはいない。最初に旅をする予定として、まずガラル地方に行くって決めてるんだ。
だから、カントー地方にずっといるわけじゃない。
(ニンフィアにとっても、これは必要なことだ)
気がかりを残したままお別れだなんて嫌だろう。
だからニンフィアも文句を言わずについてきてくれる。ただまあ、一切鳴くことをしなくなっていて、ただ何かを考えるように俯いているけれど。
「今日は珍しく混んでんな……ちょっと待ってろよユウリちゃん」
「うん……」
トキワジムの中はポケモンと共に気合いを入れてやってきたトレーナーがたくさんいた。
中には殺気立っている者。緊張で吐きそうな顔をしている者も見られる。
ただ大半の人たちは―――なんというか、最後のジムということでジムチャレンジに慣れたような顔つきで書類で何かを書いているのが見えた。
ジムチャレンジャーは受付の方へ通されて書類を書いてトレーナーカードと認証し規定のバッヂを手に入れた人だけが通されるようになっているとヒビキさんに説明された。
どおりでジムトレーナーがせわしなく動いていると思った。
「ユウリちゃん、こっちこっち」
ヒビキさんによってジムの奥へ通され、そこで見えたのは見覚えのある少年―――いや、グリーンさんだった。
「ふぃあ……」
彼はただ真っ直ぐに、ニンフィアを見ていた。
「久しぶりだなイーブイ……いや今はニンフィアだったな。随分とまあ可愛らしくなったじゃねえか」
「ふぃー……」
嫌そうな顔をしながらも、グリーンさんに手を伸ばされて頭を撫でられることを許容するニンフィアを遠くから眺める。
やはりというか、家族のように遠慮なく関わり合っているように見える。それと同時に何故グリーンさんの手持ちから野生へと逃げたんだろうかと疑問に思った。
「あの……ニンフィアはあなたのことを嫌ってないのに……なんで、野生に……」
「別に逃がしたわけじゃねーよ。ただ俺がこいつにとって相応しいトレーナーじゃなかったってだけだ」
真面目な顔でニンフィアの頭を撫でているが、なんとなく落ち込んでいるように見えた。
撫でられ続けているニンフィアは、グリーンさんの顔を見て少しだけ焦ったように、しゃがんでいる彼の膝に足を乗せてその頬を舐めた。
「ふぃ、ふぃあ……」
「んな後悔したような顔してんじゃねーよ。お前が決めたんだろう?」
「ふぃーあ……」
グリーンさんがようやく笑って、私を見た。
「トレーナーは手持ちを責任もって育てる。……でもな、ポケモンが自分で行きたいと思えた道を止めることはできないんだよ」
「……ニンフィアは」
「こいつは俺が卵から孵したんだ。でもずっと旅をしたいと思っていた。だからグレンタウンとかにも連れてったけど、まあそれだけじゃな……俺も、ジムリーダーとして仕事もあるし、こいつが思うような旅はしてやれない」
―――だからお前についていきたいっていうなら、連れてってやってくれ。
グリーンさんはニンフィアについてどうして野生になってしまったのかを説明した。
ただジムリーダーとして仕事をしている日々につまらなくなったらしい。
テレビでは旅をするトレーナーの特集などが組まれており、それを憧れるように見つめるイーブイがグリーンにおねだりなどをしていた。
だからいくつか修行という名の遠出に出かけたつもりだったが、それだけじゃ嫌だったらしいと。
数日前にジムチャレンジャーを倒したイーブイの気持ちが爆発して、彼の最初の手持ちであった相棒のイーブイと喧嘩をし、家出のような形でボールを破壊して家から出ていったのだという。
それを止めようとはしたけれど、ずっと旅に出たがっていたイーブイの気持ちを考えて必死に探すことはやめていなかったが、連れて帰る気はなかったらしい。
ただ、元気に暮らしているのか。
野生に戻っていても、幸せになれているのかと心配でいた……という。
まさか新種のニンフィアに進化してこうして戻ってくるとは思っていなかったようだ。
「……本当に、いいの?」
「ああ。……まあもちろん。お前がどんなトレーナーになるのか。強くなるのか。ニンフィアがちゃんと幸せなのか連絡するつもりではあるがな!
この俺の手持ちだったポケモンを預けるんだ。それぐらいは覚悟しとけよな!」
微笑んだグリーンさんに、私は何も言えない。
私を信じていっているわけじゃない。
ニンフィアの決断に、グリーンさんが信じて頷いているだけだ。
トレーナーの責任を私に押し付けているというよりは、ニンフィアにとって良い選択をしてやりたいと思っているような気がする。
「……私はまだトレーナーじゃないです。ポケモンを持つことだってまだ許されてないし、許可証だってない。それでもいいの?」
「そのためにお前はこれから先、ニンフィアと一緒に居るって決めたんだろ?」
今ではなくて、未来でどう行動するのかを見たいという。
ヒビキさんがある程度成長していると思えたけれど、グリーンさんもまたゲームの時系列から見ればそれ以上に成長しているのだろう。
立派なジムリーダーとして。
「ふぃあ」
ニンフィアが私の足元にすり寄ってきた。
グリーンさんの方ではなくて、私と一緒に居ることを選ぶように。
そのことに胸が熱くなる。
なんだかむず痒いような、これから先不安になるような気持ちが込み上げる。
多分これが、一つの命を背負うトレーナーの感覚なんだろう。
ポケモンの全国図鑑が出来上がらないのも無理はないと思えた。
だって、ポケモンを気軽にゲットなんてして――――それらすべてに責任を持たなくちゃいけないのはトレーナーの方なんだから。
「……私、ニンフィアを絶対に幸せにします。それで強くなって楽しめるようなバトルをしてみせます!」
気合いの込めた宣言。
チャンピオンといつか戦って、ダンデさんと楽しいバトルがしたい。
これが私の将来の夢だと、言い切れるようになりたい。
グリーンとヒビキの 連絡先を もらった !
ついでにとばかりに ヒビキから シルバーの連絡先を もらった !
またまたついでにと ヒビキから ワタルの連絡先を 押し付けられた !
――――それが未来でどう影響するかを、ユウリはまだ知らない。