転生ユウリちゃんはガラル地方に行きたい 作:ちゃっぱ
第一話 だからどうしてこうなった
子供の頃はどこかに必ずポケモンがいると信じていた。
……まあ大人になっていくにつれそんなわけないと思うようになったけれど。
でもあの頃のワクワクやドキドキを忘れたことはない。
ゲームを通して育てたポケモンたち。
魅力的なライバルと切磋琢磨する主人公。
子供たちが素敵だと思えるような世界観と、様々なポケモンたちの歴史。
大人になってもポケモンが忘れられなくて、だから新しくゲームを始めて。
そうして出会ったのは、ある意味恋に似た激推しの登場だった。
「やばいダンデさん超好き……推し……課金したい……拝みたい……」
御三家の一体を相棒にしており、帽子をかぶるその姿はかつて主人公であっただろうという考察によって興味を惹かれたその男。
弟とその友達である主人公に優しく、ガラル地方のことをよく考えているのだと知る。
それと同時にプレイしてわかったが、初登場したあの時ダンデさん主人公に初めて会ったんだよね。
弟のホップに話をして、それでポケモン一緒に貰うってことになって初めて来たんだよね?
チャンピオンなのに残ったポケモンを育てるとか優しさ満点だな?
ファンサービスもやばいな??
顔とか性格もドンピシャで好きなんだけどなにこれゲーフリマジでやりやがったな。好きッ!!!
(生きててよかった……!)
一人暮らしをしているから、涙を流しつつ天を仰いだ私を引く人はいない。
寂しいと思ったことはない。目の前に推しがいるなら毎日が楽しい。
絶対に剣盾のリメイクが出るまでは死なない。
推しのためなら死にたくない。
――――そう思っていた。
事故に遭うまでは。
「だんでさんにあいたい」
「何言ってんのユウリ?」
「なんでもないよおかあさん」
転生して気が付いたら推しがいるかもしれない世界観だった件について。
カントー地方に住んでる私だけれど、それでも名前が『ユウリ』であり見た目がゲームでのデフォルト女主人公の幼女版にそっくりだから――――ある意味ガッツポーズを決めたのは仕方ないことだと思いたい。
思わずガッツポーズだけじゃなくて激推しのチャンピオンポーズ決めてしまったぜ……。
そのせいでゴンべが変な行動したと勘違いしてお母さんに言いつけたのは許さんがな。
ポケモンだし私を心配しての行動だから許すけど!!
「ユウリ、今日はお庭を散歩する? それとも公園行く?」
「んーと、こうえんいくよ」
庭にはゴンべくらいしかポケモンはいない。
公園でならばポッポぐらいはいるだろう。
(まあ……大丈夫だよね……)
この世界での時系列は―――――どうやらホウエン地方までのゲームのお話は終わっているらしい。
チャンピオンとして君臨しているのはそのゲームの主人公ではないらしいけれど、事件についてはニュースとかでやっていたし、カントー地方で起きた事件について調べたらロケット団が解散したらしいというのも書かれていた。
だから私は安心してお母さんと共に公園へ向かったんだ。
普通にポケモンたちと戯れるために、草むらへ近寄って行ったんだ。
草むらの奥に人がいて、バタフリーを見せてくれて「触らせてあげるよ」と言ってくれた言葉を信じた。
そこにいたのが、悪い人だと知らずに。
―――――バタフリーによって、ねむりごなを喰らって気絶して。
そうしてやってきたのが、ロープによって縛られたままトラックの中で運ばれている最中だったようだ。
運転席から悪そうな声が聞こえてきて眉をひそめた。
「最近じゃあジュンサーやレンジャー共がポケモンの売買に警戒しちまうからな。人間の可愛いガキならそこまでじゃねえ」
「ああ、いい商売になりそうだな」
つまりあれだ。これは誘拐だ。
ポケモンを悪いように扱う奴らに――――まるで「お菓子をあげるからついてきて」と誘いに乗った馬鹿な子供がやらかした事件の顛末のようだった。
縛られたロープはあまりきつく結ばれておらず、頑張ればほどけそうな感じがする。
でもロープを解いてからどうすればいいのだろうかと迷う。
車の中から飛び出す?
無理でしょ。今の私は幼女の身体。下手したら死ぬ。
……でもこのままだと、私はどうなるの?
(いやいやいや……待って。ここでバッドエンドになるってこと?)
つまり推しに会えない?
激推しで拝んでいたいぐらい大好きなダンデさんに会えない???
「え、無理」
私の将来の夢はガラル地方に行って推しに会うことだ。
推しの笑顔を見るまでは死ねない。
やるべきことは決まっている。
だって私は推しに会うためにこの世界に生まれてきたようなものだから。
私は死なない。
大丈夫。外を見たら草むらが生い茂る森の中だし、草がクッションになってくれるでしょ。
平気平気。私は死なない。
「ダンデさんに、会うんだから」
だから私は、覚悟を決めて飛び込んだ――――――。
そのトラックの荷台の扉を開けて、外の草むらの中へ。
「いたっ」
「ぶいっ!?」
痛みで呻いた私の声と同時に、私の身体の下から聞こえてきたのは可愛らしい声だった。
「ふぇ」
その生き物は―――――私を睨みつけていかにも噛みついてこようとしているポケモン、イーブイだった。