転生ユウリちゃんはガラル地方に行きたい 作:ちゃっぱ
カントー地方でイーブイに遭遇と言えばやはりレッツゴーのゲームの方を思い出す。
しかしそれどころではない。
「ブイブイ!!」
「ごめんねイーブイ。わたしのせいでべちゃんこになってない? きみは怪我してない?」
「……ブイ」
「そっか。それならよかった」
イーブイは不機嫌そうに顔をぷいっと逸らしつつも、謝罪を受け取れたからかお座りした状態でその場にいた。
「うぅー……どうしよ……ねえイーブイ、ここってどこかな?」
「ブイィ?」
なんだろうか。「え、君迷子なの?」って言葉が聞こえたような気がする。
でも仕方がないでしょ。私が持っているものなんてハンカチぐらいだよ。
周りはどう見たって森の中。
トキワの森だったらいいものの。縛り付けられていたロープから抜け出すのに時間がかかったため、トラックの移動距離から見て絶対にここはトキワの森じゃない。
それに言っておくが私の年齢はまだ4歳だぞ。幼女だぞ。
ぶっちゃけトラックから飛び降りた時点で幼女の身体は無事じゃすまないと思っていたから、クッションとなったイーブイには申し訳ないがものすごくありがたかったんだ。
ポケモンは幼女に圧し潰されかけても怪我無く生きれる頑丈さを誇っているようだから。
今の私には何もする力がない。
このままでは森の中で彷徨って、いつか死んでしまうかもしれない。
それはいけない。
だって私はダンデさんに会いたいんだから。
しかしポケモンが――――イーブイがいるならばと。
「ねえイーブイ。君の毛並みって本当に綺麗だよね。風になびくとふわふわとした毛並みが細かくなびくし、それにとっても強そうで私なんかより立派に生きれて凄いなって思うよ」
「ブブイ」
照れたような顔でくるりと身体を回し、毛並みを自慢するように私を見たイーブイを可愛いと思う。
だからちょっとだけ罪悪感もあった。
でも私は生きていきたいから……。
「あのねイーブイ。圧し潰しかけた私が言うのもなんだし、君にこれを頼むのはものすごく申し訳ないと思うんだけど……私は一人じゃ生きていけない。ポケモンの力がないと、私はこの森からも脱出できないし家に帰ることもできないと思うの」
「ブイ?」
「私は生きたい。まだトレーナーの年齢じゃないけれど、いろんな場所で旅をして、素敵な景色をたくさん見て――――それで、私が憧れるとても強い人とバトルしたいって思ってるから」
推しに会うために死ぬつもりはないから。
「ねえイーブイ。私の都合で君を縛り付けたくはないけれど……どうか、私と一緒に旅をしてくれませんか? 私と一緒に、これからの未来でたくさん旅をしませんか?」
悩むように私の前に行こうとしたり二歩ほど退いたり、それを繰り返すイーブイは何か思うことがあるのだろう。
イーブイの群れらしい姿はない。私が見えてないだけでどこかにあるかもしれないけれど、それだったらイーブイは何故こうして一匹はぐれているのだろうかと思う。
――――もしかしたら、かつてトレーナーのポケモンだったかもしれない。
それか群れから一匹だけはぐれて、私のように迷子になっているのかもしれない。
「大丈夫だよ安心して。……絶対に後悔はさせないから」
だって私は、いつか絶対にガラル地方を旅するユウリになるのだから。
「ブイッ……」
私を見上げていたイーブイが、どうしようかとまだ迷っているようだったけれど。
そんなときに、嫌な音が聞こえてきたんだ。
慌てて走るような足音。
怒号と草木をかき分けるような音。
「見つけたぞガキ! こんなところにいたのか!!」
「っ!」
大人の男が持っていたモンスターボールが開かれる。
そこにいたのは私を眠らせた原因であるバタフリー。
「バタフリー! 痺れ粉で奴の身体を動かなくしちまえ!!」
そのトレーナーの指示に従って、バタフリーが私に攻撃をしようとしてきた。
殺意のような怒りと、絶対に逃がしてはなるものかというような意志。
それらの負の視線に身体が恐怖を覚え硬直するが―――。
「ブイ!!!」
その鳴き声に、我に返った。
「っ―――――イーブイ、すなかけで粉をふり払って!!」
「ブイィ!」
ゲーム上だったらできないことだけれど、ここは現実。
生まれてからよくテレビで見ていたポケモンバトルで、攻撃技を使って相手の出した特殊な技を相殺することが可能だと知ったからできる。
急な無茶ぶりだっただろうに。
イーブイは私の指示に従い砂を振りまいた。
バタフリーのしびれごなを相殺するように全体的に。
バタフリーにもかかり、人間にもかかり――――。
「ゲホゴホッ! くそあのガキ! イーブイなんてどこで……ごほっ!」
「いまだ逃げよう!!」
「ブイ!」
イーブイが「こっちだ!」と先を走っていくため、その場を追いかけようと走り出す。
しかし不意に私の身体が誰かに抱きかかえられる。
見上げた先にいたのは、バタフリーを出したあの男ではない。
トラックで聞こえてきた声は二つだったから、そのもう一人なんだろうと察した。
「てめえ余計な手間をかけさせてんじゃねえぞ!!」
「ッーーーー」
ひっ叩かれそうになり、とっさに目を瞑ってこれから来る痛みを覚悟する。
「ブイッ!!!」
しかしそれを庇ったのは、男の顔面に噛みつく勢いでたいあたりを仕掛けたイーブイだった。
「づぁっ!? んだこのイーブイ……!!?」
「ブイブイ!!」
私を背後に庇い、男を睨みつけているイーブイ。
その身体はとても小さいはずなのに、なぜだかすごく大きく感じる。
まだ出会ったばかりだというのに。
命をかけるほど、私はイーブイにまだ何も返せていないのに。
「ブイィ!!」
「へっ?」
イーブイの身体を包み込むように、真白に光り輝く光景。
この世界で生まれてから見たことのない姿。
イーブイがどんどん大きく、ふわふわだった毛並みが変わっていく。
リボンのような形。大きな耳と、すらっとした手足。
「フィアッ!」
おめでとう !
イーブイは ニンフィアに 進化した !
(いや進化するの早ッッ!!?)
唖然としているのは私だけじゃなかったらしい。
男たちが私ではなくニンフィアを見て口をぽかんと開けて呆然としている。
「な、んだその生き物?」
「新種か? おい捕まえるぞ!!」
あれ、ニンフィアってまだこの時代じゃ新種なの?
でもそういうことを言う暇はない。
モンスターボールを新たに取り出した彼らにハッと我に返り、ただ叫んだ。
「ニンフィア! えっと……とりあえず全員倒せる攻撃!!」
「フィアァ!」
完璧に無茶な指示だっただろうに、ニンフィアは私に頷くと突風を奴らにたたきつけた。
いや多分、ポケモンの技だったなら「ようせいのかぜ」かもしれない。
それにしては「ぼうふう」並みに威力が高かったような気がするけれど……。
風で吹き飛ばされたバタフリーと男二人が、後方にあった大木にそれぞれぶつかってうめき声をあげつつ激痛で気絶する。
死ぬほどの怪我ではないが、その力は相当なものだったと察した。
「君ってもしかして相当強い?」
「フィア」
自信満々に頷いたニンフィアがとても頼もしく思えたのは言うまでもないだろう。