転生ユウリちゃんはガラル地方に行きたい 作:ちゃっぱ
トラックはもぬけの殻。というかその中にいたはずのあの二人は今気絶中である。
この場所がどこなのか分からないし、どうやって帰るのかすらも分からない。
私の住まいは奇しくもマサラタウンだ。
初代主人公と同じという点では喜んだが、母さんが引っ越しをしてやってきたということだったのでそこまで知り合いはいない。
だから私はオーキド博士にも初代のライバルなどにも会ったことはない。
ただのモブの一人。ガラル地方に行くまでは、私はただの村人でしかない。
つまり現状を打破できるのは私だけなんだ。
今はニンフィアが一緒だからどうにかなるかもしれないけれど……。
「トラックの荷台に確か……たくさん荷物があったはず」
「フィア?」
「あのね。あそこにあるトラックのあの荷台に私を乗せてくれるかな?」
流石に幼女が補助なしであの高さをよじ登るのは難しい。それを説明すると、ニンフィアは承知したというように私にリボンを巻き付けてそのまま上へ持ち上げた。
「わわっ……これがポケモン……ニンフィアすごい……」
「ふぃーあ」
ポケモンと共に協力して、という点ではある種の感動を抱く。
ポケモンの世界に生まれてきたんだなぁと常々思ってはいたが、やはりこうして一緒に行動するとなると感動も大きく変わるのか。
「……っと、違う。何か役立つもの探さなきゃ」
「フィ?」
ニンフィアが私のお腹にすり寄り、可愛らしく首を傾けた。
そんなニンフィアに――――まだ会ったばかりで何故ここまで懐いているのかは分からないけれど、可愛いので頭を撫でることにする。
「私はまだトレーナーじゃないからね。家に帰らなきゃだから……でも手ぶらで歩いていても良いことなんて何もないでしょ? あいつらに誘拐されてここまで来たんだから、必要なものぐらい貰って損はないよね?」
現実は甘くはない。
ゲームの中では普通に家の中にあるアイテムを拾うことはできても、現実でそれをするのは泥棒になる。
でもあいつらは加害者で、私は被害者だ。
ならばこれぐらいやっても悪にはならないだろう。
「私は生きなきゃいけない。未来で会いたい人がいるから」
「ふぃぃ」
「ねっ、ニンフィア。必要なものが何かあったら探してくれると助かるな。私もいっぱい探すから」
「フィア!」
荷台には意外と荷物が多い。
誘拐以外にも泥棒か何かしていたのだろうかと思える程度には――――。
まあトラックに会社名「フレンドリィショップ」が記載されていたから、その荷物なのかもしれない。誘拐のフェイクとして利用していた可能性も高いが。
とにかく、荷物を入れるための小さなバッグは見つけたから、そこに携帯食料らしきものをポイポイと入れていく。
「ニンフィアはポケモンフーズは何がいい――――」
「フィア」
これがいいと前足で指し示したポケモンフーズはモモンの実が使われている甘いもの。
それはいいんだけど……。
「あの、えっと。ニンフィアさん?」
「フィア」
「その大量のふしぎなアメらしきお菓子はどうするおつもりで?」
「フィーア」
「おうふ……」
アメの包みを剥がして、3つほど食べたご機嫌なニンフィアが、残り20個ほどを私のバッグへ大量投入してくる。
それと同時に、ニンフィアが差し出したのは6個のモンスターボールだった。
「これは……空、だね。まだ新品の」
「フィッ!」
「6個持ってきたってことは……君はやっぱり……」
「ふぃあ?」
可愛らしく鳴いているけれど、そういった行動がある種の考えを肯定しているような気がして私はただ真顔になった。
良い匂いがしているはずのポケモンフーズより超貴重なふしぎなアメを取りに行った行動。それと同時に、新品のモンスターボールは荷台には大量にあった。6個だけ置いてあるわけじゃないんだ。
「フィアフィアァ?」
「……捕まえていいの?」
「フィーア」
にっこりと頷いたニンフィアはとても人懐こく、まるで長い間私と一緒に居たように接してくる。
そんなはずあるわけないのに。
私が育てたゲームのニンフィアであるはずはないって分かるのに。
この子は、私の知らないニンフィアだってはっきり理解しているから―――――。
「ニンフィア、君は誰かの手持ちだったの?」
それも、ずっと誰かと旅をし続けていたのだろうかと。
ただ問いかけてみる。
だってこんなにすぐ進化するだなんてありえないと思っているんだ。
ニンフィアになるための条件は――――私が知っているものだとイーブイとポケリフレなどで仲良くなって、それと同じくフェアリータイプの技を覚えてレベルを上げることが条件だったはずだ。
私はまだ出会ったばかりだから、普通に考えればそこまで仲良くなれたわけじゃないと思うんだ。
「ニンフィアに進化できるぐらい仲良しだったトレーナーが居たんじゃないのかな。だったら私は、君をモンスターボールで捕まえることはできないよ」
ニンフィアは少しだけ驚いたような顔をして私を見上げた。
何故野生でここにいるのかは分からないけれど。
もしも事故でここにいるのだとしたら。
捨てられているわけじゃないのだとしたら……。
「協力してほしいといった。一緒に旅をしてほしいといった……でも、君も私と同じで迷子だったら……」
「フィッフィア!!!」
「ふぇっ」
怒ったような顔で、私が手に抱えていたモンスターボールの一つに向かって前足でボタンを勢いよく押す。
スイッチが押されたモンスターボールが開かれて、その中にニンフィアが入れられて……。
そうしてカチリと、閉じられた音が鳴った。
「ニンフィアッ!?」
ボールが開かれて、出てきたのはドヤ顔で私に向かって鼻を鳴らしたニンフィアだった。
「君は……」
「フィーア」
ただ少しだけ怒ったような様子で、ニンフィアはリボンで私の頭をひっ叩いたのだった。