転生ユウリちゃんはガラル地方に行きたい 作:ちゃっぱ
いまだにぷんすか怒っているニンフィアが私の腕にリボンを絡ませて歩き出す。
「……ごめんねニンフィア」
「ふぃあ」
可愛らしく鳴くニンフィアがしょうがないなぁとばかりに溜息をついて、そのあとは笑顔で私を見上げてお腹にすり寄ってくる。
その姿は可愛らしく、とても人懐っこくて「やっぱり……」って気持ちが拭えない。
でも今はそれを言っている暇はないだろう。
とにかくここから歩いて町へ行かなくてはならない。
だからニンフィアに頼んで連れていってもらっているわけだが―――――。
「……ここって」
獣道を歩いていると不意に整地された道路へたどり着く。
そこから少しだけ進むと、ニンフィアが看板のある場所へ立ち止まった。
書かれていたのは「ここは ハナダシティ ハナダは みずいろ しんぴのいろ」と書かれたもの。文字はこの世界で覚えたあの奇妙なものだが、意味は理解している。
「……そっか、ここってハナダシティなんだ」
マサラタウンから随分と離れてしまったけれど、まあ頑張って歩いたらたどり着ける距離かもしれない。
いや家からここまで歩いたことないから分からないけれど。
あっ、そういえばここってイーブイ狂で知られるマサキさんがいるはず。
もしかしてニンフィアってそこから来たんじゃ……。
「フィア!」
「ってどこに行くのニンフィア!?」
突然ニンフィアが何かを見つけて走り出す。
とあるショーウィンドウの前で立ち止まり、そこできらきらと目を輝かせて私を見た。
「……洋服?」
それも子供服専門店らしい。
ハナダシティにこんな場所があるだなんて知らなかったけれど、よく見ると様々なポケモンをイメージした洋服や、フリルが満載に装飾された可愛らしいドレスもある。
ニンフィアが指し示したのは、イーブイ模様のフード付きフリルワンピースだった。
「いやお金ないよニンフィア」
「ふぃ、ふぃあ!」
「リボン振り回して……えっ、まさかどっかでバトルして賞金稼ぐ気なの? でもその服はニンフィア専用じゃないよ。人間用だよ?」
「フィーア」
よくわかってるよと言うように。
これ貴方に似合いそうじゃない? とでもいうかのように、ニンフィアが私に笑いかけてくる。
野生のイーブイだった頃から毛並みをきちんと整えていたみたいだし、綺麗好きでオシャレすることも気に入っていると見た。
「でも私誘拐されてここまで来たからなぁ……これから家に帰るのが優先だから、また今度来たら……じゃだめかな?」
「ふぃ……ふぃあ」
ニンフィアの 涙目 !
こうかは ばつぐんだ !
「うっ……一回だけ試着して、そのあと行こう。お母さんを心配かけさせちゃだめだからね? 私旅に出るって言ったけど、まだトレーナーじゃないんだから――――」
「あら、あなた珍しいポケモンを連れてるのね」
「っ――――」
背後から声をかけられ身体が硬直する。
恐る恐る振り返ってみると、そこにいたのはものすごく見覚えのある人だった。
「カスミ……?」
「カスミさん、でしょ? 年上には敬語ぐらい使いなさい」
現実で見ると意外とスタイルが良い。
スラーっとした手足に、競泳水着を着てその上から短パンとパーカーを羽織っている彼女は何ともまあ美人な女性だと思えた。
「そのポケモンどうしたの?」
「あっ、えっと……ニンフィアって言って……森で仲良くなって……」
「あらそうなの。貴方の手持ち?」
「手持ち……」
話をしつつも、ちょっとだけ嫌な方向に思考がいく。
というよりは、テレビで見て知ったこの世界でのポケモン事情を思い出し、冷や汗が出たのだ。
なんせこの世界ではポケモンを持つことができるのはスクールに通って許可が出た人と、10歳になって成人免許が出た人のみだ。
スクールに通っている人は10歳未満でもポケモンを手持ちに加えてもいいということで、私ぐらいの年齢でも持っている人がいる。
でもそういう人は許可証を提示する必要があるんだ。
(待って。野生より手持ちじゃないとって短絡的に考えてやっちゃったけど、私普通にモンスターボールに入れちゃダメだったんじゃないの?)
許可証が出てない人がポケモンを持っていた場合、罰する可能性があるってテレビでやっていたような気がする。
その場合――――つまり、ポケモンを持つことは非常に難しくなるんじゃないのか。
ダンデさんから、ポケモンをもらうことも……。
前科一犯として悪い意味で見られる可能性もあるんじゃないの?
いや誘拐されたという事情があるのだから、そういう意味で見られないという可能性が高いとしても……。
ニンフィアと、お別れしなくちゃいけなくなるんじゃないのだろうかと。
この子が迷子の可能性が残っている以上、それだけは回避しなくちゃと思うから。
私に協力してくれたニンフィアの恩を、仇で返すわけにはいかないんだって思うから。
(嫌な予感がする……)
それに推しに会うまでは、やらかしてはいけない。
変な行動をしてガラル地方に行けなくなったら困る。
自分勝手な思考だってわかっているけれど……。
でもせっかくポケモン世界に生まれてきたんだから、今ジムリーダーに捕まるのはごめんだ。
「どうしたの?」
「私の知り合いの人からお散歩に連れていってって言われてるの。だからこうして町を散歩してるんだ」
「ふぃッ!?」
「そのニンフィア驚いているみたいだけど……」
「だってそろそろ帰らなきゃだもん。だからまたねカスミさん」
ニンフィアのリボンを軽く引っ張って走るように促す。
それに言いたいような顔をしつつも、ニンフィアは従ってくれた。
「あっ、ちょっと―――」
もしかしたらジムリーダーに助けてもらえることもできたかもしれない。
でもその時にニンフィアとお別れする羽目になるのもごめんだ。
町外れまで走っていくと、ニンフィアが周りを確認しカスミがいないことを見て、そうして私の腕をぐいぐい引っ張ってきたのだ。
「ふぃーあ」
「嘘ついてごめんねニンフィア。えーっと、なんというか私結構悪いことしてるかもってカスミに会うまで気づかなかったから」
「ふぃ?」
「あのね―――――」
ニンフィアに事情を説明する。
手持ちの事情と、誘拐されたことを考慮してもお別れする可能性が高いということ。
家についてお母さんにスクールに通わせてもらうまでは、君を手持ちとして認めてもらうわけにはいかないということ。
それらすべてをお話すると、ニンフィアは真面目な顔で頷いた。
「ふぃあ」
「……それでも、ついてきてくれるんだね」
「ふぃーあっ!」
当たり前じゃない。私はあなたの手持ちよ!
……というように、ニンフィアが笑って応えてくれた。
それに報いることができるように、私も浅はかな考えて行動しないよう注意しないとなと誓う。
(この世界はゲームのように簡単に出来てはいないんだから。ゲーム思考になって考えるのを止めよう……)
そう思って向かった先がお月見山の入り口だと思っていた。
歩いていけばいつかは出口につくと、そう思っていたのに……。
「ッッ―――――!」
「ふぃーあ!!」
威嚇するニンフィアの前にいるのはとても強そうなポケモン。
人間に敵意を向けるそいつは、ミュウツーだと分かった。
「いやここハナダの洞窟かよ!!!!」
私たち川とか超えてないんですけどォっっ!!!!??