転生ユウリちゃんはガラル地方に行きたい 作:ちゃっぱ
「助けてもらうとは、何かあったのか?」
「別にあなたには関係ないことです」
嘘だと分かった。
というよりは、俺とリザードンを見て表情を曇らせたというべきか。
「何か困っているなら遠慮なく頼ってくれ。俺は君の力になるよ」
初めて会った時から、実に面白い子供だと思えた。
どこかで見たような気がするポケモンが俺を警戒しつつ――――でも、何か気まずげに身体を後方へ退くその姿。
あのポケモンは、カントーでは全く見ないイーブイの進化系。
最近ほかの地方で発見されたといわれているニンフィアだろう。
何故この子がニンフィアを連れているのかは、分からない。
ほかの地方から旅行で来たのだとしても、何か様子がおかしい。
それにそのニンフィアにどこかで会ったような気がするな。
後で探った方がよさそうだと心に決めるが……。
(いや、重要なのはニンフィアだけじゃないな)
まるで旅をしているかのように靴がボロボロになり、体もどこか傷だらけな女の子。
きっと親とはぐれてしまった迷子なのだろう。
泣きそうに顔をゆがめているというのに、絶対に泣こうとしない。
それどころかこちらに対して理不尽な怒りさえ向けている。
どこかちぐはぐなその姿が、痛々しく見えた。
・・・
軽く無理やりにだが、連れてこられた先はちょっとしたポケモンセンターの一室。
寝床として貸している個室というべきか。
キッチンも付いたワンルーム。
ホテルよりは狭く、病室というには大きめの室内だろう。
窓の外を見れば綺麗な海が夕日によって照らされており、そろそろ夜になる時間帯だと察する。
ポッポたちが飛び立ち、海のどこかで何かのポケモンが跳ねた様子が窓からはっきりと映った。
(疲れた……)
ニンフィアが私の足元に座り込み、顔を伺うように見上げているのがわかる。
心配しているのだろうかと、ニンフィアに微笑むと同じように笑い返してくれた。
椅子に座り込んだ私に、優しく微笑んでいるのはリザードンをモンスターボールに入れたワタルさんだった。
「落ち着いたかな?」
「……ハイ」
怒りを向けても苦笑するだけで優しく声をかけてくれるその人に、私はただ自分が情けないなと思うしかなかった。
――――だからすべて事情を話した。
冷静に考えてみても、あの時の私はどうかしていたんだろう。
チャンピオンというのは、基本的に良い人ばかりだ。
その地方で暴れている悪の組織と戦うし、ポケモンのことをきちんと見ているし。
このワタルさんって人も、真面目で優しく、困っていた私を助けようとしてくれた。
「ありがとうございます……それと、ごめんなさい」
「気にしないでくれ。それより君とニンフィアがこうして無事でいてくれてよかった」
「……はい」
……だから反省しなくてはならないと、エネココアが入れられたコップを手に顔を俯かせる。
良い人だと知っているけれど、それと同じく悪人であるロケット団の人間に向かって容赦なく「はかいこうせん」をぶっ放したという印象が強いというだけ。
マントとリザードンで、ずっと会いたいと思っているダンデさんに似ているような気がして、そんな自分に苛立っただけだ。
それと同時に、誘拐からミュウツー遭遇といろいろあり過ぎて心が不安定でもあったんだろう。
(しっかりしなきゃ……)
幼女の身体に精神が引っ張られる。
泣きそうになるぐらい不安な心は、ニンフィアによって支えられていたけれど……。
それでも、ある意味ワタルさんに会うまでが限界だったようだ。
視界が潤み、込み上げてくる感情を抑え込もうと必死に顔をしかめる。
「ふぃー?」
そんな私に対して、心配そうな顔をしてニンフィアが腕にリボンを絡ませてきた。
……そうしていると不安な心がかき消されていくような気がする。
ああそうだ。
ニンフィアのリボンは気持ちを和らげるような効果があるという話があったような気がする。
「ありがとうニンフィア。……ちょっとだけニンフィアと一緒に居られなくなるかもって怖かっただけだよ。でも大丈夫。ワタルさんならちゃんと頼めば一緒にいられるよ」
誘拐された私と、それを助けてくれたイーブイ。
進化してしまった件についてもいろいろと話をしているし、ちゃんと仕方がない事情だと理解しポケモンと引き離してはくれないはずだと。
「――――ああ、その件だが」
ワタルさんが私ではなく、ニンフィアを見た。
「きみ、グリーン君のところにいたイーブイなんじゃないか?」
「へ?」
「……ふぃ」
そうして、ニンフィアが出会ってから初めて笑顔ではなく微妙な顔でそっぽを向いたのだった。