虚無主義者はかく語りき   作:アグナ

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虚無主義者の序説

『ありうべからざることではないか!

 かの老いたる聖者は森の中にあって、いまだついに耳にしたことがないのである。

 

 ──神は死んだ! と。』

 

 

☆

 

 

 人は平等であるか。

 その答えはイエス。

 何故なら総じて無意味で無価値で意味が無いから。

 

 と──蓮華緩夏(れんげかんな)は青い空を見上げながら独白する。

 

 優れた才能の持ち主と無能な劣等者。

 人格者の聖人に、鬼畜な犯罪者。

 

 確かに社会という枠組みで世界を囲ったとき、優劣は存在する。

 優れた才は尊ばれ無能は蛇蝎の如く嫌われる。

 聖人を人は賛美し、犯罪者を悪と憎悪する。

 

 例え無能が望んで無能になったわけでもなく。

 例え犯罪者が望んで犯罪を犯したわけではないのに。

 

 関係ない、関係ない──示した結果が己の価値であると。

 社会は残酷に言い渡す。

 

 天は人の上に人は創らず?

 否定(ノン)。人類(だれか)が人間(だれか)の上下を定めるのだ。

 

 それが世界の真理。

 持てる者は持てるがままに。

 持たぬ者は持たぬがままに。

 

 永劫、その価値は変わらない。

 先天的(さいのう)を得た差で人は不平等を押しつけられる。

 だからこそ努力すれば何とやらにも意味は無い。

 

 だって考えてみるがいい。

 明日に実るかも分からない花を期待して地道に水をあげることが出来るか?

 結実するか分からぬ結果を目指して自傷(どりょく)を続けることが出来るか?

 

 人間は弱い、心も、身体も、何もかもが。

 すぐに安きに流されるし、痛い思いだってしたくない。

 故に、成功するため努力する──当たり前の正論さえ、忌避に値するのだ。

 

 ならば努力できるというのはもう一種の才能である。

 叶うかどうかの夢に懸けられるならば、そいつは立派な天才(マゾヒスト)だ。

 やはり得てして先天的(さいのう)。

 

 重ねて言おう、出来る奴は出来るのだ。

 何故なら初めから持ってるから。

 痛みに耐えうる心と、痛みに耐えうる身体。

 だったら努力できて当たり前、そして努力したのだから人並み以上で当たり前だ。

 

 ああ、だから……人間の持つ全ての価値は総じて無意味である。

 何故なら初めからそうなる(・・・・・・・・)と決まっている(・・・・・・・)のだから。

 弱肉強食? 競争社会? ──馬鹿馬鹿しい。

 

 人の目ばかり気にするから、本質を見えないのだ。

 誰かの意見で容易く自らを失うから真理に気づかないのだ。

 因果法則──全ては初めに決められ、その通りに終わるのだと。

 

 賞賛も、名誉も、賛美も、尊ぶべき輝きも。

 そう決まられた上で、そうなるならば一周回って滑稽だ。

 無価値を至上と仰ぎ見る事ほど馬鹿らしいことはないだろう。

 

 故に人は平等である。

 平等にもの皆全て、無価値であるのだから。

 

「──と、意味ない独白に時間を消費するのだからいっそ無意味だわな人間は」

 

「は? また変なこと言って、キモ」

 

 黄昏れる初夏の午後のこの頃。

 最後に呟く自嘲の感傷を木っ端微塵に砕くは罵倒。

 声音からも強きと分かる女子の声が容赦なく俺に突き刺さる。

 

「手厳しい。思春期の男子の心は硝子だと何時だか言った気がするんだけどな」

 

「知らないわよ、勝手に傷つけばサボり魔」

 

「無意味な傷つけ合いはそれこそ何も生まないと思うんだけどな万引き常習犯」

 

 寝心地の悪いコンクリートを背にしたまま俺は罵倒に罵倒を返す。

 態々、目を向けるまでもない。

 絶賛午後の授業中にも関わらず、屋上に赴く女生徒など俺は一人しか知らない。

 

「──今日もいつも通り、刺々しいな神室」

 

「──今日もいつも通り、鬱陶しいわね蓮華」

 

 中学三年の夏休み前最後の授業中。

 俺と彼女はこうして、いつも通り堂々とサボるのであった。

 

 

 

「で? 今日もまた時間つぶしか。お前は実は俺のことが好きなのか?」

 

「は? きも、そんなわけないでしょ。アンタのそのウザイ性格知ったらルックス好みだろうと誰だって嫌うわよ」

 

「ああ、ルックスは好みなのか」

 

「顔が良い男が嫌いな女子なんて、偽善者かゲテモノ好きよ」

 

「イケメンは正義か。ま、それは男子(こっち)も変わらないか」

 

 芸術品に破格の値段が付くように。

 美しいものはただそれだけで人々を魅了し、絶大な価値を生み出す。

 

 人間、顔だけじゃない人はいうが、だからといって価値は変わらない。

 イケメンは黄色い悲鳴を、美人は淡い劣情を。

 それぞれ集めるのは必然であって、偶然じゃない。

 

「イケメン、美少女はモテて当然。尤も、無条件にモテるのは他に失点を持たない場合に限るだろうが」

 

「……何?」

 

「いや、モテるモテないも性格次第だなという話」

 

「それ、私への当てつけなわけ?」

 

「いいや仕返し。俺がウザイならお前は差し詰め、怖いかな?」

 

 言って、俺はそこで初めて上半身を起こし、神室へと目を向ける。

 腕を組みながらこちらを見下ろしてくる神室は容姿だけなら美人だ。

 既にくっきりとした女性らしい女体像。

 美少女というより美人寄りのクールな立ち振る舞いは黙っていればモデルのようだ。

 

 ただそれら美しさ以上に瞳に宿る強気な眼光、攻撃的な口調が他人を萎縮させる。

 これでまだ人好きする性格か、周囲を纏める甲斐性を持っていればクラスの中心人物(リーダー)になるのだろうが、生憎と彼女の気性は自分と同じ一匹狼。

 

 つまり、偽悪者染みた口調が災いしてクラスからハブられたのが俺ならば、美人は怒ると怖いを体現した結果、クラスから遠巻きにされたのが、彼女というわけだ。

 

「うざ」

 

「今更言われるまでもない。お前が物好きなだけだ」

 

「……はぁ」

 

 短い罵倒に肩を竦める。

 好意を抱いているわけでもなく、好感度は下の下。

 それで尚、絡んでくるのだから自業自得だ。

 

 それきり会話が途絶える。

 二人して総じてどうでも良くなるような青く広い空をぼんやりと眺めながら。

 不意に、傍らの少女がプシュッと持ち込んだらしい缶を空ける。

 

「おい、此処でアルコールを飲むな。俺も共犯にされるだろうが」

 

「今更、傾く評価でもないでしょサボり魔。罪状が追加されるだけで」

 

「犯罪と校則違反は雲泥の差だろうが」

 

「同じ社会悪に差も何も無いんでしょ」

 

「いつかの戯れ言を鵜呑みにするな」

 

「アンタが抜かすいつもの戯れ言よ」

 

 そう言って堂々と未成年飲酒する不良女。

 通常、これ見よがしの未成年が酒を入手する方法など親を代理に立てるか、親ないし親類縁者の酒蔵からパクるかしか原則方法はないが、神室の場合、やってる事が違法ならばやるまでの経緯も違法である。

 愚かしくも神室は酒を飲むだけに飽き足らす飲むために万引きまでやらかしているのだ。

 問答無用に犯罪者、万引き常習犯の鏡である。

 

「気に食わないなら通報すれば?」

 

「そして俺も巻き込んでお縄になれと。生憎、ご都合主義の公僕は嫌いでね」

 

「そ、なら問題ないでしょ」

 

「身勝手な」

 

「お互い様」

 

 意味の無いやり取りをしながら俺たちは中身のない会話を続ける。

 

「そういえばお前、こんな所に居て良いのか? お前は不良だが、真面目な不良だろ。進路控えたこの時期に此処に上がってくるなんて正直想定外だ。何かあったのか?」

 

「別に。ただウザイアンタ以上に他がウザくなっただけ」

 

「……教師に何か言われたのか」

 

「………」

 

「話さないなら別に良いけど、誰かの意見に振り回されることほど不毛な事は無いぞ」

 

「……五月蠅い、世捨て人のアンタには関係ないでしょ」

 

「関係ないが、仮にも数少ない友人だ。世話を焼く気まぐれだってある」

 

 他人から見れば理論仕立てのウザイ奴、語彙力に乏しい連中からは中二病だのと揶揄されるこの性格だ。

 目の前の少女のようにウザイと真っ向から言える人間は例外として、大抵はその普通からかけ離れた性格を前にして忌避する。

 実際、クラスメイトは数あれど、俺に直接口を聞く人間など片手で足りるほど。

 この年頃特有の、いわゆる皆と同じノリを歯牙にかけない俺だ。

 

 和を乱す異分子として俺はクラスメイトは愚か、同世代からも浮いている。

 ハブられることに苦痛を感じるほど、俺は社会に適合しては居ないが、一人寂しく時間を消費するというのは苦痛とは言わずとも億劫だ。

 

 だからこそ、例え暇つぶしであろうが話しかけてくれる人間は稀少なのだ。

 だったら今後も関係を続けていくため多少の労働をするぐらいは何の問題も無い。

 

「で? 何を言われた? もう少し皆と仲良くしましょうなんていうありがたい言葉でも贈られたか?」

 

 教師のテンプレートを皮肉に揶揄しながら俺はくっと笑う。

 しかし返ってくると思った罵倒か、呆れの声は……。

 

「夢」

 

「は?」

 

「神室さんには何か夢や目標はないのか、だってさ。下らない」

 

「……あー」

 

 ギリッと歯がみするように苛立つ神室に俺は間の抜けた声をあげる。

 なるほど、夢、夢と来たか。

 そりゃあこの少女が不機嫌になるというものだ。

 

 俺は神室のプライベートを知らない。

 時たま、こうして屋上でサボる中だが、それも互いが互いに一線を踏み入らないからこそ。

 

 全てが無価値と断ずる俺は気まぐれにサボり、彼女は彼女で嫌気が差したからサボる。

 偶然、サボり先が同じだから時間つぶしに言葉を交わす。

 それが彼女と俺との関係であり、ならばそれ以上は必要ない。

 

 だが、少なくない時間を共に過ごし、言葉を交わせば見えてくることだってある。

 例えば互いの性格とか性質。

 何が好きで嫌いか、何が我慢できなくて何が怖いか。

 そういった内面が何となく察せられる。

 

 そして俺の勘から言えば彼女は誰かに必要とされたい人間だ。

 人間関係を厭いながらも切り捨てられない。

 好き嫌いを気にしない癖に人の目は気になる。

 善行、悪行に限らず、己は今の己じゃない誰かになりたい。

 

 まあ言ってしまえば思春期特有のツンデレのようなもの。

 嫌も嫌も好きよの内とは古い言い回しだが、彼女の場合は嫌なことは嫌だが、それでも自分に絡んでくれる人間や必要にしてくれる人間がいないと自己肯定が出来ない……好みと必要が噛み合わない人間。

 

 その内歳を得れば己の性根に妥協を許し、苦痛のまま人に使われるようになるのだろうが……。

 未熟な彼女にそんな諦めや妥協は出来ない。

 

 だからこそ求められた所に反問する。

 他人は夢を持っている。誰もが持っていると信じている。

 だから自分も夢を持たなければならないなどと。

 

 どうでも良いと心の底から思っているのに夢を求めざるを得ない。

 大方、そんな所だろうか。

 

「別に夢なんて要らないじゃ無いかと言ったらキレるかな」

 

「もう言ってるでしょ、それ」

 

「確かに。ついでに言うと結論としては俺にはさっぱり理解できない」

 

 心なしか力ない罵倒に俺はさっぱりと言葉を返す。

 

「夢、目標……悲しいかな、人は無意味なことに理由を求める、動力源を求める。例えば現段階で神室は就職して、企業に社会に貢献したいと思うか? それを働く理由に出来るか?」

 

「出来るわけないでしょ。結局、内実は働かなければ生きていけないからっていう妥協。少しでも良い会社に入って、良い給料を貰う。少なくとも私は社会貢献とか興味ないから」

 

「ああ、そう。人間楽な方が生きやすい。多くを求めない生活ならば何となく就職して何となく人生平穏に過ごせれば十分だろう。が、それは個人の話でね、社会や企業はより成長したいという願望がある。だから日銭を稼ぐだけの凡夫よりも確固とした目標や夢という名の無意味な進路を持っている向上心溢れる若者の方が魅力的に映るのさ。会社の利益に貢献する働き蜂としてね」

 

 前提として、企業、国家、社会は生きていくために利益がいる。

 どんぐりの背比べも良いところだが、仮にも己と他者で競い合うのが世の定め。

 生き残るために、選りすぐれた成果を残したい。

 それは今を生ける組織全てに共通する話だ。

 

「さて──そんな利益が欲しい、進化が欲しい、向上が欲しい企業が求める人材として次のうちどちらが魅力的に映るでしょうか。A、金だけ欲しい適度な加減で働く労働人。B、勝手に夢や目標を持って、そこに辿り着くために態々自ら苦労を背負ってくれる有り難い働き者。神室真澄ちゃん、答えをどーぞ」

 

「ちゃん付けとかキモ……後者でしょ。今更」

 

「ああ、その通り。問答無用で後者だ。少し考えれば誰にだって分かる道理で当たり前。言う通り今更な話だ。だからこそ、続く今更は俺の口から言う必要があるか?」

 

「……だから向上心を持つため、今のうちから夢や目標を決めてそこへ走っていくための訓練をしろ」

 

「いぐざくとりー、社畜の第一歩は夢を持つところから始まるのさ」

 

 例えそれが必要に迫られて用意することになった無価値であっても。

 他者に使う言い訳は必要なのだ。

 

「アパレル系に行きたいから専門学校へ、パソコン弄りが好きだから情報系の大学へと、進むレールが山ほどあるからレールをある程度限るために、また向上心の動力にするために夢や目標は必要なんだよっと」

 

 下らない道理を言いながら俺は両手の力と全身のバネを使って跳ね起きる。

 これでも昔から色々習い事を嗜んできた身。体操競技もお手の物だ。

 立ち上がった俺はズボンの誇りを払いつつ続ける。

 

「神室はウザイと思うんだろうが適当な虚飾(ゆめ)ぐらいでっち上げておけよ。女子らしくパティシエになりたいとか良いんじゃ無いのか」

 

「……何でパティシエ?」

 

「その不機嫌面、案外職人色が似合ってんじゃないの? ビジュアル的に」

 

「死ね」

 

 ツッコミに容赦が無い。

 どうやら調子は戻ったらしい。

 

 そう、自分が何を求めるのか、何になれるのか、何を目指せるのか。

 見えない未来を模索して、自分の内面と顔を合わせるのは疲れる。

 何せ、本質的には自分は何者かという問いだ。

 

 使命がはなっからハッキリしているポジティブシンキングならばともかく、凡人がそんなことを考えろと言われれば惑い、迷って暗中模索に陥るのが目に見えている。

 大願成就──などと凡人はそんな難しいことを考えて生きるように出来ていない。

 

 だから目下、一番自分にしっくりくる方法で。

 例えば、神室ならば適当な方便を考えるという形に。

 楽に考えられるところまで落とし込む。

 人並みで在れ、というのが彼女の呪いだというならば他者も差して大きく考えていないと落とし込めば安心するだろう。

 

「我ながら、最悪な手腕だな」

 

「何か言った?」

 

「何でも無い。で、何か適当な夢は設定でそうか? 何も思い浮かばないなら適当にもっと勉強したいからとでもいって学歴を詰むのもありだと思うぞ。実際、夢以上に効力を発揮するからな。学歴」

 

「散々、夢が必要とか御託並べて、言うこと学歴(それ)?」

 

「夢が必要なのはスタートラインに立ってから。スタートラインに立つためには目に見えた結果が必要だろ。学生の能力を測る上で、学歴以上に普遍的に有効なモノはないと思うぜ?」

 

 能力を測る上でテストだ大会だと勿論あるだろうが、大半の生徒がそういった舞台に立つ機会は無いはずだ。強制されるがまま、勉学に励むのが大半だろうから。

 だったらその一番の武器、勉強量を量る上でテストと同じぐらい有効なのは何か。

 答えは学歴。

 数が限られる名門であれば、あるだけそいつは競争力に長けていることが明確に分かる。

 

「勉強だけが俺の全て(能力)じゃないとは言うがな。別に企業はお前のオンリーワン欲しさに学生を欲するわけじゃない。使ってみないと分からない天才より、ある程度、事前に把握できる能力者を採用するのはリスク管理的に当然だろ」

 

「最近気づいたんだけれど、アンタと話すといっそ人間が煩わしくなる」

 

「さよけ、なら悪影響を与える悪い友人とは縁を切った方が良策だぜ」

 

「……失せろ、とでも言いたいわけ?」

 

「深読みするなよ。単に俺の老婆心」

 

 思いやりの言葉はどうやら別の意味で受け取られたらしい。

 不快げに歪められた眉に、キリリとした目がこの上なく恐ろしい。

 無自覚ながらも突き放したような言い分に思うところがあったようだ。

 

 俺としては縁が切れても実際問題ないが……。

 

「稀少な暇つぶしの相手で、付き合いもそこそこ。神室から縁切るっていうなら是非もないが、俺としては少し寂しいと感じるところだな。出来れば、卒業までは暇つぶしに付き合ってくれ」

 

「……あっそ」

 

 素っ気ない言葉だが、表情は怒りから不機嫌に戻っている。

 どうやらご満足戴ける解答を返せたみたいだ。

 

「………」

 

「………」

 

 それっきり、再び会話が途絶える。

 と──それを狙い澄ましたかのように遠く、鐘の音が聞こえる。

 

「っと、どうやらホームルームの時間だ」

 

 五、六時間ぶち抜きでサボってしまったがせめて最後は顔を出さねばなるまい。

 またお小言を言われるのだろうが、もういつものことと教師も諦めているだろうからそんなに時間を取られることはあるまい。それにコレで成績優秀者、能力があるならばある程度の問題人格も許容される。

 

「じゃ、互いに教室に戻るとするか。先に行くか、神室? どうせ体調が悪いとか言って保健室にでもいる設定なんだろ。俺と同時に行ったらアレだしな」

 

「言われなくても先に行く。アンタと一緒とか変な目で見られるし、余計な噂話をされるし」

 

「了解しましたお嬢様」

 

 やや面倒くさい性分の友人の我が儘をいつも通り受け入れ、俺は適当な時間を稼ぐためにもう一度、空へと視線を切ろうとして──視界の端にこちらに飛んでくるモノを見つけた。

 

「危な……って何だよコレ」

 

 飛んできたのは幾つかのプリントが挟まったファイル。

 ざっと見れば何処かの高校の入学案内のようだが……。

 俺はこれを投げつけた本人、神室に視線と言葉で問う。

 

「進路希望を聞かれたときに教師に渡された、アンタ分も、対象だそうよ」

 

「ああ、何だ。お前雑談じゃ無くてコレを渡すために来たのか。律儀な」

 

「後で文句言われるのが嫌だっただけ。保健室で一人居るのも暇だったし」

 

「そうかい、じゃ、神室の好意に感謝を送らせて戴きますよっと」

 

「キモ」

 

 ひらひらと手を振り、笑顔で感謝を述べれば返ってくるのは冷たい罵倒。

 先ほどの夢云々で苛立っていた彼女は何だったのかという平常運転である。

 

「ま、いつも通りなのは良いことだ」

 

 肩を竦めつつ、俺はふと──神室に渡されたファイルに目を落とす。

 入学案内が挟まれた飾り気のファイル。

 ファイル越しに透けて見える案内の表紙には、

 

「『高度育成高等学校』、ね」

 

 曰く、就職進学率100%を謳い文句にする名門国立校。

 俺の性格を考慮すればとても教師陣が薦めるとは思えない学校案内のチラシだ。

 

「……ま、これも義理かな」

 

 学校自体に魅力も興味も湧かないが。薦めた理由には興味がある。

 俺は好奇心の赴くまま、学校案内のプリントを手に取った──。

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