風間家の朝は早い。達也は5時半には目を覚まし、朝食の下準備をしていた。それを30分で済まし、6時に家を出た。もちろん学校に行くためではなく、修行に行くためだ。
九重寺
達也の修行場所である九重寺は達也の家からすぐに着くところにある。だから学校に遅刻したりする心配はない。
達也は山門をくぐるなり、手荒い出迎えを受けていた。
「いやぁ20人の総掛かりを易々とクリアできるとはねぇ。彼らも一応は中級レベルなのに。もう少しレベルを上げるべきかな。達也くん、やっぱり僕の後を継ぐ気はないかい?」
達也が全員を倒し終えたところで彼の師匠である九重八雲が後ろから現れた。
「いえ、俺もギリギリでしたよ。冗談を言っていないで、早く稽古をつけてください」
「冗談で言っているわけじゃないけどね。じゃあ、始めようか」
そう言った途端、二人は同時に動き出した。達也は体術のみで八雲は魔法と併用して互角に渡り合っていた。
対峙する二人を囲む人の輪ができており、見物人は例外なく手に汗を握っていた。
毎朝恒例の一騒動が終わり、境内は静けさを取り戻していた。
汗を流しながらもまだまだ表情に余裕の見られる八雲と土の上で大の字になって息を整える達也がいた。
「もう体術だけなら達也くんには敵わないかもしれないねぇ…」
「体術で互角なのに一方的にボコボコにされては喜べることではありませんが…」
「それは当然というものだよ、達也くん。僕は君の師匠で、さっきは僕の得意な土俵で組手をしていたのだから。まだ半人前の君に後れをとっては弟子に逃げられてしまうからね」
「それもそうですね。それはそうと忍術の方の修行はいつ伺えばよろしいでしょうか?」
「そうだね…、いつも通りの時間においでよ。そっちも鍛えてあげるから」
「はい、ではまた19時頃に伺います」
「うん、またおいで。あと達也くん、入学おめでとう。リーナくんにもよろしくね」
「はい、ありがとうございます。」
学校に着き、達也たちは話しながらそれぞれの教室を目指していた。
「じゃあ、リーナ。俺はここだから。また後で一緒に授業を見学に行こうな」
「えぇそうね。また後でね」
というと達也はB組にリーナはA組に入っていった。
(さて、受講登録くらいはしておくか)
達也は端末にIDカードをセットし、インフォメーションのチェックを始めた。規則、イベント、案内、一学期のカリキュラムまで高速でスクロールしながら頭に叩き込み、キーボードオンリーで受講登録を一気に打ち込んだ。視線を感じてそっちに目を向けると手元を覗き込んでいる男子生徒と目が合った。
「あ、ごめんね。キーボードオンリーで入力する人を見るのが初めてで、珍しくてつい見てしまっていたよ」
「別に構わない。慣れればこっちの方が速いんだな」
「そうなんだね。あっ僕は十三束鋼。鋼って呼んでよ」
「俺は風間達也だ。達也で良い。よろしくな鋼」
「よろしくね、達也」
「まさか、あの
「遠距離はあまり得意ではないんだ」
と鋼は目を伏せながらそう言った。
「自分の欠点とも言える特性を最大限に生かし、自分にとっての武器に変えた。その努力を俺は尊敬するよ。普通なら諦めるようなことをお前は成し遂げた。その結果が射程距離ゼロだ。そのことを誇っても良いと俺は思うぞ」
と達也が言い終えると鋼は驚いたように顔を上げてすぐに微笑んだ。
「ありがとう。そこまで褒められると少しくすぐったいな」
「オリエンテーションも終わったし、達也はどこの見学に行くの?」
「俺は工房かな」
「へぇ僕も工房に行く予定なんだ。一緒に行かないかい?」
「別に構わないが、闘技場じゃなくて良いのか?」
「そっちも後で行くよ」
と二人で話していると突然後ろから話しかけられた。
「ねぇ私も一緒に行っても良いかな?」
二人が振り向くと小柄な赤毛の少女がこっちを見ていた。
「良いよ。ところで君は?」
「私、明智英美。エイミィって呼んでね」
と彼女はニコって感じよりもにぱって感じて笑った。
「俺は風間達也だ。よろしくエイミィ」
「僕は十三束鋼。よろしくね明智さん」
「エイミィ」
「えっ」
「エイミィって呼んでって言ったじゃない」
「明智さんじゃダメかな」
「ちゃんとエイミィって呼んでよ」
「でも…」
と鋼は達也の方を見た
「呼んでやれば良いんじゃないか? 俺は先に行くからな。待ち合わせもあるし、早く行かないと時間がなくなるからな」
と達也は一人先に行こうとしていた
「あ、待ってよ、達也。明智さんこの話はまた今度しよう」
「うん、わかった。でも絶対に呼んでもらうからね」
と二人は達也を追いかけていった
「あっいたいた。おーい風間くん」
達也は呼ばれた方向を見るとエリカが手を振っていた
「みんなもこっちに来たのか。柴田さんは聞いていたからわかっていたが、レオと千葉さんは意外だったな」
「あぁ自分で使う武器の調整くらいは自分でできるようになっておきたくてよ」
「あたしは美月の付き添い」
「なるほどな、あぁ紹介が遅れたな。こっちがクラスメイトの十三束鋼と明智英美だ」
「あたしは千葉エリカ。よろしくね。十三束くん、明智さん」
「俺は西城レオンハルト。レオって呼んでくれ。よろしくな。十三束、明智さん」
「私は柴田美月と言います。よろしくお願いしますね。十三束さん、明智さん」
「僕は十三束鋼。僕も鋼で良いよ。よろしくね。千葉さん、レオ、柴田さん」
「私、明智英美。エイミィって呼んでね。よろしくね。千葉さん、西城くん、柴田さん」
と五人が自己紹介をしていると
「ハーイ、タツヤ。とても楽しそうね」
後ろからリーナが話しかけてきた。
「やぁ、リーナ。ホームルームは終わったのか?」
「えぇ、終わったわ。でもクラスメイトとは仲良くなれそうにないわね」
「何故だ?」
社交的なリーナにしては珍しい言いようだった
「だって高々テストの成績が良くて一科になっただけなのに自分が選ばれた存在であると信じて疑わない考え方なのよ。ほんとうんざりするわ。なんでワタシはタツヤと一緒のクラスじゃなかったんだろ」
「授業中は無理でも休み時間の間は出来るだけ一緒にいよう。それで我慢してくれ」
達也が頭を撫でながら言うと、えぇ、とリーナは嬉しそうに笑って頷いた。
第一幕は食堂で起こった。
食堂で達也たちは昼食をとっていると九島さんという声が聞こえたのでそっちを向くとA組の面子が集まっていた。
「九島さん、そこじゃあ狭いだろうからこっちで一緒に食べようよ」
と一番前にいた男子生徒がリーナに対して言った。
「いいえ、大丈夫よ。こっちはこっちで食べるからそっちはそっちで食べてちょうだい」
とリーナが言うとリーナとの相席を狙っていた男子生徒たちは二科との相席は相応しくないだの一科と二科のけじめだの食べ終えていたレオに席を空けろと言い出す始末。
「黙って聞いていれば…」
と爆発するレオを達也は手で制しながら、
「リーナの意思は関係なしなのか」
と達也がA組の面子に言い放つと
「ふん、九島さんも実際は僕たちといた方がいいと思っているに決まっている。お前がいるから気を使って言わないだけだ」
「ほう、じゃあリーナに聞いてみようかどっちと一緒にいたいかを」
と達也が言うや否や
「タツヤたちと一緒にいたいに決まっているわ」
「だ、そうだ。お引き取り願おうか。これ以上、無駄な時間を過ごしたくないんでな。それに少し周りを見てみろ」
と言われてA組は周りを見ると一科生も二科生も迷惑そうにA組を見ていた。A組たちは悔しそうに去っていった。
「ねぇ見た? あの一科生たちの顔。ほんと傑作だったわ」
「お前と意見が合うのは気に食わんが、傑作だったのは同感だぜ」
とエリカとレオは笑いながら話していた。
「どうしたの、タツヤ」
「あぁこれだけで済むとは思えなくてな」
と達也が答える。
第二幕は午後の専門課程見学中の出来事だった。
通称「射撃場」と呼ばれる遠隔魔法用実習室では、3年A組の実技が行われていた。
実技では七草真由美も参加しており、彼女の実技を見ようと、大勢の新入生が射撃場に詰め掛けたが、見学できる人数は限られており、一科生に遠慮してしまう二科生が多い中、一科と二科が混ざった達也たちのグループが堂々と最前列を陣取って、悪目立ちしていた。
そして第三幕は現在進行形で起きていた。
達也たちが帰宅をしようとしていた時、招かれざる客がやってきた。
「九島さん、僕たちと一緒に帰ろうよ。司波さんが来るのを待ってさ。相談したいこともあるし」
A組の生徒がまたしても懲りずにやってきた。
「遠慮するわ。ワタシはタツヤたちと帰るから。そっちはそっちで帰ってちょうだい」
「九島さんは昼休みにいなかったしさ、僕たちA組と親睦を深めようよ。おいそっちはそっちで親睦でも深めてろよ。ブルームの恥知らず共とウィードでな」
と一番前に立った男子生徒が達也たちを挑発してきた。それをA組の面子は笑っていた。そしてそれに耐えれるほどの精神を二科の3人は持ってはいなかった。
「言わせておけば…」
「ブルームやウィードって私たちは同じ新入生じゃないですか。今の時点でブルームが…「美月、少し落ち着け」」
と美月が言ったところを達也は止めた。美月は達也に謝罪し、少し俯いた。
「お前ら、俺が昼に言ったことを忘れたのか?」
「なんのことだ」
「忘れたのか? じゃあもう一度言ってやろう。そこにリーナの意思は関係ないのか?」
「九島さんも僕たちと同じでウィードとは関わりたくないと思っているに決まっているだろう。お前がいるからそこにいるだけだ。本来は僕たちといた方が相応しいんだ」
「二科生を舐めると後悔するぞ」
「ふん、僕らがウィードなんかに負けるわけがないだろ」
「そうか、じゃあ話すことは何もないな。リーナ、どうする? 俺たちと帰るかそいつらと帰るか、選ぶといい」
「そんなの決まってるでしょ。ワタシはタツヤたちと一緒に帰るから」
「決まりだな。みんな帰ろうか」
達也たちはA組たちを無視してさっさと帰ろうとした。その時、一番前にいた男子生徒が逆上して、CADを取り出し、達也に対して魔法を放った。が、それは達也の体を通り抜けた。達也たちはゆっくりと振り返った。
「まさか、本当に魔法を使うとはな」
「うわっ、ここまで愚かだとは思わなかったわ」
達也とエリカが言った言葉にレオたちは頷いていた。
「うるさい。おい、お前、今のをどうやって避けた」
「他人の術式を聞くのはマナー違反だろ? それに当たっていたら良くて傷害罪、最悪の場合、殺人罪だったんだが?」
「うるさい、お前らに僕たちの力を思い知らせてやる」
そう言って彼がもう一度魔法を放とうした。が、エリカがCADを弾くことで魔法の発動は阻まれた。
「この距離なら魔法よりも体を動かした方が早いのよね」
「く、ウィード如きが」
「舐めないでよ」
頭に血がのぼっているのか、良し悪しも考えずに彼の周りの殆どの生徒が魔法を展開し始めた。
「みんなダメ」
と女子生徒がA組を落ち着かせようと起動式を展開し始めた時、全員の魔法が発動する前に全て一瞬で消え去った。
「えっ、どういう…」
「もう、その辺にしておけ。下手すれば停学に、最悪の場合だと退学になる場合もあるのだぞ。そもそも、これは犯罪行為だからな」
「うるさい、このウィードの肩を持つブルームの恥晒しが覚悟しろ」
そのまま、いつのまにか拾っていたCADを達也に対して向けて、起動式を展開し始めたところで突然、魔法が未発のまま霧散した。
「止めなさい! 自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」
「風紀委員だ。1-Aと1-Bと1-Eの生徒だな。事情を聞く。着いて来い」
と生徒会長と風紀委員長が立っていた。そこにいる生徒全員が固まっていた。一人を除いては
「拒否します」
「ほう、何故だ?」
「自分たちは巻き込まれただけだからです。それに貴女方が出てきた理由は魔法の不適正使用でしょう? でしたら自分たちは自衛目的以外では使っていませんよ。それは貴女方は知っているでしょう」
達也は言外に見ていたのはわかっているからなと告げた。
「ふむ、それもそうだな。じゃあ1-Aの生徒、着いて来い」
と罰悪そうに答えた。
「待ってください。魔法ならそいつも使っていました。それなのに僕たちだけ連行されるのはおかしいのではないでしょうか」
「何をおかしなことを言う? 彼の使ったのは森崎、お前たちの魔法から自分たちの身を守るためだ。それは立派な自衛目的だと思うが? それに彼が防いでいなければ、お前は犯罪者になっていたんだぞ?」
「当たっていないんだからいいじゃないですか」
「はぁ…、たしかに当たってはいなかった。だが、お前は一科、二科以前に魔法を扱う資格すら持っていないな」
「どういうことですか」
「なら何故、
顔面蒼白になった森崎と1-Aを連行しようとすると
「待ってください。そこの二人は攻撃の目的があったわけではありません。ですから連行するまではないと思いますよ」
「何故、そう思う」
「彼女が発動しようとしたのはただの閃光魔法でしたよ。それも後遺症の残るようなものではないため、ただの目くらまし程度にしかなりません」
「ほう、お前は展開された起動式が読めるのか?」
風紀委員長の言葉に周りの生徒は驚いた顔をしていた。
「実技よりも分析の方が得意ですので」
「おもしろいやつだな。君はなんて名前だ?」
「1-B 風間達也です」
「うむ、覚えておこう。そこの二人、帰ってもいいぞ。だが、今後はこのようなことが起こらないように気をつけるように」
と言って、生徒会長と風紀委員長は戻っていった。
「帰ろうか」
と達也は面倒なことになったと思いながらもみんなに声をかけた。達也たちの前に先ほどの女子生徒二名が立ち塞がった。
「何よ、まだ文句があるわけ?」
エリカが少し苛立ちながら、二人に声をかけた。
「光井ほのかって言います。先程はすみませんでした」
「お兄さんが庇ってくれなければ、私たちは連行されてた。本当にありがとう」
「別に構わないさ。それに彼らを止めようとしていたのだろ? それはいいとして何故、お兄さんなんだい?」
「司波さんがお兄様って言っていたから、てっきりそうなんだと」
「俺は司波さんとは何の関係もないよ。沖縄で偶々会っただけの知り合い程度でしかないはずなんだけどね」
と達也は困ったように言った。
「では何とお呼びすれば…」
「風間でも達也でも自由に呼んでくれて構わないよ」
「あの、よろしければ、駅までご一緒してもいいですか?」
達也たちに拒む理由はなかったし、拒める道理もなかった。
「ねぇ、達也くん」
エリカが「風間くん」から「達也くん」に変わっているのはほのかたちが良いなら私たちもいいでしょという一方的な宣言によるものだった。まぁそれはさておき
「なんだ?」
「さっきの一科生の魔法が通り抜けたり、一科生たちの魔法を消したりした魔法って何?」
「
「ほう、知っているのか? 鋼」
「まぁね。一応、僕も使えるしね」
本当は術式解体ではなく
「鋼、それってどんな魔法なんだ?」
周りを見れば、レオだけでなくみんな興味津々であった。
「簡単に言えば、サイオンの塊をイデアを経由せずに対象にぶつけて、起動式や魔法式を吹き飛ばす魔法だね。僕の場合は飛ばしてぶつけることができないから、接触型だけどね」
「へぇ、そんなことができるのか。達也も鋼もすごいんだな」
「その魔法はわかったけど、もう一つの方の魔法はなんなの?」
エリカは再度尋ねてきた。
「あの魔法は本来は門外不出の技術でね。教えることができないんだ。本当はあの場でも使う気は無かったんだ。念には念をってことで使えば、ああなったってわけだ」
「そうなんだ…、じゃあこれ以上は聞かない」
「そうしてくれると助かる」
「おっと、電車が来たみたいだ。俺とリーナはこれに乗って帰るよ。じゃあまた明日」
「じゃあね。みんなまた明日」
と言って達也とリーナは電車に乗って帰路に着いた。その後みんなもそれぞれ別々に帰っていった
「なぁ、真由美」
「どうしたの摩利?」
「達也くんを風紀委員に推薦してくれないか? あれだけの実力者を使わないわけにはいかないだろ」
「そうね、摩利。私も賛成よ。早速、明日、学校に来たら呼び出しちゃお」
達也のあずかり知らぬところで良からぬ事(達也にとって)が計画されていた。
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