達也はリーナといつも通り、学校に行き、教室で鋼たちと話していると
『1-A 九島アンジェリーナ 1-B 風間達也は昼休みに生徒会室まで。繰り返す…』
という放送が流れてきた。
「は?」
と達也は珍しく戸惑った様子を見せていた。
「達也、何やらかしたの?」
「鋼…俺が何かすると思うか?」
「するかはともかく達也なら何かやっても証拠は残しそうにないね」
「お前は俺をなんだと思っているんだ…」
達也はため息混じりにそう呟いた。
「まぁ昨日のことで何か聞きたいことがあるんじゃない?」
「解決したはずだがな。何かあったのだろうか?」
「案外、風紀委員会への誘いだったりして。風間くんとても強かったし」
「それはあるかもしれないね」
とエイミィが言ったことに鋼は同意した。
「勘弁してくれ…」
達也は本気で頭痛を感じ始めた。
昼休みはすぐに訪れ、達也はリーナを迎えに行き、生徒会室へ行ってしまった。
「朝の放送って結局なんだったんだろ?」
エリカが全員疑問に思っている事を口に出した。
「達也のことだから何かして呼び出されたわけじゃないと思うよ。九島さんも一緒だし」
「風紀委員に推薦されているかもな」
とレオが笑いながら言うとそこにいる全員が納得したかのように頷いた。
「1-B 風間達也と1-A 九島アンジェリーナです」
達也とリーナは生徒会室の扉の前にいた。扉の鍵が開き、2人が入ると
「いらっしゃい。遠慮しないで入って」
正面、奥の机から声を掛けられた。
何がそんなに楽しいのだろう、と訊いてみたくなる笑顔で、真由美が手招きしている。
「どうぞ掛けて。お話は、お食事をしながらにしましょう」
長机の方を見ると司波深雪が座っていた。リーナは深雪の隣に座り、達也はリーナの隣に座った。その時、深雪は残念そうな顔をしていた。
「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」
自配機があるのみならず、メニューも複数あるようだ。
達也は精進を選び、リーナは肉を頼んだ。それを受け、二年生が、壁際に据え付けられた和箪笥ほどの大きさの機械を操作した。
あとは待つだけだ。
「入学式で紹介しましたけど、念の為、もう一度紹介しておきますね。私の隣が会計の市原鈴音、通称リンちゃん」
「…私のことをそう呼ぶのは会長だけです」
整ってはいるが顔の各パーツがきつめの印象で、背も高く手足も長い鈴音は、美少女というより美人と表現するのが相応しい容姿の女の子だ。
「リンちゃん」より「鈴音さん」の方がイメージに合っているだろう。
「その隣は知ってますよね?風紀委員長の渡辺摩利」
会話が成り立っていない、が、誰も気にした様子がないのはいつもの事、だからだろうか。
「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」
「会長…お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください。わたしにも立場というものがあるんです」
彼女は真由美よりも更に小柄な上に童顔で、本人はそのつもりがなくても上目遣いの潤んだ瞳は、拗ねて今にも泣き出しそうな子供に見える。
なるほど、これは「あーちゃん」だろう、と達也は思った。本人には、気の毒だが。
「リーナさんの隣は知っているでしょう。書記の司波深雪」
「もう一人、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です」
この人はネーミングセンスがあれなんだろう。と達也は思い、同時に自分は命名されないようにしようと考えた。
「私は違うがな」
「そうね。摩利は別だけど。あっ、準備ができたそうです」
料理がトレーに乗って出てきた。
合計六つ。
一つ足りない…と思い、どうするのかと達也は見ていると摩利はおもむろに弁当箱を取り出した。
「そのお弁当は、渡辺先輩が作ったのですか」
とリーナは気になったのか聞くと
「そうだ…意外か?」
と少し意地の悪い口調で摩利は答えにくい質問を返した。リーナが返答に困っていると
「いえ、少しも」
と達也は摩利の手元、正確には指を見ながら答えた。
「ねぇタツヤ、ワタシたちも明日からお弁当にしない?」
「いいとは思うが、その弁当は誰が作るんだ?」
「もちろん、タツヤに決まっているでしょ」
達也の問いにさも当然のごとくリーナは答えた
「ワタシがそんなに早く起きれると思う?」
というリーナに達也は呆れていた。
「俺は朝から忙しいんだが?」
「大丈夫よ。タツヤなら何とか出来るわ」
少々過剰なリーナの期待に達也は困っていた。結局、説得して週に三回でリーナに納得してもらった。
「すみません。自分たちだけ盛り上がってしまって…」
と達也は置いてきぼりになった役員たちに謝った。
「…えぇ構いませんよ」
「ところで何故、俺とリーナが呼ばれたのでしょうか」
と達也は最初の疑問を真由美にぶつける。
「それは私から話そう。一つは君たちを風紀委員会に入れたくて、ここに呼んだ」
奇しくも朝に友人が言っていたことが事実になってしまった。
「もう一つは昨日、森崎のやつがいつまでたっても食い下がってくるから、お前はどうしてほしいかを聞いたところ達也くん、君と正式に模擬戦をして勝ったら停学と風紀委員会除名を取り消してほしいということだ」
「嫌ですよ。俺にメリットがないじゃないですか」
「だがな、あまりにもしつこくてな。私たちもお手上げだったわけだ」
なるほど、さっきリーナをクラスまで迎えに行った時に停学になったはずな奴がいた理由がわかった。
「仕方がありません。今回だけですからね」
「助かるよ。じゃあまた放課後に生徒会室まで来てくれ」
「わかりました」
そろそろ昼休みが終わりそうなので達也とリーナは急いで教室に戻っていった。
1-Bは今、実習授業を受けていた。今日の授業内容は入門編中の入門編として、機械の操作を習得することはだった。事実上はガイダンスといっても、課題は出ている。監督している教師はいるものの、課題は提出しなければならない。
「達也、生徒会室でどんなこと言われたの?」
達也がCADの順番待ちをしていると後ろから、鋼とエイミィが興味津々といった様子で尋ねてきた。
「主に二つだな。風紀委員入りと模擬戦をしろというな」
「なんで?」
「森崎が昨日、あの後、会長と委員長の二人に食い下がったらしくてな。埒があかず、俺との模擬戦を認めたってわけだ」
「風間くん、大変だね…」
「本当にな。何故こうなったんだろうな…」
達也は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「おっと、俺の番だな。ちょっといってくるよ」
放課後、達也は重い足を引きずって、生徒会室へ来ていた。
「失礼します」
そこには昼にはいなかった顔が一人
「副会長の服部刑部です。九島アンジェリーナさん、風紀委員の仕事を頑張ってください」
副会長もほかの一科と変わらないのかとリーナは思い、文句を言おうとした。その時、誰かがドアをノックする音が聞こえたあと、生徒会室のドアが開いた
「失礼します。1-Aの森崎駿です」
「ん?君は停学になったと聞いていたが?どうしてここに?」
服部は疑問を覚えたのか森崎に尋ねる。
「会長たちに頼んでそこの一科の恥知らずと模擬戦をすることを許可してもらい、勝てば停学は取り消しにしてもらえます」
それを聞いて服部は目を見開いて真由美と摩利にに詰め寄る。
「会長、渡辺先輩。私はこの二人の模擬戦は反対です。たかが高校生が実戦を経験している魔法師に勝てるはずがありません。自信を無くすだけです」
「副会長、僕をそれだけ評価してくれるのは有り難いですが、少し持ち上げすぎではありませんか?」
「ん?お前は何を言っている?俺はお前ではそこにいる風間には勝てないと言っているだけだが」
とさも当然のような口ぶりで服部は森崎に言った。
「えっ、はんぞーくんって達也くんと知り合いだったの?」
「はい、去年に桐原に誘われて軍の訓練の見学に行った時に風間と出会いました」
と達也との出会いを簡単にまとめて話す。
「どういうことですか!僕がそんな奴に負けるはずがないじゃないですか!」
勝てないと言われた辺りから固まっていた森崎が再起動を果たした。
「森崎、はっきり言って悪いがお前と風間では天と地ほどの差がある」
「そんなのやってみなければわからないじゃないですか!」
「だから…」と続けようとした時に
「いいじゃないですか、戦っても。大丈夫です服部先輩。あなたの心配しているようなことにはなりませんから」
「風間…」
「会長、いつ始めればよろしいですか?」
「えっと…、時間はこれより三十分後に第三演習室、試合は非公開とし、双方にCADの使用を認めます」
「質問があります」
「許可します」
「CAD以外の呪具の使用は可能でしょうか」
「はい、構いませんが? 何故ですか?」
「それは見てのお楽しみです。それに対戦相手がすぐそこにいるのに手の内をバラす程、愚かではありませんから」
と言って、達也はCADを取りに行くために事務室に向かっていった。リーナもその後を追って出て行った。
「…どうなっても知りませんよ」
服部はボソッと呟いた。
達也とリーナが第三演習室に着くと既に全員、揃っていた。服部は生徒会室に残り、事務作業を進めていたが。
「遅れてすみません」
と達也は取り敢えず、頭を下げた。
「大丈夫ですよ。五分前ですから」
「そうですか…」
と達也はすぐに準備に取り掛かった。
準備を終え、森崎の正面に立つ。
「少し早いが、ルールを説明する。直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障碍を与える術式も禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止する。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する。武器の使用は禁止。素手による攻撃は許可する。蹴り技を使いたければ今ここで靴を脱いで、学校指定のソフトシューズに履き替えること。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。双方開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールに従わない場合はその時点で負けとする。私が力づくで止めさせるから覚悟しておけ。以上だ」
(開始と同時に奴を基礎単一系の加重魔法で地べたに這いつくばらせてやる。僕のクイック・ドロウなら奴よりも早く展開できる。それを見れば、九島さんも会長たちも目が醒めるだろう。ブルームが絶対であると)
と彼は確信していた。
「始め!」
森崎は達也より速く魔法式を展開し放とうとするが、達也はそれよりも速く魔法式を消し飛ばした。
「なっ!」
森崎は驚いたが、すぐに魔法を展開し始めた。達也はそれを見計らっていたかのようにさっき消した魔法式を
「えっ?」
「固まっている場合か?」
と達也は言うとすぐさまポケットからゴルフボールくらいのサイズの鉄球を四個、取り出して
「えっ?」
リーナ以外全員、呆気に取られてしまっている。
「何アレ?」
真由美の疑問に誰も答えることができない。
「森崎、CADを拾わなくていいのか?このままだと一方的に負けることになるぞ?」
「卑怯だぞ!一対一で戦え!」
「何を言う? 本物以外はただの幻影。こんなのも見抜けないのでは半人前もいいところだな。それより待っていてやるからCADを拾ってこい」
「バカにしやがって」
森崎はCADを拾うとすぐに魔法を展開し、五人の達也目掛けてすぐに圧縮空気を選択し放つ。圧縮された空気が破裂して達也に襲いかかる。
「くっ、なんでだよ。何故当たらない」
森崎の空気弾は達也をすり抜け、不発に終わった。森崎は別の魔法に切り替え、何回も魔法を放つが全て不発に終わる。
「もう来ないのか? 来ないのならこっちから行くぞ」
と達也たちは突然消えた。よく見ると壁や天井、床を蹴って跳び回っている。誰も目で達也を追うことができなくなっていた。不意に鈍い音が聞こえてきたと思ったら、達也が元の位置に戻っていた。それと同時に森崎が倒れた。見ると鉄球が四つ森崎の腹に減り込んでいた。達也は摩利の方を見る。
「…勝者、風間達也」
達也はその言葉を聞くと摩利に一礼して、森崎の方に歩いて行き、鉄球を拾い上げ、ポケットに仕舞い、CADを片付けて帰り仕度をしていると
「待ってくれ。なんだ今の魔法は?」
「他人の術式の詮索はマナー違反ですよ」
「それはわかっているが…」
「タツヤは忍術使い・九重八雲の弟子よ」
摩利の疑問にリーナが胸を張りながら答えた。
「なるほど、ならアレが分身の術か。それにそれならあの身体能力の高さも頷ける」
実際は『分身』を模した『変化』の応用である。だがそれを教える気は達也にはない。
「くっ、こんな試合無効だ」
突然、森崎が起きて上がり叫んだ。
「何故だ? 達也くんは正々堂々と戦って勝ったが?」
「僕が負けたのはアイツが卑怯な真似をしたに決まっています。じゃなかったら僕があんなブルームの恥知らずに負けるはずがありません。それに僕は正々堂々と勝負していたのにアイツは卑怯な真似をしました。アイツの反則負けです」
森崎の言いようにこの場にいた全員、呆れ返っていた。
「なぁ森崎、俺がいつ卑怯な真似をした?」
「僕の知らない魔法を使って不意打ちをしたようなものだろ!この試合は無効だ!もう一回勝負しろ!次は絶対に負けない!」
「お前は本当にお気楽だな。相手が自分の知っている魔法だけで戦うと思うなよ。これが実戦ならお前はこの場で死んでいた。イヤ、その前に昨日、エリカに切られて死んでいたな。実戦に次なんてものがあるとは思うなよ。本番は一回きりだけだからな。戦場を舐めるなよ森崎」
達也は殺気を滲み出し、近づきながら森崎に言った。森崎は腰を抜かし、這って逃げようとしていたが、誰も彼を無様とは言えなかった。それだけの迫力が達也にはあった。
「渡辺先輩、もうすぐ閉門の時間ですが。どうしたらいいですか?」
「あぁ、そうだな。本当は色々したかったが、まぁいい明日にしよう」
気丈に振る舞っていたが、摩利の声は震えていた。
「はい、じゃあリーナ帰ろうか。ではお先に失礼致します」
「そうね。お先に失礼します」
と達也たちはその場にいたものに挨拶をして出て行った。
「なに今のは… 本当にアレがただの高校生に出来るの?」
「服部が最後まで渋っていた理由がわかった気がするな」
「そうですね」
仕事のため生徒会室に残った服部の最後まで渋っていた理由を知り、その場にいる全員は身を震わせていた。
「ねぇタツヤ、あの魔法ってどうやったの?」
「あの魔法か? あれは鉄球の動きに合わせて幻影を投影しただけの魔法だ。さらに動きが止まれば幻影も消える。しかも四つしか同時に使えないし、一対一の時くらいしか使えないから、正直言ってあまり使い勝手の良い魔法ではないがな」
達也は大まかにその魔法についてリーナに説明する。
「じゃあ魔法が達也の体を通り抜けたのは?」
「纏衣の逃げ水という忍術だ。リーナの使う
「あれがそうなのね。通りで誰も達也の居場所に気づかないわけね。ところでさっきの魔法、あれも忍術なの?」
「どうだろうな?あれは師匠に習った『印』と『変化』から俺なりに作ったものだからな… どうだろうな。一応は忍術に該当するんじゃないかな。でも、多分だけど『九』の魔法に近いんじゃないか?」
「そうなの?じゃあまた新しい魔法を作り出したってこと?」
「そうなるんじゃないかな」
「相変わらず非常識ね」
リーナは呆れ返っていた。
「今更だな」
「それもそうね」
達也たちはお互いに談笑しながら帰った。
その後、森崎は風紀委員の推薦を取り消し、二週間の停学処分を受けることとなった。達也は生徒会推薦枠、リーナは教師推薦枠で風紀委員入りを果たした。
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